売れない営業マンが幻想入り   作:池沼妖怪ブレインロスト

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個人事業主は計画的に

 橋田が幻想入りして間もなくの頃である。

 里の入り口に寝転がっていた橋田を、里の人間達は慣れた風で里の長のもとへ案内した。

 里の人間たちは橋田の処遇を話し合い、とりあえず何が出来るかわかるまで長屋の不人気な部屋に置いておく事に決めたのであった。

「やれやれ、こういった仕事はアルバイト雇ってやれば良いのに、全部全部自分らでやるのは経済としてどうなんだろうな。居候の身で文句言うのもアレだが、金ももらってねえのに真面目にやろうとは思えんな」

 長屋の大旦那の元で手伝いをしていた橋田は、小間使い的な仕事に少々辟易していた。

「アルバイトか……そうかそういやぁ、里じゃあ見たことなかったな」

 橋田はこの時に仕事を請負うという仕事を思いついたのだ。

 思いついたら吉日と、さっさと空き部屋の掃除を済ませて大旦那の元へかけて行った。

 

 

「旦那、私やれる事が見つかりましたよ。それでちょっとお願いしたいことがありまして……」

「おお、外の世界の人間にしては仕事を決めるのが早いな。もうしばらくかかるもんだと思っていたよ。それで私にどうしろと言うのだ?」

「旦那のツテで仕事を斡旋してくれませんか?何でも良いですよ。店番からドブさらいでも、力仕事でも、帳簿だってつけられますよ」

「つまり、簡単な仕事をもらってそれを生業とするのか?小間使いとなんも変わらんと思うが」

「いや、小間使いはずっと家にいるじゃあありませんか。私は別ですよ。いる時、必要な時だけ代金を払って私を一時的に雇うんです。雇われた私は決められた期間や量をこなすまで一時的に仕事を請け負うという形ですな」

「ふぅん。なるほどね。そんな上手く行くかね?」

「分かりません。が、このまま旦那の厄介になるわけにはいきませんし、私が今できることを出来るようにするだけですよ」

「そうであればわかった。橋田くんは外の世界の人間にしては、我々の言うことを聞いてくれるし、よく働いてくれているからね。思い当たる人間に声をかけてみようじゃあないか」

「ありがとうございます」

「言っておくが、私は声をかけるだけだ。当たり前だがそれ以外の面倒は君が見るんだ。これからは今いる部屋の代金も取っていくし、払えなければ問答無用で追い出す。良いかね?」

「もちろんです。承知しております」

「そうか。ではいつからだい?」

「早ければ本日からでも」

「分かった。丁度今晩里の寄合がある。君も参加しなさい」

「ありがとうございます」

「しっかりやりなさい」

 

 

 日も暮れ、屋台の提灯が目立つ頃になると、里の有力者どもが集会所にゾロゾロと集まってくる。

 各々店の印が入った羽織りの袖に腕を通しながら、小寒くなったな。今日は珍しく外来人が議題だそうだ。などと顔馴染みの商売仲間と世間話をぼちぼちしながら屋内に入っていく。

 全員が揃ったところで、橋田は丁寧に挨拶を個人個人にしていく。そろそろ挨拶も済ませたというところで、里の人間たちに仕事の請負について必死に説明した。

 契約の内容もしっかり考えて伝えてある。

 契約料は必ず決めてから仕事を請け負うこと、契約をした以上は元請けの都合によって金額を変える事は禁止とすること。

 支払いは物では出来ず現金であること。

 契約期間や作業量に関しては、いついつまで仕事をする、いくつまで仕事をするといった明確な取り決めをすること。仮に期間が伸びたないし仕事内容に変更があった場合は都度協議し契約金額を再度見直すこと。

 橋田が仮にミスをして損害を出した時には、橋田が賠償をすること。

 同じ仕事内容でも繁忙期や閑散期などのタイミングによっては金額が変わってくること。

 エトセトラエトセトラ。

「基本的な金額は人工(にんく)計算でやります。一日1人分いくらいくら。仕事内容に得意不得意あったりだとか、誰でもできるのかそうでないかだとかそういったので値段は変わってきますが……まぁ、要相談ですな」

「なるほどな。とりあえず仕事ぶり見てみるかね。長屋の大旦那、彼はどうだったね?」

「よく働いてくれている。若いし経験もあるから、我々の動きを察して先手先手で動いてくれる事もある。特段優秀というわけじゃあ無いが、金を払って文句が出る程度の能力ではないな」

「ふむ。じゃあ試しに使ってみるかね。橋田さん。少々危険だが、ウチの倉庫掃除を任されてくれんか。物を雑に置きすぎて使用人どもを近づけさせられんくらい不安定なんだ」

「分かりました。請けましょう」

 こうして橋田はゼロからのスタートを切ったのだった。

 

 

 しばらくして、橋田が請負人商売にも慣れてきた頃合いである。

「橋田くんや。今回の支払いだが、少しばかりまけてはくれんかね」

 と依頼人が声をかけてきた。

 もうそろそろ仕事も終わる時分にだ。

「え?どのくらいですか?」

 数ある選択肢の中でも1番駄目な返しをしてしまったと、後の橋田は振り返る。

「ちょっと支払いが立て込んでいてね……。半分しか払えないんだ」

 橋田の中で二日三日程度もつ計算だった請負金額が、半分となるとかなり苦しい。橋田は申し訳なさそうな顔つきで答えを返す。

「それは困りますよ旦那。私は旦那と違ってその日その日で暮らしてるもんですから」

「頼むよ。橋田くん。今後も贔屓にしておくから。な?」

 今後もと言われると、交渉ごとに慣れていない橋田は、まぁ一度くらい許してやっても良いだろうと思ってしまい、

「じゃあ今回だけですよ旦那」

 と許してしまったのだ。

 

 この判断ミスが、しばらくの間、橋田の仕事が無償ボランティアへと変化してしまった第一歩であった。

 値切りを許した事実を依頼者が広めてしまったせいで、俺もまけろ、ついでにこの仕事もサービスで、今後の為に下げてくれとケチな商売人共からカモにされてしまったのだ。

 働けど働けど懐はさみしいまま、早朝から夜遅くまで働き、ついには身体を壊して寝込んでしまうまでに至った。

「なんでも請け負うと大口叩いておいて身体を壊すとは、やはり外の世界の人間は軟弱だな」

 体調不良を理由に断りを入れた時、最初に値切られた依頼人から吐き捨てるようにそう言われた。

「てめぇらが小銭程度で俺をこき使うせいだろ!!」

 と顔面を怒りで真っ赤にしながら言った。

 次の瞬間、依頼人は顔を真っ青にしてその場から逃げるように立ち去っていった。

 自分の怒りの形相に驚いて逃げていったと思った橋田は、若干気が晴れていた。

 

「ここが何でも仕事を請け負ってくれるお店かしら?」

 橋田が満足した顔を浮かべていると、逃げていった輩の反対方向から若い女性の声が聞こえてきた。

 橋田が振り返ると、真っ赤な髪の少女がそこに立っていた。

 黒のシャツに髪と同じ色のスカート、そしてまた黒のロングブーツ。赤黒赤と目立つのか目立たないのかよくわからない色合いをしている。

 そしてケープマントというのだろうか、腰高程度の短い外套を羽織り、何故か襟を立てていた。

 首元を不自然に隠しているような形である。羽織っている外套も、また髪と同じ真っ赤であった。

「はい、そうですが……今は体調を崩しておりまして、休業中です」

 初見の相手なら確実に請けておきたいが、生憎と橋田の身体は休みを求めている。

 心底申し訳なく謝ると、彼女は片眉を吊り上げ首を振る。彼女の頭が動くと大きなリボンがふわふわと動いた。

「んーそうか。人間は都合が効かないね」

「はぁ、すんません」

 橋田は弱々しく頭をぼりぼりとかいた。

「ちなみに何のご依頼だったんですか?」

 何処か彼女の言葉のチョイスに引っかかりを感じながらも、とりあえず依頼内容を聞いておきたいので少女に話しかけた。

「友達が住んでいる湖が外の世界から流れ込んできた物で汚れちゃってね、あんな広い所私らだけじゃ大変だから誰かに掃除を手伝ってもらいたかったんだけど……。頼りの人間がこんな調子じゃあ掃除なんて土台無理ね」

「腹立つ言い方をするやつだ。そこまで言うなら2、3日後にお請けしますよ。そのかわり、金はしっかり働いた分いただきますから」

 彼女の何処か斜に構えた物言いに橋田はムっとして返した。

 橋田の返事を聞いた少女は、またわざとらしく片眉を吊り上げて言った。

「へぇ、妖怪の私に結構な事言うじゃあないか。怖くないの?」

「へ?何処からどう見ても普通のお嬢さんです……が……!?」

 橋田が言い終わるか終わらないかのタイミングで、少女の首がゴロンと地面に転がり落ちた。

 あまりにも唐突に落ちたので橋田は一瞬理解できなかった。

「これを見ても人間だって思うのかしら?」

 地面に転がった生首が橋田の方を向いてしゃべり始める。

 そうしてやっと橋田は理解する。自分はとんでもないモノに口ごたえをしてしまったと。

 橋田は真っ青な顔で彼女の首が元あった箇所を見上げる。

 そこにはまた普通の首が生えていた。

「あら、他の人間みたく大袈裟に驚かないのね。……いや、単純に、食われるかもって怖くなってるだけみたいね。馬鹿みたい」

 橋田がいる場所は長屋の狭い土間である。

 殺されるし、逃げることもできない。幻想入りする前から口は災いの元と何度も何度も言い聞かせていたのに、またこうして自分の首を絞めている。絞めるどころの話ではなくなっている。

 今更後悔しても遅い。自分は妖怪の反感を買って食い殺されてしまうのだ。嗚呼、最後にあそこの蕎麦屋のメニュー全品制覇しておきたかったなぁ。

「もしもし。口に出して猛省しているところ恐縮なんだけれども、結局仕事は請けてくれるの?」

「はい?」

 途中から口に出していたらしい。橋田はふいをつかれて変な声を出しながら返事をした。

 しばらく考えて、この妖怪は橋田を食う気が無いないのと、仕事を依頼してくれているという事を理解した。

「あ、ああ。食べないんですか?食べないなら請けさせていただきますよ。お金は量にもよりますが、1日につきこの金額で良いですか?」

 少々吹っかけてある。下手したら食われて死ぬかもしれないし、何より金がない。

 妖怪は、金額を提示されて少しだけ考えていた。左手で顎をトントンとつつきながら、右肘を反対の腕で支えて可愛らしい仕草にみえる。

 里の人間ではあまり見かけない整った顔立ちなので、何をしても可愛らしく見える。妖怪でも可愛い子いるんだなと橋田は変に感心していた。

「いいよ。ただし、ちゃんと働かないとその場で食うからね」

「もちろんですよ。契約成立ですね」

「じゃあ三日後に霧の湖に来てほしいの。紅魔館わかる?あそこの西側なら分かりやすいところあるから、そこに朝集合ね」

「わかりました。よろしくお願いします」

 橋田と握手を交わした後、妖怪は少しだけ口元を吊り上げてこう言った。

「逃げたら食い殺すからね」

 それだけ言うと、妖怪は立ち去って行った。

 

 妖怪が立ち去った後、橋田はあまりの恐怖に土間でへたり込んでしまった。

「がんばろう。やるしかない」

 橋田は恐怖で笑っている膝を軽くはたいて気合いを入れた。

 

 

 まさかの妖怪からの仕事を安請け合いしてしまい、後悔する三日間だったが、いざ仕事が始まってみると大した内容ではなかった。

 別に食われる事もなく、依頼人(依頼妖怪?)である首の妖怪に加えて、人魚の少女と人狼の少女の3人と一緒になって湖の掃除をした。

 何処からどう繋がっているのか橋田には分からなかったが、兎にも角にも外の世界から流れ着いた物が散乱していた。

 ほとんどが橋田が懐かしいと感じる玩具や道具であった。

 使える物は里で売れそうな為、ネコ(一輪の荷車)に乗せ、ゴミはゴミでまた別に仕分けをしていった。

 プラスチックなどの自然分解されない物はどうするのかと少女達に尋ねると、墓場に持っていけば何でも食う妖怪がいるので大丈夫だとの事だった。

 便利な妖怪がいたものである。

 人間にこき使われていた時よりも楽な内容で、報酬も過分にあり、少々ケモ臭いが美少女達に囲まれながら仕事ができる最高の環境だった。

 

「ありがとう。貴方働き者だね。予想よりもかなり綺麗になったよ」

「こちらこそ、しっかり報酬もいただきましたし、また機会があればお仕事をいただきたいです」

 橋田が照れながらそう言うと、少女達は満面の笑みでまたよろしくと返した。

「でも、私が言うのも何だけど、あまり妖怪を信用しすぎない方が良いよ。妖怪の事をちゃんと調べてから請ける請けないを判断した方が良い」

 情けない顔で頭をかいている橋田に、人狼の少女がそう言った。

「調べるって……どうやってです?」

「博麗の巫女に訊くだとか……阿求が私達の事まとめた本があるらしいから、それを読むとか……そんなところかしら?」

 人魚の少女が橋田の質問に答えた。

「なるほど……今回は運が良かったわけですか」

 橋田の言葉に少女達は頭を縦に振って同意した。

「わかりました。せっかくの助言ですし、これから勉強させていただきます。ありがとうございます」

 橋田は丁寧に頭を下げて、妖怪達と別れた。

 

 妖怪たちの助言に従い、自宅に戻る前に貸本屋に寄って本を探す事にした。

 阿求なる物の著作物は無いかと店番している娘に尋ねたら、すぐに数冊出てきた。

 かなり分厚い本である。値段もそこそこだったが、命を守る為にケチってはいけないとしばらく借りることにした。

 

 

 こうして橋田は妖怪に対して適度な距離感をさぐりながら、彼女達から仕事を請け負っていくのである。

 正直な話、橋田にとって人間よりも妖怪相手の仕事は割りが良いものばかりだ。

 ただ、命をいつ奪われるか分からないのが恐ろしい為、なかなかそれ中心に請けることが出来ない。

 それはそれで人間と妖怪の付き合いとしては良いのかもしれない。

 今日も橋田は人間相手の仕事の後に、妖怪の仕事を請けていた。

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