サザンクロス。
新興勢力である『KING』が作り上げた、まだ歴史の浅い街だが、近隣の街や村との間に街道を整備した事もあり、今では物流の要としてだけではなく、実は密かにこの世界で、一番安全とまで言われる街である。
…うん、まあ私たちがそう作ったんだけど。
だってせっかく街なんだからガワだけじゃない、人々が行き交う場所にしないと意味ないじゃない?
なので今日もそこに様々な旅人が行き来しているが、そんな日常的な光景が、今日の私たちにとっては特別になった。
「ユリアちゃん!」
「マツリさん…よく、無事で」
五車の旅団が旅の商人とその護衛一行様にカムフラージュして連れてきたユリアちゃんが、私のハグに応じて涙ぐむ。
私とシンが拳王軍と相対した顛末は、当然五車から聞いている筈で、私は守らねばならない人に随分と心配をかけてしまったのだと、改めて感じた。
それは申し訳ないと思うと同時に、嬉しいと言う気持ちも呼び起こした。
やはりユリアちゃんは変わらないなあと。
自惚れて良ければ、私はユリアちゃんの中でまだ、ケンシロウくんと同じくらい特別なんだと思ってていいんじゃないかなと。
ちなみに私の隣にいる(筈の)シンに対しての扱いはガッツリ空気である。
核戦争前の学舎で色々と意地悪をされた恨みは消えていないらしい。
「ユリアちゃんが五車を派遣して拳王軍の動きを警告してくれたから、こちらの被害が最小限で済んだのですよ。
本当にありがとうございました。
おかげで生きた街の姿を保ったまま、こうしてあなた達をお迎えできます。ね、シン?」
「そうだな。少なくとも一般市民の被害がゼロで済んだのは、事前情報のお陰で避難誘導の時間が取れたことが大きい。
…そんな目をするな。
本当に感謝しているのだから」
さりげなく空気を変えようとしてシンに話を振った私の作戦は、どうやら失敗に終わったようだ。
シンが口を開いた瞬間、ユリアちゃんがなんなら養豚場のブタを見るような目でシンを見たのを、私は見てない。絶対に見てない。
それはさておきあの日、拳王軍の来襲を聞かされた私たち『KING』は、かねてより用意していた避難所(元々この地区にあった核シェルターを改装したもの)に彼らを隔離してから、この日の為に訓練してきた『一見』迎撃の体制を整えることができた為、若干建物等に被害が出た以外、一般市民の死傷者は皆無という結果を出すことができた。
とりあえず一旦戦闘となって敢えて拳王軍に負けた上で、ここにはあなたの求めるものはないとわからせて軍を退かせる作戦だったから、本気で事を構えるわけにはいかなかったのだ。
だからといって全くの無抵抗で迎え入れてもそれはそれでラオウの怒りスイッチを連打することになるので、そこのさじ加減が難しかったけど、一見血の気の多そうなうちの四天王が、意外にも私たちの意を汲んでくれて、うまい具合に流れに導いてくれたので助かった。
もっとも約1名、
なので、一応は街を守って死んだ英雄として扱い、近いうちに中央広場に銅像を建てる予定ではある。
え?誰か今やめろって言った?空耳かな?
『英雄』の存在は、隠したい裏事情を誤魔化す為にも必要なんだよ?
……話が逸れた。
とりあえずシンには五車の旅団の皆さんを、落ち着ける場所に案内する側に回ってもらう事にし、私はユリアちゃんをこれから過ごしてもらうお部屋に案内しながら話を続ける事にした。
一応ここからはトップ会談となるのでちょうどいいだろう。
この先、『KING』は南斗の将に恭順する形をとるので、南斗の将であるユリアちゃんが、このサザンクロス(街の名前も後日改めるつもりだ)の主となる。
「ところでケンシロウくんは?
一緒には来ていないのですか?」
「伝令は出してあるので、いつになるかは未定ですが、この街で落ち合う予定になっています」
しばらく会えていないので楽しみなのです、と少しだけ寂しそうに笑ったユリアちゃんにどういうことかと問うと、思ってもみなかった話を聞くこととなった。
☆☆☆
あの日。
シンがジャギの策略に踊らされずに私との未来を選び、ユリアちゃんとケンシロウくんが、無事に旅立った日の翌朝。
ケンシロウくんは不思議な夢を見たそうだ。
それは触れるほど確かな、そして壮大な夢で。
ケンシロウくんはその中で、もうひとつの人生を追体験したのだと。
シンにユリアちゃんを奪われて傷を負い、彼らを追って旅に出たこと。
その旅路で出会った、小さくとも大切な存在に、僅かに、けど確かに心癒され。
やっと見つけたかつての友との戦いと、告げられた最愛のひとの死。
そこからの旅路と戦い、友情、そして再び巡り合った愛と、今度こそ本当の別れ。
そこから新たに始まる戦い、その中で紡がれる友情、絆、そして宿命。
それはまさしく私の知る、彼が本来進むべき未来の物語だった。
その激しく哀しい人生を巡って目覚めた朝。
ケンシロウくんの胸には、夢でシンにつけられたのと同じ、北斗七星の七つの傷が浮かび上がっていたのだという。
まるで聖痕のように。
否、それはまさしく聖痕であったのだろう。
ユリアちゃんの治癒能力をもってしても、その傷を消すことはできなかったのだから。
そんな驚きもありつつ、道中まるで何かに守られているかの如く何事もなく、ふたりが目的地であったユリアちゃんの故郷に着くと、待っていた五車の男たち(といっても、当然のようにジュウザ様は居なかったらしいが)によりその身を保護されると共に、ケンシロウくんには夢で巡った場を現実でも巡り、苦しむ弱き人びとを救う旅をすべきと、『海』のリハク様に送り出された。
こうして彼は一度ユリアちゃんとは離れ、原作通りこの世の救世主として立ち、様々な出会いと別れを経験することとなる。
・・・
「救世主などと呼ばれても救えぬ者の方が多い、哀しみも多い旅だったが、それでも立ち止まる事は思いもよらなかった。
別れの時のあなたの言葉がおれを…俺たちを支えてくれた。
立ち止まれば、それは死に繋がる。
おれは決して死ぬわけにはいかぬ。
おれの為す全てのことが、未来のユリアの幸せをつくるのだと。
おれが生きて在ることが、今のユリアの幸せであるのだと。
そう信じて前を向けるほど強く、あの言葉が今も、おれとユリアを支えてくれているのだ」
後日、サザンクロスに拠点を置いたユリアちゃんのもとにようやく戻ってきたケンシロウくんは、涙ながらに胸に飛び込んできたユリアちゃんを腕に抱き、微笑みながら私にそう言った。
そんなケンシロウくんの姿は、かつてのどこか頼りなげな友人の面影はなく、この世の哀しみと涙を一身に背負った、まさに聖人のように、私の目に映った………が。
別れの時の……って私、なに言ったっけ?
少なくとも、彼らの人生の指標になるほどたいそうな事言った覚え、マジでないんだけど?
あと、私にそれらのことを語ったあと、『夫婦揃ってひとの女を口説くな』とシンに冗談混じりに小突かれたケンシロウくんが、ちょっと複雑な表情をしていたのは見なかったことにしておく。
その上で私もあくまで心の中だけでつっこんだけど。『オマエが言うな』と。