ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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第14話 ネクストソング
パート1 後始末 ☆☆☆


 

「はいこれ、昨日のライブの感想」

「え!?」

 

 ライブ明けの日曜日、花歩の部屋。

 今日は何をしようか考えていると、芽生がレポート用紙四枚を差し出してきた。

 そういえば昨晩、机に向かって熱心に何かしていた。

 

「うわ、ありがとー! 昨日これ書いてくれてたんや」

「記憶の新しいうちにと思って」

 

 芽生らしく細かいところまで、詳細な感想が書かれている。

 特に気になったので、夕理の新曲への評価を読んでみた。

 

『うちの部長は誉めていましたが、私はそうは思いません。

 自分の理想ばかり追求して、地に足がついていない印象を受けました。

 もっと聞く人のことを考えてください』

 

「……もうちょっとこう、手心というか……」

「手心を欲しがるような子とちゃうんやろ?」

「まあ、そうなんやけど……」

 

 ぱらぱらと紙をめくって、最後の一文が目に留まった。

 

『丘本花歩をステージに上げるべきです。

 花歩の愛らしさは天下に響き渡るほどですので

 実力はともかく、観客を和ませること間違いなしです』

 

「うおおい! 何書いてんねん!」

「まあ、その部分は冗談やけど」

「け、消して提出するからね!」

 

 焦る姉に、妹は紅茶を飲みながら楽しそうに笑う。

 一生懸命消しゴムをかけていると、質問が飛んできた。

 

「花歩は今日は何するん?」

「うーん。中間テストが不安やから、少し勉強しようかなあ」

「そう、分からへんとこがあったら教えるからね」

「で、できた妹すぎる……」

 

 双子にしてくれた神様に感謝しつつ、他のメンバーの休日を思う。

 夕理はまた頑張って曲を作っているのだろう。

 部長は受験勉強だろうか。

 勇魚と姫水は、暇なら勉強会に誘ってみようかな……。

 

 

 *   *   *

 

 

 いつもの現実感を欠いた朝を迎え、母が用意してくれた朝食を口に運ぶ。

 ライブの動画を見たらしき母が、目の前で感激している。

 

「やっぱり姫水はステージに映えるわね! 輝きが違うっていうかね!」

「そう、ありがとう」

「あ、で、でも無理に役者へ戻れとは言ってないからね? 姫水の好きにしていいのよ?」

「うん、言われなくてもそのつもり」

 

 あれ以来、母はやたらと神経を使って、腫れ物のように娘に接してくる。

 そのくせ心の底では、ステージママの夢を諦めきれないのがダダ漏れだった。

 なのでスクールアイドルについては大歓迎らしい。

 

 自室に戻り、自分でも動画を確認する。

 正確には動画へのコメントを見て、参考にしようとしたのだが……

 そのうちの一つに、少し現実に引き戻された。

 

『大阪でも頑張っている姿を見られて嬉しいです。心から応援しています。弥生』

(弥生さん!?)

 

 この弥生とは、あの広小路弥生なのだろうか。

 アクセス元は分からないが、でも内容的に、姫水に向けたとしか思えない。

 

 東京でただ一人、姫水の演技が通じなかった子。

 今回も同じで、だから姫水のパフォーマンスには何も言及していないのかもしれない。

 でも、その上で応援すると言ってくれて、少し心が温かくなった。

 スクールアイドルをしていれば、こういう接点もあるのだと。

 

「姫ちゃん姫ちゃん!」

 

 インターホン越しに勇魚の声が響く。

 玄関を開けると、勇魚が動画の映るスマホを掲げてきた。

 

「この弥生って、前に姫ちゃんが言うてた!」

「うん、たぶん弥生さんだと思う」

「そっか! 良かったね姫ちゃん!」

「うん……」

 

 演技でなく微笑む姫水に、勇魚も嬉しそうだった。

 現実感を持つまでには至らなくても、少しでも心動かされる相手が、勇魚以外にもいるのだ。

 家に上がり、姫水の部屋に向かいながら希望を口にする。

 

「うちも会ってみたいな、やっちゃんに!」

「そうね、私も会って欲しいけど……そういう呼び方になるんだ……」

 

 箱入りお嬢様のあの子が聞いたら、目を丸くして驚きそうだ。

 その光景を想像して、姫水はつい笑ってしまう。

 

 彼女の方も、いつか勇魚に会いたいと言ってくれていた。

 あの時は全く余裕がなかったけれど、今なら素直に受け取れるから――

 まずは姫水自身が、現実の彼女と会えるように頑張らないと。

 

 

 *   *   *

 

 

「一緒に遊んでくれるのは嬉しいねんけどー」

 

 若者の街をブラブラしながら、友達はつかさの顔を覗き込んでくる。

 

「ライブの後で疲れてるんとちゃうの?」

「平気平気。疲れるほど真面目にやってへんから」

「ならええんやけど」

 

 ここは難波の北西にあるアメリカ村。

 一時は廃れかけていたが、最近はインスタ映えで盛り返している。

 (あきら)奈々(なな)という二人の友達と、古着屋などを眺めつつ、話はライブの感想になった。

 

「つかさも良かったけど、やっぱり藤上さんやなあ」

 

 姫水と同じ六組の奈々が、両手を組んでうっとりとしている。

 

【挿絵表示】

 

「あの衣装も藤上さんデザインなんやろ? もうマジで天才! まさに神!」

「奈々は完全に信者やな。まあ、つかさがあんな可愛い恰好したのは超ウケたで。藤上さんに感謝や」

「ほっとけ!」

 

 晶に笑って突っ込みながらも、その実姫水の名前が出るたびに、つかさの内心は屈辱に燃えていた。

 

(マジでムカつくあの女!)

 

 ライブは成功したというのに、昨日は悔しくてよく眠れなかった。

 こちらはアイツのことばかり考えているのに、アイツはこちらを気にも留めていない。

 こんな不公平があっていいのだろうか。

 

(いやまあ、逆恨みなのは自覚してるけど……)

(理由はどうあれ、自分のパフォーマンスを犠牲にしてまで、あたしのこと助けてくれたのは確かやけど……)

(……優しいな、藤上さん……)

(ってちゃう! そういうことではなくて!)

 

 姫水を頭から追い払うため、今日は二人を呼んだのだ。

 タイミングを見て、さっそく用件を切り出した。

 

「ところで聞きたいんやけど、近いうちに合コン……」

「あれ!? このお店閉めちゃうんや」

 

 奈々が声を上げた先では、アクセサリー屋が閉店セール中だった。

 50%オフという張り紙に、彼女は大いに惹かれている。

 

「ちょっと見てこ?」

「ええよ」

「うん……(あんまりアクセ買う気分とちゃうけど……)」

 

 店内に入ると、つかさが見る限り大した品はなさそうである。

 が、商品台の一角にある、二千円のブローチが目に留まった。

 そこに輝く、緑色の宝石が。

 

翡翠(ひすい)……)

「何かええもんあった?」

 

 話しかけてくる晶に、ついびくりとしてしまう。

 

「あ、いや、これ二千円って、本物の翡翠とちゃうよね?」

「どうなんやろ? 一応天然石とは書いてあるけど。翡翠好きなの?」

「は!? ヒスイなんて全然好きとちゃうけど!?」

「え、そう……」

 

 変な反応を返してしまい、ごまかすように視線を左右する。

 目ぼしいものはなかったのか、奈々がガッカリ顔で戻ってきた。

 三人で店を出ようとするが、つかさの後ろ髪が引かれる。

 引かれすぎて、首が折れそうになり……

 二人には先に出ていてもらって、結局、翡翠のブローチを手に取った。

 

 会計を済ませる間、内心で頭を抱えていた。

 

(あああああ!! あたしキモい!!)

(あいつと同じ名前ってだけで!! 欲しくなるとか!! マジどうかしてる!!)

 

 しかし買ってしまったものは仕方がない。

 後生大事に包みを抱え、そそくさと二人のところへ戻る。

 晶が不審の目で見ているっぽいのは、きっと気のせいだろう……。

 

 

 タピオカドリンクを買って、三角公園に座って写真を撮る。

 一口飲んでる間も、先ほどのブローチの重みを感じる。

 我ながら頭がおかしいと思う。

 なので今度こそ待ったなしで、用件を切り出した。

 

「奈々さあ、近いうちに合コンとかない?」

 

 突然言われて奈々はむせかけたが、嬉しそうにつかさへと向く。

 

「えっ、つかさ来てくれるん? そういうの興味ないと思ってた」

「まあ、そろそろ彼氏の一つも作らなあかんかなーって」

「わー、つかさが来てくれるなら百人力や! さっそくセッティングを……」

「どういう心境の変化?」

 

 いきなり晶が、真剣な目で問いかけてくる。

 思わず視線を逸らしてから、つかさは半笑いで返事を投げた。

 

「せ、せやから彼氏の一つでも」

「そういうの面倒っていつも言うてたやん。最近のつかさ、何かおかしいで」

「いや、ちょっ……」

「もー、何やねん晶! つかさが行きたい言うてるんやからええやろ!」

「ほんまに行きたいならええけどさあ……。もしかして、好きな奴できたんとちゃう?」

 

 かあああああ……

 抑える間もなく赤くなる頬が、回答を如実に物語っていた。

 奈々まで釣られて赤くなり、大声を上げる。

 

「ええー!? つかさが!?」

「ち、ちゃうっ……あんなやつ全然っ……」

「うっわ、つかさ超可愛い」

 

 恥ずかしさに両手で顔を覆うつかさに、遠慮のない評価が下される。

 同時に、当然のように浮かぶ疑問が、奈々から晶へ投げられた。

 

「んん? でも好きな人ができたのに、何で合コン?」

「よくあるパターンやったら、手の届かへん相手を好きになって、諦めるためにって感じか」

 

 つかさの目の前が真っ暗になった。

 晶に言葉にされたことで、改めて認識する。

 

(手の届かへん、相手……)

 

 分かってる。

 何でも完璧なあの子に対し、自分は何一つ勝てないし、真剣になれるものもないチャラい人間。

 手が届くことも、振り向いてもらえることもない。

 

 そんな相手を好きになったなんて、絶対認めたくない。

 姉がいつもしているような不毛な恋なんて、自分には無縁のはずだったのに!

 

「ちゃうって言うてるやろ! 何度も言わせないで!」

「ち、ちょっと落ち着いて……」

 

 奈々の制止も聞かず、切羽詰まった顔でつかさは叫んだ。

 

「とにかく奈々、合コン開いて!

 あたしこの歳で処女やから、あんなやつに惑わされるんやと思う!

 もういっそのこと、適当な相手で捨てちゃおうって……」

「つかさのドアホー!!」

「へぶっ!!」

 

【挿絵表示】

 

 思いっきりビンタされ、三角公園の宙をつかさの体が舞う。

 追いすがった奈々が、泣きそうになりながら、つかさの胸ぐらを掴んできた。

 

「何を自暴自棄になってるんや! もっと自分を大切にして!」

「だ、だって……」

「こんなつかさを、合コンになんて絶対行かさへんからね! 男に渡せるわけないやろ!」

「奈々……」

 

 つかさの頭も多少は冷静になった。

 奈々はミーハーで男好きだが、根は優しくて友達思いの子だ。

 そんな彼女が本気で怒っているのだから、自分の方がおかしかったのだ。

 

 そして晶も、タピオカを噛みつつ黙考してから、現実的な提案をしてくる。

 

「とりあえず、お友達から始めたら?」

「え……」

「なんやハードな相手っぽいけどさ。まずは友達を目指したらええやん。それならまあ可能性はあるやろ?」

「そ……そうなんやろか……」

 

 ベンチに座り直し、気を落ち着かせようとドリンクを飲む。

 

(友達……)

 

 それで自分の心は満足できるのだろうか。

 奈々の前で例えが悪いけれど、例えば六組の生徒たちと同じ扱いになるのが、それが本当に望みなのか。

 勇魚のような、特別な一人には決してなれないのに。

 

 だが、晶と奈々が心配そうにつかさを見ている。

 これ以上は我が儘も言えず、つかさは妥協したように笑みを浮かべた。

 

「せ、せやな。お友達目指して、ちょっとアタックしてみるわ」

「私らにできることがあれば協力するからさ」

「私も! 私もやで!」

 

 そう言ってくれる二人の存在は本当に嬉しい。

 藤上姫水が現れて以来、すっかり挙動不審なつかさなのに、変わらず友達でいてくれる。

 だからせめて今だけは、器用な遊び人に戻らないと。

 

「よし、目標もできたしこの話は終わり!

 今日は全部忘れて、思いっきり遊ぶで!」

「おー!」

 

 立ち上がるつかさに合わせて、奈々も立って右腕を上げる。

 その瞳が、片側だけ赤くなったつかさの頬を捉え、慌てて軽く手で触れた。

 

「た、叩いちゃってごめんね。痛かった?」

「平気や。奈々の愛のムチで、すっかり目が覚めたで」

 

【挿絵表示】

 

 お礼とばかり、つかさの手も奈々の頬を撫でる。

 

「こんなあたしやけど、これからも仲良くしてくれる?」

「う、うん……」

 

 その頬は両側が赤くなり……

 微笑ましく見ていた晶が、横からつかさに茶々を入れた。

 

「何? 女落とす練習?」

「ちゃうわ!」

 

 

 *   *   *

 

 

 夜まで遊んで、帰宅するなりベッドに倒れ込む。

 今日一日楽しかったけれど、連続ライブの翌日にこれは、さすがに体力がゼロになった。

 寝たままの姿勢で、手元に残ったブローチを取り出す。

 

(これ、どないしよ……)

 

 友達になりたいだけなら、こんなものを持っているのは気持ち悪いと思う。

 でも使ってもいないアクセサリーをゴミに出すのは、おしゃれ好きとして許容できない。

 姉にあげようかとも思ったけれど、いてほしい日に限って実家にいない。

 

(しばらく、持ってるしかないか……)

 

 翡翠、ひすい、姫水……。

 その名前が混じりながら、つかさは眠りに落ちていく。

 テストが終わったら、あの子を遊びに誘ってみよう。

 とりあえず、お友達から始めるために。

 

 彼女と出会ってから一か月。彼女が東京に去るまで十か月。

 残る時間で、自分の望むものに手は届くのだろうか――。

 

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