ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート3 最後の休日(前) ☆☆

「それでは、行ってきますね」

「さ、小都子さん。そないな大荷物、大変とちゃいますの」

 

 お手伝いさんが慌てて駆け寄ってくる。

 つかさ達と分担したとはいえ、九人分のお弁当と食器に加えて魔法瓶が二本。

 何なら車を出して……と言われかけるのを、小都子は笑顔で止めた。

 

「大丈夫ですよ。手伝ってくれる人が来てくれますから」

「あれま、荷物持ってくれる彼氏でもいてはりますの?」

「ええと、まあそんな感じというか……」

「小都子、お待たせ!」

 

 小都子が普段使う登校路を逆走し、立火が自転車で到着した。

 お手伝いさんの姿を見て挨拶する。

 

「おはようございます。自転車置かせてもらってええですか?」

「はい、そのへんに置いといてや。これはまた、えらいイケメンな彼氏さんやねえ」

「ん? 私と小都子ってそういうことになってるの?」

「あわわ、き、気にしないでください! えっと、これが今日の荷物でして」

「頑張って作ってくれたんやな。いつもいつも、ほんまにありがとう」

 

 照れている小都子の前で、立火は重い方の荷物を持って駅へ歩き出した。

 空は晴れ、十一月下旬とは思えぬ暖かさ。

 何の戦いもない、純粋な休日がこれから始まるのだ。

 

 

 *   *   *

 

 

 大阪と神戸の間には、JR、阪神、阪急の三つの路線が走っている。

 晴の指示で全員が集まったのは、阪急の梅田駅だった。

 つかさの荷物は夕理が協力して運んできた。

 

「みんなの心がけのおかげでいい天気や! 明日のことはいったん忘れて、今日は楽しむで!」

『はーい!』

 

 立火の声に元気な部員たちの中で、晴だけがじろりとにらむ。

 

「MCのネタ探しだったはずですが」

「も、もちろんそれもあるで。神戸を知り、大阪を知れば百戦危うからず!

 で、晴はどこへ連れてってくれるんや?」

「着いてのお楽しみということで」

 

 お喋りしながら特急と鈍行を乗り継ぎ三十分。

 もうすぐ三宮(さんのみや)というところで、二つ手前の駅でWestaは降りた。

 

「王子公園駅? 公園に行くんですか?」

 

 駅名標に首をかしげる花歩に、目的地を察した姫水が晴れやかに笑う。

 

「公園ではないけど、とても素敵なところよ」

「へー、それは楽しみ……って目の前でネタばれされてるやん!」

 

 『→ 神戸市立王子動物園』と大きく案内板が出ていた。

 駅のコインロッカーに荷物を放り込みながら、三年生たちはのんびりと言う。

 

「へえ、こんなとこに動物園あったんや。来るの初めてやで」

「動物が見たいなら、天王寺で十分やもんなー」

「え、お二人とも本気ですか?」

 

 信じられない、という姫水の声に、事情を知らない数名は怪訝な目を向ける。

 勇魚が遠慮せず幼なじみに聞いた。

 

「姫ちゃん、ここって特別な動物園なん?」

「すぐに分かるわよ。まあ、私も初めてなんだけどね」

 

 病気が治ったら行こうと思って、あちこちの動物園をネットで調べていた中の一つだ。

 治らないままに来ることになったが、皆と一緒なら少しは現実感もあるはずだ。

 そして信号を渡って歩くこと数分……

 

 

「パンダ……やと……!?」

 

 

 ゲートの上に鎮座する看板は、見間違えようもなく白と黒の獣。

 おののいている部長の傍らで、晴が部員たちへ端的に尋ねる。

 

「知ってた人」

 

 はい、と手を上げたのは小都子、姫水、つかさの三人だけ。

 アホの方に入れられた気がして、夕理は必死に弁解した。

 

「し、白浜にいるのは知ってたんですが!」

「なんやもう、早よ教えてや! 神戸の人は宣伝が足りてへんで!」

 

 無知を棚に上げた桜夜を先頭に、園内へと突入する。

 宣伝が足りてないのかは分からないが、大阪の天王寺動物園に比べるとあまり混んでない。

 とはいえ見る側としては好都合で、九人一丸となってパンダ舎に向かう。

 

「うわー、ほんまにパンダやー! パンダパンダー!」

「やめて恥ずかしい! 子供が見てるやろ!」

 

 夕理に怒られる勇魚の向こうに、ずんぐりした動物は確かにいた。

 ガラスに張り付くWestaの前で、タイヤに座ってぼーっとしている。

 すぐ子供たちに前列を譲ったものの、上野のように行列に急かされることもなく、一段高い後ろからいくらでも眺められた。

 

「うわー、可愛いなー」

「あんな風に生きられたらええねえ」

 

 花歩と小都子がうっとりしていると、飼育員からエサの時間ですとの声があった。

 いいタイミングで来たなあ、と喜ぶ一同の前で、パンダは一度奥の部屋に入って扉が閉められる。

 代わって出てきた飼育員が笹やニンジン、たけのこを床に配置。

 再び入れ替わりで出てきたパンダは、さっそくニンジンをかじり始めた。

 

 むしゃり、むしゃり。

 ニンジンの後は笹。太く黒い腕で大きな枝を掴み、歯をむき出して笹の葉を咀嚼していく。

 

「なんか……こうして見ると、やっぱり熊の仲間やなあ」

 

 つかさが漏らした感想に、姫水が嬉々としてうんちくを披露してきた。

 

「あんなに可愛くても猛獣なのよ。中国では人を襲ったこともあるんだから」

「へ、へぇー」

「あっ……」

「ちょっ、『しまった彩谷だった』みたいな顔しなくてもええやろ! 今日くらいは!」

「そ、そうよね。ごめんなさい」

 

 ギクシャクする二人に困り笑いを浮かべながら、皆で食事を終えるまで眺め続ける。

 名残惜しいが、ここだけで休日を費やすわけにもいかない。

 パンダ舎を出たところで、花歩は優秀な案内人に尊敬の目を向けた。

 

「晴先輩、さすが盛り上げ上手ですね!」

「ちなみにコアラも四匹いる」

「ええ!?」

「パンダとコアラが両方いる動物園……やと……」

 

 戦慄が立火を襲う。神戸にそこまでの力があったとは……。

 

「……天王寺は何匹やったっけ?」

「一匹です。しかもエサ代が高いので、今後一切補充はしないそうです」

「明日のトークバトルでは、動物園の話はしない方が良さそうやな……」

「向こうから持ち出すかもしれませんけどね」

 

 さっそくコアラ舎へ行くと、端の方にあるからか人は多くない。

 ホンマにもったいない動物園や……と思いつつ、ありがたく好きなだけ鑑賞する。

 

「後ろ向きやと何や分からへんわ。こっち向いて!」

「桜夜先輩、こっちの子は横向いてます!」

「おっ、どれどれ」

 

 勇魚に呼ばれて三つ隣のケージへ行くと、確かに横向きで木に腰掛けていた。

 全く動かないので立火はすぐ飽きてしまったが、他のメンバーはきゃいきゃい言いながら、ぬいぐるみのような姿を眺め続ける。

 

「いやー、可愛いなー」

「花歩、作詞担当ならもう少し語彙はないの」

「えっ、そのー、オーストラリアの偉大な大自然が今ここに……

 って夕理ちゃん! こんな日くらい休ませて!」

「冗談やって」

 

 楽しそうにくすくす笑う夕理を、コアラと同じくらい可愛いと思う花歩と小都子だった。

 

【挿絵表示】

 

 

 園内に一軒ある異人館を見学した後は、ぶらぶらと動物たちを眺めていく。

 

「やっぱり大阪人なら虎やろ……あれ、虎は?」

「今年の七月に亡くなりました。今日はあれで代わりにしてください」

 

 晴が指し示した先では、アムールヒョウが伸びをしている。

 

「まあ似たようなもんやな。誰か写真撮ってー」

「はい、お任せください」

 

 姫水のスマホに、ヒョウの前でポーズを取る立火が納められた。

 バッティングのポーズを見て、これでは阪神パンサーズになってしまうのでは……と余計な心配をしてしまう。

 

「私はクジャクや! ねー、ちょっと羽根広げてやー」

「動物に無理を言っては駄目ですよ」

 

 結局羽根は閉じたまま、桜夜もパシャリ。

 小都子は羊と一緒に。勇魚はペンギンと、花歩はキリンと。

 夕理はウサギでつかさはカンガルー。

 そして鶴の写真を撮りまくっている姫水の傍らで、勇魚は知的な先輩を見上げた。

 

「晴先輩は……フクロウって感じです!」

「無理に例えなくていい。さて、そろそろええ時間やな」

 

 時計はもうすぐ正午。ずいぶん長居をしてしまった。

 

「桜夜ー、帰るでー」

「えー? 遊園地あるやん。メリーゴーランド乗りたーい」

「お弁当が待ってるでー」

「あ、急にお腹すいてきた」

 

 簡単に乗せられた桜夜を連れて、一同は駅へと戻る。

 神戸めぐり第一弾を成功に終えた晴は、続いて第二弾の行き先を伝えた。

 

「次は新神戸へ行きます」

「おっ、新幹線に乗って東へ行くの?」

「大阪に帰ってますやん!」

 

 ツッコミ星人が反射的にツッコんでしまい、桜夜に笑われた。

 

「もう立火へのツッコミは花歩の役目なんやなあ。私はこれで引退や」

「い、いえ滅相もない。まだまだ桜夜先輩の域には達してません!」

「二人で何を競ってるんや……」

 

 

 *   *   *

 

 

 新神戸駅。

 新幹線駅としては大阪っ子に用はないが、今日は地下鉄でやって来た。

 晴が案内したのは、その駅のすぐ西だった。

 

「あれ、ロープウェイなんてあったっけ?」

 

 立火が見上げた先で、ゴンドラが山の上へ運ばれていく。

 

「いやいや立火、こんな目立つもの気付かへんわけが……あったっけ?」

「この上が布引(ぬのびき)ハーブ園です。そこの芝生でお昼にしましょう」

「へええ、ハーブ! いかにも神戸って感じやな」

 

 感心した桜夜が今回も先頭に、意気揚々と列に並ぶ。

 しばらく待って乗り込んだゴンドラは、皆を乗せて空中へと飛び出した。

 

「うわーー!」

 

 真っ赤とまではいかないものの、かなり紅葉した山が眼下に広がる。

 感激した勇魚が振り返れば、ビルの建ち並ぶ向こうに神戸港。

 本当に神戸というのは、海と山に挟まれた街なのだと実感する。

 

「わー! わー! すごいでー!」

「勇魚! ゴンドラ内で騒がない!」

「あ……えへへ、ごめーん夕ちゃん」

(来年はこれが風物詩になりそうやなあ)

 

 笑っている花歩も、眼下を過ぎる布引の滝や五本松ダムの光景にはしゃぎたくなる。

 自分も来年は、夕理に怒られないよう気をつけないと。

 

 一同は途中駅である風の丘でいったん降りる。

 ここまでで標高253メートル。

 だいぶ小さくなった神戸の街並みを見つつ歩くと、山の中腹に芝生が広がっていた。

 ピクニックには最適の場所だ。

 

(さあ、ここからが勝負やで!)

 

 つかさが思わず、持ってきたランチボックスを抱きしめる。

 食材費でお小遣いを使い果たし、今日遊びにくる金は姉に借りる羽目になったが、それだけの弁当はできたはずだ。

 

『彩谷さんがここまで料理上手だったなんて、私の完敗よ……。

 かくなる上は、私のところへお嫁に来てもらうしかないわね』

(なーんてことがあったりして!)

「ごめんつかさちゃん、少しどけてもらえる?」

「はっはいっ、すみませんっ!」

 

 慌てて飛び退いたところへ、小都子が微笑みながらレジャーシートを広げる。

 靴を脱いだ九人が円形に座り、立火が挨拶でも……と考える前に、桜夜の切羽詰まった声が邪魔をした。

 

「早よ食べさせて! 飢え死にする!」

「ああ、もう1時なんやな。ほな四人とも、頼むで」

「はい、どうぞ~」

 

 四人の料理人が、シートの上に食事を並べていく。

 小都子は和食で、つかさが洋食。そしておにぎりは一人二個ずつの十八個。

 高級食材なのを知ってる桜夜は、真っ先につかさの方へ箸を伸ばす……が、立火が止めた。

 

「まあ待つんや桜夜」

「なんや! 私の食欲は暴れ出しそうやで!」

「つかさはまず姫水に食べてもらいたいんやろ? そこは後輩に譲るとこやで」

「ちょっ、ななな何言うてるんですか部長さん!」

「あー、そういうこと……なら小都子のをもーらいっ!」

「どうぞどうぞ」

 

 ごぼうの肉巻きを口に運んだ桜夜が感涙にむせぶ。

 他のメンバーも和食とおにぎりを紙の皿に取りつつ、一人の少女に期待の目を向けた。

 向けられた姫水は、小さく溜息をついて箸を取る。

 

「それなら、まあ……いただくわね」

「し、正直に言うてええからな! アンタに気を遣われるなんて御免や!」

「……分かってるってば」

 

 内心少し困りながら、箱から取り上げたのは魚料理だった。

 上品に口に運んで、丁寧に咀嚼する。

 

(タラのムニエル……)

(すごく手が込んでて、頑張って作ったのが分かるわ……頭では)

(きっと、おいしいんだろうな……)

 

 表情が変わらず、むしろわずかに申し訳なさそうに見える姫水に、つかさの顔は曇っていく。

 使った手間と費用と気合いを思い、涙までこぼれそうになる。

 

「お、おいしくなかった……?」

「違うの、そういうわけではなくて……」

「べっ……別に、嘘ついてまで食べてほしくないで!」

 

 楽しいはずのランチが、いきなり面倒なことになってきた。

 食べるのに夢中な桜夜を除き、立火、小都子、花歩が怪訝な顔をする。

 

(あれ……)

(姫水ちゃん、つかさちゃんにも休業理由話したんとちゃうかったん?)

(味に対しても現実感がないって、伝わってないみたいやけど……)

 

 そして詰問の目を向ける晴に、勇魚は困ったように縮こまる。

 

(やっぱり伝わってへん。姫ちゃん、ちゃんと病気って言わないから!)

(うう……二人とも可哀想やし、うちが教えたいとこやけど……)

 

 でも何も聞いていない夕理がいる以上、勝手に明かすわけにもいかない。

 その夕理がわけも分からずいる前で、姫水の方から動いた。

 つかさが泣き出す前に、三角形のおにぎりを差し出した。

 

「これ、食べて」

「え?」

「私が作ったの。昆布、嫌い?」

「いや普通やけど……なら、うん」

 

【挿絵表示】

 

 涙がにじんだまま、姫水の綺麗な手が握った食事をドキドキしつつ食べる。

 一口味わっただけで、衝撃がつかさの脳に走った。

 

(何やこれ、めっちゃおいしい!)

(ただのおにぎりやのに……)

(やっぱり、好きな人の手作りだからやろか……)

 

「どう?」

「あー……え、えっと」

 

 おいしい! 一生食べたい! と言いたいが言えるわけがない。

 大体こっちの料理は誉めてくれないくせに……と思うと何だか腹が立ってきた。

 

「ま、まあまあやな! これくらいどうってことないで!」

「そう。私も同じ気持ちよ」

「え……」

 

 分かりにくい言葉だが、器用な頭はすぐに理解できた。

 

(そっか。『おいしいけど、ライバルである以上は認められない』ってことやな)

(そっかそっかー、うんうん!)

 

 明るくなっていくつかさの顔に、部員たちは、特に姫水は安堵の息をつく。

 『認められない』ことの理由は、つかさが想像するものとは違うけど。

 また面倒を引き起こしていたことに気付き、つかさは照れ笑いで料理を勧めた。

 

「ど、どうもお騒がせしましたー。さ、食べて食べて。桜夜先輩も」

「おおー、遠慮なくいただくで。私は魚より肉派!」

 

 牛ホホ肉の赤ワイン煮込みをぱくりとした途端、桜夜の感激の叫びが広場に響く。

 

「おーいーしーいー! つかさ、料理上手やなあ!」

「い、いやあ、今回だけっすよ」

 

 そうして食事を進めながら、つかさも姫水も内心で思う。

 この先輩みたいに、相手の料理を素直に誉められる日は来るのだろうかと。

 

 

(つかさの手料理……)

 

 夕理もしみじみと味わいながら、のどかなランチは続く。

 お昼を一緒に食べること自体は、土曜の部活でよくあるけれど。

 青空の下、紅葉や神戸の街を見ながら食べるのは格別だった。

 それに今日は晴もいる。黙々と食べているが……。

 

「晴先輩、うちのおにぎりどうですか!」

「普通や。特筆すべき点はない」

「はいっ! まずくないなら良かったです!」

「まあ、作ってくれたことに感謝はしている」

「いえいえ! なんなら毎日作ってきます!」

「それはいらない」

 

 そして黄色い食べ物を口に入れた立火が、改めて感心したように言った。

 

「いつも思うけど、小都子の卵焼きってほんまに美味やなあ」

「ふふ、ありがとうございます。いっぱい食べてくださいね」

 

 お昼のおかず交換で何度も頂いてきたこれも、じき食べられなくなると思うと寂しい。

 同じように花歩も味わって食しながら、自分が作ったものとの差に少し落ち込む。

 

「何か特別なことしてはるんですか?」

「特にしてへんけどねえ。今度、一緒に作ってみる?」

「ぜひお願いします!」

「わ、私も教えていただきたいです」「うちもうちも!」

 

 夕理と勇魚も勢い込んで頼み込む。

 つかさはプライドが邪魔して素直に頼めず、代わりに桜夜の腕をつっついた。

 

「桜夜先輩も教わったらどうです? 来年は自炊でしょ」

「はー? 私に料理なんてできるわけないやろ。

 つかさもそろそろ付き合い長いんやから、私がどういう奴か分からなあかんで」

「うわ、すごい開き直り」

「桜夜先輩、本当に大丈夫ですか? 来年、生活できますか?」

 

 割と本気で心配そうな姫水に、桜夜は言葉に詰まってから、相方にヘラヘラ笑いを向ける。

 

「ほ、ほら、困った時はたぶん立火が助けてくれるから」

「何でや厚かましい! お前もう十八歳やろ!」

「も~冷たいな~。一生私のために味噌汁作ってや~」

「自分で作れ!」

(あ、あはは、桜夜先輩冗談きついなあ)

 

 引きつり笑いを浮かべる花歩は、つかさのサラダを取ると同時に危惧を覚えた。

 

(まだ結構残ってるけど、食べ切れるやろか?)

 

 

 しばらくすると、案の定というか皆の箸の速度も鈍ってきた。

 冷静に料理の減り様を見ていた小都子が、ここまでと決断する。

 

「みんなそろそろ満腹みたいやね。私のは日持ちするから、つかさちゃんのを片づけようね」

「す、すいません。あたし調子に乗って作りすぎて」

「九人分となると調整も難しいからね。つかさちゃん、ほんまにおいしかったで」

 

 自分の弁当箱に蓋をする小都子に、立火が慌てて手を伸ばす。

 

「私はまだ入るで! せっかくの小都子の手作りを残すなんて!」

「立火先輩。この世で最もアホなことは、食べ過ぎの苦しみやと思います。

 幸せなはずの食事で逆に苦しむなんて、いくら食い倒れの大阪でもあかんことです」

 

 この件には強い信念があるらしく、小都子の真剣な目に立火も何も言えない。

 そして後先考えず食いまくっていた桜夜は、アホな苦しみに片足を突っ込みつつも必死に訴える。

 

「待って! デザートは!?」

「パウンドケーキを焼きましたけど、これは来週の部活で食べましょうね」

「そんなー……うっぷ」

「あ、あの、すいません。あたしフルーツポンチも作ってきちゃって……」

「それは早めに食べた方がええね。みんな、あと少し入る?」

『いけまーす!』

 

 胃に余裕を残していた小都子のおかげで、フルーツポンチも綺麗に片付いた。

 無事に幸せなままで終わった食事に、一緒にシートを畳みながら、つかさは改めて先輩を見直すのだった。

 

(あたしも気遣いできるつもりやったけど、小都子先輩を見習わないとなあ……)

 

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