ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート6 Supreme Love ☆

 混雑する楽屋で着替えを終えたWestaは、本番前の最後の時間を過ごす。

 

「みんな可愛ええなー。眼福眼福」

「人の着替えをジロジロ見ない! 緊張感のないやっちゃなあ」

 

 桜夜を叱る立火だが、ファーストライブよりもリラックスしている相方に、少し安心する。

 こういう賑やかな方が性に合っているのだろう。

 小都子も三回目とあって緊張はなく、姫水とつかさもいつも通り。

 夕理だけが少し固かったが、Golden Flagへの大歓声が楽屋にも届くと、目の色が変わった。

 

「あの歓声を絶対上回ってやりましょう!」

「分かりやすくてええな。みんな全力でいくで!」

「勇魚ちゃんの分もですね」

「姫水の言う通り、今頃頑張ってる勇魚の分も込めてや!」

「Westaさん、舞台袖へお願いしまーす」

 

 スタッフに先導され、前のグループがライブ中の舞台袖へ移動する。

 目の前で踊る生徒たちはチンドン屋の格好で、完全にウケ狙いのようだ。

 様々なポリシー、様々な想いを形に、誰でも観客に向けて発表できる場所。

 ライブが終わって退場する姿を見ながら、立火は相方に小声で伝える。

 

「ほな、今日はセンターが掛け声を頼むで」

「え、私? うーんと……」

 

『続きましてはエントリーNo.68、住之江女子高校、Westa』

 

 アナウンスが終わる前に、桜夜はにっと笑ってピースを決めた。

 

「シュークリーム!」

『ラブ!!』

 

 桜夜と姫水を先頭に、メンバー達は舞台に躍り出る。

 夕理の瞳には、三階まで満杯の客席が映った。

 ラブライブ。

 他に楽しみのない自分が、ずっと追いかけてきた大会。

 

(――私が、こちら側に立つ日が来るなんて)

 

 感慨にふける間もなく、可愛らしい旋律が流れ始める。

 ステップを踏み出す桜夜の後ろ姿は、いつもの困った先輩とは別人に見えた。

 

『キミの瞳を 釘付けにするMagic!』

 

 

 *   *   *

 

 

(こっ、こうきたか!)

 

 急いで着替えてきた光を連れ、二階席に駆け上がった暁子は意表を突かれていた。

 熱血お笑い系か、はたまた先日のような芸術系かと思いきや、どれとも違う超ラブリー系だ。

 桜夜と姫水という、黙って立ってても人目を引く美少女が、可愛らしさで殴りつけてくる。

 歌、振り付け、表情、全てを総動員して。

 

(くそ……アホのくせに……!)

 

 歯噛みする部長の隣で、光が目を丸くして見入っている。

 

 

 共に歌い踊りながら、姫水が桜夜に向けるのは羨望だった。

 

(ああ――何て楽しそうなんだろう)

(私はどうして、こんな風になれないんだろう)

 

 無数の視線とライトを浴びながら、それに現実感のない自分に対し、桜夜は確かに存在していた。

 どや! 私は可愛いやろ! と自信満々の笑みを浮かべて。

 自分が小狡い下心で作った歌詞さえも、この先輩は素敵なものと信じて歌っている。

 それは今の姫水には、決して手の届かない姿だけれど――

 

(でも――だからこそ、私にできることがある!)

 

 桜夜が可愛く見えるように、美しさを引き立てるように、細かく動きを計算する。

 女優をしていた頃も、主役より脇役の方が多かった。

 それは単に、あまり売れてなかったというだけの事だったけど。

 脇役として全体を俯瞰し、主役のための光景を作り出すのは慣れていた。

 

『耳元でささやくの 抵抗はしないでね』

 

 観客に訴えかけながら、二人が近づいてハートを作る。

 目の前にはピンク一色のサイリウムの海。

 歓喜に染まる先輩に光を当てつつ、姫水はすっと影に隠れ――

 

『Supreme Love!』

 

【挿絵表示】

 

 最後に桜夜が投げキッス!

 場内は魅了されたように、拍手と歓声で隙間なく埋め尽くされる。

 メンバー全員で手を振りながら、今日は端で踊っていた立火は、いつも以上に満足だった。

 

(大したもんやろ、私の相方は!)

 

 昨年まで五人の三年生に隠れ、単なるマスコットのようだった桜夜にとって、今日が本当のデビューなのかもしれない。

 本人はそんな難しいこと、特に考えずに楽しんでるのだろうけど。

 

 

 思い切り拍手しながら、光は部長の苦い顔を覗き込む。

 

「木ノ川先輩、可愛かったですね!」

「顔のええ奴ってホンマ得やな……」

「それに……私、藤上さんを見くびってました」

 

 珍しく、光に反省の色が浮かんだ。

 

「あんな風に、他人を立てるやり方もあるけんな。覇気がないように見えたのは、今回はサポート役だったからかあ」

「うーむ、元々の性格の気もするが」

 

 暁子は頭を切り替えて、笑顔で光の背中を叩く。

 

「ま、お前はサポートなんて考えなくてええねん。常にステージの中心で、太陽みたいに輝いてくれ」

「はいっ!」

「さて、みんなと合流して帰るか。ここ混みすぎやなあ」

 

 光一人が頼りの自分たちに比べ、層の厚い強豪の力を見せつけられた。

 だが、暁子も負けるつもりはさらさらないのだ。

 

 

 *   *   *

 

 

「最高でした! 完璧でした!」

「せやろー? 花歩も私に惚れ直したやろ!」

 

 着替えを終えてロビーに出た一同は、感激する後輩の称賛を浴びた。

 桜夜と花歩がハイタッチする隣で、立火はまず参謀に尋ねる。

 

「客観的に見てどうやった?」

「今の我々としては会心の出来でしたね。

 ただウオッチャー情報によると、ナンインと聖莉守も相当良かったようです。

 投票結果がどうなるかは予断を許しません」

「そうか。まあ人事は尽くした。後は天命を待つだけや」

「Golden Flagは……いえ、いいです」

 

 夕理は言いかけて口をつぐむ。

 嫌いな連中だからこそ、自分の目で予断なく確認したい。

 何にせよ、初めてのラブライブを無事終えて、今は少し虚脱感があった。

 その夕理も含め、他のメンバーも花歩は労う。

 

「みんなも可愛かったでー。つかさちゃん、恥を捨てて開き直ってたね」

「しゃあないやろ! 正面にカメラあるし、恥ずかしがってたら余計目立つわ」

「ふふ。花歩ちゃんと勇魚ちゃんも加われば、もっと可愛くなりそうやねえ。来年もこの路線でいこか?」

「ちょっ、小都子先輩、カンベンしてくださいよ~」

 

 なんて言いながらつかさ達が笑っていると、スタッフから注意を受けた。

 

「混雑してますので、終わったグループは退出してくださーい」

「おっと、あかんあかん。おいとましよか」

 

 余韻も何もなく追い出される途中、姫水の耳に、隣を歩く桜夜の声が届いた。

 

「姫水、ありがとね」

 

 思わずその整った横顔を見る。

 何も考えずに言ったのか、それとも今まで誤解していただけで、実は色々考えているのか……。

 詮索するのも無粋なので、姫水もまた、桜夜だけに届くように答えた。

 

「こちらこそ。まるで――現実のような時間でした」

 

 

 *   *   *

 

 

 京橋に帰る電車の中で、暁子は葛に車両の端へ連れていかれた。

 他二人のステージメンバーも同行し、暗い顔で葛の言葉を聞く。

 

「ツイッターの評判を見ても、やはり私たち三人がネックになってる」

「せやな」

「せやなとちゃうやろ。外れるか、せめて湖国長浜みたいに、目立たないところでひっそり踊る方が……」

 

 暁子は答える代わりに、車両の真ん中にいる光を見た。

 仲間の部員たちと、笑いながら今日の感想などを話している。

 

「光はああ見えて、先月は少しホームシックやってん」

「そ、そうやったん!?」

「そもそも十五歳なのに親元を離れて、知る人もいない大阪に一人で来てんねんで。その上、ステージで一人にするわけにはいかへん」

 

 勝利も成功も大事だが、まずは光の幸せが最優先だ。

 それができないなら、最初からスカウトなどして、彼女の人生を変えるべきではない。

 負担をかけている三人に、暁子は深々と頭を下げる。

 

「みんなも色々言われて辛いとは思うが、光のためや。何とか頑張ってほしい」

「わ、私は別にええです。光ちゃんのためやったら!」

「でも、それで予選で負けたら元も子も……」

「それは大丈夫」

 

 下級生たちにそう返す暁子の目は、もはや修羅の領域に踏み込んでいた。

 

「ラブライブはパフォーマンスが優れた方が勝つんやない、投票された方が勝つんや。

 そして、票は金で買える!」

 

 

 

「私がゴルフラの部長なら、票を金で買いますね」

 

 駅へ戻る途中、さらりと言う晴に一同は仰天した。

 怒りのあまり声も出ない夕理に代わり、つかさが質問する。

 

「え、一票入れてくれたら千円あげる、みたいな?」

「さすがにそれは叩かれるし、コスパも悪い。

 インフルエンサーに頼んで拡散してもらうか、まとめサイトでも作るか……。

 いや、素人が考えてもしゃあないな。広告会社に任せるのが妥当か」

「うわー、そこまでしますかね」

「そこまでしても公式ルールには違反しない」

 

 絶句するメンバーたちに、晴は明るい情報も提供する。

 

「とはいえ先方の収支報告を見ると、残り300万を切っている。

 ここで金を使ってもらえば、さらに資金力を削れるやろうな」

「私たちは一体何の勝負をしてるんや……」

「部長、現実を直視してください」

「あの、先ほどから考えてたんですが」

 

 小都子がそっと手を上げた。

 生々しい話は嫌だが、投票にはどうしてもそういう面がある。

 

「私たちはどこへ投票しますか?

 一人二票ですし、一票は自分たちとしても、もう一票は……」

「え、どういうこと?」

 

 好きに入れたらええやん、という顔の桜夜に、姫水が解説する。

 

「Westaの予選突破の可能性を少しでも高めるには、投票しないか、上位になりそうもないグループに入れた方が得策ということです」

「そうなん? 立火、どないすんの?」

「せやなあ……」

 

 夕理がジト目で部長の回答を待っている。

 どういう結論が正解なのか……。

 地下鉄の入口で考えていると、不意に声をかけられた。

 

「広町! もう帰るとこ?」

「おっ、国枝やないか」

 

 駅から出てきた一団の、先頭に立つのはショートカットの女生徒だ。

 花歩は見覚えがある。天王寺福音に行ったときに、チラシを配っていた人。

 そして今はその所属も知っている。やはりWestaとランキングを争っていた、淀川中央高校『爽wing』のリーダーだ。

 

(動画を見た限り、名前の通り爽やかなグループやったなあ)

「広町にしては難しい顔してたやないか。上手くいかへんかったん?」

「いやいや、私たちのライブは……」

 

 立火に促された桜夜が、ライブを思い出してドヤ顔をした。

 

「こんな感じや」

「それは何より! 私たちはラストの97番や。そっちに負けないよう、しっかり締めてくるで!」

「ああ、動画を楽しみにしてる!」

 

 すれ違いながら、他の部員たちも気持ちよく挨拶していく。

 爽やかな風のようなグループを見送り、立火は先ほどの結論を出した。

 

「好きなとこに投票してええで! せこせこ一票を気にするより、正直に生きよう!」

「後悔しませんね?」

「せえへん! 勇魚もその方が嬉しいやろ」

 

 晴に対して言い切った部長に、夕理も他の部員もほっとする。

 投票先を選ぶ楽しみが増えたと同時に、花歩は実作業を考えて尻込みした。

 

「90個も動画見るの大変やなあ。夕理ちゃんは全部見るの?」

「当然や。自分の目で見ないと、公平な判断はできひんやろ」

「うわあ、後でお薦め教えて」

「私の言うてること理解してる!?」

 

 一同は笑いながら、四ツ橋駅へと降りていく。

 出来が良かっただけに、皆にはあまり不安はない。

 勝てば勝ったで、次は格段に厳しい戦いが待っている。

 今は、束の間の休息だった。

 

 

<第17話・終>

 

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