転生美女世紀末伝説   作:大岡 ひじき

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こんな幸せがあるなんて、誰も教えてくれなかった。


後編

 …抱き上げた身体は、思ったより骨格も肉付きもしっかりしていた。

 彼女の母親という人が小柄で華奢な少女だったせいか、耳にした声がかつて知っていたその人の声とよく似た声質だったことで、無意識に同じイメージを抱いていたから、少しだけ驚いた。

 それでもわたしの腕に重すぎるということもなく、エルマどのに言われるままその誘導に従い、彼女の寝室らしい部屋へと運ぶ。

 寝台の上にその身体を横えてすぐに、着替えさせるからとその部屋を追い出され、わたしは閉じられた扉の前で待つことにした。

 そうだな、見えていないとはいえ、男の前で若い娘の肌を晒すなど出来るはずもない。

 それにしても、いきなり倒れるとはどうしたことだろう。

 どこか身体が悪いのではないだろうか。

 だが、しばらく待って出てきたエルマどのにそういった内容のことを訊ねると、彼女はそれを否定した。

 

「私もお医者様じゃないから確かな事は言えないけど、この子は健康優良児だよ。

 けどここのところ色々あったから、いい加減疲れてたんだろうねえ。

 精神的にも、身体もさ。

 しっかりしているようだけど、この子だって本来はまだまだ、親の庇護の下にあってもいい年頃なんだ。

 時には甘えたい事だってあるだろうにねえ。

 …じゃあ、あとは頼んだよシュウ君。

 日中は作業場に居るから、なんかあったら呼んでちょうだい」

 …そうか。

 生まれ故に幼い頃は持て余されていたようだし、最近婚約破棄をされたと言っていたし、どうやら今はこの村の女性のリーダー格という事のようだし、更にこれから女の細い肩に村ひとつ背負って立つというのだ。

 気苦労もさぞ多かろう。

 傷が癒え、北斗が持ち込んだあの件のほとぼりが冷めるまでの間、滞在させてもらおうと思っていたかつて暮らしていた村。

 いつまで居ることになるかはわからないが、ここでこの少女と関わりあったのも何かの縁なのだろう。

 常に誰かに頼られながら、自身は頼るものを持たぬこの少女の、せめて心の支えになろうと、わたしは密かに決意した。

 

 かつて、救えなかった女性(ひと)の忘れ形見である彼女の。

 

 ☆☆☆

 

 目が覚めたあたしは、とりあえず地下室を改装することにした。

 今は倉庫として使っているが、かつては気の触れたあたしの母を祖父が閉じ込めていた部屋だ。

 これだけ聞くとうちの祖父が相当人でなしのようだが、母が生まれたばかりの赤ん坊のあたしを抱いて離さず、それでいて授乳もオムツ替えもせずにいて、このままでは赤ん坊が死んでしまうと判断して無理矢理引き離したところ、次には泣いているあたしを見つけては連れ出して何度も殺しかけたので、やむなく閉じ込めることにしたのだとか。

 死んだ時には、河の水音や崖に吹く風の音を、赤ちゃんの声と思い込んで行ったのではないかと言われていた。

 母が生きている間、祖父はあたしをここに近づけないようにしていたので、あたしは母の顔をほとんど覚えていない。

 遺体が発見された時の状態が酷かったとのことで、死に顔すら見せられず荼毘に付された。

 それはそれとしてあたしはここを、災害時の避難場所にしようと考えていた…平たく言えば、核シェルターを作ろうと。

 都会から離れた山のふもとにあるこの村は、出来た当初は電気の供給が安定しなかった為、頼りにならない電気冷蔵庫よりも、冬場に山から切り出した氷を貯蔵しておける地下室をもつ家が多かった。

 今はどの家も倉庫として使っているだろうが、そういった家の地下室を全部、核シェルターにしてしまおうという計画だ。

 モブであるあたしに、核戦争を止める事はできない。

 物語の通りに事が運ぶならば、この地上は間違いなく一度、核の影響下に晒される。

 生き残った人類は秩序も法もない、暴力が支配する世界の中で生きる事となる。

 救世主が現れるのは未来であり、今を生きるあたしたちにはその恩恵はもたらされない。

 あたしたちは、あたしたちで生き抜くしかないのだ。

 幸い、新村長としての最初の仕事として、そういった災害時の備えを提案したところ、村人からはあっさり受け入れられ、村の収益からその費用を賄うこととなった。

 相変わらず男性たちは、小娘になにができるかと最初は馬鹿にした様子だったが、しばらく経つとその風当たりは徐々に緩まっていった。

 あたしの家に滞在するシュウ様が、男性たちとの折衝を引き受けてくれた事が大きかったのだ。

 

「彼女を小娘と侮りたい気持ちもわからなくはないが、それではここにいる大人の男の中に1人でも、ミサキの半分もの功績を挙げられる者がいるかね?

 若さというのは可能性だ。

 それに対して我々年長者がすべき事は、駆け続けて道を踏み外す前にその道を整備する事であって、道を閉ざす事ではない。

 むしろあなた方の奥さんが、何故あなた方よりもミサキを支持するのか、一度考えてみた方がいい。

 理解したものを受け入れられれば、あなた方の奥さんは、再びあなた方を、尽くすに相応しい価値のある存在と、認めてくれるかもしれない」

 そう先制パンチを食らわした後で、一人一人と男同士で話をして、彼らの中のコンプレックスを本人達に理解させて、その心を解きほぐしていった。

 結局人間てのは単純なもので、好きになってもらえば、大抵のことは許してくれるものなのだ。

 シュウ様がその人徳を発揮して村のみんな一通りの心を掌握したほぼ1年あまりで、村長としてのあたしの足場もしっかりと固まっていて、化粧品作りもますます村の発展に貢献する中、一時は深まっていた男性と女性の間の溝が、いつのまにかなくなっていた。

 

「一番側にいる人と、言いたいこと言い合いながら手が繋げる幸せなんて、私らの世代には、考えてみりゃ誰も教えてくれなかったんだよねえ。

 親たちは、女は男に従って生きるのが当たり前だとしか教えてくれなかったし、誰もがそれを疑問に思わずに生きてきた。

 あんた達が仲良く幸せそうにしてるの見て、そういえば自分にもそうなれる筈の相手がいたと、改めて思った奴らが、私ら夫婦以外にもたくさんいるのさ。

 このままあと10年の後には、今の倍には子供の数も増えてるだろねえ。

 ……まずはあんた達が先だろうけど」

 などとエルマさんが言う通り、夫婦仲が改善された家庭がかなりあったらしい。

 あんた達という意味は、なにげに気付いてはいるが、あまり考えないことにした。

 

 ところで一緒に生活してみると、ある程度の介助は必要だと思っていたシュウ様は、本当は見えてるんじゃないのってくらい、自分の身のまわりの事やそれ以上、最初に自分で言っていた以上に何でもできるひとだった。

 一通りの仕事が長引いて帰宅が遅くなった時、あたしの好きなものばかりのおいしいごはんを用意して待ってくれていた時は、思わずテーブルの前に立ち尽くしたものだ。

 他にも、化粧品の材料となる植物の畑の維持管理を引き受けてくれたり、それまでは手が回らないからと諦めていた家畜を入れてその世話もしてくれたりと、気がつけばあたしの生活に、なくてはならない存在になっていた。

 シュウ様はもはや物語の登場人物ではなく、あたしの大切な家族だった。

 

 …あたしの母がシュウ様の初恋の人だと聞かされた時には、なにか言いようのない感情で胸が騒ついたのを確かに感じた。

 勿論最初は本人の口から聞いたわけではなく、当時を知る大人が口を滑らせた事で知った(その人は直後にエルマさんから脳天にチョップを食らっていた)のだが、どうしても気になって本人に聞いてみたら、意外にあっさり白状した。

 

「修業をしている間に、伝える機会を失い、気付けば彼女は他の男と恋をしていた。

 時間というのは時として残酷なものだ。

 いつか必ずと思ったものを、手にできると思った頃にはもう、届かなくなっていたりもする。

 わたしが村から離れている間に、君のお母さんが攫われて、その恋人が殺された時、わたしはその残酷さを身にしみて感じたよ」

 …けど、母がシュウ様を選んでいたら、あたしは生まれてこれなかった。

 あたしは、祖父にそっくりと言われたことはあるが、母に似ているとは一度も言われた事がないので、きっと似ていないのだと思う。

 そもそも母は小柄で華奢な人だったと聞いているが、あたしは女にしては骨太で背も高い方だ。

 少しでも似たところがあれば、こんなモヤモヤした気持ちにならずに済むのだろうか。

 

 わからないけど、胸が、痛い。

 

 ☆☆☆

 

 その日、シュウ様は隣村へ商品を届けに出かけていて、あたしは珍しく大した仕事もなく作業場の掃除をしていた時に、もと婚約者のタイキが訪ねてきた。

 彼の父親は今や軽蔑していたが、兄妹とも思っていた彼のことは別に嫌いではなかったから、特に考えることなく家に上げたが、確かに今考えると軽率だったとは思う。

 

「フウカが子供ふたりとも置いて出ていった」

 フウカというのは、あたしの代わりに彼と結婚した女性の名だ。

 確かに今日はこちらにも来ていなかったが、出ていったって何?

 

「次期村長じゃない俺には用がないんだとさ。

 結婚すれば楽できると思ったのに、当てが外れたとか言いやがった。

 子供を抱えて一生懸命生きてる、健気な女だと思ってたのに、本当、騙された」

 とかなんとかグチグチ言ってるけど。

 

「…一番可哀想なのは子供じゃない。

 アンタももう父親なんだから、一人でもしっかり育てないと」

「上は俺の子じゃねえよ!

 …今となっちゃ下だって、本当に俺の子かどうかなんてわかったもんじゃない」

「絶対そうじゃないって言い切れない事はしたわけでしょ?

 子供に罪はないってのが、この村の方針だよ。

 あたしだってそう育てられたし、そこはアンタ達父子に感謝してるよ」

 正確には祖父の考えだ。

 祖父がそう思っていてくれなければ、あたしはここまで大きくなれなかったし、仮に生きてこられても、年頃になったあたりで村の男たちの共有物になっていたろう。

 祖父が自身が亡き後のあたしの事を考えてくれたからこそ、あたしは今ここにこうしている。

 だから、自分が長として立った以上、そこは貫いていくつもりだ。

 このタイキだって思春期の頃は、妹同然のあたしに小さな悪戯程度の事はしてくれたものだが、彼の存在があたしを守ってくれたから、もと村長に手を出されることもなかったし。

 あたしが言うのを聞き、タイキはひとつため息をつくと、あたしの目を見つめて言った。

 

「なあ、ミサキ。

 もう一度、俺とやり直さないか?」

 …なんだろう。今、宇宙語が聞こえた気がする。

 

「はあ?」

「村長の仕事は続けてくれて構わない。

 この家は、あのオッサンに譲ればいいだろ。

 俺と結婚して、2人で子供育てよう。

 大丈夫、おまえは立派な母親になれるさ」

 宇宙語はまだ続いている。

 翻訳して、どう好意的に解釈しようとしても、その方が都合がいいからお前に押し付けたいとしか聞こえない。

 メダマドコーみたい感じになったあたしが、思わず口にした言葉がこれだった。

 

「……アタマ、大丈夫?」

 そんな風に言われると思ってなかったというように、タイキが眉を顰める。

 

「なんでそうなるかな。俺は本気だけど?」

「うん、本気で言ったのが判ったから大丈夫か聞いた。

 そう言われてあたしが戻ると、本気で思ってる?

 だとすると、随分馬鹿にされてると思うんだけど?」

 妹のような存在のあたしに対して甘えが多少あるにしても、これはひどい。

 多分同じ状況に立たされた女のうち、10人中10人はそう思ってくれる筈。

 なのにタイキは、心底信じられないという顔であたしを見つめた。

 

「…俺のこと、もう好きじゃないのか?」

 ああ、つまりそういうことか。

 確かに、その人の事が好きであれば大抵のことは許してもらえる。

 けど、信用を裏切るという行為は、その『大抵のこと』の範囲を大きく逸脱するものだ。

 それに。

 

「正直な話、タイキを好きだったことなんて無いよ。

 一緒に育って、兄さんみたいには思ってたけどね」

 そもそも、前提が間違っているのだ。

 あたしは、恋を知る前にタイキと婚約させられた。

 だから、漫然とこの人と結婚するのだと思っていただけで、本人を好きだと思ったことはない。

 

「タイキだって、あたしを好きになれなかったから、フウカさんに惹かれたんでしょう?

 お互いに、今更だと思わない?」

 少なくとも今のタイキはあたしと違い、人を好きになることを知っている。

 ならば、好きでもない人と結婚して、妥協の人生を送るような真似はさせたくない。

 その程度の情ならあたしにだってあるのだ。

 

「…そんなに俺より、あのオッサンがいいのかよ」

 …けどタイキは、あたしを恨めしげに睨むと、押し殺したような低い声でそう言った。

 

「……へ?」

「一緒に暮らしてた頃には、しなかった顔を最近するよな。

 初めて見た時、ハッとした。

 あんないい顔で笑う女だったのかって。

 そして、そのいい笑顔の一番近くにいるのは、いつもあいつだ。

 おまえが俺の前であの顔で笑っていてくれたなら、俺はあんな女に惑わされたりしなかった!

 なんでアイツなんだ?

 なんで俺じゃないんだよ!!」

 タイキはそう言うと、あたしの上腕を掴んだ。

 爪が肉に食い込んで痛い。

 

「ちょ……やめてよ、タイキ!離して!!」

「…おまえは俺のものだった筈だ。

 今なら、まだ取り返せるよな…!?」

 …そう言って胸に引き寄せられた瞬間、

 

「うっ……!!」

「えっ、ええっ!!!?……ぎゃああぁぁあっ!!!!」

 なにかものすごい吐き気を覚えて、次の瞬間あたしは嘔吐した。

 

 ……………この場面、キラキラエフェクトのモザイク処理でお送りしております。

 胸元をあたしの吐瀉ぶ…キラキラエフェクトまみれにされたタイキが、呆然とその場に座り込む。

 ああうんそうなるよねー。

 襲おうとした相手がいきなり嘔吐したら、余程の特殊性癖の持ち主でもない限り、それ以上なにかしようとか思わないよねー。

 うええ、気持ち悪い。

 

「……なにをしているんだ」

 と、どこか呆れたような声が聞こえた方に目を向けると、シュウ様が居間の入口に立っていた。

 

 ・・・

 

「まずは、浴室で洗ってくるといい。

 わたしの服を貸すから、今日はそれを着て家に帰りたまえ。

 君の服はこちらで洗濯して、後日わたしが家まで届けよう。

 …ミサキ、大丈夫か?」

 多分何となく状況を察したであろうシュウ様は、さりげなくあたしとタイキを引き離すと、そう言ってあたしの肩を抱く。

 その手の温かさに、あたしは安堵した。

 ここにいればもう大丈夫。

 

「ここはわたしが片付けるから、君も着替えてきなさい。

 身体を冷やしては差し障りがある。

 無理をしてはいけないよ、大切な身体なのだからね」

「え?」

 いつもより近い距離から、シュウ様が優しげに囁く声に、思わずあたしはどきりとした。

 だが、その言い回しはまるで…。

 

「後で、さっぱりとした飲み物でもつくってあげよう。

 酸味の効いた果汁を使った果実水がいいかな」

 そうシュウ様が囁くのを聞いたタイキが、その場に立ち尽くして震えているのがわかる。

 

「……ま、まさか」

 タイキのようやく絞り出したような声に、シュウ様は今気づきましたというように、振り返りながら答えた。

 

「…ん?君は、まだそこにいたのか?」

「し、失礼しました〜〜!」

 キラキラエフェクトをつけたまま、タイキがその場から走り去る。

 見えていない筈のその情けない姿に、シュウ様の口角がちょっと悪そうに上がったのがわかった。

 

「……シュウ様。

 あのひと、メッチャ誤解したと思うんですけど」

「やれやれ。

 別にわたしは、ひとつも嘘は言っていないのだがね」

「嘘は言ってなくとも誘導はしましたよね?」

「…それより、彼が浴室を使わないならば、君が使ってくるといい。

 その間に、ここはわたしが片付けておくから」

 キラキラエフェクトは大体タイキが引き受けてくれて、うちの床はほとんど汚れてはいなかった。

 だから甘えることにして、頷いてシュウ様から身体を離した瞬間…何故か膝から力が抜けて、あたしはその場にへたり込んだ。

 

「ミサキ!?」

「……安心したら、なんか、腰が抜けました」

 …実に不本意ながら、あたしは入浴と着替えを、シュウ様に手伝わせることとなった。

 シュウ様はエルマさんか他の誰か女性を呼んでこようと言ったのだが、どうしてこの状況に陥ったかを外のひとに知られたくなかった。

 

「タイキの事は…好きでもなんでもなかったけど、あの人の妻になると思っていたから、いずれそうなるものだと思ってたんです。

 …けど、実際に手を触れられたら、気持ち悪いと思ってしまった。

 この手じゃないと、思ってしまったんです」

 直接肌に触れないよう注意して、優しくタオルで身体を洗ってくれるシュウ様に、ぽつぽつとそう溢す。

 

「…あたしに初めて触れるひとは、シュウ様じゃなきゃ嫌だと…思ってしまったんです」

 そして気がつけばとても自然に、その言葉が口から出ていた。

 

「…ミサキ。

 わたしは、君にそんな風に思ってもらえるような男ではない」

 シュウ様の手が止まり、苦しげな声が、背中越しに耳に届く。

 

「…わたしはね、ミサキ。

 本当はとても、心の狭い男なんだ。

 独占欲が強く、束縛が激しい。

 あの男が君に触れたと判った時には、彼を殺してやりたいとすら思った。

 この手が君に触れてしまえば…わたしは、君を離せなくなる」

 呟く言葉に熱を感じて、胸の奥が歓喜に満ち溢れた。

 同時に、胸のモヤモヤが晴れた気がした。

 あたしは、この人に求められたいと思っていた。

 この人を愛してしまっていた。

 

「…それ、なんて天国ですか」

 そう呟いた瞬間、背中から回された腕に、強く抱きしめられた。

 頬を引き寄せられ、唇に待ち望んでいたそれが降ってきて…その後の記憶は割と朧げだ。

 

 シュウ様が誘導したタイキの誤解が本当になったのは、それから間もなくの話だった。

 

 ☆☆☆

 

 …丈夫だった彼女は、子を産んでからはよく寝込むようになり、シバと名付けた息子が歩き始めた頃に、あの核戦争が勃発した。

 そして迎えた運命の日。

 彼女の提案で設置したシェルターで、村人の殆どがあの瞬間を生き残ったが、作物は育たなくなり、豊かな時代が終わりを告げた。

 地上は暴力が支配する世界となり、拳王の進軍が始まった頃、彼女は、時折咳き込んで血を吐くようになった。

 共に過ごせる時間が、徐々に終わりに近づいている事は、もはや明らかだった。

 

「いつか、あなた達を残して逝く事になるとわかっていたから、それはもういいの。

 あなたと出会って、恋をして結ばれて、可愛い子供にも恵まれた。

 これ以上ないくらいに、あたしは幸せだったわ。

 もっと、もっとと望んでしまうくらい…終わるのが悲しいと思うくらい、幸せだった…」

 意識のある彼女と最後に過ごした夜、抱きしめた腕の中で囁く言葉に、盲いてもなお枯れぬ涙が、その細い肩に落ちるのをわたしは止められなかった。

 

「ただ、ひとつだけ。

 どうしても、言っておきたいことがあるの。

 どうしてもあたしの中で、納得のいかないことが。

 お願い。シバが、自分の意志で戦えるようになったら、必ず伝えてちょうだい。

 …ダイナマイトは、火をつけたら、投げて使うものだと」

 ……最後の言葉は、意識が混濁していたのだと信じたい。

 そう言い残した後、眠るように意識を失って3日後。

 わたしの愛した彼女は、永遠の安息の世界へと旅立った。

 幸せそうに、微笑みながら。




レイの殉愛やラオウの情熱にもドキドキしますが、結婚したら幸せになれそうなのはシュウだとずっと思ってたのです。
そして間違いなくシリアスなのに、なんでオチつけたアタシ(爆
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