ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート4 演技開始 ☆

「お母さん、もう小学五年生だよ。いい加減に携帯電話買って」

「うーん……」

「スマートフォンでもいいけど」

 

 渋る母だが、周囲の子は既にみんな持っている。

 

「隠れて勇魚ちゃんに電話したりしない?」

「メールに使うだけ。お母さんのせいで、たぶん勇魚ちゃん電話に出てくれないから」

「そ、そう……仕方ないから買ってあげるけど、くれぐれもあの子にかまけたりしないように!」

 

 変わらず手紙を送ってくる勇魚に、母は少し恐怖しているようだった。

 姫水にしてみれば、そんなの勇魚なら当たり前のことなのに。

 

 文明の利器により、二人を繋ぐロープは手紙からメールになった。

 やり取りの内容はさして変わらないが、もうすぐお姉さんになる勇魚からは、それに関する文章が多くなる。

 

『今日はお母ちゃんのけんさ行ってきたで! あーもう楽しみやー』

『妹かな? 弟かな?』

『名前は何がいいと思う?』

 

 ウキウキしているメールを読むだけで、姫水も嬉しくなる。

 秋葉原に一緒に行った子は誰とも同じクラスになれなかったけど、今のクラスも特にトラブルはない。

 相変わらず少ない仕事も、振られた分は問題なくこなしている。

 たまのレッスン休みには、上野動物園で丹頂鶴を眺めている。

 全てに満足しているわけではないが、平穏な東京の日々が過ぎていくと思われた頃――

 

『生まれた!』

 

 秋の初め。届いたメールの件名に、姫水の顔も思わずほころぶ。

 本文は妹であることと、赤ちゃんがどんなに可愛いか、勇魚がどんなに嬉しいかが感情のまま書かれていた。

 

(勇魚ちゃんの妹なら、絶対幸せになるんだろうなあ)

 

 出産祝いに何を贈ろうか、などと考えながら画面をスクロールする。

 飛び込んできた一文に、姫水の手が止まった。

 

『うち、看護師さんになりたい!』

 

(勇魚ちゃん……)

 

『病院に何度も行って思ってん』

『いつも笑顔で、病気の人たちを元気づけて、看護師さんってすごい!』

『うちもあんな風に、だれかを助けられる人になりたい』

『うちは頭悪いから、いっぱい勉強せなあかんと思うけど……』

『姫ちゃん、おうえんしてね!』

 

 喜ばしいと同時に、姫水の心に影が落ちる。

 そんなに急がなくてもいいのに。

 姫水がずっと停滞している中、一人で先へ行かなくていいのに。

 

『勇魚ちゃんにぴったりだと思うよ』

『勉強で分からないことがあったら、いつでも私に聞いてね』

 

 親友に無難な返事を書くしかない自分が、たまらなく嫌だった。

 

(私は……)

(私はこの先、何になるの……)

 

 

 

「……社長」

 

 事務所の廊下で社長をつかまえる。

 冷たくはないが暖かくもない、ビジネスライクな人というのがこの二年半の印象だった。

 

「ん、何だい。珍しいね」

「私、このままでいいんでしょうか」

「ほう」

 

 少しずつ仕事は増えているが、本当に少しだ。

 何万人の中から一握りしか生き残れない俳優の世界で、いずれはドロップアウトするのだろう。

 別に望んだ道ではないので、構わないと言えば構わないのだけど……

 落ちた先に、一体何があるのだろう。

 

 母は半ば諦めてしまったようで、有名私立中学のパンフレットをこれ見よがしに家に置いている。

 でも、そういう道へ進むのであれば、大阪にいたって出来たはずだ。

 

「君は不満ひとつ言わず、地道にレッスンを続けてきた。実力は十分についている」

「そうなんでしょうか」

「仕事が少ないと思うかもしれないが、ハンデを背負ってる状態では相応の数字だと思うね」

「ハンデ……」

「親に言われて仕方なくやっている、という意識のことだ」

「……はい」

 

 社長もプロだ。そんなことは当然分かっている。

 月謝を取れさえすれば良い人だと思っていたが、一応助言はしてくれた。

 

「もう高学年なのだし、そろそろ自分の希望を言ったらどうだい」

「私は……」

 

 何をしたくて、何が欲しいのか。

 勇魚に会いたいとか、そういう個人的なことではなくて。

 もっと大きな……

 

「……成果がほしいです」

「成果」

 

 口から出た小学生らしからぬ言葉に、姫水自身も少し驚く。

 

「女優になりたいのかは分からない。でも一つでいいから成果がほしい。

 でないと私、何のために東京に来なきゃいけなかったんですか……!」

 

 あの大阪港で、大切な人を泣かせてまでここに来たのだ。

 それに見合うだけの何かがないと、あまりにも理不尽すぎる。

 将来に向けて歩き出した勇魚に、『東京での時間は全て無駄でした』なんて言いたくない。

 

「なるほど。ではそのために何をしたらいいか、考えてみるといい」

「そうします!」

「期待してるよ」

 

 手を伸ばせば面白くなると、あのとき聞いた歌詞を思い出す。

 今の姫水は、役者が本当にやりたいことなのかどうかも分からない。

 一つでも成果があれば、それを判断できると思ったのだ。

 

 

 *   *   *

 

 

 アイデアはあった。自室にある、練習用の大きな鏡の前に立つ。

 

(勇魚ちゃんになる!)

 

 役者の実力はついていると、社長は請け負ってくれた。

 なら、一番よく知っている女の子も演じられるはずだ。

 いつも明るく前向きで、頑張り屋。

 彼女にさえなれれば、何だって叶えられる気がした。

 

 気がしたのだけれど……

 

「坂本さん、おっはよー!」

「え!? お、おはよう……」

 

 大して仲良くもない姫水から大声で挨拶され、隣の席の子は戸惑っている。

 一瞬しまったと思ったが、後には引けない。

『勇魚であれば』。

 こんな躊躇自体をしないはずだ。

 

「もうすぐ球技大会だねっ! 楽しみだよねー!」

「いや、正直めんどくさいけど……」

「そ、そんなこと言わないで頑張ろうよ!」

 

 坂本さんはかなり引いている。

 思ったほど簡単ではなかった。

 

 レッスンの場でも似たようなものだった。

 突如豹変した性格に、何か変なものでも食べたのかと心配されてしまった。

 

 家に帰って、鞄を床に叩きつける。

 

「こんなの勇魚ちゃんじゃない!」

 

 もちろん、急に変えたというのが一番まずかったのだろうけど……

 それを差し引いても、勇魚を汚してしまった気がする。

 鏡の前に立って、作戦を練り直す。

 

「鏡よ鏡よ、鏡さん……」

 

 思えば幼稚園の白雪姫が、全てのスタートだった。

 あのとき初めて別人になった。小人の家に勝手に入り込みながら、すぐ許され全面的に愛されたお姫様。

 姫水自身も、あの頃は無条件に好かれていた。

 どう振る舞っていたかを思い出せ……!

 

 

 翌朝。姫水はしおらしく、隣の席の子に謝った。

 

「坂本さん。昨日は変にテンション高くてごめんなさい……」

「い、いや、別にいいよ。ちょっとビックリしたけど」

「私、レッスンばかりで友達がいないから……誰かと仲良くなりたくて」

「藤上さん……」

 

 うまく同情を引けたらしく、級友の態度が一気に和らいだ。

 

「席隣なんだし、これからはもっと話とかしようね!」

「ありがとう坂本さん。そういえば前から思ってたんだけど」

「え、何?」

「その髪飾り、すごく可愛いよね」

「や、やだなーもう! あはは……」

 

 本気で喜んでいる彼女に少し良心が痛むが、そんなことを言っていては何も変えられない。

 

(猫をかぶるくらい、誰だってやってる)

(いつも正直な人なんて、この世で勇魚ちゃんくらいだよ)

 

 レッスンでも、今までの無気力を反省したという設定で、情熱があるように振る舞った。

 別に騙しているわけではない。相手に気分よくなってもらうための、単なるマナーだ。

 

「姫水ちゃん、そこはもっと大胆に」

「はいっ、ご指導ありがとうございますっ」

 

 そんなことを数日続けていたところ、レッスン後に社長室に呼ばれた。

 

「それは誰の演技?」

 

 あっさりバレた。

 社長の冷ややかな目におどおどする。本当におどおどしている……のだと思う。

 

「し、白雪姫です……」

「白雪姫」

「というか、それをベースにした理想の女の子みたいな……」

「そう。諸刃の剣だが……しかし何もしなければジリ貧でもあるしな」

 

 社長は少し考え込んでいたが、仕方ないというように溜息をつく。

 

「演技はいいが、呑まれてはいけない。自分が藤上姫水であるということを忘れないように」

「は、はい……」

「何か異常を感じたら、すぐ信頼できる人に相談しなさい」

「はいっ」

 

 

 *   *   *

 

 

 日々、少しずつ調整していく。

 愛されるように。周囲の期待に応えるように。

 幸いにも勉強はできる方だったのが、大いに役に立った。

 

「藤上さん。宿題で分からないところ、教えてほしいんだけど……」

「いいわよ、私で良かったら」

「いつもありがとう!」

「どういたしまして。放課後はあまり遊べなくてごめんね」

「とととんでもない! レッスン頑張ってね!」

 

 ありがとう、と心から感謝している風な姫水に、純真な小学生たちは何の疑問も抱かない。

 だが学校での行動はあくまで練習だ。

 本命の成果を得るには、仕事場で上手くやらなければならない。

 

「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」

 

 もしかしたら大人たちは、子供の浅はかな演技なんて見抜いているのかもしれない。

 そうだとしても大人なので、いちいち指摘したりはしない。

 表面的だろうとお互い気持ち良く仕事ができれば、いずれ上手く回っていくはずだ。

 

 

 そうして地道に良い子として振る舞っているうちに、とうとう最終学年になった。

 引っ越してから三年。

 勇魚に会えないことも話せないことも、既に日常として定着してしまった中で、電子文だけが長距離を行き交う。

 

『うちの修学旅行は広島やって。東京ならよかったのになー』

『汐里がさびしがらないか心配やけど、楽しんでくる!』

『姫ちゃんの方はどこ?』

 

『小学校は日光だよ。中学校は東北』

『高校はだいたい京都奈良みたいだから、その時は会いに行けるけど』

『まだまだ先だね』

 

 彼女とのやり取りだけは仮面を外して、一息つける。

 看護師の話が、その後全然出てこないのが気になったけど。

 

(ううん、特に書くことがないだけ! 勇魚ちゃんならきっと夢に向かって頑張ってるはず!)

 

 一方的な信頼のもと、姫水はこつこつと積み上げていく。

 ようやく実を結んだのは、小学校最後の夏休みに入った頃だった。

 東京ローカルとはいえ、テレビドラマで初めて名前のある役をもらえたのだ。

 

「やったねえ、おめでとう!」

「ありがとうございます! 教えていただいたこと、頑張って発揮してきます」

 

 レッスン講師に感謝しているのは嘘ではないが、その言葉は事前に考えておいたものだ。

 家に帰って、大喜びの母が腕を振るったご馳走を、黙々と食べる。

 これで一つの成果になるのだろうか。

 

(――ううん、まだ足りない)

(勇魚ちゃんのいない三年間は、この程度じゃ釣り合わない)

 

 なので勇魚からの、ビデオを送ってほしいとの頼みも、申し訳ないけど断った。

 いつか大阪でも放送されるくらいの、大きな番組に出ないと。

 

 

 モブではない役なだけあり、撮影は普段より厳しかった。

 役者と役者の真剣勝負。子供の猫かぶりなどとはわけが違う。

 今までの三年間をフルに働かせて、姫水は必死で食らいついていった。

 近くの監督やスタッフ、共演者が望むであろう姿だけを、ただただ自分に宿す。

 

(あ――まただ)

 

 撮影中だというのに、前に秋葉原で感じた、奇妙な疎外感に襲われた。

 意識は空中に浮かび、上から自身を眺めている。

 もうすぐ自分の出番なのに、これは困る。

 上空から指示すると手も口も動いたいので、リモコンのように仕事をこなした。

 

 出番が終わると同時に、浮遊状態は終了した。

 監督から何も言われなかったから、きちんと演技はできていたのだろう。

 それにしても、何が起きていたのだろうか。

 

『異常を感じたら……』

 

 社長の言葉を思い出す。

 信頼できる人はいないが、この程度の異常なら共演者に聞いてもいいかもしれない。

 

「へえ、すごいね! 幽体離脱みたいな感じなんでしょ?」

「は、はい。すごいんですか?」

 

 高校生であるその役者からは、意外にも肯定的な反応が返ってきた。

 

「本当の天才は、そんな風に自分を俯瞰して演技ができるって聞いたよ。私は凡才だから無理だけど、姫水ちゃんその歳でそんな域かぁ」

「いえそんな、たまたま起きただけなので」

 

 お礼を言い、仕事に戻る。

 少し不安だったが、要らぬ心配だったようだ。

 

(そうか。あの感覚は『良いこと』なんだ)

 

 この時の勘違いが、結局は破滅への坂道だった。

 姫水は知らなかったのだ。

 俯瞰して見る感覚を、自分で制御できるのが天才なのであって。

 制御できなければ、単なる精神障害と呼ばれることを。

 

 

 *   *   *

 

 

 母の勧めるままに有名中学校を受け、そのまま受かってしまった。

 小学校の卒業式で、感動に包まれる周囲に入り込めずにいると、いつもの感覚がやってくる。

 ここのところ月に一、二回はある。

 周りの子たちが姫水との別れを悲しんでくれているのを、どこか遠い世界のように見る。

 それでいて端から見れば、完璧に寂しそうな姿で振る舞ってみせた。

 だんだん慣れてきた。

 

 進学先の中学校でも、上手いこと周囲の尊敬を勝ち得た。

 

「藤上さんって、女優のお仕事もされているのでしょう?」

「ええ、まだまだ未熟者だけれどもね」

「ご謙遜! それでいて成績もトップクラスなんて、素晴らしいわ」

 

 とはいえさすがに勉強時間を増やさないとトップは保てなくて、睡眠時間を減らす。

 先日のドラマも比較的好評で、仕事も徐々に増えてきた。

 流行の作品や過去の人気作にも目を通しておかないと……。

 

『夏休みに会いに行っていい?』

 

 梅雨空の六月。

 勇魚からのメールに、姫水の思考は一瞬空白になった。

 

『もう中学生やし、お母ちゃんが一人行ってもええって!』

『実は新幹線代のために、お年玉も使わへんで貯めててん』

『姫ちゃんも忙しそうやけど、一日くらいは大丈夫やろ?』

『四年とちょい振りやで! 手紙とメールばっかしてたから実感ないけど、ほんま久しぶりやなー』

『姫ちゃんの友達にも会いたいな!』

『てことで、都合のいい日教えて!』

 

「――うれ、しい」

 

 なぜか言葉が途中で引っかかり、かすれて途切れた。

 嬉しいはずだ。

 ずっと会いたかった。声が聞きたかった。

 なのに何でだろう。

 心の奥に、うす暗い不安が生じているのは。

 

『姫ちゃんの友達にも会いたい』

 

 この一文が特に問題だった。

 両者を引き合わせるとして、自分はどちらに合わせたらいい?

 大阪の姫水と、東京の姫水。

 ふたつを矛盾なく演じられるだろうか。

 

(……って、何を言っているの!?)

(なんで勇魚ちゃんの前で、演技なんかしなくちゃいけないの……!)

 

 少しふらつきながら、鏡の前に立つ。

『演技をしない』。

 それだけのこと。簡単なことだ。

 最後に実行したのがいつだったか、よく思い出せないけど。

 

 昔のように笑ってみる。

 鏡に映る歪んだそれに、心臓が冷たくなった。

 何度も試すが上手くいかず、鏡に頭を打ち付ける。

 

「私、勇魚ちゃんの前でどんな風に笑ってたっけ……」

 

【挿絵表示】

 

 直後、いつもの感覚に襲われる。

 

 離れて見る自分の身体はいつもより遠くて、大阪の記憶ともども、もう手が届かないように思えた。

 

 

 丸一日が経過した。

 早く返信しないと、喜んでいないのかと思われてしまう。

 決して心変わりなんてしていない。今でも大切に思っている。

 誰よりも何よりも大切な、だからこそ、怖い……。

 

『勇魚ちゃんが今の私を見たら、どう思うだろう?』

 

 

「あのねお母さん、勇魚ちゃんがね」

 

 夕食時。ガラス膜の向こう側にいる母に、淡々と説明する。

 

「え、こっちに来るの。情が深いというか、執念深いというか……」

「お母さんは嫌?」

「うーん、でもまあ、仕方ないからお茶くらい出すわよ」

「嫌なんだよね?」

「え? ま、まあ、どちらかというと」

「そう。分かった」

 

 味の分からない食事を、機械的に喉に流し込んだ。

 実感のないまま、自室に戻ってメールを打っていた。

 

『ごめんね、勇魚ちゃん』

『お母さんがいい顔をしないの』

『うちの学校、夏休みの課題も多いみたいだし……』

『レッスンも休めなくて』

『またの機会でお願いできないかな』

 

 長々と並べた言い訳を、暗い目で読み返す。

 嘘は書いていない。

 送信ボタンを押した途端に、現実感が戻ってきた。

 

「あ……」

 

 送信を取り消そうとするが、間に合わない。

 何てことを、と思うと同時に、送ったものは仕方ない、とも思う。

 すぐにまた、現実感が薄れていった。

 

 

 程なくして、空元気に満ちた返事が届いた。

 

『そっか、残念』

『しゃあないよね! 姫ちゃんも頑張ってんねんもん!』

『でも、いつかまた会えるって信じてる!』

 

 どんな表情で書いたのだろう。

 お年玉を貯めてまで楽しみにしてくれてたのに、どうして自分は、こんなことを……。

 

(ごめん、ごめんね勇魚ちゃん)

(でも今は無理なの。昔みたいに笑えるようになったら、私から会いに行くから)

(だから――)

 

 そう言い訳はするものの。

 どうしたら昔に戻れるのかは、何の方法も浮かばなかった。

 

 

 *   *   *

 

 

「音ノ木坂はとうとう予選落ちかあ」

 

 二十代の女優二人が、楽屋でそんな話をしている。

 暗い気持ちで着替えていた姫水は、懐かしい名前に、気晴らしとして話に乗った。

 

「音ノ木坂、ってμ'sがいた学校ですよね。今のラブライブはそうなってるんですか」

「そ。いよいよ世代交代って感じよ」

「今の代の子がこんなこと言っちゃったしね」

 

 事務所の先輩が見せてくれた雑誌には、一人のスクールアイドルがなぜか怒った顔で写っている。

 

『高坂雪穂、吠える!』

『「私たちはμ'sの妹じゃない! 私たちは私たち!」』

『「いつまでもμ'sの幻想を押し付けるな、バカ!」』

 

「この発言でμ'sファンの反発を招いて、東京地区予選は惜敗。心意気は買うけど結果は非情よねぇ」

「そう……なんですね」

「ま、いいんじゃないの学生なんだから。成果よりプライドを優先しても」

「私たちはプライドの前に、まず食べてかないとだしね」

 

 後のなさそうな二人が自嘲的に笑う。

 プライド……。

 今の姫水には縁のない言葉だ。

 

「姫水ちゃんはいいわね。まだ若いし、無限に可能性があって」

「いえいえ。なかなか芽が出なくて」

「まあでも、この前のCMも良かったし、そろそろ報われる頃じゃない」

「だと、いいんですけど」

 

 改めて、雑誌に映った高校生を見る。

 いつぞや秋葉原でサインを書いてくれた人と、少し通じる面影がある。

 結果が敗北であれ、自分が自分であると主張できる姿が羨ましい。

 望まれる反応を、ただ返すだけの人形になりつつある姫水には。

 

 勇魚を拒絶した姫水の心は、どんどん空虚になっていく。

 その一方で演技は洗練されてゆき、社会的には成功しつつあった。

 

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