転生美女世紀末伝説   作:大岡 ひじき

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少し短め。
あと、割と古めの言語表現を用いている部分があります。
誤字でも誤用でもありませんので、誤字報告は不要に願います。


13

「…いいぜ。この『五車星』雲のジュウザ。

 この命、おめえにくれてやる!」

「命は要りません!!

 …私の為に、生きてほしいのです」

 


 

 五車の星は(ふう)(うん)(えん)(さん)(かい)

 彼らは南斗の将に仕え、その星の輝きの為に天を舞い、地を駆けるという。

 その五車星が本格的に動き出して、KINGを吸収しUD軍を傘下に加えた南斗軍の活動が、更に活発になってきており、拳王軍としてもそろそろ無視できないほどに、彼らの勢力が大きくなっています。

 

 …何が起きているのか、正直わたくしにはわかりません。

 ですがここ数日、何度か拳王軍と交戦している、主に風と炎の旅団は、ほぼ小競り合いくらいの衝突で共に人的被害はほぼないものの、むしろ戦いが終わったあとに、主にこちらに結構な精神的ダメージを残して去っていくという、明らかに物語にはない戦い方をしておりました。

 

「おのれ…ただでさえの『風』評被害を、更に『炎』上させおって」

 …ということは、あの例の『宿命の戦い』の際に、トキ様に言われたような内容のことが、今は不特定多数に晒されているという事ですのね。

 

「それにしてもトキのやつめ、どうせあの世に逝くなら、兄の黒歴史など秘したまま、共に持って逝けば良いものを、今生の最後によりにもよって、南斗軍などに暴露しおるとは!!」

 あー…ええと、それ多分、前後の事情が違うと思いますわ。

 どうしてそんな事になっているのかは判りかねますが、例の、トキ様に入れ知恵をしたという『知り合い』という人物、恐らくこの状況を作り出した黒幕?と同一人物であろうこと、ここにきてわたくし、確信しております。

 そしてトキ様が、その方のアドバイスを受けられていたという時点で、彼が南斗軍と協力関係にあり、またそうなると共に来ていたケンシロウやバランも、そうであると考える方が自然ですもの。

 故に、原作とは違い既に、ケンシロウと南斗の将も、コンタクトをとっていると考えるべきですわ。

 …というか、ええ。

 今現在、南斗軍を指揮しているのは、絶対に南斗の将『ユリア様』ではありませんわね。

 あの聖女のようなヒロインが、こんなえげつない戦い方を指揮するはずがございませんもの。

 或いはやはり『黒幕』にアドバイスを受けているのか。

 誰なのかはわかりませんが、とんだ原作クラッシャー*1ですわね!

 許すまじですわ!!

 

 ☆☆☆

 

 そんなある日のこと。

 

「黒王様が……奪われたのですか?」

「はい。

 今回初めて対峙した五車星『雲』のジュウザに。

 同時に『山』の部隊の策により他の馬も、騎手を振り落とす形で逃がされ、車も大部分潰された次第。

 幸い1台助かっておりましたので、拳王様におかれましては一度居城に戻ることを申し出たのですが、『己が体を預けるのは黒王号のみ』と仰り、あの場を動かれませぬ。

 故に、我らがひと足先に居城へ戻り、伝令を。

 リア殿。どうか拳王様の元へ、我らと共にご同行いただきたく」

「は?」

 思わず素で聞き返してしまいましたが。

 確か黒王がジュウザに奪われるという展開は、原作にあったことかと思います。

 確かにあの方は原作通りでも充分に、拳王様を煽っていたと思いますし。けど。

 

「…あの。わたくしが参りましたところで、事態が変わるとは思われませんが?」

「いいえ。リア殿が迎えに来られたとあらば、拳王様とて帰らぬとは言えぬ筈。

 我らを助けると思って、どうか!」

 …要するに、コレってアレですわよね。

 この状況、部下たちに『ママが迎えに来なきゃ帰らない』的なやつと同じようなものととらえられてますわよ拳王様!!

 違いますのよ皆様!

 これは拳王様の、黒王に対する信頼というか、たとえ敵の手にあっても必ず戻ってくるとの、信頼を示したシーンなのです!

 決して我儘を言ってるわけではありませんのよ!!

 というかまあ、拳王様がお帰りにならなければ、共に付き従う兵士の方々も居城に戻れず、今宵は野営するしかなく。

 此度は遠征をするつもりはなく、その為の準備などもほぼなかった筈ですので、あの図体の拳王様はともかく、他の方々には少々お辛いのでしょうね。わかりました。

 

「……承知いたしました。

 恐らくは御期待に添えぬと思いますが、拳王様の女官としてできるだけのことはさせていただきます。

 わたくしを拳王様のお側に送り届けてくださいませ」

 …どちらにしろ他の方々の移動手段が奪われた以上、代わりの車や馬を連れていかねばならないでしょう。

 野営の為の幾ばくかの物資もそれに積んでいけば、拳王様がどう判断したとしても、現状よりはマシな筈ですわ。

 

 ・・・

 

「…ジュウザの事は昔から知っておるが、今更奴が南斗の為に動くとは思わなかった」

 結局。

 黒王がジュウザ様を連れて戻られると踏んだ拳王様は、居城に戻る提案を受け入れてはくださいませんでした。

 むしろわたくしがお側につくことで、野営にても不自由がなくなったと、わたくしを連れて戻った兵士の方が褒められておりまして、なんとも複雑な表情をしておられましたわ。

 簡単な食事を済ませ、いつかのような大きなテントの中で、わたくしと2人きりになると、拳王様は少し懐かしげにぽつぽつと、昔語りを始めました。

 ジュウザ様と拳王様。

 少年期のおふたりは、特に相性が良かったわけではないものの、漠然と友としての感情は抱いていたようで、大人になって敵味方に分かれた今、さすがの拳王様もどこか複雑な思いがあるようですわ。

 

「あの男にはかつて、妹とも思い世話をした女がいた」

 はい、存じております…とも言えず、わたくしはいつもとは逆に、拳王様のお膝に座らされた状態で、黙ってお話を聞いております……これが固くてメッチャ座りにくいのですけどね!!

 

「その女とは結局、実の妹を引き取る為に引き離されたが、女は南斗の巫女の1人として、美しくも賢しく成長し…奴はいつしか、その女に惹かれた」

 ……ん?なんか、わたくしの知っているお話と違いますわね?というか…

 

「だが、奴は成長したその女にとっては兄ですらなく、女は奴の後に出会い共に成長した、幼馴染の男に心惹かれた。

 それでも女の成長を見守り続けた奴は、女が見つめ続けるのが誰であるか、否応なく思い知らされる事となった。

 そして、女の想う男が、奴の妹を連れて逃げた時、女はあろうことか、それでもその男のもとに走ったのだ。

 絶望した奴は、それ以来無頼に走り…五車としての拳もその魂も腐り果てた…筈だった。

 あの男が心と拳を蘇らせたとあらば、おれも騎馬では勝てぬと踏んで、黒王の背から降りたのだが…」

 やっぱり!

 登場人物、明らかにひとり多いですわ!!

 そういえばこの前、ジュウザ様の口から『ユリア』の名が出た時、苦しい恋心を抱いた女性の名を口にしたにしては、辛そうな感じではなかったと思っていたんでした。

 むしろ、わたくしと声が似ているというひとのことを訊ねた時の方が…とそこまで考えてハッとしましたわ。

 なるほど。その方がジュウザ様の、真の想い人という事でしたのね。

 …と、わたくしがほんの少しの間、考えに沈んでおりますと、気がつけば拳王様がわたくしの頭の上で、なにやらブツブツとひとりごち始めました。

 

「……待てよ。南斗軍は元々、KINGを吸収して台頭したと聞いたが……もしやして、事実は逆か?あの女が………まさか。

 だがジュウザの魂を蘇らせることのできる者など、この世にただひとり…なるほど。

 あの日、殊更に無害な(なり)をして、惚れた男と静かに暮らすなどと言っておきながら。

 この拳王を(たばか)ったばかりか、我が覇道の前に立ちはだかるとはな。

 あの時、ただの無力な女と思って見逃さず、せめて奪い取っておけば、このような事にはなっておらなんだということか。

 フ…龍を蛟と見誤った*2は、どうやらこのおれの方であったようだ」

 …あの、いつもとは違う意味でちょっと恐いですわ。拳王様。

 

 そうして。

 結局一昼夜、その場で足止めを食らったあと。

 遥か遠くから響く蹄の音に、その場の全員が、身体に緊張を疾らせます。

 

「命を捨てに戻ったか、ジュウ……!?」

 主人(あるじ)のもとに駆け戻ってきた黒王の、その背から飛び降りたその男に、かけた拳王様の言葉が途中で止まったのは、呼びかけるその名が違う事に、直前で気がついたからでしょう。

 

「ケンシロウ……何故、うぬがここに」

「ラオウよ。

 暴凶星は今日ここに燃え尽きる。

 天に帰る時がきたのだ!!」

 ビシッと肘を曲げ、天を指差しながら拳王様を見据えるケンシロウは、かつて本で見た通りの冷徹な暗殺者の顔でしたが……いや待って!なにこの展開!?

*1
自分もそうだという自覚は、残念ながらリアさんには欠片もありません。

*2
この表現はラオウ編3話にも出てきます。念の為。




変化した状況のネタバラシは、ラオウ編が終わった後に予定している新章『その時彼女たちは(仮題)』にて行う予定です。
今はリアさんと同じ視点からの『どうしてこうなった』を、引き続きお楽しみください。
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