ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 実力差 ☆☆☆

 視聴覚室のカーテンを閉めて、全員でジャージに着替え始めた。

 つかさは既に衣装姿なので、椅子に座って様子を眺めている。

 

「部長さん、こう言うたら失礼ですけど」

「ん、何や?」

 

 そう言うつかさの視線は、立火の体の一部に集中していた。具体的に言うと胸のあたりに。

 

「めっちゃ平坦ですね」

「マジで失礼やろ!!!?」

 

 絶叫に近い突っ込みを入れたのは隣にいた花歩だった。

 言われた当人の立火は、苦笑しながら着替えを続けている。

 

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「つかさちゃん唐突に何言うてんの!!!? 頭おかしなったの!!!?」

「いやあ、イケメンな先輩やから笑って許してくれるかなって……」

「本人気にしてるかもしれへんやろ!!! 心で泣いてるかもしれへんやろ!!!」

「いやいやいや、ないないない」

 

 一生懸命抗議する花歩を可愛いとは思いつつ。

 袖に腕を通した立火は、笑って手を振り否定する。

 

「別にまな板でも、日常生活で困らへんしなー」

「ほーら」

「何がほーらや! 自分がちょっと大きいからって!」

「あたし? 普通ちゃう?」

「嫌味か!!!」

「まあでも花歩の言う通りやで」

 

 口をとがらせて、横から参戦してきたのは桜夜だった。

 

「少しくらいは気にしろっちゅーねん。ほんま立火は乙女心が足りてへんわ」

「い、いえっ、私は気にすべきと言いたいわけでは……」

「男前な子が実は貧乳を恥ずかしがってる! なんてシチュに世間は萌えるんやで。スクールアイドルならファンサービスせな」

「アホらし、なーにが萌えや。安易なキャラ作りなんてすぐ見破られるわ」

 

 着替えを終えた立火は、ばしんと手の平で薄い胸を叩いた。

 

「女は裸一貫、素の自分で勝負や!」

「男らしすぎない!?」

「大体やで、胸なんて脂肪やろ?」

「まあそうやな」

「脂肪が腹についたらショックやん?」

「確かに乙女の大ピンチや」

「おかしいやないか! 距離的に20cmくらいしか差がないのに何で評価が逆転すんの!?」

「うん? ……うん?」

「桜夜、誰かに騙されてんで!」

「そ、そやったん!? 誰に!?」

「えっ……謎の組織……」

「謎の組織!?」

(この下らない会話、いつまで続くんやろ……)

 

 黙って聞いていた夕理が軽く頭を振る。なんだか頭痛がしてきた。

 小都子が止めてくれないかと期待したが、何がそんなにウケているのか、必死で口を押さえて肩を震わせている。

 

(あかん……こんな部につかさを誘った私の責任が問われる……)

「あははは、なかなか面白い部やね」

「そ、そう? つかさが面白いならええけど……」

 

 

 *   *   *

 

 

「つかさ、やるやないか!」

 

 まずは実力を見るということで、課題として与えられた数十秒のダンスを、つかさは易々とクリアした。

 立火を始め、上級生たちが拍手を送る。

 

「こんな感じでいいんですか? 踊るの中学の授業以来やなー」

「いやいや、一年生でこれは大したもんやで」

「そうでしょうそうでしょう。つかさは大抵のことは器用にこなせるんです」

「何で夕理が偉そうやねん」

 

 腕組みしてうんうん頷いている夕理に、桜夜が突っ込むが今回はスルーされる。

 続いて、色々あったため今日が初ダンスの夕理が、軽やかに視聴覚室の床を舞う。

 

「こっちもなかなかやな!」

「夕理ちゃんらしい、きっちりと正確な振りやねえ」

 

 立火と小都子の称賛に、夕理は照れるでもなく当然という顔である。

 

「一応今までも、スクールアイドルの動画を参考に踊ったりはしていました」

「へえ、やっぱり気に入ったグループのを?」

「いえ逆です。気に入らないダンスに文句を言うには、まず自分で試してみる必要があると思ったので」

「えっ、叩くために練習してたの……」

「せ、正当な批判のための行動です!」

 

 少し引いた立火だが、何にせよ優秀な人材が揃った。全国行きへの大きな一歩と言えるだろう。

 が、その時になってようやく気付く。

 後ろにいる花歩が、暗い顔をしていることを。

 

「あー……ほ、ほな次は歌いってみよか」

 

 夕理とつかさが課題曲を聞いている間に、立火の頭に歪んだ考えが去来する。

『そ、そこまで上手くなくてもええんやで』

『下手はさすがに困るけど、できれば普通くらいで……』

 そんな考えを、大慌てで頭を振って追い出す。

 部長失格だ。

 ラブライブを勝ち抜くには、上手い方がいいに決まっているのに。

 

 そして披露された二人の歌は、改心した立火の期待に背かない、高水準なものだった。

 

「一応仲間内では、カラオケ女王って呼ばれてます♪」

「これでも音楽経験者ですから」

 

 花歩の目がどんどん曇っていく。

 何か言ってあげたいが、何を言うのもおかしい気がする。

 代わりに晴が、冷酷な指令を口にした。

 

「次は一年生三人で一緒にやってみよか」

「おい晴!」

「何か?」

「い……いや、何でもない……」

 

 緊張したのか、花歩の演技は以前にもましてボロボロだった。

 他の二人が簡単にこなせるステップで、盛大につまづいて床に伏せる。

 

「か、花歩、大丈夫?」

 

 夕理の心配そうな声が頭上に降り注ぐ。

 つかさの手が伸びて助け起こしてくれる。

 

「……うん、平気や。ごめんね足引っ張って」

 

 力のない笑顔が立火に突き刺さった。

 部員が増えて、何もかも上手く回るはずだったのに。

 こういう事態は予想していなかった。

 

 

 *   *   *

 

 

「部長、この後少しいいですか」

 

 その日の活動が終わった後、晴に呼ばれて部室に残る。

 全員の気配が去った後で、参謀は静かに口を開いた。

 

「次のPVですが、つかさと夕理は十分使えると思います。入ってもらいましょう」

「せやな」

「花歩は無理です。外しましょう」

「………」

 

 そう言うと思った。

 そして、そう思われているのを承知で、躊躇せず言ってくるのが晴である。

 

「言いたいことは分かんねんけど、一年生で一人だけ外されるのはやっぱりショックやろ。今回は二、三年生だけで……」

「それでは新生Westaのアピールになりません。駄目な方に合わせてどうするんですか」

「駄目な方なんて言い方はないやろ!」

「部長」

 

 晴の三白眼が立火を直視する。

 思わず睨み返すが、晴は微動だにしなかった。

 

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「そんな浪花節で、ラブライブを勝ち抜けると本気で思てはるんですか?」

「な、浪花の人間が浪花節で何が悪いんや……」

「部長が特定の一人に肩入れするようでは困ります。全員を公平に扱ってください」

「そ、それは分かってんねんけど、でも花歩は誰もいない時に初めて入部してくれて!」

「部長が言い辛いなら、私から花歩に言うても構いません。人に嫌われるのは慣れてるので」

 

 有無を言わさぬ態度だった。

 立火だって、それしかないことは分かっている。

 結局は晴の掌の上なのを承知で、うめくように答えるしかなかった。

 

「……いや、私から言う」

 

 

 *   *   *

 

 

 昇降口を出た後は、花歩は東門からバス停へ、夕理とつかさは西門から駅へと別れる。

 手を振ってさよならを言ってから、互いに背を向けた。

 花歩が落ち込んでいるのが夕理は気になったが、根本的には本人に努力して上手くなってもらうしかない。

 それはともかく、夕理としては本日最大のイベントが待っていた。

 

「あ、あのねつかさ」

 

 歩き出そうとするつかさに呼びかける。

 朝は別々に通っている。彼女は同じ中学の友達と登校していて、それを邪魔したくないから、一本早い電車に乗っている。

 けど同じ部に入ったなら、下校は同じ時刻になるということだ。

 

「その、良かったら一緒に……」

「ん? もちろん一緒に帰るけど?」

「!!! う、うんっ」

 

 良かった。

 もう依存については不安視されていないようだ。

 中一の時以来の、二人で過ごす毎日の帰り道が、これで保証された。

 

「えへへ……」

「夕理ちゃん、嬉しそうやねぇ」

「せっ先輩!」

 

 にこにこ顔の小都子が昇降口から出てくる。

 そうだった、つかさにべったりは許されない。

 この人にも興味関心を持たないと。

 

「さ、小都子先輩は何で帰らはるんですか?」

「私は自転車。堺駅の近くやから、ここから4kmくらいかな」

「え、先輩、堺やったんですか」

 

 少し驚くが、ここは大阪市の南西端。南の大和川を越えればすぐ堺市だ。あちらから通う生徒がいても不思議ではない。

 つかさも納得したように言葉を繋げた。

 

「言われてみれば堺って感じですね。お茶持ってきてくれるし、利休の末裔ですか?」

「あはは、ほんまに末裔やったら今頃は千家継いでるねえ」

 

 と、早足で歩いてきた桜夜が、追い抜きざまに挨拶していく。

 

「おつかれ!」

『お疲れ様でーす』

「……お疲れ様です」

 

 ハモった二人の声の後に、少し小さな夕理の声が続く。

 そのまま遠ざかる桜夜は、どうやら駅へと向かうようだ。

 心配になった夕理は小都子に尋ねる。

 

「木ノ川先輩はもしかして……」

「先輩は天六やから、駅から地下鉄やね」

「結構遠くから通ってはるんですねー」

「ああ良かった。私たちはニュートラムやから、顔合わせへんでも済むわ」

「こらこら夕理」

 

 住之江公園駅からは北に地下鉄四つ橋線が、西に新交通ニュートラムが走っている。

 夕理たちの住む弁天町へはどちらからも行けるが、こうなるなら西回りの定期を買って正解だった。

 小都子は困り笑いを浮かべている。

 

「あんまり桜夜先輩のこと嫌わんといてあげてね?」

「私はあんな人どうでもいいです。向こうが私を嫌ってるんです」

「うーん、先輩は来年卒業やねんし、仲良くなって欲しいんやけどね。まあ何にせよ、今日はお疲れ様」

『お疲れ様でした!』

 

 自転車置き場へ向かう小都子を見送ってから、二人並んで駅へと向かう。

 

「つかさはどうやった? 部活初日は」

「まあ、それなりに面白かったかな。けど花歩はちょっと可哀想やんな」

「う、うん。私も練習に協力できたらええんやけど……」

 

 二人きりの頃と同じように下校しながら、二人きりの頃ではあり得なかった会話を交わす。

 今日から始まった新しい日々に、夕理は赤く染まる空を見上げて願う。

 今度こそ、三年間続きますように――。

 

 

 *   *   *

 

 

「たっだいまー」

 

 幸せそうな夕理と弁天町駅で別れた後、つかさが自宅の玄関を開けると、人の形をした物体が転がっていた。

 

「あ~……おかえりぃ~~」

「……お姉ちゃん、こんな時間に何してんねん。うわ、お酒くさっ」

「午後ずっと飲んでた……」

「ええ!? 仕事は!?」

 

 社会人の姉は隣の豊中市で一人暮らしをしているが、時々こうやってふらりと帰ってくる。

 そして帰ってくるのは、大概ろくでもないことが起こった時だ。

 

「だってタケシがね……タケシが、もう終わりやって……」

「また別れたの……。この前付き合い始めたばっかやん……」

「うえええええ」

 

 泣き出す姉に溜息をつきながら、とりあえず靴を脱いで上がる。

 姉のことは好きだが、男を見る目がなさすぎるのはどうにかして欲しいと思う。

 

「おかーさーん! ちょっと手伝ってー!」

「今夕ご飯作ってるとこやー! そっちで何とかしてー!」

「あーもう」

 

 仕方なく一人で姉を引きずって居間まで運び、何とかソファーに寝かせる。

 

「はいお水。いい大人が高校生に手間かけさせんといて」

「ありがとぉ~……うっうっ……」

「これに懲りたら、もう少し慎重にいい人選んでね」

「ごめんねほんまに……つかさが彼氏作らへんの、お姉ちゃんがこんなやからやんな……」

「いや別に人のせいにする気はないけど」

 

 とはいえ姉が反面教師になっているのは確かだ。

 こんな光景をしょっちゅう見てきたので、男女交際には『面倒くさい』という印象が付いてしまった。

 

「よし分かった、お姉ちゃんが責任取ってつかさと結婚する!」

「謹んで辞退させていただきます」

「うわあああん! 妹にまでフラれたぁ~!」

「じゃ、あたしは行くから、って放してよ!」

 

 姉が制服を掴んでいるせいで部屋にも戻れず、結局ソファーの上で膝枕を強要させられた。

 自分の膝の上で、へにゃへにゃと笑っている姉を見て、再度溜息をつく。

 

【挿絵表示】

 

「つかさは今日何してたの~?」

「部活。スクールアイドル部に入ってん」

「え、つかさが真面目に部活なんて。どういう心境の変化?」

「ええやろ別に……。友達に熱心に誘われたから、まあ暇潰しに」

「スクールアイドルかぁ……あ、分かった、夕理ちゃんやろ」

 

 中一の時、丸一年間ただひとりの友達だったこともあり、姉は夕理のことを知っている。

 中二に上がった時、何があったのかも。

 

「前に裏切ったから、その罪滅ぼし?」

 

 姉を膝の上から叩き落としそうになった。

 中学二年生の自分は、何で姉に相談なんかしてしまったのだろう。

 一緒に悩んではくれたけど、悩んだだけで結局役には立たなかったのに。

 

「……そんなんとちゃうし」

「そういう理由でやっても、あんまり続かへんと思うけどな~」

「酔っ払いが偉そうなこと言わないで! だいたいお姉ちゃんから続くの続かないの言われたないわ!」

「うええええ、妹が痛いところを突いてくるぅ~!」

 

 それから何とか姉を振り払って、部屋に戻って一息つく。

 

(そんなんとちゃうし……)

 

 制服を脱ぎながら、再度心の中で言い訳する。

 自分でも、長くは続かないと思う。

 三年間も真面目に部活動を続ける自分自身を、これっぽっちも想像できない。

 一年も続けば御の字だろう。

 

(――また、一年だけ)

 

 彩谷つかさにとっては、それくらいが限界なのだ。

 それで何とか、夕理には勘弁して欲しい。

 

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