ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート5 side 生駒山 ☆☆☆

 時は遡り朝九時半。

 立火は机に問題集を広げながら、一年生たちに思いをはせていた。

 

(みんな楽しんでるとええなあ……)

 

 一方の自分は、中間テストが終われば即受験勉強である。

 桜の咲く季節まで、安息が訪れることはないのだ。

 

 と、スマホが鳴り、取り上げてみれば桜夜からのメッセージだった。

 

『遊園地行きたい』

 

 渋面を作り、即座に返信を送る。

 

『勉強しろ!』

 

 数秒して少し長い文が返ってきた。

 

『遊園地行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい!』

 

 無視していると、とうとう電話がかかってくる。

 仕方なしに受けた途端、盛大な悲鳴が鳴り響いた。

 

『行きたいよおおおおお!!』

「やかましいわ! テストで周りに迷惑かけたの、反省してないんか!」

『してるってば! 昨日の夜は一時まで勉強してたし!』

「あ、そうなん……」

『せやけどもう吐きそうや! 遊園地行かないと死ぬ!』

(加減を知らないやっちゃなあ……)

 

 こういう時に嘘を言う桜夜ではない。実際に一時まで机に向って、限界を超えたのだろう。

 いくら受験生でも、一週間全く休みなしは確かにキツい。

 溜息をついて、壁の時計を見上げる。

 

「しゃあない、ぱっと行ってぱっと帰ってくるで。どこ行くねん。ひらパー?」

『財布の中に千円しかない……』

「それでよく遊園地行こうとか言えるな! 千円で楽しめるとこなんて……」

 

 USJができてから、関西の遊園地は潰れまくっている。

 万博跡地にあったエキスポランドも、ジェットコースターの事故で閉園になった。

 大阪府に残っているのは枚方(ひらかた)パークとみさき公園、大阪以外では……。

 

「……入園料タダのとこに行く?」

 

 

 *   *   *

 

 

 大阪のお隣、奈良県生駒(いこま)市。

 家から四十分ほどをかけて、立火と桜夜は近鉄の生駒駅に降り立っていた。

 

「うっわ、来るの何年ぶりやろ」

 

 駅から伸びるペデストリアンデッキの上で、桜夜はきょろきょろと周囲を見渡している。

 そんな相方を眺めつつ、立火は眼前にそびえる642mの生駒山を見上げた。

 

「私は近所の子供連れておととし来たで。最近は結構盛り返してるみたいや」

「へー。私が来たときはガラガラやったけど、よく生き残れたよね」

「親会社が近鉄やから、なんとか維持して欲しいもんやな。よし、登るか!」

「え?」

 

 デッキを降りて参道へ向かおうとする相方の腕を、桜夜が慌てて引っ張った。

 

「いやいや、何のためにケーブルカーがあんねん」

「金ないんやろ?」

「ケーブルカー代くらいはあるから! あの動物顔も久しぶりに見たいし!」

「ったく、後で後悔しても知らんで」

 

 結局、連絡橋を渡ってケーブルカーの駅へ向かう。

 生駒ケーブルは今年で何と100周年。日本最古を誇るケーブルカーである。

 さっそく切符を買おうとして、桜夜はうっと息をのんだ。

 

(あれ、片道360円もするんやったっけ。ICOCAも使えへんし……)

 

 このレトロなケーブルカーに、ICカード読み取り機などあるはずもない。

 桜夜が引きつった顔で提案する。

 

「や、やっぱり登りだけ使って、帰りは歩こっか!」

「へー。どういう心境の変化?」

「いやテストで体なまってるし、やっぱりスクールアイドルとして体力向上をやな」

「はいはい」

 

 笑っている立火に恥ずかしくなりつつも、犬とも猫ともつかない顔の車両を見るや、喜んで駆け寄る。

 

「立火ー、写真撮ろう写真!」

「大はしゃぎやなあ。結局こいつ猫やったっけ?」

「ミケって書いてあるで」

 

【挿絵表示】

 

 

 *   *   *

 

 

 途中の宝山寺駅で乗り換え、急勾配の山中を通り終点に到着する。

 駅を降りればそこはもう生駒山上遊園地。

 ゲートも入園券売り場もなく、出入りはいくらでも自由である。

 

 USJの混雑とは比べるべくもないが、立火の言う通りそこそこ賑わっている。

 勉強のストレスから解放された桜夜は、幼児退行したように満面の笑顔で駆け出した。

 

「わーい遊園地遊園地ー!」

「子供か!」

 

 とはいえ遊園地自体は完全に子供向けなので、むしろ桜夜の態度が正しいとも言える。

 立火が周囲を見渡しても、目に入るのは親子連ればかり。

 自分が少し場違いな気がして、早足で相方に追いつくと、桜夜はにこにこと聞いてくる。

 

「ねえねえ何乗る? 飛行塔? 空中ブランコ?」

「乗る気なん!? 高三にもなって!?」

「当たり前やろ、何しに遊園地来たんや!」

「いや、景色見に……。せ、せや、まずは腹ごしらえせえへん?」

「うーん、確かにちょっとお腹すいたかも」

 

 そんなわけでレストランへ向かう。

 これまたレトロな建物で、支払いは券売機だ。

 

(一番安いのはきつねうどんと蕎麦かあ……でもラーメン食べたい)

 

 欲望に忠実に、桜夜はみそラーメンのボタンを押した。

 一方の立火はカツカレー。

 

「これでラブライブに勝つ!」

「まーたそんなベタな」

「ベタなのが大事なんや。帰りも宝山寺で戦勝祈願してくで!」

「もー、せっかくの遊園地なのに殺伐としないで」

 

 料理を受け取り、外のテラス席に座る。

 USJのレストランのようにお洒落ではないが、山の上だけあって眺めは抜群だ。

 眼下に広がる大阪平野を見ながら、桜夜が麺をもぐもぐしつつ聞く。

 

「前来たときは動いてないジェットコースターがあったけど、撤去されたんやろか」

「されたんちゃうの。一度くらいは乗りたかったなあ」

「いや怖ない? こんな山の上で古いコースターって」

 

 などという話の最中に、視線を感じて顔を上げる。

 トレイを持った男子高校生二人が、桜夜を見てひそひそ話していた。

 

「な、なあ、あの子めっちゃ可愛くね?」

「どっかのアイドルとちゃうんか」

 

 ふふーん、と桜夜が髪をかき上げると同時に、その二人はくるりと背を向ける。

 

「けどいくら可愛くても、こんな所でラーメンすすってる女は御免やな……」

「せやな……」

「ああ!?」

「やめろって」

 

 席を蹴って立とうとしたが、立火に手を引かれ留められる。

 仕方なく座り直して、憤懣やるかたなくメンマをかじった。

 

「何やのあいつら! 休みの日に男二人で、寂しい奴らやな!」

「おーい、完全にブーメランやでー」

 

 

 *   *   *

 

 

 腹もふくれたので、再び遊園地へと繰り出す。

 遊具はひとつ乗るのに300円から500円。

 もちろん長い行列などなく、いたって平和なものである。

 

「サイクルモノレールも気持ちよさそうやなー。立火に漕がせたら楽やし」

「ははは、上から叩き落としたろか? ところで参考までに聞くけど、お金残ってんの?」

「何言うてんねん、まだ大して使て……」

 

 そう言って桜夜は財布を開ける。

 十円玉が一枚。

 終わり。

 

「何でや!?」

「ケーブルカーが360円、ラーメンが630円、計990円」

「……立火ぁ……」

「私は金の貸し借りはせえへんからな」

「300円だけでええから! 来月のお小遣いもらったらすぐ返すから!」

「そもそもお前、小遣いかなり貰ってるんやろ!? 何でいつも金欠になるんや!」

「ほんまになー、何で月末ってこうなんやろね? 私も謎でしゃあないねん」

「お前と結婚する奴がいたら、真っ先に財布を取り上げろって言うとくわ」

 

 立火は深く溜息をつくと、遊具の間をぶらぶら歩きだした。

 

「何に乗りたいんや」

「え……」

「金は貸さへんけど、次のセンターへの激励におごったるわ」

「うわああん立火あああ!! じゃあ一番高いやつ」

「お、そろそろ帰る時間やな。いやあ充実した休日やった」

「嘘です! 一番安いのでええから!!」

 

 暖かい春の終わりに、遊具を楽しむ子供たちを見ながらしばし散歩する。

 一通り見て回ってから、桜夜が指さしたのは昔ながらのメリーゴーランドだった。

 

「これ!」

「正気か……。いや桜夜ならこれが正気やな……」

「私もプリンセスやからね! お姫様度で姫水に負けられへんねん」

「何を張り合うてるんや何を。乗りたいならええけどな」

 

 立火が買ったチケットを拝んで受け取り、喜々として白馬に座る。

 近くの子供からジロジロ見られているが、本人は気にする様子もない。

 むしろ『似合うやろ?』みたいに得意顔だ。

 

(ま、確かに絵にはなるんやけどな)

 

 その姿を残したくて、頼まれる前にスマホを取り出した。

 

「立火、写真ー……って、あ、撮ってくれるん?」

「ん、あれや、うちのブログのネタになるやろ」

「せやな、ファンに私の可愛さを届けないと! 綺麗に撮るんやで」

「はいはい……っと」

 

【挿絵表示】

 

 シャッターを押すと同時に、木馬たちは動き出す。

 本気で楽しそうに回っている桜夜を、眺めるだけの遊園地も乙なものだった。

 

 

 *   *   *

 

 

 遊園地の端まで来た。

 展望広場の直下は東大阪市の町並みで、その向こうは――

 

「まずは市内全てのスクールアイドルが相手や」

 

 遥か大阪市を見渡しながら、立火が呟く。

 それだけでも100グループ近くあり、並の県より遥かに多い。

 その中で上位四枠に入らなければ、先輩たちと同じ舞台にすら立てないのだ。

 

【挿絵表示】

 

「今の人気やと、悔しいがナンインと聖莉守の予選突破は安泰やろな。

 淀川中央の爽wingか、鶴見緑地学園のGreenTeaPod。このあたりと残りの枠を競うことになるか……」

「ダークホースとか出てきたりして」

「さすがにこのタイミングは勘弁して欲しいわ」

 

 立火は笑うが、その瞳に笑みはなく、ずっと遠くを見つめていた。

 その横顔を目に映しながら、桜夜は少し寂しくなる。

 

(デートの時くらい、私だけを見てくれてもええのにな)

 

 けれど、それが立火なのも分かっていた。

 安心させるように、ぱんぱんとその背を叩く。

 

「まっ、私に任せなさいって。おごってもらった分はきっちり働くで」

「……ああ。よろしく頼むで!」

 

 夏のラブライブ、予備予選まで一か月を切った。

 立火が部長になって最初の関門。

 そこに待つのは歓喜か絶望か、はたまた――。

 

 

 桜夜の財布に残った十円玉は、帰りに立ち寄った宝山寺に賽銭として投げられた。

 

『どうか全国に行けますように!』

 

 

 

<第15話・終>

 

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