売れない営業マンが幻想入り   作:池沼妖怪ブレインロスト

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営業マンは視野が広い?

 珍しく仕事が無い日が続いた。

 初夏に入り、バタバタとしていたのが少しずつ落ち着いてきたからなのか何なのか。

 橋田がやっているような仕事は、とかく人々の忙しさに左右されやすい。

 暇な時はとことん暇なのである。

 とは言っても、別段金欠ではない。

 呉服屋の若旦那からぼったくったり、付喪神のグッズを売ったりと、ここのところ実入りの良い仕事が続いていたので、半年は遊んでいても問題ないくらいは余裕がある。

 が、働けるうちは稼いでおきたいのが橋田の心境だ。

「まぁ、長期休暇だと思ってゆっくりしようか」

 仕事が無い心細さを払拭するように橋田は商店街へ向かいながらそう呟いた。

 

 幻想郷の初夏は涼しい。

 コンクリートも排気ガスも無く、木々に囲まれ、人口密度もそこそこだからかもしれない。

 とはいえ、少しずつ暑くなっているのは間違いない。

 橋田が歩いていると、少しずつ、じわりじわりと汗ばんでくる。

「こう汗かくと、風呂に入りたくなるな…。む。温泉に行きたい」

 そういえば、と橋田は思い出す。

「博麗神社の裏手に温泉が湧いているとか聞いたな。若干遠いけど行ってみるか」

 そう思い立った橋田は、カラカラと下駄を鳴らしながら、博麗神社へと赴いたのである。

 

 

 結果から言うと、無駄足だった。

「有毒ガスだかなんだか分からんが、そんなもん出てくれるなよ…」

 温泉の入り口付近には看板が立っており、

『キケン!"有毒ガス充満につき死にたい奴だけ近寄ってよし"』

 とあったのだ。これでは温泉を楽しむどころではない。

「あぁ…!賽銭代…」

 タダで温泉を使わせてもらうのは悪いと思い、橋田は銭湯の入浴料程度の小銭を賽銭に入れ、お参りしたのだった。

「まぁ、仕方がない。賽銭は賽銭だ。浄化してもらってその分ご利益をもらうさ」

 汗を流す為に汗をかいて神社まで行くという、汗のかき損したところで、橋田は気持ちを切り替えた。

「里で美味いもんでも食うか」

 橋田は首をこきこきしながら、この長ったらしい神社の階段をたらたら降りていった。

 

 

 さて、人間の里である。

「んー。最近できたとかいう団子屋に行こうか」

 なにやら同じ系列の店が、隣り合ってそれぞれ違う種類の団子を売る競合スタイルで経営している珍しい店らしい。

 買い手市場の狭い幻想郷でも、そういった経営努力するところもあるというのはなかなか面白くはある。

 店員も美少女だというので、それを聞いた橋田はそこそこ楽しみなのである。

 

「おー。並んでんなぁ…。ん?」

 ようやく目当ての団子屋にたどり着いた橋田は、並んでいる人の列に対して妙な違和感があった。

 列の間にヒト1人分、不自然にスペースがあるのだ。

 初めは停止線か何かがあるのかと思ったが、やっぱりおかしい。

 列が動くのにつれてその空間もずれるのだ。

「んー…?」

 橋田が謎の間を観察していると、いつのまにかぴょこりと少女が見えてきた。

 影に隠れてたまたま見えなかったのか何なのか。とにかく、隙間の正体は彼女だった。

 

 少女は順番が待ち遠しいのか、列の頭の方を見る為にぴょんぴょん跳ねたり、腕を後ろで組んで左右にゆらゆらしている。

 結構落ち着かない感じで、彼女の前後はなかなか鬱陶しいのではと橋田は思ったのだが、どうやら何にも気にしていないようだ。

 というより、彼女の存在に気がついていないような感じがする。

 小柄な体とはいえ、彼女は結構フチの広くて真っ黒な帽子を被っており、服装も蛍光色なので、一度気がつくとかなり存在感がある。

 だが隣近所の人間達は、まるで何もないかのように振舞っているのだ。

 おかしい。

 

 そしてとうとう彼女の順番が回ってきた。

 普通に注文するのかと思いきや、

「それ美味しそう。一本ちょうだい!」

 と団子屋の娘に手を出しただけだった。

 そう言われた団子屋の娘は少女へ視線を一切合わせず、他の客の相手をしている間に、唯一暇だった左手で持っていた団子を、ホイっと一瞬だけ少女へ向けるように渡したのだった。

 まるで無意識に動いているかのように。

 

 橋田ははじめ、団子屋の娘はあの少女と知り合いで、好意で一本恵んでやっただけだと思っていた。

 しかし、それは間違いだとすぐに気がついた。

「あれぇ?一本無くなってる」

 団子屋の娘は、少女に渡した筈の団子を勘定に入れず、突然一つ無くなったような素振りを見せたからだ。

 側から見ていると酷く滑稽に見えるが、困っている本人は、いたって大真面目に困っている。

「これはいよいよ不思議だぞ」

 謎の出来事に興味が行った橋田は、団子を持って行った少女から話を聞こうと追いかけたのだった。

 

「ちょっと、お嬢ちゃん」

「ん?何?」

 件の団子屋からしばらく離れたところに少女は座っていた。

 橋田の声に返事をしながらも、彼女は少し大きめの三色団子をちまちま食べている。

 団子を食べる一口一口に、いちいち顔を輝かせる少女。

「む、君はやたら美味そうに食うな。そんなにお団子美味しい?」

 橋田はそんな彼女の反応を見て、思わず聞いてしまった。

「うん!」

「そうかそうか。それは良い情報を聞いた。ところでお金は払わなくても良かったのかい?」

「だってもらったし、何も言われなかったし…」

 と言い終わるか終わらないかの所で、突然少女が橋田の方に顔を向けた。少し驚いた顔をしている。

 

「あれ?気づいてる?」

「そりゃあれだけ堂々としてりゃ気づくわさ」

「えー?そうなの?」

「そういうもんじゃあないの?」

 少女はまた、団子へ視線を戻した。もうそろそろ食べ終わる。

「おじさん、細かいってよく言われるでしょ?」

「言われたことないねぇ。胡散臭いとは昔死ぬほど言われたことはあるけど」

「ふーん。じゃあいろんなところ良く見る癖が付いてるのかな?」

「ああ、そうかもしれないねぇ。人ん家の靴の数とか、洗濯物とか、玄関周りとか。そこらへんの細かい場所見てたしな。仕事がら、そういう能力は身に付いていたのかもしれん」

「そっかー」

 少女は食べ終わった串を橋田へ渡し、よいしょと長椅子から降りて手を振った。

「じゃあ、私帰るね。ばいばい」

「ああ、気をつけて帰りなよ」

 ニコニコと可愛らしい笑顔を向けられた橋田は、同じく笑顔で挨拶を返し、彼女を見送った。

「ん?なんで普通に見送ったんだ?ていうか誰を見送ったんだっけ?」

 橋田は今までの出来事をスコンと忘れていた。

 いつのまにか持っていた竹串を見つめつつ、3秒ほど首を傾げながら考えていた。

 が、最早どうでも良くなったようで、団子屋の方へ歩いて行った。

「まぁ、いいや、団子食うぞ団子を」

 温泉を楽しめなかった分を団子で補うつもりで、橋田は列に並び始めたのだった。

 

 

「ただいまー」

 地霊殿に戻った古明地こいしは、愛しい姉の後頭部へダイブした。

「ごふっ!ああ、こいし。帰ったのね。帰ったらちゃんとただいまと言いなさい」

「言ったもん。ただいまー!」

「はい、お帰り」

 古明地さとりは背中から妹を下ろし、一息ついた。

「今日ね、私のこと見つけた人が居たよ」

「あら、珍しい。どんな妖怪だったの?」

「人間の里でね?人間に見つかったの」

「に、人間!?なんで?」

 妹の発言に、さとりは腰を抜かしそうになった。

 人間自体は怖くないが、その人間から話を聞いた霊夢とか魔理沙とかが襲撃してくるのが怖いのだ。まぁ、彼女達も人間ではあるが。

「さぁ?なんとなく温泉に入りたい気分だったみたい。うちの温泉に連れてったら分かるかな?」

「んんん?相変わらずよく分からない事言うわねぇ」

 さとりを後ろから抱きしめながら、んー。と考えているこいしの腹から、きゅう。と可愛らしい音が鳴った。

 彼女の腹時計は今、夕食の時間を示している。

「今日のご飯何?」

「ハンバーグの伯邑考風よ」

「なにそれ?」

「さぁ?昔流行ったらしいけど」

 姉妹は仲良く手を繋いで、皆のいる食堂へ歩いて行った。

 




古明地姉妹が人間を食うのか食わないのかはわかりません。
妖怪さとりは食わない気がする。
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