「今回はギャグをふんだんに取り入れた話となってるわ、霊夢」
ジリジリと肌を焼く太陽と、セミの鳴き声にうんざりしながら足をパタパタさせていた霊夢は、紫の意味のわからない発言に「は?」とぶっきらぼうに答えた。
霊夢の冷たい返しにめげた素振りも見せず、紫は話を続けた。
「ギャグで一番作りやすくて面白いのは、メタ発言なのよ。次元の壁を越えて、読者に直接訴えかける事が一番面白いの」
「言っている意味が分からないし、暑いからどっか行って」
霊夢は紫を追い払うように、やる気なく手をパタパタさせた。
「その次にスルーね。これも簡単だからはなしもオチも作りやすくて助かるわって筆者が言ってる気がするの」
「無視しないでよ」
「そうね、悪かったわ」
紫は何番線じかすら分からなくなってきているお茶を飲み干した後、湯呑みを優しく縁側の側に置いた。
「ところで霊夢、私、外の世界でゆかりんと呼ばれる事があるの。ゆかりんとゆうこりんって似てないかしら?つまり私はゆうこりんと同じ目で見られている可能性があるわけで、不特定多数から可愛いと思われている事になるわ。やだ…ゆかりん困っちゃう」
次の瞬間、霊夢の弾幕が紫を襲っていた。
「ちなみに、私ゆかりんはメタ担当だから!能力的にわかりやすいでしょ?じゃあね」
そう言うと、ゆかりんはスキマの中へと消えていった。
スキマ妖怪に精神をかき乱されまくった霊夢は心を落ち着ける為に、少し濃いめのお茶を飲んでくつろいでいた。
サワサワと風で木の葉が揺れる音が、ざわついていた霊夢の心を落ち着かせる。
ふと、葉の音が不規則に凪いだ。
「うおおおお忍ぶぜぇぇぇ!!超忍ぶぜぇぇぇ!私は最強の普通の魔法使い(泥棒)だぜぇぇぇ!」
どうやって音を出しているのか、箒をブオンブオンとふかしながらゴッドファーザーのテーマ曲を流す白黒が、神社に突っ込んできた。
「やかましい!忍ぶなら少しは黙りなさい!」
「霊夢、今日はギャグの日らしいぜ、誰もがふざけて良い日だそうだ」
魔理沙は霊夢の話を聞く事なく、脈絡もない話を続けた。
「今日の私はYHDだぜ!」
「何それ?」
「やかましい(Y)普通の(H)泥棒(D)」
本日一番、霊夢の爆発が炸裂した。
気分転換に神社を離れた霊夢は、妖怪の山の麓まで来ていた。
珍しく、河城にとりが他の河童共を集めて、足だけムキムキの雄の河童を披露していた。
見た目がリアルだが、いまいち顔の作りが悪く、明らかに作り物だと分かる。何の素材を使ってその筋肉河童を作り上げたのかは分からなかったが、とにかく河童共は興奮を抑えきれない様子で、にとりの力作を囲んでいた。
「愚作と秀作の違いがわかるかしら?」
「秀作は、わかりやすくて共感が持てるもの、愚作はただ発想が傑作を模倣しただけの、子供の妄想だと思ってます」
「その通り、つまり筋肉は?」
「科学だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!うおおおおおおお!!!」
文脈とは?
河童共の品評会(?)を覗いていた霊夢は、一瞬そう思ったが、考えるだけ無駄というか、頭が痛くなるだけなのでその場を離れ、人間の里へ行く事に決めた。
「道徳の時間だオラァ!」と叫びながら寺子屋のドアを蹴破って入場する幻想郷の書記。
「実は私の炎って、寿命削って使ってるんだ」と笑えない冗談を言う不老不死のモンペ妖怪。
「あたいの同僚ん家の仏壇が倒れたんですよ」「それはほっとけないですね」などと漫才を始める死神と閻魔。
右を見ても左を見ても、老若男女、妖怪も人も神様も、ふざけている者ばかり。
里もこんな状態なのか。と霊夢はいよいよをもって気が動転しそうになっていた。
そういえば。今回はまだ橋田が出てきていない。
現在彼は気分がノリに乗っており、自室で昔覚えたアイドルのダンスを踊っていた。
フリフリと可愛らしく艶かしいダンスを踊る橋田。
充電が完了したスマホの中にたまたま入っていたライブ動画を見ながら踊りを完成させようとする橋田。
別段、橋田は可愛らしい容姿をしている男性ではない。ただの中肉中背のおっさんである。
「ふふふ…完璧だ」
フィニッシュが決まったところでつぶやいた橋田は、ここでようやく彼の部屋の扉を開けて唖然としている霊夢に気がついた。
「あの…」
霊夢は橋田を慰めようと無理矢理声を出すが、続く言葉が見当たらず、彼女の言葉はそのまま流れてしまった。
「えっと…一緒に踊りますか?『きゅんっ!ヴァンパイアガール』」
橋田は橋田でしどろもどろになりながら己のフォローをしようと必死で、あられもない言葉を吐いてしまう。
己に素直になれない男は情けないぞ橋田。
「その…遠慮するわ」
静かに扉を閉める霊夢。橋田は何もできなかった。
おっさんのダンスを見て、なんとも言えない気分になったまま霊夢は里を練り歩く。相変わらず周囲はギャグとやらにのまれている。
橋田の所業を見て、かえって落ち着いていた霊夢はふと気がつく。
普段とは違う方向でふざけている知り合い達。
安っぽい素人喜劇に出てくる登場人物であるかのように振る舞うその様は、まるで何者かが常識を改変しているかのような違和感が、それに気づき始めた途端に押し寄せる疎外感と不快感。
「これ、もしかして異変?」
そう気づいた霊夢は、心当たりのある者へと尋ねていったのである。
「で?その常識を改変させた厄介者をこらしめたと」
水で冷やされた竹筒羊羹を食べながら、魔理沙は霊夢に訊いた。
「誰なんだよソイツは?なあなあ、教えてくれよ」
ゆさゆさとうつ伏せでいる霊夢を揺らしながら魔理沙は訊くが、霊夢は疲れ切っているのか答えようとしない。
「やかましい、YHD」
そういうと、そのまま霊夢は寝入ってしまった。
「紫様、どうして顔を両手で隠しているのですか?」
「恥ずかしいからよ」
「何に対してでしょうか?」
「自分自身によ」
「はあ…さようでございますか…?」
今日も幻想郷は何一つ変わらない、異変の日だった。