ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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第15話 皐月末の遊園地
パート1 side USJ ☆☆


 ユニバーサルシティ駅、朝七時。

 

 待ち合わせ時間より少し早く、つかさと夕理は駅前に到着した。

 家の最寄駅から十数分乗っただけで、そこはテーマパークへの玄関口。

 見た目アメリカ風の商業施設の前を、USJへの道が伸びている。

 

「九時に開園なんやろ? 何でみんなこんな早く来てるの?」

 

 駅から吐き出される人々を見ながら、呆れたように尋ねる夕理に、つかさが笑って答える。

 

「土日はたいてい早目に開くねん。今日も四十分くらい早いんとちゃうかな」

「開園時刻の意味がないやないか。いい加減な……」

「まあまあ、それで上手く回ってるんやから。今日は楽しも?」

「う、うん……」

 

 つかさと外へ遊びに行くのはいつ以来だろう。

 今まで遊ぶ時はつかさに任せっきりだったが、今日は他に三人いる。

 上手くやれるのだろうか……と不安な夕理。

 それを気にしつつも、つかさは姫水のことを考えていた。

 

(夕理には付き合わせて悪かったけど、一本早い電車でマウントを取れた)

(服もオフショルで気合いを入れた)

(後はあたしが遊び慣れてて、頼りがいがあるってとこを見せれば……)

(藤上さんも、あたしと仲良くしたいって思うはずや!)

(そのためにも――)

 

 つかさは内心で握り拳を作り、強く決意する。

 

(今日は絶対、藤上さんに見とれたりしない!)

「二人ともお待たせー!」

 

 朝から元気な勇魚の声が響く。

 時刻通りにやって来た三人に、夕理も挨拶を返そうとしたが……

 

「みんな、話は後や! 早くゲート前へ!」

 

 やけにテンションの高い花歩が、せかせかと足踏みしながら先を促す。

 

【挿絵表示】

 

「朝のUSJは戦場なんや! 一分一秒の差が生死を分けるんやで!」

「そんなに怖い場所だったの?」

「あはは、姫ちゃんも行けばわかるで!」

 

 そう言ってUSJへ向かう三人を――正確には私服姿の姫水を、固まったつかさの瞳だけが追う。

 夕理は小さく溜息をつくと、友達の服を引っ張った。

 

「つかさ、行くって」

「え、あ、うん……」

 

 我に返ったつかさが、恥ずかしさと悔しさの入り混じった状態で後に続く。

 夕理も早足で歩きながら、落ちる気分を払うように宙を見上げる。

 キングコングの看板が、片手でぶら下がりながら二人を見下ろしていた。

 

 

 *   *   *

 

 

 一度ゲート前の列に並んでから、つかさだけを残して他の四人はチケット列に移動する。

 1200円引きで入園券を買うため、勇魚たちの同伴が必要なのだ。

 後はチケットブースが開くのを待つだけとなって、花歩にも周りを見る余裕が生まれる。

 

「夕理ちゃん、それ堺のときと同じ服……」

「だから?」

「いや、別にええんやけど……せや、二人の私服見るの初めてやろ? どう?」

 

 花歩に促され、笑顔の同行者たちに目を向ける。

 勇魚のオーバーオールと姫水のカーディガン。

 夕理の口から率直な感想が漏れた。

 

「なんか小学生と女子大生がいる」

「もー夕ちゃん! 冗談きついで!」

 

 勇魚の手がばしばしと夕理の背中を叩く……直前で、ぴたりと動きを止めた。

 手を引っ込め、ごまかすように笑う。

 

「え、えへへ……」

「?」

 

 疑問符を浮かべる相手の前で、勇魚は今日、花歩に言われたことを思い出していた。

 

==============================================

 

「勇魚ちゃんは、夕理ちゃんのことは好き?」

 

 早起きして乗った電車の中で、急に花歩が尋ねてきた。

 当たり前の事実に、勇魚の顔がぱあっと明るくなる。

 

「うんっ、めっちゃ大好き!

 夕ちゃんっていつも一生懸命で、真剣で頑張り屋さんやもん!

 あんなに素敵な曲をいっぱい作れて魔法使いみたいや! 尊敬してる!」

「わ、分かったから、ちょっと落ち着いて」

 

 こんな純粋な勇魚に、真実を告げて本当に良いのだろうか。

 しかしそれも親友の役目だと、花歩は重々しく口にした。

 

「残念やけど、夕理ちゃんは勇魚ちゃんのことウザがってるっぽいんや……」

「え――」

「花歩ちゃん、それはどういうことかしら」

「待って姫水ちゃん! 怒らんといて!」

 

 氷のような目になる姫水に、慌てて花歩は事情を説明する。

 

「ほ、ほら勇魚ちゃんて馴れ馴れし……もとい、人との距離が近すぎるとこがあるやろ?

 夕理ちゃん、たぶんそういうのが苦手なんやと思う。

 どっちが悪いとかやなくて! 相性が悪いっていうかね!」

「それは……」

 

 さすがに姫水も、幼なじみが馴れ馴れしい点は否定できない。

 そして真実にショックを受けた勇魚は、揺れる電車の中で涙目になっている。

 

「う、うち、ずっと夕ちゃんのこと傷つけてたんやろか……」

「いやいやそんな大げさな。夕理ちゃんて嫌なことは嫌って言うし、何も言わへんてことはそこまでではないんや。せやから、今日一緒に遊んで仲良くなろう!」

「せ、せやな! うち、夕ちゃんに好きになってもらえるように頑張る!」

「まーこの花歩ちゃんにどんと任せなさいって。姫水ちゃんも協力してね!」

「わ、分かったわ。何ができるのかは分からないけど……」

 

==============================================

 

 とにかく、あまり馴れ馴れしくしてはいけないらしい。

 夕理と少しばかり距離を取って、にこにこしながら行列で待つ。

 何や気持ち悪いな、と言いたげな彼女の視線を浴びながら。

 

 

 *   *   *

 

 

「ただいま~」

 

 チケットを買えたのでゲート列に戻り、後ろの人に会釈しつつ列に復帰する。

 夕理は改めて、先ほど入手した1dayパスポートを手に持った。

 

(ぐっ……こんなものに6700円……)

 

 遊ばないので貯金はある方だが、無駄なことにはビタ一文使いたくないのが夕理である。

 今さら貧乏性なことを言っても仕方ないのだが……。

 

 そしてつかさは、何度も脳内でシミュレーションした通り、さり気なく会話を始める。

 

「藤上さんって、やっぱディズニーはよく行ってたん?」

 

 いきなり話しかけられた姫水も、ごく自然に言葉を返した。

 

「レッスンが忙しくて、そんなには行けてないの。ランドが二回とシーが一回だったかな」

(よし、予想通り!)

 

 正直ディズニーリゾートには憧れがあるので、何十回も行ってますなどと言われたら平伏するしかないが、これなら対等の立場で話を続けられる。

 

「ええなー、あたしもいずれ行くけどね。なんか優先券がタダなんやろ?」

「ファストパス? そうね、一日に二つ三つくらいはあまり並ばずに乗れるわよ」

「ええなあああああ!!」

 

 唐突に花歩が人目もはばからず絶叫した。あまりに羨ましすぎて。

 

「USJはそれ有料やねん! 三つ乗るだけで五千円やで! 高校生には手が出えへんわ……」

「まあまあ、その分ユニバは年パスが安いやろ。ディズニーは六万円とかするらしいで。ねえ?」

「そうらしいわね。さすがに中学で持ってる人はほとんどいなかったかな」

「そうなん? やっぱりおいしい話ばかりとちゃうか……」

「あはは、でもいつかみんなで行きたいね!」

 

 と、笑顔で話に入った勇魚は、逆に入れてない夕理に気付く。

 さっそく仲良くしなければと、元気よく話しかけた。

 

「ね、ね、夕ちゃんもディズニー行きたい?」

「あそこはブラック企業やから絶対行かない」

 

 入園前にして、早くも空気が凍り付いた。

 夕理も一瞬気後れするが、自分を偽っても仕方ない。行きたくないものは行きたくないのだ。

 

「やりがい搾取でバイトに過重労働をさせるなんて、絶対許せへん」

「あ、天名さん。確かにそんな訴訟もあるみたいだけど、判決が出てから語るべきでは……」

「まー夕理には合わへんかもね。ところでディズニー言うたら」

「ちょっと彩谷さん」

 

 姫水が少し困って、つかさを引っ張り小声で尋ねる。

 

「天名さんが不愉快そうだけど、この話続けていいの?」

「平気やって。聞かれたから正直に答えただけで、他人の話を邪魔する子とちゃうから」

「そうなんだ……さすが慣れてるのね」

「まあ付き合い長いし(って近い近い近い! 藤上さんがこんな近くに! なんかいい匂いがする!)」

 

 だがそれ以上ネズミの国の話が続くことはなかった。

 前方がざわついたと思うと、クルーからのアナウンスが響いたのだ。

 

『間もなく開園しまーす!』

 

 花歩が少し屈伸してから、全員と目標を共有する。

 

「みんな、フライングダイナソーまで全力疾走や! スクールアイドルの体力見せたるで!」

「全力は危ないって。ジョギングくらいで、くれぐれも怪我したりさせないように」

「う、うん、つかさちゃんの言う通りやな。夕理ちゃんは場所わかる?」

「一応……」

「勇魚ちゃんも迷子にならないで!」

「大丈夫やって。今日は姫ちゃんもいるし!」

「そうね。私が勇魚ちゃんを見失うわけがないもの」

 

 その言葉に少しイラっとしたつかさだが、計画は順調だからと思い直す。

 かつてないほど自然かつ大量に、姫水と話をした気がする。

 しかも入園前なのにだ。

 

(ま、あたしにかかればこんなもんや。藤上さんと友達になるくらい簡単簡単……)

 

 慢心しているつかさの前で、ゲートは開き客がなだれ込んでいく。

 いよいよ、心待ちにしていた一日が始まる。

 

 

 *   *   *

 

 

 ゲートから一番奥にある、フライングダイナソーまで700m。

 姫水は走りながらも、周囲の光景に目が移る。

 一瞬見えた人形は、ハローキティとスヌーピーだろうか。

 だが、後で見れば良いのだと、並走する幼なじみを意識しながら目的地へ急いだ。

 

【挿絵表示】

 

 恐竜世界風のエリアへと、姫水と勇魚、つかさ、花歩と夕理の順に到着し、五人で列に並んだ。

 待ち時間は――30分!

 息を整えた花歩が、おもむろに勝利宣言をした。

 

「よし、朝のミッションは成功や!」

「ばんざーい!」

 

 勇魚が両手を上げ、姫水とつかさが笑顔で拍手している。

 そして夕理は、げんなりしたように正直に呟く。

 

「え、こんなことのために、朝早くから並んでたん……?」

「何を言うてるんや夕理ちゃん!」

 

 夕理の暴言に、花歩がむきになって熱弁する。

 

「これ、昼間は2、3時間待ちが普通なんやで!? さっきも言うたけど優先搭乗は五千円や!

 それに30分で乗れるんやから、つまり五千円得したようなものと」

(もう帰りたくなってきた……)

「ま、とにかく乗ってみよ? 面白いかはともかく、マジで怖いから」

「うん……」

 

 つかさの言葉にうなずいたと同時に、上空から悲鳴が聞こえる。

 翼竜に掴まれた設定の客たちが、うつ伏せの状態で高速移動していく。

 

 しばらく待った後、一年生たちはうつ伏せで空を駆け回り、38mの高さを頭から急降下し……

 

『ぎゃーーーー!』

 

 地面に激突! と思いきや地下の穴に潜ってまた上昇。3分間の飛行を終えて、ふらつきながら外に出た。

 隣のジュラシックパークの待ち時間が少ないと見るや、そちらも片づける。

 

『うわーーーー!』

 

 盛大にかかる水しぶきを雨合羽で防ぎ、四人は笑いながらライドを降りる。

 もちろんパーク内の四百円もするやつではなく、百円ショップで事前に買っておいたものだ。

 

 そして夕理だけは、その合羽を丁寧に畳みながら、内心で苦悩していた。

 

(何が面白いのかさっぱり分からへん……)

 

 さっきのダイナソーも、今回のライドも、確かに少し怖かったが、何でお金を払って怖い思いをしているのだろう。

 皆が楽しめるものを楽しめない自分が、皆と一緒にいて良いのだろうか。

 明後日に迫る花歩の誕生日も、何だか不安になってくる……。

 

「ねーねー夕ちゃん!」

 

 ぽつんとしている夕理を見て、勇魚がまた声をかけてくる。

 

「さっきの……」

 

 が、さすがに学習したのか、皆まで言わずに口ごもる。

 夕理としても、そのまま聞かないでほしいと思う。

『楽しかった?』と聞かれれば、『全然楽しくない』と答えるしかない。

 

「えっと……いい天気やね!」

「せやな」

「え、えへへ……」

 

 勇魚からすれば、どこに地雷があるのか分からないのだから、話すのも一苦労だろう。

 無理に話しかけなくてもいいのに……。

 

(うーん)

 

 その様子を横目で見ながら、つかさは内心で苦笑いする。

 夕理には合わないと思って、中学の時は一度もこの場所には誘わなかった。

 でも今日は花歩の誘い。大変そうだけれど、これも人付き合いと思って頑張ってほしい。

 

(ま、少し休憩入れよか)

(後で夕理向けのも用意してるから、それまで我慢してや)

(そういえば……)

(夕理と遊びに来た時に、他の子がいるのは初めてなんやな……)

 

 少し考え込んでから、続いて姫水へと目を向ける。

 

(それにしても藤上さん、ダイナソーでも平然としてんねんな)

(少しくらい怖がってくれたら可愛げもあるのに)

 

 TDRのどんなアトラクションよりも怖いと噂のコースターも、姫水の涼しい顔は変えられなかった。

 楽しんではくれたようだから、贅沢を言い過ぎかもしれないけれど……。

 

(まあええわ。後で少し動揺させたる)

「つ、次はどこ行こう!? 早よせな、どんどん待ち時間が延びる!」

「ストップ花歩。ちょっとカフェで一休みしよ」

「えええええ!?」

 

 つかさの提案に、花歩がわたわたと抗議する。

 

「な、何言うてんの? せっかくUSJに来たのに、無駄に時間を潰すなんて!」

「そうやってあくせくしてたら、楽しめるものも楽しめへんやろ? 

 特に今日は初めての子が二人もいるんやから。

 心の余裕を持ってないと、いい思い出にはならへんで」

「う……。せ、せやな、ごめん……」

 

 素直に納得してくれる花歩は、普通にいい子だとつかさは思う。

 夕理は安堵の息をつき、勇魚は尊敬の目で見てくれている。

 肝心の姫水は、いつも通りの顔だけれど……。

 

(べ、別にこんなことで点数稼ごうとか思てへんし!)

 

 大股で歩くつかさに先導され、一同はカフェへと向かった。

 

 

 *   *   *

 

 

(ハンバーガーセットが1890円!? 何やねんこれ!)

「夕理~、観光地価格に文句言うてもしゃあないで」

「わ、分かってる……」

 

 よっぽど顔に出ていたのか、つかさにたしなめられてしまう。

 勇魚はミニオン(というキャラクター)が好きだと言うので、ミニオンハンバーガーを1セットだけ。

 あとはデザートを頼んで、五人で席に座った。

 

 ドリンクバーを取ってきて、朝からの激動に小休止が訪れる。

 一服入れてから、つかさは計画を実行に移すことにした。

 

「ところで、これは聞いとかなあかんと思うんやけど」

「なーに、つーちゃん」

 

 ミニオンを手に嬉しそうな勇魚に一瞬たじろぐが、今さら後には引けない。

 できるだけ爽やかな笑顔を作って、つかさは明るく尋ねた。

 

「みんな処女なん?」

 

 

 ぶーー!

 花歩が飲みかけのメロンソーダを吹き出す。

 勇魚は耳まで真っ赤になって、石のように硬直した。

 そして姫水は……

 

「彩谷さん」

 

 一見するといつもの澄ました微笑だが、目は全く笑っていない。

 

「越えちゃいけない一線というものを考えましょう?」

「えー、何カマトトぶってんの? JKならこんな話フツーやろ?」

「や、やめてよつかさちゃん。勇魚ちゃんそういう話苦手なんやからー」

「い、いやほらっ、うちらまだ高一やし……。そういうのは早いかなって……」

「でも恥ずかしがるってことは、単語の意味は分かるんやな?」

「えと、そのっ……」

「どこで知ったん? ねえねえ勇魚ぁ」

「彩谷さんっっ!!」

「あはははは、藤上さんが怒ったー」

 

 大騒ぎの四人を横目で見ながら、夕理はカフェオレをすすりつつ呆れ返っていた。

 

(しゃあないなあ、つかさは……)

 

 

 *   *   *

 

 

 店内にトイレがないため、外で済ませた夕理が戻ろうとすると、なぜかつかさが待ち構えていた。

 

「あたし、他の友達と遊ぶときは、しょっちゅうあんな話してんねんで」

 

 その言葉に、先ほどの会話の意図を理解した。

 ハンカチをポケットにしまい、ミニオンパークを横切りながら渋い顔で言う。

 

「あっきれた! そんなアピールのためにあんなこと言うたん?」

「まあ、幻滅されるなら早い方がええかと思って」

 

 後について歩きつつ、頭をかいたつかさの目が、ふと遠くなる。

 

「夕理は覚えてないかもやけど、あたしはずっと前に警告してたからね」

 

『それならあたしは、そのうち夕理に嫌われちゃうかもね』

『あたしなんて純粋とは程遠いねんし』

 

 悔しさに、夕理は奥歯を噛みしめる。

 なんで、覚えてないと思うのか。

 あの日のことを、夕理の世界が一変した舞洲での出来事を、忘れるはずがないのに。

 

「私は、つかさが他の友達といるのを、よく遠くから見てた」

 

 振り向くことなく、三年来の想い人へ背中越しに言った。

 

「多分さっきみたいなことを話してるんやろうなって、想像しながら」

「夕理……」

「つかさは覚えてないかもやけど、あの時に私は答えを言ってる!」

 

『私は未来永劫、つかさのことが好きやから!』

 

 つかさの足が止まる。

 カフェに戻っていく夕理の後ろ姿から、目を逸らしてひとりごちる。

 

(覚えてるけどさ……。あんなの子供の戯言やろ……)

 

 

 店内に入ると、なぜか夕理が席に戻らず、少し離れて様子をうかがっていた。

 付け合わせのポテトを仲良く食べている三人、その中でもひときわ目立つ少女を。

 追いついたつかさに気付いて、夕理が困ったような目を向ける。

 

「そもそも、藤上さんと仲良くなりたいんとちゃうの? あんなん言うたら逆に嫌われない?」

「べ、別に、軽い冗談やし……」

 

 動揺したつかさが、少し思いつめたように内心を吐露する。

 

「それに、あいつに媚び売りたいわけとちゃう。

 そのままのあたしと友達になってもらわな、何の意味もないやろ!」

「いや理想的にはそうかもしれへんけど……」

 

 でも現実的には、と言いかけて、夕理は押し黙る。

 何でつかさが理想論を語って、自分が現実論を口にしなければならないのか。

 結局会話は続かず、二人は何事もなかった風に席に戻った。

 

「お待たせー、そろそろ出よか?」

「せやねー」

 

 飲みかけのドリンクを片づけてから、一同は店を後にする。

 その途上、花歩はつかさに尊敬の目を向けていた。

 

(あんな話題振ったってことは、当然とっくに経験済みなんやろなあ)

(しかもあの口ぶりからすると、相手は一人とちゃうで!)

(さすが大人やなあ……)

 

 背後にそんな視線を感じて、つかさの背筋が少し震える。

 

(なんか妙な誤解を受けてる気がする……)

 

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