人が門の前で倒れている。
散歩が日課の爺さんが、血相変えて大声で助けを呼んでいた。
日が昇って間もなくの早朝である。
秋の神がそこいらで遊んでいるのを目撃され始めた頃くらいの、肌寒い程度の朝である。
やかましい耄碌爺いの叫び声で起こされた里の人間たちは、眠い目をこすりつつ、なんだなんだと出ていった。
「ほんとに人だよ…爺さん、怒鳴って悪かった」
門の柱に背を預け、空に顔全面を向けてダラリと身体を垂らしている。
目は開いているが、意識がないのか白目になっていた。
着ているものは、いわゆるスーツである。幻想郷で着ているものはあまり見かけないものであった。
「おい、おいあんた。大丈夫かい?」
ひとりの男性が、倒れている男の肩を軽くゆする。
揺すられた反動でカクンと頭を倒した男は、そのまま膝に顔を当てて動かなくなった。
そして出る男からの音。
ぐう。
その音を聞いた人々は、男は倒れているのではなく、眠っているという事に気がついたのだった。
「なんとまぁ…こんな寒空の下で」
「こんなところで寝たら妖怪に喰われるかもしれないってのに、呑気なもんだ」
「外の世界の人ってのは案外丈夫なんだね」
そう。おそらく彼は外の世界の人間である。
里であまり見かけない姿と格好の人間が、なんの警戒心もなく門前でぐうすか寝ていたのである。
外の世界から人間の里へやってくる人間は少ないが。無いと言うことはない。
妖怪だのなんだのを信用せずに、ふらふらと里の外へ出て行き、喰われて死んでしまうのが大抵ではあるが。
「おい、おいあんた。起きな!こんなとこで寝てたら風邪ひくよ!」
寝ていると分かっている今、男性のゆする力に遠慮は無かった。
ゆさゆさガクガク。
それでも男が起きないと、今度は頰をペチペチ叩きはじめる。
「んんん…ん?」
ようやく目が覚めたようで、男はもぞもぞ身体を動かしながらゆっくり伸びをし、目を開いた。
「おはようさん。やっと起きたかい。しかしまぁ、よくこんな寒いとこで寝てたもんだ」
ため息混じりに男性は男にそう言う。
「ああ、いやまぁ、どうも。慣れてまして。すんません。今どきますから」
よっこいしょと男は立ち上がり、尻を払う。そして門と大勢の人を見てから首をかしげた。
「どくっつったって何処に行くんだ?一人で外でたら危ないぞ?」
男性は首を90度傾けたままの男にそう言った。
「・・・」
男は状況理解できていないのか、男性の質問に答えず、しばらくそのままだった。
「ああ。そうですか。えっと…?」
自分の状況がようやく分かったのか男性と大衆をキョロキョロ見比べている。
「ここは人間の里だ。あんた、外の世界の人だろ?格好がそんな感じだ」
「はぁ。外…」
「神隠しってやつだ。外の世界の人間が、突然この幻想郷にやってくることをそういうんだよ」
「へぇ…」
ぐぅ。
今度は腹の音だった。
「ところで、何か食べ物ありませんかね?お金無いんですけど」
こうして橋田金次郎は無事、幻想入りしたのだった。