ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 神聖と世俗 ☆

「なんだか客層が独特やね?」

「ちっちゃい子も来てるんやなー」

 

 講堂に着席し、花歩と勇魚は前後を見渡す。

 Number ∞に客を取られたのか、女子高生は思ったほど多くない。

 一方で最前列には、近所の幼稚園から来たらしきチビっ子たち。

 そして後方では、帝塚山あたりに住んでそうなマダムたちが、にこやかに会話を交わしている。

 

「アイドルというと、どうしても風紀的に好ましくない印象やけど……」

「聖莉守だけはほんま別やねえ。子供にも安心して見せられるわあ」

 

 後ろから聞こえるひそひそ声に、立火は渋い顔である。

 

「とまあ、あんな感じで保護者ウケのいいのが聖莉守や」

「保護者に評価されているなら良いことじゃないですか」

「けっ! 大人が眉をひそめるような無茶もやるのがWestaやで!」

 

 立火の極論に、姫水は困り笑いを返す。

 きっと去年のWestaはそうだったのだろうけど、今年はそんな無茶ができるのかどうか。

 特に姫水自身が、体制に刃向うロックな自分を想像できない。

 

 時間になり、舞台の幕が開く。

 拍手もどこか上品な中、聖莉守のメンバー十名がその姿を現した。

 白を基調にした天使のような衣装。

 その中心には和音と凉世が寄り添い、同時に揃ってお辞儀をする。

 

「皆様、本日は聖莉守のライブへようこそお越しくださいました。

 今年度は部長としてこの私、小白川和音と――」

「副部長として、剣持凉世が務めさせていただいております」

「我が校の歴史と伝統を汚さぬよう、しっかりと進んでいきたいと思います」

「短い時間ですが、お楽しみいただけますと幸いです」

 

 拍手の音が大きくなる中、さっそくライブが始まった。

 一曲目は聖莉守の十八番である聖歌。

 

『黄昏静かに いと更けし夜

 祈るは嬉しき 君の御心』

 

 多少アイドルソング風のアレンジはあるものの、やっぱり聖歌である。

 もちろんサイリウムを振る者などいるはずもない。

 一応はダンスもあるが、派手さのない落ち着いたものだ。

 

(うーん、聖歌隊のコンサートを聞きに来た気分……)

 

 子供たちは飽きるのではないか、と花歩が要らぬ心配をするが、そこは強豪校。

 二曲目の前に、凉世が爽やかな笑顔で声を張り上げる。

 

「次の曲は元気に行きたいと思います!

 小さなお友達のみんなも、良かったら一緒に手拍子を頼むで!」

 

 一転して明るい雰囲気の中、エンタメ側に振った曲が披露される。

 

『Twinkle Twinkle さあ踊りましょう

 手を取り軽やかに 心ごと跳ねるように!』

 

 これもアイドルソングというより童謡という感じだったが、子供たちは笑顔で手を打ち鳴らした。

 勇魚も大喜びで参加している。

 

 終わった後は簡単なメンバー紹介と、今後の予定について。

 そして和音の口から、スクールアイドルへの想いが語られた。

 

「私たちはラブライブでの勝利は求めていません。自分たちらしいライブができれば、それでええんやと思っています。

 その点にご批判の声もあるでしょう。

 ですが全てのスクールアイドルは、神の御前に等しく尊いもの。

 それをどちらが上だ下だなどとは、私は決め付けたくはないのです」

「はわわ……なんて立派なお人なんや! 全くもってその通りや!」

 

 小声で感動している勇魚を見て、こいつ怪しい宗教に簡単に引っかかりそうやな、と心配になる立火である。

 

「立火先輩! うちらも別に勝たなくていいと思います!」

「いいわけあるかボケェ! 全国行かれへんやないか!」

「うう……やっぱり行かなあかんですか?」

「あかん! 頼むでホンマに!」

 

 ちょっと悲しそうな勇魚を、姫水と花歩がまあまあと慰める。

 そうこうしている間にMCも終わり、和音の静かな声が響く。

 

「お名残惜しいのですが、次が最後の曲です」

(え!? 三曲しかやらへんの!?)

 

 立火が内心で大いに突っ込む。

 わざわざ遠出してきた客にその曲数は、不満を残すのではないか?

 これは今年の聖莉守は恐るるに足らずか?……などと侮る気持ちさえ生まれたが。

 ステージ上の聖女と騎士は、自信に満ち溢れた表情だった。

 

「私たちは年明け以来、この一曲に全てを懸けてきました」

「どうかお聞きください。『明星のオラトリオ』」

 

 沈むような静寂の後、圧倒的な音楽が始まった。

 

(――これはっ……!)

 

 すぐさま立火は、自らの不明を恥じた。

 オペラ歌手と思わんばかりの声量が、二人の口から大河のごとく流れていく。

 聖譚曲(オラトリオ)の名の通り、重厚で神聖な物語が、曲の形で鳴り響く。

 ダンスもまた一流のバレエと遜色なく、白い姿が縦横無尽に舞う。

 この一曲のために、どれだけの練習を重ねてきたのか――。

 

 曲自体も四分間と長めで、不満の残る客などいるはずもなかった。

 最後の一音が消え、少しの間の後、万雷の拍手が鳴り響いた。

 

「皆様、本日はありがとうございました」

 

 終演の挨拶に、さらに大きくなる拍手の中、立火は打ちのめされて動けない。

 やはり聖莉守は強い。

 彼女たち自身には勝つ気がないというのが、なおさら腹が立つ。

 隣では勇魚が感涙にむせび、花歩が不安そうにしている。

 

「うち、今日から聖莉守のファンになります!」

「こんな凄いとこで芽生はやっていけるんやろか……」

 

 そして姫水は、特に感慨もないように、ただ考察を語った。

 

「ああいう曲が評価されるのですから、天名さんの新曲も評価してもらえるのでは?」

「どうやろなあ……聖莉守の客は、元からああいうのが聞きたくて来てるんやし」

 

 いくら技巧を凝らした懐石料理でも、ラーメン屋の客に出して喜ばれることはない。

 Westaの客に求められているものをお出しできるのかどうか……。

 とはいえ、今回の見学で大いに示唆を得られたのは確かだった。

 

「みんなもいい経験になったやろ!」

『はいっ!』

「挨拶していきたいけど、忙しそうやな。今日は大人しく退散しよか」

 

 ステージ上では、高そうな服を着た大人が和音に花束を渡している。

 それを遠くに眺め、立火たちは講堂を出た。

 どのみち来月の予備予選で、直接顔を合わせるのだ。

 

 

 校門に向かっていると、後ろから誰かが追いかけてくる。

 

「おーい! 丘本姉ー!!」

 

 振り返ると、芽生の仲間のポニーテール少女だった。

 確か熱季といったその子は、花歩たちの前へ来てふんぞり返る。

 

「どうや、私たち聖莉守の実力は! 恐れ入ったやろ!」

「え、わざわざそんなこと言いにきたの……」

「うん、ほんまに恐れ入ったで! 感動した!」

 

 呆れ気味の花歩の一方で、勇魚は素直に絶賛を返す。

 少し引いた熱季に、いつものように距離を詰める勇魚である。

 

「うちは佐々木勇魚! あなたは何ていうん?」

「け、剣持熱季(けんもち あつき)……」

「あっちゃんやな! 同じスクールアイドル同士、これから仲良くしようね!」

「うんよろしく……って何で敵と握手してんねん!」

 

 勝手に握ってきた勇魚の手は振り払われ、姫水が少しむっとした。

 それに気付かず、熱季は立火へと人差し指を突きつける。

 

「おいWestaの部長! お前なんて、うちのねーちゃんがコテンパンにしたるからな!」

「剣持いうてたな。自分、あの副部長の妹か」

 

 立火は平然としていたが、無礼な態度に花歩の怒りに火がつく。

 

「ちょっと! 敬語くらい使ったらどうなんや!」

「まーまー。他校の奴に細かいことはええやろ」

 

 鷹揚に応じた立火は、腕組みして熱季に話しかける。

 

「お前みたいにイキのいい奴は嫌いやないで。けど、姉の威光をかさに来てるようではまだまだやな」

「う……や、やかましいわ! 今に見とき!」

 

 痛いところを突かれた熱季は、勝手に敗北して校舎へ逃げ帰っていった。

 それを見送りながら、一年生たちが言葉を交わす。

 

「何やったんや……芽生、あんな子と友達なんやろか」

「勝敗にこだわらないはずが、ずいぶん好戦的だったわね」

「でも元気でええやん! うちは好きやで!」

 

 そんな様子を、立火は温かい目で見守っている。

 花歩と勇魚にとっては、あの子は三年間を過ごすライバルになるのだろう。

 自分と和音、鏡香がそうであるように。

 

 さて帰ろう、と歩き出そうとしたところで、立火のスマホが鳴った。

 

 

 *   *   *

 

 

 チラシ配りを終えた桜夜たちは、構内へ足を踏み入れる。

 ここは難波大学附属高校――ではなく。

 少し離れた場所にある、難波大学のキャンパスだ。

 ここの大ホールが、本日のライブ会場となっている。

 

「大学の施設使えるってズッルイなー。なんか不公平やない?」

「環境に文句を言うても仕方ないでしょう」

 

 愚痴っている桜夜に、夕理が上から説教を始める。

 

「そもそも大阪のような都会で活動できる時点で、私たちも恵まれてるんです。田舎のグループの苦労も考えたらどうですか」

「ふーんだ、田舎なんかに住んでるのが悪いんやろ」

「あ、あなたって人は……」

 

 先輩の暴言に夕理は開いた口がふさがらず、二年生二人は足を止めて相談を始めた。

 

「やっぱり桜夜先輩を連れていくのは心配やねぇ」

「ここから強制送還するか?」

「ごめんなさい! 自重します!」

 

 涙目の桜夜に、つかさがケラケラ笑いながら先へと進んでいく。

 今日は姫水にやきもきせずに済むので、足取りも軽やかだ。

 ホールが近づくにつれて、周囲は賑やかになってきた。

 

「さあさあ! サービスしまっせ!」

「お客様は神様や!」

「サービスサービス!!」

 

 Number ∞の部員らしき生徒が、法被を着て待ち構えている。

 浪花の商人魂に満ちた女子高生が、すぐさまつかさ達に駆け寄ってきた。

 

「いらはいいらはい! ライブへお越しでっか?」

「そーでーす。五人ですけど入れます?」

「はい五名様ご案内~! こちらへどうぞ!」

 

 この過剰なまでのサービス精神が、ナンインの人気の一因でもある。

 ホールに入るところで記念グッズをもらった。

 スクールアイドルらしく原価を安く抑えた、手作りの栞だ。

 

「部員たちが! 心を込めて作りましたので! どうぞ記念に!」

「は、はあ、どうも……」

(恩着せがましい連中やなぁ……)

 

 小都子と桜夜が困惑する中、五人はスペースを見つけて着席する。

 さすが全国常連なだけあって、ホールは大盛況だ。

 開演時間になり、まだ私語が聞こえる中、それを打ち伏せるような大声が会場に響いた。

 

「みんなー! 盛り上がっていくでー!」

『おおー!』

 

 そして始まったライブに、夕理は案の定というか乗り切れなかった。

 哲学も何も感じられない、ただ人気を得るためだけの商品的なライブ。

 こんなものに夢中になるなんて、よほど意識の低い人間ではないのか。

 などと考えている夕理の近くで、意識の低い桜夜が夢中で腕を振っている。

 

「はーいはーいはいはいはいはい!」

「うー! はい! うー! はい!」

(この先輩、嫌いや言うてた割にノリノリやないか……。ほんまいい加減やな)

 

 小都子とつかさもそれなりに楽しんでいて、晴は何かメモを取っている。

 自分一人だけが会場から浮いている気がして、夕理は来たことを後悔し始めた。

 二度目だったとしても、天王寺へ行くべきだったかもしれない。

 

 ナンイン独自の展開を見せたのは三曲目だった。

 それまでのメンバーは舞台裏へ消え、代わりに二軍がステージに飛び出てきたのだ。

 

「二階堂純奈です! 先日の投票で二軍に落とされましたが、この屈辱をバネに頑張ります! 投票お願いします!」

「大塚アリサです! 入学したばかりの一年生ですが下剋上大好きです! よろしくお願いします!」

 

 次々とアピールしていく二軍たちに、つかさがぞっとしない顔で晴に尋ねる。

 

「え、一軍二軍って投票で決まるんですか?」

「一軍で最低の奴が落とされ、二軍最高の奴と入れ替わる」

「うっわ、えげつな……高校の部活でそこまでやりますかね」

「まあ、他の部みたいに顧問の一存で決まるよりは民主的やろ」

 

 その二軍のパフォーマンスはしょせん二軍なりという感じだったが、推している人には切実なようで、そこここから必死の声援が聞こえる。

 

 四曲目。二軍は退場し、衣装を着替えた一軍が再登場する。

 スクールアイドルのライブで、時間がかかる衣装替えは滅多にない。

 二軍を持ち、観客を飽きさせずに済むナンインならではの趣向だ。

 

「ここから一気にいくでぇ! みんな最後までついてきてやー!」

『うおおおおお!』

 

 もうええわ、と夕理が渋面を作っている間に、怒涛の勢いで最後の二曲が終わった。

 計五曲。さすがのサービス精神である。

 小都子が満足そうなのが、夕理には少し悲しかった。

 

「いやあ、大盛り上がりやったねぇ。夕理ちゃんはどうやった?」

「私はあんまり……小都子先輩は意外と雑食なんですね」

「ま、まあこういうのは楽しんだもの勝ちやから」

 

 ホールを出ると投票を受け付けていたが、あまりメンバーの区別がつかないので、五人ともスルーする。

 ファンたちには一大イベントのようで、あの子の演技が良かった、いやあの子が可愛かったと、方々で激論が交わされている。

 

「みんな暇人やなぁ……」

「暇人が夢中になれるほどの暇潰し。それが娯楽ってもんやで木ノ川はん」

「げっ、戎屋」

 

 嫌味な声に顔を向けると、去年さんざん見たニヤニヤ顔がこちらへ歩いてきた。

 Number ∞部長、戎屋鏡香(えびすや きょうか)

 自らはステージには上がらず、全体を統括する支配人的な立場だ。

 その後ろには二人の二年生が、侍従のごとく付き従っている。

 

【挿絵表示】

 

「情報班からWestaが来てるいう報告があってな。広町はんは逃げたの?」

「聖莉守の方に行ってるだけや! わざわざ日程ぶつけよって、ほんま性格悪いな!」

「いやいや、誤解やって。聖莉守の邪魔しようとか全然思てへん。ほんま偶然」

 

 わざとらしく手を振ってから、鏡香は頬に指を当て残念そうに言う。

 

「ああでも、これなら来週にぶつけた方が良かったなあ。あんさん達が会場ガラガラで涙目の姿、さぞ見ものやったろうになぁ。ほんま惜しいことをした」

「こ、この性格最低クソ女……。みんな! こんな奴放っておいて帰るで!」

「お待ちください。一言挨拶させてください」

 

 後ろに控えていた二年生の一人が、すっと前に進み出る。

 クールな印象を発するその女生徒は、桜夜ではなく小都子に相対した。

 

「橘さんですね。私はNumber ∞次期部長の及川です。以後お見知りおきを」

「は、はあ、ご丁寧に。でもちょっと気ぃ早いんとちゃいます?」

「目先のことに捕らわれず、長い目で商いをするのが大阪商人なので」

「おいこら! 何勝手なこと言うとんねん!」

 

 と、もう一人の二年生が不満顔で割り込んできた。

 明るい雰囲気のその女生徒は、自分の胸に手を当て宣言する。

 

「次期部長はこの私、早乙女や! 橘さん、勘違いせんといてな!」

「引っ込め早乙女。お前のようなアホに組織の運営が行えるわけがないやろ」

「何やと及川!? やんのかこの根暗女!」

「とまあこんな感じで、今から競わせて次期部長を育ててるってわけや」

「ただの蠱毒やないですか。趣味のよろしいことで」

「はっはっは」

 

 晴の皮肉を笑って流した鏡香は、小都子へ皮肉を投げ返す。

 

「そっちはどうなんや橘ちゃん。広町のやつ、ちゃんと育成してくれてんの?」

「立火先輩の頑張る姿を見て、いつも学ばせてもらっています。どうぞご心配なく!」

「はいはい精神論精神論」

「も、もうええからさっさと帰ろ!」

 

 小都子の額に青筋が浮いているのを見て、桜夜が話を打ち切ろうとする。

 鏡香もこれ以上の話はなかったが、最後に構内の一角を指さした。

 

「できれば帰る前にあれ頼むで」

 

 指さした方を見ると、ナンインの部員たちが募金箱を持って並んでいる。

 

「善意のご寄付を受け付けてまーす」

「活動資金にご協力をお願いしまーす」

 

 夕理は苦虫を噛み潰したような顔で、鏡香を睨みつける。

 

「スクールアイドルがお金集めはどうかと思いますが!」

「しゃあないやろ。うちの部、図体でかいから食費もかさむんや。ま、気い向いたらでええから」

 

 今度こそ話を終えて、ナンイン部長たちはきびすを返した。

 確かに今日の衣装だけでも出費が大きいことは、Westaの面々にも予想はできた。

 鏡香としても不本意なようで、後輩たちにブツブツ言っている。

 

「はあ……全国常連なんやから、もうちょっと学校側も補助してくれてもなあ」

「学校経営は今どこも厳しいですからね」

「世知辛いですねー」

 

 それを見送りながら、小都子が少し気の毒そうに言う。

 

「大きいところは大きいところで悩みがあるんやねぇ。ええもん見せてもろたのは確かやし、募金していきます?」

「冗談! 私は出さなくていい金はビタ一文出さへんからな!」

「まあ、わざわざ強敵に塩を送ることもないやろ」

 

 桜夜と晴が拒否の姿勢だったので、他三人が一応百円だけ入れに行く。

 夕理が義務感の百円玉を手にすると、募金箱を持つ女生徒がいい笑顔を見せてきた。

 

「五百円入れてくれたら、私と握手できますよ!」

「アンタそれでええんか!? そんなことやりたくてスクールアイドルになったんか!?」

「え? ええと、なんかすいません……」

 

 結局最後まで、夕理にはストレスしか溜まらない場だった。

 

 

 帰り道、つかさが正直な感想を言う。

 

「ぶっちゃけウチに勝ち目ないですよね?」

「う……」

 

 上級生たちは何も言い返せない。

 どちらの実力が上かはともかく、『どちらが票を集めそうか』については議論の余地すらなかった。

 桜夜が引きつった笑顔でわずかな希望を言う。

 

「で、でもほら。四位以内に入れば全国行けるから!」

「一位はどうせ滋賀の学校なんでしょ? どんどん門が狭くなるやないですか」

「もう、弱気なことばっか言わない! 立火があれだけ行きたがってるんやから、絶対行くんや!」

「はいはい。ま、あたしはどっちでもいいですけどー」

 

 つかさの態度に渋い顔をしながら、桜夜はスマホで電話をかける。

 とりあえず現実逃避でもいいので、楽しいことをして帰りたかった。

 

「もしもし立火ー? こっち終わったけど、みんなでお茶でもしてくー?」

(え、藤上さんとお茶!?)

 

 急にそわそわし始めたつかさを、夕理が複雑な目で見ている。

 

 

 *   *   *

 

 

「え、熱季そんなこと言うてたの」

 

 その日の晩。

 無事ライブを終えた芽生は、自室で姉から感想を聞いていた。

 

「あの子あんまり聖莉守っぽくないよね」

「とにかくお姉さんと一緒の高校に通いたくて、死ぬ気で勉強したみたいやからね。授業についていくのに苦労してるけど」

「そ、そうなんやー」

 

 芽生が天王寺福音を受けると聞いたとき、花歩は『あ、私は無理』と早々に諦めてしまった。

 今のような話を聞くと、少しくらいは頑張ってみても良かったのかもしれない。

 

「なんというか、根性のない姉でごめん……」

「何言うてんの。お互い、自分に合った学校に進めたやろ」

「まあ……せやね」

 

 住之江女子に入学して以来、多くの素敵な人たちに出会えた。

 天王寺福音に行けば別の出会いがあったのだとしても、今の気持ちとしてWestaのメンバーが好きだ。

 目の前で微笑む妹も、同じ気持ちのようだった。

 

「来週は、そっちのライブを見に行くからね」

「うん、期待しててええよ!」

 

 他力本願で何だが、部長たちがきっと芽生を感動させてくれるはず。

 いよいよあと一週間!

 

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