ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート3 審判までの四階段

『今日は私たちのファーストライブに大勢来てくれはって!

 後ろまで満員御礼でありがたいことです』

『ってどう見てもガラガラやんけ!』

『いやいや私には見えんねん。あのへんに幽霊のお客さんがね……』

 

 吉本ではよくある自虐ネタだが、当人たちの気持ちを思うと、動画を見ている立火も胸が痛い。

 五年前、Westaが発足して初めてのライブ。

 観客は15人だった、と、当時の部誌にある。

 

『結構周りに声かけてたのにこれやもんなあ』

『でもμ'sの初ライブのことを考えたら、15人来てくれただけでも御の字なんやろか』

『やっぱり、他人の自由時間を使わせるのって難しいんやなあ』

 

 部誌として残された文書ファイルには、初代部長のそんな所見が綴られている。

 初代の人たちと直接会ったことはないが、この人たちが部を作ってくれたから今の自分たちがある。

 あなた方が諦めなかったおかげで、今や数百人が訪れるまでになりました。

 もし会えることがあれば、胸を張ってそう伝えたいものだ。

 

「ほな行ってくるでー」

 

 家族に声をかけて、晴れ渡った皐月の空の下へ歩き出す。

 今日は月曜日。

 金曜には校内向け、土曜には校外向けのライブを行う。

 あと四日間、ひたすら練習あるのみだ。

 

 

 *   *   *

 

 

「晴が助っ人連れてくるって話やけど……」

 

 ライブとなると撮影や音響の人手もいるため、一時的な協力者を仰ぐ必要がある。

 去年は三年生が友達を連れてきていて、今年は景子あたりに頼もうと思っていたが……

 晴がもっといい人材がいると言うので、そちらに任せることにしたのだ。

 程なくして部室の扉が開く。

 

「お待たせしました」

「おっ、待ちわびたで……ってお前らか!」

「ど、どうも~」

 

 気まずそうに顔を出したのは、去年辞めた三人の二年生だった。

 桜夜と小都子も驚いて出迎える中、立火は晴に耳打ちする。

 

「おいおい。罪悪感につけこんで手伝わせてるんとちゃうやろな」

「滅相もない。皆自発的に協力してもらっています」

「そ、そうですよー立火先輩。大したことはできませんけれども……」

 

 自信のなさそうな助っ人たちに、小都子は感極まった様子で、かつての仲間たちの手を握った。

 

「一時だけでも、またみんなと一緒に活動できて嬉しい。梓、真代、七恵。三人ともよろしくね」

「小都子……」

 

 三人はぎこちない笑いを浮かべたり、顔を伏せたり。

 口では違うと言っても、やはり小都子を残して逃げた罪悪感は大きいのだろう。

 立火が軽さを装って勧めてみる。

 

「いやー、仲間ってええもんやな。どうや、これを機に部に復帰したら」

「い、いや、そこまではちょっと……」

「今から一年生の後塵を拝するのは……」

 

 彼女たちがちらりと見た先では、姫水が優雅に微笑んでいる。

 スーパールーキーの存在も良し悪しである。

 立火もそれ以上は勧めず、晴が三人に業務の説明をするのを見守った。

 桜夜が近づいてきて、しみじみとしたように言う。

 

「叶絵とあやかも来てくれたらええのになあ」

「受験生にそこまでは頼めへんわ。ま、気い向いたら見には来るんとちゃうの」

 

 道を違えた生徒たちも、まだ同じ学び舎にいるのだ。

 少しの縁でも大事にしたいものだった。

 

 

 *   *   *

 

 

 火曜日。

 授業が終わるやいなや、勇魚と花歩は互いにうなずいて教室を飛び出した。

 

「ど、どうしたの? そんなに急いで」

「チラシ配り!」

 

 背後に聞く級友の声に、大声で返事をする。

 目的地は近所の中学校。

 そちらの終業時刻の方が早いので、急いで行かないと中学生たちは帰ってしまう。

 

「あーあ、ライブ前は学校サボらせてくれへんかなあ」

「もー、花ちゃん! そんなん中学生から不良と思われるで!」 

「はーい」

 

 昼に二年生から借りた自転車の鍵を使い、二手に分かれて別の中学校に行く。

 このチラシを受け取った子から、将来の後輩が現れるかもしれない。

 そう考えると重要な仕事だ。

 

 

 花歩たちがチラシを配っている頃、ステージメンバーたちは練習に打ち込んでいる。

 

『心に燃え上がる 赤く猛きフレイム!

 今こそさっけべー 灼熱のぉ! レゾナァァァァンス!!』

 

 視聴覚室に熱いシャウトがこだまする。

 セットリストの三曲目、『灼熱のレゾナンス』。

 前回の地区予選で披露した、昨年の集大成といえる曲だ。

 その時は八人だったが、今回は上級生と姫水の四人だけで行うことになる。

 姫水の熱を込めた叫びに、立火は意外そうながらも感心する。

 

「姫水ってこういうのもできるんやなー」

「熱さを表現するのも演技の基本ですから」

「ちょっと観客煽ってみて?」

「さあさあ皆さん、声出していきましょう! んー? まだまだ元気が足りませんよー!」

(この子ほんまに何でもできるなぁ……)

 

 桜夜としては少し複雑である。以前死ぬほど練習した曲を、あっさりマスターされたのだから。

 とはいえ好きな曲なので文句は言わない。

 昨年の曲を使うのは、今回のライブが最後かもしれないのだ。

 

「よし、灼熱はこれで完成! 後は若葉を徹底的にやるで!」

 

 立火の言葉に、つかさと夕理もメンバーに入る。

 そして桜夜のテンションは少し落ちた。

 若葉の露に映りて ~growing mind~ などというクソ長い曲名からして気に入らない。

 もちろん練習は真面目にやるけれども……。

 

 

 *   *   *

 

 

 水曜日。

 歌とダンスはほぼ完成したが、MCの練習もしておかないといけない。

 特に夕理が心配なので、立火と一緒に教壇の前に立った。

 

「これがうちの新メンバーや!って感じでまず夕理から紹介するから、一言挨拶したってや」

「分かりました」

 

 夕理は少し考えてから、観客代わりの二年生たちに声を張り上げる。

 

「皆さん、最近のスクールアイドル界は堕落しています!」

「いきなり何言うとんねん!」

「ファンの質も落ちています! ブームに流されず、きちんと評価してください!」

「観客にケンカ売ってどないすんのやあああ!!」

 

 立火の突っ込みに小都子は笑っていたが、隣の晴はにこりともしなかった。

 部室の中へ冷たい声が響き渡る。

 

「ふざけるな夕理。真面目にやれ」

 

 いきなりのマジな反応に、立火も夕理も凍りついた。

 すぐに夕理が憤って抗議する。

 

「わ、私が真面目でないと……!?」

「ファンにサービスしろなんてことは、お前には言うだけ無駄やから言わへんけどな。

 せめて無難な挨拶くらいできるやろ。部の足を引っ張るな」

 

 晴の正論には、相変わらず何も言い返せない。

 夕理は仕方なく、棘を抜いたぬるい挨拶を口にするしかない。

 

「……天名夕理です。真剣に取り組みたいと思います。よろしくお願いします」

「う、うん。そんな感じでええやろ」

 

 立火の取り成しに、悔しそうに拳を握る。

 つかさがバイトで不在なのがせめてもの救いだった。

『もっと我が道行ってるやん。それでこそ夕理やな』

 そう言ってくれた彼女に、こんな妥協した姿を見られたくはなかった。

 

 助っ人二年生の一人が、小声で小都子に耳打ちする。

 

「岸部さんって相変わらずやな」

「まあ、晴ちゃんやからねぇ」

 

 そう返しはするが、小都子も晴と同じく感じている。そろそろ誤魔化しが効かなくなってくることを。

 夕理の人に迎合しない性格と、皆に愛されることが必要なスクールアイドル。

 その噛みあわなさに、間もなく審判が下されるのかもしれないと。

 

 

 *   *   *

 

 

 木曜日。

 場を体育館に移して、リハーサルもつつがなく終わった。

 練習は完璧。段取りもばっちり。

 なのに小都子としては、どんどん不安になってくる。

 

「姫水ちゃん」

 

 部室に戻って制服に着替える最中、小声で姫水に声をかけた。

 特に夕理には聞こえないよう、できるだけ音量を落として。

 

「新曲、正直なところ姫水ちゃんはどう思てるん?」

「私ですか? 良い曲だと思いますが」

「いや、観客がそう思てくれるんやろかって……」

 

 小都子や姫水がいくら個人的に好きでも、ラブライブでは意味はないのだ。

 投票された数。それによって全ての勝敗が決まってしまう。

 

「姫水ちゃんはそういう事のプロやろ。みんなに支持されて、テレビにまで出た子や」

「そうですね。でも今は休業しています」

 

 その声の抑揚のなさに、小都子は思わず息を止める。

 別に怒っているわけではなく、姫水は淡々と言葉を続けた。

 

「休業中までマーケティングとか売れ線とか、そういうことは考えたくありません。

 そんな打算は無視して、純粋にやりたいことができるのがスクールアイドルではないんですか?」

「……そう……そうやね……」

「すみません、生意気なことを言って」

 

 困り笑いを浮かべている姫水に、小都子は心から後悔した。

 この子に何を保証させようというのだろう。

 姫水だって夕理と同じ一年生なのに。

 小都子は袖に腕を通すと、ぱしんと自分の両頬を張る。

 

「あかんな、私が夕理ちゃんを信じなあかんのに!

 ごめん姫水ちゃん。明日、お互いに頑張ろうね」

「はい、全力を尽くします」

 

 そんな二人の会話を、つかさがこっそり聞き耳を立てていたが……

 休業がどうこう、ということしか聞き取れなかった。

 

 

 暖かくして早目に寝るように、との部長からの指示を受けて、部員たちは解散する。

 つかさと一緒の電車の中で、夕理は明日のことを考えていた。

 

(余計なことはせえへんで、とにかく練習通りに……)

「夕理はさ」

 

 つかさから声をかけられ、顔を上げる。

 ライブの話題かと思いきや、全然関係ない話が鼓膜を打ってきた。

 

「藤上さんのこと、どう思う?」

「え……どうと言われても」

 

 何とも言えず、夕理はしばし口ごもる。

 

「特に悪い印象はないけど、話す用事もないというか……友達の友達って感じ」

「ふ、ふーん」

 

 そもそも夕理は人付き合いが苦手で、今は小都子&花歩と頑張って仲良くなろうという段階だ。

 それ以上に手を広げる余裕はなく、姫水は今のところ『同じ部の人』でしかない。

 誤魔化すように、つかさは軽く笑う。

 

「あ、いや、あたしも別に興味ないねんけどな? 結局なんで休業してるんやろなーって思って」

「……さあ」

「どっか身体悪くしたのかと思ったけど、全然元気やねんし」

「せやな」

「あれやろか。東京で何かやらかして、ほとぼり冷ますためにこっちに来てるとか?」

「あのさ、直接聞いたらええやろ。毎日顔合わせてんねんから」

「い、いやいやいや。あたしなんかに教えてくれるわけないやん」

 

 別に仲良くもないし、と自嘲気味に呟くつかさに、夕理は顔を伏せる。

 ライブ前日に、こんな話なんかしたくなかった。

 それでも、どこかで覚悟していたことでもあり、夕理はそのままの姿勢で口を開いた。

 

「藤上さんと仲良くなりたいの?」

「は!?」

「それやったら協力するよ……いや、お前に何ができんねんと言われたらそれまでやけど……」

 

(私は、つかさの大勢いる友達の末席でしかないから)

 

 だからつかさに好きな人ができたら、夕理は応援しないといけない。

 不平など言えるはずがない。

 それは友達としての義務で、逃れようのない責務だ。

 

 つかさは少し黙っていたが、誤魔化すように勢いよく手を振った。

 

「や、やだなー。夕理なんか勘違いしてへん?」

「そう?」

「全然そんなんとちゃうって! どっちかというと藤上さんのこと少し苦手やし!

 まあ部の空気悪くしたくはないから、上手く付き合ってくけどさあ」

「そう……」

 

 その後は黙ったまま、二人は大阪港の上を運ばれていく。

 

 弁天町駅で降りたとき、つかさが謝ってきた。

 

「なんかごめんね。ライブ前に変な話して」

「別にそんな……」

「明日、あたしなりに頑張るからさ。ライブ、成功するとええな」

「う、うんっ!」

 

 元気を取り戻し、夕理は手を振ってつかさと別れる。

 余計なことを考えるより、とにかくライブだ。

 ずっと待ちわびた瞬間なのだから!

 

 

 *   *   *

 

 

 ついにライブ当日。

 二日間行ううち、今日は在校生がターゲットだ。

 といっても金曜の平日なので、放課後が来るまでじりじりと待つしかない。

 

「あああ、胃が痛いぃぃぃぃ」

 

 昼休み。昼食が喉を通らない花歩に、級友たちが呆れた目を向ける。

 

「丘本さんは出えへんのやろ? 緊張しても仕方なくない?」

「そうやねんけどお……」

「今からそれで、実際にレギュラーになった時どないすんの」

「ううう、考えたくない」

「花ちゃん花ちゃん! 初めてのライブなんや、楽しんでこ!」

 

 勇魚は平気な顔でお弁当をパクパク食べている。

 夕理は集中したいとかで、今日は同席してくれなかった。

 あちらも緊張していないといいのだけれど。

 

 

 午後三時半。その日の授業が終わった。

 

『本日四時から、体育館でスクールアイドルWestaのライブを行います。ご用とお急ぎでない方は……』

 

 校内放送を聞きながら、花歩と勇魚は校門へ急ぐ。

 帰ろうとする生徒たちに、最後の宣伝をするためだ。

 

「これからWestaのライブやります! よかったら聞いていってくださーい!」

 

 西門に着いた勇魚が大声を張り上げるが、ここまで来て翻意する生徒はあまりいない。

 女子二人組が、歩きながらひそひそ話している。

 

「あー、今日やったっけ」

「けどまあ去年に比べたらショボいやろ。藤上さんも結局は素人やし」

「せやな。もっと人気出たら行けばええか」

 

 そう言って帰ってしまう生徒たちを、勇魚は寂しい思いで見送る。

 

(スクールアイドルってみんな音ノ木坂や浦の星みたいに、学校一丸になってくれるんやと思てた……)

 

 とはいえそれは、生徒の少ない学校だからこそできた事なのだろう。

 総勢720人の住之江女子高校では、全員の気持ちが一つになるのは元より不可能。

 半分来てくれるだけでも360人だ。十分な人数なのだ。

 気を取り直した勇魚は、再度元気に声を出す。

 

「ライブやりまーす! 姫ちゃ……藤上姫水ちゃんのデビューやでー!」

 

 

 他のメンバーは舞台裏に集まっていた。

 幕の隙間から体育館内を見ている晴に、立火が近づいて声をかける。

 

「客入りはどんなもんや」

「なかなかですね。今日は多目に、明日は少な目になると思います」

「そうなん?」

「姫水は校内では有名人ですが、校外ではそうでもないからです」

「なるほどなー」

 

 立火は納得してうなずくと、薄暗い中で後ろを振り返る。

 ステージメンバー六人は、既に先日作った衣装に着替えていた。

 ライブまであと十五分。

 桜夜が胃のあたりを押さえている。

 

「この時間帯ってどうにも中途半端やなー」

「小咄でもする? そういやこのステージ、アレが出るらしいで」

「なんでホラーやねん! で、アレって?」

「うん、アレやアレ。あかん思いつかへん」

「オチ考えてから喋って!」

 

 五分前になり、晴が放送を入れる。

 

『間もなくライブを開始します。外にいる皆様は体育館内へお急ぎください』

 

 舞台裏からは見えないが、予定では花歩と勇魚も戻ってきて、最後の誘導を終えて体育館の扉を閉める手はずだ。

 立火、桜夜、小都子、姫水、つかさ、夕理。

 六人が円陣を組み、部長が小声で最後の指示を出す。

 

「いよいよ新生Westaの初ライブや。ノリはよく、かつ落ち着いていくで!」

『はい!』

「燃やすで、魂の炎!」

『Go! Westa!』

 

 音楽が鳴り始めた。

 まずは先陣を切って、上級生三人がステージに飛び出す。

 

 眼下に広がる生徒たちの海は、四百人くらいはいるだろうか。

 改めて、Westaをここまで育ててくれた先輩たちに感謝しつつ――

 その年のファーストライブは、立火たちの歌声で幕を開けた。

 

『Welcome to Western Westa!』

 

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