あと、割と古めの言語表現を用いている部分があります。
誤字でも誤用でもありませんので、誤字報告は不要に願います。
「…いいぜ。この『五車星』雲のジュウザ。
この命、おめえにくれてやる!」
「命は要りません!!
…私の為に、生きてほしいのです」
五車の星は
彼らは南斗の将に仕え、その星の輝きの為に天を舞い、地を駆けるという。
その五車星が本格的に動き出して、KINGを吸収しUD軍を傘下に加えた南斗軍の活動が、更に活発になってきており、拳王軍としてもそろそろ無視できないほどに、彼らの勢力が大きくなっています。
…何が起きているのか、正直わたくしにはわかりません。
ですがここ数日、何度か拳王軍と交戦している、主に風と炎の旅団は、ほぼ小競り合いくらいの衝突で共に人的被害はほぼないものの、むしろ戦いが終わったあとに、主にこちらに結構な精神的ダメージを残して去っていくという、明らかに物語にはない戦い方をしておりました。
「おのれ…ただでさえの『風』評被害を、更に『炎』上させおって」
…ということは、あの例の『宿命の戦い』の際に、トキ様に言われたような内容のことが、今は不特定多数に晒されているという事ですのね。
「それにしてもトキのやつめ、どうせあの世に逝くなら、兄の黒歴史など秘したまま、共に持って逝けば良いものを、今生の最後によりにもよって、南斗軍などに暴露しおるとは!!」
あー…ええと、それ多分、前後の事情が違うと思いますわ。
どうしてそんな事になっているのかは判りかねますが、例の、トキ様に入れ知恵をしたという『知り合い』という人物、恐らくこの状況を作り出した黒幕?と同一人物であろうこと、ここにきてわたくし、確信しております。
そしてトキ様が、その方のアドバイスを受けられていたという時点で、彼が南斗軍と協力関係にあり、またそうなると共に来ていたケンシロウやバランも、そうであると考える方が自然ですもの。
故に、原作とは違い既に、ケンシロウと南斗の将も、コンタクトをとっていると考えるべきですわ。
…というか、ええ。
今現在、南斗軍を指揮しているのは、絶対に南斗の将『ユリア様』ではありませんわね。
あの聖女のようなヒロインが、こんなえげつない戦い方を指揮するはずがございませんもの。
或いはやはり『黒幕』にアドバイスを受けているのか。
誰なのかはわかりませんが、とんだ原作クラッシャー*1ですわね!
許すまじですわ!!
☆☆☆
そんなある日のこと。
「黒王様が……奪われたのですか?」
「はい。
今回初めて対峙した五車星『雲』のジュウザに。
同時に『山』の部隊の策により他の馬も、騎手を振り落とす形で逃がされ、車も大部分潰された次第。
幸い1台助かっておりましたので、拳王様におかれましては一度居城に戻ることを申し出たのですが、『己が体を預けるのは黒王号のみ』と仰り、あの場を動かれませぬ。
故に、我らがひと足先に居城へ戻り、伝令を。
リア殿。どうか拳王様の元へ、我らと共にご同行いただきたく」
「は?」
思わず素で聞き返してしまいましたが。
確か黒王がジュウザに奪われるという展開は、原作にあったことかと思います。
確かにあの方は原作通りでも充分に、拳王様を煽っていたと思いますし。けど。
「…あの。わたくしが参りましたところで、事態が変わるとは思われませんが?」
「いいえ。リア殿が迎えに来られたとあらば、拳王様とて帰らぬとは言えぬ筈。
我らを助けると思って、どうか!」
…要するに、コレってアレですわよね。
この状況、部下たちに『ママが迎えに来なきゃ帰らない』的なやつと同じようなものととらえられてますわよ拳王様!!
違いますのよ皆様!
これは拳王様の、黒王に対する信頼というか、たとえ敵の手にあっても必ず戻ってくるとの、信頼を示したシーンなのです!
決して我儘を言ってるわけではありませんのよ!!
というかまあ、拳王様がお帰りにならなければ、共に付き従う兵士の方々も居城に戻れず、今宵は野営するしかなく。
此度は遠征をするつもりはなく、その為の準備などもほぼなかった筈ですので、あの図体の拳王様はともかく、他の方々には少々お辛いのでしょうね。わかりました。
「……承知いたしました。
恐らくは御期待に添えぬと思いますが、拳王様の女官としてできるだけのことはさせていただきます。
わたくしを拳王様のお側に送り届けてくださいませ」
…どちらにしろ他の方々の移動手段が奪われた以上、代わりの車や馬を連れていかねばならないでしょう。
野営の為の幾ばくかの物資もそれに積んでいけば、拳王様がどう判断したとしても、現状よりはマシな筈ですわ。
・・・
「…ジュウザの事は昔から知っておるが、今更奴が南斗の為に動くとは思わなかった」
結局。
黒王がジュウザ様を連れて戻られると踏んだ拳王様は、居城に戻る提案を受け入れてはくださいませんでした。
むしろわたくしがお側につくことで、野営にても不自由がなくなったと、わたくしを連れて戻った兵士の方が褒められておりまして、なんとも複雑な表情をしておられましたわ。
簡単な食事を済ませ、いつかのような大きなテントの中で、わたくしと2人きりになると、拳王様は少し懐かしげにぽつぽつと、昔語りを始めました。
ジュウザ様と拳王様。
少年期のおふたりは、特に相性が良かったわけではないものの、漠然と友としての感情は抱いていたようで、大人になって敵味方に分かれた今、さすがの拳王様もどこか複雑な思いがあるようですわ。
「あの男にはかつて、妹とも思い世話をした女がいた」
はい、存じております…とも言えず、わたくしはいつもとは逆に、拳王様のお膝に座らされた状態で、黙ってお話を聞いております……これが固くてメッチャ座りにくいのですけどね!!
「その女とは結局、実の妹を引き取る為に引き離されたが、女は南斗の巫女の1人として、美しくも賢しく成長し…奴はいつしか、その女に惹かれた」
……ん?なんか、わたくしの知っているお話と違いますわね?というか…
「だが、奴は成長したその女にとっては兄ですらなく、女は奴の後に出会い共に成長した、幼馴染の男に心惹かれた。
それでも女の成長を見守り続けた奴は、女が見つめ続けるのが誰であるか、否応なく思い知らされる事となった。
そして、女の想う男が、奴の妹を連れて逃げた時、女はあろうことか、それでもその男のもとに走ったのだ。
絶望した奴は、それ以来無頼に走り…五車としての拳もその魂も腐り果てた…筈だった。
あの男が心と拳を蘇らせたとあらば、おれも騎馬では勝てぬと踏んで、黒王の背から降りたのだが…」
やっぱり!
登場人物、明らかにひとり多いですわ!!
そういえばこの前、ジュウザ様の口から『ユリア』の名が出た時、苦しい恋心を抱いた女性の名を口にしたにしては、辛そうな感じではなかったと思っていたんでした。
むしろ、わたくしと声が似ているというひとのことを訊ねた時の方が…とそこまで考えてハッとしましたわ。
なるほど。その方がジュウザ様の、真の想い人という事でしたのね。
…と、わたくしがほんの少しの間、考えに沈んでおりますと、気がつけば拳王様がわたくしの頭の上で、なにやらブツブツとひとりごち始めました。
「……待てよ。南斗軍は元々、KINGを吸収して台頭したと聞いたが……もしやして、事実は逆か?あの女が………まさか。
だがジュウザの魂を蘇らせることのできる者など、この世にただひとり…なるほど。
あの日、殊更に無害な
この拳王を
あの時、ただの無力な女と思って見逃さず、せめて奪い取っておけば、このような事にはなっておらなんだということか。
フ…龍を蛟と見誤った*2は、どうやらこのおれの方であったようだ」
…あの、いつもとは違う意味でちょっと恐いですわ。拳王様。
そうして。
結局一昼夜、その場で足止めを食らったあと。
遥か遠くから響く蹄の音に、その場の全員が、身体に緊張を疾らせます。
「命を捨てに戻ったか、ジュウ……!?」
「ケンシロウ……何故、うぬがここに」
「ラオウよ。
暴凶星は今日ここに燃え尽きる。
天に帰る時がきたのだ!!」
ビシッと肘を曲げ、天を指差しながら拳王様を見据えるケンシロウは、かつて本で見た通りの冷徹な暗殺者の顔でしたが……いや待って!なにこの展開!?
変化した状況のネタバラシは、ラオウ編が終わった後に予定している新章『その時彼女たちは(仮題)』にて行う予定です。
今はリアさんと同じ視点からの『どうしてこうなった』を、引き続きお楽しみください。