ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

171 / 190
第34話 笑え! アキバドーム
パート1 芸する心 ☆


 

 

 授業が始まっても、花歩は集中できるはずもなかった。

 合格発表は10時。すぐに連絡が来るはずだが……。

 

(!)

 

 振動したスマホを、机の下でこっそりと覗く。

 表示されたのは『サクラサク』の五文字。

 心から安堵すると同時に、教室に大声が響き渡る。

 

「やったーーー!!」

(ちょおお! 勇魚ちゃん!!)

 

 肝が冷える花歩の前で、怒った先生が近づいてくる。

 

「こら佐々木! スマホ没収するで!」

「はわわ! すみませええん! あの、立火先輩が合格しました!」

「おっ、それは良かった。いやしかし、授業中にやな……」

「やったね勇魚ちゃん花歩ちゃん!」

「これでWestaは全国で大活躍や!」

 

 教室中が大騒ぎになり、先生も結局は喜んで、しばらく授業にならなかった。

 そんな空間で、花歩はもう一度安堵する。

 バレンタインが苦い結果に終わっただけに、なおさら。

 

(振られた夕理ちゃんはもちろん、振ったつかさちゃんも辛かったろうな……)

(でも私は、間違ったことをしたとは思わへん)

(夕理ちゃんも諦めてないんや。二人が幸せになれるよう、私もこれから全力を尽くすで!)

 

 

 そんなわけで、お昼は夕理と作戦会議……と思っていたのだけれど。

 当の夕理は、お弁当を食べながら悩んでいた。

 

「とりあえず一緒に登校できるようにはなったけれど。次の一手が全く思い浮かばへん」

「そこはもう、がんがんアタックするしかないやろ。デートに誘うとか、プレゼントを贈るとか」

「……それでつかさの心は、こっちを向いてくれるんやろか」

 

 思い詰めた表情で、夕理はいったん箸を止める。

 

「朝に小都子先輩とも話したんやけど。

 歓心を買うためだけに必死になるのは、かえって逆効果かもしれへんねって言われた」

「うーん、それもそうか……。

 つかさちゃん、夕理ちゃんの人に媚びないところを気に入ってそうやもんねえ」

 

 高潔なところはなくさないで欲しいと花歩も思うが、そうなると手詰まりである。

 牛乳を飲み干して、夕理は割り切ったようにパックを置いた。

 

「腰を据えて長期的にかからなあかん。ひとまずは登校だけで良しとする。

 今は恋にうつつを抜かせる状況とちゃうんや」

「そ、そうやね。全国大会まであと八日!」

 

 どのみち明後日の日曜は練習、その次の日曜は本番。

 デートを考えるとしても、全ては大会が終わってからだ。

 

「部長、私立は受かったけど、公立も受けるのかなあ」

「公立の受験日って全国大会の翌日やろ。どうするんやろな……」

 

 

 *   *   *

 

 

 そんな後輩たちの心配に、放課後の部室で立火は説明を始めた。

 

「正直なところ大学の雰囲気なんかは、私立の方が好みなんや。

 公立の方が偏差値は上やし、受けても合格する可能性は高くない。

 とはいえ前に言うた通り、公立の学費は百万円安い。さあっ! 君ならどうする!」

 

 立火の指が一年生たちへ突き付けられる。

 後輩にもいずれ来る受験の、心の準備をしてほしいのだろう。

 花歩も自分のこととして考えつつ、ついつい雑念が入ってしまう。

 

(できれば部長には、ここで受験をやめてほしい)

(残り少ない時間、全てを部活に注ぎ込んでほしいんや……)

 

 勝手な言い分とはわかっているけど。

 スクールアイドル広町立火の終幕は、受験との掛け持ちではなく、ただ一筋に完全燃焼してほしかった。

 

 一年生五人で後ろを向いて話し合ってから、代表して勇魚とつかさが答えを返す。

 

「やっぱり、自分が好みの大学に行くのが一番やと思います!」

「百万いうても四年間でしょ? 月あたり二万円。うちの姉を見る限り、社会人になれば余裕で返せますって」

 

 そして姫水が、横目に花歩を映しつつ優しく言った。

 

「大学は後から編入もできますけど、スクールアイドル活動は二度とない、今この瞬間だけ。

 花歩ちゃんに掛け替えのない、最高の思い出を作ってあげてほしいです」

「ち、ちょっと姫水ちゃん、私のことはええやろ。

 その……できれば心置きなく、アキバドームに立つ部長を見たいです」

 

 立火としては後輩の参考にというつもりだったが、逆に思いを寄せられてしまった。

 感じ入っているところへ、見守っていた小都子が穏やかに促す。

 

「先輩の答えはもう出てるんでしょう?」

「そうやな。さっき親と先生と話して決めたけど、お前たちのおかげで一層固まった。

 私の受験はこれで店じまいや! 公立は受けず、この先の時間は部活に捧げる!」

 

 やったー! と花歩たちが万歳する中、晴もかすかに微笑んでいる。

 そして立火の目は、少し複雑な顔の夕理へ向いた。

 

「夕理は『より上の大学を目指すべきです』とか言うかと思ったで」

「言えるわけないでしょう。この高校を選んだ私が……。

 私なら公立も受けた上で判断しますけど、先輩が後悔しないならいいです。

 公務員試験の勉強はどこでもできます。しっかり励んでください」

「あはは。久々に上からやなあ」

 

 そんな温かい雰囲気の部室で、ひとり暗いのは桜夜である。

 取り残された子猫のような、涙目の顔を相方に向けた。

 

「うう……立火あ……」

「情けない顔をしない! 私は先に降りるけど、最後まで手伝うから。

 三年間真面目に勉強してこなかったツケなんや。気合い入れて完済するんやで!」

「ううう、分かった……見捨てたら一生恨むで……」

「せえへんって!」

 

 その光景を見ている花歩と勇魚も、あまり他人事ではない。

 二年後に綺麗に引退できるよう、勉強も頑張っていかないと……。

 

 

 他に連絡事項はという立火に、夕理が静かに手を上げた。

 

「私事ですみません。ひとつ報告があります」

 

 デジャブを感じる三年生たち。

 語られた内容は案の定、先月と似たようなものだった。

 

「昨日つかさに本命チョコを渡して告白しましたが、見事に振られました。

 でも一敗した程度では諦めませんし、何年かかろうが振り向かせます。

 もちろん部活を疎かにはしません。アタックするにしても全国大会の後にします。

 私からは以上です」

「あー……そ、そう」

 

 それくらいしか言えない立火である。本当、どこまでも自分の道を貫く後輩たちだ。

 つかさは困り笑いを浮かべているが、嫌そうではないので納得はしているのだろう。

 が、結果だけ見ればまたも失恋であり、桜夜はやり切れないようだった。

 

「ちょっとー。うちの部のラブ関係、どこも上手くいってへんやん。どこかにハッピーエンドはないの?」

(一番上手くいきそうなのはアンタやで!)

 

 勇魚と晴以外の下級生が思わずツッコむ。

 大切な人と二人暮らし。そんな未来が待っている先輩に、特に花歩は思うところはあるけれど。

 でも桜夜も本気で心配して言ってくれているのだ。

 しばらく先になったとしても、『夕理ちゃんは上手くいきました!』と報告したかった。

 

 

 そうして練習が始まり、レッスン不足の桜夜が特に鍛えられる。

 とはいえほぼ完成済みの、オール・ザッツ・ファニー・デイズ。伸びしろはあまりない。

 完成しているのですからそう焦らなくていいのでは? と姫水が慰めるが。

 しかしせっかく部活に集中できるのに、これ以上できることはないのか……と悩む立火である。

 

 お渡し会の記事をアップロードした晴が、帰り際に声をかけてきた。

 

「残り一週間、私は全力で広報を続けます。

 部長も受験が終わって頭がお手すきでしょうし、考えることはやめないでください」

「私の脳みそ、酷使でボロボロなんやけど。でもまあ、何か考えてみるで」

 

 

 *   *   *

 

 

 翌日は土曜日。

 部活以外にやる事のない立火は、朝八時に部室へやってきた。

 まだ暖房が入っていないので、少し体を動かしてから、温まった体で考える。

 

(アキバドームの五万人を爆笑させられるとは思わへん。そんなんプロの芸人さんでも無理や)

(せめて三万人……いや一万人でもクスリとしてくれれば……)

 

 それだって相当ハードルが高い気がする。

 スマホでお笑いの動画を見てみたが、見ているとだんだん、何が面白いのか理解できなくなってくる。

 考えるうちに頭が崩壊しかけて、慌ててスマホを消した。

 

(結局は笑いは理屈やない、センスなんやなあ)

(平凡なセンスしかない私たちが、それでも見る人を楽しませるには……)

 

 後ろの棚に入れた衣装が目に留まり、自分のものを着用してみる。

 難しい顔をしてても仕方ない、ピエロらしくひょうきんに! と思うが、何だか笑い方まで分からなくなってきた。

 今度はピエロの動画を探してみると、一つの映像が目に留まる。

 

(これは……)

(そうや、これなら笑いのセンスがなくても!)

 

 

「おはようございまーす」

 

 十時になって登校した花歩たちが、部室の扉を開ける。

 同時に目に飛び込んできたのは、朗らかにステップを踏むピエロの立火。

 そしてその手から放たれる、宙を舞う三つの物体だった。

 

「グンモーニング! どうやろこれ!」

「うわ部長、お手玉上手ですね!」

 

 感嘆する花歩は、こんな事をするピエロをどこかで見た気がする。

 すぐに姫水が正解を言った。

 

「ジャグリングですね」

「そうそう。本物はボールとか、ボウリングのピンみたいなのやけど」

「先輩先輩! うちもお手玉は得意ですよ!」

 

 鞄を置いた勇魚が立火の前に飛び出す。

 ほっほっ、と投げられたお手玉を、勇魚の小さな手が器用に受け継いだ。

 

「おー、なかなかやるやないか」

「えへへ、汐里が小さい頃は喜んでくれたので!」

「さすがは勇魚ちゃん、素敵なお姉さんね!」

「姫水は相変わらずやなあ。花歩、ちょっとそこのを追加して」

「あ、はいっ」

 

 机の上にあった四個目、五個目のお手玉が投げ入れられる。

 他の部員たちも到着する中、立火と勇魚の間で飛び交う小豆入りの袋。

 六個目が追加されたところで、さすがに耐え切れず落ちてしまったが、立火は大いに手応えを感じた。

 桜夜以外は揃った部員に、さっそく着席してミーティングを始める。

 

「というわけで芸や! 隠し芸!

 漫才師みたいなセンスはなくても、これなら私たちもできるやろ」

「なるほど。ギャグ的な笑いとは違いますが、見る人が面白くは感じそうですね」

 

 晴のお眼鏡にもかなったようだ。進むことに決めた立火は、さっそく部員たちに挙手を求める。

 

「ほな、誰か隠し芸できる人ー」

『え……』

「小都子はお笑い好きなんやから、何かあるやろ?」

「そ、そう言われましても……あ! ラテアートならできます」

「ライブ中にどうすんねん!」

「あのっ」

 

 先輩のピンチに、夕理が自信なさげに手を上げた。

 

「Saras&Vatiでやったバイオリンライブはどうでしょう。面白いかは分かりませんが」

「それや! 楽器を鳴らすのは楽しそうでええな。チンドン屋みたいで」

「チ、チンドン屋……まあ、いいです。それでは明日持ってきます」

 

 せっかくだからと、夕理はスクールアイドル好きの原点について立火たちにも話した。

 バイオリンを使っていた青森のグループ。

 あの初めてのきっかけを、アキバドームで自分でも行えるなら、それは実に感慨深いことだと。

 

「そういうことでしたら」

 

 胸を打たれたらしい姫水が、続けて手を上げる。

 

「楽器が一つでは寂しいでしょうし、私が夕理さんと組みます。

 演奏はできなくても、演奏する演技はできますから」

「なら姫ちゃん、笛がいいと思うで! やっぱりチンドン屋はピーヒャララって感じや!」

「そうね。ステージ映えを考えると、クラリネットなんかいいかもね」

「楽器を借りられへんか、吹奏楽部長に相談してみよう」

「頼むで晴!」

(あわわ……とんとん拍子に話が進んでいく……)

 

 花歩も何か芸ができないか、さっきから考えてはいるが何も思いつかない。

 結局、立火が話を終えてしまった。

 

「あくまで追加要素やし、全員がやる必要はないやろ。とりあえず四人で試すで」

「え、うちも入っていいんですか?」

「もちろんや。勇魚と私でお手玉ジャグリングやで!」

「わーい! うち頑張ります!」

(しかも部長を勇魚ちゃんに取られた……)

 

 へこむ花歩だが、先日の轍を踏んだりはしない。

 勇魚だって立火のことが大好きなのだ。最後のステージ、二人が組めるのを友達として喜ぼう。

 それはともかく、また目立たず終わってしまいそうで、同じく芸のないつかさに小声をかける。

 

「つかさちゃん、このままでええの?」

「そう言われても、あたし隠し芸とかするキャラとちゃうし。ちょっと様子見」

「うーむ」

 

 程なくして晴がクラリネットを借りてきて、準備は完了。

 夕理も今日のところは定規と指示棒でバイオリン代わりにする。

 昨日まで停滞気味だった練習が、一気に忙しくなってきた。

 どのタイミングでどう芸をするのか、試行錯誤していると、午後になって桜夜がやって来る。

 

「え、なんや面白そうやん。私も何かやりたい!」

「お前はそんな余裕はないやろ。まずはサブセンターをしっかり務めること。

 そういや今日、二校で合格発表やったんとちゃうの」

「今まで黙ってる時点で察して……」

 

 桜夜からは受験の重石は未だ外れない。

 それでも全国に悔いを残さぬため、今日も本気でライブ練習に取りかかった。

 

 立火は勇魚とお手玉しつつステージ左へ。夕理と姫水が演奏しながら右へ。

 センターから立火が外れたので、桜夜と小都子で繋ぐ。

 お手玉を床に置いた立火がセンターに戻り、サブに回った桜夜とともに最後までいって締め。

 

 それを何度か繰り返すうちに、桜夜の頭が一案ひらめいた。

 

「そうや! ラストにこれ入れたらどう? 練習しなくてもできるし」

 

 と言いながら左手で細い何かを持ち、右手で何かを引っ張る動きをする。

 すぐに気付いたのは小都子だった。

 

「え、クラッカーですか?」

「そうそう、パーンって景気づけに。芸人っぽいやろ」

「確かにお祭りの雰囲気も出ますけど。晴ちゃん、ルール的にどうなん?」

「それ自体は問題ないが、次のグループの舞台に一片のゴミも残さないのが条件や」

 

 そりゃそうだ、と納得する一同に、少し考えこんだ晴が提案した。

 

「一度試してみますか? アイドルに掃除はさせられへんので、私が黒子として舞台に上がりますが」

『おお!』

 

 立火と桜夜が、思わず手を打って歓声を上げる。

 まさに瓢箪から駒。ずっと一緒に頑張ってきた晴が、最後に同じ舞台に立てるのだ。

 勇魚と小都子ももちろん大喜びである。

 

「やったー! 晴先輩と一緒にライブやー!」

「ドームのステージからの景色、晴ちゃんとも共有できるんやねえ」

「あくまで仕事のためやで。とりあえずクラッカー買うてくる」

 

 駅前の百円ショップへ行った晴は、程なくして戻ってくる。

 ついでにどこかから調達してきたのか、小さなホウキとチリトリも持っていた。

 クラッカーを受け取った桜夜が、一個取り出して小都子に取り出す。

 

「一人やと寂しいやん。小都子もやって」

「え、私ですか? まあ確かに、左右対称の方が映えそうですね」

 

 小都子としても、最後に桜夜と組めるのは嬉しい。

 さっそく練習に入り、終盤部分を歌いながら糸に指をかけて……

 

『愉快でフライな頭はハイ! そんな私たちの――

 オール・ザッツ・ファニー・デイズ!』

 

 パーン!

 左右から降り注ぐクラッカーの中を、立火が前に出て締め!

 ありがとー! とメンバーが客席へ手を振る間、晴が素早く掃除する。

 

「いけそうですね。練習すればもう二、三秒は、早く片付けられるでしょう」

「なんというか、こんなアホなこと練習してるの、全国で私たちだけやろうな」

 

 楽しそうな立火の声に、全員で笑う。

 一人だけ笑い切れていない夕理に、隣にいた姫水が声をかけた。

 

「私は賑やかでいいと思うわよ」

「アイドルのライブからは、どんどんかけ離れてる感じやけどな……。

 けど私も腹をくくった。今回はこれでええんや。

 岸部先輩。私たちの楽器も床に置くより、先輩に手渡してはどうでしょうか」

「確かにその方がスムーズやな。部長、お手玉もそれでいきましょう」

「晴もだいぶ大忙しやな!」

 

 六人の芸と一人の黒子が、笑いのライブに楽しさを添える。

 こうなると、花歩も黙っているわけにはいかなかった。

 

 

 *   *   *

 

 

 一時間延長して四時まで練習した後、帰路につく勇魚と姫水に、花歩の声が飛んだ。

 

「二人は先に帰ってて。私はつかさちゃんに相談があるんや」

 

 そう言って、夕理と帰るつかさを追いかける。

 

「私たちだけ芸してないやん! やっぱり何かしよう!」

 

 振り向いたつかさは困り顔だ。

 自分が自分がの花歩と違い、器用なつかさは全体のバランスを考えている。

 

「元々完成してたライブなんやで? これ以上盛るのは逆にくどいやろ」

「何やねん! 勇魚ちゃんに聞いたで、つかさちゃんはうちのエースなんやろ?

 そんなに消極的なら、私にエースの座を譲ってほしいわ!」

「いや別にあたしが名乗ってるのとちゃうし……」

「ご、ごめんね花歩ちゃん」

 

 と、昇降口から出てきて声をかけたのは、その称号を与えた小都子だった。

 

「決して花歩ちゃんが劣ってるとか、そういうつもりではなくて……」

「あ、いえ、今の実力ではそうなるのは分かってます。

 だからこそつかさちゃんには、もっと挑戦してほしい!」

「分かったってば。けど、くどいのも事実やで。やるにしても一瞬で終わるような……」

 

 つかさが考え込むと同時に花歩も考える。

 ライブに組み込めて、目立てて、スピーディな隠し芸。

 すぐに思い当たり、二人はお互いへ人差し指を突き付けた。

 

『手品!』

 

 

 というわけで、阿倍野のハンズに手品用品を探しに行った。

 一人で帰りたくなかった夕理もついてきている。

 

「ごめんね~夕理ちゃん。つかさちゃんと放課後デートしたかったろうに」

「いらんお世話や! 今は目の前の大会が大事や言うたやろ」

「冗談冗談。でも、一緒に買い物くらいは楽しんだら?」

 

 少し離れたところで、品物を物色しているつかさを花歩が指さす。

 夕理は一瞬迷ってから、頬を染めてつかさの隣へ行った。

 どうにももどかしい二人に、やれやれの花歩である。

 

 しばらく選んだ結果、手から花を出すマジックに決めた。

 衣装にタネを仕込んでおいて、サビのところでぱっと花開かせる。

 花歩の名前にも合ってるしね、というつかさの言葉が嬉しい。

 

「今回はすっかり芸人やけど、次もこうなのかなあ」

 

 ついでに立ち寄ったフードコートで、花歩が呟くように言った。

 次も全国行けるかどうか……などとはつかさも今さら言わず、タピオカ茶を飲みながら考える。

 

「あたしは毎回こうでもいいけどね、面白いし。夕理は正統派のアイドルにしたい?」

「というか……色物を続けても上位へは行かれへんのは確かや。

 ラブライブが競技である以上、優勝に向けての努力はしたい」

「前に聖莉守に文句言ってたもんね」

 

 花歩はどうしたいのか、自分でもまだ分からない。

 Number ∞にも勝ちたいと言った夕理の夢を、一緒に叶えたい気持ちはあるけど。

 と、つかさがタピオカを吸い込んでから一言。

 

「何にせよ、あたしは小都子部長が決めたことについていくだけやで」

 

 急に先輩想いなことを言い出す彼女に、二人から意外そうな瞳が向く。

 つかさはごまかすように微笑むだけだった。

 

 

 *   *   *

 

 

 ジャグリング、楽器演奏、クラッカー、手品。

 四つの追加要素をねじ込んで、日曜は朝から晩まで練習に励んだ。

 晴も黒の上下に、自作の黒頭巾をかぶってすっかりやる気だ。

 

【挿絵表示】

 

 そして前期試験が全滅した桜夜は、すぐに来る中期試験のため、途中で切り上げて返っていく。

 最終週、月曜もそんな感じでせわしなく過ぎる。

 とはいえそれは内部だけの話で、火曜の朝に奈々から不思議そうに問われた。

 

「地区予選に比べたら、今回はやけに静かやな。体育館で練習はせえへんの?」

「あのときはバトンを投げるのに高さが必要やったからなあ。バスケ部には悪いことしたし」

 

 答えるつかさに、夕理が追加で続ける。

 

「それに今回は、本番で見るのを最初にしてほしいところや」

「んん? 秘密兵器でもあるの? つかさも同じ意見?」

「あはは。兵器はないけど、事前にネタが割れるとあかんライブやねん」

 

 夕理もつかさもお笑いに詳しくはないが、同じネタで二度笑ってもらうのが難しいのは分かる。

 ぶっつけ本番しかない全国大会。いよいよカウントダウンが始まった。

 

 

(さて……今日も朝から晩までスクールアイドルや)

 

 誰もいない三年五組で、立火はひとりお手玉を練習する。

 階下の教室では、ホームルームが始まった頃だろうか。

 高校生活最後の一週間。ひたすら好きなことに打ち込めるとは、なんて幸せな終わり方だろう。

 

 たまに部員やファンの子、先生が様子を見に来て、立火を激励してくれる。

 放課後になると部室の鍵を開け、九人の練習が始まった。

 今さら大事件も起こらず、ごくごく普通の部活動に、全身全霊を注ぎながら。

 

 水曜には隠し芸入りのライブも完成し、桜夜も一安心して、木曜は中期試験一校目に臨んだ。

 部活前に明るいメッセージが名古屋から届く。

 

『今回は割と解けた! さすが滑り止め!』

『今から大急ぎでそっち帰るでー』

 

 活動終了直前に到着した桜夜は、この上なく楽しそうにクラッカーを鳴らした。

 テンションの上がった一同は、全員一致で練習を延長。

 人を笑わせるためのライブに、自分たちの方が大笑いしながら、今日も一日は終わっていく。

 

 

 そして金曜日――。

 最後の練習より前に、昼休みに全員が部室に集まった。

 余裕ができたので早く来た桜夜が、お弁当を広げながら明るく声を上げる。

 

「さーて! めっちゃ大事なことを話し合うで。

 東京で何を食べて、どこを観光するのか!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。