ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 最後の練習 ☆

 桜夜が元気な一方で、立火は気乗りしない様子だった。

 

「東京にそんなおもろい場所あるの?

 前にも言うたけど、東京にあって関西にないものなんかないやろ。

 高層ビルも展望台も電気街も関西にあるやん」

「大阪でなく関西と言うあたりが実に小ずるいですね」

 

 夕理に冷たく突っ込まれ、慌てて言い訳する立火である。

 

「いやほら、パンダとか言われたら困るし……。

 べ、別に東京が嫌で言うてるんとちゃうで?

 どうせなら関西にないものを見たいってこと!」

「東京が圧倒的な場所というと、日本庭園ですかね」

 

 元東京人の姫水の言葉に、小都子が興味を引かれたようだ。

 

「そうなん姫水ちゃん? 東京ってそないにお庭が多いん?」

「浜離宮、旧芝離宮の恩賜庭園。六義園、小石川後楽園、清澄庭園。

 大名屋敷が多かったので、それに付随して多いですね。数だけでなく面積も広いですよ」

「け、けど大阪にも庭はあるやないか。この前、夕理と一緒に行ったんやろ」

「慶沢園ですか? あそこはそんなに広くないので……」

 

 立火の反論は、気の毒そうな姫水にあっさり返される。

 さらに晴が冷たく実データを挙げた。

 

「姫水が挙げた東京の庭で一番狭いのは清澄庭園ですが。

 慶沢園はもちろん、京都の渉成園、奈良の依水園、神戸の相楽園、和歌山の養翠園、滋賀の玄宮園。

 いずれも清澄庭園以下の面積です」

「うぐぐぐ……ほ、ほら、岡山の後楽園があるやろ!?

 あそこめっちゃ広いやん! 岡山なんて関西の親戚みたいなもんやろ!」

「どれだけ東京に負けたくないんですか……」

 

 さすがに呆れる姫水の傍ら、つかさが横から要望を述べる。

 

「まあ庭もいいっすけど、こんな真冬に行くのはちょっと渋すぎるでしょ。

 お台場行きましょうよお台場。若者はそういうとこ行くべきですよ」

「おっ、ええな! なんか自由の女神とかあるんやろ」

 

 乗り気の桜夜だが、立火が今度は青くなって頭を抱え出した。

 

「やめてやー……大阪のベイエリアがぱっとしないってこと、嫌でも実感させられるやないか……」

「ああもう、みっともない! ほんまに置いてくで!」

「じゃ、お台場は決定でー」

 

 つかさが嬉しそうに宣言する一方、勇魚は晴へと目を向ける。

 お台場なんて絶対行きそうにない先輩は、都内でも単独行動するのだろうか。

 

「晴先輩はどこに行かはるんですか?」

「関西より東京が圧倒的に優れる場所がもう一つある。

 自然史系博物館や。日本科学未来館、科学技術館、そして上野の国立科学博物館。

 私は上野に行く」

「おおー!」

 

 勇魚は感嘆するが、少しむっとしたのは花歩だった。

 思わず挙手して、長居公園内の施設を挙げる。

 

「異議あり! 長居の住民としては、大阪の自然史博物館も結構すごいと思います!」

「あそこも頑張ってはいるが、いかんせん規模が違い過ぎる。上野の方は常設展を見るだけで三時間かかるからな」

「そ、そこまでですか……」

「はいはいはい! 先輩、うちも行ってみたいです!」

 

 元気に訴える後輩に、一人で満喫する気だった晴は嫌そうな目を向ける。

 しかし拒絶する前に、部長まで話に乗ってきた。

 

「そこって目玉は何なんや?」

「恐竜の化石ですかね」

「ええやないか! 私もそこ行こうかな」

「ええ……」

 

 晴の顔はますます渋くなるが、そういう晴に慣れ切った部員たちは一切気にしない。

 知性派の小都子、夕理、姫水も同行を申し出た。

 

「私も興味あるなあ。晴ちゃんが一緒なら解説してもらえそうやし」

「進路は文系を選びましたが、科学の知識も大事とは思っています」

「動物を見るだけでなく、たまには生物学的な素養を深めるのもいいですよね」

 

 こうなると花歩とつかさも顔を見合わせ、みんなが行くなら……と言い始める。

 珍しく少し焦った晴が、思わず机を叩いた。

 

「ちょっと待て! 桜夜先輩はどうなるんや。

 この人が博物館なんか行くわけないやろ。お前らは先輩を一人にする気か?」

「なんやねん晴、私をアホみたいに!

 これでも受験戦争に揉まれて、だいぶ賢くなった気がするんや。

 桜夜ちゃんはサイエンスガールを目指すでー!」

「本気ですか……」

 

 晴も仕方なく溜息をつく。まあ、部員たちが科学に興味を持つこと自体は大歓迎である。

 浅草や東京タワーは敢えて行かないのもWestaらしいのかもしれない。

 

「では明日の午後は科博の常設展ということで。

 その後は私は特別展を見るので、皆はお台場でもどこへでも行ってくれ」

「待ってください。その前に神田明神は当然行きますよね?」

 

 姫水が挙げたのはμ'sの聖地。

 もちろん異を唱える者はなく、立火もこれには素直に従った。

 

「そうやな、お昼食べたらまずお参りしよか。他のグループも来てるかもしれへんし」

「全国の人と仲良くなれたらいいですね!」

 

 嬉しそうな勇魚に姫水も優しく笑うが、続けて部長に向けた目はあまり笑っていなかった。

 

「神田明神は都会の真ん中で、あまり広くはありません。

 『これが東京の総鎮守~? 住吉大社の何分の一やねん』とか、余計なことは言わないでくださいね」

「言わへんて! くそう、姫水には最後まで信用されないままか~」

「うふふ。東京での振る舞いによっては、見直す準備はありますよ」

「はいはい、気いつけます。ほな次、食べたいものある?」

 

 注意されたばかりなので、立火も『まあ食い倒れの大阪人からしたら、東京の食べ物なんてねえ』などとは冗談でも言わない。

 桜夜はスイーツを考えている顔だが、東京でしか食べられないもの、となると思いつかないようだ。

 ぱっと手を上げたのは花歩だった。

 

「東京名物といったら、やっぱりもんじゃ焼きですね!」

「おっ、確かに。江戸の粉もんがどんなものか、たこ焼き屋の娘としては確認したいとこや」

「大阪にもそこそこありますけどね、もんじゃの店」

「つかさは入ったことあるん?」

「いや、そう言われると一度もないっすね」

 

 やはり大阪ではお好み焼き、たこ焼きを食べてしまうので、本場のもんじゃを味わうことに決まる。

 続けて手を上げたのは小都子だった。

 

「うどんなんてどうでしょう? 東と西で違うそうですからね」

 

 そう言われて、ははーんとあごを撫でる立火である。

 

「『何やこの墨汁みたいな汁は! こないなもん食えるかーい!』とか言うんやろ。

 あかんでー、姫水に怒られるから」

「言いませんよ! でも実際どれだけ黒くて、どんな味なのか知りたくないですか?」

「うちも知りたいです! 姫ちゃんは食べたことある?」

「うーん、どうだったかしら。食べてないことはないはずだけど、あまり記憶にないわね」

「こういう状況やからな。小都子の希望は叶えられそうにない」

 

 と、晴が見せたノートパソコンには、東京駅周辺でうどん屋を検索した結果が出ている。

 『讃岐うどん』『讃岐うどん』『讃岐うどん』。

 しまいには『関東初上陸! 大阪千日前の名物うどん』。

 逆に蕎麦屋は歴史のありそうな店が多数見える。

 

「あらら……やっぱりあちらさんは、蕎麦文化なんやねえ」

「東京でも西の方へ行けば、武蔵野うどんというのがあるみたいやけどな。

 それと群馬は小麦生産が盛んで、水沢うどんが名物らしい」

(群馬……)

 

 姫水の胸には、夏のアキバドームで知り合ったお姉さんたちが浮かんだ。

 今回も来てくれるだろうか。あのときの子だと気づいてもらえるといいけれど。

 とはいえうどんを食べに群馬まで行けるわけもなく、桜夜があっさりと断定した。

 

「蕎麦でも別にええんとちゃう? これだって黒いやろ」

「そうですねえ。郷に入っては何とやらですし」と小都子。

「では後で良い店を探しておこう」

 

 晴が言って土曜のメニューは固まった。

 日曜の昼はアキバドームシティ、夜は大会終了後の気分次第、と決まっていくうち、昼休みは終わり近い。

 急いで弁当を腹に片付け、部室を出る夕理に花歩が話しかける。

 

「夕理ちゃんももっと意見言って良かったのに。食べたいものとかないの?」

「私は好き嫌いないから。ライブをする栄養分が取れれば十分や」

「あ、そっか。夕理ちゃんがほんまに食べたいのはつかさちゃ……ぎゃああ!」

 

 夕理の怒りのアイアンクローが炸裂し、悲鳴の花歩につかさが苦笑している。

 そんな光景を見ながら、勇魚は幼なじみに耳打ちした。

 

「ねえ姫ちゃん。うちも夕ちゃんとつーちゃんの仲、何か協力できひんかなあ」

「気持ちは分かるけど。でも夕理さんの応援は、四月からも好きなだけできるわよ。

 今は、この瞬間だけのことを大事にしましょう?」

「そっか……そやね」

 

 午後の授業が終われば、三年生たちの最後の練習。

 後ろをちらりと見ると、鍵をかけた立火が桜夜と楽しそうに話している。

 思わずしんみりする勇魚に、姫水が優しく手を繋いだ。

 

 

 *   *   *

 

 

 その最後の練習が、つつがなく行われていく。

 四つの芸も違和感なく入れられ、あとは微調整くらいしかないけれど。

 練習自体が楽しくて、九人で何度も繰り返す。

 

(私、練習は嫌いやったはずやのになあ)

 

 笑いながら、桜夜の頭にはそんなことが浮かぶ。

 ダラダラと気楽だった一年目。

 厳しくて吐きそうだった二年目。

 そして本当に色々なことがあった、三年目の練習の日々。

 時計の針は容赦なく進み、最後の時間はみるみる減っていく。

 

(でも泣かへんからな!)

 

 いつも泣き虫の自分だったけど、ここから先は泣かないと決めた。

 今から卒業式まで、最後になること、お別れすることが続いていくけれど。

 Westaの副部長として、絶対に笑ったまま終わらせよう。

 

「ぱーーん!」

 

 クラッカーの消費が激しいので、今は引くふりだけのエアクラッカーだ。

 すぐに晴がエア掃除。

 それを何度繰り返したろう。不意に立火が、優しい声で指示を下した。

 

「よし、次で最後や。実物使てや」

 

 ぴくん、と桜夜の体が固まる。

 小都子が微笑みながら、先輩の手にクラッカーを握らせた。

 桜夜も一生懸命笑って、全力で声を張り上げる。

 

『1、2、3、いぇい! ここから始まる楽しいフェスティバル!』

 

 立火と勇魚の間でお手玉が行き交う。

 夕理と姫水がスキップしながら楽器を鳴らす。

 サビで花歩とつかさがぱっと花を出す。

 そして1分55秒の曲の最後に――

 

 パーーン!

 桜夜と小都子が笑いながらクラッカーを鳴らし、晴が後片付ける。

 少しだけ余韻を味わってから、立火の力強い声が響いた。

 

「練習はここまで! みんなお疲れ様!」

 

 

 桜夜はもちろん、他の部員たちも実感がない。

 この九人での練習の日々。終わったことが信じがたく、延長を期待する目もいくつか向くけれど。

 部長は首を横に振って、きっぱりと言った。

 

「明日は八時半に新大阪へ集合や。今日はゆっくり休むように!」

『……はい!』

「何を忘れてもいいけど、衣装だけは忘れんといてや」

 

 晴の素っ気ない言葉に、皆も苦笑しながらその衣装を脱ぐ。

 丁寧に畳んで鞄に入れて、姫水と夕理は楽器もケースにしまう。

 帰る準備ができてしまい、つかさが伸びをして明るく言った。

 

「さーて、明日は観光や! めっちゃ楽しみ!」

 

 皆も少しほっとして、次々と部室を出ていく。

 最後に立火が電気を消して、廊下に出て鍵を閉める――のが、ずっと続いてきた日常だった。

 だが、ふと桜夜が振り返ると、立火が部室から出てこない。

 むっとして大股で戻れば、中では相方が名残惜しそうにたそがれていた。

 

「こら立火! 後輩に示しがつかへんやろ!」

「い、いやほら、私は家近いから。少しくらいええやん」

「そういう問題とちゃうわ! なら私も残ろうかなー」

「お前はもうすぐ本命の試験やろ!」

 

 確かによりによって、全国大会の翌日が試験日だ。

 家で最後の追い込みをしないといけないが、立火をこのまま残していいものか……。

 と思っていると、桜夜の脇から勇魚が顔を出した。

 

「立火先輩! それならうちと少しだけお手玉しましょう!」

「おっ、それやったら遊んでこか。これは決して練習とはちゃうんやで」

「ったくもう、言い訳くさい……」

 

 呆れる桜夜だが、勇魚がいてくれるなら安心できる。

 ほな明日ね、と二人と手を振り合ってから、心静かに廊下に出た。

 

(最後に後輩を立火に譲るなんて、私って偉いやん)

 

 自画自賛しながら昇降口へ行くと、二年生たちが優しい目で待っていてくれた。

 

 

 *   *   *

 

 

 一方、一年生の昇降口では姫水が口を開く。

 

「花歩ちゃんは行かなくていいの?」

「い、いやー。今回の部長のパートナーは勇魚ちゃんやから」

 

 以前のこともあって遠慮する花歩に、今日は夕理とつかさが背中を押した。

 

「勇魚やったら、花歩もいてくれた方が絶対喜ぶやろ」

「泣いても笑っても、部長さんは明後日で引退や。部室での思い出は今しか作れへんねんで」

 

 そう言われても、花歩はまだ戸惑いながら、大事な友達に目を向ける。

 

「でも、姫水ちゃんを一人で帰らせることに……」

「もう、私だって子供じゃないわよ。ちょうど一人でやりたかったこともあるから、気にしないで」

「そ、そう? それじゃ……ちょっとだけ」

 

 えへへと後ずさりしてから、花歩は身を翻し、早足で部室へ戻っていった。

 残った三人は、色々な因縁も忘れて、今は素直に笑い合った。

 

 

「立火先輩、何か心残りはありますか?」

 

 お手玉を投げ合いながら、勇魚は遠慮なく聞いてくる。

 湿っぽい空気なんて全くない笑顔で。

 

「もしあったら、先輩の代わりにうちが叶えます!」

「うーん、そうやなあ。正直、できすぎなくらいの三年間やったと思うし……」

 

 山あり谷ありの部活動だったが、ついに悲願の予選突破。最後はアキバドームのステージに立つ。

 これで文句を言ったら罰が当たる。

 後輩もできた子ばかりで、特に小都子と晴には安心して任せられる。

 夕理とつかさの顛末は見届けられないが、あの二人ならこじれることはないだろう。

 

「勇魚もメンタル面では、もう何の不安もなさそうやからな」

「えへへ。あと二年、笑顔で続けられる自信はありますよ!」

「敢えて言うなら、看護師になれるかが心配やろか」

「うぐっ。次の学年末テストも頑張ります……」

「あはは、私も大学では勉強優先や。一緒になりたい職業に就くで!」

「はいっ!」

 

 ただ一人だけ、心残りがあるとすれば……。

 結局最後まで、思い入れが強すぎると言われそうだけど。

 

「やっぱり……花歩やろか」

 

 そう言うと同時に、本人が扉を開けて入ってきた。

 

「え、私がどうかしました?」

「立火先輩の心残りやって!」

「そ、そうですか……すみません、不甲斐ない後輩で」

「いや、不甲斐ないのは私の方や」

 

 正直すぎる勇魚に苦笑しつつ、お手玉をキャッチして、後輩たちを椅子に座らせる。

『私はっ……唯一無二の自分になりたいんや!!』

 あの文化祭の叫びから五ヶ月。在籍中に叶えてやることはできなかった。

 

「誰にも負けない、最強のスクールアイドルに育てられたら良かったんやけどな」

「そ、それは上を見たらきりがないですよ。

 部長のおかげで、全国の舞台に立てるまでにはなりました。あと二年は自力で頑張ります!」

「そうか。そこまでは自信を持ってくれたなら、ひとまずは安心や。ただ……」

 

 立火の頭に浮かぶのは、最後まで遠い存在だった羽鳥静佳のことだった。

 同じ全国へは行けたものの、もし会場で会ったとき、彼女と対等に話せるだろうか。

 

「やっぱり才能は残酷や。

 新入部員に姫水や瀬良みたいなのがいて、お前たちを追い抜いたり……なんてことは心配してる。

 勇魚はそれでも大丈夫やろか?」

「はい! そんなすごい後輩が入ってくれたら、めっちゃ嬉しいです!」

「花歩は……?」

「あはは……確かに、へこむとは思います。

 でも大丈夫ですよ。のろまな亀でも、歩くことは決してやめません。

 卒業間際までかかるかもしれませんが、必ず望んだ通りの花を咲かせます」

 

 花歩の落ち着いた、そして揺るがない瞳に、立火はもちろん、勇魚も目を潤ませた。

 親友に横から抱き着いて、顔だけ立火に向けてくる。

 

「それに、花ちゃんにはうちがついてます!

 何があったって、二人なら乗り越えられます!」

「勇魚ちゃん……」

「ああ……そうやな」

 

【挿絵表示】

 

 少し目を閉じた立火は、自らの心を確認し、ぱっと目を見開いた。

 

「よし! もう心残りは何もない!」

 

 三人とも立ち上がって、もう少しだけお手玉で遊んだ。

 この一週間、高度なジャグリングは試していない。そういう趣旨のライブではないから。

 ただ楽しめるように、見る人も釣られて笑えるように。

 それだけを心に掲げて、ザ・ハリセンズは活動を終える。

 

 鍵を閉め、職員室に返しに行く。

 一年間続けてきたこれも、とうとう最後。

 ついてきてくれた二人に心温かくなりながら、立火は視聴覚室の鍵を握った。

 

(来週からは、小都子の仕事や。今までおおきに……)

 

 

 *   *   *

 

 

『弥生さんへ』

 

 一人で帰るバスの中、姫水はメールの文章を書いていた。

 

『引っ張ってごめんなさい。やはり今回も、会うのはやめておきます』

『Westaの皆との二度とない時間を、今は大事にしたいのと』

 

 数分間すら会えないのか、とは自分でも思うが、中途半端にしたくないのだ。

 

『あなたに会って、あの日の返事をすることは』

『大阪でなすべきことを全て終えて、何の心残りもない状態でしたいのです』

『あと一ヶ月。私が東京の住人になるまで、もう少しだけ待ってください』

 

 送信してから、自分に少々苦笑いする。

 

(まだ編入試験に受かったわけでもないのに、自信過剰かしら)

 

 とはいえ落ちる気はさらさらない。四月からは必ず、弥生と同じ学校に通う。

 そのためにも明後日の全国大会、そしていくつか残った宿題に、全力で取り組まないと。

 

(弥生さん、ラブライブは見てくれるかな……)

 

 ライブ会場の雰囲気が苦手と言っていたので、見るとしてもテレビかネットだろう。

 あのお笑いライブが彼女にウケるかは、正直見込み薄だけれど。

 それでも大阪での一年の集大成だ。けなされてもいいから、見届けてほしかった。

 

 

 *   *   *

 

 

「ただいまー」

 

 少し遅くなった花歩が帰宅すると、読書中の芽生が顔を上げた。

 

「最後の練習、どうやった?」

「ん……心残りはないって、言ってもらえた」

「そっか。良かった」

 

 お風呂と夕食を済ませて部屋に戻ると、机の上でスマホが点滅している。

 

(あれ、小都子先輩から招待?)

 

 指示されたグループに入ると、一・二年生だけがメンバーのようだ。

 いくら三年生が引退するからって、こんなの作らなくても……と過剰に反応してしまう花歩だが。

 表示されたメッセージを見て、一瞬でも疑ったことを反省した。

 

『卒業式の後に、先輩たちを送るライブをしたいと思うんや。

 みんなはどう思う?』

(小都子先輩……!)

 

 もちろん大賛成だ。が、何か引っかかる。

 カレンダーを見上げる前に、晴がずばりと指摘した。

 

『準備期間が二日間しかないな』

 

 花歩の目は改めてカレンダーへ向く。

 日曜が全国大会で、水曜からテスト前の部活禁止期間。金曜日が卒業式。

 月、火の二日で準備するしかなく、小都子の申し訳なさそうな文章が続く。

 

『うん。しかも全国大会で疲れたところへ休む間もなしや。

 そやから私も迷ってたんやけど、やっぱり最高の卒業式にしたいなって』

『二日もあるやないですか。以前の一日ライブを考えれば、十分すぎるくらいです』

 

 これは夕理から。あの一日ライブで夕理は入部し、花歩は見ているだけだった。

 でも今は違う。一年間の経験を経て、まさに当事者として披露できるのだ。

 

『花歩、新曲作るで!』

『任せて、夕理ちゃん!』

『だ、大丈夫? 無理しなくてもええよ。別に既存曲でも』

 

 小都子が慌ててフォローを入れる。

 花歩としても、まだ全国大会が終わってないのに移り気すぎるとは思うけど。

 でも気持ちは止められない。立火と桜夜のためだけの曲を作りたい!

 つかさと姫水からも、賛同のメッセージが届いてくる。

 

『この二人なら大丈夫ですって。全国レベルの作詞作曲家っすよ』

『どのみち内輪のライブです。やりたいことを優先しましょう』

『間に合わなかったら既存曲にすればいいだけの話や』

 

 晴が身も蓋もないことを言って、小都子もそれならお願いね、と二人に依頼した。

 あとは勇魚を待ちながら雑談していると、しばらくして入ってくる。

 

『すみません、妹と遊んでました! うちももちろん大賛成です!』

『勇魚は、どんな曲がいいと思う?』

 

 夕理に聞かれて、勇魚の返事は文字が踊っているようだった。

 

『めっちゃ明るい曲!

 立火先輩と桜夜先輩なんやで。いくら卒業式でも、しんみりしたのは無しや!

 笑顔で旅立ってほしいねん!』

 

 いかにも、とスマホのこちら側で深くうなずく花歩である。

 が、心配そうなメッセージが姫水から届いた。

 

『ATFDと似た雰囲気になるけど、連続で大丈夫?』

(あー、確かに差別化が難しいなー)

 

 今まで毎回バラバラな雰囲気だったから、語彙の少ない花歩でも何とかなったのだ。

 笑える歌詞を必死でひねった後の、絞りかすの頭で作詞できるだろうか。

 が、作曲担当の方は、いつものように毅然としていた。

 

『全国であの曲を披露する以上、広町先輩の言うWestaらしさは、これからは笑いになるんや。

 もちろん違う曲を書くこともあるやろうけど。

 メインは笑いを軸に、かつファンを飽きさせない曲を作らなあかん。

 その練習にちょうどいい。花歩もそう思うやろ』

(そ、そうやね~)

 

 内心では冷や汗ながら、文章だけは自信満々に送信する。

 

『もちろん! 音楽の可能性は無限大なんや!』

『おっ、花歩も言うようになったやないか』

『夕ちゃん花ちゃん、ファイトー!』

『ほんま、無理はせえへんでええからね』

 

 テキストが次々と流れ、最後に晴が厳しく釘を刺した。

 

『肝心の全国大会が疎かにならないようにな。

 夜遅くまで作曲して、明日寝坊するなんてのは勘弁やで』

『私はそこまでアホじゃありません!』

 

 むきになった夕理の言葉に笑って、いったんお開きとなった。

 少し軽くなった心で、いそいそと明日の準備をする。

 作詞ノートを荷物に入れる姉に、妹が不思議そうな目を向けた。

 

「わざわざ東京行ってまで作詞するん?」

「ふっふっ。また新たな目標ができたんや」

 

 全国大会が終わりではないのだ。

 後輩たちだけでも立派にライブができることを、卒業する先輩に見てもらう。

 体育祭のリレーのように。バトンを綺麗に繋いで、次の道を走り出そう。

 

 

 芽生と一緒に全国出場のグループを予習していると、時計は十時。

 そろそろ寝るかと切り上げたところへ、夕理から連絡が来た。

 

『曲ができた』

『早!』

『明日の朝に渡すから、今のうちに頭を休めといて』

『あはは。おっけー』

 

 明日、500kmの彼方へ旅に出る。

 最後の大会と、そして新たな曲を作るための旅。

 未来への浮遊感に包まれながら、花歩は穏やかに眠りについた。

 

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