ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 炉とかまどの女神 ☆

「かーわいいー!!」

 

 部室に戻ると、桜夜が大はしゃぎで衣装姿の花歩をスマホで撮り始めた。

 いえ可愛いのはあなたの方です、と言いたくなる。

 立火も親指を立てて誉めてくれて、何とも照れくさい。

 

「初々しくてええな!」

「私たちにもこんな時代があったんやねえ」

「せやな、もう四十年も前になるか」

「私らいくつやねんっ」

 

 三年生がまたコントを始めた隣で、晴が小都子と何か話している。

 

「サイズはどうやった?」

「去年の波多野先輩と同じやね」

「ちょっ、ネットに数字公表したりしませんよね!?」

「衣装作りの参考にするだけや。そんなに心配ならホームページチェックしたらええやろ」

 

 花歩と晴のやり取りに、立火が指示を追加してくる。

 

「というか時間ある時に見といてくれる? 晴の力作やで」

「あ、はい。帰ったら確認します」

「別にあの程度のサイト、普通ですよ」

「またまたー。晴が来る前はめっちゃショボかったで」

「みんな機械オンチやったしなー」

 

 昔話に花が咲きかけたところで、部長が軌道を元に戻した。

 

「ほな、ちょっと一曲やってみようか!」

 

 

 *   *   *

 

 

 残念ながら、その後の練習はあまり楽しいものではなかった。

 μ'sの時代と大きく変わったのは、中学校でダンスが必修化されたことだ。

 花歩も中学でストリートダンスを習ったし、多少はできると思っていたのだが……

 

「あいたっ!」

 

 スクールアイドルのダンスは思ったよりハードだった。

 盛大に転んで、慌てた立火に助け起こされる。

 

「ごめんごめん、いきなり難しいのやり過ぎたわ。最初はもっとゆったりした曲を……」

「うちは基本、速いテンポの曲ばかりですが」

「去年一回だけバラードやったやろ!」

「あれ正直不評やったやないですか」

 

 やっぱり現実は甘くなかった。

 衣装だけでアイドル気分になっていたけど、結局はこんなものだ。

 

「あ、あの、お気になさらず。全国目指してるのに、私なんかの基準に合わせないでください」

 

 いくら一年生とはいえ、さすがに足を引っ張りたくはない。

 先輩たちが困り顔なのを見ると、やはりできる人は最初からある程度できるのだろう。

 自分の立ち位置を理解して、素の弱虫が顔を出す。

 

「あの……ほんまはもっと、優秀な子をスカウトしたかったですよね」

「な、何言うてんねん! まだ始めたばかりやろ!」

「せやで! 花歩は可愛いから優秀でなくても許されるで!」

「桜夜先輩フォローになってません!」

 

 上級生たちが慌てて取りなす中、晴だけが冷静に事実を指摘した。

 

「確かにこの前は、有望な新人を入れようと話していた」

「おい晴!」

「そ、そうですよね……あはは……」

「しかし選り好みをできる状況ではない。花歩には何としてもモノになってもらう」

 

 床にへたりこんだままの花歩の前に、しゃがんだ晴の目が相対する。

 その冷たい視線は、弱音すら許してくれそうになかった。

 

「それにスクールアイドルは技術だけではウケない。物語が大事なんや」

「も、物語?」

「廃校を阻止したとか、阻止できなかったけど名前を残すとかな。醜いアヒルの子が必死で努力しステージで羽ばたいた……なんてことが起きれば、世間は感動し、我が部の全国行きに貢献すること間違いなしや」

「そ、そう。成長型主人公になれってことや!」

「成長型主人公!」

 

 立火の言葉で一気にイメージが具体化する。

 花歩が今まで読んだ漫画には、確かにそういう主人公も結構いた気がする。

 

「わ、私も主人公になれるんでしょうか! こんなに脇役っぽいのに!」

「せやで! 頑張ればなれないものなんてないで!」

「つまり根性ってことですね!」

「そういうことや!」

 

 そう言われると、最初が駄目なのは逆に物語としておいしい気がする。

 すごい先輩たちがいる以上、主人公になれるのは再来年かもしれないけれども。

 とりあえずはそれを信じて、細々と根性で続けてみよう。

 勢いよく立ち上がる花歩を見つつ、桜夜が小声で小都子に尋ねた。

 

「私は何やろ? 天才型主人公?」

「そ、そうですね……(主人公の友人役かな……)」

 

 

 *   *   *

 

 

 18時が近くなったので、その日の練習は終わった。

 制服に着替えて机を元に戻し、最後に軽く打ち合わせをする。

 

「実は私たち、作曲ができる奴が必要なんやけど」

「はあ、作曲……」

「花歩って実は天才作曲家だったりする?」

「んなわけないやないですか!」

「おっ、いいツッコミやな」

「うう、特技とか何もないです。ほんますいません……」

「なーに、私たちも芸術的センスはサッパリやで」

 

 立火が得意げに言うが、スクールアイドルがそれで大丈夫なのだろうか。

 とにかく明日からは作曲者も探すということで、花歩の部活初日は解散となった。

 鍵を返しに行った立火を除き、三人の先輩たちと話しながら歩いて、昇降口でさよならの挨拶をする。

 

(部活が終わる時間ってどこも六時なのかな。勇魚ちゃんと一緒に帰れるかも)

 

 靴に履きかえたところで、連絡しようとしてスマホを手に取るが、二時間前に向こうから連絡が来ていた。

 

『今日はボランティア部はお休みやって(T T) 先に帰るね』

(あらら)

 

 いきなり休みとは、あまり盛んではない部活なのだろうか。

 仕方ないので、明日直接話すことにした。きっと入部を喜んでくれるだろう。

 そのまま一人で帰ろうとして、大事なことを忘れていたのに気付く。

 慌てて上履きを取り出し、校舎内にとって返した。

 

「あの、先輩っ!」

「お、どしたん花歩。忘れ物?」

 

 職員室から戻ってきたらしき、廊下を歩いている立火をつかまえた。

 

「結局私、先輩のことどう呼んだらいいんでしょう!?」

「あー、そういやその話途中やったな」

 

 足を止めて、ひらひらと手を振りながら言う。

 

「別に好きに呼んでええよ? 広町でもりっちゃんでも」

「ううっ、そういうのが一番困るんですが……」

 

 普通なら『広町先輩』なのだろうけど、何だか遠くに感じてしまう。

 小都子は『立火先輩』と呼んでいた気がする。やはりそれが無難だろうか。

 

「そういえば岸部先輩は、部長って呼んでましたよね」

「あいつにとっては役職の方が大事なんやろな」

(それはちょっと冷たいかなあ)

 

 候補から外そうとした時、立火が少し小さな声で言った。

 

「あのな」

「は、はい」

「私、ちゃんと部長に見えてる?」

 

 僅かに目を逸らして、ちょこちょこと頬をかきながら。

 意外な言葉だった。

 花歩にしてみれば、そんなの疑問の余地もないことだったから。

 

「も、もちろんです! すっごくリーダーって感じやし、誰が見ても部長って思いますよ!」

「そ、そっか……うん、それやったらええねん」

 

 一生懸命断言する花歩に、立火ははにかむように笑う。

 

 たったの数日で、この人の色々な顔を見た気がする。

 入学式ライブの堂々とした顔。

 見学の際の怖そうな顔。

 二度目の見学で、扉越しに見た弱々しい横顔。

 部員たちと話している時の楽しそうな顔。

 そして今の控えめな笑顔。

 

「も、もし良かったら……」

「ん?」

 

 まだ出会ったばかりだし、知らないことも多いのだろうけど……

 それでも今、この人が喜ぶことをしてあげたいと思った。

 

「部長のこと、部長ってお呼びしていいですか!?」

 

 できたばかりの後輩の言葉に、新米部長は一瞬驚いたが……

 すぐにまた、新しい表情を見せてくれた。

 

「うん――そう呼んでくれたら、めっちゃ嬉しい」

 

 弾けるような、心からの笑顔を。

 

 

 *   *   *

 

 

「え、スクールアイドル部に入ったの!?」

 

 眼鏡以外は自分と瓜二つの顔が、驚きに目を見開いている。

 丘本芽生(おかもと めい)

 自室で報告した花歩に対し、双子の妹の反応は、やはりというか『意外』の二文字だった。

 

「へ、変かな?」

「いや変ってことはないけど、今までそんな素振り全然なかったやん」

「まあ、自分でも激流に飲まれたって感じやけどね」

 

 たったの三日で色々なことがあった。

 一年生が自分一人なのが、正直かなり不安だけれど。

 明日からは協力して、部員集めを頑張らないと。

 そんな思いを巡らせている姉を見て、妹は腕組みして考える。

 

「うーん、それやったら私もスクールアイドル部入ろうかなあ」

「おっ、ええんやない。そっちのグループも強いんやろ?」

 

 成績優秀な芽生は、進学校である天王寺福音学院に進んだ。

 前回予備予選の二位、小白川和音率いる『聖莉守(セリス)』が属する学校だ。

 

「まあ伝統あるグループやし、私なんかがレギュラーになれるか分からへんけど……」

「大丈夫やって! 姉妹対決なんて感動的な物語やと思わない?」

「もー、私相手なら勝てると思ってるやろ」

「てへへ」

 

 芽生は頭がいい分、運動は苦手だ。今日はダメダメだった花歩でも勝算はある。

 ちょっと情けない話だが、生まれる前から一緒の姉妹だ。許してくれるだろう。

 

「そうそう、ホームページ見とけって言われたんやった」

 

 思い出してスマホを点灯する。

 Westaで検索して、すぐに見つかった。

 

 確かに企業サイトと見紛うばかりの力の入ったサイトだ。

 過去の記録や動画も分かりやすくまとめられているが、何しろ五年分だ。全部見るのは結構な時間が必要だろう。

 花歩の紹介はまだアップロードされていないようだ。

 

「あ、これ見たらええんやない」

 

 芽生が指し示したのは『Westaの由来』と書かれたページだった。

 さっそく開いて、二人で顔を近づけ読み始める。

 

【挿絵表示】

 

『関西の大阪市、その西にある住之江区ということでWest。

 そしてローマ神話の女神Vesta。

 これを組み合わせて作ったグループ名がWestaです』

 

「女神の名前を使うのはスクールアイドルあるあるやね」

「へー」

 

『女神Vesta(ウェスタまたはヴェスタ、ギリシャ神話のヘスティア)は、家庭の守り神として知られています。

 Westaの初代メンバーは家庭的な人が多かったこともあり、この名がつけられました。

 その後代が替わりメンバーも入れ替わって、今では家庭的のかの字もなくなりましたが、まあ細かいことはええねん! 大事なのはノリや!』

 

「割といい加減やな」

「あ、あはは……」

 

『それでも一つこじつけるなら、ウェスタは炉とかまどの女神でもあります。

 自然に発生した火ではなく、人が人の意志で起こした火と炎。

 オリンピックの聖火も、ヘスティアの巫女が灯したと伝えられています。

 私たちもまた、自らの胸に灯した火を燃え盛らせてみせます。

 大きな炎となって、多くの人に熱を伝えられるように!』

 

「………!」

 

 この文章は晴が書いたのだろうか。

 ちょっと感動している花歩に、芽生が補足を入れる。

 

「ヘスティアゆうたら、これといったエピソードのない影の薄い女神やね」

「あ、そう……」

「それでもオリンポス十二神の一柱ではあるし、良識のあるいい神様や」

 

 そう言って、妹は温かな目で、デビューを果たした姉の姿を見た。

 

「花歩には合うてるのかもね」

 

 花歩は言葉では返さずに、きゅっと自分の胸を押さえた。

 ここにあるのは、きっとまだ小さな種火だ。

 聖火なんて呼ばれるものにするのは、きっと多くの燃料が必要だろう。

 

 それでも確かに燃え始めたのだ。

 灯してくれたあの人の――

 

(――部長)

 

 主人公になる可能性を与えてくれた人の、その期待に応えたい。

 その想いがきっと燃料になる。

 いつの日か熱く、燃え盛る炎のために。

 

 

<第3話・終>

 

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