ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート3 皐月末の遊園地・序章 ☆

「皆さん! テストが終わったらUSJに行きませんか!」

 

 中間テスト前は三日間が部活禁止期間である。

 明日からその期間に入り、しばらく会えなくなる最後の日。

 ミーティングで花歩がそんなことを言ってきた。

 

 喜ばれるかと思いきや、桜夜が口をとがらせ愚痴り始める。

 

「花歩はええよねー、年パス持ってんねんから」

「で、でもあんまり行けてないんですよ。このままやと元取れへんし、みんなで行きましょう!」

「年三回行けば元取れるやろ? 割と簡単やない?」

「値上げのせいで、今は四回行かな取れませんよ」

「許すまじUSJ!!」

 

 今日も桜夜は運営会社に憤っている。

 立火が口を開くと、どうでもいい話を始めた。

 

「さっきからユーエスジェイユーエスジェイって、言い辛いやろ? 普通ユニバって言わへん?」

「えっ、私はUSJって言いますけど」

「どっちでもええやろそんなの!」

「いやいや、ユニバ言うた方が大阪っぽいやろ」

 

 桜夜と立火が言い合っているところへ、つかさが軽く手を上げる。

 

「あたしはユニバって言いますねー」

「ほーら、ナウいギャルはそうなんやで。ところでマクドはマクドって言うよね?」

「いえマックって言います」

「何でやねん!!」

 

 大声で突っ込む部長に、つかさは呆れたように根拠を述べた。

 

「マックが自分でマック言うてるやないですか。朝マックとか」

「いやっ、でもほら、何かのパソコンと紛らわしいやろ?」

「?」

 

 かつてよく言われた理由は、部の誰にも通じないようだ。

 唯一理解した晴が、冷ややかに時代の流れを告げる。

 

「マッキントッシュなんて若い子は知りませんよ。このiPhone全盛の時代に」

「くそう、大阪の伝統文化が廃れていく……」

「マクド呼びなんかを伝統文化にしないでくださいよ」

「………」

 

 花歩が困ったように視線をさ迷わせている。

 気付いた立火は、慌てて後輩に謝った。

 

「ごめん! 私はすぐ脱線してあかんな。えーと、みんなでユニバ?」

「はいっ、よかったら行きませんか?」

「行きたいのは山々なんやけど、金がなー」

「ふっふっふっ、実はそれなんですが」

 

 ドヤ顔で腰に手を当てた花歩は、びしりと宙に指を突きつけた。

 

「年パス持ちが誕生月の場合、5人まで1200円引きで入れるんです!

 私は5月生まれなので、今なら大変お得ですよ!」

 

【挿絵表示】

 

「え、今月誕生日やったん? 何日?」

「あ、29日です」

「そっか、何かお祝いせなあかんな」

「そ、そんな、お構いなく……」

 

 花歩の声が徐々に小さくなる。

 焦った顔で、全員に向けて必死の弁解を始めた。

 

「いや……あの、ちゃいますよ? 決して自分の誕生日アピールのためにこの話題を持ち出したのではなく……」

「なかなかの策士もいたもんやな。一度教えを乞いたいくらいや」

「ちゃうんですうううううう!!」

 

 晴に皮肉られて花歩がのたうち回る。

 それと同時に、勇魚が両手を合わせて元気よく言った。

 

「せや! 部のみんなで花ちゃんのお誕生会をしましょう!」

「おいやめろ」

 

 皮肉っぽく笑っていた晴が、一瞬で真顔になった。

 勇魚がきょとんとして尋ねてくる。

 

「え、あきませんか?」

「一人で始めたら、全員分やらなあかんことになるやろ。茶番に八回も付き合わせる気か?」

「えー、でも花ちゃんが生まれた日ですよ?」

「生まれた日は16年前や。それ以外は地球が整数回公転した日でしかない」

「去年はどうだったんですか?」

 

 隣の姫水に尋ねられ、小都子は困り笑いで記憶を呼んだ。

 

「お誕生会なんて言おうものなら、ぶん殴られかねない雰囲気やったねえ」

「そ、そうなんですか……」

「まあ、元々あんまり馴れ合う部でもないんや」

 

 立火としては、嫌がる部員がいる以上は、部の行事として行うわけにはいかない。

 晴だけならともかく、夕理も露骨に嫌そうな顔をしている。

 

「てことで花歩は個人的なお祝いで勘弁してや。ごめんな」

「めめ滅相もない、催促したみたいですみません!」

「あ、でもどーしてもと言うんやったら、私の誕生会は開いてくれてええよ!」

 

 空気を読まず、桜夜が両方の人差し指で自分を差す。

 

「11月11日やからね! 覚えやすいやろ? 1111!」

「お前なあ……そう言うなら、まず自分が主催して一年生を祝うべきやろ」

「えー、やだ、めんどくさい」

「最っっっ低ですね……」

 

 夕理の軽蔑しきった視線に、慌てて取り繕う桜夜である。

 

「じ、冗談に決まってるやろ! 全て一連の高度なギャグ!」

「全くそうは思えませんでしたが」

「おっと、喋ってる間に結構な時間やないか。練習始めるで!」

 

 時計を見た立火の指示で、部員たちはジャージに着替える。

 曲ができるまでは、基礎練習をして過ごすしかない。

 柔軟体操の後、花歩と勇魚は立火に呼ばれた。

 

「二人は私と特訓や。若葉の露に映りて。あれはそんなに激しくないから、二人にもマスターしてもらうで!」

『はいっ! よろしくお願いします!』

 

 聞こえた夕理の胸が少し温かくなる。

 練習用とはいえ、あの曲をまだ歌ってもらえるのだ。

 

 

 *   *   *

 

 

 練習終了後……

 

「しつこくてすみません! USJ行きましょう!」

「あ、その話途中やったな」

(よし花歩、よく覚えてた!)

 

 つかさが内心でガッツポーズを取る。

 練習中、この話はどうなったのかとやきもきしていた。

 テストが明けたら姫水を遊びに誘うつもりだったが、断られたら傷つくし、花歩がリスクを負うならそれに越したことはない。

 その花歩はお目当ての相手と頑張って交渉している。

 

「どうでしょうか部長!」

「えーと、1200円引きやったっけ? それでいくらになるの?」

「はい、6700円です!」

「ごめん無理! 金ない!」

「そ、そうですか……」

「ごめんなー」

 

 一番誘いたい人に断られてしまった。

 まあ花歩も高いとは思う。桜夜ではないが、値上げを恨みたい気分である。

 立火の隣で、その桜夜が血の涙を流していた。

 

「金ッ……金さえあればッッ……。

 後輩と楽しくUSJッッ……くそおおッッ……!!」

「ないもんはしゃあないやろ。きっぱり諦めろ」

「女子高生が手っ取り早くお金を稼ぐ方法はないの!?」

「お前は受験勉強をせえや!」

 

 騒ぎをよそに、花歩の目が小都子へと向く。

 一人だけ上級生が行くのも……と空気を呼んだ小都子が、やんわりと断った。

 

「私、この前友達と行ったばかりやねん」

「あ、そうなんですか……」

「今回は一年生だけで気兼ねなく行ってきたら?」

「うーん、そうですね」

 

 当然のように晴は対象に入っていないし、晴もスマホをいじって、話しかけるなオーラを発している。

 言われた通り、花歩は一年生たちに声をかけた。

 

「つかさちゃんは年パス持ってるよね?」

「もち。こんな近くに住んでて、持たない手はないやろ」

「くけーーー!!」

 

 奇声を上げる桜夜に一瞬驚くが、スルーして話を続ける。

 

「てことであたしはOKやで(せやから早く藤上さんを誘え)」

「やった! 姫水ちゃんと勇魚ちゃんはどう?」

「そうね。一度行ってみたいと思っていたし」

「うちはひらパー派やけど、みんなが行くなら行くで!」

(よっしゃー!……って勇魚も来るのか……そりゃ来るよね……)

 

 別に嫌なわけではないが、また幼なじみ同士でイチャイチャしないといいけど……。

 とか考えつつ、つかさは一番の問題児へ話を振った。

 

「夕理、どうする?」

「うーん……」

 

 夕理は悩む。高校に入ってから一度もつかさと遊んでいないし、できれば行きたい。

 他の一年生とも、仲良くしなければいけないのは分かっている。

 いるけれど……。

 

「せやけどああいう、映画のテーマパークというコンセプトを放棄し、よく分からないアニメだのゲームだのと無節操にコラボし、まさに大阪的な何でもアリ状態と化した、もはやテーマパークとは呼べないただの遊園地なんか行って楽しめるんやろか……行ったことないけど」

「行ったことない割に詳しいね……でもまあ、その無節操さのおかげで復活したんやで」

 

 花歩の言うように、一時は経営難に陥っていたUSJだが、映画にこだわらず何もアリに転換したことでV字回復した。

 今年はファイナルファンタジーやセーラームーンとコラボしている。

 

「うーん……」

「一度くらいは後学のために行くのも悪くないで。一度行けば十分やけど」

 

 そう説いたのは、意外にも晴だった。

 桜夜がおののきながら、恐る恐る尋ねる。

 

「え、もしかして晴……」

「一人で行きましたが何か?」

「ゆ、勇者や! ここに勇者がおるで!」

「シングルライダー搭乗で快適でしたよ」

 

 しれっと言う晴に、夕理の心は決まった。

 一人USJを平気で敢行する人の前で、五人で行くことに尻込みなどできない。

 

「なら私も参加で」

「やったー! じゃあ再来週の日曜に、時間とかはまた後で!」

「楽しんでくるんやで~」

 

 歓喜する花歩に、立火が笑顔で軽く手を振る。

 一年生たちが仲良くなっていくのは、部長としても嬉しいことだった。

 自分もその場にいたかったが、懐の寂しさは根性でも解決できないのである……。

 

 

 *   *   *

 

 

 最後に業務連絡として、小都子から体育祭実行委員になったとの報告があった。

 

「なので、時々部活を休むかもしれませんが……」

「それはええけど、そういう委員とかもうやりたない言うてへんかった?」

「まあ一年間何の役職にも就かないのも、なかなか難しそうなので」

 

 立火に答える小都子の笑みは、既に諦めの境地だった。

 文化祭実行委員や修学旅行委員に比べたら、まだ体育祭の方が楽なので、自分から志願したのだ。

 桜夜が感心半分呆れ半分で言う。

 

「小都子ってほんまそういうの頼まれやすいなー」

「実は次の生徒会長もやってくれって、方々から言われてるんですけどね」

「ええ!? 小都子を生徒会に連れてかれたら困るで!」

「なので、私も無理ですとは言うてるんですが……」

 

 困っている小都子を捨て置けず、声を上げたのは夕理と勇魚だった。

 

「小都子先輩が断り辛いなら、私がきっぱり断ってやります!」

「でも生徒会長だって誰かがやらなあかんことやし! 何ならうちが立候補します!」

「ち、ちょっと二人とも落ち着いて。大丈夫、二年生の中で解決するから」

 

 慌てて取りなしてから、小都子は体育祭の話題に方向を変える。

 

「それより体育祭はクラス対抗やからね。勇魚ちゃんと花歩ちゃんは、三組同士よろしくね」

「そういう仕組みなんですね! うちは走るの得意です!」

「私は普通ですけど……でも頑張りますよ!」

「ふっふっふっ、そう簡単に勝利は譲らへんでえ」

 

 不敵に笑った立火が、がしっとつかさと肩を組んだ。

 

「この中ではどう見ても私らが最強やろ! つかさ、五組のために勝ちにいくで!」

「ええー、勘弁してくださいよ……。体育祭ではしゃぐとか子供じゃあるまいし」

「あーもうこの冷めた現代っ子は! 一位取ったらお菓子あげるから!」

「せやから子供じゃありませんってば!」

「五組が最強? それは聞き捨てならへんなあ」

 

 と、今度は桜夜がゆらりと立ち上がり、姫水の肩に手を置きポーズを取った。

 

「美しさでは明らかに六組が最強やで! ねっ、姫水!」

「体育祭とあまり関係ないと思いますけど……」

「いやいや、応援合戦があんねんで。私たちがチアの格好で応援したら、六組のテンションは爆上がりやろ!」

「そういうのがあるんですね。なら張り切らないといけませんね」

(1-6の連中、バーサーカーみたいになりそう……)

 

 奈々のテンションを知っているつかさは、想像して身震いする。

 そして1-2の夕理と2-2の晴は……

 

「………」

 

 居心地の悪そうな一年生の視線を、二年生が柳のように受け流す。

 

「まあ、クラスへの義理を果たす程度には汗を流すつもりや」

「そ、そうですか……。私は真剣にやりますよ。学業の一環ですから」

「それはお疲れ様。ところで部長、部活対抗リレーはどうします?」

「あ、それがあったか。去年はガチで勝ちにいったけど……」

 

 言いかけたところで下校時刻のチャイムが鳴った。

 今日は長々と喋りすぎてしまった。

 

「テスト明けに改めて考えよか。他に連絡はない?」

 

 部長が全員を見渡し、何もないことを確認する。

 

「よし、今日はここまで。みんな頑張って中間テストを乗り切るで!」

『はいっ!』

 

 明日からしばらく、部活のない日々が始まる。

 スクールアイドルの戦いは一時お休みし、学生の戦いが繰り広げられるのだ。

 花歩はそれに加えて作詞もしなければならない。

 こんなタイミングで、好き好んで余計な苦労を背負ってしまった気もするが……。

 

(でも、乗り切ればみんなでUSJや!)

(それを楽しみに両方頑張るで!)

 

 自分でぶら下げたニンジンを励みに、花歩の心は疾走を始めた。

 

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