ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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第17話 開幕! ラブライブ!
パート1 先輩と私(前) ☆


「あかんー、ここまでやー」

 

 姫水は思う。ギブアップする勇魚も可愛らしいと。

 一人で作詞した花歩を見習おうと、姫水に頼らず独力での衣装デザインに挑戦していたのだが……。

 本番まであと二週間、時間切れだった。

 

「花ちゃんみたいにはできひんかったなあ」

「仕方ないわよ、やっぱり作詞よりデザインの方がハードルは高いもの。二人で考えましょう?」

 

 没案とはいえ、ノートに描かれた可愛い衣装たちは姫水の心を暖める。

 こうして勇魚の部屋で、一緒にいられるなら。

 病気なんて、別に治らなくてもよいのではないか……。

 

「ひめちゃん、うちもできたー」

 

 と、隣で絵を描いていた勇魚の妹が、スケッチブックを見せてきた。

 幼稚園児らしく、服らしきものが元気にクレパスで描かれている。

 

「うん、上手ね汐里ちゃん。将来はデザイナーかな?」

「わーい! ひめちゃんがほめてくれたー!」

「汐里はほんまに姫ちゃんが好きやね!」

「うんっ、だいすきー!」

「……ありがとう、汐里ちゃん」

 

 やはり駄目だ。治さないと。

 勇魚の大事な人や大事なもの。東京で待たせている弥生。それら全てにきちんと向き合いたい。

 ラブライブに出れば、少しは改善するだろうか――。

 

 

 *   *   *

 

 

 デザインが完成し、晴と勇魚は布を買いに行ったので、残った面子で練習を行う。

 歌もダンスもほぼ形になっており、後はブラッシュアップだが……。

 

「振り付けをもっと可愛くしたい!」

「振り付けかー」

 

 桜夜の提案に、立火が腕組みして考える。

 Westaに振り付けの専任はおらず、晴が過去のダンスから作ったベースを全員で改良する。

 が、今回ほど可愛い曲はWestaとしては初めてだ。

 

「思い切った新しい動きが必要かもしれませんね」

「よう言うたで小都子! ほな、何か可愛い動きしてみて」

「ええ!?」

 

 墓穴を掘って桜夜から無茶振りされた。

 一年生たちからもワクワクの目を浴び、仕方なく猫のポーズを取る。

 

「に……にゃーん」

『かんわいいいいいいい!!』

 

 全員にはやし立てられた小都子は、真っ赤になって頭を抱えた。

 大いに満足した桜夜は、続けて後輩に狙いを定める。

 

「つかさと夕理もやってみて。きゃるーん♪って感じで」

「ちょっ、カンベンしてくださいよ! あたしそういうキャラとちゃいますって!」

「で、でもそれで振り付けが良くなるなら……真摯に取り組む姿勢としては……」

(げえっ! 夕理がやる気になってる!)

 

 大慌てで、つかさは別の生け贄を探す。

 目に入ったのは、今日も男前な部長だった。

 

「部長さんはどうなんです!? お手本を見せてほしいっすねえ!」

「ん? ええよ」

「いいんですか!?」

「あー、あかんあかん。立火はやると決めたら恥なんて捨てるから」

 

 つまらなそうに言う桜夜に、立火は両頬に人差し指を当ててにっこり笑った。

 衝撃を受けた花歩が悶絶している。

 

「中途半端に恥ずかしがる方が、かえって恥ずかしいんやで」

「ううう……」

 

 つかさと夕理は顔を見合わせると、仕方なく両手を顔の下へ持ってくる。

 きゃるーん♪

 

「あははははは!」

「花歩おおおおお! こんにゃろう、アンタもやれ!」

「ちょっ、つかさちゃん、ギブギブ! 私は補欠やから!」

「こらこら、スリーパーホールドはあかん。いい振り付けやったから採用するで」

「マジっすか……」

 

 部長の言葉につかさがぐったりしている一方、桜夜の目は残る一年生に向けられた。

 姫水とは、今回は二人セットでの振り付けが多い。

 

「てことでメインは私たちや! 姫水はあんまり恥ずかしがらないし、おもろないけどなー」

「恥じらいなんて持ってたら女優なんかできませんよ」

「よし、いくで!」

 

 曲が流れる中、桜夜の自由な動きに、姫水は完璧に振り付けを合わせる。

 猫のポーズ!

 きゃるーん!

 そして二人の手でハートを作る!

 

【挿絵表示】

 

「可愛すぎて自分が恐ろしくなるで……。もう予備予選はトップ通過やろ」

「そこまで甘いわけないけど、インパクトは上がったな。よし、全体を通してやるで!」

 

 三年生たちの会話に、つかさと花歩は少し複雑な顔をする。

 確かに良くはなったけど、京橋で見た高度なダンスに勝てるとは思えない。

 だが、今は信じて突き進むしかないのだ……。

 

 

 *   *   *

 

 

 翌日から衣装作り開始。

 今回はフリルやリボンが多く、ファーストライブの時より複雑である。

 皆が悪戦苦闘している中で、立火は小声で夕理に尋ねた。

 

「地区予選の曲の調子はどう?」

「難航しています……すみません」

「いやいや、まだ時間はあるから大丈夫やで。でも大変やったら、衣装は勇魚に作ってもらって夕理は作曲を」

「衣装を自分で作りもしないで、奴らを非難する資格があると思いますか!?」

 

 また潔癖な、という部長の視線を浴びながら、夕理は自らに歯噛みする。

 筆が速いことだけが長所なのに、それすらなくなったらどうなるのだろう。

 だが、次の曲は色々な意味で疎かにはできなかった。

 

「とにかくGolden Flagとその支持者に、目にもの見せる曲を絶対作ります」

「うーん、あいつらをそこまで気にするのもどうかと思うんやけど」

「今週中には完成させます!」

(それやと期末テストを除いて、練習期間は三週間ちょいか……。まあ、何とかなるやろ)

 

 悲願のかかった地区予選。『まあ何とか』で済ませたくはないが、夕理を急かすわけにもいかない。

 分かった、頼むで、とだけ言って、立火は自分の作業台に戻る。

 と、話が終わるのを待っていたのか、晴から確認が飛んできた。

 

「本番前ですが、日曜は部活をしますか」

「あ、ああ、せやなあ」

 

 去年は本番二週前くらいから、休みなしで練習していたが……。

 つかさが『意地でも休むぞ』という顔をしているのを見て、立火は諦めた。

 

「練習は十分できてるし、今回はええやろ。地区予選の時はまた考えよ」

「分かりました」

(ラッキー、何して遊ぼう)

 

 同じく日曜に部活なんてしたくない桜夜が、内心で大いに喜ぶ。

 裁縫を止めてスマホの天気予報を見ると、曇りで降水確率30%。

 梅雨のただ中にしてはマシな天気だろう。

 

(せや! 勇魚を誘おう!)

(七月になったらクソ暑いし、今しかないやん!)

 

 作りかけの衣装ごと勇魚の隣へ行き、甘い声で話しかける。

 

「ねー勇魚、日曜空いてる? この前約束したし、遊びに行かへん?」

「二時からクラスの友達と約束があります! それまでやったら大丈夫です!」

(うーん、半日コースかあ)

 

 物足りないが、次にいつ誘えるか分からない。

 たとえ半日でも自分の魅力でメロメロにすれば、次は勇魚から誘ってくるはず……とかアホなことを考えた桜夜は、OKの笑顔を見せた。

 

「ええよ、行こ! 友達との待ち合わせはどこ?」

「はいっ、梅田です!」

「それやったら北の方がええな。エキスポシティ行こう! 私ニフレル好きやねん」

「いいですね。ご一緒します」

 

 隣からの声にびくりとすると、勇魚のセコムがにこにこと座っている。

 

「あ、うん、姫水も誘おうと思ってたで……」

「それは何よりです。勇魚ちゃん、何があっても私が守るからね」

「私は何やと思われてんねん!」

「じ、事故とかあっても大丈夫って姫ちゃんは言いたいんです! たぶん……」

 

 

 *   *   *

 

 

 衣装も振り付けも一週間で完成し、そして本番前最後の日曜日。

 

「あれが! かの有名な太陽の塔やで!」

 

 万博記念公園駅で降り、桜夜が北を指した先に、両腕を広げて顔がついた塔が見える。

 

「あれが芸術は爆発だの方が作った塔ですか」

「中に入れるようになったんですよね!」

「予約で一杯やけどなー。私は空いたら行こっと」

 

 今日行くのは塔とは逆の南側だ。

 かつては遊園地があったが、不幸な事故により閉園となった。

 今は商業施設が作られ、遊園地の面影はどこにもない。

 

「うち、こっちの方に来るのは初めてです!」

「そうなん? なら丁度よかったやん。ニフレル面白いでー」

(ニフレルって、結局何なのかしら)

 

 建物の前まで来たが、白一色の外観からはよく分からない。

 入ってからのお楽しみと、桜夜には聞かずに足を踏み入れてみたが……

 おしゃれな空間に並ぶ水槽に、姫水と勇魚はその場で固まった。

 

「す、水族館だったんですね……」

「あと動物園! 先の方にカピバラとかいるで」

「そ、そうですか……」

「ん? 姫水は動物は苦手?」

「いえ……普通です」

 

 心配そうな勇魚の視線を受けながら、姫水はいつものように笑顔を貼り付けた。

 

 

「わーい! カメレオン!」

 

 職員のお姉さんが腕に乗せている爬虫類に、大喜びの桜夜とともに見学に加わる。

 解説が始まる中、勇魚が小声で話しかけてくる。

 

「姫ちゃん、大丈夫?」

「平気よ。何も感じないだけだから」

 

 大好きなはずの動物たちを間近に見ても、テレビ越しに見る程度の現実感しかない。

 改めて、自分が欠陥人間なのを確認した。

 それだけのことだ……。

 

「勇魚ちゃんは、気にせず楽しんでね。桜夜先輩を見習って」

「う、うん……先輩は、ほんま楽しそうやね」

 

 話しぶりからすると何度か来ているはずなのに、無邪気な子供のように目を輝かせている。

 今の姫水には、どうあっても真似できない姿だ。

 一方の勇魚は、言われた通りに見習ってテンションを上げていく。

 

「先輩先輩! このホワイトタイガー、アクアちゃんって名前です!」

「勇魚はほんまにAqours好きやなー。それはええけど、私らも全国行くから戦うことになるんやで」

「そ、それはちょっと、うちには想像できないです……」

 

 混ざれそうな会話に、姫水は動物のことは忘れて桜夜に尋ねた。

 

「桜夜先輩は、Westaが全国に行けることを信じてるんですね」

「だ、だって立火が先輩たちと約束したし。立火を嘘つきにはできひんやろ」

「ふふ、そうですね」

「あーもう、立火のこと好きとかとちゃうからね。ただの相方!」

 

 勇魚と顔を見合わせて笑い合う。

 本当にこういうところは、外見とは別の意味で可愛い先輩だ。

 

 

 *   *   *

 

 

 観覧車に乗った後、お昼にタイ料理屋に入った。

 

「うわ、姫水のめっちゃ辛そう! 大丈夫?」

「ええまあ、少し刺激が欲しいというか……」

 

 どす赤いスープを口に運ぶが、舌が痛いだけで何の効果もなかった。

 そういえば医者から言われていた。『離人症患者は現実感欲しさに自傷行為に走ることがあるから、気を付けるように』と。

 アホな行動を後悔する姫水の前で、桜夜はにこにことガパオライスを食している。

 

「二人とも、ここは私がおごるからねー。遠慮なく食べるんやで」

「そ、そんなの悪いです! 桜夜先輩、いつもお金ない言うて困ってはるのに!」

「ぐふっ。い、いや、今日はほんま大丈夫やから」

「勇魚ちゃん、ここは後輩として先輩の顔を立てるところよ」

「うーん、分かりました! ごちそうになります!」

「うんうん、二人は素直で可愛ええなー。夕理に爪の垢を飲ませたいくらいや」

 

 などと、マンゴージュース片手に安請け合いしたのはいいが……

 いざ会計の段になると、桜夜がレジの前で固まっている。

 疑問符を浮かべた姫水たちの方へ、青い顔の先輩はゆっくりと顔を向けた。

 

「ごめん二人とも、千円貸して……」

「………」

 

 

「おっかしーなー、足りると思ったんやけどなー。この前水着三着買うたのがあかんかったかー」

 

 駅へと戻りながら首をひねる桜夜に、結局割り勘で払った姫水はにこやかに言った。

 

「桜夜先輩、本当に来年卒業して大丈夫ですか? もう一年やり直しては?」

「ねえ勇魚! 姫水が冷たいんやけど!」

「せ、先輩のことを心配してるんです! たぶん!」

「そもそも受験生が水着買ってどうするんですか? 今日だって遊んでていいんですか?」

「勇魚助けてえええ!」

「ひ、姫ちゃん、そのくらいにしてあげて……」

 

 そろそろ勇魚の約束の時間なので、モノレールに乗って梅田へと向かう。

 千里中央で乗り換える最中、姫水は隣で喋り続けている桜夜の横顔を見た。

 

(勇魚ちゃんが行っちゃったら、私は残りの休日をこの先輩と過ごすのかしら)

(まあ、別にいいけれど……)

 

 勇魚も二人のことを考えていたのか、梅田に着いて別れる時に手招きされた。

 顔を近づけた姫水の耳に、小さな声が届く。

 

「病気のこと、桜夜先輩に話してみたらどうやろ?」

「!?」

「細かいこと気にせえへん先輩やから、逆にええかも!」

「勇魚ちゃん……」

「ちょっとー、何やねん内緒話してー」

「す、すみません、幼なじみの話です! ほな先輩、今日は楽しかったです!」

「うんっ、次は一日コースで頼むで!」

 

 元気に手を振って去っていく勇魚を、姫水はざわめく胸で見送る。

 周囲に病を隠していることを、やはりよく思われていないのだろうか。

 

(でも話したって相手に気を遣わせるだけで……何が解決するわけでもないし……)

(まあ、桜夜先輩なら特に気とか遣わなさそう……ではあるけど……)

「うーん」

 

 姫水が悩んでいる一方で、桜夜も別のことで悩んでいた。

 勇魚の姿が消えてから、正直な感想を隣の子へ話す。

 

「勇魚って確かに可愛えんやけど……実際遊んでみると、ちょっと物足りない感じやなあ」

「は!?」

「い、いや別に勇魚が悪いんやなくて!」

 

 幼なじみのことだとすぐキレる姫水に、大慌てで弁解する。

 

「ほら、勇魚って誰にでも同じような態度やろ?」

「それはもう、誰にも分け隔てなく接するのが長所なので」

「でもそれが物足りないねん、愛に飢えてる私は!」

 

 叫んだ桜夜は、姫水に顔を近づけ重々しく言った。

 

「ぶっちゃけて言うと、立火より私の方を尊敬してる後輩が欲しい」

「ぶっちゃけ過ぎではないでしょうか……」

「花歩は完全に立火に取られてるしー。夕理はアレやし、つかさは調子ええことしか言わへんし。

 勇魚も駄目なら、頼みの綱は姫水だけや! 立火より私の方がいいよね!?」

「と言われましても……」

 

 姫水は大いに熟考し、所見を述べる。

 

「立火先輩はリーダーとして真剣に皆を引っ張ってますし、私も素直に尊敬しています。

 それに対して桜夜先輩の尊敬できるところですか……。思いつかないので、自己申告していただけませんか?」

「なんか真顔で酷いこと言われてる!!」

「申告がないなら判定を下しますが」

「待って! 分かった、今からええとこ連れてったるから!

 私の地元行こ、天神橋筋商店街! 東京って商店街はあんまりないやろ!?」

「あるところにはあるようですが、住んでいた近くにはありませんでしたね」

「ほんまええとこやで~。JRで一駅やから、さっそく行こう!」

 

 そう話す現在地は地下鉄の梅田駅前。

 JRへ行くには、梅田ダンジョンと呼ばれる複雑な迷路を通らなければならないが……。

 

「ま、私は何度も来てるから! 私についてくればバッチリやで!」

「ふふ。ではさっそく、尊敬できるところを見せていただきますね」

 

 そして数分後。

 

「あ、あれ? 確かこっちやと思ったんだけど……」

「……先輩。案内図がありましたので、私が誘導します」

 

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