「申し訳ありません。また空振りました」
捜査二課長室で前任の管理官からオレオレ詐欺担当を引き継いだ管理官が深々と頭を下げた。
「困ったもんですね。こうも空振りが続くというのも」
オレオレ詐欺担当を総入れ替えして、内通者を排除したはずだ。
アジト急襲の前日までは普通に犯人が出入りしていたのに、当日になったら一人も「出勤」して来なかった。
いくら待ってもアジトに犯人が入らないことに業を煮やした管理官が空振り覚悟でアジトに踏み込んだ。
アジトの中は昨日までオレオレ詐欺の現場であったであろう雰囲気を残したまま、人と証拠品だけが
二人とも次に発する言葉が見つからず沈黙した。
「裁判所から漏れているという可能性はないんですか?」
沈黙を破って捜査二課長が口を開いた。
「打ち込みには、必ず裁判所で令状の発付を受けなければなりません。もし、裁判所から漏れているとすれば、こちらの体制をどう変えても漏れてしまうことになります」
「裁判所の中に内通者、あるいは仲間が紛れ込んでいるということですか。そんな話は聞いたことがありません……」
管理官に動揺が走った。
確かに理屈は通っている。
論理の破綻もない推理だ。
「可能性は否定できませんが……」
管理官も強く否定できなかった。
もし、これが本当だったとしたら、日本の司法を揺るがす大スキャンダルだ。
「それでは、念のため次回の令状請求は霞ヶ関の簡裁ではなく、墨田庁舎にしてみます」
「そうですね、よろしくお願いします。これで情報漏洩がなくなるといいんですが。もしなくなったらなくなったで霞ヶ関の簡裁がクロということになって新しい仕事が舞い込むことになるわけですか」
捜査二課長は、やれやれといった顔で左手首にはめた腕時計をいじっている。
果たして、次のアジト急襲は墨田庁舎に令状を請求してうまくいった。
この急襲で還付金等詐欺のグループ5名を逮捕することができた。
「課長の示唆どおり墨田庁舎に変えたら漏れませんでした」
管理官が捜査二課長にアジト急襲成功の報告をしている。
「いえ、私の示唆がなくても誰でも思いつくことですよ」
課長が軽く手を挙げて体の前で左右に振った。
「こうなると霞ヶ関の簡裁が限りなくクロに近くなるわけですが、簡裁の誰が情報を漏らしていたのかを特定するのは容易ではありません」
「それは別の班にやってもらいましょう」
「はい、承知しました」
管理官は、軽く敬礼をして部屋を後にした。
「簡裁だと? ふざけたことを」
捜査二課長は、椅子を回転させて窓の外に顔を向け吐き捨てるようにつぶやいた。