ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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第7話 ただひとつのPV
パート1 つかさ初出勤 ☆☆


「彩谷さん!」

 

 放課後に花歩が廊下に出ると、ちょうどつかさが歩いてきたところだった。

 先方もこちらに気付いて、フレンドリーに話しかけてくる。

 

「今日からよろしくね。つかさでええよ」

「うん、よろしく! えっと私は」

「花歩やろ。あんな自己紹介聞いたらさすがに覚えるわ」

「あはは。夕理ちゃんも一応覚えてくれたみたい……」

 

 昨日の出来事を思い出しつつ、部室に向かって並んで歩く。

 話題はどうしても夕理のことになった。

 

「夕理のこと、悪く思わないであげてね。ちょっと人に慣れてないだけやねん」

「もちろん! 今日のお昼も一緒に食べたよ」

「あ、そうなんや」

 

 隣のクラスへ見に行ったら今日も一人だったので、三組に連れていってお昼のグループに入れた。

 食べる暇もなく勇魚に一方的に話しかけられて、かなり閉口していたようだけど。

 それでも最後まで付き合ってくれたあたり、本人も努力しようとしているのだろう。

 

「……あたしが言えた義理でもないけど、ちょっと気が楽になった感じ」

「でもやっぱりつかさちゃんが一番みたいやから、また一緒に食べてあげてね」

「まあ、気が向いたらね」

 

 夕理と、友達になる。

 その状況は、どうしても二日前に聞いた昔話を思い出す。

 話に出た本人が眼前にいるのが何だか不思議で、自然と感想が口から出た。

 

「つかさちゃんは凄いなあ」

「え、何が?」

「中一の時のこと。クラス中を敵に回しても夕理ちゃんを選ぶって、普通できひんよ」

「えー、夕理そんなことまで喋ったん?」

 

 困ったような顔のつかさに、花歩は素直に気持ちを伝える。

 

「全部話してくれたよ。私感動したもん」

「あはは……まあ、一年しか持たなかったわけやけどね」

「そ、それでも十分凄いってば! 私がそこにいたら、大勢のクラスメイトの側やったろうし……」

 

 改めてつかさの姿を見る。

 スタイルはいいし、背も花歩より高い。何より態度が大人っぽくて、堂々としている。

 自分との差に落ち込みそうになるが、しかし花歩も入学当初の花歩ではない。

 

「でも私も根性さえ出せば、きっと主人公になれるから!」

「そういうものなの?」

 

 からかうようなつかさの声だが、花歩はいたって真剣だ。

 

「せやで、いつまでも普通のままとちゃうで」

「普通は嫌なんだ」

 

 花歩は真剣だったがゆえに。

 つかさの声が少し苛立ちを含み始めたことに、全く気付いていなかった。

 

「誰だってそうやろ。でもどんな普通の子でも、スクールアイドルなら絶対輝けるんや! あ、これ友達の受け売りで、その友達も別のグループの受け売りなんやけど」

「へえ」

「だから私たちもラブライブで優勝できれば、きっと特別な存在に――!」

「別にフツーで良くない?」

 

 一瞬、別人が現れたのかと思うほど、冷ややかな声だった。

 

【挿絵表示】

 

「え……」

「仮にラブライブで優勝したところで、いい大学に入れるわけでもないし。せいぜい内申書が少し良くなる程度で、結局行きつく先は普通のOLか何かやろ」

「それは……そうかもしれないけど」

「ああ、ゴメンゴメン」

 

 雰囲気が即座に元の、気さくなそれに戻った。

 明るく笑いながら、何事もなかったようにひらひらと手を振る。

 

「別に水差したいわけとちゃうねん。花歩が頑張るんやったら応援するよ」

「う……うん」

「あ、もう部長さん来てるやん」

 

 視聴覚室前に着くと、立火が鍵を開けているところだった。

 つかさは花歩を置いて、早足でそちらへ近づく。

 

「おっ、つかさ。今日からよろしく頼むで!」

「はーい、お手柔らかにお願いしまーす」

 

 放置された花歩は、ゆっくり歩きながらも複雑な心境だった。

 

(私”たち”って勝手に一緒にしたのがまずかったのかなあ……)

 

 それにしても、夕理から聞いた話とは少し印象が違う気がする。

 彼女が美化していたとは思いたくないけど。

 

 

 *   *   *

 

 

「あんたが噂のつかさちゃんやな。私は木ノ川桜夜。美少女先輩って呼んでもええよ!」

 

 掃除当番で遅れてきた桜夜は、期待の新人の手を握ってぶんぶんと振った。

 

「桜夜先輩ですね。よろしくでーす」

「いやー、おしゃれの話できる相手が入ってくれて助かるわ。この部のやつら、みんな流行に疎くってなあ」

「着倒れなんて京都の奴らに任せとけばええやろ。私はそんな金があればウマいものを食う」

「ほらこれやで。小都子はなーんか地味な服しか買わへんし」

「私に派手な服なんて似合いませんて」

 

 立火と小都子が反論する中、つかさは如才なく桜夜を持ち上げる。

 

「桜夜先輩みたいな綺麗な人やったら、どんな服着るのも楽しそうですよねー」

「もー、上手いこと言うんやからこの子は! まっ、お世辞のひとつも言えないよりはずっとええけどなー」

「………(イラッ)」

 

 ちらりと夕理を見ての桜夜の当てつけを、ぐっと堪えてスルーを決める。

 夕理からするとただの嫌な先輩だが、つかさと趣味が合いそうなのは確かだ。

 友達の楽しい部活動のために、不本意ながら許容するしかない。

 と、つかさから立火に質問が飛んだ。

 

「そういや部長さん、この部ってピアスOKです?」

「別に構へんけど、つけてんの?」

「普段は髪に隠れてますから、ただの自己満足ですけどね」

 

 つかさが髪をかき上げると、シルバーに輝く小さな金属が、その耳で光っている。

 桜夜はついまじまじと見てしまい、後輩から獲物を見る目でロックオンされた。

 

「桜夜先輩はつけないんですか?」

「え!? いやその、痛いのはちょっと……」

「えーもったいない。先輩こんなにカワイイのに」

 

 つかさの手が桜夜の右耳に伸び、軽く耳たぶを撫でる。

 石像のように硬直した桜夜の顔に、くすくす笑うつかさの唇が近づいた。

 

【挿絵表示】

 

「あたしが開けてあげましょうか」

「ひいいいい!」

「こらこら、あまり年上をからかわない」

「はーい」

 

 立火にたしなめられ、ぱっと手を放す。

 桜夜は自分の耳を抑えたまま、赤くなって動揺している。

 

(ひとまず、格付け完了っと)

 

 つかさが笑顔の裏でそんなことを考えているなど、部員たちは気付きようもなかった。

 

 

 *   *   *

 

 

 恒例の通り、小都子はつかさを連れて資料室に向かう。

 

「先輩、今日はずいぶん物静かなんですね」

 

 後輩の問いかけに、先輩は照れくさそうに笑った。

 

「いやお恥ずかしながら、昨日はちょっと熱くなっちゃったかな。こっちが私の素やねん」

「そうなんですか。でも約束は守ってくださいね」

「そ、そやね」

 

 いきなり釘を刺したつかさは、立て続けに釘を打ち込む。

 

「夕理のこと、大事にしてあげてくださいね。あたしのことは別にいいんで」

「ねえ、つかさちゃん」

 

 足を止める。

 小都子はつかさの顔を真っ直ぐに見ると、落ち着いた声で言った。

 

「夕理ちゃんとはもちろん仲良くするけど、あなたもこれからは大事な後輩なんや。後輩に順番付けたりはせえへんよ」

「うーん、普通なら素敵な先輩ですねって言いたいとこやけど」

 

 軽く笑った直後に、つかさの目は真剣になった。

 

「でもやっぱり、夕理のことを一番に考えてください。それくらいでないと、あの子は心を開きませんよ」

「……納得したわけではないけど、心には留めておくね」

「お願いします」

「そちらから踏み込んだんやし、私からも踏み込んでいい?」

「どーぞどーぞ」

 

 妙な緊張感を漂わせながら、二人は歩行を再開する。

 

「結局つかさちゃんは、夕理ちゃんからの好意をどう思ってるの?」

「うわ、マジで踏み込んできましたね」

 

 小都子としても少しやり過ぎとは思うが、これから夕理に接する上では大事なことだ。

 いくら交友を広げようとしているとはいえ、夕理の中で大部分を占めるのはつかさなのだから。

 

「まあ一応好かれてるわけやし、悪い気はしないですよ」

「それだけ?」

「それだけです」

「そう。ぶしつけなこと聞いてごめんね」

「いーえいーえ」

 

 二人で呼吸を合わせて緊張を解く。

 その後は和やかに話しながら資料室へ向かった。少なくとも表面的には。

 

 

 *   *   *

 

 

 同時刻に部室の中では、部長がつかさの立場について説明していた。

 

「……というわけでつかさはよく休むし、練習も真剣にはやらへんけど、私はそれでいいと了承した。決して責めたりしないようにと、自戒を込めて言うとくで」

「今の人数では、どんな態度であれ頭数があるに越したことはないですからね」

 

 晴の言葉に、立火は過去のことを思い出す。

 昨年は逆に、やる気の足りない人間は退部に追い込まれた。

 それはやる気も実力もある三年生が、五人もいたからできたことだ。

 結果的に部内の意識は統一されたし、辞めた子たちも別の高校生活をエンジョイしていると信じたい。

 今年はそうは言っていられない。つかさには何としても、この部の中でエンジョイしてもらう。

 夕理も同じ考えのようで、全員に頭を下げた。

 

「私からもお願いします。やっぱり冷静に振り返ると、無理に入部させた感じが拭えないので」

「そ、そんなことはなかったと思うけど」

 

 花歩がフォローしてくれるが、全てはこれから、つかさがスクールアイドルを楽しんでくれるかどうかだ。

 

「まあええんやないのー」

 

 桜夜が呑気な声を上げる。自分は本来ならつかさと同じ側だと、桜夜自身は思っている。

 

「部活なんて趣味なんやから、そんな真面目にやらなくても。私もそうしよっかな」

「あっそー、好きにすればあ」

「ちょっと立火! 私の扱いが軽くない?」

「ん? だってただのギャグやろ? 桜夜は真剣にやってくれるって信じてるから」

「ずっるいなあ」

 

 気心の知れたような三年生ふたりの会話に、花歩の胸が少しちくりとした。

 自分が知らない過去二年間の活動。

 これからの一年間が、その時間に少しでも追いつけるのだろうか。

 

 

 *   *   *

 

 

「!!!!!!」

 

 アイドル衣装姿で戻ってきたつかさを見るや、夕理は興奮し、床を転げ回り、椅子に頭をぶつけて悶絶した。

 

「~~~~~っ!」

「あのさあ夕理、ほんまに大丈夫?」

「だっ……大丈夫! 信じて!」

「あーキモいキモい」

「ぐっ……」

 

 今回ばかりは桜夜の言う通りなので、何も言い返せない。

 一緒に戻ってきた小都子が、何とか夕理の努力を評価しようとする。

 

「で、でも夕理ちゃんも依存しないよう頑張ってんねんな。今日は私があげたリボンつけてくれてるし」

 

 部員たちの目が、夕理の髪に揺れるベージュのリボンに集中する。

 

「はい、折角いただいたので。あ、花歩のは明日つけてくるから!」

「別にそんな気を使わなくても」

「へー、あたしのはもう捨てちゃった?」

「捨てるわけないやろ! 明後日はつかさの……」

 

 その瞬間に晴の目が細くなった気がしたが、小都子から事前に取りなしてくれたのだろうか、何も言われなかった。

 立火が腰に手を当て感心している。

 

「そんな事になってたんやな。私からも買うたろか?」

「い、いえ、部費でいただいた分があるので……」

「ちょっとぉ、何で夕理なんかがモテモテやねん!」

 

 いきなり話題の中心を夕理に取られて、桜夜は不服顔である。

 

「とっかえひっかえ日替わりリボンだあ!? ハーレム自慢か!」

「何をワケのわからないこと言うてるんですか。変な言いがかりはやめてください」

「ぐぬぬ……」

 

 桜夜は唸り声を上げると、つかさの隣へ寄ってぽんと肩を叩いた。

 

「つかさ、あんたの友達な? 先輩への敬意ってもんがなってないんやけど」

「あー」

 

 困り笑いを浮かべるつかさに、夕理の忍耐は弾け飛んだ。

 せっかく許容してやろうと思ったのに、直接攻撃してきた挙句、つかさまで巻き込むならもう遠慮はしない。

 

「敬われたいんやったら、それに値する言動を見せるのが先やないですかね!」

「んなっ……!」

 

 容赦のない言いように、花歩が慌てて横から声をかける。

 

「ゆ、夕理ちゃん、上級生やで!」

「だから何? たかが一年二年早く生まれたからって、何で無条件に尊敬せなあかんの」

「こ、このこのこの……」

「年に関係なく、小都子先輩みたいなまともな人やったら敬意を払います。小都子先輩の爪の垢でも煎じて飲んだらいかがですか」

「ちょっと小都子ぉ! いつの間に後輩から好かれてんねん、この裏切り者!」

「そ、そう言われましても……」

 

 困りつつも少し嬉しそうな小都子に、桜夜は八つ当たりを諦め、再度つかさの肩に手を置く。

 

「とまあこういう状態やねん! つかさからも何とか言うてやって!」

「んー、あたしには難しいですね」

 

 上級生の命令を、つかさはヘラヘラ笑いながらも明確に拒否した。

 

「あたし、基本的に夕理の味方なんで」

(つかさ……!)

 

 胸がきゅんとなっている夕理を忌々しげに見つつも、あるいは先ほどの格付けが無意識下に作用したのか、つかさに何も言えない桜夜である。

 場をまとめるように、立火が両手を打ち鳴らす。

 

「まあ、夕理も噛みつく元気が戻ったみたいで何よりや。桜夜だって、おとといみたいな落ち込んでる夕理よりは今の方がええやろ」

「おとといの方が百倍マシやった……」

「はいはい、それじゃちょっと踊ってみよか。みんな着替え開始!」

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