ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート3 Saras&Vati始動 ☆☆

『フラワー・フィッシュ・フレンド 私たちは友達

 フラワー・フィッシュ・フレンド 輪になって踊るよ』

 

 日が変わり日曜日。

 台風から回復した長居公園で、勇魚は花歩に頼んで、さっそく練習に付き合ってもらった。

 今までの苦戦が嘘のように、歌に合わせて体が動く。

 観客の姫水が、感動しながらスマホで撮影している。

 

『フラワー・フィッシュ・フレンド!』

 

「やったで勇魚ちゃん!」

 

 曲が終わると同時に、花歩は隣の親友に抱き着いた。

 姫水も拍手しつつ、目を潤ませて歩み寄る。

 

「本当におめでとう。いよいよ私たち、同じステージに立てるのね」

「えへへ……二人ともほんまおおきに! 何もかも胡蝶先輩のおかげや!

 でも、うちはまだスタートラインに立ったばかりや! もう少し練習に付き合うてくれる?」

『もちろん!』

 

 散歩する人の視線を浴びつつ、しばらく練習した後、先日再開した植物園へ行った。

 彼岸花が真っ赤な花びらを広げている。

 Westaもこの花のように、もうすぐ情熱の炎が完全に開くのだ!

 

 

 帰宅した姫水は、先ほどの動画を部のグループに送ろうとする。

 が、その前につかさから写真が届いた。

 何やらノートPCを持って、夕理と一緒に自撮りしている。

 

『中古で買うたで!』

『晴先輩には頼れへんから、Saras&Vatiの曲や動画作りはこれでやるんや』

『どうや、恐れ入ったか!』

 

(彩谷さん、構ってちゃんみたいになってる……)

 

 仕方ないので何か返信することにする。

 ライバル役としては、少し煽ることでも書いた方がいいのだろうか。

 

『おーーっほほほほ! その程度で私に勝てるつもり!?

 せいぜい悪あがきを楽しませてもらうわ!』

 

(って悪乗りしすぎね。もう少し端的かつ偉そうに)

 

 文章を消して、短く直して送信した。

 

『せいぜい頑張ることね』

 

 

 こんな文章でもつかさは嬉しいらしく、スマホを胸に抱きしめている。

 複雑な横目を向けながら、夕理は取り出した楽譜を渡した。

 つかさがノートPCを起動するのを、後ろから覗き込んで尋ねる。

 

「ほんまに打ち込みできるようになったん?」

「いけるいける。昨日の夜にだいたい覚えたから」

 

 相変わらず器用である。

 夕理がやっても良かったのだが、ユニットの責任は自分にあるから……と、つかさが譲らなかったのだ。

 

「まあ……岸部先輩が卒業したら、どのみち誰かがやらなあかんからね」

 

 ふと口をついた夕理の言葉に、一瞬微妙な空気が流れる。

 晴が卒業する頃どころか、来年姫水が東京に戻ったら、つかさは部活を続けられるのだろうか。

 姫水のことしか頭にないのに。

 

(言うてもこの前あんなに迷惑かけて、また辞めるとは言い辛いなあ……)

(ま、その時に考えたらええか)

(姫水が現実感を持てないままなら、東京へは帰れへんのやし……)

 

 それを望んでいるのかいないのか、よく分からないままに、つかさは音符を打ち込んでいく。

 

 

 *   *   *

 

 

 翌日は秋分の日。

 

 世界最大級の水族館こと海遊館の前は、今日も大勢の人々が行き交う。

 うち何割かの目は、少し離れてたたずむ二人の少女へ向いた。

 アイドルの衣装をまとい、片方はバイオリンを手にしている。

 

「やるで、夕理」

「うん」

 

 土曜に持ち帰ったファーストライブの衣装で、二人は大きく声を張り上げた。

 

「こんにちは! あたしたちはスクールアイドルWesta内ユニット、『Saras&Vati』です!」

「今日はこちらへ辻ライブに来ました! 良ければ聞いていってください!」

 

 そして手伝いに来た奈々も、営業スマイルで群衆に呼びかける。

 

「このユニット、今日がデビューやねん! ほんまお得やからぜひ聞いてー!」

 

 何人かが足を止め、興味深そうに近づいてきた。

 晶がノートPCを操作し、部から借りたスピーカーが曲を流し出す。

 同時に夕理の弓が弦を弾き始めた。

 この時ばかりは、バイオリンを習わせてくれた親に感謝する。

 

『巡る神秘のアクアリウム 深海の底はオトナの時間』

 

【挿絵表示】

 

 つかさのリズミカルなダンスに引かれ、徐々に観客が集まってくる。

 彼女のキャラに合わせた、オシャレでちょっぴりアダルティな曲。

 Westaではできそうにないだけに、夕理も作曲の幅を広げられた。

 

『大胆なシャチのように アナタのハートを華麗にハント! WA-WA-WA-WAO!』

 

 奈々と晶が撮影し、夕理は演奏しながら歌い、つかさは全力でソロダンスを魅せる。

 宣伝効果を考えて少し長めに、三分間の曲を終え……

 深くお辞儀する少女たちに、十数名の観客から拍手が送られた。

 

「ありがとうございました! WestaとSaras&Vatiをよろしくお願いしまーす!」

 

 

 *   *   *

 

 

「二人ともほんまおおきに! ここはあたしのおごりや!」

 

 隣のマーケットプレースにあるカフェで、つかさは手もみしながら協力者をねぎらった。

 いやいやと手を振りつつ、晶は少し心配そうだ。

 

「バイト辞めたんやろ? このノートPCも買うたのに財布は大丈夫?」

「実はちょっと厳しい……けどこの先あんまり使わへんから!」

 

 二人の会話に、夕理は例によって入れず静かにしている。

 そしていつもは賑やかな奈々が、今日は難しい顔で押し黙っていた。

 つかさが恐る恐る話しかける。

 

「あの……奈々?」

「藤上さんといがみ合ってるって、ほんまなん?」

「うっ……」

 

 さっきは心を押し殺して協力してくれたものの、奈々の望む状況ではないようだ。

 少し体を引くつかさを問い詰めるように、共通の友人は身を乗り出した。

 

「私は二人とも大好きやから、ちょっと板挟みの気分や。

 ねえ、藤上さんのどこが気に入らへんの!? 何なら私が取り持って……」

「ま、待って! そういうのとちゃうから!」

「なら何やねん! 私、ここ数日ずっと悩んでたんやで!」

「つかさ」

 

 ブラックコーヒーを飲む晶が、仕方なさそうに進言した。

 

「これからも手伝ってもらうんやろ? 正直に話したら?」

「うう……めっちゃ恥ずかしいけどしゃあない。

 絶対に内緒やで? 実は……」

「ふんふん」

 

 ………。

 

「ええー!? ほんまは好き!?」

「しーっ! しーっ!」

 

 必死で制止され、奈々も慌てて口をふさぐ。

 レモネードを飲んで一息入れてから、改めて疑問の目を向けた。

 

「なら何で争うことになってんねん。ツンデレ?」

「いやその……あいつに意識してもらうにはこれしかないというか……」

「何でや! 普通に仲良くして、真面目に努力して認めてもらえばええやろ! 花歩ちゃんとかそうしてるやろ!」

「それはあいつに媚びるみたいで嫌! 花歩の後追いになるのも嫌!」

「めんどくせえ!」

「あの、三重野さん」

 

 放っておけず、夕理が控えめに口を挟む。

 

「つかさも色々悩んでこうなったんや。できれば応援してもらえると……」

「うーん、まあええけどー。つかさの本気が見られるのは嬉しいし」

 

 椅子に身を沈めて引いてくれた奈々に、つかさはほっと安堵する。

 と同時に、晶の方を不思議そうに見た。

 

「というか、晶はいつから気付いてたんや」

「え? 翡翠のブローチを買うたあたり」

「めっちゃ前やな!?」

 

 

 店を出てからもう一回ライブをして、本日の活動は終了。

 奈々が海側を指し示す。

 

「ねー、つかさはユニバ寄ってかへん? 年パス持ってきたやろ」

 

 河口の対岸がUSJなので、船で行くことができるのだ。

 だがつかさは一瞬迷って、ゆっくり首を横に振った。

 

「やめとく。撮ってもらった動画、編集してアップせなあかんし。その後は自主練」

「え、まさかこの先もずっと? ユニバのハロウィン見ないの?」

「だって……遊んでたらあいつに勝てるわけないやん」

「何のために年パス買うたんや!」

 

 もう遊んでもらえないのかと必死な奈々を、晶がまあまあと押し留めた。

 

「藤上さんに追いつくためにはしゃあないやろ。

 ただでさえ向こうが上なのに、つかさが夏休みに遊んでた間も、藤上さんは練習してたんやろ?

 その差を埋めるのがどれだけ難しいやら」

「ぐおおお……」

 

 的確に痛いところを突かれ、つかさはその場で頭を抱える。

 もっと早く本気になっていれば、とどうしても思ってしまう。

 でも、奈々や晶と遊んだ今までの時間も否定したくはない……。

 そんなつかさをかばうように、夕理が前に出た。

 

「三ヶ月後にはラブライブの地区予選や。

 勝つにせよ負けるにせよ、一旦そこで区切りが付く。

 まずはそれまでの間、つかさも私も必死で頑張ってみるつもり」

「うーん……そっかあ」

 

 奈々は諦めの息を吐く。

 曖昧に頑張られるより、期限を区切られることで逆に本気の感じがする。

 いつか戻ってくる可能性もあるのだからと、明るく顔を上げた。

 

「分かった。私は遊び人をやめる気はないから、ここで行き先はお別れや。

 でも友達なのは変わらへんし、手伝いならいくらでもするからね」

「右に同じく」

「奈々……晶……」

 

 言葉のないつかさから視線を外し、奈々のいたずらっぽい笑いが夕理へと向く。

 

「それにしても天名さん、すっかり女房って感じやなあ」

「は!? ににに女房って……何言うてっ!」

「つかさ~、二股はあかんで~」

「はいはい、刺されへんように気いつけます。ってか、絶賛片思い中やっちゅーねん」

 

 笑い合ってから、奈々と晶は二人に背を向けた。

 つかさのお礼を聞きながら、手を振って船の方へ歩いていく。

 

「晶も年パス買おうよぉ~」

「そう何度も行かへんからなぁ。ま、今日は付き合うで」

「ほんまっ!? 太っ腹ー!」

 

 どうしても少し寂しそうだった奈々が、晶のおかげで笑顔になるのを、つかさは黙って見送った。

 道は分かれた。

 部活に打ち込む自分なんて、まだ違和感も多少あるけど、決して後悔はしない。

 

「帰ろう、夕理」

「うん!」

 

 嬉しそうに駆け寄る夕理と共に、Saras&Vatiはアイドル活動を続けていく。

 

 

 *   *   *

 

 

 連休明けの部活で、一年生たちの成果に立火はニコニコ顔だった。

 

「まずは勇魚、よく頑張った! これでWestaも完成形や!」

「はいっ! 胡蝶先輩は神様、仏様です!」

「私からも電話してお礼言うといたで。やっぱり京都には不思議な力があるんやなあ」

「京都パワーで私の受験も何とかしてほしいわー」

 

 桜夜が割と本気で言うので、当日に立ち寄る場所は決まった。

 そして晴の冷静な声が、勇魚本人と同じことを話す。

 

「言うてもまだスタートラインに立っただけや。本番まであと四日で、三曲を完璧にするのは厳しい。

 部長、今回は一曲だけに集中させてはどうですか」

「そうやなあ……どう? 勇魚」

「確かにうちも、天之錦の皆さんに中途半端なものは見せたくないです。

 でもどうか、FFFだけはやらせてください!」

「わ、私からもお願いします!」

 

 パートナーの花歩も頼み込む。

 大阪のノリが求められる場で、本来ならフラワー・フィッシュ・フレンドはセトリに入る曲ではない。

 だが文化祭で果たせなかったデビューだけは、何としても実現したかった。

 部長もその意をくんで深くうなずく。

 

「分かった、勇魚はFFFに集中や。この曲をトリにするから、二人でしっかりフィナーレを飾るんやで!」

『はいっ!』

「でもって、つかさと夕理やけど……」

 

 向いた先ではつかさが浮かない顔で、夕理は気まずそうにしている。

 少し躊躇する立火だが、とりあえず正直に誉める。

 

「Saras&Vatiの動画も良かったで! ネットでも結構話題になってるやないか」

「主に夕理のバイオリンがですけどね……」

「つ、つかさも決して不評ではないから!」

 

 バイオリン弾きのスクールアイドルは珍しいのか、動画にも結構コメントがついていた。

 一方でつかさの方は、全国的に見れば単なるそのへんのスクールアイドルでしかない。

 いきなり現実の壁にぶつかり凹んでいるところに、姫水の冷ややかな声が飛ぶ。

 

「始めたばかりでもう挫けてるの? やっぱり口だけだったのね」

「はあー!? こ、これくらい想定内や!

 今まで遊んでた分を取り戻すんや、簡単に済むわけないやろ!」

「ふうん。分かってるならいいけど」

「むきー!」

「ふ、二人ともはんなりとね! 京都行くんやから!」

(小都子先輩には悪いことしたかなあ……)

 

 ライバル構築に手を貸した夕理は、小都子の胃までは気が回っていなかった。

 今は心の中で謝るしかない。

 ただ副産物とはいえ、自分の人気が少し上がったのは喜ばしかった。

 と、桜夜が触発されたように姫水の肩に手を置く。

 

「でもええなーユニット。姫水、私たちも組まへん? 『ウルトラビューティコンビ』とかで」

「小学生ですか……。もう予備予選も近いんです。

 今は安易に手を広げるより、Westa全体のことを考えるべきだと思いますよ」

「ちぇー」

(どーせあたしは自分のことしか考えてませんよ!

 ……つっても桜夜先輩と組まれたらますます勝たれへんからな。しばらくソロでいて……)

「よし、ミーティングはここまで! 本番を想定して練習するで!」

 

 立火の号令に、皆で机を片づけ着替え始める。

 三年生たちの背中へ、晴から京都戦について質問が飛んだ。

 

「トークバトルコーナーはほんまに台本なしでいいんですか?」

「かまへんかまへん。こういうのはその場のノリが大事なんや」

「京都人はプライド高そうやからなー。立火が下手なこと言うて怒らせないとええけど」

「それはお前やろ! まあ桜夜なら、京都の遠回しな嫌味は通じなさそうやな」

「えへへー、我ながらお得やね」

「誉めてへんわ!」

 

 一抹の不安を感じながらも、晴は机で自分の仕事を進める。

 京都vs大阪というカードはやはり世間も興味深いようで、宣伝活動にも手ごたえがあった。

 スクールアイドル雑誌の『これから注目のライブ』にも載せてもらえた。

 何とか、全国への足掛かりを掴めるとよいが――。

 

 

 *   *   *

 

 

 並行して、予備予選の新曲については……

 

「小都子せんぱーい! こっちですー!」

 

 中庭のベンチで花歩が手を振り、夕理も立ち上がって会釈する。

 だいぶ過ごしやすくなってきた空の下で、小都子はにこやかに近づいた。

 今日のお昼はこの三人で、お弁当を食べながら曲作りの話をするのだ。

 

「初めてのセンターやし、私も具体的なイメージが湧かなくて。どんな曲がええんやろねえ」

「やっぱり先輩にはバラードとか似合うんやないですか!」

 

 花歩が箸を握って力説するが、夕理は否定的だ。

 

「シックで抒情的な曲は聖莉守に一日の長がある。かぶるのは不利やで」

「夕理ちゃんにしては弱気やなあ」

「わ、私は小都子先輩に確実に勝ってもらいたいだけや!」

「まあまあ……晴ちゃんが言うには割と安泰らしいから、やりたい曲にしようね」

 

 言いながら花歩の様子をうかがう小都子だが、聖莉守への反応は特にないようだ。

 妹から何も聞いていないのか、晴が言うほどの問題ではないのか……。

 考えている間にも、一年生たちは喧々諤々と議論を続ける。

 

「いっそ演歌とかどうやろ?」

「花歩、真面目に考えてる? それならジャズの方がええと思う」

「意表をついてメタルとか……」

「つきすぎや!」

 

 小都子はくすくす笑いながら、すっかり仲良くなった二人に目を細めた。

 

「こうしていると、堺でのことを思い出すねぇ」

「そうですね……」

「『若葉の露に映りて』、私は好きやってんけどね」

「……すみません、不甲斐ない結果で」

「でも最後には少し救われたやろ?」

 

 ごぼうの肉巻きを食べながら、小都子は考える。

 大成功ではなかったけれど、決して失敗ではなかった。だったら、もっと先に進められるはずだ。

 

「もう一度、ああいう方向に挑戦してみいひん?」

「えっ、意識高い系ですか?」

「そういう部分は少し抑えて、もっと優しくて、穏やかで、胸が温かくなるような……。

 そんな曲を、二人で作ることはできる?」

 

 夕理と花歩は顔を見合わせてから、力強くうなずいた。

 

「やれます! 考えてみれば、優しい小都子先輩には優しい曲が一番に決まっていました」

「私の作詞ならどのみち意識高くはなりませんからね! 大勢に届けてみせます!」

 

 聖莉守とはやはり少しかぶるが、気にせず歌いたい曲を歌おう。

 小都子の胸は早くも温かくなりながら、後輩のお弁当箱にシュウマイを一個ずつ乗せた。

 

「私は二人に任せるしかないから、これがせめてもの応援や」

「必ずご期待に応えてみせます」

「やりますよー! このシュウマイに誓って!」

 

 

 *   *   *

 

 

 そうして平日は矢のように過ぎ、いよいよ土曜。京都戦当日――。

 

「皆さんは、京都へはよく行かれるんですか?」

 

 午前の阪急電車の中、元東京人が大阪ネイティブの先輩たちに尋ねる。

 伝統文化にあまり興味のない三年生たちは、はかばかしい反応ではない。

 

「遠足で行ったくらいやなあ。金閣銀閣、清水寺と、あと平安神宮とか」

都路里(つじり)の抹茶パフェは並んで食べた! あ、大文字焼きも見たで」

「桜夜先輩、『五山送り火』が正解です。京都の人に怒られるので直してください」

「そうなん? めんどいなー」

「晴ちゃんはあちこち行ってそうやねえ。私は嵐山とか好きやけど、最近はとにかく混んでて……」

「準メジャーな寺が狙い目や。大徳寺、妙心寺、光悦寺あたりやな」

 

 あたしは二条城に、うちは京都御所に、なんて話している間に西院(さいいん)駅に着いた。

 ここからバスで北上し、まず向かったのは……

 

「学問の神様! どうかどうかお願いします!」

 

 菅原道真の祟りを鎮めるため、平安時代に作られた北野天満宮。

 境内は今日も修学旅行の学生が多い。

 必死で拝み倒し、これで大丈夫と安心している桜夜に、夕理が呆れた目を向ける。

 

「神頼みする前に、まず最善の努力を尽くすべきでは?」

「え? 神様が何とかしてくれるならその方が楽やろ」

「最低の発想ですね……」

「あーもー可愛くなーい!」

「神社で騒がない!」

 

 他の面々も来月は中間テストなので、祈ったりお守りを買ったりしている。

 牛の像を撫でまくってから、神社を出て周囲を見渡す。

 

「さて、どこかで昼飯を……」

「立火、にしんそば食べよう! にしんそば!」

「あれって蕎麦にニシン乗っけただけやろ? 家でも作れそう」

「京都で食べるのがええの!」

 

 

 九杯のにしんそばをわいわいと食した後、いよいよ相手校へ向けて出発する。

 晴に先導された石畳の道は、祇園のようなお茶屋さんが並んでいた。

 

「ここは上七軒(かみひちけん)。祇園ほど観光地化されてへんから、これが本来の花街やな」

「へえー」

「そこを北に行くと千本釈迦堂。重文の六観音像が見事で、特に如意輪観音がお勧めや」

「そうなんですね!」

 

 晴が後輩たちに説明するのを聞きながら、一同は西陣に入る。

 

【挿絵表示】

 

 静かな石畳を歩き、ようやく校門が見えてきた。

 

 早目に来た客なのか、他の用事なのか、土曜なのに何人かの生徒がいる。

 立火は笑顔で手を振ってみるが、相手は遠巻きに会釈するだけだ。

 大阪なら知らない人でもフレンドリーな反応が返ってくるものだが……。

 

(考えてみれば三年目にして、初めての大阪以外でのライブや)

(これがアウェイってやつか……)

 

 固くなる立火が伝染したのか、花歩も不安そうに声をひそめる。

 

「やっぱり『下品な大阪人が来てはるわあ』とか思われてるのかなあ」

「もう、考えすぎやって。皆さん奥ゆかしいだけや」

「ううっ、小都子先輩は何だか京都っぽくていいですよね」

「そ、そうやろか?」

 

 なんて話しながら校門をくぐると、二人の女生徒の小声が聞こえた。

 

「あれ、Saras&Vatiの子とちゃう?」

「あ、ほんまや」

 

 つかさは思わず耳を疑って、相手をまじまじと見返してしまう。

 びくりとする先方に、慌てて瞬時に営業スマイルを作った。

 

「どうもでーす。動画見てくれたんですか?」

「え、ええ。おしゃれで印象に残ってました」

「あんまり大阪っぽくなくてええなあって」

 

 率直な感想に、後ろで立火が引きつり笑いを浮かべている。

 とはいえ誉めてもらえたのは確かなので、つかさの朗らかな声が返された。

 

「ありがとうございます! これから天之錦さんとWestaでライブ対決なので、もし良かったら!」

「あ、そうやったんですね。気ぃ向いたら行きます」

「よ、よろしくお願いします」

 

 夕理がぎこちなく下げる頭の前で、女生徒たちは校舎へと去っていった。

 立火も気を取り直して、二人の肩にぽんと手を置く。

 

「やるやないか! 今までとは違う客層にも届いたみたいやな。

 これからも別働隊として、よろしく頼むで!」

『はいっ』

 

 少し心が軽くなった一同は、来賓玄関の方へと向かう。

 その途中、早足になった姫水が、つかさを追い越しざまにぽつりと言った。

 

「良かったわね。頑張りが報われて」

 

 つかさの足が止まり、しばし呆然として取り残される。

 すぐ我に返り、にやけ顔を必死で抑えながら、急いで皆を追いかける。

 




ヴァイオリンの3Dモデルはmigiri様作成のものをお借りしました。(VPVP Wiki)
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