売れない営業マンが幻想入り   作:池沼妖怪ブレインロスト

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本文に書くといろいろ面倒だったので、あとがきに移しました。
稲川淳二の話し方はすごく勉強になります。
話の元ネタはちゃんとありますが、話自体は私の創作です。


対象を取る恐怖

 粘っこい空気が肌を舐めるような夏だった。

 湖を凍らせる妖精を崇める者も少なくなってきた頃である。

 暑がりな橋田は今とても快適に仕事をしている。

 普段なら肌の穴という穴から無尽蔵に湧いて出てくる水滴をひたすらぬぐいながら仕事をしていたのだが、今回そうはなっていない。

 何故ならば橋田は今、ひんやり涼しい冥界にいるからである。

 

 

 本日の橋田の業務は、冥界にあると言われる白玉楼で雑務全般をこなしていた。

 死んだわけではないし、魂を囚われているわけでもない。血色豊かな生身の人間である。

 盂蘭盆シーズンだからというので、普段白玉楼で雑務をこなしている亡霊どもが家族の元へと帰ってしまう為、人手(霊手?)が足りないとの事だった。二週間だけの住み込みバイトなのだ。

 

 突然博麗神社に呼び出されたと思ったら、博麗の巫女と橋田を幻想入りさせた少女が現れるなり、

「冥界へ行ってもらうわ」

 と言われ、ストンと落とされた。そして落ちた先にいた刀を携えている少女から事の経緯を説明されたのだった。

 ちなみに橋田を落とした少女からは厚々の金一封を。博麗の巫女からは、取り殺されないようにとお札を頂戴した。

 

「そこまで心配してくれるならこっちのスケジュールの心配もしてほしかった」

 などとぶうたれながら橋田は食事を用意していた。

「それにしても作る量が多いな」

 軽く見ても10人分はあるが、これが当主一人分の、しかも一食分だというのだから笑ってしまう。

「泣きながら礼を言う亡霊なんてものは今後一生見られないだろうなぁ」

 調理を手伝うと言い出した途端に女中風の亡霊どもが泣き崩れてしまったのを思い出しながら、橋田は煮物をくつくつと煮込んでいた。

 相当な重労働だったのだろう。彼女達は嬉しさのあまり橋田が調理をする陰でそのまま成仏しそうな雰囲気である。手伝って良かったのか悪かったのか。

「しかしまぁ、夏の間はこうやって住み込みで働けるなら良いなぁ。暑くて寝られないなんてこともないし…毎年お願いしようか?」

 逆盂蘭盆である。

 

 

 亡霊どもはもちろんのこと、白玉楼の主人である西行寺幽々子や、お付きの剣士兼庭師だという魂魄妖夢とも良い関係を築けている。

 時には仕事をしながら雑談したり、お茶や菓子をいただきながら談笑したりもする。

 こんなんで金もらって良いのかと橋田が心配するくらい楽な仕事だ。

 

 そんな折である。

 稗田家主催の百物語イベントがあったらしいと橋田が聞いたのは、夕食が終わり、綺麗にさらえられた皿たちをヨイショと運んでいる時だった。

「はぁ、百物語。私が知らん間にそんな面白そうなイベントが」

「そうなのよぉ〜。この子ったら、自分がどういう存在なのかもすっかり忘れて怖がるんですもの、面白くて面白くて」

 西行寺幽々子は真っ赤になって固まっている魂魄妖夢の頬を突っついていた。

 真っ赤になって顔を隠し、反論しないあたり事実なのだろう。

 

 橋田は失笑しながらもちゃっちゃと片付けを進め、さあさあ話しましょうと3人分の茶を出した。ちゃっかり自分の分まで揃えている。

「そういえば、貴方、外の世界から来たのなら外の世界の怖い話はご存知なの?」

 幽々子の言葉にヒクッと反応する白髪の少女。どうやら本当に怖いものが苦手らしい。見ていて微笑ましくはある。半分幽霊だというので警戒を解くことはないが。

「む。怖い話…最近巷で話題の都市伝説とかですかね?」

「そうそう。いくつか教えてくれないかしら?」

「んー。私は語り部でも何でもないんで上手く伝えられるか不安ですが…仕事とあれば…」

「あ、あの!」

「なぁに、妖夢?」

 橋田が話をするかとした途端に妖夢が思い切り身を乗り出し、話をぶった切った。

 と同時に幽々子の柔らかい笑顔の中に潜む鋭い眼光が妖夢を襲った。さすが亡霊どもの主人だ。恐怖心を掌握するカリスマ性がある。

「えぅ…なるべく怖くないのでお願いします」

 上司の視線に当てられた妖夢は少しずつ小さくなって、ちょこんと元いた場所へ座り直した。

 

 

「都市伝説ですか…。そういえば、都市伝説の定義ってご存知ですか?」

 ふうむと腕を組んだ橋田から尋ねられた2人はフルフルと首を振った。

「じつはキチンと研究されている民俗学者がそこそこいましてね。都市伝説の定義とは『都市部の民族間で噂される、誰も体験したことの無い体験談』というものなのです。それは怪談だろうが何だろうが、全部含めた噂話で、情報の発信源を辿ろうと思っても辿り着けないのが都市伝説の特徴です。

 まぁ、近年では外の世界はインターネットなんてものもできましてね、日本全国の人間と気軽にやり取りできる時代だもんですから、都市からネット上に変わりましたけどね」

「すみません。そのインターネットとかネットとかいうものは何なのでしょうか?」

 妖夢が手を上げて橋田に質問する。怖い話というよりは寺子屋の勉強みたいなのでまだ元気だ。

 

「ああ、インターネットというのは、幻想郷風に言うと、いつでも誰でも何処でも見られる瓦版みたいなもんです。ネットってのはそれの略称。こないだの異変で命蓮寺の尼さんがつかってた八尺様なんかは、そのネット上で出回った噂話です。で、今回する話もネット上で私が拾った話なんですがね」

 橋田は居住まいを正してから、ずずずと茶を飲んだ。

 それを見た幽々子と妖夢も、話を聞く体制に入った。

 幽々子は肘掛けに体を預けリラックスした風に。

 妖夢はきっちりしていた正座をさらに正し、膝の上で手を固く丸めていた。

 

 

 …

 

 

「面白かったわ。こんな話し方もあるのね。話し慣れてない感じはあるけど、ちょっとだけ引き込まれたわ」

「ありがとうございます。外の世界で人気だった怪談専門の語り部が居まして、真似してみただけなんですが…いやぁ、楽しんでもらえて何よりです」

「ほら妖夢、妖夢、終わったわよ?」

「あ、あい。あの。はい」

 妖夢は固まってこそいなかったが、話の世界から頭をうまく切り替えられないようだった。膝を握っている手がプルプルとしている。

「足痺れてないかしら?えい」

「あぅぅぅぅぅ!」

 扇子でパシンとはたかれた妖夢が一気にこけた。

 

 

 もうしばらくで白玉楼でのバイトが終わる。

 橋田は快適な空間を惜しむように、大事に一日一日を働いて過ごしていった。

 




外の世界じゃ、テレビゲームぅ…なんてものが流行ってまして、テレビゲームってのは…なんて言うんですかねぇ…動いたり音が出たりする絵巻のようなものの中身を人間が操作して遊ぶものぉ、なんですがね?
弾幕ごっこなんかもぉ、テレビゲームで擬似体験できる優れものなんですよ。
でそのテレビゲームっていうのは、中の登場人物にぃ名前を付けることが出来る作品もままありましてね。
自分の名前を付けて作品に自己投影したり、ヒロインに意中の人の名前を付けたりと、自由に名付ける事が出来るんです。
まぁ、その名付けが今回のお話につながってくるんですが…

いやでもあれは…何年前だったかなぁ…。私が学生の頃でしたよ。
インターネットが普及してしばらく経った頃くらいです。
ちょうどその頃ぉ私はそのテレビゲームに大ハマりしていましてね、テレビゲームについての情報を集めていた折にぃ、友人の友人から聞いたお話なんです。

都市部の大学に通うとある学生2人が居ましてね。
分かりやすいようにぃ彼らをA君とB君としましょうか。
彼らも私と同じようにぃテレビゲームが大好きでして、A君の方はテレビゲームは勿論のこと、怪談話も大好きで、よくB君に怖い話を面白がってするわけです。
一方のB君は怖い話が大の苦手でして、A君の話を「あーあー聞こえない聞こえない」などと耳を塞ぎながら聞き流していたりしていたそうなんですねぇ。
ある日、いつもの如くA君がニヤニヤニヤとしながら「おいB君、聞きたまえよ」。B君に話をふるわけです。

「また怪談か」
「それはそうだが、今回は是非君に聞いてもらいたいんだ。耳を閉じるのをやめて聞いてくれ。今回はテレビゲームの話だ」
大好きなテレビゲームの話だもんですから?B君は耳から手を離して聞いちゃったんですねぇ。
「なんのゲームの話だい?」
「いや、特定のゲームの話ではないんだ。名前がつけられる全てのゲームに言えることなんだよ」
A君は話したくて辛抱たまらなかったのか、もったいぶらずにすぐに言うんです。
「この世には絶対にキャラクターに付けてはいけない名前なんてものがあるらしいんだ」
「それで?」
「その名前を使ってゲームをプレイすると、そのプレイヤーに不幸が訪れるらしい」
「…へぇ」
「なんだ、つれないじゃあないか。少しは興味を持ちたまえよ」
「つれないとは言ってもねキミ。どうせキミのことだから、その名前を試してみようとか言うんだろう?」
「よく分かっているじゃあないか。是非とも試してみたくてね」
「しかしねぇキミ。そういうのは面白半分に首突っ込むとよろしくないと聞くが…」
「分かってるよ怖がりめ。ほどほどにしておくさハハハ。じゃあ早速今日やってくるよ」
そう言ってB君はA君と別れたわけです。

翌日、B君はいつも待ち合わせしている大学の食堂でA君を待っていると、「よう」と言いながらダカダカダカァッとA君が向かってくるわけです。
「どうだったんだい?」B君は聞くわけです。もちろん、その名前を使ってゲームを遊んだのかですよ?
「なんともなかったよ。やっぱりネットの噂はアテにならないかな。まぁ、何日か試してみるさ」A君は得意満面で言います。しばらく2人はなんやかんやと駄弁りながら別れていったんです。

さらに翌日。
いつものようにB君はA君を待ってたんですねぇ。
しかし来ない。待てども暮らせもA君はやって来ないんです。連絡を取るも返事がないんですよ。
普段は几帳面なA君は連絡すればすぐさま返事を入れるんですが、今日に限ってそれがない。
おかしいなぁ。変だなぁ。なんて思いながら、待っているうちにね?まぁ調子を崩して動きたくないのだろうと思い直して、仕方のない奴だなぁ明日も来なければ見舞いにでも言ってやるかぁとB君は帰っていったんです。

また翌日。
やっぱり来ない。「いよいよ変だぞ?」B君は講義を休んでA君が住む寮へと赴いたわけです。
トントントン、トントントン、「おーい!A君!いるかい?」B君はA君の部屋の扉を叩いて呼び出します。
出てこない。
試しにB君は扉を開けようとした。

ギィィィィっ

開いた。

A君は、自分が部屋にいるうちは鍵はかけない人間ですから?B君は彼が部屋にまだいると思ったわけですねぇ。
「おおい、A君。いるなら返事をしたまえよ」B君は部屋にトントントントンと入って行く。
おかしい。
誰もいない。
でもね、人けはあるんです。
靴は置いてあるからぁ外には出ていないだろうし、暖房も付いている。

それにテレビゲームにも電源が入っているんです。

「おーい。A君?」またA君を呼びます。返事がない。
少し奇妙に思いながら、B君はまずテレビゲームの方に目をやります。
付いてるんですよ。画面が。やっぱり、好きなのだから気になるじゃあありませんか。
どうせA君は近くに買い物行ってるんだろうとB君は思ってですね、よいしょとテレビゲームの前に座ってカチャカチャやるんです。

付いていたゲームはB君も大好きな名作だったんですが、主人公の名前はB君が聞いたこともない名前に変更されていたんです。
ははぁ、これが例の使ってはいけない名前だなとB君はゲームを進めるわけです。
しばらくすると、なんかおかしいなぁとB君は気づくわけですよ。
ゲームの中では主人公はある街にやってきて、人々から話を聞こうとするんですが、だーれも話をしてくれない。
普通ならそこで誰かに話しかけるとその街の情報を教えてくれるんですが、そうじゃあない。
あーれ?おかしいなぁ。変だなぁ。壊れてるのかなぁ。B君はそう思うわけです。
すると…

コト…コト…

っと隣の部屋から音が聞こえてきたんですよ。
とても軽い何かがこっちに近寄ってくるような、そんな音だった。

ゾゾゾゾゾっ

怖がりなB君は震え上がって、そっちの方も見れずに音がした方に声をかけた。
「…A君かい?」返事はない。

コト…コト…

非常にゆっくりだが絶対に何かがこちらに向かってきている。
やだやだやだやだこわいこわいこわいこわいっ!
B君はたまらずダダダダダダッ!寮から一目散に逃げてしまったんです。
自宅へ戻って、A君にひたすら連絡を取ろうと震えつつ一晩過ごしました。

A君からはいつまで経っても連絡はありませんでした。


しばらくして、
B君のもとに連絡が来たんです。
「どうも、Aの母ですが、Bさんでよろしかったでしょうか?」
「はい。Bは私ですが」
「ああ、どうも、倅がお世話になっておりました」
「ああ、こちらこそお世話になっております」
「あの…Bさんは…倅が…自殺した…というお話は…?」
「ええ!?」
B君はびっくりするわけなんですねぇ。
そりゃそうですよ。そんな話聞いていなかったし、彼が失踪するほんの前日まで仲良く話していたもんですから。
「Aからは大切なご学友と聞いておりました。お渡ししたいものもございますので、いついつに通夜がございます。来ていただけませんでしょうか?」
「はい、はい、それはもちろん」

通夜に行き、A君のご両親から話を聞くと、どうやらA君は電車という…まぁ…猛スピードで走る牛車みたいなもんです。それに自ら突っ込んで死んでしまったらしいと。そんな内容でした。
「ご学友の貴方は何か心当たりがありますか?」
「いえいえいえ、失踪する前まで元気に駄弁っていたくらいですからなんとも…」
もちろん嘘です。B君には心当たりがちゃあんとあるんです。
ただ、そんなオカルトな話をしても信用されませんから?あえて話さなかったんですねぇ。

「あの…これはAの遺品なのですが…」
と、A君のお母さんはあるものをB君に渡しました。
B君はそれを見てサーーーーッと真っ青になった。
それはね。例のテレビゲームなんですよ。
A君の部屋に付けっ放しで放置されていたあのおかしなゲームなんですよ!
「あ、あの…これは?」
「Aが暮らしていた寮に置いてあったものです。捨てるよりは、ご友人の方にあげた方が良いと思いまして…。これを見るとAを思い出してしまいますので…」
B君は恐る恐る受け取ります。
いやぁ、とんでもないものをもらってしまった…。

B君はその日のうちに神社へ持っていき、そのゲームとB君自身をお祓いしてもらったそうです。
その話をしたB君は、私の友人の友人に、
「あの名前は絶対に使うな」

「ツナカユリコという名前は遊び半分で使っていいものじゃあない」

そう言ったそうです。


どうも、ありがとうございました。
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