ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

103 / 190
第23話 花開く時
パート1 突然の嵐 ☆


 

「皆さん、夏休みはいかがでしたか。

 本日から二学期、心を切り替えて勉学に励みたいところではありますが……」

 

 始業式。体育館に響く校長の声は浮かない。

 ごくりと唾をのむ生徒たちへ、仕方なさそうな通達が行われた。

 

「ニュース等でご存知の通り、大型の台風21号が近づいています。

 新学期早々に残念ですが、安全のために明日は休校といたします」

『やったー』

 

 少しだけ歓声が上がるが、大きくはならない。

 25年ぶりの「非常に強い」台風で、近畿を直撃するかもしれないルート。

 追加の休みも喜ぶ気になれず、皆は戦々恐々としていた。

 

 1-3の教室でも、不安と気休めの混じった会話が交わされる。

 

「とりあえず文化祭は来週で良かったよね」

「学校によっては今週文化祭やろ? 大丈夫なのかなあ」

「まだ地震の復旧も終わってないところには、泣きっ面に蜂やで」

 

 クラスメイトたちの視線は、先ほどから思いつめた顔の勇魚に向けられた。

 

「勇魚ちゃん、もし被害が出たらボランティアに行くの?」

「……行かなあかんと思う」

「もしそうなったら、スクールアイドルの方は……」

「ま、まあまあまあ! まだ分からへんやろ!」

 

 花歩が必死に明るい声を出して、希望的な観測を述べる。

 

「前にもすごい台風とか脅かしといて、実際は大したことなかった時あったやろ?

 今回もたぶんそんな感じやって!」

「そ、そうやね! ごめんね勇魚ちゃん」

「勇魚ちゃんは普段の心掛けがええから、きっと大丈夫や!」

 

 慰める級友たちに、勇魚は曖昧な笑みを返すしかない。

 防災の上ではこんな楽観的な思考は、良くないのは分かっているが……。

 

(お願い神様、勇魚ちゃんをいじめないで)

(予備予選は地震で、地区予選は豪雨で、デビューしようとしたら台風ってあんまりやろ)

(こんなに優しくていい子なのに……)

 

 花歩が祈っているとスマホが鳴った。

 今日の部活は中止にするという、部長からの連絡だった。

 

 

 *   *   *

 

 

「うわああ……やばい」

 

 翌日の午後、台風は神戸に上陸した。

 丘本家の窓にも、恐ろしい勢いで雨と風が叩きつけてくる。

 芽生の話によると、台風の東側が一番被害が大きいらしい。

 要するに大阪は最悪の状況ということだ。

 

「神様は勇魚ちゃんに何の恨みがあるんや……」

「自然に悪意も敵意もないよ。物理法則に従ってるだけや」

 

 冷静に言った妹は、眼鏡越しにじっと姉を見つめる。

 

「それより花歩、自分の方が心配なんとちゃうん」

「い、いやいやいや! 勇魚ちゃんが大変なときに、私の都合なんて」

「私しかいないところで取り繕ってもしゃあないやろ」

「うう……」

 

 芽生の視線からは逃れられず、花歩はベッドに伏して正直にわめく。

 

「勇魚ちゃんがライブに出られなかったらどうしよおおお!

 私一人でデビューなんて無理やあああああ!!」

 

 その嘆きも、外の暴風にかき消されていく。

 

 

 風雨の勢いが多少落ちてきた頃、つかさから部にメッセージが届いた。

 

『やばい』

『家が停電になった』

 

「ええ!? ちょっ、つかさちゃん大丈夫!?」

 

 慌てて返信を送ろうとしたところへ、部長を始めとして次々お見舞いが届く。

 花歩も送ったのと同時に、つかさは話を打ち切った。

 

『みんなありがと』

『スマホの電池が少ないから、切るね』

 

 これから充電も冷房もない家で明日まで過ごすなんて……。

 ニュースを見ると、かなりの広範囲で停電が発生しているらしい。

 とんでもない事態になってしまった。

 

 

 そして翌日、空は台風一過の晴天だったが……。

 

「ぎゃああ! 何やこれ!」

 

 登校しようとした花歩は今日も叫ぶ羽目になった。

 いつも使うバス停の屋根が、根元からぽっきり折れて道路側に倒れている。

 後から来た姫水と勇魚も唖然とするしかない。

 

「こんなことって起こり得るのね」

「も、もしかして公園も!」

 

 勇魚に言われて、道路を渡って長居公園を見に行く。

 少し中に入っただけで、一目で分かる惨状だった。

 大木があちこちで根元から倒れ、歩道がふさがれている場所もある。

 

「この分だと植物園も、しばらくは閉園でしょうね」

 

 東にある長居植物園の方を見ながら、姫水が残念そうに言う。

 気落ちしてバス停に戻り、台風の爪痕が残る街中を学校へと運ばれた。

 到着した校内も、木の枝やら葉やらが散乱している。

 

「つかさちゃん、大丈夫やった!?」

 

 三人で五組へ行くと、つかさが教室のコンセントで充電していた。

 

「おはよーっす。心配かけてごめんね」

「その様子だと、まだ復旧してないのね?」

「ま、まあね。関西電力もてんやわんやみたいや」

 

 姫水が心配してくれてちょっと嬉しいつかさは、照れ隠しで大げさに肩をすくめる。

 

「いやー、電気のない生活ってマジで辛いで。冷蔵庫の中身がやばいから、家族総出で必死で片付けたり」

「つーちゃん、直らなかったらうちに泊まったらええよ! 汐里も喜ぶで!」

「ん、ありがと。でもさっき夕理と話して、泊めてもらえることになったから」

 

 確かに家の近さを考えると、天名家の方がいいのだろう。

 早く復旧することを願いつつ、それぞれ自分の教室に向かう。

 

 

 そして3-5の教室では立火が怒っていた。

 

「あのタンカー、何してくれてんねんホンマ!」

「まあ酷い状況やけど、原因がはっきりするまでは叩かへん方が……」

 

 未波に言われるが、立火は憤りを抑えきれない。

 関西空港が水浸しになった上、連絡橋にタンカーが激突して使用不可能。関空は孤島と化した。

 インバウンド頼みの関西経済には、とんでもない打撃である。

 景子が難しい顔で腕組みして言う。

 

「黒門市場もガラガラらしいで。やっぱり外国人にばかり頼ってると、こういう時にあかんねんなー」

「こんなん誰も予想できひんわ!

 くそう。関空さえ使えていれば、来年くらいには東京の経済を抜いたのに……」

「どさくさに紛れて何言うてんねん! ダブルスコアで負けてるやろ!」

「あ、やっぱり?」

 

 立火がごまかし笑いをしている間に、教師が来て授業が始まった。

 後ろの席から、小声で未波が尋ねてくる。

 

「放課後は劇の練習はできそう?」

「……ごめん。うちの部、ちょっとピンチなんや」

「分かった。他の準備を進めとくから」

「堪忍な」

 

 

 *   *   *

 

 

「勇魚、時間がない。今すぐどうするか決めてもらう」

 

 放課後の部室。容赦なく詰問する晴の前で、勇魚が小さくなっている。

 可哀想になった桜夜と小都子が口々に援護する。

 

「ちょっと晴ー。いきなりそれはないやろ」

「台風が来て昨日の今日なんやから……」

「別に勇魚が被災したわけでもないやろ。あくまで本人の良心の問題や。

 選択肢は三つ。

 1、ボランティアには行かず、ライブに向けて練習する。

 2、ボランティアに行き、ライブは下手なまま参加する。

 3、ボランティアに行き、ライブは諦める」

「う、うちは……」

「お前が何を選んでも、私たちは全力でそれに応える」

 

 少し先走ってしまった晴は、冷静さを取り戻して部長に確認する。

 

「……ですよね、部長」

「その通りや。でも本人の選択だけでなくて、パートナーの意見も大事やろ。

 花歩、ちょっと二人で廊下に行って話し合ってきて」

「は、はいっ!」

 

 部長に言われ、皆の心配そうな視線を受けながら、花歩は勇魚と一緒に廊下に出た。

 声が聞こえない距離まで離れた途端、勇魚は必死な顔を親友に向ける。

 

「花ちゃん、うちがいなくても大丈夫!?」

 

 やはり、彼女の一番の心配はそれだった。

 

「勇魚ちゃん……」

「うちの前で遠慮や強がりは無しやで!

 別にうちがボランティアに行かなくても、きっと行く人は大勢いるんや。

 花ちゃんが不安なんやったら、うちは……!」

「でも、勇魚ちゃんは行きたいんやろ?」

 

 ずばり言われて、勇魚は言葉が続かない。

 花歩は優しい目で、親友の心を代弁した。

 

「勇魚ちゃんこそ遠慮はなしや。

 初めてのデビュー、納得いくものにしたいって言うてたやん。

 困ってる人を放っておくのも、十分練習できずにライブに出るのも嫌なんやろ?

 なら選択肢は一つしかないやろ」

「花ちゃん……」

 

 花歩は入学式の日を思い出す。

 あの時も一人で見学に行く勇気がなくて、目の前のこの子に泣きついた。

 でも最後は勇魚に頼らず部室に行って、立火の手を取ったのだ。

 

「私はただデビューしたいだけとちゃう。

 その他大勢でいたくないから、根性出してみる気になったんや。

 こういうピンチを乗り越えてこそ、私は主人公になれるんやと思う!」

 

 勇魚の大きな瞳が、頼れる親友の姿を映す。

 浮かびかけた涙を拳で拭いた後は、もう迷いは消えていた。

 

「分かった。うちは今本当にしたいことをする。

 少し遅れてまうけど、花ちゃんは先に行って待っててや!」

「うん! 勇魚ちゃんなら、きっとすぐ追いつくって信じてる!」

 

 二人でしっかりと手を取り合い、部室に戻って決断を告げる。

 了承されると同時に、勇魚は離脱してボランティア部へと向かった。

 

 八人になったWestaで、一人減った振り付けを皆で調整する。

 そうして勇魚の不在を実感していると、せっかくの花歩の主人公力も徐々にしぼんでくる。

 

(ううう……カッコつけたこと言っちゃった)

(この前のプールであんなんやったのに、私ほんまに大丈夫なんやろか……)

 

 花歩が一人でデビューするまで、泣いても笑ってもあと十日――。

 

 

 *   *   *

 

 

 暗くなる前に早退させてもらったつかさは、お泊りの準備をして夕理の家へ向かった。

 家の近い友達は他にもいるが、相手の親に気を使わずに済む点で天名家一択だ。

 今の夕理なら泊まったところで、その後の責任を考える必要もないだろう。

 

 実際、晩ご飯の席で夕理が話題にしたのは、他の子のことだった。

 

「部活が終わった後、ちょっと佐々木さんと話してきたんやけど」

「ほうほう?」

 

 夕理お手製のアジフライを味わいながら、つかさは面白そうに耳を傾ける。

 

==============================================

 

「さ、佐々木さんっ」

 

 ボランティア部で今後の打ち合わせを終え、昇降口に向かう勇魚を夕理が待っていた。

 少し驚いた勇魚の目は、申し訳なさそうな色に変わる。

 

「ごめん夕ちゃん。名前で呼んでもらうのは、もう少し先になりそうや」

「……うん……」

「夕ちゃん? 何か悩みごと?」

「その……ボランティア、私も、行かなあかんとは思うんやけど」

 

 これで三回目。さすがに良心の呵責に耐えきれなくなってきた。

 口先だけで正義を唱える自分に比べ、彼女は善行を重ねているというのに。

 だったら四の五の言わずに参加すれば良いのだが、ネットで読んだボランティアの心得に、尻込みせざるを得なかった。

 

『被災者の心情に寄り添った言葉や行動を心がけましょう』

 

(私には無理や……)

 

 周りを元気づけられる勇魚と違って、周りを不快にしてばかりの自分には。

 うつむいてしまった夕理に、勇魚はまず目の前の人物を助けるべく、明るく声を出した。

 

「夕ちゃん、ボランティアは義務感や罪悪感でやるもんとちゃうで!」

「う……うん」

「どうしても力になりたいなら募金したってや。

 そしてうちの分も、花ちゃんのこと助けてあげてほしい!」

「そ、それは当然や!」

 

 使命感を得た夕理が、顔を上げて力強く断言する。

 

「花歩は私のとっ……友達やねんで!

 絶対にデビューを成功させるから、佐々木さんは安心して行ってきて!」

「うんっ! 今回はこっちで頑張ってくる。

 そして次の京都でのライブでは、うちも今度こそデビューするで!」

 

 そこで披露されるのは『なにわLaughing!』。

 本人には内緒だけど、勇魚のことも考えながら作った曲だ。

 今度こそ天災がないことを祈りつつ、夕理は心の中で練習した。

 USJでの約束を守るために。

 

(頑張ってや……勇魚!)

 

==============================================

 

「うーん、二人とも偉いなあ」

 

 ボランティアなんて行く発想すらないつかさは、呑気に味噌汁をすすりつつ感心した。

 

「夕理の人間関係、着実に進歩してんねんな」

「うん……少し延期になったけど、ちゃんと佐々木さんとも友達になれると思う」

 

 だからこそ、つかさも依存されないと信じて泊まりに来てくれたのだ。

 このまま余計なことを言わなければ、普通の友達として楽しい夜を過ごせる。

 過ごせるのだけど……。

 一番大事なことを、触れずに逃げるわけにはいかなかった。

 

「つかさの人間関係はいつ進歩するんや」

「……また藤上さんの話?」

「夏休み一杯を費やして、結局プールに行っただけやないか」

 

 目標は達成できたが、あれで姫水との仲が進展したとは思えない。

 二学期もこのまま、曖昧に何も変わらない状況を続けるつもりなのか。

 つかさは一体どうしたいのか、いい加減はっきりして欲しい。

 そう目で訴える夕理にも、つかさはごまかし笑いを返すだけだった。

 

「まあ、文化祭で何か起こりそうな予感はしてるんやけど」

「予感って……そんなん当てにしてもしゃあないやろ」

「いやいや、あたしの女の勘ってよく当たるから」

 

 つかさはリモコンに手を伸ばし、話を打ち切るようにテレビをつける。

 ニュースはどこも台風の話だ。

 

「うわ、車めっちゃ引っくり返ってる。これ、前に行ったコスモタワーの近くやろ」

「……そうやな」

 

 そうして少しぎくしゃくしつつ、二人きりの夜は更けていった。

 就寝後、来客用の布団から聞こえる寝息に、ベッドの夕理は頭の中で呟く。

 

(私はつかさに、幸せになってほしいだけなんや……)

 

 いつか心置きなく、つかさと二人の時間を過ごせる機会はくるのだろうか。

 それとも全てが解決した時には、つかさは姫水の家に泊まりに行ってしまうのだろうか……。

 

 

 *   *   *

 

 

 翌日。今日も長居組はバスを待ちながら暗い顔である。

 

「今度は北海道で地震って……今年ほんまにおかしいやろ」

「勇魚ちゃん、そっちも行くの?」

「さすがに北海道は無理や。大阪で頑張る。

 去年の九州の水害も、交通費を考えたら募金した方がいいって話になったんやって」

「確かに、それはそうよね」

 

 倒れたバス停の屋根は撤去されてしまい、今後の雨の日を思うとますます憂鬱になる。

 バスに乗り込んでから、気を取り直すように姫水が部の状況を話した。

 

「FFFのパートナー役、私がやることになったわよ」

「そうやったん? 姫ちゃんなら安心やね!」

「いやー、あんまり釣り合いが取れてへん気もするけど……」

 

 文化祭のステージは二曲。

『羽ばたけ! スクールアイドル』の方は、元から両端に二名追加しただけの振り付けなので、一名減っても大した問題はなかった。

 

 問題は花歩と勇魚がかなり目立つ『フラワー・フィッシュ・フレンド』の方。

 勇魚の代役は姫水が立候補し、花歩の相方を完璧にこなした。

 姫水が抜けた部分も何とか調整し、修正は一日で完了。

 むしろ下手くそな勇魚が抜けたことで、ライブ全体の完成度は上がったのは皮肉である。

 もちろん部員たちは、晴ですらそれを口にはしなかったけれど。

 

「勇魚の不運も、すべては美しさに嫉妬した神の意地悪! 堕天の力で対抗するわよ、リトルデーモン!」

「わー! ヨハネ先輩やー!」

「姫水ちゃん、全国行って演技に磨きがかかったよねえ」

「あはは。姫ちゃん、くれぐれも花ちゃんを頼むで! あれ、でも衣装は……」

「勇魚ちゃんのを使うわよ」

 

 姫水が作った花の衣装はお蔵入り。勇魚が作った魚の衣装を、丈を直して使うことになった。

 衣装だけでも、あなたをステージへ連れていく。

 そう言われて、勇魚は嬉しそうにはにかんだ。

 

 

 二人だけのランチで、夕理は箸を動かしつつ力説した。

 

「夏休みにあれだけ練習したんや、技術的にはもう十分やと思う。

 せやからあと九日間、花歩は頑張ってメンタルを鍛えるべきや」

「それやんなあ。どうしたら緊張しなくなるんやろ」

 

 慣れようにも、本番と同じ状況はそうそう作れない。

 なので道行く人を野菜と思い込む練習とか、そういうことはしてきたのだが、あまり意味はなかった気がする……。

 

「こういうのは科学的にやらなあかんねん。図書館で色々本を借りてきたから、今日の放課後から特訓やで!」

「ありがと夕理ちゃん。わざわざごめんね」

「べ、別に、ライブを成功させるためや」

 

 照れてご飯をかきこむ夕理は、今の花歩には本当に心強い。

 彩谷家の停電は午前に復旧したそうなので、これで憂いなく練習に打ち込める。

 つかさ、練習……。

 花歩の箸が少し止まってから、ぽつりと尋ねる。

 

「技術的には十分って話やけど、つかさちゃんには追いつけてると思う?」

「え」

 

 夕理は一瞬固まるが、婉曲ながらも正直に答えた。

 

「まあ、元々のスペックの差もあるから……。

 でも、差は縮まってきてると思うで」

「そっか、まだまだ足りてへんかあ。あのね夕理ちゃん」

 

 笑う花歩は、自分でも上手く笑えてないなと思った。

 それでも、動く口はもう止まらない。

 

「私はつかさちゃんのこと好きやで。

 それだけははっきりした前提として、敢えて言うんやけど」

「うん……」

「夏休みに週二しか練習に来なかった子には、絶対負けたくない」

「……花歩……」

 

【挿絵表示】

 

 案の定、夕理を困らせてしまった。

 つかさは何も悪くないし、今も花歩の憧れだ。

 こんなことを言う自分の方が嫌な子かもしれない。

 でもやっぱり、努力が才能に勝てないのは悔しいのだ。

 

「ほ、ほら。私がつかさちゃんに勝てたら、向こうもやる気になるかもやろ?

『あたしが花歩ごときに負けるなんて! きー!』みたいな感じで」

「……つかさに限ってそれはないと思う」

「そうやね……」

 

 花歩も言ってて望み薄とは思う。

『え、あたしに勝ちたい? どーぞどーぞ。何なら手え抜こか?』とか平気で言う子だ、つかさは。

 だからこれは、単なる勝手な自己満足だ。

 

『別にフツーで良くない?』

 

 いつかの冷めきった声は、今も耳に残っている。

 そして今なら、はっきりと言い返せる。

 

『良くない!』

 

 勇魚がいなくても、いや勇魚がいないからこそ。

 必ず大輪の花を咲かせて、自分が望む自分になるのだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。