ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート4 家に帰るまでが…… ☆☆

「甘っ!」

 

 一杯のバタービールを回し飲みし、夕理の正直な感想に皆が笑う。

 姫水も一口飲んで、口についた泡を拭いてお礼を言った。

 

「ごちそうさま、彩谷さん」

「いえいえ。一杯だけで悪いけど」

 

 この後にコースターなのを考えると、大量摂取はよろしくない。

 決して姫水と間接キスとか、そんなことを考えたわけではない。

 まあ当然ながら、全員口をつける場所は変えているのだが……。

 

「よし、トライウイザード見てから並ぶか!」

 

 残った液体を飲み干し、カップを捨ててつかさが先導する。

 時刻は六時。そろそろ空も赤く染まってきた。

 

 近くの広場で『ライバル校と魔法の腕を競う』という、ラブライブにも通じる短いショーを見てから、城の看板を確認する。

 

『フォービドゥン・ジャーニー 50分』

 

「ま、こんなもんやろ。今日最後の行列、準備はええかー」

「おー!」

 

 花歩がノリよくつかさに返し、一同はホグワーツ城の敷地に乗り込む。

 外周部に並びながら、つかさは少し深呼吸して、姫水との会話に再挑戦した。

 

「そういや藤上さん、テストどうやった?」

「それなりに手応えはあったわよ。彩谷さんは?」

「あたしもそれなりかなー。ていうか古典の問題ってさあ」

 

 こんな当たり障りのない話、いくら続けても心が近づけた気にはなれないけど。

 

(でも、もう危ない橋渡って失敗したくないねん)

(今日はこのまま無難に終わらせよう……)

 

 後ろにいる夕理には、情けない姿に映っているだろうか……。

 

 列は城内に入り、姫水と夕理は感心したように中を見渡す。

 中の絵が動く額縁や、様々な魔法アイテム。

 ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が、アトラクションの設定を説明する。

 そしてロッカーに荷物を預け、いよいよ一同はホグワーツの上空へと飛び出す――。

 

 

 *   *   *

 

 

「技術の進歩ってすごい!」

 

 外に出た時、夕理は柄にもなく興奮していた。

 ニヤニヤしている花歩とつかさ、にこにこ顔の勇魚に気付き、こほんと咳払いする。

 

「ま、まあ、単なるコースターよりは良かったってことや」

「素晴らしい映像技術だったわね。本当にハリーポッターの世界の中みたいで……」

 

 姫水も両手を合わせて称賛する。

 CGで描き出された空や建物が、ライドの高速移動に合わせて目まぐるしく動き……

 そして襲ってくるドラゴンや、クィディッチの試合風景、共に空を飛ぶハリー達は、今の姫水には現実より現実らしかった。

 

仮想現実……(バーチャルリアリティー)

(何か病気を治すヒントがあるかもしれない)

(もう一度乗りたいけど、さすがに無理よね……)

 

 もう七時だというのに、未だに行列は長く続いている。

 名残惜しそうな姫水に、帰ろうとしたつかさが振り返った。

 

「藤上さん?」

「あ、また乗りたいなあって」

「ほんま!? 気に入ってもらえた?」

 

 嬉しそうなつかさに、少し心が痛む。

 彼女は本当に、このテーマパークが好きなのだろう。

 自分もその気持ちを共有できたらいいのに。

 

「それやったら、またいつか乗ろうね」

「うん、そうね。機会があったら」

 

 既に日は落ち、明りに照らされるホグズミード村は、来た時とは全く違う姿を見せている。

 後ろ髪を引かれつつも、一行はハリーポッターの世界を後にした。

 

 

 *   *   *

 

 

「夕理、足大丈夫?」

「うん、平気や」

 

 つかさが声をかけてくれて、疲れた足の痛みが和らぐ。

 残るイベントはあと一つ。もうすぐここを通るパレードを見たら、後は帰るだけだ。

 

「ゆ、夕理ちゃん」

 

 と、花歩が少し緊張気味に声をかけてくる。

 その隣には、さらに固くなっている勇魚がいる。

 

「今日、勇魚ちゃんってどうやったかな。結構仲良くできてたと思うんやけど」

「何や、花歩が画策してたん?」

「あ、あはは。ほら、一年生の結束を高めるためにも」

「ゆ、夕ちゃん!」

 

 まるで告白する女の子のように、上ずった声が勇魚の口から溢れ出た。

 

「うち、夕ちゃんのことめっちゃ好きやねん! 夕ちゃんは、うちのこと苦手?」

「いや、そんなストレートに言われても……」

 

 自分なんかが他人から好かれるということに、夕理は実感が湧かない。

 つかさは特別だし、小都子と花歩は阿倍野での約束の結果だけど、この子は何なのだろう。

 嘘のない本心なことは、見れば分かるけれど……。

 

「まあ……今日で苦手意識はだいぶ消えたかも」

『ほんまっ!?』

 

 花歩と勇魚が同時にハモり、ずずいと近づいてくる。

 

「それやったら、勇魚ちゃんのこと下の名前で呼んであげて!」

「お願い! 『勇魚』って呼んでほしい!」

「ち、ちょっ……」

「ほら、姫水ちゃんも推して推して!」

「そ、そうね。天名さん、勇魚ちゃんはとてもいい子で、友達として末永くお付き合いいただけるものと……」

「お見合いおばさんか!」

 

 困り果て、思わずつかさへ目を向けるが、彼女は優しく微笑むだけだ。

 今回ばかりは助けてもらえない。

 自分で決めないといけないのだ。

 

「何て言うか……急にそんなこと言われても困るし……」

「あかんの……?」

 

 子犬みたいな目を向けられ、焦った夕理は早口でまくし立てる。

 

「そもそも、まだ佐々木さんを一人前のスクールアイドルとは認めてへんし!

 裏方として頑張ってたのは見たけど、それではまだ半分や!

 せやから――名前で呼ぶのは、一緒のステージに立ってからやな!」

「え――」

 

 照れたように明後日の方を向く夕理の前で、勇魚がみるみる破顔する。

 それはいつかの将来、必ず呼んでもらえるということだ。

 花歩も安堵しつつ苦笑いしている。

 

「もー、夕理ちゃん引っ張るんやから」

「ええねん花ちゃん! うち、早くそうなれるように頑張るね!」

 

 えいえいおー、と拳を突き上げる勇魚を、姫水が微笑ましく見ている。

 そして夕理が向けた視線の先で、つかさは安心しつつ、また少し距離を置いたように見えた。

 夕理に友達が増えるたびに、つかさはどんどん離れていく。

 姫水のところへ行くかどうかに関わりなく。

 

(でも……それは必要なことなんや)

 

 夕理が自分に言い聞かせている間に、花歩が喜びの声を上げる。

 

「あ、パレード来た!」

 

 夜のUSJに音楽が鳴り響き、電飾に彩られた巨大なキャラクター達が行進してくる。

 皆で楽しく眺めていたが、スヌーピーが遠くに見えるや、花歩は慌ててスマホを取り出した。

 

「みんな、最後に写真撮ろう! 写真!」

「んー、夜やからなー。ブレても泣かないように」

「夕ちゃん夕ちゃん、ほらほら前へ!」

「佐々木さんの方が小さいんやから前やろ」

 

 大急ぎで並んでいる間に、スヌーピーは近づいてくる。

 

「夕理ちゃんごめん、ちょっとしゃがんで! 姫水ちゃんはもうちょっと右!」

「こう?」

「ああああ、通り過ぎる! 撮るで! 3、2、1、アクション!」

 

【挿絵表示】

 

「とほほ……後ろ姿やないか。つかさちゃん、ピースで耳作るのやめて……」

「あはは、可愛いやろ?」

 

 花歩とつかさの他愛ないやり取りに、勇魚と姫水が笑っている。

 そして夕理は――

 

(ああ――どうしよう)

 

 頬が勝手に緩むのを、どうしても止められなかった。

 次々と訪れるパレードの前で、誰かに尋ねてほしいと思った。

 『楽しい?』って。

 今なら聞かれても大丈夫だから。

 

 

 *   *   *

 

 

「あー! 面白かったー!」

 

 ゲートを出て、大きく伸びをする花歩を、勇魚と夕理が挟み込む。

 

「花ちゃん、誘ってくれてありがとね!」

「まあ、一応お礼言うとくわ」

「いえいえ、えへへー」

 

 花歩はえいっ、と二人の腕に抱きつき、夕理の抗議を受けながら、駅への道を歩いていく。

 それを姫水と共に、保護者ポジションで見ているつかさだが……

 内心ではまた渦が巻いていた。

 

(このままでええんか!?)

 

 一度は諦めたはずなのに、帰るとなると未練が湧いてくる。

 

(あたしの目的、全然達成されてへんやんか!)

(あ、あたしだって、藤上さんに『つかさ』って呼んでほしいのに……)

(勇魚にできたことが、何であたしにできないんや!)

 

 とはいえ今さらどうしようもない。

 何もできないまま駅の改札をくぐり、ホームに降りる。

 

「うわあ」

 

 夕理のうんざりした声の通り、ホームには人が溢れ返っていた。

 勇魚が笑いながら慰める。

 

「こればかりはしゃあないって! 大した距離でもないやろ!」

「まあね……」

 

 そうこうしている間に電車が来て、客は車内に詰め込まれていく。

 

「向こうの方が空いてそうだから、あっちに行くわね」

「うんっ!」

 

 姫水は隣の車両に向かい、勇魚が手を振る。

 反射的に、つかさの体も釣られるように動いていた。

 最後の一発逆転を狙って。

 

(藤上さん綺麗やから、痴漢とかに遭うかもしれへんし)

(そうでなくても混んでて大変そうやし、そこをあたしが颯爽と助けて)

(あたしのこと認めてもらえれば……)

 

 後から思えば、かなり冷静さを欠いていた。

 無理に車内に入ってはみたものの……

 

「彩谷さん、こっちに来たの?」

 

 そう言う姫水の周りは女性客ばかりで、痴漢などいる様子はなく。

 吊り革は全部埋まっていて、逆に自分の方こそ掴まる場所がない状態だった。

 

「まあ、うん……ってうわあ!」

 

 いきなり電車が動き出す。

 普段なら何てことはないが、一日歩いて並んで疲れた足は、つかさの体を支えきれない。

 

「危ない!」

 

 今日初めて、ほんの少しだけ焦った姫水の声が響くと同時に――

 左手で吊り革を掴んだ彼女が、右手でつかさを抱き留めていた。

 

(あああああああ!?)

「大丈夫?」

「へ、へへへ平気やっ! お構いなくっ!」

 

 ライブの時に続いて、またこんな事に!

 パニックになりつつも体勢を立て直すつかさの前に、右腕が差し出される。

 

「ここ、掴まっていていいわよ」

「はあ!? な、ななな何言うてんの!?」

「恥ずかしがっている場合じゃないでしょう」

「ううう……」

 

【挿絵表示】

 

 また転ぶわけにもいかず、姫水の腕を抱きしめる。

 最後に大ラッキーなのかもしれないが、喜ぶ余裕なんて全然ない。

 自分の激しい心音が、彼女にバレないかだけが心配だった。

 

(ていうかあたし、藤上さんに自分の胸押し付けてるやん! 痴女か!)

(でも動けへんし……)

(藤上さん、少しくらいドキドキせえへんかな……)

(ってするか! 女同士なのに!)

(……藤上さん……)

 

 間近に見る彼女の顔は、相変わらず吸い込まれるほど綺麗で。

 次々と浮かぶつかさの思考は、一つの疑問に集約される。

 

(結局あたしのこと、どう思ってるんやろ……)

 

 その思いが通じたのかどうか。

 姫水は目と鼻の先にいるつかさへと、優しく微笑んだ。

 

「今日は、少し見直したわ」

「え!?」

 

 失敗続きだった気がするが、知らない間に何かしていたのだろうか。

 期待に浮き上がるつかさの気持ちの前で、言葉が続く。

 

「天名さんのこと、ずっと気遣ってたでしょう? 本当に大事に思ってるのね」

「………」

 

 浮き上がった気持ちがどぼんと沈む。

 たはは、と内心で苦笑しながら。

 

(評価されるとこ、そこかあ……)

 

 もちろん、全く評価されないよりはずっと良いのだけれど。

 後ろめたさに目線を落としつつ、正直に告白した。

 

「今だけやねん」

「え?」

「次にユニバに来る頃には、花歩とも勇魚とも普通に友達になれてるやろ。そしたら、あたしはお役御免かなって」

「それって……」

「早よ手を引きたいんや」

 

 姫水は少し驚いてから、かすかに下がった声音で言う。

 

「バスで一緒に帰った時、天名さんの歌詞を読ませてもらったわ」

「そっか……」

「あの子は本当に、あなたのことを想ってるんだなって……」

「夕理にはもっと相応しい相手がいるはずや。あたしみたいな不純な人間やなくて」

「そう……私が口出しすることではないけれど……」

 

 姫水はそれ以上は言わず、残念そうに窓の外へ目を向けた。

 そして、もうつかさを見ることはなかった。

 

(唯一もらえてた評価も、これで失くしたんやろか……)

 

 それでも、この件に関してだけは嘘は言えなかった。

 物理的には接触しながら、心の距離は近づけない二人を、満員電車は運んでいく。

 

 

 *   *   *

 

 

「ばいばーい!」

「また明日!」

 

 長居組の三人を乗せて、電車は弁天町駅を去っていった。

 二人きりになったところで、つかさはちゃんと聞いてくれる。

 

「どう? 楽しかった?」

 

 たとえ『楽しくなかった』と言っても、つかさなら笑って適当に流してくれる。

 だからこそ、夕理にとって特別な人だったのだけれど……

 今日はもう、その必要はなかった。

 

「うん――楽しかった。全体的には」

「良かった良かった、一安心や」

「でも、万事が高すぎると思う! どれだけがめついねん、これやから大阪は!」

「まあまあ、そのお金で任天堂エリア作ってんねんで。マリオ知ってる? マリオ」

「ヒゲのおじさんやったっけ」

「そうそう。再来年にはオープンするんちゃうかなー」

 

 そして階段を降りたところで、重い宿題を言い渡される。

 

「他の子とも楽しめるって分かったんやから、次は夕理から誘ってみたら?」

「せ、せやな……考えてみる」

 

 改札を通り過ぎ、駅の外に出る。

 このまま別れれば、お互い気持ちよく一日を終えられるのだろうけど……

 どうしても許容できず、夕理からも尋ねた。

 

「つかさはどうやったん?」

「そら楽しかったで? あたしユニバ好きやし」

「……藤上さんのこと」

「あはは、夕理は厳しいなあ」

「ご、ごめん……大きなお世話なのは分かってんねんけど……」

 

 心配させないようにつかさは笑うけれど、その目は少し伏せ気味だった。

 

「まあ、簡単にはいかなそうなのが分かったかな」

「わ、私から藤上さんに言うてもいい? つかさと仲良くしてって。今日、花歩がしたみたいに」

「気持ちは嬉しいけど、たぶん意味ない。優等生的に対応されて終いや」

「そう……なんやろか」

「あの優等生の仮面を引っぺがさな、どうにもならへん……」

 

 最後の方はもう夕理を見ておらず、一人で考え込んでいるようだった。

 気落ちする夕理に、はっと気付いてひらひらと手を振る。

 

「ま、気長にやってくから、ほんま心配しないで。じゃ、また部活で」

「うん、また……」

 

 聞いたところで何ができるでもなかった。

 彼女の背中が遠ざかっていく。

 何か、少しでもいいから、自分にも何か――

 

「き、今日はありがとう!」

 

 思わず叫んだ声に、振り返ったつかさが軽く手を上げ、また背を向けて帰っていく。

 今日、何度も気遣ってくれた。

 勇魚たちのことも大事だし、前より仲良くなれたとは思うけど。

 やっぱり、つかさがいたから楽しかったのだ……。

 

 

 ポーチから家の鍵を出す時に、本日の戦利品が目に入る。

 小都子へのお土産と、花歩へのプレゼント。

 今日の出来事は、明日以降にも繋がっていく。

 そう思うと疲れた足も少し軽く、マンションに入り玄関を開けて……

 誰もいない家に、夕理は元気よく電気をつけた。

 

「ただいま!」

 

 ――いい休日だった。

 

 

 

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