見つけても無視して、脳内で変換してください。
ましてや雰囲気を壊さない為に使う古い言い回しとか、やはり字面を意識してひらがな使ってる部分とか、細かな句読点の位置とか、あなたの好みで勝手に直されるのすごい気分悪いです。
ほんとやめて。
「…それで、わたくしはリュウガ様に下賜されるということでしょうか」
「おれはうぬを手放さぬと、何度言えばわかる。
奴がああ言ったのは恐らく、別の要求を通すための駆け引きといったところであろう。
だが、その目的がわからぬ。
……その狼の目でなにを見ておる?」
一旦は居城に戻らせたリュウガ様の騎馬の背を眺めながら、拳王様が誰にともなく呟きます。
それはわたくしも思うことですが。
だって、拳王様の近くに居ないとわたくしが危険だと判断して、わたくしを『拐った』
☆☆☆
「まだ手向かうやつあいるか?」
「いっいっいえいえ、どうぞ!!」
「おりこうだ!!
へっへへ、もちきれねえぜ!
おい、残りは後をついてこい」
突然現れた1人の男が、村から女性たちを拐ってきた野盗の、リーダーの巨漢を奇妙な技で倒したあと、戸惑って立ち尽くす女性のうち3人ほどを、まとめて軽々と抱えてスタスタ歩きながら、残りの女性たちに声をかけるのに、わたくしも半ば惰性で従います。
後ろで生き残りの野盗たちが『とんでもねえ悪党だあいつ』とか言って半泣きになってますが、別に同情はいたしません。
つかこの場面、既視感があるというか、多分わたくし知っておりますわ。
というか、どうして今わたくしがこんな状況に混じっているかというと……
・・・
拳王様と共に居城に戻ったあと、再びわたくしの女官としての生活が戻って……きませんでした。
戻ってみれば女官部屋のわたくしのスペースからは私物や衣類が引き払われており、わたくしは移動させられていた荷物と共に一室に押し込められた上に、何故か護衛まで付けられたのです。
前回わたくしがリュウガ様に拐われた事についての事情は、全軍に周知が為されたのですが、その後リュウガ様がわたくしを所望した事で、今度は本当に拐われる可能性を考慮しての事なのだそうです。
いやいやいや!
最初にGORANに連れていかれそうになりバランと出会ったあの時と、前回のリュウガ様の簒奪劇の時と、わたくし既に2回も拐われておりますのよ。
いくら何でも人生で3度も拐われませんわよ!
……………と、そんなふうに考えていた時期がわたくしにもありました。
「すまぬが、ラオウという男を見極めるに、今は貴女が邪魔なのだ。
後日必ず迎えを寄越すゆえ、待っていて欲しい」
そう言って拳王様が付けた護衛を一瞬でのして、今度こそ本当にわたくしを拉致したリュウガ様は、拳王様療養月間の間に暴走ヒャッハーを撲滅して平定した小さな村のひとつに、わたくしを預けて去りました。
…ってあのイケメン、拳王様を呼び捨てにしやがりましたわね。
確かに彼は心の底から拳王様に従っていたわけではなかったのでしょうが。
てゆーか、わたくしか邪魔ってどういう事なのでしょう。
よくわからないまま預けられたその村で数日を過ごし、なぜかやたらと子供の多いその村で、子供たちの遊び相手や若いお母さんたちのお手伝いをする事にも慣れてきた頃、リュウガ様が戦いで命を落としたという噂が流れてきました。
つまりはトキ様も…と、あの日のちょっとはじけたトキ様の姿を思い出してしんみりしてしまいましたが、このことがこの村に与えた影響は、その程度では済まなかったのです。
多分リュウガ様の守りがなくなって、警護の手薄になった村が野盗の襲撃にあい、命が惜しければ若い女を差し出せという要求を仕方なく呑んで、村の若い母親たちとともに、わたくしも拐われたのです…ええ。
そうして先ほどのお話に戻るのですわ。
わたくしたちを今度は野盗から奪った男の名は、ジュウザ。
南斗最後の将を守護する五車星の『雲』の宿命を持つ男で、この世界のヒロインであるユリアの、腹違いの兄でもある。
つまり、先日亡くなられたリュウガ様とも兄弟であるわけですけれど、この方の登場がリュウガ様が亡くなられた後だったこともあり、その辺の絡みは原作には出てこなかった筈です。
・・・
「全員、子持ちだとぉ〜〜!?」
「はい、ですからどうしても村に…お願いです、村に帰してください」
連れてこられた廃村の一番大きな家の中で、女性たちが一番最初にした事は、ジュウザ様に夫や子供たちのいる村に帰してほしいと懇願する事でした。
どうやらここまでのそう長くもない道行きで、ジュウザ様は少なくとも先ほどの野盗たちに比べたら、遥かに話がわかると判断されたのでしょう。
なにしろ彼女たちの子は小さく、まだまだ手がかかるのですから。
母は強し、ですわね。
……ふと、母から聞いただけの、妹の母親というひとの話を思い出します。
愛してもいないわたくしの父の子を生まされたその女性は、生んだばかりの妹を躊躇いなくわたくしの母に託して、父の手の届かない自身の故郷へと帰ったといいます。
前世では少年、今世でも子を産んだ事のないわたくしに、母親の気持ちはわかりません。
けれど、曲がりなりにも自分が産んだ子を手放す事に、本当に躊躇はなかったのか。
それとも望まぬ関係を結ばされた憎い男の子供など、そもそも愛する事はできなかったのか。
いま目の前の彼女たちの必死な姿に、なんとはなしにそんな事を思っていましたら、ふと我に返ったあたりでジュウザ様は、あんぐりと口を開けて、しばらくそのまま固まっておりました。
が、やがて硬直が解けたように深く息をつくと、とてもわかりやすく脱力なさいましたわ。
「は────………いい、もういい、行け。
それ持って、どこへでも勝手に行きやがれ!!」
ジュウザ様はそう言うと、取り囲んでいた若いお母さんそれぞれの手に、先ほどの野盗から奪ってきた食料を持たせます。
お母さん達は戸惑ったように顔を見合わせ、やがて口々に「ありがとうございます」と頭を下げて、出口に向かおうとしますが 、わたくしはそれを制しました。
ジュウザ様は先ほど座っていた椅子に再び腰掛けて「何やってんだおれ…」とか小さく呟いて項垂れておりましたが、わたくしが歩み寄るとその足音に気がついて、めんどくさそうに顔を上げました。
「まだグズグズしてんのか、さっさと」
「そういうことではありませんわ!」
「はぁ?」
何を言われているのかわからないとばかりにわたくしを睨みつけたジュウザ様ですが、この程度の眼力など、わたくし怖くもなんともございません。
案の定、全く怯まずに睨み返してきたわたくしに、ジュウザ様の瞳が一瞬揺れたのを確認して、わたくしは息をひとつ吸って、大切なことを告げました。
「ここからわたくし達全員に、歩いて村まで帰れと仰いますの?
このご時世、女たちだけで固まって移動していては、結局先ほどのようなならず者たちに、あっさり捕まってしまいますわ。
移動手段と、できれば護衛。
彼女たちが訴える『村に帰して』というのは、そういう事も含めての訴えですのよ!」
「待てコラ。なんでオレがそこまで…食料だって恵んでやったろうが!」
「元はといえばこれだって彼女たちの村から、野盗たちが奪ってきたものです!
彼女たちに返すのはむしろ道理ですわ!!
あなた様とて、先ほどまでわたくし共を囲う気満々でしたでしょう!
手放すならアフターフォローくらいきちんとしていただかなくては困ります!
それが男の甲斐性というものでしてよ!!」
ふんす、と鼻息荒く言い放ってやると、ジュウザ様は何やら驚いたように目を瞠いて、しばらくわたくしを見つめていらっしゃいました。
それから息をひとつ
「どうも他の女どもとは雰囲気が違うと思ったら、村の女じゃねえって事か。
テメエ…名前は?」
「…リアと申します。
とある方に、しばらく待つようにと村に預けられておりましたところ、彼女たちと共に略奪に遭いました」
「リア?
……ふうん、中途半端な名前だな」
「余計なお世話ですわよ!」
それ多分アタマのとこちょっと足りないってことですわよね!
この方は腹違いの妹であるユリアをそれと知らずに愛してしまい、苦しんだ末に今の無頼の道に走った経緯を持つ方ですから。
けど、それとわたくしの名前は関係ございませんわよ!
あと勝手にひとの髪の毛くるくるするのやめてもらっていいですか!!
「そんな事よりも、彼女たちを村まで送っていただけますの!?いただけませんの!?」
好きでもない男にこのように触れられる事が我慢ならず、弄ばれていた髪の毛の先を奪い返しながらそう言い放つと、
「ギャンギャンうるせえ!
よりにもよって、その声でおれに説教すんな!!」
バンッ!!
耳元で何か打った音と、背中に若干の衝撃を感じたと同時に、気づけばわたくしは壁に背をつけた状態で、ジュウザ様の両手に囲い込まれておりました。
…所謂、壁ドンという体勢ですわね。
わたくしとジュウザ様のやりとりを、ハラハラしながら見ていた村の女性たちから、息を呑むような小さな悲鳴が上がりました。
「リア…っていったな。
女だてらにいい度胸だ。
ひょっとしたら、おれに殺されるかも知れねえってのによ」
先ほどよりも近い距離からわたくしを見下ろし、ジュウザ様は悪そうな微笑みを浮かべます。
「か弱い女相手にそのような所業に出るほど、下衆な方ではないとお見受けしましたが、わたくしの見込み違いでしたかしら」
その笑みを見上げながら、精一杯の虚勢を張るわたくしは、『あー雲のジュウザ、近くで見ると色気凄〜い』と、若干現実逃避気味な事を考えておりました。
…少なくとも、わたくしがまったく怯んでいないことだけは理解したのでしょう。
ジュウザ様は諦めたように壁から手を離すと軽く肩をすくめて、大袈裟に息をつきました。
「どこまでも口の減らん女だ。…いいぜ。
この女たちはおれが村まで送っていってやる。
だが、リア。テメエは残れ。それが条件だ」
「はぃ?」
何やら不穏な言葉が聞こえ、反射的に問い返すと、そのわたくしの顎を、無骨な手が掴みます。
危うく舌を噛むところでした。
ちょっとだけ恨みがましい視線を向けると、どうも何かのスイッチが入ったらしいジュウザ様が、ほぼ息がかかるほどの距離に顔を近づけてきました。
「このおれにあんなクチきいて、ただで助けてやると思ってやがったのかよ?
リア、テメエは今からおれの女だ。
声だけは好みだがそれ以外、この生意気な口もその目つきも何もかも、全部おれ好みに躾けてや…」
「そのような真似は、この私がさせぬ」
と、その瞬間、やけに聞き覚えのある声が、その場の空気の色を、一瞬にして塗り替えます。
そちらに顔を向けようにも顎を掴まれたままのわたくしの代わりに、その声に反応してそちらに顔を向けたジュウザ様が、息を呑んだように、そのひとの名を呼びました。
「………リュウガ?
テメエ、なんでここに…?」
は……リュウガ様?
亡くなられたのではなかったんですの!?