転生美女世紀末伝説   作:大岡 ひじき

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短編にするの、諦めました(爆


3

「さすが拳王軍。いい女を揃えてやがったな」

「ああ。もっと連れてきたかったが、さすがにこれくらいが限界か。

 奴らここ近年で、無駄に規模だけは大きくなってきてるからな。

 根こそぎ奪ったらさすがに睨まれる」

「なあに、他から拐ってきた分も併せて、これだけ居りゃあ充分だろ。

 GORANの連中なら、纏めていい値で買ってくれるだろうぜ。

 特に拳王の城から奪ってきた女たちなら、一人でも最低、食料2ヵ月分にはなるさ」

 どうやら一時休憩となるらしく車の揺れが止まって、外から聞こえるならず者達の会話に耳をすませますと、何やら不穏なやりとりが聞こえてまいりました。

 ゴランというと、原作序盤の時点で主人公のケンシロウに倒された、もと軍隊のカルト暴力集団ではなかったでしょうか。

 彼らが壊滅していないということは、今は時系列的には序盤か、或いは原作開始前の可能性もあります。

 そして、どうやらわたくし達はそこに売られる運命のようです。

 救けは期待できそうにないでしょう。

 残っていた兵士の皆さんが必死に戦ってくださったお陰で砦の被害は最小限。

 彼らの言う通り、女数人奪われた程度、拳王様にとっては痛くも痒くもないでしょうから。はは。

 

 ……とにもかくにも、美女だろうが子供だろうがならず者だろうが、生きている以上睡眠と飲食、更には排泄の必要が生じます。

 ここで休憩を決めたならず者達は、わたくし達にも僅かな食料と水を与えました。

 そして屈辱のトイレタイム(と言ってもそれに相当する施設があるわけではないので、ぶっちゃけ野に放つしかないのですが)はと申しますと、2人ひと組順番で檻から出されて、片手同士を結びあわされ、監視の目から互いの身体を隠して、なんとかそれを行なっているわけです。

 

「……絶対に見ないから、早く済ませてくれ」

 …わたくしと手首を繋がれた、年の頃13、4歳ほどの()()は、そう言って精一杯、首をあさっての方に向けています。

 彼は一人で旅をしていて、たまたまたどり着いた街で、若い女と間違われて拐われたそうです。

 子供らしいふっくらとした頬をした可愛らしい顔な上に、癖の強い長めの黒髪はつややかで、まだ出来上がらない細身の身体つきの彼は、確かに黙っていれば女性に見えないこともありません。

 男たちもよく見もせずに、他の女の子たちと一緒に捕まえて、まとめて檻に放り込んだのでしょうね。

 それに、先に捕まっていた女性の一人が気がついて、男の子だとバレるとその場で殺されるからと、咄嗟に自分が身につけていたショールを被せてくれたのだそうです。

 その方はうちの居城を襲撃する前に立ち寄った町で、物持ちの男に是非にと請われて買われたそうで、わたくしどもが捕まった時には既に、この車には乗っていなかったそうですが。

 

「いえ、あなたはここでお逃げなさい。

 わたくしが、必ず見張りを食い止めますわ」

 言って、見張りの目からは少年の身体で隠される角度で、手首を繋がれている紐を(ほど)こうと試みます。

 

「なに!?」

「…大きな声を出さないで。

 このまま目的地に着いてしまったらもう、あなたが男性である事を隠し通す事は不可能でしょう。

 そのショールの方が仰っていた通り、露見すれば殺されるだけです」

 ひょっとしたらそういう嗜好の男に宛てがわれれば、命を奪われる事なく済むかも知れませんが、どちらにしろろくな事にはなりません。

 まあそれは言わなくてもいい事でしょう。

 わたくし1人のしかも片手ではなかなか結び目が(ほど)けず、彼にも紐の端を摘んでもらいながら話を続けると、少年は困ったように首を横に振りました。

 

「で、でもそんな事をしたら…あんたが」

「あの男たちは、わたくし達を商品として見ています。

 あなた1人を逃がす手伝いをしたところで、女であるわたくしはきっと殺されはしません」

 多分、見せしめとして相当酷い目にはあわされるでしょうが…それも口には出さないことにいたします。

 

「…まあ心配であれば落ち延びた先で、わたくしの無事を神にでも祈っていてくださいませ」

 そんな本心を隠して、少し冗談めかして笑ってみせましたが、わたくしのその言葉に、少年は唐突に怒りの感情に顔を歪めました。

 

「神など……祈りなどなんの救いにもならぬ!

 ましてオレは神に復讐する為に生きているのだ」

 …すごく厨二臭い台詞はさておき、密談の最中に声を荒げるのやめてもらっていいでしょうか。

 とりあえず、これがわたくしでなければ少年のこの豹変に、ビクッとくらいはしたかもしれませんが、わたくしは半日前まで、もっと恐ろしい人を間近でお世話していたのです。

 子供の癇癪程度にビビる細かい神経は持ち合わせておりません。

 

「…まあ、奇遇ですこと。

 わたくしの主人(あるじ)も似たような事を仰いましてよ」

「えっ?」

「自分は神に戦いを挑む身ゆえ、祈りは神には届かないのですって。

 戦いに向かう前に武運を祈る言葉を口にしたら、神ではなくおれに祈れと笑っていらっしゃいましたわ」

 最後に別れた時に見た、こちらを馬鹿にしたような凄味のある笑みが思い出され、胸がつくんと痛みました。

 …この後わたくしは他の女性達への見せしめの為、恐らくはGORANに売られる前に、あの男たちの慰みものにされるのでしょう。

 エロ同人みたいに。工口同人みたいに。

 今ならば、拳王様に迫っていた女官さん達の気持ちが判る気がします。

 彼女らも、どうせ愛もなく奪われるのであれば、己が知りうる最も強い男に…と願った筈です。

 極限状態における、それは女という生き物の本能ですもの。

 女が自由に生きられないこの世界、今となっては叶わぬ望みですが、せめて最初だけはこれと決めた男に抱かれておきたかったものですわ。

 そう。もしも、わたくしが選べるのならば……。

 覚えず艶めいた溜め息が、状況を無視して出かかった時、

 

「……なんか、凄い人だな。あんたの旦那さん」

「はい?」

 と、なんか変な事を言い出した少年の大きな目が、わたくしをまじまじと見つめている事に気がつきました。

 わたくしは今、拳王様の話をしていたつもりでしたが、旦那さんって誰のことでしょう。

 ですがそうこうしているうちになんとか結び目が緩み、わたくしと彼の両手が離れます。

 

「さあ、お行きなさい!」

「……必ず助けに戻る」

「不要です。

 それよりも、神に挑むならばまずは生きる事ですわ。

 強くおなりなさい、若き(そら)への叛逆者」

 あのひとのように……と、心で呟いた言葉は無視しましょう。

 

「おお〜い、随分時間がかかってるなぁ?

 出ねえんなら手伝ってやろうかぁ〜?」

 そこに下卑た声を上げながら、見張りの男が近寄ってきたところで、少年の背中を押したと同時に、

 

「きゃああああ────ッ!!!」

 わたくしは悲鳴を上げながら、その男の腕の中に倒れ込みました。

 男は腕の中のわたくしと、駆け出す少年の背中を交互に見て、一瞬固まったようです。

 この機を逃す手はありませんわ。

 

「なっ!?お、おい、待てっ!!」

「いやあ〜!離して、離してくださいませっ!!

 誰かあ!誰か助けてえ〜〜っ!!!!」

 殊更に大声で叫びつつ、男の腕をしっかりと捕まえて、巻きつけるように己が身体に回します。

 この状態で悲鳴を上げながら身動(みじろ)げば、傍目からは男がわたくしを、無理矢理抱き込んでいるように見える筈です。

 

「何してる!

 てめえ、売りモンに手ェ出しやがったのか!?」

 そして案の定、わたくしの悲鳴を聞いて駆けつけてきた男の仲間は、彼に疑いの目を向けました。

 

「え?えぇっ??

 い、いや違う!それよりひとり逃げ…」

「この人がっ、この人がわたくしをっ!!」

「やっぱり手ェ出そうとして紐(ほど)きやがったな!?」

「違──うっ!!てゆーか離せぇ!!」

 ……うん、なかなかにほどよいカオスになっております。

 ここで情報が錯綜しているうちは、彼に追手はかからないでしょう。

 わたくしの行動は後になって、彼らが冷静になった時に怪しいと気がつくでしょうが、それは今考えなくても良いことです。

 

 …ここまでは、わたくしが想定した通りでした。

 予想から外れてきていたのは、どのタイミングからだったのでしょう。

 

 大地が割れるような地響き。

 

 近づいてくる蹄の音。

 

 夜の闇を切り裂いて現れ、一瞬にして男十数人を踏み潰す黒い巨体。

 

 漆黒の悪魔の背にありて、其を駆るのは……!

 

 

 

「……我が砦の周辺で小煩く飛び回る蠅どもが。

 蠅なら蠅らしく、喰らい残しの屍肉にでもたかっておれば良いものを、この拳王を、随分と見縊ってくれたものよな」

 

 

 

 ……どうやらわたくしは、推しが恋しすぎて幻覚まで見えるようになったようです。

 我ながら妄想激しすぎますわね。

 その推しの幻は巨大な馬の背から微動だにせず、ギロリと生き残ったならず者たちを見据えます。

 

「はわわ……け、拳王!!?」

「バッ、バカな!」

 いい歳の男たちが、恐怖もあらわに身を震わせ…あら?おかしいですわね。

 何故この者たちにまで、わたくしが見ているのと同じ幻覚が見えているのでしょう?

 

「…おい!拳王は女に執着してないから、女数人盗まれたくらいでわざわざ動かねえって、てめえ言ってたじゃねえか!!」

 そしてひとりが幻の後ろに向かって声をかけ、そこに居た顔に傷のある禿頭(とくとう)の、額にビンディみたいな石の飾りを何故か3つもつけるという意味不明のオシャレをした巨漢が狼狽し始めました。

 

「なっ!ばっ、馬鹿!!」

「…フン。おれの不在時に砦を襲撃するなど、やけに間の良いことと思えば、手引きした者が居たとは。

 いずれはこの首をとも狙っていたのであろうが、まさに虫ケラ並の浅知恵よな」

「くっ……!」

「これほど大きな毒虫が入り込んでおった事、気づかずにいた事は業腹だが、その事は後で考えよう。

 よりにもよってこの拳王の女を奪ったがうぬらの運の尽きよ!

 今まさに天へと昇らんとする龍を蛟と見誤ったが愚、その血と命で贖うが良いわ!!」

 …なにを言っているのかさっぱりわかりませんが。

 とりあえずこの幻は、どうやら拳王軍内部にいた裏切り者と対峙しているようです。

 そして、離れたところでは既に解放された、わたくしと一緒に捕まっていた女官さん達が『キャー!拳王様ステキ──ッ!!』などと黄色い声を上げており、引率してるザク様そっくりの幻がちょっと困ってるぽいです。

 ええと、つまり、今わたくしが目にしている雄々しい姿は、わたくしにだけ見えている幻とかではなく…?

 

「くくっ……ぬぅおお────っ!!」

 と、どうやら開き直ったらしい裏切り者が、手にしていた鎌なのか槍なのか薙刀なのかよくわからない武器を振りかぶったかと思うと、拳王様と黒王に向かって突進してきました。

 どうやら体格だけでなく、そこそこ腕に覚えもある相手だったようです。が。

 

「うぬの軟弱な技でこの拳王が倒せると思ったか!!

 我が手を触れるまでもなく打ち砕いてくれるわ!!

 北斗剛掌波!!!!」

 ……次の瞬間、拳王様が軽く掌を突き出しただけで、15歳以下のお子様には見せられない光景が展開されました。

 

「…たぶりゃあっ!!」

 無造作に繰り出されたように見えるそれは圧倒的な『闘気』。

 それが奇妙な断末魔をあげる男の巨体を捉えたかと思えば、次には内側から砕けるように、バラバラの肉塊と化したのです。

 

 …不意に、何か温かいものがわたくしに、背中から抱きついてきました。

 仲良くしてくれていた女官さんでしょうか。

 それにしては感触が固い気がしますが。

 

「……す、凄え!!」

 ………ん?女性にしてはやや掠れた声と口調に違和感を覚え、肩越しに振り返った間近にあった顔は、先ほど別れたばかりの紅顔の美少年の、呆然とした顔でした。

 …って!

 この光景は15禁暴力描写だと(あくまで心の中で)言っているでしょう、子供は見てはいけません!

 というか逃げてなかったんですか!!?

 なんで戻ってきてるんですか!!

 

「……あんたの事がどうしても気になったんだ。

 けど、戻って良かった。

 ひょっとして、あの人が……!?」

 わたくしの視線の意味を察したのか、少年は最初は言い訳のように、それから徐々に熱い想いを乗せて言葉を発しました。これは。

 

「…はい。あの方こそこの乱世を統べるお方。

 わたくしの主人(あるじ)でもある拳王ことラオウ様ですわ!」

「まさしく…まさしくあれこそが、神を超えた男の姿だ……!!」

 相変わらず発言が厨二臭いですが、どうやら少年は拳王様のその強さに度肝を抜かれているようです。

 そうでしょうそうでしょう。

 あれこそまさに男が惚れる丈夫(ますらお)ぶり。

 子供には刺激の強いシーンだった筈ですが、心に傷を負っていないようで何よりですわ。

 と、少年がわたくしの身体から手を離したかと思うと、何故か真っ直ぐその足で、拳王様のもとに駆け寄りました。

 

「待ってください!

 その…オレは、あの女性(ひと)に助けられた者です!」

 そこを兵士たちに取り囲まれ、跪きながら少年は、わたくしを指差します。

 拳王様の視線が一瞬こちらを向き、それから再び、少年の方へと戻りました。

 

「お……お願いです!!オレにその拳を!!

 どうか、その拳を教えてください!!」

 叫ぶ彼を一瞥し、拳王様は手の動きだけで兵士たちを下がらせます。

 

「……何故!?」

「ハ…ハイ!

 妹を奪った、神に……仇を討ちたいのです!!」

 ……あら?

 どうやら彼の『神に復讐する』発言はただの厨二病ではなく、なんらかの事情がありそうですわね。

 その真剣な瞳に何か感じるものがあったのか、拳王様はひとつ息をついて頷きました。

 

「名を、なんと申す」

「オレはバランといいます!」

「…良かろう、バラン。共を許す。

 ただし我が拳は一子相伝。教える事はできぬ。盗め!!」

 拳王様はそう言うと黒王の頭をこちらに向けて、歩を進ませます。

 元気にお返事をした『バラン』を再び兵が取り囲みましたが、それは拳王軍として、若き兵を迎え入れる動きでした。

 

 …バランと名乗った少年は、この瞬間に拳王様に心酔したのでしょう。

 ということは、拳王様推しのわたくしとは同士なのですわ!

 これから先、拳王様への想いを熱く語れる相手ができると思うと、なんだかワクワクして参ります。

 そんな期待を胸に、生ぬるい視線を少年に向けておりましたら、わたくしの太ももの倍の太さもあろう黒王の前足が、わたくしのすぐ横で止まりました。

 次にはズンと音を立てて、その背にあった長い脚が地面へ降り立ちます。

 

「リア」

 頭上から名を呼ばれ、反射的に見上げると、兜の下の表情が、半日前に見たのと同じように、どこか楽しそうに微笑んでいるのがわかりました。

 

「面白いやつを捕まえてきたな。御苦労だった」

 …別に、わたくしがスカウトしたわけではございませんが。

 それでも直々にお言葉をかけられて、わたくしは黒王の足元で礼をとります。

 

「…勿体ないお言葉にございます」

 …その礼の形から再び顔を上げた瞬間、背中をまるで丸太に叩かれたかのような感覚を覚えた後、気付けば拳王様の腕に抱きかかえられておりました。

 

「げふぉっ!」

 …ああこの体勢!思い出しましたわ!!

 確か子供に折り鶴折ってあげてたユリアをいきなり腕に抱きしめて『ケンシロウを捨てろ』とか言った時のやつ!こんな感じだったんですのね!

 正直、一瞬息止まりましたし!

 これ抱擁じゃありません、鯖折りですわ鯖折り!!

 あれ下手したらユリアさん潰されててもおかしくありませんでしたわよ!

 愛を知らない男は、女を優しく抱きしめることも知らないようですわね!!

 

「……褒美にこの拳王の見ている世界を、ひと時共に見せてやろう。

 黒王の背から見る世界をな」

 そして動けずにいるわたくしを軽々と片手で抱えたまま、拳王様は再び黒王の背に戻ったのです。

 落ちないように拳王様の身体にしがみつく事しかできなかったわたくしに、景色を堪能する余裕などある筈もなく。

 …それでも、触れ合った場所から伝わってくる熱い体温と男の匂いが、この世で一番安全な場所がここである事を、否応なく伝えてくるのを感じておりました。




この物語の1話目の最初の部分にも書いた通り前世のリアさんは、Amaz○nで全巻揃えた漫画『北斗の拳』を、最後まで読む事は出来ずに亡くなっています。
辛うじて天帝編の最初までは読んでますが、強く記憶に残っているのはラオウ昇天までのようです。
なのでバランさん(光帝バラン。終盤、辺境編に登場する、サヴァ王国の隣国・ブランカに、『奇跡の技』を用いて君臨する独裁者)の事は知りませんでした。
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