ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 疎遠な二人 ☆

「大した分析力やな」

 

 コピーして配られた芽生のレポートに、晴は本気で感心していた。

 

「こいつがうちに入ってくれてたら、私の後継者を任せられたんやけど」

「出来の悪い姉の方ですみませんでした!」

「なーに、姉もいずれは同じくらい優秀になると期待してるで」

「ううう、無茶ぶり過ぎる……」

「何にせよありがたいことやで。妹ちゃんにお礼言うといてな」

「は、はいっ!」

 

 立火に返事をしながらも、花歩はちらりと夕理を見る。

 厳しいことを書かれていたが……

 次の曲に自信があるのか、落ち込みはしていないようだった。

 

 さらにアンケートの結果や動画へのコメントを元に、ああだこうだと反省会をしていく。

 

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問4 今回のライブで悪かったところを教えてください

 

・転んだ子

・最後の曲がつまらない Westaらしくない

・責めるわけではないですけど、誰かのせいで藤上さんのセンター曲がぶち壊しでしたね いえ責めてはいないです(一年六組の生徒)

・四曲目の桜夜先輩 やる気あるんですか? 藤上さんに謝ってください(一年六組の生徒)

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「六組の連中こえーよ!」

 

 つかさが軽く悲鳴を上げ、姫水は困り笑いを浮かべている。

 ここまで書かれるとさすがに夕理も暗い顔で、ついでに桜夜も落ち込んだ。

 厳しい意見を受け止めながら、立火が腕組みして晴と話す。

 

「まあ私も含め、一日目は言われてもしゃーない。校内の評価を挽回できる機会があればな……」

「ラブライブが終わるまでは難しいですね。次は九月の文化祭でしょうか」

「うーん、相当先やな。ラブライブを見てくれるのを期待するしかないか」

 

 中には好き勝手なことを書いてくるファンもいる。

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問5 その他気になる点があれば教えてください

 

・小都子ちゃんの髪型はダサいと思います

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「ううう。やっぱり髪、降ろした方がええんでしょうか」

「小都子に似合ってるから大丈夫やって!」

「あの、裏方については何かないですかね」

「ん? 確か二日目のアンケートに……」

 

 花歩に聞かれ、立火が記憶を頼りに探し出した。

 

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問3 今回のライブで良かったところを教えてください

 

・案内の子が元気で好感が持てました。

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 花歩は遠い目をする。

 

「まあ普通に考えて勇魚ちゃんのことですよね……」

「そ、そう決め付けへんでも。二人ともってことにしとこ?」

「後で、勇魚ちゃんにも教えておきますね」

 

 姫水が嬉しそうに胸に手を当てる。

 勇魚は入部して以来こちらに入り浸りだったので、今日はボランティア部に行っている。

 手話の練習をするのだそうだ。

 

 一通りの反省は終わり、立火が総括する。

 

「もらった意見も大事にしつつ、私たちの進みたい方へ前進あるのみや!

 てことで、次は予備予選の曲やけど……」

 

 部員たちの目が向いた夕理は、少し息を吸う。

 また不評に終わることが、怖くないと言ったら嘘になる。

 自分に才能なんてないのかもしれない。

 でも挑戦のチャンスをもらえるなら、決して逃げたくはなかった。

 

(音楽のジャンルは広大無比)

(私の好きとみんなの好きが、可能な限り一致する曲が、きっとあるはずなんや)

 

 その一致点を、昨日一日考えた結果を……

 息を軽く吐いてから、夕理は顔を上げて皆に告げた。

 

「次は、ラブソングにしようと思います」

 

 

 最初に反応したのは桜夜だった。

 にこにこ顔で立ち上がり、馴れ馴れしく夕理の肩を抱く。

 

「夕理~、ようやく私にデレてくれたんやな」

「は? 言ってる意味が分かりませんが」

「またまた、ラブソングやろ? 乙女の切ない思い! 胸のときめき! 私のためにあるようなもんやろ!」

「でも木ノ川先輩が一番好きなのは自分自身ですよね」

「何言うてんの!? 当たり前やないか、こんなに可愛いんやから!」

「もう黙っててくださいこのナルシスト!」

 

 賑やかな二人の一方で、立火は内心で汗を流していた。

(ラブソング、めっちゃ苦手……)

 しかし夕理に任せると言った以上、頑張って恋だの愛だの歌うしかない。

 それに、大きなプラスも一つある。

 

 そして姫水も、気まずそうに眼を逸らしている。

(私に歌う資格があるのかしら……)

 つい先日、親友に芽生えた恋心を妨害してしまったというのに。

 

 その二人以外には好評で、晴もうんうんとうなずいている。

 

「ようやく夕理も世に迎合するようになったか。結構結構」

「変なこと言わないでくださいっ! 私が書きたいから書くんです!」

 

 反論しつつ、夕理は鞄からコピー用紙を取り出した。

 

「曲のイメージも何となくできていますが、まずは歌詞だけ持ってきました」

 

 筆が速いのは夕理の長所である。

 きっちり清書された文字の列に、全員が目を通していく。

 つつつ、と夕理が小都子に近づき、期待を込めて話しかけた。

 

「どうでしょうか小都子先輩、結構自信あるんですが!」

「うん、まあ、ええ詞とは思うけど……」

 

『友達に囲まれる あなたの横顔を

 遠くから見つめるdistance

 でもね 時に私を見てくれて

 向けられる笑顔に 溶けていく私の頑なな心

 あなただけが私の太陽』

 

「これ全部、つかさちゃんのことやんな?」

「………」

 

 小都子から紙を受け取った夕理が、改めて自分の歌詞を読んでいく。

 読む間に、茹でダコのように真っ赤になっていった。

 桜夜が手のひらを返し、紙を机の上に放り投げる。

 

「アホらしい……。なんで夕理の個人的なラブをソングせなあかんねん……」

「ち、ちゃうんです! 私は決してそんなつもりでは……!」

 

 弁解する夕理の隣で、立火がおもむろに立ち上がり、つかさの肩にぽんと手を置く。

 

「自分、ホンマ罪な女やなあ」

「うわあ、あたしへの愛を全員に歌わせるとか……。どんなプレイやねん」

「ちゃうねんつかさ! 断じてそういうつもりで書いたわけではなくて!」

 

 はっと部室を見渡すと、全員がそういう前提で歌詞を読み直している。

 夕理は大慌てで、全ての紙を奪い取った。

 

「撤回! 撤回します! すみませんでしたぁぁ!!」

 

 

 *   *   *

 

 

 曲が白紙に戻ったので、その後は他校の研究などをして部活は終わった。

 気落ちして昇降口へ歩いていく夕理に、花歩が話しかける。

 

「ねーねー夕理ちゃん。途中までしか読めへんかったから、もういっぺん見せてよー」

「アホか、見せられるわけないやろ! こんなん永久封印や!」

 

 そんな二人を、早足で追い越していくのはつかさだった。

 

「おつかれー」

「あ、つかさちゃん、お疲れ様」

「つ、つかさ! 今日はごめん、変なもの見せて……」

「んー、まあ少しビビったけど」

 

 苦笑しつつも、つかさは不快ではなさそうだった。

 

「けど部員みんなで読んでツッコミ入れられたってだけで、結構な進歩やない?

 去年までなら考えられへんことやろ」

「それは……そうかも」

「じゃ、あたし今日は寄るとこあるから。また明日ね」

 

 姫水を遊びに誘う場所を物色しに行く……なんて、夕理にとって残酷な事実は告げず、つかさは早歩きで去っていった。

 花歩は手を振り、夕理も無理に作った笑顔で見送る。

 その姿が昇降口に消えた途端、夕理はその場にしゃがんで膝に顔を埋めた。

 

「なんで私、こんなにつかさが好きなんやろ……」

「いや聞きたいのはこっちやで」

 

 花歩の冷静なツッコミに、何も返す言葉がない。

 頑張らなくて良いわけがなかった。

 もっともっと努力して、この重い気持ちを減らさないと……。

 

「花歩ちゃん、お待たせ」

 

 ボランティア部に迎えに行っていた姫水が、勇魚を連れて戻ってくる。

 その勇魚の目には、廊下になぜかしゃがんでいる夕理が映った。

 

「夕ちゃん、今日は一人なん?」

「つかさは用があるって……」

「そうなんや! なら、たまには一緒に帰らへん?」

 

 笑顔で提案する勇魚に、夕理は立ち上がって呆れたように言う。

 

「全然方向ちゃうやん」

「うちは遠回りしてもええよ! 姫ちゃんも花ちゃんもええやろ?」

「そうね、勇魚ちゃんがそう言うなら」

「私もええよー」

「ち、ちょっと待って!」

 

 勝手に話を進められても困る……のだけれど。

 さっそく努力の機会が来たのかもしれない。

 苦手な相手とも、もっと交流すべきだ。

 そうしてつかさに向き過ぎている気持ちを、少しでも散らすのだ。

 

「……一人と三人なんやから、私がそっちに行くのが筋やろ」

 

 気が進まない自分を叱咤激励し、夕理はそう了承した。

 

 

 *   *   *

 

 

「あれあれ! あのバスやで!」

「大声出さへんでも分かったから……」

 

 大はしゃぎの勇魚が、近づくバスを指してぴょんぴょん跳ねている。

 夕理は早くも疲れ始めながら、停まったバスに乗り込んだ。

 が、空いている席が後方の二つしかない。

 

「なんや、今日は混んでるなー」

 

 そう言った花歩が勇魚と目くばせする。

 二人とも同じ考えのようで、連携してもう二人の体を押した。

 

「ささ、夕理ちゃんはそちらへ」

「え?」

「姫ちゃんも、どーぞどーぞ!」

「え? え?」

「ほな、ごゆっくり!」

(ええええええええええ!)

 

 姫水とセットで座らされ、夕理は内心で絶叫した。

 花歩たちはさっさと前の方へ行き、立ったまま何かを話し始めている。

 抗議しようとしたが、バスが走り出してしまった。

 

(このバス、三十分くらい乗るんやろ!?)

(藤上さんと二人でどうしろと……!)

 

 今のWestaで最も疎遠なのは、間違いなくこの二人だ。

 だからもっと交流しろと言われれば、全くその通りなのだが……。

 

 ちらりと隣を見る。

 視線に気付き、姫水は優しく微笑んだ。

 でも何となく、夕理にはその笑顔が嘘っぽい気がするのだ。腹の底を見せないというか。

 今までの部活でほとんど話さなかったのは、それが理由でもある。

 

 結局、最初の五分ほどはお互いに無言で過ごし……

 先に口を開いたのは姫水の方だった。

 

「天名さん」

 

 びくりとする夕理に、綺麗な声が流れてくる。

 

「さっきの歌詞、参考にもう一度見せてもらえない?」

「な、何やねん! アンタも私を笑いものにしたいの!?」

「別にそんなつもりはないのだけど……」

 

 つい強く反応してしまった。

 姫水が礼儀正しいものだから、自分の方が悪い気がしてくる。

 何か話すことはないかと探したが、何も思い浮かばない。

 この前のセンター曲で迷惑をかけたことを謝るべきだろうか。

 でも二回も謝ってるし……などと考えている間に、再度姫水の声が響く。

 

「彩谷さんのこと好きなの?」

 

 何でこう、答えにくいことを聞いてくるのか……。

 嫌そうに横目で見てから、不本意ながら話を逸らす。

 

「そ、そっちこそ、佐々木さんのこと好きすぎとちゃうの。その点どうなんや!」

「私は、勇魚ちゃんのことを……」

 

 その名前が出た途端、姫水の視界からは夕理が消えた。

 バスの前の方で、覚えたばかりの手話を花歩に披露している幼なじみ。

 その姿だけを瞳に写し、姫水は静かな声で言う。

 

「率直に言って、天使だと思ってる」

「………」

「うん、まあ、引かれるとは思ったけど」

 

 ドン引きしている夕理の隣で、少し寂しそうに姫水は笑う。

 今回は、あまり嘘っぽくないように夕理には見えた。

 

「誰にも汚してほしくないの。もちろん私自身にも。

 ずっとあのまま、恋なんて二度と知らずに、今の勇魚ちゃんでいてくれたらいいのに……」

 

 勇魚しか見ていない彼女に、少し考え込んでから、夕理は相手の顔を覗き込む。

 

「それって、一生独身でいろってこと?」

「ま……まあ、現実的なことを言うとそうなるのかな」

「相手にそんなことを求めるって、かなり最悪の部類のエゴやと思うけど」

「そうね……本当にその通りね」

 

 自嘲気味に言ってから、ようやく姫水の顔は夕理へと向いた。

 

「あなたはどうなの? 彩谷さんに好きな人ができても、あなたは平気?」

 

(その相手、アンタになりそうなんやけど)

 とはさすがに言えず、夕理は膝の上で拳を握る。

 ここ最近、ずっと考えていたことを、そのまま口にした。

 

「嫉妬は悪や」

「え……」

「およそ何の建設性もない、ただ醜いだけの感情や。

 そうでなくても私はつかさに迷惑をかけてるのに、その上嫉妬心だの独占欲だのを持つなら、もう本当に救いようがない。

 そんなことになるくらいなら、切腹して死んだ方がいい……」

 

(天名さん――)

 

 初めて、姫水の中でほんの少しだけ、夕理が現実感を持ちそうになった。

 潔癖な子とは知っていたけど、ここまで厳しく律しているとは思わなかった。

 それと同時に……

 

「藤上さん?」

 

 姫水は大いにダメージを受けて、膝の上のバッグに突っ伏していた。

 

【挿絵表示】

 

 不思議そうにしている夕理に、バッグの隙間からうめき声が漏れる。

 

「この前ね……。勇魚ちゃんが岸部先輩のことばかり話すから、私ちょっと嫉妬しちゃって……」

「え……あ、そう……」

「やっぱり私、切腹しないと駄目?」

「あ、いや、私がそう思ってるだけで。他人に押し付ける気はないから!」

 

 ゆっくりと顔を上げ、苦笑する姫水は何だか弱々しい。

 でももう完全に、嘘臭さは感じなかった。

 

「天名さんは、自分に厳しいのね」

「他人に厳しくしてるのに、自分に甘くしたら単なる人間のクズやろ」

「まあ、そうかもね」

 

 

 会話が途切れた。

 数分が経過した後、夕理は鞄を開けると、一枚の紙を取り出した。

 

「読む?」

「いいの?」

「まあ、こんなんでも昨日頑張って考えたんやし……。帰って即ゴミ箱行きなのも悲しいかなって……」

 

 走るバスの中で、姫水は歌詞に目を通していく。

 つかさへの想いを赤裸々にされているようで、夕理は非常に恥ずかしい。

 それでも、隣の子は笑ったりせず、真剣に最後まで読んでくれた。

 二度と日の目を見ないこの歌詞を。

 

「ありがとう」

「お粗末様でした……」

「天名さんの強い感情に触れて、壁が少し弱まった気がする」

(えっ? 何この人、中二病?)

 

 わけの分からないことを言った姫水だが、すぐに今度は実務的な話を始める。

 

「曲のイメージはできているけど、この歌詞は使えないのよね?」

「まあ、作り直しやな……」

「私が歌詞を書いてもいい?」

「は!?」

 

 いきなり人の領域に踏み込んできた。

 うっかり下げていた警戒レベルを、再び上げる夕理である。

 

「ち、ちょっと思い上がりすぎやろ! 何でもできるからって……」

「打ち上げの時に挑戦と言っていたけれど、その資格は部員全員にあるんじゃないの? それとも……」

 

 と、姫水の目が少し細くなる。

 

「私の歌詞にあっさり上回られるのが怖い?」

「はああ!?」

 

 こんな煽ってくる子だとは思わなかった。

 混乱の中、イメージとの違いに思わず抗議する。

 

「せ、性格のいい優等生とちゃうかったん!?」

「目的のためなら、多少のキャラ変更はしてみせるわよ」

(何やねん、この人!)

「姫ちゃんも夕ちゃんも、仲良くなったみたいやな!」

「いやちょっと険悪ぽかったけど……」

 

 気付くと、勇魚と花歩が前の座席にいた。

 いつの間にか、前の人は降りていたようだ。

 

「何の話してたん?」

「次の曲の歌詞、私に書かせてくれって頼んでいるところ」

「まだOKは出してへんで!」

「へ、へー」

 

 花歩は動揺しながらも、それ以上は何も言おうとしない。

 それに少しむっとして、夕理の口調は問い詰め気味になった。

 

「花歩も作詞に興味あったんとちゃうの?」

「あ、あははは。私が姫水ちゃんに勝てるわけないやん……」

「あっそ」

 

 声に侮蔑が混じるのを、どうしても止め切れなかった。

 花歩は笑顔を貼りつけたまま、視線が少し下を向く。

 

「……藤上さん。書きたいんやったら書いてみれば」

「そ、そう。じゃあ挑戦してみるわね」

 

 当てつけのような夕理の了承に、姫水は花歩を気遣いながらも受けるしかない。

 気まずい雰囲気に、勇魚だけが明るい声を出した。

 

「ねえねえ、うち手話教わったんや! 二人とも見てみて!」

 

 

 *   *   *

 

 

 駅から停留所を二つ過ぎ、姫水たちが降りるところまでご一緒してしまった。

 

「駅まで歩いて10分くらいよ」

「分かった」

「ねー夕ちゃんー。ほんまにご飯食べていかへんのー?」

 

 勇魚に袖を引っ張られる。

 善意なのは分かるが、よその暖かい家庭に一人で放り込まれるなんて、考えただけで背筋が凍る。

 

「どうせ昼は一緒なんやからええやろ」

「勇魚ちゃん、あんまり無理言わないの」

「うう……そのうち遊びに来てね?」

 

 姫水に促され、勇魚の手が渋々と離れる。

 その姫水の目が、真っすぐに夕理を捉えた。

 

「じゃあね、天名さん。今日は楽しかった」

「私は正直、藤上さんのことよく分からへんようになったけど……」

「そう? そんなに複雑ではないつもりだけど」

 

 優雅に微笑む姫水は、また何だか胡散臭くなってきた。

 そして別れようとする途端――

 

「あ、あのっ!」

 

 追い詰められないと行動できない花歩が、ようやく行動する。

 

「やっぱり、私も歌詞書きたい! 書いていい!?」

「……花歩はほんま決断が遅いねん」

 

 そう言いながらも、夕理はどこか嬉しそうだった。

 

「なら二人には、大まかなメロディラインを送っとく。評価は厳しくいくからね」

「も、もちろんや! 姫水ちゃん、どっちが勝っても恨みっこなしやで!」

「ふふ。うん、手加減は一切しないから」

 

 姫水が花歩に向ける目もやはり優しい。

 釣られて嬉しそうにした勇魚が、深く考えずに手を上げる。

 

「ならうちも歌詞を!」

「調子に乗らない! 佐々木さんは衣装のデザイン教わるんやろ? そっちを頑張って!」

「あうう。夕ちゃん、先生みたいや……」

 

 笑い声が長居に響く。

 今度こそ別れて、夕理は駅へ歩き出す。

 振り返ると、姫水のロングヘアが目立った。

 

 話はできたけれど、やはり彼女とは噛み合わない気がする。

 嫌いではないが好きでもない、友達の友達という関係が続きそうな気がする。

 だって、よく分からないのだから。

 つかさは彼女の、どのあたりに惹かれているのだろう。

 

(顔が綺麗とか、下らない理由でないといいけど……)

 

 つかさが望むなら、いくらでも応援するし協力するけれど。

 せめて、納得いく理由であってほしかった。

 

 

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