売れない営業マンが幻想入り   作:池沼妖怪ブレインロスト

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おちつけ、これは、とうほうのにじそうさくだ!


神隠しとその応報

 心を磨くには何をすれば良いだろうか。

 そんなことを考えても仕方がないというのに、ボサボサ頭で中肉中背の男は、ただひたすらに考えていた。

 心が磨かれた結果の定義もままならず、普段の生活の中で、ただひたすらに呆然と考えていた。

 

 橋田金次郎の今日の仕事は果物屋の手伝いだった。駄賃のおまけでもらった梨が美味い。

「えっ。俺が寺子屋で授業っすか?」

「ああ、神隠しで生き残る人間はなかなか貴重でな。子供達に外の世界について少しばかり教えてやってほしい」

 彼は今、寺子屋の美人教師からお願いをされていた。

「頼む!私も興味があるのだ」

 手をパチンと合わせて頭を下げる慧音。橋田はそのままの視線から見える胸元に注目する。

「む。上白沢さん。胸おっきいんですね。眼福です」

「まったく。里の評判通りだな、君は」

 言われて気づいたのか、慧音は顔を持ち上げ直して胸をかばった。

「いやぁ、すみません。この癖を治したいのですがね。どうにも治らんのですわ。幻想郷風に言うならば、『思ったことを口にする程度の能力』ですかね?」

「それは君の性癖であって、能力ではない。で?受けてくれるのか?」

「いいもの拝ませてもらいましたしね。やらせていただきますよ。勿論、駄賃は別個で」

「わかった。ありがとう。為になる話を聞ければ多少は色を付けてやろう」

 慧音は呆れながら橋田に感謝をする。口ではセクハラをしつつも、本気では欲情した目で見ていないのが警戒心を緩めてくる。慧音が橋田に思う第一印象はそれだった。なかなか面白い男である。

「可愛い子を紹介してくれたり?」

「馬鹿を言うな。現実的なものだ」

「言ってみただけですよ」

 肩をすくめながら橋田は答えた。

「では、翌週頭にお願いする。もう少し時間が欲しいとお前か私達が思えば、また翌週にお願いする事になるが良いか?」

「構いませんよ?よろしくお願いますね?」

 

 

 大きな経済危機を何度も襲った激動の平成の世で、橋田金次郎は売れない営業マンをしていた。

 売れるはずのない高額な商品を、上司にどやされつつもひたすら売り歩いていたのである。

 客から断られ、上司にどやされ、同期や事務員達から白い目で見られるなか、これ以上馬鹿にされまいと橋田は表面上飄々としていた。

 名前というのもあって、よくハシタガネなどと言われていたが、橋田は気にせず働いていたのである。

 

 だが、仕事中に一人きりになると、ついぽろっと出てしまうのだ。

「何処か遠い場所に行きたいな。誰か連れてってくれねぇかな」

 それが橋田の本音だった。

 歩き疲れ、職場の人間の目が届かない神社の裏手でガムを噛みながら口に出していた。

 

「その願い、叶えてあげましょう」

 唐突に声が聞こえ、橋田は頭を一気に上げる。

「大正時代のお嬢様みたいですね、貴女」

 足の先程度しか出ないほどのロングスカートに、頭をぽっかり覆うふわふわ帽子。太極図のような陰陽か描かれた前掛けと、和洋中ごちゃ混ぜな格好は、一般的にはコスプレと言ってしまう洋服だったが、その少女が着ているそれは、さまになっていた。

「あら、似合ってないかしら?」

「いえ、似合っていますよ?お嬢様」

 橋田に褒められた少女は嬉しそうに一回転する。服を見せたいようだ。

「こういうのはお嫌い?」

「よく言われる言葉ですが、ぶっちゃけ胡散臭いですね。貴女もよく言われるでしょう?」

「そうね。1日に3回は言われるかもしれないわ」

「じゃあ多少は信用できるんでしょうね。私は1日30回は言われますし」

 橋田の答えを理解したのかしてないのか、少女は愉快そうに笑う顔を扇子で隠す。

「じゃあ、貴方、古臭いのは嫌いではないのね?」

「好物と言っても良いかもしれないですね。私は酒と本と弦楽器さえあればどこにだって行けますよう」

 橋田はペンペンと弦楽器を弾く真似を少女に見せる。

「流石に弦楽器は用意できないけれども、酒と本はあるところよ」

「売っているのであれば買いますよ」

「じゃあ連れてってあげるとしましょう。今の暮らしに心残りはなくて?」

 少女の言葉に橋田はしばし考える。

「なさそうですね。どこに行けばいいです?」

「落ちたらそのまま何も気にせずに真っ直ぐ歩いていけば良いわ。門をくぐればそれでオーケーよ。そこからは自由にしてもらっても結構。琵琶を買って弾いても良いし、三味線もあったかしらね?」

 少女は顎に指を乗せて考えた風で答える。とても優雅だ。

「落ちるだの何だのは分かりませんが、分かりました。まぁ、得意ではないんですがね。楽器は」

 と言ったところで橋田は落ちた。

 

 外の空気に晒されて硬くなった木の根っこに尻を打ち付けて痛がったところで気づく。

「落とすなら落とすと言ってくれよ」

 そうぼやきながら橋田は少女に言われた通りに歩いて行った。

 森の中だ。

 途中、女の子の声がしたり、人のようなものを見たりしたが、橋田は気にせず門とやらが見えるまで歩いて行ったのである。

 

 そういうわけで、橋田金次郎は神隠しにあい、幻想郷入りした。

 

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