ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート3 リスタート ☆

「じゃ、今日はお開きでー」

 

 花火が始まる一時間前、彩谷ご一行は既に帰途についていた。

 天神祭の花火は神事の奉納用なので、混む割に大したことはない。

 彼女たちの本命は来週の淀川花火大会である。

 

「奈々! 先輩たちのことはくれぐれも内緒やで!」

「分かったってばー。いやー、今夜夢に出るかも」

 

 駅前で二人と別れてから、つかさは自分のトーク履歴を見た。

 家を出る前、小都子から届いた文章を。

 

『お願いつかさちゃん。

 ちょっとでええから、夕理ちゃんの様子を見てきてもらえへん?

 花歩ちゃんが天神祭に誘ったんやけど、断られたみたいで……』

 

 それへの返信は、自分でも恥ずかしいほど刺々しかった。

 

『何で自分で行かないんですか?

 失礼ですけど、夕理のことほんまに大事に思ってます?』

 

 姫水を天神祭に誘おうか小一時間迷って、どうせ勇魚と行くんやろな……と結局誘えず。

 そのイライラを小都子にぶつけてしまったのだ。

 

『思ってるで!

 でもあの、今日は堺の神社でもお祭りがあって、父の代わりに出なあかんことになって』

『小都子先輩っていつも八方美人ですよね。

 地区予選で思いましたけど、うちの先輩たちって案外頼りないですね。

 このままついていっていいのか疑問です』

『……ごめんねつかさちゃん。ほんまにその通りや。

 自分で何とかするね。ごめんなさい』

 

(やっちまったあ~~!)

 

 汗顔の至りだが、送った文章は取り消せない。

 小都子には明日謝るとして、お詫び代わりに彼女の心配を解消することにした。

 つまりは、夕理の家へ足を向ける。

 

(まあ、余計な心配とは思うねんけどな)

(大会で負けたくらいで、夕理が何日もうじうじするわけないし)

 

 お土産のりんご飴を片手に、夕理のマンションまで来た時だった。

 建物の前で、不審にうろうろしている人物がいる。

 何事!?と思いきや、頭のお団子が目に入った。

 

「小都子先輩!?」

「あ、つかさちゃん……来てくれたんや」

「神社の用事はもういいんですか?」

「抜け出してきちゃった。後で怒られるかも」

 

 てへへ、と困り笑いを浮かべる小都子は、浴衣姿で焼きそばのパックを持っている。

 先ほどのメッセージに答えてくれた先輩に、つかさは申し訳なく頭を下げた。

 

「す、すみません。あたし先輩の立場も考えず勝手なことを……」

「ううん、いつも周りに流される自分も、正直嫌になってたから。

 やっぱり、夏休みは少しくらい冒険せえへんとね」

 

 そう言いながら、小都子は目の前のマンションを見上げる。

 

「とはいえ、中に入る勇気が出せへんのやけどね。

 もう夜やし、夕理ちゃんの親御さんにご迷惑かなあって」

「あー……夕理の親なら、たぶんいないと思いますよ」

「え……?」

 

 つかさが先導して、遠慮なくマンションに踏み入れる。

 後からついてくる先輩の気配に、少しだけ声を落とした。

 

「夕理に言わせるのも酷なので、あたしから家庭事情を説明しますけど……。

 くれぐれも、同情はしないでくださいよ」

 

 

「夕理ちゃんっ!」

(同情するな言うてるのに!)

 

 玄関を開けて夕理の顔を見るなり、小都子はこらえ切れずに抱きしめていた。

 自分と会うずっと前から、この家で一人ぼっちだった後輩を。

 何事かと目を丸くしていた夕理も、つかさの表情を見て事情を察した。

 

「もう慣れてますし、逆に気楽なくらいです。

 それよりわざわざどうしたんですか。明日学校で会えるのに」

「ま、まあそうなんやけど、その前に顔を見たかったんや」

 

 久々に見る先輩の優しい顔に、夕理は一瞬ためらった。

 

(つかさ以外の人を、家に上げる――)

 

 こんな家でも、何度か来てくれたつかさとの思い出が詰まってる。

 ファーストライブの時の、あの二人きりの夜のことも、本当は何にも上書きされたくない。

 ないけれど……。

 

(……けど、必要なことや)

 

 上書きされたくないのは、まだ依存しているということ。

 小都子への尊敬を鍵にして、閉じた自分の心を頑張ってこじ開ける。

 

「二人とも上がってください。お茶を入れますね」

 

 どうにか自然に言えた夕理を、つかさが優しい目で見ていた。

 

 

 家具の少ない居間で、アイスティーを飲みながら小都子の焼きそばを分け合う。

 夕理には人生初の屋台の焼きそばは、正直微妙な味だった。

 先輩の懸念をまず解消しようと、つかさが質問を投げる。

 

「夕理は、どうせ作曲してたんやろ?」

「うん……負けて帰ってきてからすぐに」

「早っ!」

 

 ほら大丈夫でしょ、という顔のつかさに、小都子も安堵の笑みをもらす。

 だが、それとは別に夕理の顔に不安がよぎった。

 

「……うちの部、これからどうなるんでしょう」

「うん……」

 

 小都子としては何か保証してあげたいが、二年生の身では何ともしがたい。

 

「立火先輩があそこまで落ち込むとは思わへんかった。

 責任感じてはるんやろなあ……」

「あ、それならもう大丈夫そうですよ」

 

 うっかりポロリと言ったつかさに、二人の視線が集中する。

 奈々には口止めしておいて何だけど……。

 

「まあ、二人なら口固そうやしええか。

 実はさっき、天満宮の裏でですね……」

 

 

 秘密の逢引きについて、詳細な描写が語られる。

 小都子の顔は赤くなり、夕理はジト目で呆れていた。

 

「りりり立火先輩と桜夜先輩が!? へ、へー、お似合いやもんね!」

「アホらしい……どうせ漫才か何かやろ」

「いやいや、ほんまただならぬ雰囲気やったで。

 でもくれぐれも内密に! 花歩が傷つくから!」

「せ、せやねぇ。部内でそういうドロドロはちょっと……」

「ほんまにそうなら、いつか知ることやと思うけど」

「今は夢を見させてあげて!」

 

 とにかく、部活の方は何とかなりそうだった。

 一息ついたつかさが、勝手にリモコンを取ってテレビをつける。

 毎年この日に流れているのは、天神祭の生放送だ。

 

「もうすぐ花火みたいやな」

「え、もうそんな時間!?」

 

 小都子が慌てて立ち上がった。

 門限が厳しいのであろうことは、一年生たちにも想像はつく。

 

「ご、ごめんね夕理ちゃん。何しに来たんやって感じやったけど」

「いえ……心配してくれて嬉しかったです」

「先輩、駅まで送りますよ。あ、これ夕理にお土産」

「あ、ありがと」

 

 りんご飴を残し、つかさと小都子は慌ただしく出て行った。

 また一人になった家で、夕理は飴を舐めながら、テレビ内で始まった花火を眺める。

 花歩も見てるのかな、なんて考えながら。

 

 

「つかさちゃんは、ほんま頼りになる子やねえ」

 

 草履で速く歩けない先輩に歩調を合わせていると、いきなりそんなことを言われた。

 

「なんですか突然。誉めても何も出ませんよ」

「ほらね、来年の部長がちょっと頼りないから。今からよろしくしておこうかなって」

「あー……すいません」

 

 後輩を信じ切ってるお人よしの次期部長に頭をかきつつ。

 嘘も言えないので、つかさは正直に答えた。

 

「あたし、来年も部活続けてるかはわかんないっす」

「え、や、やっぱり部長があかんから? 立火先輩でないと駄目!?」

「ちゃいますちゃいます! 単に飽きっぽいんで、何事も長続きしないってことです」

「そ、そう。無理強いはできひんけど……」

 

 目を左右させた小都子は、控えめながらも必死に懇願してきた。

 

「で、でも何とか続けてもらえへん? 私、頑張って楽しい部にするから!」

「まあまあ、気が早いですって。とりあずは冬に向かって頑張りましょうよ」

「せ、せやね……ごめんね、つかさちゃんには無理ばかり言って」

(あ、夕理に文句言うの忘れてた)

 

 小都子の言葉で思い出した。自分から入部したのだから、巻き込んだなどと言われる筋合いはないのだ。

 でも阿倍野の一件で、小都子も似たような負い目を感じているのだろう。

 一学期を終えて、つかさだけが未だに少し浮いている。

 自分からそうしているのだけど。

 

(冬に向かって頑張るかあ……)

 

 そもそも冬まで飽きずに続くのだろうか。

 手を振って帰っていく小都子を見送りながら、そんなことを考える。

 でも部活を辞めたら、姫水との接点が本当になくなってしまう……。

 今は惰性でも続けるしかなかった。

 

 

 *   *   *

 

 

「みんな、この前は醜態をさらしてほんまごめん」

 

 久しぶりの部室で、立火はまず部員全員に頭を下げた。

 慰めの言葉が飛ぶ前に、昨日天満宮でしたのと同じ話をする。

 隣にいる桜夜と一緒に。

 

『これに懲りず、冬もラブライブに出て全国を目指したい』

『次はちゃんと、負けた時のことも考えるから』

 

「負けたとしても私がみんなを幸せにするから、信じてついてきてほしい。

 ……って、言葉にすると何や恥ずかしいな」

「要するに部長さんが全員抱いてくれるんですか?」

「何でやねん!」

 

 茶化したつかさはツッコまれるが、同時に神社裏での出来事も理解した。

 

(アレはそういう意味やったわけね)

(でも部長さん、特別な気持ちも入ってた気がするなあ……やっぱり花歩には黙っとこ)

 

 小都子もほっとすると同時に、本当に今度こそ、誰も辛い思いをしないようにと願う。

 花歩と勇魚は目に決意を秘め、姫水はいつも通り。

 立火としては、晴がどう思うのかが一番の心配だったが……

 現実的な方向の案に、うなずいて賛同してくれた。

 

「結果が悪くても、充実感なり達成感なりは得られるようにということですね。そういう逃げ道は大事です」

「そう、そういうことや!」

「私は逃げ道なんかいりませんが」

 

 せっかくの立火の熟慮だが、夕理には大きなお世話だ。

 傷つくのは本気の証。それを怖がっていて、本当に全国へ行けるのかと思うが……。

 でも四日前の精神ボロボロ状態のWestaを思い出し、それ以上強くは言えなかった。

 

「……いりませんけど、他の子には必要かもしれませんね。花歩とか」

「何で私やねん!」

「ま、まあまあ。とにかく冬に向かって一致団結や!

 てことで、ここで心機一転のため――」

 

 部長の顔が全員を見回す。

 机に手を置き、高らかに宣言した。

 

「合宿をするで!」

『おお!』

 

 晴と夕理を除く部員が一気に沸き立った。

 やはり楽しい部活動のためには、こういうイベントが大事である。

 特に桜夜とつかさが猛然と食いついた。

 

「海行こう海! 私の水着をみんなに見せたるで!」

「いいっすねー、やっぱ夏は海でしょ!」

「いやそんな金ないし……。去年は体育館脇の合宿所や、って桜夜は知ってるやろ」

「校内はないやろ!? あんな朝から晩まで練習漬けの合宿、二度とごめんやで!」

「小都子先輩、別荘とかないんですか!?」

 

 つかさに必死な目を向けられ、小都子はすまなそうに顔を伏せる。

 

「議員がそういうのを持つのは最近うるさいから……」

「くっ、なんて世の中や! ねー部長さん、海にしましょうよー。少しは自分たちでも出しますから」

「お前はバイトしてるからええけどなあ」

「部員たちを幸せにするんでしょ? 頼みますよパパー」

「誰がパパや!」

「うーみ! うーみ!」

「うーみ! このさい山でもええから!」

「ったく、分かったってば。ちょっと顧問と相談してくる」

 

【挿絵表示】

 

 つかさと桜夜だけならまだしも、花歩と勇魚、さらに小都子まで期待の目で見てくるので致し方ない。

 立火が廊下に出て行った後で、花歩が驚きの顔で小都子に尋ねた。

 

「うちの部、顧問いたんですか!?」

「うん、古典の木崎先生。

 スクールアイドルは生徒が全部やるのが原則やけど、さすがに合宿は許可を取らへんとね。

 ……って夕理ちゃん、気い進まへんみたいやね」

「合宿なんて意味あるんですかね」

 

 黙っているつもりだったが、小都子に聞かれたので仕方なく答える。

 

「練習の質が上がるわけでもないし、移動時間が無駄になるだけやないですか」

「でも夕ちゃん! みんなでお泊りするってだけで楽しいで!」

「佐々木さんって寝相悪そう……」

「ちょっと天名さん、失礼なことを言わないで。勇魚ちゃんの寝姿はそれはもう天使のような――」

 

 勝手に語り始めた姫水を放っておいて、花歩が夕理の耳元に話す。

 

「つかさちゃんと一つ屋根の下やで?」

「んなっ……なにを言うてるんや! 私はそんな不埒なこと全然!」

 

 慌てる夕理に苦笑のつかさだが、そう言われるとつい不埒なことを考えてしまう。

 

(やっぱり合宿といえばお風呂でバッタリとか?)

(あたしが扉を開けると、そこには一糸まとわぬ藤上さんがいて……)

『きゃっ! あ、彩谷さん、どうして?』

『え、ここ女湯!?……って、あたしも女やから問題ないやーん』

『ふふ、そういえばそうね。一緒に洗いっこしましょうか?』

『えー、しゃあないなー。藤上さんがそこまで言うならー』

(とか…… とか……!)

 

 本人を前にしながら妄想を繰り広げる上級者のつかさに、姫水は怪訝な顔で夕理へ耳打ちする。

 

「天名さん。彩谷さんが何だか変なんだけど……」

「そっとしといてあげて……」

 

 

 *   *   *

 

 

「地区予選は残念やったね。私の歳ではアイドルはよく分からへんけど」

 

 夏休みの職員室で、初老の古典教師はそう言った。

 

「はい……ここから這い上がるためにも、気合いを入れた合宿にしたいです!」

「それやったら山はどうや」

 

 思わぬ提案に、立火は一歩前に出る。

 

「どこかいい場所あります?」

「知人が宿坊やってるんやけどね。

 合宿や研修にも提供してて、スクールアイドルも結構来てるらしいで」

「それは助かります! ……ん? 宿坊?」

「ははは。修行にはもってこいの山やと思うで」

 

 先生がノートパソコンで、宿坊のホームページを見せる。

 その山の名を見て、立火の目は一気に輝いた。

 

 

「ということで山に決定!」

 

 部室に戻るなり発表する部長に、花歩と勇魚がわーいと両手を上げる。

 

「先生の知り合いやから、結構安くしてもらえるんやって」

(山かあ……まあ川とか沢とかあるやろうし、水着もワンチャン)

 

 胸算用する桜夜の傍ら、つかさが警戒気味に聞いてくる。

 

「まさか登山とかタルいことしませんよね?」

「それはない。下界より気温が8度くらい低いから、快適に過ごせるで」

「おっ、ええやないですか。それで結局どこなんです?」

「ふっふっふっ、ただの山とちゃうでえ。今や世界的に有名なとこや」

「引っ張らないでくださいよー」

 

 つかさの求めに応じ、ついに立火はその名を部員に告げた。

 

「弘法大師空海が開いた修禅の道場――。

 世界遺産! その名も高野山!!」

 

 桜夜とつかさの脳内で、リゾート気分がガラガラと崩れていった。

 代わりに抹香の匂いが漂ってくる。

 

「え……み、水着の女子高生は?」

「アホか、周りは坊さんばっかやで。即刻つまみ出されるわ!」

 

 桜夜がムンクの叫び顔になっている一方、夕理と晴には好評だった。

 

「精神修養にはもってこいの場所ですね! 仏教は信じてませんけど」

「紅葉と桜の時期に行きましたけど、ええとこですよ。ちなみに行ったことのある者は?」

 

 しーん。

 静寂に渋い顔の晴に、小都子が慌てて言い訳する。

 

「い、いつでも行けると思うと、なかなか足が運ばへんで。ねえ?」

「まあいい、ええ機会やから不動堂と奥の院だけでも見とけ。部長、部屋は広いんですか?」

「五十人くらい入れそうな大広間やったで」

「我々九人では持て余しますね。他のグループも来るなら、合わせてもいいかもしれません。少し安くなるかも」

「合同合宿か! それもええな!」

「細かい点を先生と相談しましょう。来週で誰か都合悪い日はある?」

 

 みんな問題なかったので、晴は立火と一緒に職員室へ向かう。

 残された部室で、勇魚が期待に胸を躍らせた。

 

「もし合同になったら、和歌山のスクールアイドルと一緒なんやろか! めっちゃ楽しみや!」

「あれ、高野山って和歌山やったっけ?」

「もー花ちゃん。うちでも知ってるのに知らないのはあかんで!」

「うう。恥ずかしい……」

 

 一方で気を取り直した桜夜が、何とか楽しむために心を持ち上げる。

 

「と、とにかく合宿は合宿や! 水着はお預けやけど、恋バナとかトランプとかあるやろ!」

「今回はいいですけど、そのうちみんなでプールでも行きましょうよ」

「おっ、ええこと言うやんつかさ。合宿から帰ったらさっそく行く?」

「桜夜先輩の夏休みの課題が終わってからの方がいいと思いますが……」

「ちょっと藤上さん! それって永久に行けへんってことやろ!?」

「どーゆー意味や!」

 

 騒ぐ桜夜たちを呆れ顔で見ていた夕理だが、ふと視界の隅で何か動いたのに気づく。

 晴が置いていったノートパソコンで、メールの通知が出ていた。

 

「部にメールが来てるみたいですけど、開けていいんでしょうか」

「構へんよ。どれどれ……」

 

 小都子がマウスを操作してメールを開くが……

 読むうちに、その顔が青ざめていく。

 

 

 *   *   *

 

 

「高野町からの補助金が出るのは助かりますね」

「おかげで夕飯もつけられたけど……精進料理ってうまいの?」

「まずくはないですよ」

 

 話がまとまった職員室からの帰り。

 晴は今後について、考えていたことを部長に話す。

 

「まずは知名度を上げないと、どうにもなりません」

「関西ではまだまだ無名なのが分かったからなあ。何か目立つ方法はないやろか」

「九条先輩とは連絡は取ってますか?」

「小梅? 心配するメールが来てたから、返事はしといたで」

「少し考えていることがあります。丁度いいので合宿までにまとめておきます」

「ああ、頼む……で」

 

 以前と同じように返そうとして、一瞬ためらう。

 地区予選であんな選択をしておいて、少々虫が良すぎないか。

 だが晴が立火に向ける視線は、予選前と何ら変わってはいなかった。

 

「私の案を採用したところで、結局部長は後悔してましたよ」

「そ、そうやろか……」

「捨て石なんて作戦、部長の性格で納得できたわけないやないですか。

 要はどっちにしろ詰んでたんです。切り替えましょう」

「……ああ」

 

 歩きながら、立火の拳が晴へと向く。

 

「これからも頼むで。お前が頼りや」

「全力を尽くしましょう」

 

 こつんと拳を合わせ、立火は少し照れくさそうに、晴はごく自然に微笑みながら、部室へと戻る。

 

「ただいまー……って、どうした!?」

 

 扉を開けると、部の空気は一変していた。

 桜夜と小都子は青い顔で震え、一年生たちは困った顔をしている。

 

「菊間先輩からメールが来てまして……」

 

 小都子が挙げたのは、卒業した三年生の名だ。

 立火も少し身を固くする中、言葉は続く。

 

「伊達先輩と一緒に、明日ここへ来るそうです……」

「明日!? な、何しに?」

「それは書いてへんのですが……」

 

 小都子の言葉が消えると同時に、涙目の桜夜が立ち上がって叫んだ。

 

「地区予選のこと、怒りに来るに決まってるやろ!?」

 

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