パート1 芸する心 ☆
授業が始まっても、花歩は集中できるはずもなかった。
合格発表は10時。すぐに連絡が来るはずだが……。
(!)
振動したスマホを、机の下でこっそりと覗く。
表示されたのは『サクラサク』の五文字。
心から安堵すると同時に、教室に大声が響き渡る。
「やったーーー!!」
(ちょおお! 勇魚ちゃん!!)
肝が冷える花歩の前で、怒った先生が近づいてくる。
「こら佐々木! スマホ没収するで!」
「はわわ! すみませええん! あの、立火先輩が合格しました!」
「おっ、それは良かった。いやしかし、授業中にやな……」
「やったね勇魚ちゃん花歩ちゃん!」
「これでWestaは全国で大活躍や!」
教室中が大騒ぎになり、先生も結局は喜んで、しばらく授業にならなかった。
そんな空間で、花歩はもう一度安堵する。
バレンタインが苦い結果に終わっただけに、なおさら。
(振られた夕理ちゃんはもちろん、振ったつかさちゃんも辛かったろうな……)
(でも私は、間違ったことをしたとは思わへん)
(夕理ちゃんも諦めてないんや。二人が幸せになれるよう、私もこれから全力を尽くすで!)
そんなわけで、お昼は夕理と作戦会議……と思っていたのだけれど。
当の夕理は、お弁当を食べながら悩んでいた。
「とりあえず一緒に登校できるようにはなったけれど。次の一手が全く思い浮かばへん」
「そこはもう、がんがんアタックするしかないやろ。デートに誘うとか、プレゼントを贈るとか」
「……それでつかさの心は、こっちを向いてくれるんやろか」
思い詰めた表情で、夕理はいったん箸を止める。
「朝に小都子先輩とも話したんやけど。
歓心を買うためだけに必死になるのは、かえって逆効果かもしれへんねって言われた」
「うーん、それもそうか……。
つかさちゃん、夕理ちゃんの人に媚びないところを気に入ってそうやもんねえ」
高潔なところはなくさないで欲しいと花歩も思うが、そうなると手詰まりである。
牛乳を飲み干して、夕理は割り切ったようにパックを置いた。
「腰を据えて長期的にかからなあかん。ひとまずは登校だけで良しとする。
今は恋にうつつを抜かせる状況とちゃうんや」
「そ、そうやね。全国大会まであと八日!」
どのみち明後日の日曜は練習、その次の日曜は本番。
デートを考えるとしても、全ては大会が終わってからだ。
「部長、私立は受かったけど、公立も受けるのかなあ」
「公立の受験日って全国大会の翌日やろ。どうするんやろな……」
* * *
そんな後輩たちの心配に、放課後の部室で立火は説明を始めた。
「正直なところ大学の雰囲気なんかは、私立の方が好みなんや。
公立の方が偏差値は上やし、受けても合格する可能性は高くない。
とはいえ前に言うた通り、公立の学費は百万円安い。さあっ! 君ならどうする!」
立火の指が一年生たちへ突き付けられる。
後輩にもいずれ来る受験の、心の準備をしてほしいのだろう。
花歩も自分のこととして考えつつ、ついつい雑念が入ってしまう。
(できれば部長には、ここで受験をやめてほしい)
(残り少ない時間、全てを部活に注ぎ込んでほしいんや……)
勝手な言い分とはわかっているけど。
スクールアイドル広町立火の終幕は、受験との掛け持ちではなく、ただ一筋に完全燃焼してほしかった。
一年生五人で後ろを向いて話し合ってから、代表して勇魚とつかさが答えを返す。
「やっぱり、自分が好みの大学に行くのが一番やと思います!」
「百万いうても四年間でしょ? 月あたり二万円。うちの姉を見る限り、社会人になれば余裕で返せますって」
そして姫水が、横目に花歩を映しつつ優しく言った。
「大学は後から編入もできますけど、スクールアイドル活動は二度とない、今この瞬間だけ。
花歩ちゃんに掛け替えのない、最高の思い出を作ってあげてほしいです」
「ち、ちょっと姫水ちゃん、私のことはええやろ。
その……できれば心置きなく、アキバドームに立つ部長を見たいです」
立火としては後輩の参考にというつもりだったが、逆に思いを寄せられてしまった。
感じ入っているところへ、見守っていた小都子が穏やかに促す。
「先輩の答えはもう出てるんでしょう?」
「そうやな。さっき親と先生と話して決めたけど、お前たちのおかげで一層固まった。
私の受験はこれで店じまいや! 公立は受けず、この先の時間は部活に捧げる!」
やったー! と花歩たちが万歳する中、晴もかすかに微笑んでいる。
そして立火の目は、少し複雑な顔の夕理へ向いた。
「夕理は『より上の大学を目指すべきです』とか言うかと思ったで」
「言えるわけないでしょう。この高校を選んだ私が……。
私なら公立も受けた上で判断しますけど、先輩が後悔しないならいいです。
公務員試験の勉強はどこでもできます。しっかり励んでください」
「あはは。久々に上からやなあ」
そんな温かい雰囲気の部室で、ひとり暗いのは桜夜である。
取り残された子猫のような、涙目の顔を相方に向けた。
「うう……立火あ……」
「情けない顔をしない! 私は先に降りるけど、最後まで手伝うから。
三年間真面目に勉強してこなかったツケなんや。気合い入れて完済するんやで!」
「ううう、分かった……見捨てたら一生恨むで……」
「せえへんって!」
その光景を見ている花歩と勇魚も、あまり他人事ではない。
二年後に綺麗に引退できるよう、勉強も頑張っていかないと……。
他に連絡事項はという立火に、夕理が静かに手を上げた。
「私事ですみません。ひとつ報告があります」
デジャブを感じる三年生たち。
語られた内容は案の定、先月と似たようなものだった。
「昨日つかさに本命チョコを渡して告白しましたが、見事に振られました。
でも一敗した程度では諦めませんし、何年かかろうが振り向かせます。
もちろん部活を疎かにはしません。アタックするにしても全国大会の後にします。
私からは以上です」
「あー……そ、そう」
それくらいしか言えない立火である。本当、どこまでも自分の道を貫く後輩たちだ。
つかさは困り笑いを浮かべているが、嫌そうではないので納得はしているのだろう。
が、結果だけ見ればまたも失恋であり、桜夜はやり切れないようだった。
「ちょっとー。うちの部のラブ関係、どこも上手くいってへんやん。どこかにハッピーエンドはないの?」
(一番上手くいきそうなのはアンタやで!)
勇魚と晴以外の下級生が思わずツッコむ。
大切な人と二人暮らし。そんな未来が待っている先輩に、特に花歩は思うところはあるけれど。
でも桜夜も本気で心配して言ってくれているのだ。
しばらく先になったとしても、『夕理ちゃんは上手くいきました!』と報告したかった。
そうして練習が始まり、レッスン不足の桜夜が特に鍛えられる。
とはいえほぼ完成済みの、オール・ザッツ・ファニー・デイズ。伸びしろはあまりない。
完成しているのですからそう焦らなくていいのでは? と姫水が慰めるが。
しかしせっかく部活に集中できるのに、これ以上できることはないのか……と悩む立火である。
お渡し会の記事をアップロードした晴が、帰り際に声をかけてきた。
「残り一週間、私は全力で広報を続けます。
部長も受験が終わって頭がお手すきでしょうし、考えることはやめないでください」
「私の脳みそ、酷使でボロボロなんやけど。でもまあ、何か考えてみるで」
* * *
翌日は土曜日。
部活以外にやる事のない立火は、朝八時に部室へやってきた。
まだ暖房が入っていないので、少し体を動かしてから、温まった体で考える。
(アキバドームの五万人を爆笑させられるとは思わへん。そんなんプロの芸人さんでも無理や)
(せめて三万人……いや一万人でもクスリとしてくれれば……)
それだって相当ハードルが高い気がする。
スマホでお笑いの動画を見てみたが、見ているとだんだん、何が面白いのか理解できなくなってくる。
考えるうちに頭が崩壊しかけて、慌ててスマホを消した。
(結局は笑いは理屈やない、センスなんやなあ)
(平凡なセンスしかない私たちが、それでも見る人を楽しませるには……)
後ろの棚に入れた衣装が目に留まり、自分のものを着用してみる。
難しい顔をしてても仕方ない、ピエロらしくひょうきんに! と思うが、何だか笑い方まで分からなくなってきた。
今度はピエロの動画を探してみると、一つの映像が目に留まる。
(これは……)
(そうや、これなら笑いのセンスがなくても!)
「おはようございまーす」
十時になって登校した花歩たちが、部室の扉を開ける。
同時に目に飛び込んできたのは、朗らかにステップを踏むピエロの立火。
そしてその手から放たれる、宙を舞う三つの物体だった。
「グンモーニング! どうやろこれ!」
「うわ部長、お手玉上手ですね!」
感嘆する花歩は、こんな事をするピエロをどこかで見た気がする。
すぐに姫水が正解を言った。
「ジャグリングですね」
「そうそう。本物はボールとか、ボウリングのピンみたいなのやけど」
「先輩先輩! うちもお手玉は得意ですよ!」
鞄を置いた勇魚が立火の前に飛び出す。
ほっほっ、と投げられたお手玉を、勇魚の小さな手が器用に受け継いだ。
「おー、なかなかやるやないか」
「えへへ、汐里が小さい頃は喜んでくれたので!」
「さすがは勇魚ちゃん、素敵なお姉さんね!」
「姫水は相変わらずやなあ。花歩、ちょっとそこのを追加して」
「あ、はいっ」
机の上にあった四個目、五個目のお手玉が投げ入れられる。
他の部員たちも到着する中、立火と勇魚の間で飛び交う小豆入りの袋。
六個目が追加されたところで、さすがに耐え切れず落ちてしまったが、立火は大いに手応えを感じた。
桜夜以外は揃った部員に、さっそく着席してミーティングを始める。
「というわけで芸や! 隠し芸!
漫才師みたいなセンスはなくても、これなら私たちもできるやろ」
「なるほど。ギャグ的な笑いとは違いますが、見る人が面白くは感じそうですね」
晴のお眼鏡にもかなったようだ。進むことに決めた立火は、さっそく部員たちに挙手を求める。
「ほな、誰か隠し芸できる人ー」
『え……』
「小都子はお笑い好きなんやから、何かあるやろ?」
「そ、そう言われましても……あ! ラテアートならできます」
「ライブ中にどうすんねん!」
「あのっ」
先輩のピンチに、夕理が自信なさげに手を上げた。
「Saras&Vatiでやったバイオリンライブはどうでしょう。面白いかは分かりませんが」
「それや! 楽器を鳴らすのは楽しそうでええな。チンドン屋みたいで」
「チ、チンドン屋……まあ、いいです。それでは明日持ってきます」
せっかくだからと、夕理はスクールアイドル好きの原点について立火たちにも話した。
バイオリンを使っていた青森のグループ。
あの初めてのきっかけを、アキバドームで自分でも行えるなら、それは実に感慨深いことだと。
「そういうことでしたら」
胸を打たれたらしい姫水が、続けて手を上げる。
「楽器が一つでは寂しいでしょうし、私が夕理さんと組みます。
演奏はできなくても、演奏する演技はできますから」
「なら姫ちゃん、笛がいいと思うで! やっぱりチンドン屋はピーヒャララって感じや!」
「そうね。ステージ映えを考えると、クラリネットなんかいいかもね」
「楽器を借りられへんか、吹奏楽部長に相談してみよう」
「頼むで晴!」
(あわわ……とんとん拍子に話が進んでいく……)
花歩も何か芸ができないか、さっきから考えてはいるが何も思いつかない。
結局、立火が話を終えてしまった。
「あくまで追加要素やし、全員がやる必要はないやろ。とりあえず四人で試すで」
「え、うちも入っていいんですか?」
「もちろんや。勇魚と私でお手玉ジャグリングやで!」
「わーい! うち頑張ります!」
(しかも部長を勇魚ちゃんに取られた……)
へこむ花歩だが、先日の轍を踏んだりはしない。
勇魚だって立火のことが大好きなのだ。最後のステージ、二人が組めるのを友達として喜ぼう。
それはともかく、また目立たず終わってしまいそうで、同じく芸のないつかさに小声をかける。
「つかさちゃん、このままでええの?」
「そう言われても、あたし隠し芸とかするキャラとちゃうし。ちょっと様子見」
「うーむ」
程なくして晴がクラリネットを借りてきて、準備は完了。
夕理も今日のところは定規と指示棒でバイオリン代わりにする。
昨日まで停滞気味だった練習が、一気に忙しくなってきた。
どのタイミングでどう芸をするのか、試行錯誤していると、午後になって桜夜がやって来る。
「え、なんや面白そうやん。私も何かやりたい!」
「お前はそんな余裕はないやろ。まずはサブセンターをしっかり務めること。
そういや今日、二校で合格発表やったんとちゃうの」
「今まで黙ってる時点で察して……」
桜夜からは受験の重石は未だ外れない。
それでも全国に悔いを残さぬため、今日も本気でライブ練習に取りかかった。
立火は勇魚とお手玉しつつステージ左へ。夕理と姫水が演奏しながら右へ。
センターから立火が外れたので、桜夜と小都子で繋ぐ。
お手玉を床に置いた立火がセンターに戻り、サブに回った桜夜とともに最後までいって締め。
それを何度か繰り返すうちに、桜夜の頭が一案ひらめいた。
「そうや! ラストにこれ入れたらどう? 練習しなくてもできるし」
と言いながら左手で細い何かを持ち、右手で何かを引っ張る動きをする。
すぐに気付いたのは小都子だった。
「え、クラッカーですか?」
「そうそう、パーンって景気づけに。芸人っぽいやろ」
「確かにお祭りの雰囲気も出ますけど。晴ちゃん、ルール的にどうなん?」
「それ自体は問題ないが、次のグループの舞台に一片のゴミも残さないのが条件や」
そりゃそうだ、と納得する一同に、少し考えこんだ晴が提案した。
「一度試してみますか? アイドルに掃除はさせられへんので、私が黒子として舞台に上がりますが」
『おお!』
立火と桜夜が、思わず手を打って歓声を上げる。
まさに瓢箪から駒。ずっと一緒に頑張ってきた晴が、最後に同じ舞台に立てるのだ。
勇魚と小都子ももちろん大喜びである。
「やったー! 晴先輩と一緒にライブやー!」
「ドームのステージからの景色、晴ちゃんとも共有できるんやねえ」
「あくまで仕事のためやで。とりあえずクラッカー買うてくる」
駅前の百円ショップへ行った晴は、程なくして戻ってくる。
ついでにどこかから調達してきたのか、小さなホウキとチリトリも持っていた。
クラッカーを受け取った桜夜が、一個取り出して小都子に取り出す。
「一人やと寂しいやん。小都子もやって」
「え、私ですか? まあ確かに、左右対称の方が映えそうですね」
小都子としても、最後に桜夜と組めるのは嬉しい。
さっそく練習に入り、終盤部分を歌いながら糸に指をかけて……
『愉快でフライな頭はハイ! そんな私たちの――
オール・ザッツ・ファニー・デイズ!』
パーン!
左右から降り注ぐクラッカーの中を、立火が前に出て締め!
ありがとー! とメンバーが客席へ手を振る間、晴が素早く掃除する。
「いけそうですね。練習すればもう二、三秒は、早く片付けられるでしょう」
「なんというか、こんなアホなこと練習してるの、全国で私たちだけやろうな」
楽しそうな立火の声に、全員で笑う。
一人だけ笑い切れていない夕理に、隣にいた姫水が声をかけた。
「私は賑やかでいいと思うわよ」
「アイドルのライブからは、どんどんかけ離れてる感じやけどな……。
けど私も腹をくくった。今回はこれでええんや。
岸部先輩。私たちの楽器も床に置くより、先輩に手渡してはどうでしょうか」
「確かにその方がスムーズやな。部長、お手玉もそれでいきましょう」
「晴もだいぶ大忙しやな!」
六人の芸と一人の黒子が、笑いのライブに楽しさを添える。
こうなると、花歩も黙っているわけにはいかなかった。
* * *
一時間延長して四時まで練習した後、帰路につく勇魚と姫水に、花歩の声が飛んだ。
「二人は先に帰ってて。私はつかさちゃんに相談があるんや」
そう言って、夕理と帰るつかさを追いかける。
「私たちだけ芸してないやん! やっぱり何かしよう!」
振り向いたつかさは困り顔だ。
自分が自分がの花歩と違い、器用なつかさは全体のバランスを考えている。
「元々完成してたライブなんやで? これ以上盛るのは逆にくどいやろ」
「何やねん! 勇魚ちゃんに聞いたで、つかさちゃんはうちのエースなんやろ?
そんなに消極的なら、私にエースの座を譲ってほしいわ!」
「いや別にあたしが名乗ってるのとちゃうし……」
「ご、ごめんね花歩ちゃん」
と、昇降口から出てきて声をかけたのは、その称号を与えた小都子だった。
「決して花歩ちゃんが劣ってるとか、そういうつもりではなくて……」
「あ、いえ、今の実力ではそうなるのは分かってます。
だからこそつかさちゃんには、もっと挑戦してほしい!」
「分かったってば。けど、くどいのも事実やで。やるにしても一瞬で終わるような……」
つかさが考え込むと同時に花歩も考える。
ライブに組み込めて、目立てて、スピーディな隠し芸。
すぐに思い当たり、二人はお互いへ人差し指を突き付けた。
『手品!』
というわけで、阿倍野のハンズに手品用品を探しに行った。
一人で帰りたくなかった夕理もついてきている。
「ごめんね~夕理ちゃん。つかさちゃんと放課後デートしたかったろうに」
「いらんお世話や! 今は目の前の大会が大事や言うたやろ」
「冗談冗談。でも、一緒に買い物くらいは楽しんだら?」
少し離れたところで、品物を物色しているつかさを花歩が指さす。
夕理は一瞬迷ってから、頬を染めてつかさの隣へ行った。
どうにももどかしい二人に、やれやれの花歩である。
しばらく選んだ結果、手から花を出すマジックに決めた。
衣装にタネを仕込んでおいて、サビのところでぱっと花開かせる。
花歩の名前にも合ってるしね、というつかさの言葉が嬉しい。
「今回はすっかり芸人やけど、次もこうなのかなあ」
ついでに立ち寄ったフードコートで、花歩が呟くように言った。
次も全国行けるかどうか……などとはつかさも今さら言わず、タピオカ茶を飲みながら考える。
「あたしは毎回こうでもいいけどね、面白いし。夕理は正統派のアイドルにしたい?」
「というか……色物を続けても上位へは行かれへんのは確かや。
ラブライブが競技である以上、優勝に向けての努力はしたい」
「前に聖莉守に文句言ってたもんね」
花歩はどうしたいのか、自分でもまだ分からない。
Number ∞にも勝ちたいと言った夕理の夢を、一緒に叶えたい気持ちはあるけど。
と、つかさがタピオカを吸い込んでから一言。
「何にせよ、あたしは小都子部長が決めたことについていくだけやで」
急に先輩想いなことを言い出す彼女に、二人から意外そうな瞳が向く。
つかさはごまかすように微笑むだけだった。
* * *
ジャグリング、楽器演奏、クラッカー、手品。
四つの追加要素をねじ込んで、日曜は朝から晩まで練習に励んだ。
晴も黒の上下に、自作の黒頭巾をかぶってすっかりやる気だ。
そして前期試験が全滅した桜夜は、すぐに来る中期試験のため、途中で切り上げて返っていく。
最終週、月曜もそんな感じでせわしなく過ぎる。
とはいえそれは内部だけの話で、火曜の朝に奈々から不思議そうに問われた。
「地区予選に比べたら、今回はやけに静かやな。体育館で練習はせえへんの?」
「あのときはバトンを投げるのに高さが必要やったからなあ。バスケ部には悪いことしたし」
答えるつかさに、夕理が追加で続ける。
「それに今回は、本番で見るのを最初にしてほしいところや」
「んん? 秘密兵器でもあるの? つかさも同じ意見?」
「あはは。兵器はないけど、事前にネタが割れるとあかんライブやねん」
夕理もつかさもお笑いに詳しくはないが、同じネタで二度笑ってもらうのが難しいのは分かる。
ぶっつけ本番しかない全国大会。いよいよカウントダウンが始まった。
(さて……今日も朝から晩までスクールアイドルや)
誰もいない三年五組で、立火はひとりお手玉を練習する。
階下の教室では、ホームルームが始まった頃だろうか。
高校生活最後の一週間。ひたすら好きなことに打ち込めるとは、なんて幸せな終わり方だろう。
たまに部員やファンの子、先生が様子を見に来て、立火を激励してくれる。
放課後になると部室の鍵を開け、九人の練習が始まった。
今さら大事件も起こらず、ごくごく普通の部活動に、全身全霊を注ぎながら。
水曜には隠し芸入りのライブも完成し、桜夜も一安心して、木曜は中期試験一校目に臨んだ。
部活前に明るいメッセージが名古屋から届く。
『今回は割と解けた! さすが滑り止め!』
『今から大急ぎでそっち帰るでー』
活動終了直前に到着した桜夜は、この上なく楽しそうにクラッカーを鳴らした。
テンションの上がった一同は、全員一致で練習を延長。
人を笑わせるためのライブに、自分たちの方が大笑いしながら、今日も一日は終わっていく。
そして金曜日――。
最後の練習より前に、昼休みに全員が部室に集まった。
余裕ができたので早く来た桜夜が、お弁当を広げながら明るく声を上げる。
「さーて! めっちゃ大事なことを話し合うで。
東京で何を食べて、どこを観光するのか!」