売れない営業マンが幻想入り   作:池沼妖怪ブレインロスト

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幼い心は破裂する

「芸術は爆発だ!希少価値だ!」

 星条旗とピエロを合わせたような服を着た妖精が松明をブンブン振り回しながらそう言った。

「なにそれ?」

「どういう意味よ?」

「放火が芸術なの?」

 三匹の妖精たちはクエスチョンマークを浮かべながら、クラウンピースの言葉の意味を聞いたのだった。

「昔そんなことを言う人間がいたらしい」

 腕を組みながら問われた彼女がそう言った。

 

 ルナチャイルドが口を栗型に開く。

「芸術って人間が無条件に好むわけのわからないやつでしょ?絵とか石とか字とか」

 彼女の言葉にクラウンピースはうんうんと頷いた。

「それと同じで爆発も人間好きってことなのね?」

「そうそう」

 サニーミルクの両手を上げて爆発のモーションを見て、満足そうにクラウンピースは相槌を挟む。

「爆発を使ったいたずらをすれば、あたい達は楽しいし、人間達はかんどーする。これって最高じゃないか!」

「凄いわ!ウィンウィンってやつね!でも爆発って火使うじゃない?クラウンピースが神社の下で火を焚いてたら霊夢さん怒るのは何故なのかしら?」

「きっと芸術が分かってないんだよ、何せ芸術とは無縁の貧乏巫女だからな!」

 スターサファイアの疑問を得意になって返すのもやっぱりクラウンピースだった。

「人間に害のない程度の爆発ならアイツにも怒られないんじゃあないかな?」

「でもそんなものってあるのかしら?」

 うーんと4匹揃って考え込みはじめた。

「そういえば」

 サニーミルクがふと顔を上げて口を開いた。

「妖怪相手に商売するシゴトウケオイニン?って人間がいるみたいだけど、そいつに聞いてみたらいいんじゃないかしら?」

「それだー!」

 目標が決まればすぐに動く。

 大樹の家から飛び出して、件の人間が居るという人里へと向かったのであった。彼女達の行動は早い。

 

 

 初めからそこに居たのかと思うほど突如としてポツリと姿を表した4(匹?)の妖精たちを見て、橋田は苦笑いをした。

「突然現れるとびっくりしてしまうんでやめてもらっていいですかね?」

 妖怪相手の商売が増えてくると、何処からともなく突然姿をあらわすのが多い為、普段からある程度の心構えはしているのだが、流石に自宅の中から現れるのは予想外すぎた。

 未だ胸の裏側をバクバクと叩いている心臓の音を肌で感じながら居住まいを正す。

「やれやれ。付喪神ネットワークとやらを間に受けて本当に良かった」

 普段から清廉潔白に過ごしているからこそ、突然の客にも即座に対応することができる。勿論、部屋の中に現れたとしても。

 

 妖精は一般的に知能がそれほど高いわけでなく、短略的で自由奔放であると橋田は聞いたのだが、出されたお茶をおとなしく行儀よく飲んでいる彼女達を見るとそんな感じはしない。

 案外人の話も信用ならんものだ。

 などと橋田が考えていると、赤い服を着たのが机から身を乗り出してきた。

「ねえねえ、あなた妖怪とも仕事するんでしょ?だったら妖精とも仕事できるよね?」

「む…まぁ、料金と内容次第ですがね…」

 橋田は腕を組みながらそう答えた。

 自分のところに来たのだから十中八九そうなのだろうと予測していたので、割と平常心である。

「お金さえあれば良いの?」

「人や妖怪達に危害が及ばないなら構いませんよ。そういうスタンスですから…え、持ってるんですか?」

 橋田がそう問うと、妖精たちはふいっと顔を見合わせてから橋田に向き直り、答えた。

「さあ?」

 橋田は思わずこけた。膝に手を乗せてたのをずりっといくという古臭い反応である。

「待ってな!」

 星条旗とピエロを合わせたような妖精が勢いをつけて立ち上がり、決め台詞を吐き、外へと飛んで行った。

 

 

「ほい!これで足りる?」

 3匹の妖精と一緒になってゆっくり茶をすすっていると、二杯目を用意しようかというところでピエロの妖精が戻ってきた。

 彼女が投げて寄越したのは、橋田の顔くらいほどの大きな巾着袋だった。

 3匹と1人はあまりの迫力にほわあああとため息を馬鹿みたいに漏らしていた。

 ジャラっと緩くなっていた袋の口からお金が漏れてきた。

「えっ。本物?」

「なに言ってんだよアンタ。お金に本物もクソもないでしょ?」

 ピエロの妖精は眉をひそめながら言った。

 流石にこれだけ出されたら橋田も断るわけにはいかなくなった。

「んー。まぁ、じゃあ約束通り手伝いましょうかね。何をやるんです?」

 諦めたふうにため息をつきながら、橋田は仕事の内容を聞いてみた。

「爆発!!!!!」

 嬉しそうに揃って言う妖精どもの姿を見て、橋田は目を丸くしたのだった。

 

 

 人間に怒られない程度の爆発ができるのを考えろとクラウンピースから言われた橋田は、うむむと考え込みながらたらたらと里の郊外を歩いていた。

「妖精のいたずらに手を貸すことになるとは…。いくら金のためだからってそんな事をしても良いいのか?」

 そんな事を今更考える橋田であるが、もう貰うものも貰って話を進めてしまっている。遅いどころの話ではない。

 というより、ピエロのような妖精が持っていた松明を眺めていたら、何故か心の奥底から気力が溢れ出て気持ちが高ぶり、

「そんなもんテァーっとやったるでよ!待っとりゃー!」

 と気の向くままに了承してしまったのである。

 

 妖精から受け取ったやたらずっしりと重い巾着袋を開けると、中には橋田が半年ほど暮らせる金額が入っていた。

 ここまでもらってしまうと流石に辞めるとは言いにくい。

「うーん…しかし爆発かぁ…爆発…爆発…。あ、あれが食いたい。アー。なんだっけな。あれ、あれ。まだ香霖堂にあるかなぁ?」

 爆発からあるものを連想した橋田は、口に溜まった唾をゴクリと飲み込み、腹をなでなでしつつ香霖堂へと赴いたのだった。

 

 

 三妖精は、満面の笑みを浮かべている橋田を見てギョッとしていた。

 もう少し詳しく言うと、大砲のようなものを抱えてニコニコしていた橋田が気色悪かったのでドン引きしていたのだった。

「な、なにそれ?」

「撃っちゃう?弾をドーンって?」

「爆発するのを頼んだけど、危ないのはダメだって貴方が言ったじゃない!」

 目をキラキラさせて大砲のようなものの周りをふよふよと飛んでいるクラウンピース以外は、思い思いの言葉を口に出して橋田に聞いた。

「ああ、ドーンとはしますが大砲なんて物騒なもんとは違うんですよ」

 橋田は笑いながら大砲のようなものをポンポン叩き、そう答えた。

「皆さんは甘いものは好きですか?」

「大好き!!」

「じゃあ作りましょうか」

「どうやって?」

「こいつで。大砲の弾の代わりに甘いお菓子を飛ばします。河童に調整してもらって、試運転もやってるんで安心して使えますよ」

 

 

 買い出しで賑わう商店街も落ち着きを見せ始めた昼下がり。

 何処からともなく甘い香りが漂ってきた。

 飴を作っているような、そんな砂糖まみれのかぐわしい香りだった。

 風に乗って鼻腔を撫でる甘い香りに心を癒されていた里の人間達に、突如として肌の端々まで伝わる轟音が襲った。

「な、なんだ!?何の音だ!?」

「ちょっと!何!?爆発!火事!?火消し火消し!」

 そしてまた漂ってくる甘い香り。

 騒然とした商店街の人間達は、爆発の出所まで駆けて行った。

 

「はーい!出来立てホヤホヤのポン菓子だよー!今日だけ特別のポン菓子屋さんだよー!」

 こんもり盛られた白い何かを、橋田は笑顔になって4つの妖精達と配っていた。

「橋田さん、何やってんだい?」

 薬屋の爺さんが橋田に声をかけた。

「妖精の気まぐれでね。ポン菓子作って配ってんだよ。爺さんも食ってって」

 爺さんにそう答えた橋田は、ほいっと器を押し付けた。

「ポン菓子ねぇ。そういやぁ久しく食ってなかったなぁ。む。甘い」

 爺さんが小さい粒をチマチマ食っていると、橋田は妖精にせっつかれていた。

 どうやらまた新たにポン菓子を作るらしい。

 

「はぁい!ポン菓子出来ますよー!耳が悪い人は耳に指突っ込んで口開けてねー!」

 大砲の口にカゴを設置して、カウントダウンを始める。

 人間達は橋田達と一緒に数を減らしていく。

「さん!にぃ!いち!はいドーン!」

 橋田がレンチで大砲の頭についた出っ張りの横を叩くと、また里を襲った爆発音が響いた。

 カゴの中には、圧力と熱で膨らんだ大量の米粒が溢れていた。

 妖精はそれをせっせと鍋に運んで水飴に絡めていく。

 

 しばらく続けていると、どこぞのなにがしが酒だのなんだのを持ってきて、ポン菓子を囲んだ大宴会がいつのまにか始まっていた。

 4匹の妖精達は、爆発にいちいち驚く人間たちを大いに笑い、甘くて柔らかくてパリパリしているポン菓子を堪能し、ただ酒を飲んで大満悦であった。

 彼女たちのそんな様子を見ながら、橋田は一人、ほっとため息をついたのであった。

 ポン菓子を作る機械や材料費などで、妖精からもらった費用の8割ほどが無くなったが、なんとか成功して良かった。

 そういう安堵の息であった。

 

 ポン菓子祭りは日が沈むまで続いた。

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