ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート4 関西の精鋭たち ☆☆

「結局夕理は、正々堂々玉砕する気ってことでええの?」

 

 奇跡を信じていない夕理は、電車の中でつかさから尋ねられた。

 

「か、勝ち抜けへんことは覚悟してるけど……。

 でも一つでも順位を上げたいし、一人でも多くの人の心を動かしたい。そのために頑張る!」

「まあ、あたしも日曜を犠牲にしたんやし、最下位は嫌やな」

「いくら何でもそこまで悪くはないと思うで」

「ならええんやけど」

 

 環状線は大阪駅を過ぎ、大阪城公園へと向かっていく。

 

 

 *   *   *

 

 

「立火せんぱーい! 花ちゃーん!」

 

 城の石垣を横に見ながら、公園内をホールへ向かう立火と花歩に、勇魚と姫水が追いついてきた。

 花歩が慌てて友人たちに謝る。

 

「今朝はごめんね。急に一人で行っちゃって」

「ええでええで! 幸村さんの神社にお参りなんて、めっちゃ気合入ってるやん!」

 

 純粋に奮起のためと思っている勇魚の一方で、姫水は花歩の耳元で小声でささやく。

 

「立火先輩とは何か進展した?」

「な、何言うてるんや姫水ちゃん! ほんまにもー!」

「うん? 姫ちゃん、何の話や?」

「勇魚ちゃんは、こんな下世話なことには興味を持たなくていいのよ」

「どーせ私は下世話ですよ!」

 

 ぷんぷんしている花歩と、それを慰める姫水と勇魚を見ながら、立火は重い責任を感じる。

 今日帰るとき、何とか彼女たちが笑顔でいられるようにしなくては……。

 

 

 城ホールのロビーに入り、冷房に一息つく。

 まだ観客はおらず、関西の精鋭が既に何グループか集まっている。

 予備予選とは真逆の空気、静寂と緊張感に満ちた場所。

 少し脇の方に小都子と晴が来ていた。

 

「おはようございます。立火先輩、私、サブセンターを全力で努めますね」

「ああ、夕理のためにも頼むで小都子!」

「聖莉守はもう来ています」

 

 晴が指した先では、聖莉守の部員たちが何かの祈りを終えたところだった。

 芽生に声をかけようとしたが、今日は競う相手だからと思い直す花歩。

 と、きょろきょろしていた勇魚が、ロビーの反対側に目当ての相手を見つけた。

 

「光ちゃんや! うち、ちょっと挨拶してきます!」

「お、おい勇魚」

「おーい! 光ちゃーん!」

 

 Golden Flagの面々が振り向くと同時に、勇魚は笑顔で挨拶した。

 

「皆さん初めまして! うちはWestaの佐々木勇魚! 勇魚って呼んでや!」

(補欠の一年生か……光以上に馴れ馴れしいやっちゃな)

「そうなんだ、よろしくね」

 

 暁子が引く一方で、光は表面的には笑顔で返す。

 彼女の家族は無事だったが、畑は豪雨で目茶苦茶になり、交通も寸断された。

 それでもラブライブのためにと、故郷を頭から追いやって頑張る光を、他の部員たちは見てきたし、見ているしかできなかった。

 そして本番の今日も、光は努めて朗らかに振る舞う。

 

「予備予選ではおらんかったよね? 何か用事だったの?」

「あ、うちはボランティア部と掛け持ちやねん。あの時は地震の被災地に……」

「え……そうなんだ。えっと、もしかして、今回の豪雨でも?」

「あ、うん。今日はこっちに来てもうたけど、明日はまた行くから……」

 

 責められるのかと不安になる勇魚だが、逆だった。

 光の空元気は消え、目に涙を浮かべて勇魚の両手を握った。

 

「ありがと……!」

「う、うちが行ってるのは広島でなくて岡山やで?」

「それでも、ありがと。本当なら、私も行かなきゃいけんのに」

「何言うてんねん! 今の光ちゃんはスターなんや。ステージでできることがあるはずやで!」

「うん……」

「ほら、飴ちゃんあげるから元気出しや!」

「うんっ……」

 

 感極まってそれしか言えず、飴の包みを握らされる光に、勇魚は満足そうに破顔した。

 

「頑張ってや、光ちゃん!

 ゴルフラの皆さんも、一緒に全国行きましょうね!」

(いやアンタらは無理やで常識的に考えて)

 

 と考える暁子もさすがに言葉にはせず、お礼を言って勇魚を見送った。

 光は飴玉を口に放り込み、仲間たちへと振り返る。

 

「わはひ、へんりょくではんばりまふ!」

「いや食べながら喋るのやめとこ」

「っ!」

 

 無言でガッツポーズを作る光に、天才少女が本領を取り戻したことを、部員全員が実感した。

 

(これで私たちに問題はなくなった! 全国行き、十分狙えるで!)

(それにしてもWestaさん、ここまで敵に塩送ってええんかいな)

 

 勇魚が戻っていった先では、立火が仕方なさそうに苦笑している。

 

 

 *   *   *

 

 

「おはよーっす」

「おはようございます」

 

 つかさと夕理も到着し、最後に桜夜が眠そうに登場した。

 

「おはよー」

「一番近いお前が、何で一番最後やねん」

「え、ええやろ。乙女は色々と用があるの!」

(桜夜先輩、あまり眠れなかったのかな……)

 

 先日の約束を思い返し、姫水は改めてロビー内の競争相手を見る。

 Number ∞の大所帯も既に来ていて、厚かましくもロビーの中央を占領している。

 その中の偵察部員が、緊張に上ずった声を発した。

 

「羽鳥や!」

 

 各グループが一斉にざわめく。

 入口からゆっくりと歩いてくる一団。関西のほぼ東端、滋賀は長浜からの来訪者。

 その先頭に立つのは、深い湖のような瞳と、どこか浮き世離れした神秘性をまとう三年生。

 前回、前々回の地区予選を、事実上一人で制した彼女こそ――。

 

羽鳥静佳(はとり しずか)!』

 

【挿絵表示】

 

(この人が――関西の女王!)

 

 夕理も観客としては何度か見たが、間近で見るのは初めてだ。

 化物かラスボスかという視線を大勢から向けられ、静佳は諦観したように微笑んだ。

 

「えらい怖がられようやねえ。ただの女子高生やのに」

 

 その声を聞いただけで、夕理の背筋に電撃が走る。

『湖の歌姫』。

 歌声だけでなく、普段の言葉ですら魔力を帯びているかのようだった。

 

 王者だからと奢ることもなく、LakePrincessは謙虚にロビーの端へと歩いていった。

 小都子が額に浮かんだ汗をぬぐう。

 

「あ、相変わらずえらい迫力やねえ」

「なんか住む世界が違う感じですね。やっぱり二位から四位狙いですかね……」

 

 花歩の言うことには夕理も同感だが、だからといって平伏はできなかった。

 

「私は、あのグループは好きになれへん」

「夕理ちゃん、相変わらずやなあ」

「スクールアイドルは皆で力を合わせるものや。一人の天才だけで全てが片付くなんて、確かにすごいとは思うけど、そんなの寂しすぎる……」

「ま、夕理みたいに思う奴が多いから、あいつも全国では優勝できひんのやろ」

 

 立火は虚勢半分で上から言うが、しかし予選レベルでは圧倒的なのは事実だ。

 強い敵ほど倒しがいがある、などと以前言ったことが、今の状況でも言えるかどうか迷っている時だった。

 LakePrincessが立ち止まったあたりで、激しい声が上がった。

 

「やめろ堀部!」

「殿中にござる! 殿中にござる!」

『!?』

 

 別の学校の生徒が一人、静佳に日本刀を突きつけている。

 ロビーの全員が仰天する中、立火はその制服に見覚えがあった。

 

(あれは確か兵庫県トップ通過――)

 

 関西の西端、播州赤穂からの来訪者、鷹羽(たかばね)女学院。

 そのうちの一人が、高らかにグループ名を名乗る。

 

「我ら赤穂四七義少女(よんななぎしょうじょ)! 貴様に打ち滅ぼされた幾多のスクールアイドルの仇、今日こそは取らせてもらう!」

「まあ待て堀部。そういきり立たへんでも」

「大石! 貴様こんな時まで昼行灯か!」

 

 身内で会話しながらも、突き付けられた日本刀――もちろん模型はぴくりともしない。

 小芝居とは分かりつつ、場に緊張が走る中、晴が一年生たちに解説する。

 

「四十七人も部員が集まらなかったので、前衛四人後衛七人で四七義少女と称している」

「苦肉の策って感じっすね」

「部長は大石蔵奈さん。もちろん芸名で、本名は佐藤さん」

「スクールアイドルで芸名って……」

 

 つかさが呆れている間に、湖国長浜の部員が静佳の後ろからあざけり声を出した。

 

「さすが逆恨みは赤穂浪士の十八番やな!」

「な……何やと!」

「貴様、言うてはならんことを!」

 

 忠臣蔵をぶち壊しにする一言に、赤穂の急進派がいきり立つ。

 静佳は困ったように、身内の部員に苦言を呈した。

 

「椿。あなた部長なのに、何を率先して煽ってるんや」

「はっはっはっ。ラスボスは敵視されるのが宿命やで」

「おのおの方も、ここは我らの吉良邸ではない。今少しの忍耐や」

 

 大石に諫められ、鷹羽の部員たちも渋々刃を収めて引き下がる。

 ようやく落ち着きが戻った中、光がわくわくした目を王者に向けた。

 

「あれが羽鳥先輩かあ。ちょっと挨拶してきます!」

「ま、待て待て光! あいつだけはあかん!」

「えー、ダメですか」

(さすがの光でも羽鳥は格が違う……。二年後にようやく並べるかってとこやな)

 

 一方のWestaでは、つかさが意外そうな顔をしている。

 

「湖国長浜のお調子者っぽい人、あれで部長なんですか」

「ただのお飾りって感じやけどな」

「もー立火、相変わらず正直すぎや。もっと京都を見習うて、婉曲的に言わなあかんで」

「!?」

「『ええ神輿かついではりますなあ』みたいな感じでね!」

 

 いきなり後ろから声をかけられ振り返る。

 そこにいたのは一年と少し前、立火たちと一緒に活動していた少女だった。

 

「小梅!」

「立火、桜夜、おひさ! 元気やった?」

「わー、ほんまに小梅やー! 懐かしいなー」

「近いんやから会いに来てくれてもええのに」

「それはお互い様やろ、って着物!?」

 

 桜夜が目を見開いた通り、相手が身に付けているのは花蝶をあしらった着物である。

 

「楽屋で着付けするのは難しいから、京都から着てきたんや。あ、紹介するね。この二人がうちの三年生」

 

【挿絵表示】

 

 後ろでしゃなりとお辞儀したのは、扇を持った和風美人。

 そして眼鏡をかけたもう一人が、挨拶の握手を差し出してきた。

 

「初めまして。天之錦の部長、寿葵(ことぶき あおい)です。小梅から色々と話は聞いてるで」

「よろしく、広町立火や。小梅が迷惑かけてへんかった?」

「いややなー。私がそんなことするわけないやん」

 

 小梅の自信満々の態度に反して、葵は眼鏡越しに遠い目をする。

 

「転校してきた当初は、ほんま京都に勝手な幻想持って迷惑やった……」

「あ、あれ?」

「京都の人は日本の首都は京都なんて思ってへんからね! ぶぶ漬けとかも食わさへんから!」

「小梅お前……大阪の恥を……」

「そ、それはちょっと言うたかもしれへんけど、それくらいやろ? ね、胡蝶(こちょう)ちゃん?」

 

 胡蝶と呼ばれた長い黒髪の少女は、扇で口元を隠しながら溜息をつく。

 

「私もラーメン食べただけで、何で懐石食べへんのやって文句言われましたわあ」

「だ、だって胡蝶ちゃんは早蕨(さわらび)流の跡継ぎやろ!? それが天一のこってりなんて食べてたら、イメージぶち壊しっていうか……」

「あはは、ほんま小梅はアホやなー」

「桜夜にだけは言われたないわ!」

(あの人が日舞の家元の娘さんなんやー。かっこいい!)

 

 勇魚が立火とのLINEを思い出しながら、じっと胡蝶を見る。

 その目が合い、流し目で微笑まれて思わず赤くなった。姫水がむっとしている。

 

「ま、何にせよ今日はライバルや。お互い全国目指して頑張ろうやないか!」

 

 立火が威勢よく言うが、西陣今宮の面々は微妙な顔を見合わせた。

 葵と小梅がそれぞれ諦めたように話す。

 

「正直なところ、私たちは予備予選を突破できただけでも奇跡みたいなもんや」

「さすがにここまでが限界やなー。最下位でもしゃあないって思ってる」

「そ、そうか……」

 

 気勢をそがれる立火だが、しかし日舞でアイドルコンテストの上位は難しいのも分かる。お前がやれと言われても無理だろう。

 

「――とはいえ」

 

 言葉を継ぎながら、胡蝶が凛とした瞳を向けた。

 

「決して手え抜くいうことやあらしまへん。

 大勢の若い人たちに、日舞を知ってもらうええ機会や。

 京の伝統、とくとお見せいたします」

 

 幼い頃から修練を積んできたのであろう、自信に満ちた態度にWestaの皆も息をのむ。

 協会のスタッフがロビーに現れ、それを見た小梅が軽く手を振った。

 

「ほな、後輩たち待たせてるから。また終わった後にでも!」

「ああ、悔いのないステージにしよう!」

 

 小梅たちは去り、スクールアイドルも色々ですね、と夕理が感想を漏らす。

 Westaとは全く毛色の違うグループでも、小梅が変わらず楽しそうなのが、立火は嬉しかった。

 

 

「はい注目ー!」

 

 ロビーの中央で、スタッフが大声を上げた。

 公平を期すため、出演順はここで公表されるのだ。

 

「一覧を配りまーす。代表者は取りに来てくださーい。

 なお、和歌山代表の新宮速玉(しんぐうはやたま)高校は到着が遅れますので、最後の出演になりまーす」

 

 その地名に全員が納得する中で、唯一土地勘のない光が暁子に尋ねる。

 

「新宮ってそんなに遠いんですか?」

「紀伊半島の反対側やからな。特急でも四時間かかる」

「うわあ、広島より遠いや」

 

 立火が紙を受け取り、皆の元に戻る。

 関西7ブロックから各4グループ、計28の名前がそこには並んでいた。

 

「15番目! 真ん中でええな!」

「今度は、ゴルフラと立場が逆になりましたね」

 

 晴の言う通り、Golden Flagは17番。予備予選と同じ2つ差で、かつ前後が逆になった。

 

「前座にされへんようにせなな! 他に目立つのは……ナンインが貧乏くじか」

「貧乏くじ?」

 

 一年生が何のことかと覗き込み、瞬時に理解した。

 

No.11 Number ∞

No.12 LakePrincess

 

 桜夜がざまあと笑い、小都子が不安そうに眉を寄せる。

 

「これ全部の印象を羽鳥に持ってかれるやろ。戎屋の行いが悪いからやな」

「言うても私たちも結構近いですよね。間に二つ挟む程度で大丈夫やろか……」

 

 ほとんど台風みたいな扱いである。

 静佳には勝てない前提で話す上級生たちが、姫水は少し疑問だった。

 

(そんな姿勢で本当に全国へ行けるのかしら……)

 

 

 *   *   *

 

 

 スタッフに誘導され、アリーナ席の一隅に座らされた。

 今日はここで、自分の出番以外は観客として過ごすことになる。

 初めて来た花歩は、広大な空間に目を泳がせている。

 

「こ、こんなに大きいんですね……」

「このステージ構成なら、収容一万人くらいか」

「いちまん!?」

 

 晴が出した数字に仰天する。

 予備予選のオリックス劇場が確か2400席だから、一気に四倍だ。

 

「関西中のファンが詰めかけるし、ネットで見てる人はさらに多いんや。ステージ外でも恥ずかしいことはせえへんように」

「へーい」

 

 立火の説教に渋い顔の桜夜だが、一般客が入ってきたのを見て、きゃぴっと可愛い子ぶる。

(まさか、お姉ちゃん来てへんよね……)

 つかさが見渡すが、この広さでは観客の顔は判別できそうになかった。

 

 入場も終わり、場内の照明が暗くなる。

 が、唯一明るいステージは、開演時間を過ぎてもなかなか動きがない。

 客がざわめき出したところで、眼鏡の司会が慌ててステージに出てくると、大きく腕を突き上げた。

 

「みんなー! はっちゃけてるかーい!」

 

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