ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート4 シュレッダー ☆☆

「というわけで花ちゃん! どうやったら晴先輩はうちを好きになってくれると思う!?」

「ええ……無茶な質問せんといて……」

「当の晴先輩が、何でも花ちゃんに相談しろって言うたんや!」

「うーん、そこまで頼られるなら考えてみるけど」

 

 帰りのバスで盛り上がる二人の間で、姫水はゆっくりと口を開いた。

 その目からは、どこか色が失われている。

 

「……ねえ、勇魚ちゃん」

「あ、姫ちゃんもアイデアあったら教えて!」

「そんなに、あの先輩のことが好き?」

「うんっ! 晴先輩のこと考えると、胸のこのへんがきゅっとなんねん。うち、こんなの初めてや!」

「……私よりも?」

「え……」

 

 めんどくさい彼女みたいなことを言い出した幼なじみに、勇魚がぽかんとしたところへ、姫水は早口で言葉を続ける。

 

「あ、あのね、岸部先輩とは来年も一緒でしょう?

 私はあと一年しか一緒にいられないの。

 そういうことも、少しは考えてくれていいと思うんだけど……」

 

 先に反応したのは花歩の方だった。

 驚きと歓喜の入り混じった顔で、一気にはやし立てる。

 

「ええー!? 姫水ちゃん寂しいの? 焼きもち!?」

「べ、別にそういうわけじゃ……」

「ええやんええやん、可愛いやん。なんか姫水ちゃんが一気に身近になったで!」

 

 ぐっと親指を立てる花歩の前で、姫水は少し赤くなっている。

 彼女は性格が良くて素敵な子だが、少し完璧すぎるきらいはあった。

 それがこんな姿を見せてくれて、花歩としては大喜びだったが……

 

【挿絵表示】

 

 その一方で、勇魚の様子は一変していた。

 先ほどまでの浮かれた空気は完全に消え失せ。

 少し考え込んで、どこか無理に笑ってから、平時の口調で言った。

 

「ごめん。姫ちゃんに寂しい思いさせるなんて、友達失格やね。

 うちは自分の気持ちしか見えてへんかった。

 もう、晴先輩のこと好きになるのやめる」

「え――」

 

 二人が絶句する中、バスは赤信号で停車した。

 当たり前だが、勇魚は嫌味や当てつけで言っているわけではない。

 本当に本心から、恋心を捨てると宣言した。

 

 姫水は困った風な顔で、慌てた風に弁解する。

 

「ご、ごめんなさい勇魚ちゃん。私そんなつもりじゃ……」

「もう、何で姫ちゃんが謝るんや。正直な気持ちを言うてくれて、うちめっちゃ嬉しいで!」

 

 笑顔の勇魚に、花歩は少し背筋が寒くなる。

 この子は友達のためなら、誰かを好きな気持ちすら捨ててしまう。

 うちの部で一番異常なのは勇魚なのではないか、とまで一瞬思うが――

 

「まあ、結果オーライってことで!」

 

 それでも、花歩にとって勇魚は大事な友達だ。

 空元気のように、大きい声で決め付けた。

 

「あの先輩を好きになっても報われるわけないし、ぶっちゃけ不毛やろ!

 また今日みたいに拒絶されたら心臓に悪いしねー。

 早目に諦めるに越したことはないと思うで、うん!」

「……せやね。花ちゃんの言う通りや!」

 

 バスは再び動き始める。

 姫水はまだ不安そうにしながら、おずおずと確認する。

 

「勇魚ちゃん、本当にいいの?」

「もー、ええって言うてるやん。この話は終わり!

 せや! 衣装のデザイン、姫ちゃんから教わらなあかんのやった!」

「そうそう、私にも教えてよー。どうやったらあんなん描けんねん」

「うーん、どうと言われると難しいんだけど……」

 

 衣装の話を交わしながら、三人はバスで東へ運ばれていく。

 その後は晴のはの字も出なかった。

 勇魚に初めて生まれたはずの気持ちは、最初からなかったように扱われた。

 

 三人が三様に、そうするのが一番良いと信じた結果だった。

 

 

 *   *   *

 

 

「ばいばい、また明日ー」

 

 バス停で降りて花歩と別れ、二人で家路につく。

 だいぶ陽も長くなり、まだ少し明るい中を、勇魚だけが元気に喋っている。

 姫水は相槌を打ちながら、笑顔で一緒に歩いていたが……。

 徐々にそれを維持できなくなり、歩みは遅れ、そして止まった。

 勇魚も立ち止まり、幼なじみの顔を覗き込む。

 

「どうしたの、姫ちゃん」

「さっきの、演技だったかもしれない」

 

 少し驚いた勇魚の前で、姫水はぽつぽつと言葉を続けた。

 

「嫉妬した振りをしただけかもしれない。

 それが一番、効果的だと思ったから。

 ああすれば勇魚ちゃんが諦めてくれるって、分かってて私は――」

 

 息をするように演技し、嘘をつく。

 そしてどこまでが演技でどこまでが本心か、自分でも分からない。

 そんな病は、勇魚だけは例外だったはずなのに。

 とうとう、勇魚にまで向けてしまった。

 

「そっか」

「ごめんなさい……」

「理由は何なん? 姫ちゃんが寂しかったから? うちが傷つくのが嫌やったから?」

「……分からない……」

 

 懺悔し蒼白になっている姫水の前で、勇魚は明るく笑う。

 

「ほな、両方ってことにしとこ!

 うちが晴先輩を諦めれば、一挙両得ってわけや。

 うーん、ほんまお得やなー」

「でも勇魚ちゃん、私はあなたの想いを殺そうとして……!」

 

 最後まで言えなかった。

 姫水の自傷を止めるように、勇魚はその体に抱き着いていた。

 相手の肩に顔を埋め、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「晴先輩が言うてくれたんや。

 うちの善意は間違うてへんて。

 けど、向ける相手を選ばなあかんって」

「勇魚ちゃん……」

「姫ちゃんにやったら、いくら向けても大丈夫やろ?

 だって姫ちゃんが、うちに悪意を持つわけがないもん。

 ね、そうやろ?」

「勇魚ちゃんっ……!」

 

 抱きしめ返そうとしても、腕が動かない。

 悪意ではない。勇魚を傷つけようなんて、微塵でも思うわけがない。

 でも、エゴでなかったと言えるだろうか。

 

 花歩がくれた言い訳が、頭の中で反響する。

 

(結果的には良かった)

(あの先輩は一人が好きなんだから)

(お互いのためにもなった)

 

 それだって、どこまで本気で信じているのか分からず……

 小さな女の子のように震えている姫水へ、勇魚は優しく語りかけ続ける。

 遠い昔、二人で元気に走り回っていた住宅街の中で。

 

「うち、姫ちゃんのためやったら何でもするからね。

 何でも……何でもするから」

 

 

 *   *   *

 

 

「晴先輩晴先輩っ」

 

 今日も部屋の片隅で、一人パソコンを叩いている先輩は、うんざりした視線を向けてきた。

 まだ頬が熱くなる現象も、高鳴る鼓動も残っているけれど。

 でも、頑張れば抑え込める程度だった。

 

「やっぱりうち、先輩のこと好きになるのやめます!」

「は?」

「あ、もちろん先輩としては尊敬してますし好きですけど、それだけです! お騒がせしましたっ!」

「……あ、そう」

 

 コイツは何を言ってるんだ、という顔の晴に対し、勇魚はぺこりと頭を下げ、作業へと戻っていった。

 

【挿絵表示】

 

 桜夜が近づいてきて肘で突っつく。

 

「晴~、なんや振られてるやないか。女の子に冷たいからそうなるんやで」

「知りませんよ。何にせよ、平穏が確保されて結構なことです」

 

 もはや興味もないように、晴は振り付け作りの作業に戻った。

 鼻白んだ桜夜が負け惜しみのように言う。

 

「そんなこと言うて、晴だっていつか誰かを好きになるかもやろ」

「そうですね。可能性はゼロではないですね」

(……あかんわ、これ)

 

 桜夜がよく読む少女漫画では、こういう時に強く否定するキャラほど、後から恋に落ちるものだ。

 つまりは、逆に軽く流すような奴は……

 

 

 大きな作業台の前でぽつんと佇む勇魚に、小都子が小声で話しかける。

 

「諦めたんやね」

「あ、すみません……昨日はあんなこと言うたのに」

「ううん、それが正解とは思うけど」

 

 視界の中で申し訳なさそうにしている姫水を見て、小都子も何となく察した。

 あり得たかもしれない未来を思って、つい未練が口から出てしまう。

 

「勇魚ちゃんやったら晴ちゃんを変えられるかもって、少し思ったんやけどね」

「小都子先輩……」

「ああでも、変わってほしくない気持ちもあるし……我ながら難儀やな。ごめん、忘れて」

 

 離れていく小都子を見ながら、勇魚は自分の胸を押さえる。

 まだ可能性はあるのかもしれない。

 姫水の言う通り、来年も勇魚と晴は一緒にいるのだから。

 

 でも同時に、もう駄目やろな、と自分でも思う。

 シュレッダーで裁断した書類が、二度と戻らないように。

 一度殺した心が、生き返る道理もない。

 

 勇魚は顔を上げ、自分のものではない衣装を持って、友達のところへ行く。

 

「姫ちゃん、一緒に作ろ!」

「……うん……」

 

 精神を病んだ幼なじみは、弱々しく笑ってそれを受け入れる。

 二人でミシンを用意し、縫い代をしっかりと縫い合わせる。

 決して離れたりしないように。

 

「やっぱり、彩谷さんの衣装を作るんだ」

「もー、まだ言うてんの? うちはライブに出られないんやから、出られる人を応援せな!」

「うん……そうね、私もライブ頑張る。勇魚ちゃんの分も」

「うんっ! 約束やで!」

 

 

 たったの二日間だけ経験した、甘くふわふわした想いは、既に遠く飛び去ってしまった。

 それを少しだけ懐かしみながら、勇魚は衣装を作り続ける。

 

(だってうちは――)

 

 友達のことが、何よりも大切なのだから。

 

 

<第12話・終>

 

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