パート1 つかさ、部活やめるってよ ☆
「なんで、本気でやらへんの……?」
その問いに、つかさは皮肉めいた笑いを返す。
必要以上に唇が歪んでいるように、花歩には見えた。
「気軽に楽しめばいいって話やったのに、結局そういうこと言われるんやな。
あたし、ますます部に居辛くなるなあ」
「ち、ちゃうっ……! 責めてるのとちゃうねん!」
夕暮れの中、花歩は慌てて弁解する。
「純粋に疑問なだけ!
だってつかさちゃんが本気になれば、私なんて簡単に突き放される。
きっとファンも大勢ついて、大人気になって……」
「買い被りすぎやって」
「でもっ……!」
「買い被りすぎ」
つかさは花歩を見ようとはせず、暗い目で校庭を眺めていた。
祭の後の、線香花火のような時間を精一杯楽しむ生徒たちを。
「花歩とは人種が違うんや。
ううん、あたし以外のWestaのみんなとは、あたしは人種が違う。
何かに打ち込んだり、目標に向かって頑張るなんて、あたしには一生できない」
「でもつかさちゃん、クラス中を敵に回しても夕理ちゃんと友達になったやないか!」
花歩は必死で食い下がる。
三年前のことを持ち出して主張する。憧れのあなたは、輝きを持った人のはずだと。
「私が最初に憧れたのは、その話を聞いたときや。
そんな子と同じ部活になれて、私はほんまに嬉しくてっ……」
「ちゃんと、夕理の話聞いたの?」
「う、うん。一年間、二人きりで過ごして」
「その後の話」
「??」
混乱している花歩に、つかさは苛立たしげに紙コップを潰す。
吐き捨てるように言った声は、悲鳴のようにも聞こえた。
「あたし、最終的には夕理を裏切ったんやけど!?」
――数秒間固まってから、花歩は弱弱しく反論した。
「そっ……それは仕方ないやろ。クラスが別になったから……」
「仕方ない? 自分の保身を優先させたことが?」
完全に地雷を踏んだことを花歩は自覚する。
早口になったつかさは、矢継ぎ早に仮定を並べていく。
「アンタが大好きな部長さんやったら、絶対に夕理を裏切ったりしなかった。
小都子先輩でも、藤上さんでも、勇魚でも、絶対に裏切ったりしなかった。
だいたいクラス中を敵に回したって、まるで良いことみたいに言ってるけど。
敵に回さずに、夕理とクラスの子を取り持った方がずっと良かったやろ!?」
「い、いやでも夕理ちゃんは難しいと思うで……まして中一の時に……」
「部長さんならきっとできた!」
見事な反論の封じ方だった。
花歩に立火を下げることなんて言えるわけがない。
いや、それ以前に、悲痛な顔のつかさを見たら何も言えない。
いつも器用で、飄々として、悩みなんてなさそうだった彼女が、そんなことを考えてたなんて……。
「……ずっと気に病んでたの? 罪悪感持って……」
「まさか! あたしそこまで善人とちゃうわ。
ただ、自分の限界を思い知っただけ。
あたしは、しょせんその程度の人間なんやって。
できもしない背伸びをするより、最初から身の丈に合うことだけしてたらええんやって……」
つかさの語尾が消えていく。
喋りすぎた、と後悔しているようだった。
『別にフツーで良くない?』
あの言葉の裏にあったのが、そんな想いだったのなら。
それは悲しいこととしか、花歩には思えない。
「ね、ねえ。夕理ちゃんのためにも、そういう考えはやめない?
結果がどうあれ、夕理ちゃんは今でも深く感謝してるやないか。
あの出来事をつかさちゃんの限界にしちゃうのは、夕理ちゃんも不本意やろ……」
「別にどうでもええわ。あたしもう部活辞めるし」
「!!?」
投げやりな爆弾発言に、花歩は自分の耳を疑った。
「な、何言うてんの!? 冗談やろ!?」
「冗談でこんなん言えると思う? 休み明けに退部届を出すつもり」
「わ、私のせい!? ごめん、謝るから!」
「……別に花歩のせいとちゃうって。前から考えてたことやから。
もう飽きたんや。あたしにしては長く持った方やろ」
「夕理ちゃんは知ってるの!?」
「言ってない。言う必要もないし」
絶句している花歩の前で、つかさは立ち上がって土を払う。
上から見下ろす目は、もう何の熱も持っていなかった。
「デビューの余韻をぶち壊しにしてごめん。
でも花歩も悪いんやで。無神経にずかずか踏み込んでくるから」
「ま……待ってよつかさちゃん! 考え直して! 何でもするから!」
「なら花歩に何ができんの」
足にすがりついてくる花歩の手を、つかさの冷ややかな声が蹴り飛ばす。
「デビューに成功して皆から愛された花歩ちゃんは、あたしの退部を止めるために何ができるんや?」
「それ……は……」
「何もできひんやろ。だから身の程をわきまえろっての。
前にも言うたけど、スクールアイドルなんかいくら頑張ったって、実生活の役には立たへんねんで」
悔しくてどうにかなりそうだった。
今日まで必死で頑張ってきたことを、頭から馬鹿にされて否定された。
ようやく同じステージに立てた仲間から!
だが怒っている場合ではない。自分に力がないのはその通りだ。
花歩は歯を食いしばって、懸命に頭を巡らせた。
立ち上がり、プライドを投げ捨てて言い放つ。
「ゆ……夕理ちゃんに言うからね! 先輩たちにも!」
「はあ!?」
立ち去ろうとしていたつかさの目が、振り向いて花歩をにらみつける。
「何それ、チクるってこと!?」
「どう思われても構わへん! 私が今できることをするだけや!」
(こいつ――!)
結局最後まで、花歩を見くびっていたのかもしれない。
何もできない奴だと思ってたのに。自分の手に負えないと見るや、即座に他人に振ると決断した。
こういうのが花歩の怖いところなのだと、今さら気付いたが……
「か、勝手にしたらええやろ! 知るのが早いか遅いかだけや!」
きびすを返し、つかさは足早にその場を離れていく。
花歩の目から逃れるように、夕闇の中へ消えた。
つかさが見えなくなってから、花歩はぱしんと両手で頬を叩く。
まずは夕理を探そう。一番に知る権利があるはずだ。
が、校庭を探し始めた途端、まず会ったのは晴だった。
後夜祭に興味はなく、もう帰るところのようだ。
「晴先輩! 夕理ちゃん見ませんでした?」
「あっちの方で、小都子と線香花火に興じてたで」
「あ、そうですか……」
「……何かあった?」
「い、いえ……」
頭が少し冷静になる。
せめて祭の最後くらいは、夕理には心静かに楽しんでほしい。
他の先輩たちも同じこと。ずっと楽しみにしてきた文化祭なのだから……。
「後でメールします。絶対読んでください」
「分かった。委細漏らさず報告するように」
事の重大性を察したのか、晴は厳命して帰っていった。
ほうと息をついていると、手を振って近づいてきたのは1-3の生徒たちだ。
「丘本さーん、駄菓子ちょっと余ったから食べる?」
「あ、うん。もらおうかな」
「縁日、なかなか楽しかったよね」
「丘本さんのライブも良かったで」
「えへへ、どうもありがと……」
駄菓子の中からきなこ棒を選んでいると、一人が不思議そうに質問した。
「ていうか私たち、いつまで丘本さんを苗字で呼んでるん?」
「言われてみれば……」
きょとんとする級友たちには、特に悪意や隔意はない。
今までは呼び方も気にされない程度の存在だったのが、今日変わっただけだ。
花歩は思わず笑いながら、冗談めかして言う。
「いやあ、私もいつ名前で呼んでもらえるんやろなーって思っててん」
「もー、言うてくれたら良かったのに」
「花歩ちゃん。あの本気のMC、心に響いたで」
「私たちも花歩のこと応援するから!」
「う、うん……ありがとう……!」
つかさのことは心配だけど、今だけ。
今だけは許してほしい。
ようやく手に入った成果なのだから。
胸を詰まらせながら、明るく声を張り上げる。
「次は勇魚ちゃんのデビューや! 再来週のライブ、みんなも応援してあげてや!」
「もっちろん!」
「うちのクラス、アイドルが二人もいるなんてお得やなー」
つかさが辞めるなんて聞いたら、勇魚がどれだけショックを受けるか分からない。
親友が笑顔でデビューするためにも、絶対何とかしないと。
決意の中で、激動だった文化祭は幕を下ろしていく。
* * *
翌朝、起きたつかさはスマホを見てうんざり顔をする。
花歩は宣言通りに、夕理に全てを告げたようだ。
『つかさ、話がしたい』
『お願い、返事をして』
昨日の夜から、これで三度目のメッセージ。
夕理としては本当ならこの十倍は送りたいところを、自制心で押さえつけているのだろう。
さすがにブロックは可哀想なのでしないが、かといって話すことなどない。
(先輩たちからは、今のところコンタクトはなしか……)
今日は日曜で、明日は敬老の日。
本来なら文化祭の疲れを癒す期間なのに、もし悩ませているなら申し訳なくなる。
でも自分は休み明けに伝えるつもりだったのだから、花歩が全部悪い。
(ていうか、もうスマホから離れたい)
(誰もいない遠くに行きたい……)
どのみち家にいたら、いずれ夕理が押しかけてくるだろう。
スマホの電源を切って机の上に放置し、財布だけ持って部屋を出る。
玄関で靴を履いていると、後ろから姉が声をかけてきた。
「つかさ、どこか行くん?」
「ちょっと
「えらい遠くに行くんやねえ。……車に気いつけるんやで」
「うん……夕ご飯までには帰るから」
つかさに元気がないのは気付いただろうけど、姉は何も言わずに見送ってくれた。
(能勢って行くの初めてやけど……確かケーブルカーか何かがあったっけ)
漠然とした頭で、傷心のつかさは大阪府北端の田舎へ向かう。
* * *
上級生四人は、難しい顔で立火の家に集まっていた。
文化祭の楽しかった気分は吹っ飛び、まさに天国から地獄である。
スクールアイドル部最大のピンチに、桜夜が現実逃避気味にへらへら笑う。
「な、何かの間違いとちゃうの? いくら何でも唐突すぎるやろ?」
「でも、花歩ちゃんがここまで詳細に書いてくれてますし……」
小都子が示したスマホには、花歩が送ってきたテキストがある。
自分にできる精一杯として、後夜祭での会話を記憶の限り書いてきたのだ。
つかさのやさぐれた発言の数々には驚かされたが……
逆に言えば自分たちは、今までつかさを何も分かっていなかったということだ。
「ううぅ……」
「立火!?」
それまで耐えていた立火が、糸が切れたように畳に突っ伏す。
桜夜が訪れた時から、目に見えて憔悴していた。
部長として居場所を作ってやれず、熱くさせることもできず、とうとう退部を決意させてしまって。
ずっと頑張ってきたことが全て無意味だったようで、立火は力なくうめく。
「私はどうすれば良かったんや。
つかさともっと話をすれば良かった?
つかさが喜びそうなところに連れて行けば良かった?
もっと練習を減らせば良かった?
もう……何が正しいのか、私には分からへん……」
桜夜と小都子が言葉を失う一方、晴はいつものように冷たく答える。
「つかさ一人のための部ではないし、媚びたところで仕方ないでしょう。
私たちの目標は全国大会であり、ついて来られないなら切り捨てるしかない。
……が、そう諦めるのは誰でもできることです」
おっ、と桜夜が期待に満ちた目を向け、立火も少しだけ顔を上げる。
つかさを諦める気のない参謀は、座布団の上で居ずまいを正した。
「前向きに考えましょう。
どのみちつかさの退部は、いつかは避けられなかった。
ステージを降りたら雑用するなんて言ってましたが、私がいる限り雑用の仕事はあまりない。早晩来なくなったでしょう」
「そういえば……天神祭の日にも言うてたで。飽きっぽいから、来年まで続くかは分からないって」
「小都子、そんな重要な話は先に言ってくれ」
「ご、ごめんね。でも当分先の話で、冬のラブライブは頑張ろうとも言うてたんや。なのに何でこのタイミングで……」
「やっぱり、文化祭で何かがあったんやと思う」
それが何かは晴にもさっぱりだが、原因があるなら糸口にもなるはずだ。
「徐々にフェードアウトされるくらいなら、今みたいに明確に表面化した方がいい。
上手く解決さえできれば、逆につかさは部に定着してくれるかもしれない」
「解決いうてもなあ……結局原因は何なんや……」
立火は何とか身を起こすが、未だに顔は浮かない。
花歩との会話では『飽きた』の一言で、それだともう解決のしようがない。
だが晴の言う通りなら、他に言ってない何かがあるのだ。
どこかにヒントはないかと、目を皿にして会話録を読み直す。
『部長さんなら夕理を裏切ったりしなかった』
(こう評価してくれてるなら、少なくとも嫌われてはいなかったんやろか)
(まあ、花歩への当てつけで言うただけかもしれへんけど……)
立火が内心ひとりごちていると、全員のスマホが鳴る。
一番に反応した小都子が叫んだ。
「夕理ちゃんからや!」
まず夕理が話させてくれというので、自分たちは連絡を控えていたのだ。
……が、ようやく来た報告には特に進展はなかった。
『つかさのスマホは電源が切られています。
直接訪問しましたが、お姉さんの話では能勢に行ったそうです』
「つかさにしては渋いとこ行ったんやなあ」
桜夜は呑気に言うが、他の三人はますますいぶかしむ。
シティガールのつかさが、何故このタイミングでそんな山の方へ行ったのか。
単に面倒になって辞めるだけなら、むしろせいせいしたと都会で遊ぶはずでは――。
「やっぱり、直接話さな分からへん。夜に帰ってきたら私も行ってくる!」
「部長はやめてください。そう思いつめた顔で行ったら向こうも構えます」
「……そんな顔してる?」
「してます。それに以前もバイト帰りを待ち構えて話したそうですが。
今の状況を見る限り、つかさの深層には全く立ち入れなかったという事ですよね」
「ぐあああ……私はダメな部長や……」
「し、しゃあないですよ、つかさちゃんて気持ち隠すの上手そうやし。も~晴ちゃん~」
「悪いが部長の心情に配慮する余裕はない。ということで、桜夜先輩を推薦します」
「私!?」
思わず自分を指さす桜夜に、立火はすがるように手を伸ばす。
「頼む桜夜、つかさの話を聞いたってや。たぶんアホの方が話しやすいはずや」
「アホは余計やろ! うーん、つかさ、私に心を開いてくれるかなあ」
「桜夜先輩、つかさちゃんと趣味が合ったやないですか。よくおしゃれの話をしてましたし」
「まあねえ」
小都子にも保証されて、桜夜も仕方なくうなずいた。
正直に言うと訳も分からず辞めると言われ、立火をここまで傷つけられて、何やねん!と思う気持ちもある。
とはいえ可愛い後輩に違いはないし、このままサヨナラだけは絶対に嫌だ。
立火の母が出してくれた麦茶を飲んで、桜夜はひとまず息をつく。
「じゃあ夜までどうする? いったん解散?」
「せっかく集まったんですし、お勉強会にしませんか」
「ええー!? 文化祭が終わって休めると思ったのに」
小都子の提案に桜夜は渋い顔だが、立火の目には決意が戻る。
「逆や逆! 今まで文化祭で忙しかったからこそ、遅れた分を取り戻さな。
……私はまだ全国を諦めてへん。後で部活に注力できるよう、今は勉強や」
「うー……分かった」
「私も手伝いましょう」
「え、晴も見てくれるの? 珍しい」
「私も全国は諦めてませんので。お二人の受験が上手くいってもらわないと困ります」
無表情でさらりと言う晴に、他の三人に少しだけ笑顔が戻る。
不安を押し殺して、今はできることを進めていく。
* * *
能勢電鉄の終点から20分歩いて、ケーブルカーに乗る。
山の中腹の広場に降りて、リフトに乗り換え空中を散歩した。
周りはハイキングの家族連ればかりだ。
(女の子一人でリフトに乗ってて、変に思われるやろか……)
(藤上さんと一緒やったら楽しかったのになあ)
(藤上さんなら、こういう場所も似合いそうやし……)
(って、あかんあかん! もう、あいつのことは忘れるんや!)
勢いよく頭を振ったせいで揺れるリフトに、慌ててしがみつく。
この五か月間、あの女に振り回され、ひたすら空回りして、本当に馬鹿げた日々だった。
過去に戻って自分に忠告してやりたい。
『このまま進んでも、あいつが他の子を特別扱いするのを見るだけやで』って。
(最初から会わなければ良かった)
(会わなかったことにしたい……)
リフトを降り、北極星を祀る能勢妙見にお参りすると、もうやることがなくなってしまった。
仕方なくリフトで戻ってきて、広場の隅に腰を下ろす。
観光用のミニ列車で、子供たちがはしゃいでるのが見える。
(藤上さん……)
(あたしが辞めたら、少しは残念がってくれるやろか……)
膝に顔を埋め、時に肩を震わせながら、誰も知る人のいない場所で夕方まで過ごした。
「ただいまー……」
電車で一時間揺られ、家に帰ってきてみると……
「こんなに可愛い先輩がいて、つかさは幸せ者やねえ」
「もーおばちゃん、お上手なんやから!」
ツインテールの先輩が、居間で両親と談笑していた。
「何してんすか!?」
「あ、おかえり。お邪魔してるでー」
「桜夜ちゃん、夕ご飯食べてったらええわ」
「ほんま? やったー!」
(厚かましすぎやろ!)
夕理なら遠慮して来られない時間帯に、平然と乗り込んできた。
これだからアホは恐ろしい。
親も親だ。ゆるい両親なのでいつもは助かってるが、こういう時は厳しくしてくれても……
「桜夜ちゃん、砂糖いくつ?」
「飲み物はいいから! 後にして!」
コーヒーを持ってきた姉をすり抜けて、桜夜を自室まで引きずっていく。
部屋に入れたくはないが仕方ない。
翡翠のブローチは……大丈夫、しまってある。
「ここがつかさの部屋かあ」
「ジロジロ見ないでください。用が済んだらすぐ帰ってくださいね!」
「もっと早く来てれば良かったなあ。
……私、一年生大好きなのに。まだ姫水の部屋にしか行けてへんねんな」
(くっ……!)
本人にその気はないのだろうけど、精神攻撃を食らわされた。
ここで部を辞めたら、姫水を部屋に招くことも招かれることも永久になくなる。
……だが続けたところで、どうせそんなイベントはないのだ。
嫌そうな顔のつかさを見て、桜夜はおずおずと聞いてくる。
「まだ信じられへんけど。ほんまに本気なん?」
「本気ですし説得しても無駄ですよ。
去年だって大勢辞めたんでしょう? いいじゃないですか一人くらい。
無理に引き留めて辞めさせないのって、一種のブラック部活なんですけど?」
「……ぐすっ……」
(いきなり泣く!?)
躊躇なく最大の武器を使ってきた。
しかも計算ではなく、本能で泣いてくるのだからタチが悪い。
「うちの部、そんなに嫌? 私たちと一緒に過ごしてきて、何も楽しくなかった?」
「……それなりには楽しかったですよ。先輩たちのこともまあまあ好きです。
でも、それだけっす」
「立火、めっちゃ悩んでる。自分が部長としてあかんかったんやないかって……」
「それは……あたしがチャラいだけですってば!
全国目指すんでしょう? 先輩たちみたいな立派な人とは違うんです!」
「わ、私も練習嫌いやし、辞めようと思ったこともある。つかさの気持ちも分かるで?」
「でも続けてるのって、部長さんのためですよね?」
「……うん……まあ」
「あたしには……そういう相手はいませんので」
ぐすん、と鼻をすすって、桜夜は後輩の顔を覗き込んでくる。
本当に可愛らしいのが無性に腹が立つ。
「夕理はちゃうの?」
「今の夕理は、あたしより花歩の方が好きなんじゃないですかね」
「そうは見えへんけどなあ……。
そうや、だったらつかさは私を好きになったらええやん!
部活続けてくれたらデートしてあげるで! これならやる気になるやろ!」
「どんだけ自意識過剰なんですか! ああもう、何でこんな人が藤上さんと仲良く――」
「え?」
「!!」
しまった! 慌てて口をふさぐがもう遅い。
桜夜は不思議そうな顔をしてぐいぐい詰め寄ってきた。
「姫水? 姫水が何か関係してるの?」
「何でもないです気のせいです! もういいでしょ帰ってください!」
「やっぱり仲悪かったん? 姫水めっちゃいい子なのに……」
「関係ないですってば!」
背中を押して、どうにか桜夜を部屋の外に追い出した。
やはりというか、部員たちは情に訴えて引き留めにかかってくる。
絶対流されるわけにはいかない。粛々と退部届を出さないと……。
と、階下から桜夜の声が聞こえてくる。
「おばちゃーん、今日の夕ご飯なに?」
「おでんやでー」
「やったー!」
(食べてくんかい!)
* * *
桜夜『姫水が原因とすると、やっぱりマウント取られるのが嫌やったんやろか』
立火『上手くやってくって言うてたし、やれてるように見えたんやけどなあ』
小都子『内心で積もり積もったものがあったんでしょうか……』
晴『だとしても何故このタイミングで? という疑問は残りますね』
桜夜からの情報に、トーク上の先輩たちは見当違いの推理を繰り広げている。
唯一正解の分かる夕理としては心苦しいが、つかさの許可なく明かすわけにもいかない。
ずっと姫水が好きだった、なんて。
(それにしても、やっぱり文化祭で藤上さんと何かあったんやな)
(明日、絶対聞き出さないと)
そう決意していると、花歩から夕理だけにメッセージが来た。
『私も何かしたいんやけど、何も思いつかへん……』
『ごめん夕理ちゃん、つかさちゃんのことお願いや』
友達から頼られて、意気込んで返信を送る。
『当たり前やろ、つかさを何とかするのは私の役目や』
『誰にも譲る気なんてないから、安心して待ってて!』
そう大口を叩いたものの、後から不安になってくる。
理はつかさの方にある。
部活動は自主的にやるもので、いつどんな理由で辞めようが個人の自由だ。
まして夕理には、無理に入部させたという負い目もある。
だが今それを考えても仕方ない。
つかさが入部してからの五か月間が、自分たちの間で無意味だったなんて思いたくない。
とにかく今の気持ちを、正直にぶつけてみよう――。