転生美女世紀末伝説   作:大岡 ひじき

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この魂はあなたに残そう。
そしてこの身はあなたの幸せの為に捨てよう。
こうして新しい時代が幕を開ける。


真実哉〜原作美女の弟に転生しちゃいました、って甘栗むいちゃいましたみたく言うな〜

 ある日突然気がついた。

 あ、これ北斗の拳じゃん、と。

 つかヤバイ。まじでヤバすぎる。

 

 漫画『北斗の拳』には、主人公ケンシロウと旅を共にするバットという少年がいる。

 そのバットの育ての親である老婆が野盗に殺され、彼同様その老婆に育てられていた身寄りのない子供達の、面倒を見てくれる先を探す必要があり、老婆を殺した野盗一味をケンシロウが壊滅させている間に、それを申し出ていた豊かな村があった。

 だがその村は豊かである事で野盗たちに狙われており、その野盗たちを退治する事が、子供たちを引き取る条件だった。

 ケンシロウが村に入った時、かつて失った恋人と瓜二つの女性が登場する。

 彼女の名はマミヤ。

 この村は亡き彼女の両親が作り上げた村で、彼女は村のリーダーとして、戦う術を身につけていた。

 さらにそこにレイという男が加わり、最初は村を狙う野盗に送り込まれた彼が紆余曲折の末ケンシロウについて、彼ら3人は野盗との、そして更にその先へと続く戦いに踏み込んで、巻き込まれていくのである。

 

 まあ、それはいずれ未来に起こる出来事なわけで。

 物語の通りに進むならば、村は野盗たちに蹂躙される事なく、この先も存在し続けるのだが、そこに至る道筋に犠牲者が出なかったわけではなく。

 

 なにがヤバイって、ケンシロウたちが野盗と本格的にことを構えるきっかけになる、その犠牲者が俺だって事だ。

 

 俺の名前は、コウ。

 この村の創始者夫婦の息子にして、村のリーダーであるマミヤの弟だ。

 

 ☆☆☆

 

 さっき思い出した前世の記憶では、少なくとも俺は50歳までは生きていた筈だ。

 なんで死んだかまでは思い出せないが、今の自分には関係ない事だから気にしないことにしておく。

 それよりも未来の話だ。

 現在、俺は10歳。

 両親は健在で、9歳年上の姉は、この村だけじゃなく近隣の村からも縁談がひっきりなしに持って来られるほど、評判の美女。

 俺の記憶が確かで、この世界が北斗の拳で、俺の姉があの話の中のマミヤで、弟の俺が同じくコウだとするなら、うちの姉は20歳の誕生日にユダに連れ去られ、止めようとした両親がその時彼に殺される。

 マミヤは数日後、ボロボロに負傷した姿で村へ戻ってくるが、それ以降は女としての幸せを諦め、女戦士としての道を歩き始める。

 そして俺はその後、レイの裏切りにより仲間を失った牙一族に、報復としてとっ捕まってぶった斬られて殺されるってわけだ。

 年齢について明記されてたかどうか記憶にないが、死んだ時のコウは少年として描かれていたから、恐らくは13〜15歳の頃の話になるだろう。*1

 ならばその頃マミヤは22〜24歳くらいとなっているから、拉致イベントを考えても計算は合う。

 くは、最長でもあと5年の命とかwww

 いや、草生やしてる場合じゃない。

 

「どうしたの、コウ?」

 畑にまく種モミを握りしめたまま固まってる俺に、姉さんが声をかけてきた。

 その声を聞いた瞬間、わけがわからなくなって、気がついたら涙がポロポロこぼれていた。

 姉さんは驚いた顔をしたものの、次には頭を撫でてくれた。

 

「…姉さんっ」

 いろんなことが怖くなって、今目の前にいる姉さんにしがみつくと、もう我慢できずに大声で泣いた。

 

 姉さんはおっぱいが大きかった。

 

 ・・・

 

 俺はモブキャラだ。

 多分物語を変える力なんてない。

 きっと俺が死ぬのは避けられないだろう。

 だけど姉さんは…マミヤにだけは、幸せになってほしい。

 

 マミヤは優しく、強く、美しい。

 そして何より

 

 お っ ぱ い が 大 き い

 

 繰り返そう。

 

 お っ ぱ い が 大 き い

 

 大事なことだからもう一度言おう。

 

 お っ ぱ い が 大 き い

 

 その姉さんが幸せになれないなら、それはこの世界が間違ってる。

 だっておっぱいはこの世の絶対正義だから。

 

 俺が死んでも、この魂は姉さんに残そう。

 そしてこの身は、姉さんの幸せの為に捨てよう。

 …なんかラオウと戦う前のトキのセリフみたくなってるけど。

 パクリとか言うな。

 

 ……………それはそれとして、姉さんの幸せとは何だろう。

 そう思って聞いてみたら、マミヤはにっこり笑ってこう答えた。

 

「そうね…お父さんやお母さん、そしてコウがそばにいてくれて、笑っていてくれるのが一番幸せよ」

 うん、それが一番ハードル高えわよ姉さん。

 

 ・・・

 

 つまりだ。

 マミヤが女としての幸せを諦めるのは、ユダに攫われて心と体に、消えない傷を負わされて以降。

 ケンシロウと出会い、ほんの少しだけ女としての感情を取り戻しはするものの、自身に真っ直ぐ向けられるレイの無償の愛情には、どこか恐れのようなものを感じていた筈だ。

 まあ、童貞としてその気持ちもわからなくはない…ってやかましいわ前世はともかく今世はまだ10歳だし当たり前だわ言わせんな。

 それはさておき決して返ってこないだろう一方通行の思慕、いわゆる片思いって、開き直れば相手の気持ちを考えずに済む分、責任なくて気楽なんだよ。

 それに慣れると、自分に向けられる強い愛情を自身の中で受け止めきれなくなるし、自分にはそんな資格がないと思ってる事もあって、マミヤはあんな反応になってたんだと思う。

 だからまずは、ユダに攫われる事だけはなんとしても阻止しよう。

 あの出来事による心の傷さえなければ、マミヤはもう少し恋愛に前向きになれるだろうし、そうなれば俺や両親が死んでしまっていても、その時に寄り添う相手がいれば、心の傷もいつかは癒えて、最終的には幸せになれる。

 その為には、二十歳の誕生日を迎えるその前に、マミヤを守れる強い男と娶せるのが、一番の選択ではないかと思うのだ。

 ひょっとしたらそれで、両親も殺されずに済むかもしれないし。

 俺が戦う力を身につけるのもアリだとは思うが、ユダが現れるその日まであと1年もないことを考えれば、あまり現実的ではない。

 だが、『戦う力を身につける為に、師事する先生が必要だ』という理由をつければ、強い男をマミヤと出会わせる事はとても自然な形になる。

 よし、まずは師匠探しをしよう。

 

『じゃあ、姉さんを守りたいから強くなる』

 と言ったら、マミヤは一瞬ぽかんとしたあと、

『かっ可愛い〜〜〜っ!!!!』

 と叫んで抱きついてきた。

 とりあえずおっぱいで窒息して死んでもいいと思ったのは一生俺だけの秘密にしておこうと思う。

 次の日、旅の行商人を通じて『強い人を紹介してほしい』という内容のことを、近隣や少し遠くの村まで広めてもらうことにした。

 

「身を守る術を学ぶ事は、今の世では必要だと思うけれど、強くても怪しい人を村に引き入れるのは嫌だわ」

 とマミヤは少し表情を曇らせていたが、これも姉さんを幸せにする為なんだ。

 それに人選はしっかり行うつもりだから安心して。

 

 そう思っていた後日。

 行商人が護衛として連れてきた、その男を見て愕然とした。

 え…待って?

 確かにこれ以上の男とか居ないけど、この人の登場って今じゃなくない?

 

「おまえがコウか。話は聞いている。

 この村を、家族を守る為に、戦う力をつけたいそうだな。

 立派な志だ。おれでよければ力になろう」

 そう言って微笑んだ、無駄にツヤツヤの長い黒髪を靡かせた細マッチョの男は、義の星の宿命を持つ男、南斗水鳥拳のレイだった。

 …うわイケメンオーラ半端ねえ。

 

 ……って呆けてる場合じゃない!

 時期は確実におかしいけど、レイがこの村に入ってくる目的って、確か野盗集団を引き入れる為とかじゃなかった!?

 て事は、俺の死亡フラグ前倒し!?

 ああああ!!そりゃ短い人生と諦めて死ぬ覚悟はできてたけど、それ今じゃないいぃぃぃ!!

 

「…すまん。怖がらせてしまったようだな」

 どうやら内心の動揺が滲み出て、涙目になっていたらしい。

 けど、そう言って俺の顔を覗き込むその表情には、本当にすまなそうな色しか見えなかった。

 騙されてるかもしれないけど、どう見ても原作登場時のいかにも悪人なレイの顔じゃない。

 むしろケンシロウとの友情を育んでいた時の顔に近いが、それよりも表情は柔らかい気がする。

 時間軸的なことを考えると、レイの妹のアイリがジャギに攫われるより前なのではないだろうか。

 だとすれば、心配する事はないかもしれない。

 

「…ごめんなさい、そういうんじゃなかったんですけど。

 あなたみたいな強そうな人を見たのが初めてだったから」

 とりあえず滲んだ目頭を拭いながら、もっともらしい事を割と適当に言ったのだが、

 

「…思ったよりも見込みがありそうだな。

 その年齢で、相手の強さを見極めるだけでも、なかなかのものだと思うぞ」

 と何故か変な方向に誤解されてしまった。

 ごめん、これ単なる原作知識で、ある意味ズルだから。と、

 

「ちょっと!

 私の弟を泣かせるなんてどういうつもり!?」

 俺を背中から抱きしめながらマミヤがレイを睨みつけた。

 後頭部に当たる柔らかい感触が気持ちいいです姉さん。

 

「あ、違うんだ姉さん。なんでもないから」

 そう言って見上げたマミヤの表情には、納得のいかないという表情が浮かんでいたけれど。

 …マミヤをじっと見つめるレイの表情はそれどころの騒ぎじゃなかった。

 引き締まった頬に血の色が浮かび、目も僅かに潤んでいるように見える。

 あ、これ完全に、一目で恋に落ちましたな。

 そうだろうそうだろう。

 マミヤは美女だ。そして巨乳だ。

 そして、レイにとっては運命の女性だ。

 

「俺、この人がいい。

 この人ならきっと…俺のこと、強くしてくれる」

 まだレイを睨んでいるマミヤを見上げて、そう告げる。

 惚れた女には命懸けの献身を捧げる男だ。

 この様子ならレイは、マミヤを大事に守ってくれる。

 

「おれの名はレイ…よろしく頼む」

 そう言ったレイは、一応顔こそこちらへ向けていたが、目はしっかりマミヤの方を向いていた。

 

 ・・・

 

 俺の稽古は体力づくりから入った。

 レイはずっと滞在できたわけではなく、短くて3日、長くて一週間ほどうちの村に滞在しては、用の済んだ行商人たちの護衛をして自分の村へ帰っていくのだが、その間に実力に見合った鍛錬方法を提案して、『次に会う時には、これができているように』と小さく宿題を出していく。

 レイの指導は適切な上丁寧で、俺でも入っていきやすかった。

 

「7つ下の妹がいて、これが結構おてんばでな。

 子供の頃、せがまれて護身術を教えていた。

 こうしていると、その頃のことを思い出すな」

 などと、少し嬉しげに語るレイは、やはりその目に濁りなど見えない。

 てゆーかアイリ、子供の頃はおてんばだったのか。意外。

 それはそれとして俺の鍛錬の合間に、レイは結構どストレートにマミヤにアプローチするのだが、どうもマミヤはレイに冷たい。

 これまで数多の求婚を蹴ってきた経緯があり、両親などは早く結婚して安心させてほしいとか密かに言ってたりするし、その両親の目からも、レイは合格物件であるようなので、早くまとまってほしいところなのだが。

 

「やあ、マミヤ。

 今日のそのドレス、よく似合っている。

 やはり君には淡い色も似合うな。

 白のドレスだけは、おれの花嫁となるその日まで取っておいて欲しいところだが」

「な、何を調子のいいことを言っているのよ!

 というか、あなたの為に着たわけではないわ!

 勘違いしないでちょうだい!!」

 ……なんだただのツンデレか。

 

 ☆☆☆

 

 そうして、レイが俺の指導を始めてくれてから半年ほど経ったある日のこと。

 

「…そういえばこの村は、養蚕も盛んだと言っていたな。

 今の時期でも製品があるならば、是非見ていきたいところだ」

「いいですよ。案内しますから、これ終わったら一緒に行きましょう!

 …姉へのプレゼントですか〜?」

 ちょっと揶揄うくらいは、弟の立場として許されるだろう。

 だが、俺の言葉に少しは動揺するかと思ったレイは、ありがとうと小さく言った後、なんだか嬉しそうに微笑んだ。

 

「…いや。妹にな。

 もうすぐ結婚するので、最高の花嫁のケープをプレゼントしたいと思っている。

 この村でなら見つけられそうだ。

 あのおてんばでは、見初めてくれる者など居ないと思っていたが、蓋を開けてみれば最高の相手を捕まえてくれた。

 …まあ、性格に難がないとは言えないが、その手綱をしっかり握っているあたり、あれで相性はいいのだろう。

 2年の婚約期間は長すぎると言いながらも、手を出さずに守ってくれているようだしな。

 あの男にならば、妹を安心して任せられる」

 ………あぁっ!そうだった!!

 レイが、野盗と手を組む前にマミヤに惚れさせればフラグ折れると思ってたけどそれじゃ足りない!

 確かレイの妹のアイリって、結婚式の前に村を襲ってきたジャギに、両親を殺されて自分は攫われ、その出来事がレイを修羅の道へと進ませるのだ。

 いかにマミヤに惚れていようと、大事な妹が賊に攫われて、その後にこの村でマミヤと幸せに暮らしてくれる筈もない!

 絶対、その行方を探す旅に出てしまって、マミヤを守る男がまたいなくなる!

 

「け…結婚式を挙げるのは、いつですか?」

「ん?

 アイリの16の誕生日だから、二週間後だ。

 済まないが、おれは来週にはここを発たなければならないし、それから2ヶ月はこちらへ来ることができないと思うから、たっぷり課題を用意しておくぞ?」

「いやいやいや!

 そういう事なら今すぐ行きましょう!

 そして一刻も早く持って帰りましょう!!」

 アイリさんが攫われる事になるタイミングはよく覚えていないが、なんか花嫁のケープとかめっちゃフラグな気がする!!

 だって、原作のレイが確かそんなもの持って歩いてたハズ!

 賊が村を襲撃するのがレイ不在の間なわけで、すぐ戻っても間に合うかはわからないけど、少なくともレイが考えるタイミングで戻ったら絶対に間に合わない事だけは確かだ!

 

「コウ、どうしたの!?

 なにかこの男に無茶な課題でも出された!?」

「あ!姉さんちょうどいいところへ!!

 レイさんの妹さんが二週間後に結婚するんで、この村で花嫁のケープを調達したいんだって!

 一緒に行って選んであげてくれないかな?」

 間に合う可能性は半々だ。

 間に合わなくてもせめてマミヤとの絆を強めておくべきだと思い、俺はこの件をマミヤに丸投げする。

 大人2人がえって顔をして俺を見つめ、しばし固まった。

 …先に復活したのはマミヤだった。

 

「…二週間後ですって!?

 あなた確か昨日、この村を発つのは一週間後と言っていたじゃないの。

 あちらの村まで、行商の馬車だと途中の寄り道を考えたら、一週間はかかるのでしょう?

 そんなギリギリに持って帰って、ドレスとデザインが合わなかったらどうする気なの!?

 刺繍とか刺し直すのも日数がかかるのに、妹さんの一生に一度の大切な日を、不本意な衣装で迎えさせたら、あなた一生恨まれるわよ!!

 本当、男の人ってこういう事に無頓着なのね!

 いいわ、私が一緒に最高のものを選んであげる!

 そして調達したらすぐに私のバイクで、あなたの村まで送ってあげるわ!!」

 まさかの女性視点からのダメ出しである。

 そのまま手を掴まれ、村の絹の工房へ引っ張っていかれたレイの目が、ちょっと涙目に見えたのは気付かなかった事にしようと俺は固く心に誓った。

 

 ・・・

 

「正直、大きく手直しする必要はなかったみたい。

 若い花嫁さんだから、もっと華やかなドレスなのではないかと思っていたら、結構シンプルなデザインだったの。

 けどケープのデザインに感銘を受けたお針子さんが、襟元の刺繍を少し、似たようなイメージで刺し直すんですって。

 あれに、私とレイが選んだケープをマリアヴェールにして被れば、とても神聖なイメージになるわ。

 また、レイの妹さんが、すごく綺麗な子だったのよ。

 旦那さんになる人には会えなかったけど、彼は幸せ者ね。

 結婚式まで滞在して祝っていってくれと引きとめられて、ちょっと心は動いたんだけど、滞在中のお世話をかけるのも何だし、何より結婚式に参列できるような服を持ってきていないからと断って、断腸の思いで帰ってきたわ!」

 2日後、自分のバイクで村に戻ってきたマミヤがうっとりと語った話を聞く限り、レイの帰還はどうやら間に合ったらしい。

 まあ、その結婚式が開かれる事になるかは判らないが、アイリさんが攫われるフラグは折れたと、安心していいんじゃなかろうか。

 

 ☆☆☆

 

 そしてとうとう運命の日、マミヤの20歳の誕生日がやってきた。

 その日、恐れていた赤い髪の男が、遂にこの村を訪れた……レイに伴われて。

 いやいやいや、お前何してくれちゃってんの!?

 せっかく破滅フラグ折れたと思ってたのに、これもう運命の修正力には逆らえないってやつ!?

 思わず涙目になった俺に気づかず、レイがイケメン顔を微笑ませて言う。

 

「マミヤ、コウ、紹介しよう。

 妹のアイリと、その夫のユダだ」

 …………………はぃ?

 見れば、そのド派手な赤い髪の男の蔭に、隠れるように側に立つ、サラサラストレートの金髪が眩しい、綺麗な女の子が微笑んでいる。

 …多分だが姉さんより胸は小さい。

 つか、え?アイリの夫がユダ?

 なにこの珍妙なカップリング??

 

 俺が混乱して固まってると、アイリがパッと笑顔を輝かせた。

 俺の隣に立つ姉さんに向かって駆けてきて、その胸に飛び込む。

 

「マミヤさん、お久しぶりです!

 お誕生日おめでとうございます!!」

 美女と美少女が抱き合う光景とか、もう眩しくて目が潰れそうだ。

 誰だバルスとか唱えたの。

 なんかアイリさんが『うわ超柔らけえ』とか呟いた気がしたがきっと気のせいだ。

 その横に、違う意味で目が潰れそうな派手男が、やはりマミヤに声をかける。

 

「貴方がマミヤか。

 レイやアイリから話は聞いていたが、確かに美し……ぐっ!!

 ア、アイリ、なんでいきなり俺の手の甲を抓るんだ?」

 ギギギ、と音が鳴るような動きでユダが見下ろす先に、上目遣いで睨む彼の新妻が、押し殺したような低い声で言う。

 

「…レイの奥さんに一目惚れでもしたわけ?」

 それを聞いてマミヤが『奥さんだなんて、まだ、そんな』とか言って頬を赤らめたが、レイのプロポーズを受ける事にしたと、俺と両親が夕食の席に聞かされたのはまさに昨日の話だ。

 しかし…アイリのその言葉は、ちょっと無視できない。

 実際そうであれば、ユダはマミヤを奪い取ろうとして、結局は悲劇が起きるのではないか。

 だが、次に起きたのは、こらえきれず吹き出したような、ユダの笑い声だった。

 

「…ククッ。そんなわけがないだろう。

 さすがにレイが選んだ女性だと思っていただけだぞ?

 フッ……なんだ、ヤキモチか?

 俺は、こんなにアイリに夢中だというのに。

 まあ、アイリはそんなところも可愛いがな。

 ところで……」

「…なに?」

「俺は、抓られるよりも踏まれる方が好」

「滅べド変態!!!!」

「ほおすとぉぅっ!!」

 次の瞬間、アイリのローキックを脛に受けたユダはその場に崩折れたが、その表情にはありありと歓喜が表れていた。

 …なんだこの2人の関係性。

 

 後で話を聞いたところ、結婚式は無事に執り行われたらしいが、その前に野盗の襲撃はやはりあったそうだ。

 それも、結婚式の前日の話だそうで、それが予期せず行われたものであれば、結婚式どころの騒ぎではなかったのだが、実はアイリとの婚約期間中、ユダがそのあたり一帯のチンピラを掌握しており、『悪そうなやつは大体友達』状態になっていて、新参の野盗集団である『仮面の男』の一味は、現れた時から目をつけられていたらしい。

 その動向を逐一報告されて、自分でも頭目の『仮面の男』に接触してみたところ、よりによって婚約者の村に襲撃をかけようと計画している事を知り、酒で酔わせて聞き出した襲撃時には、レイと2人準備万端で待ち伏せしていたとの事だ。

 

「な、なんだテメエ、裏切りやがったのかよ!?」

「裏切りではない、これは知略だ!そして愛だ!!」

 そう言って『仮面の男』を背中から開きにする光景は壮絶なものであったという。

 

「俺のアイリに手を出そうとしたのだから、当然の報いだ。

 …だがあの男、ここに来る以前、南斗孤鷲拳のシンに接触していたという情報が入っている。

 彼奴は北斗に最も近い男、もう少し調べる必要があろうな」

 うわあ、ユダさんメッチャ有能。

 そしてアイリさんすげえ愛されてるし。

 

 ・・・

 

「ねえ、コウ君?」

「はい?」

「…あなたもこの村も、勿論マミヤさんも、きっとレイが守ってくれる。

 …けど念の為当分は、村の外に一人で出ないようにしてくださいね。

 そう…村の外の、掃除が済むまでね」

 レイの妹のアイリさんが、そんな謎めいた言葉をかけてきてから数日後、村の周辺を根城にしていた野盗集団が、やはりレイとユダによって壊滅させられた。

 …完全にみじん切りにされてたんで分かりづらかったが、例の俺の死亡フラグ、牙一族で間違いないぽい。

 それからすぐにマミヤとレイは結婚式を挙げ、2人の愛のセレモニーを見届けた後、ユダとアイリさんは自分の村へと帰っていった。

 

 姉さんは、きっと幸せになるだろう。

 俺もいつか、このひと達のような幸せをつかめるのだろうか。

 とりあえず、嫁さんになる人は巨乳美人がいい。

 

 ☆☆☆

 

 …これは後日、義兄レイと、その義弟であるユダから聞いた話だ。

 これからの乱世に向けて南斗の立ち位置を考えようと、南斗六星拳を招集した『南斗サミット』が行われた。

 但し、『最後の将』は事情により欠席、南斗孤鷲拳のシンも、北斗とのトラブルで身を隠しており連絡がつかず欠席で、六星のうちの四星のみで行われたそうだが。

 議題は勿論、覇権か和平か。

 この時勢に覇権をと主張する、南斗鳳凰拳サウザーに対して、和平派の南斗白鷺拳のシュウは、

 

「私たちの子が平穏に暮らし、その平和は父たちが作り上げたものだと、誇れる世界を作っていきたい」

 と語り、新婚のレイは勿論同意したそうだ。

 途中、ユダがどうやら流されかけ、フラフラ覇権派につきそうになったものの、

 

「オイタをしてアイリに叱られたいのだろうが、そうなったらアイリは、叱る前におまえを捨てるぞ」

 とレイに言われて、改めて和平派につくと宣言したらしい。

 アイリさんすげえ。

 こうして、和平派が多数を占めた南斗サミットは、サウザーの『リア充滅べ』の声とともに閉会したという。

 

 新たな時代が幕を開けようとしていた。

*1
かいたやつ注:原作読み返したらコウが死んだ日は『15歳の誕生日』だったようです。




以前活動報告に書いたものを加筆して割り込み投稿しました。
愁の続きを楽しみにしていてくださる方には本当に申し訳ありません。
あちらはもう少しお待ちください。
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