掛け違いの輪舞曲(ロンド)   作:吉川すずめ

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目張り

 マンションに仕掛けたカメラの威力は絶大だった。

すぐに犯人グループの男が住んでいる部屋番号を特定することができた。

 マンションの管理会社に部屋番号から居住者が誰なのかを照会したところ、意外な回答が返ってきた。

「又貸しなんすかね」

 回答内容を見た大輔が首をひねる。

 部屋に出入りしているのは男性なのだが、契約者は女性の名義になっている。

 契約書に書かれた女性の氏名や生年月日だと実在する人物が見当たらない。

 偽名で契約されたのだろう。

「いいところまで追いかけられたんですが、途切れてしまいましたね」

「でも、奴をつければアジトにはたどり着けるんだから、まるっきり失敗じゃないっすよね」

「それはもう終わってます。大輔君が掃除のおばさんときゃっきゃうふふしている間に私がやっておきました」

「ほんとすか! さすが係長っす」

 大輔が手を叩いて喜んだ。

「アジトは浜松町の雑居ビルです。かなり警戒が強くて玄関前まで近づくこともできないくらいです」

「なんで近づけないんすか?」

「人感センサーがあちこちに設置されていて、うっかり近づくと相手に察知されてしまいます。ゴミも出しませんし、窓という窓にはすべて目張りがされていて、中を見ることができません」

「本丸すかね」

「分かりません。ただ、異様な警戒の強さからいって本丸の可能性は高いです」

「アジトは、短期間で引っ越すって聞いたことがあるす。ここもいつまで使われるか分からないすよね」

「そうです。だからできるだけ早く急襲しないと」

 自然と二人の会話は小声になる。

「ときに山口さん」

 犯抑の副本部長室から坂田が顔を出して手招きをしている。

「失礼します」

 席を立った山口が副本部長室のソファに腰を下ろした。

「捜査の経過は、随時教えてもっているので、そろそろXデーの設定だろうということは分かります」

「はい、おっしゃるとおりです。アジトは短期間で引っ越してしまうため、早く手を着けたいと思っています」

「今回の事件、すべて山口さんに指揮を任せると刑事部長から権限の委譲がありました。打ち込みのときはSITと機捜から人を出してくれるそうです。捜査二課を通す必要はありません」 

「ずいぶんイレギュラーですね」

「そうなんだ。それくらい今回の事件には慎重を期す必要がある。普通の手法ではダメなんだ」

「かしこまりました。それでは、できるだけ早く手を着けられるように進めます」

「苦労かけるな。山口さんじゃないとダメなんだ。頼むぞ」

 坂田の言葉にただならぬ事情を察した山口は、任務の重さに身震いした。

「大輔君、今日からアジトの視察に入ります。数日帰れなくなりますから、そのつもりでいてください」

 副部長室を出た山口は、緊張の面持ちで大輔に指示を出した。

「了解っす! どうせテワさんは訓練で忙しくて構ってもらえてないすから、ちょうどいいっす」

「視察拠点にする部屋はもう借り上げています」

「さすがっすねー」

 二人はデスク周りを片付けると、浜松町に飛んだ。

 アジトが入る雑居ビルを見張ることができるマンションの一室。

 山口と大輔は、カーテンの隙間にセットしたカメラにつながったモニターに映し出されるアジトの動きを凝視している。 

「これまでの下見で、連中は朝10時くらいに出勤して夕方6時くらいに帰るというパターンです。ですが、まだ夜間の視察はしていませんので、夜間の出入りがどうなっているのかは分かりません」

「今は、前日の夜のアポ電を入れてくる手口はほとんどないっすから、夜間の出入りはないんじゃないすかね」

「私もそう思います。とりあえず今日は24時間通して動きを確認しましょう」

「了解っす」

 午後6時を過ぎ、例の白金台のマンションに住む男を含む犯人グループと思われる者たちが三々五々ビルを出て行った。  

 とはいえ、そのビルは数カ所から出入りが可能なので、視察拠点から見ることができる出入口からすべての出入りを確認できるわけではない。

 犯人側もそういう物件を選んでいるのだ。

「あれっ、誰か残ってるんすかね?」

 夜の(とばり)が降りる頃、大輔が小さな声でつぶやいた。

 大輔が声を上げたのは、アジトの室内から光が漏れているのが見えるようになったからだ。

「宿直でもいるんでしょうか」

 山口も首をひねった。

「それにしてもずいぶん人工的な白い光すね。窓の縁の方ばっかり明るくて真ん中の方は暗いす」

「最近はLEDが普及しているから、人工的な明るさのところが増えましたね」

「あ、なるほど」

 結局、アジトの灯りは午後10時ちょうどに消えた。

 しかし、その後、誰かがビルから出る様子はなかった。

 翌日、翌々日もアジトの灯りは午後10時に消えた。

「めっちゃ几帳面な人なんすかね、毎日同じ時間に電気を消すなんて」

 無精ひげを伸ばした大輔が背伸びをしながらあくびをかみ殺した。

「こういう可能性は考えられませんか。いま、警察はアジトの特徴として『窓に目張りをしている』と考えています。それを逆手にとって、光が漏れる細工をすることで目張りがないと思わせる偽装工作かもしれない、と」

 山口も無精ひげが伸び顔が脂ぎっている。

「ていうことは、夜10時はタイマーで自動的に消灯しているんすね」

「あくまでも想像ですが」

「当たってるかもしれないすね」

 

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