ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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第32話 最後の欠けた輪
パート1 クールタイム ☆☆


「ねえ夕理ちゃん。つかさちゃんと姫水ちゃんのことは残念やったね」

「ち、ちょっと花歩ちゃん」

 

 花歩のぶしつけな言葉を、はらはらしながら小都子が遮る。

 だが言われた方の夕理は、未だ心ここにあらずという感じで、もくもくとお弁当を食べていた。

 

 今日のお昼はこの三人。

 人に聞かれたくない話なので、夕理と一緒に部室にやってきた。

 念のため小都子にも来てもらって、これで態勢は万全である。

 

(夕理ちゃん、めっちゃ怒るんやろなあ……)

 

 しかし昨日一晩考えて、芽生にも相談に乗ってもらった上でのことだ。

 夕理の友達として、これ以上黙っては見てられない。

 バナナジュースを一口飲んで、花歩はおもむろに話し始めた。

 

「けどもう過去には戻れへん。私たちは先に進まなあかんねん」

「……?」

「夕理ちゃん、はっきり言うで……。

 つかさちゃんがフリーになった今こそ、告白するチャンスや! ずっと好きやったんやろ!?」

「アホか!!」

 

 案の定激怒した夕理は、椅子を蹴って立ち上がった。

 花歩も負けじと立ち、目の前の距離でにらみ合う。

 

「私は今まで、本気でつかさの恋を応援してきたんや!

 それが潰えた途端、手のひら返してつかさを狙おうなんて……

 そんなハイエナみたいな真似ができるわけないやろ!」

「ハ、ハイエナの何が悪いんや!

 ハイエナさんだって大自然の中で懸命に生きてるんや!」

「か、花歩ちゃん。何だか話がずれてるで」

 

 小都子に突っ込まれるが、花歩はそのまま話を続ける。

 このために信頼できる先輩に来てもらったのだ。

 やりすぎたら無理にでも止めてくれるだろう。

 

「私はずっと不満やったんや! なんで夕理ちゃんばっか我慢せなあかんねん!

 自分の気持ちを押し殺して、つかさちゃんに協力ばかりして……。

 そろそろ報われたってええ頃やろ!」

「なっ……何でや花歩! 今までそういう話、全然してなかったやないか!

 お昼のときも他愛ない雑談ばかりで、せやから私も安心してっ……」

「それは言っても仕方なかったから!

 つかさちゃんは姫水ちゃんに夢中で、どうにもならなかったから!

 けど今は状況が変わった! 夕理ちゃん、これ以上は単に、自分の気持ちから逃げてるだけやで!」

「なっ……私が、逃げ……!?」

「はい一旦ストップ。座ってご飯食べようね」

 

 小都子に言われて二人とも座る。

 もそもそとお弁当を食べてから、花歩の声は今度はしんみりと流れ出した。

 

「私たち一年生五人、誰の想いも上手くいってへん……。

 まあ、勇魚ちゃんは諦めて正解やったと今でも思うけど、それはともかく。

 せめて夕理ちゃんだけは、一番好きな人と両想いになってほしいんや……」

「花歩……」

 

 夕理の怒りが少し鈍る。花歩の想いはもう望みがない。

 それに比べて、夕理には可能性だけはあるのだから。

 が、小都子が横から冷静に指摘する。

 

「けどね花歩ちゃん、それって告白して成功すればの話やないの。振られたら夕理ちゃんが傷つくだけやで」

「うっ、そうではあるんですが。

 で、でも挑戦しない限りは、可能性はゼロかなって……」

「つかさはきっと、今でも藤上さんが好きや。私の入り込む余地なんてない」

「だったらなおさら!

 誰かがアタックしない限り、つかさちゃんはずっと姫水ちゃんを……引きずるんやない?」

 

 花歩もだんだん自信がなくなってきた。

 無責任に煽って、夕理まで失恋仲間に叩き込むだけかもしれない。

 でも、つかさだって夕理を特別に思ってはいるだろうし、そこまで望みがなくはないと思うのだけど……。

 

「何にせよ、クールタイムが必要やね」

 

 小都子の穏やかな声が、一年生たちを落ち着かせる。

 

「傷心のつかさちゃんを今すぐ狙うのは、確かに行儀としてどうかと思うで。

 つかさちゃんやって、気持ちを整理する時間は必要やからね」

「な、なるほど! 夕理ちゃんも、時間さえ置けば倫理的には問題ないやろ?」

「まあ……倫理的には」

「先輩、具体的にどれくらい空ければいいでしょう!?」

「え? ええっと……一ヶ月くらい?」

「と、いうことは……」

 

 今日は1月16日。

 頭の中でカレンダーをめくり、花歩はおお! と声を上げた。

 

「バレンタインで決着をつけろということですね! さすがは小都子先輩です」

「え、別にそういうつもりは……。ちょっと短かった? 半年くらいにする?」

「そんなに待ったら、他の誰かがつかさちゃんを狙うかもしれないやないですか。

 バレンタインデーや夕理ちゃん! お菓子会社の陰謀とか言わへんよね?」

「断じて言うで。お菓子会社の陰謀や」

「まあまあ、クリスマスだって楽しかったやろ!」

 

 勝手に盛り上がる花歩だが、気乗りしなさそうな小都子の顔を見て、再び自信がしぼんでいく。

 

「あの……小都子先輩は賛成でない感じですか?」

「別に反対というわけでもないんやけどね。

 ただまあ、無理につかさちゃんを狙わなくても。

 夕理ちゃんは今でも十分幸せなのかなって、私は思ってるけど」

「も、もちろんです! 私は恵まれています。

 花歩。今度の日曜、私は先輩とクラシックのコンサートに行くんや」

「うっ、二人でそんな約束してたの……。

 でもそれは、つかさちゃんへのアタックと両立すると思うんやけど……」

「とにかく、一ヶ月待ってから、ね」

 

 小都子に言われ、はいと言うしかない花歩に、夕理は少し済まなそうに続ける。

 

「花歩が私のために言うてくれてるのは分かるで。

 でもつかさの頭の中には、もう私という選択肢はないと思う。

 元々私の方から、依存しないように、普通の友達でいられるように努めてきたんやから」

「そうやねえ。急に方向転換されても、つかさちゃんも戸惑うやろうねえ」

「で、でも夕理ちゃん」

 

 乗り気でない二人に、花歩だけ必死で方向転換を後押しした。

 

「今の夕理ちゃんなら、つかさちゃんと結ばれても依存なんて絶対せえへん。

 それだけは、友達の私が保証する!」

「……とにかく一ヶ月後までに、考えるだけはしてみる」

 

 夕理の返事でお昼は終わり、部室を出る。

 鍵を返すため別れた花歩は、小都子と並んで戻る友達を見送った。

 

(私の余計なお節介なんやろか……)

(でも姫水ちゃんも勇魚ちゃんも、あれから時々元気がない)

(つかさちゃんが幸せになってくれれば、二人も安心できると思うんや……)

 

 もちろんそのために、夕理に無理しろと言う気はないけど。

 でもこの機を逃したら、夕理とつかさの関係は完全に固定される気がする。

 中一のときからずっと続く想いが、何とか報われてほしかった。

 

(つかさちゃん、お願いや……。今すぐは無理でも、あの子を見てあげて)

(今の夕理ちゃんは一人ではないんや)

(せやから、安心して好意を受け取っても大丈夫や)

 

 小都子と花歩だけではない。夕理を取り巻く全てのことが、彼女を支えてくれている。

 全ての、ことが……。

 

(あ、ひらめいた)

 

 花歩に浮かんだのはもう一つの課題、新曲のことだった。

 

 

 *   *   *

 

 

「『オール・ザッツ・何ちゃら~』なんていいと思うんですが。どうでしょう曲名」

 

 一日置いて木曜日。三年生が参加する日。

 曲のタイトルを決めるべく、花歩はミーティングで提案する。

 その瞳の向く先で立火は破顔した。

 

「集大成らしいし、なんか漫才ぽくてええな! 年末にやってそう」

「あ、あはは、それはそれで。

 で、何ちゃらに当たるいい言葉はないでしょうか? smileとlaugh以外で」

「ふっふっふっ」

 

 いきなり腕組みして笑い出したのは桜夜である。

 自分では知的になったと思ってる目をきらりと輝かせる。

 

「受験勉強の成果を見せたるで! ここで使うべき単語は『funny』!

 意味は『こっけいに面白い』。私たちにぴったりやろ!」

「あ、はい、それも考えたんですが、形容詞なので……」

「え……形容詞だとあかん?」

「ちょっと文章としてどうでしょう」

「むむ……姫水!」

「はいはい。後ろに『days』をつけたらどうかしら。

 私たちの面白かった日々、その全てをライブに込められたらなって」

 

 おお、と沸く部員たちの頭に、そのタイトルが浮かぶ。

 『オール・ザッツ・ファニー・デイズ』、略してATFD!

 夕理の顔は少し明るくなり、クールなつかさと晴も特に異論はない。

 

「なかなかええんとちゃう。ちょっと長いけど」

「去年のAqoursも四単語で優勝した。長さは問題にはならへんやろ」

 

 Aqoursと同じと聞いて嬉しそうな勇魚に、立火は続けて指示を出した。

 

「よし、曲は一気に完成に近づいた。あとは勇魚! 笑える衣装を頼むで!」

「はいっ! 日曜に道頓堀へ行って、ちょっと取材してきます!」

「え……道頓堀に何かあったっけ?」

「えへへ、週明けのお楽しみですっ!」

 

 まさかカニかフグの衣装でも作る気じゃ……。

 と危惧する部員たちだが、本人が言っているのだ。楽しみに待とう。

 

 その後は歌詞の残りを詰めて、曲としてはいったん完成した。

 しかしこれだけで笑わせられるとは誰も思っていない。

 全国大会まで一ヶ月と少し。ここから笑えるライブを作る、試行錯誤が始まるのだ。

 

 部活終了後、立火から連絡があった。

 

「明日は三年生は半日授業やから、部活は休ませてもらうで」

 

 下級生たちに緊張が走る。

 明日はセンター試験前日。その次の日はいよいよ本番である。

 立火はどうでもいい情報を披露した。

 

「おととしまでは三年生を体育館に集めて、校長が激励とかしてたんやけど。

 それで風邪引いた奴が出て、去年から中止になったんや」

「この学校はアホしかいないんですか……」と呆れ顔の夕理。

「でも実際、風邪には気を付けてくださいね? では、校長先生とはいきませんけど……」

 

 そう言った小都子はそのまま立ち上がり、後輩たちに目配せした。

 立って次期部長の後ろに並ぶ一年生に、立火と桜夜はなんやなんやと目を丸くする。

 応援団のように手を掲げた小都子が、目いっぱい声を張り上げる。

 

「フレー! フレー! せ・ん・ぱ・い!」

『フレ! フレ! 先輩! 頑張れ頑張れ! 先輩!!』

 

【挿絵表示】

 

 一年生たちも唱和し、冬の部室にエールが響き渡った。

 桜夜は滂沱の涙を流し、立火は風邪でもないのに鼻をすする。

 

「み、みんなあ……」

「お前たち、ありがとう……熱いエール、確かに受け取ったで!」

 

 感動シーンをカメラに収める晴の前で、立火は改めて決意した。

 センターで良い点を取っておけば、二次試験も余裕をもって臨めるだろう。

 逆にここでダメなら、全国大会への練習にはあまり参加できないかもしれない……。

 スクールアイドル生活の締めのためにも、必ず結果を出さねば!

 

「やるでー! ここまで応援してもらったんや、私はやったる!」

「うんうん、頑張るんやで立火」

「お前も来週後半から試験やろ! 何を余裕こいてるんや!」

「だいじょーぶだいじょーぶ。六校も願書出したんやから、数撃ちゃ当たるって」

 

 フラグのようなことを言っている桜夜に、夕理は心底不安しかない。

 

「恥ずかしながら応援団の真似までしたんですから、しっかりしてください」

「あはは。フレフレ言ってるの、夕理にしては可愛かったで。もう一回やって」

「絶対に嫌です!」

(この二人、何だかんだで仲良くなってきてるのかな?)

 

 少し思うところのある姫水だが、今は心に秘めておく。

 

 そして――センター試験の日がやってきた。

 

 

 *   *   *

 

 

「おはよっす、広町さん」

「おはよ。お互い気合い入れてこ」

 

 隣の区にある大学で、同じクラスの子と挨拶する。

 家から近いし、祖母の言葉がなければここを受けるつもりだった。

 全身のポケットに入れた、初詣のお守りに護られながら建物に入る。

 

「隣やな。よろしくー」

「うん、よろしく……って!」

 

 試験会場に座り、隣の子に挨拶すると、向こうはいきなり驚いてきた。

 

「Westaの立火さん!?」

「おっ、知っててもらえて光栄やな」

「そら全国行ったスクールアイドルやん! え? 試験なんか受けててええの?」

「いやいや、いくら全国行けても、試験は受けないと浪人やで」

「あ、あはは、それもそうやな。アイドルと思うとつい」

『え、広町さんが!?』

『同じ部屋で!?』

 

 たちまち部屋は大騒ぎになり、握手やらサインやらを求められてくる。

 立火が気さくに応じていると、一画から声が上がった。

 

「ねー、ちょっと一曲歌ってもらえへん?」

「って何調子乗ってんねん! 試験官につまみ出されるわ!」

 

 即座に近くの子が突っ込み、場は笑いに包まれる。

 緊張なんて完全に吹っ飛び、皆は着席して試験開始を待った。

 

(ほんま、大阪人はノリがええなあ)

 

 他県の人からは不謹慎と見られるのかもしれないが、立火には心地よい空気だ。

 でも、だからこそ一度は離れねばならない。

 名古屋人というのはどういう人たちなのか……

 それを確認するためにも、立火は鉛筆を握って戦いを開始する。

 

 

 *   *   *

 

 

「部長から連絡、きいひんなあ……」

 

 土曜のお昼休み。スマホばかり確認している花歩に、つかさが呆れ顔を向ける。

 

「いちいち昼に報告なんかせえへんやろ。ちっとは信じてドンと構えたらどうやねん」

「ううっ、小心者でごめん」

「まあまあ。それより、明日の日曜だけど……」

 

 と、姫水がお弁当箱を置いて花歩に尋ねる。

 

「予定がなければ、アメリカ村と堀江に行かない? 服でも見に」

「あたしも一緒やでー」

「え、姫水ちゃんとつかさちゃんと? うん、大丈夫やけど」

 

 色々あったばかりの二人に誘われて、ちょっと緊張する花歩である。

 とはいえこの機に探れるかもしれない。今のつかさが夕理をどう思っているのか。

 花歩の視線はその夕理へと向く。

 

「で、夕理ちゃんは小都子先輩とコンサート」

「先輩がいてくれて助かったで。一年生はこういうの一緒に行く人いいひんから」

「あ、あはは。一時間くらいで終わるなら行くんやけど」

「うちは一時間も無理や! 三十分で寝るで!」

 

 自慢にならないことを笑顔で言う勇魚は、姫水がぴくりと反応したことに気付かない。

 その勇魚はボランティア部の人と道頓堀で遊ぶそうで、充実した休日に、花歩は少し後ろめたい。

 

「部長がセンター試験受けてる日に、私たちは遊んでてええのかなあ」

「あたしらが家でじっとしてたからって、部長さんの点数が上がるわけでもないやろ」

「来年、再来年は我が身やからね。今のうちに青春を謳歌しておかないと」

 

 つかさに続いて小都子の言葉に、皆も確かにと納得する。

 桜夜は講習に行っていて今日はいない。

 下級生たちは今はジャージ姿。一足先にライブの練習を始めているが、センターがいないとやはり締まらない。

 合格さえ決まれば、逆に授業がなくなる三年生の方が、練習時間は多く取れるのだけど……。

 

 

 *   *   *

 

 

『一日目の自己採点は、やらん方がええんやって』

『もし結果が悪いと明日の試験にも影響するから』

『てことで二日目が終わってからまとめてやるで』

 

 昨晩届いた立火のメッセージを、花歩は姫水と一緒に地下鉄で読み直す。

 参考になるなあ……と言いたいところだが、残念ながら参考にできるのは小都子までである。

 

(なんで入試制度改革なんて、余計なことするんやろなあ)

(しかも問題点多いみたいやしグダグダになりそう……ってやめやめ。せっかくの日曜や)

「そういや姫水ちゃんは大学行くの?」

「どうしよう。一応行っておいた方がいいのかな。

 まあ、役者のお仕事が軌道に乗るか次第ね。乗らなかったら行くしかないし」

「うーん、芸能人も大変やなあ」

 

 待ち合わせの四ツ橋駅には既につかさが来ていた。

 会うなりじろじろと、花歩を値踏みするように眺めてくる。

 

「相変わらず大都会大阪の人間とは思えぬ、芋っぽい恰好やな」

「ほっとけ!」

「そんな花歩でも東京に行って恥ずかしくないように!

 今日は堀江のセレクトショップで、おしゃれを追求しようというわけや」

「うふふ。花歩ちゃんは磨けばもっともっと光ると思うわよ」

「ええ……今日ってそういう趣旨やったの。

 でも全国大会は部活なんやから制服やん」

「それ以外でも東京行く機会はあるやろ」

 

 堀江へと歩きながら、つかさの目がふと遠くなる。

 冬の空気の中で夏を見据えたかのように。

 

「夏休みになったら、あたしは姫水のとこに遊びに行くつもり。もちろん勇魚も連れてくで」

「私も今度こそ、東京の友達を紹介できると思う」

「つかさちゃん、姫水ちゃん……」

 

 本当にこの二人は、結ばれこそしなかったけど大切に想い合ってるんやなあ……と花歩が感じていると。

 お鉢は自分の方へ回ってきた。

 

「花歩ちゃんは来てくれる?」

「も、もちろんや! あ、でも予選突破できたら、夏休みも全国大会やで?」

「その場合は二、三泊延長する感じやな。交通費浮くし」

「あはは、それならお得やね。――帰りに、部長と桜夜先輩のとこに寄ってもいいかもね」

 

 その部長が試験と格闘中のところを心苦しいが、将来の旅に相応しいセンスのため、花歩は力強く歩を進める。

 が、目的地に着いた途端、その勇気も怖気づいてきた。

 アメリカ村の西に位置する堀江。

 特にオレンジストリートと呼ばれる通りには、おしゃれなブティックやカフェが建ち並び、道行く女子たちもハイセンスに見える。

 

「私にはハードルが高すぎる……。

 服なんてショッピングセンターでしか買ったことないのに!

 こういう店、何も買わずに出るのめっちゃ気まずいやん?」

「もう、花歩ちゃんは人を気にしすぎ。店員さんだって慣れてるし気にしないわよ」

「この前に奈々たちと来たとき、いい店があったんや。

 ほら、あそこ。店員が話しかけてこないから、花歩にはちょうどええやろ?」

「うーん、それは助かるけど……」

 

 観光地として混雑しているアメリカ村に比べ、堀江は落ち着いていて人通りもそこそこだ。

 だからというわけではないが、つかさが指し示した店内には客の姿はなかった。

 

「めっちゃ入りづらい……もっと人のいる店にしない?」

「ええい往生際の悪い! 人がいたら落ち着いて服選べないやろ!」

「さ、花歩ちゃん。入って入って」

「あうう」

 

 姫水に背中を押され、仕方なく店内に入る。

 普段の花歩ならまず買わない、おしゃれ度の高い服がずらりと並んでいる。

 まずは試着ということで、一番はしゃいでいたのは姫水だった。

 

「これとこれ、これなんかもいいんじゃない?」

「姫水ちゃん、楽しそうやね……」

「花歩ちゃんは可愛いんだから、もっとアピールすればいいのにって常々思ってたのよ」

 

 そう言って姫水が選んでくれた服は実際可愛くて、花歩も悪い気はしない。

 でもやっぱり……服に着せられてる気がする。

 しばらくファッションショーを楽しんでから、頃合いを見てつかさが口を出した。

 

「さ、次は花歩が自分で選ぶ番やで。センスの見せどころやなー」

「うう、またそうやって難題を。そうやなあ……」

 

 じっと動かない店員を気にしつつ、店内を見て回る。

 花歩が手に取ったのは少し大人っぽい服で、姫水は目を丸くした。

 

「そういう方が好みだった? ごめんね、言ってもらえれば」

「う、ううん、さっきみたいな服も好きやで。

 でもやっぱり、もっとイカした女の子になりたいねん。つかさちゃんみたいな」

「あら、聞いたつかさ? こんな向上心のある子の目標になるなんて、幸せ者ね」

「もー、恥ずかしいことを堂々と……。まだ憧れとか言うてんの」

「当たり前やろ。変わるわけないやん」

 

 つかさと姫水の間に何があったのか、全てを知っているわけではないけれど。

 最後までつかさが、好きな気持ちを貫いたのは分かるし、憧れはますます強くなった。

 自分ではそんな風にできそうにないから、なおさら。

 

【挿絵表示】

 

 いくつか試着して、二人のお勧めも聞いて、ひとつの服が候補に残る。

 今の花歩に似合うとは言えないけれど、似合うようになりたいと思える服。が……

 

(うげえ……七千円)

(普段の私なら即回れ右の値段や……)

 

 他の店も見に行く? と二人に聞かれたし、見てみたい気持ちもある。

 でも結局それをすると、いつもの優柔不断な自分で終わりそうだった。

 

(……ええい! 今はお年玉が残ってるんや!)

(お金をかければおしゃれになるとは思わへんけど)

(貧乏性でチャンスを見送るのはもう嫌や! 一期一会!)

 

「ありがとうございましたー」

 

 店員の声を聞きながら、袋を抱えて外に出た花歩を、姫水が心配そうに覗き込んだ。

 

「大丈夫? とんでもなく深刻な顔をしてたけど……」

「清水の舞台から飛び降りたとこ! 私はまた一つ生まれ変わったんや!」

「あはは。そこまで気合い入れて買ったなら、その服も幸せ者やな。

 さて、あたしは今日は靴を見に来たんや。二人とも付き合ってや」

「私はちょっと家具を……」

「ええ!? 姫水ちゃん、家具買うの!?」

「見るだけよ。いいのがあれば後で母と来るけどね」

 

 改めて、引っ越しちゃうんやな……と実感しながら、二人の買い物に同行する。

 スタイリッシュな欧風家具店と同時に、老舗のタンス屋などもある堀江。

 あれこれ意見を交わす姫水とつかさに、花歩も大いに勉強になった。

 

(やっぱり持つべきは、センスのある友達やな)

(これで私も、堂々と東京へ行けそう!)

 

 

 *   *   *

 

 

 三人が入ったのはこれまたおしゃれな、オーガニックな感じのカフェである。

 

「この後にアメ村も行くんやから、食べすぎるんやないでー」

『はーい』

 

 つかさに返事してガレットなどを頼んでから、一息つく。

 花歩の当初の目的――つかさが夕理になびいてくれそうかは、正直何とも言えなかった。

 姫水とは普通に仲のいい友達に見えるけど。そう努力している感じがしないでもない。

 

(いっそ姫水ちゃんに協力を頼むとか……)

(って、先走りすぎやな。この服と同じで、まずは夕理ちゃんが選ぶことや)

「ねえ、花歩ちゃん、つかさ」

 

 と、少し低い声で話し始めたのは姫水だった。

 

「私とつかさは最高の結果とはならなかったけれど。

 過去には戻る気はないし、この結果を踏まえて先に進まないといけない」

 

 どこかで聞いたようなことを言ってから、姫水は決然と顔を上げる。

 

「Westaの八人の中で、一ヶ所だけ欠けている輪がある。

 それを繋いでこそ、全国大会に相応しいライブができると思うの。

 つかさと決着がついた以上、もう私と彼女の間にわだかまりはないはず」

「そ、それってまさか……」

 

 勢いに飲まれている花歩に向かって、願いが姫水の口から放たれた。

 

「何とか本番までに――天名さんと仲良くなりたい」

 

(どうにも話がややこしくなってきたで……)

 

 夕理が好きな人が好きだった人が、その夕理と仲良くなりたいと言う。

 この関係は、一体何と呼べばいいのだろう?

 

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