ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート4 OG襲来 ☆☆☆

 翌日、花歩は一人でバスを降り、校門へと急いでいた。

 

(うひゃー、遅刻遅刻……)

 

 夏休みで来訪した親戚の腰が予想より重くて、来るのが昼過ぎになってしまった。

 無理に来なくていいとは言われていたが、やはりOGの人にも会ってみたい。

 小走りのまま、昨日の話を思い出す。

 

==============================================

 

「菊間先輩は芸術担当。去年は作詞作曲、衣装に振り付けと何でもやっていた」

 

 へー、と感心する一年生たちに、晴は説明を続ける。

 

「今は関西芸大に通ってる。舞台芸術学科とか言うてたかな」

「芸大生ですか!」

 

 自分が行けそうにない進路を言われ、夕理のテンションが少し上がった。

 

「それは、是非お会いしたいです」

「うん、菊間先輩の方は夕理ちゃんに助言してくれると思うで。

 問題は伊達先輩やけど……」

「どんな先輩なんですか?」

 

 つかさに聞かれた小都子が口ごもる。

 三年生たちも同様の中、晴だけが遠慮なく説明した。

 

「まあ、端的に言うたらヤクザやな」

「端的に言い過ぎやろ……」

 

 立火の渋面を見ながら、軽く手を上げたのは姫水だった。

 

「それは警察に通報した方がよいのでは?」

「いやいや、ほんまもんとちゃうから……」

「冗談です」

「お前の冗談は分かりにくいねん!」

 

==============================================

 

(要するにめっちゃ怖い先輩ってことなんやろなあ……)

 

 恐れつつも、部長の後ろにいれば安心とも思う。

 動画でしか見たことがない先輩たち。一体どんな人なのか……。

 

「おう、そこの一年坊」

「あっはい……って、ひいいい!?」

 

 昇降口前で声をかけられ、振り返ると同時に花歩は震えあがった。

 立火よりも背の高いオールバックの人物が、人を殺しそうな目(花歩の主観)でにらんでいる。

 

【挿絵表示】

 

「お前、Westaの部員やな。何を重役出勤しとんねん」

「ちちちゃうんです! これは親戚が来ててですねえ!」

「こらこら伊達ちゃん。一年生が怖がってるやないの」

 

 隣から口を出したのは、こちらは優しそうな女性だった。

 ウェーブした髪が肩までかかり、楕円の眼鏡越しに花歩を見ている。

 彼女にいさめられ、伊達はさらなる大声を上げる。

 

「ああ!? 私の何が怖いんや! 別に怖ないやろ!!」

「ひぃぃぃ!!」

「ち、ちょっと君たち何しとんねん!」

 

 通りがかった教師が慌てて出てきたが、二人の顔を見て胸をなでおろした。

 

「何や、お前らやったんか。卒業したのに何してるんや」

「ちわス! ご無沙汰してます!!」

「どうも~先生」

「ちょっと後輩どもが腑抜けてるんで、喝を入れに来たとこです!!」

(うあああ~、やっぱりそういう理由で来たんや……)

「うーん、後輩想いなのは結構やけどな」

 

 困り顔の教師が、負けたWestaのことをフォローしてくれる。

 

「あんまり高望みするもんやないで。関西予選に行っただけでも、うちの部活の中では優秀な方なんや」

「そういう問題ではありません! 立火は全国へ行くと約束したんや。守られへんのやったらヤキ入れなあきません!!」

「ま、まあお手柔らかにな……」

(ちょっ、先生~~)

 

 泣きそうな花歩の前で、教師は諦めたように去っていった。

 後に残された一年生は、首根っこを掴まれ部室の方へと向かされる。

 

「おう、行くで一年坊。シャキシャキ歩かんかい」

「は、はいぃ~~」

 

 

 *   *   *

 

 

「――来た!」

 

 廊下に響く足音に、立火の声に緊張が走る。

 音を立てて開く扉に、全員が起立するが……

 顔を出したのは、捕らえられた小動物のような花歩だった。

 

「花歩!?」

「おう、邪魔するで」

 

 すぐ後から長身の伊達が入ってくる。

 その言葉に反応してしまった勇魚が、いい笑顔で明るく言った。

 

「邪魔すんのやったら帰ってや~」

「あいよー……って舐めとんのかそこの一年!!」

「え、あ、あの、ネタ振りやと思て……」

「立火ァ! お前後輩にどういう教育しとるんや!!」

「すみません! すみません!」

 

 必死で頭を下げる立火に、勇魚は涙目になってガタガタ震えている。

 姫水がむっとして口を開きかけたが、それより前に夕理の声が響いた。

 

「何なんですか初対面の相手に。失礼な人ですね」

「ああ!!?」

「お前が言うかお前が……」

 

 立火のぼやき声の中、後ろから顔を出したのは菊間だった。

 

「まあまあ伊達ちゃん。社会人なんやからもう少し落ち着いたらどうや」

「菊間先輩!」

「みんな、おひさ~」

 

 救いの女神が現れたとばかりに、小都子が夕理の両肩へ手を置く。

 

「この子が今の作曲担当です! ぜひ先輩の助言をいただきたく!」

「あら、そう?」

「べ、別の部屋でゆっくり話しましょう! 一年生たちもみんな来てや!」

 

 切羽詰まった小都子に連れられ、一年生と菊間はぞろぞろと出て行った。

 伊達はフンと鼻を鳴らすと、手近な椅子にどっかと座る。

 残された立火と桜夜も、恐る恐る着席した。

 晴だけは平然としている。

 

「おう、立火」

「ハイ……」

「地区予選の結果、一体どういうことや」

「す、すみません……」

「全国行くんとちゃうんか。逆に私たちの時より順位落ちてるやないか」

「そ、それは仕方ないですよぉ~」

 

 引きつった笑顔を浮かべ、手もみで猫なで声を出したのは桜夜だった。

 

「去年の先輩たち、ほんますごかったし! あれをいきなり越えられるわけないっていうか……」

「何をヘラヘラしとんねん!! 舐めとんのか桜夜ァ!!」

「ひいいいい!?」

「お前ホンマ薄っぺらいな! 副部長になってマシになるかと思ったら、何も変わってへんやんけ!!」

「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!」

 

 うあー、と泣き出す桜夜だが、先輩の前では立火も慰めてはやれない。

 伊達は苛立たしそうに、追加攻撃を桜夜に加える。

 

「で、お前は副部長として何をしてるんや」

「ぐふっ。そ、それは……」

 

 桜夜はもちろん立火も答えられない中、晴が冷静に助け舟を出した。

 

「いつものようにアホなことをやって、部員たちを和ませています」

「そうか。ならええわ」

(いいの!?)

「今回のことは申し訳ありませんっ!!」

 

 会話に耐えきれなくなった立火が、机に頭を押し付け土下座する。

 

「全ては部長であるこの私の責任!

 部員たちには何の非もありませんので、どうかどうかご容赦を……」

「……立火。お前何を勘違いしてるんや」

「え……」

「なら去年負けたのは泉の責任か? 全部あいつが悪いんか?」

「そ、そういうことでは……」

 

 頭を上げた立火の前で、伊達は悔しそうに表情を歪める。

 自分たちの部長を勝たせられなかった記憶を、卒業後も引きずるように。

 

「部のことは、部員全員の責任に決まってるやろ……」

「伊達先輩……」

 

 

 *   *   *

 

 

 化学室が空いていたので、菊間を囲むように着席した。

 端っこのつかさが、少し部室の方へ顔を向ける。

 

(正直、あっちの方が面白そうやけど)

(ま、今日はおとなしくしとこ)

 

 一方で正面の夕理は、芸大生を前に少し緊張していた。

 音楽専攻ではないにせよ、芸術的な含蓄に富んだ話をしてくれるはずだ。

 その菊間が、穏やかな声で話しかけてきた。

 

「夕理ちゃんやったっけ? 地区予選の曲、現地で聞かせてもろたで」

「来ていただいてたんですか!? あの、いかがだったでしょうか」

「いかがも何も、ねえ」

 

 眼鏡の向こうで、菊間の目がすっと細まった。

 

「何やの? あの駄曲」

「え……」

「せ、先輩!?」

 

 動揺する小都子の隣で、身動きできない夕理に冷たい声が続く。

 

「あんな中途半端な曲、よく恥ずかしげもなく地区予選に出せたもんやな。

 特に一つだけ入ってたコール。何を考えてあれを入れたん?」

「あ、あれは……」

「入れてくれって頼んだんです! 私と立火先輩が!」

 

 必死で後輩をかばう小都子に、菊間の舌鋒はそちらへと向いた。

 

「一つだけで十分って思った?」

「い、いえ、その……。お互いに歩み寄った結果がそれというか……」

「はあ……」

 

 菊間はわざとらしく溜息をつくと、もう完全に夕理を無視して小都子だけに話す。

 

「去年のこと、覚えてる? 私が作った曲に、みんな自由に意見言うてたやろ」

「はい……」

「ほんまどいつもこいつも好き勝手言うてきて。何や思い出したら腹立ってきたわ」

「………」

「それに比べて、今年の作曲担当はずいぶん保護されてるんやねえ。

 嫌なら辞めるとでも言われたん? 一年生にそんなん許してて、全国行けるって本気で思てんの?」

「それ……は……」

「お言葉ですが!」

 

 耐えきれずに夕理は声を上げる。何で小都子が責められないといけないのか。

 もう相手への尊敬は消え、代わりにファーストライブ中に感じたことを思い出した。

 矛先は自分に向けろとばかり、それを矢として解き放つ。

 

「そうやって作られた昨年の曲に、哲学があったとは私には思えません!

 灼熱のレゾナンスなんて、ただファンに迎合するだけの曲やないですか!」

(うわああああ! 夕理ちゃんなんてことをおおお!)

 

 花歩が内心で悲鳴を上げ、室内の緊張は極限に達する。

 菊間はゆっくりと立ち上がり、夕理の隣へ近づいた。

 全員が顔を上げられない中、夕理の耳付近でねっとりと声が響く。

 

「へえ~~え……」

「な、何ですか……正直な感想です……」

「アンタはよっぽど高邁な哲学の持ち主なんやねえ」

「と、当然です! スクールアイドルである以上は理念が大事です。

 羽ばたけ!も表現力は足りなかったもしれませんが、崇高な精神を込めて……」

「表現力が足らんかったら何の意味もないやろ。このボケナス」

 

 もはや取り繕いもせず、菊間は突き放すように言い捨てた。

 

「才能さえあれば、どれだけ性格悪くてもええけどね。

 現実はアンタの曲、私の曲の半分も客を沸かせられてへんやないの。

 はっきり言うけど、アンタ音楽の才能ないで。

 無能のくせに態度だけは偉そうって、普通に最悪やと思わへん? ねえ?」

 

 自分から売った喧嘩とはいえ、ボコボコにされて呼吸すら困難になる。

 苦しい。

 才能がないと、芸大生からはっきり言われた。

 OG相手につかさも花歩も声を出せない中、菊間は一年を共にした後輩へ笑顔を向ける。

 

「小都子ちゃん、この子まるであかんわ。

 全国行きたいんやったら、今後の曲は私が書いてあげようか?」

「お気持ちだけで結構です」

 

 夕理が動揺する時間すら与えないほどの、瞬時の即答だった。

 一年生たちが息をのむ中、次期部長は両手を机に突いて明確に言葉にした。

 

「今のWestaの作曲家は夕理ちゃんです。

 私には才能は分かりませんが、この子が誰よりも努力しているのは知っています。

 これからもっともっと成長してくれるはずです。

 私たちは、夕理ちゃん以外の曲を歌う気はありません!」

 

 言い切った。

 去年からは考えられない剣幕に、さすがの菊間も多少たじろぐ。

 そして夕理は――

 目の奥から熱いものが湧いてくるのを、止めることはできなかった。

 

(先……輩……)

 

【挿絵表示】

 

 どうしてこの人は、無条件にここまで信頼してくれるのだろう。

 どうしたら、非才の自分がこの信頼に応えられるのだろう。

 どうしたら――。

 

 小都子の揺るぎそうにない目に、菊間は肩をすくめて話を打ち切る。

 

「あれま、ずいぶん惚れ込んだもんやね。

 そこまで言うんやったら、曲のことはここまでにしとこ。

 次、姫水ちゃんやったね」

「……はい」

 

 夕理の涙は引っ込み、場には新たな緊張が走る。

 OGは再び穏やかな態度で、まずはニコニコと話し出した。

 

「いやあ、最初に聞いたときは嬉しかったで。プロ女優さんなんて、えらい戦力やないの」

「ありがとうございます」

「なのにねえ、ほんま期待外れやったねえ」

 

 案の定、菊間は目を細めて嫌なことを言ってきた。

 言われた側の表情は一切変わらない。

 

「地区予選のことは、完全に私の失態です」

「あれは論外としても、それまでも大したことなかったやろ。偉そうにプロや言う割に」

「ひ、姫ちゃんは女優です!」

「畑違いなのは知ってるで。けど、もう少しプロのオーラというか、凄みがあってもええと思うけどねえ」

 

 勇魚の擁護は流されたが、言っても仕方ない話なのは薄々感じたのか、菊間もそれ以上の追求はしなかった。

 

「ま、休業してるいうことは、本来のアンタとちゃうんやろ。早よほんまの力を見せたってや」

「はい……」

 

 結局、そこに行き着いてしまう。

 この場で唯一事情を知っている勇魚と、短く顔を見合わせる。

 せっかく精神修養の山へ行くのだから、何かきっかけだけでも掴みたいが……。

 

 そして事情を知らないつかさは、内心でびくついていた。

 

(うわあ、藤上さんですらこんな扱いか)

(あたしはどれだけボロクソに言われるんやろ……)

「補欠の二人やけど」

 

 つかさの予想に反して、先にターゲットは花歩たちへ向いた。

 

「ステージにはいつ上がれるん?」

「は、はい。文化祭でデビューしてもらう予定です」

 

 小都子が言う情報は、昨日全員に伝えられた。

 みんなが拍手してくれたことを思い出し、勇魚は元気よく立ち上がる。

 

「うち、一生懸命頑張ります! 冬こそはみんなと一緒にラブライブに出ます!」

 

 が、菊間の反応は冷ややかだった。

 

「アンタ、地区予選ちゃんと見てたん?」

「え、はい……」

「あそこで戦えるレベルでないと意味ないんやで。

 そんな簡単やと思てんの? スクールアイドル舐めすぎとちゃう?」

「え、あ、あの、すみません……」

 

 しょぼんと座る勇魚を見て姫水が憤慨する前に、目線は続けて花歩へ向く。

 

「そっちの子はどうなんや」

「え! あ、あの~……。

 た、確かに地区予選は厳しいですね~。来年まで補欠ですかね~」

「へえ? ならアンタ一人だけ何も貢献せえへんわけ?

 無駄飯食らいを飼う余裕なんてないはずやけどねえ。ええご身分やねえ」

(この人どっちにしろ嫌味言うやんけ!!!)

 

 いい加減に部員たちがうんざりしてきたところで、菊間はくすくすと笑った。

 とりあえず、言わねばならないことは言い終えたという感じだった。

 

「ま、これで帰ったら単なる迷惑なおばさんやからね。

 少しは実になるアドバイスもしとこか。まず衣装やけど……」

(あれ?)

 

 忘れられたのかと思い、つかさが恐る恐る手を上げる。

 

「あの……一応、あたしも出場してたんですけど……」

「ああ、そういえばいたねえ」

 

 菊間は興味なさそうにしながらも、聞かれたからには遠慮なく答えた。

 

「でもアンタ、そもそも本気でやってへんのやろ?」

 

 部員たちから血の気が引く。

 それはつかさが入部する条件で、皆も承知の上のことだったが……。

 改めて部外者から言われると、口ごもらざるを得ない。

 

「それ……は……」

「ああ、別にええねんで。たかが部活やし、適当に遊びでやるのも人それぞれや。

 でも評価するとなったら、そんなん評価対象外に決まってるやないの」

「でっ……ですよねー! あははー!」

 

 ごまかし笑いを浮かべながらも、沸き上がるのは強烈な後悔だった。

 

(アホかあたし! せっかくスルーしてくれてたのに、なに自分から地雷に突っ込んでんねん!)

 

 横から夕理の視線を感じる。

 直視こそできなかったが、心配そうな目で見られているのは感じ取れた。

 ずっと保護する側だったはずのつかさが、心配そうな目で……。

 

「小都子ちゃん、その子これからどうする気なん?」

 

 話題はもう取り消せず、菊間はつかさの存在に切り込んでくる。

 

「え。ど、どう……とは」

「遊び半分の奴が入ってるグループなんか、全国へ行けるわけがない。

 その意味でも、今回の結果は妥当やった。

 冬はどうするの?

 その子がレギュラーから外れるくらい、全体がレベルアップせなあかんと思うけど。

 そうなると、その子はもう部の中に居場所はないやろ?」

「そっ……それは……」

「放っておいてくれます!?」

 

 つかさらしくもなく、思わず声を荒げていた。

 

「別にあたし、ラブライブに出たいわけでもないし! ……その時は雑用でもやりますよ……」

「ふうん、それで楽しく過ごせるならええけどねえ」

 

 小都子と夕理が同時に、つかさを弁護しようと声を出しかけた時だった。

 部室の方から、いきなり大きな怒鳴り声が響いた。

 

 

 *   *   *

 

 

 勇魚が菊間に責められている頃、伊達は腕組みして質問していた。

 

「で、これから先はどうするつもりや」

「私から説明します」

 

 声を上げた晴に、伊達の眉間にしわが寄る。

 在校していた頃から苦手にしていたが、当の晴は何も気にせず話し始めた。

 

「来週の火水に高野山で合宿を行います。地区予選にも出た和歌浦女学院『KEYs』と合同になりました。

 その後の目標としては文化祭のステージになります。

 花歩と勇魚のデビューを主な目的とし、曲は二人に合った新曲と、羽ばたけの八人バージョンの二曲。

 それだけでは夏休みを持て余しますので、さらに次の計画を……」

「あー、もうええ、もうええわ」

 

 伊達は手を振って話を中断させた。

 途中一年生の名前が出てきたので、新入生の話を立火へと振る。

 

「そもそも、何で新人が五人しかおらんねん。十人くらい入ると思ってたで」

「それこそ完全に私の責任でして……」

「練習も怠け過ぎとちゃうか。何でもっと朝から晩までやらんのや」

(そういうブラック思考のせいで部員集まらなかったんです!)

 

 とはいえ、去年のやり方が正しいと思ってる伊達に言っても仕方ない。

 黙っている立火を怠惰と取ったのか、伊達は不満そうに毒づき始めた。

 

「その一年生も、もっとマシな奴は集まらへんかったんか」

「え……」

「二人は役立たず!

 作曲はクソつまらん曲しか書けへん役立たず!

 女優は澄ましてるだけで気合いが足りてへん!

 あと一人は何や……あのチャラい奴か。あんな不真面目なの、とっとと退部させろ」

「そ、そこまで言わへんでも……」

 

 桜夜が小声で抗弁するが、にらまれて首を引っ込める。

 だが、そのとき既に、立火の中では何かが切れていた。

 

「やっかましいわ……」

「あ?」

 

 ぼそりと言った声に、OGの怪訝そうな顔が近づいてくる。

 自分はどれだけなじられても構わない。

 だが、大事な部員たちをここまで侮辱されて……

 これ以上黙っていられるわけがない!

 

 立火は立ち上がると、自分にできる最大の声量で怒鳴った。

 

「さっきからゴチャゴチャとやかましいねん!! OGは黙って結果だけ見とったらええんや!!」

「りりり立火ああ!?」

「ほお……言うてくれたな」

 

 慌てふためく桜夜の前で、伊達も立って腕を伸ばす。

 立火の胸倉を荒々しく掴みながら、負けじと気合いを叩きつけた。

 

【挿絵表示】

 

「そこまで言うからには、冬に全国行けへんかったら覚悟はできとんのやろな!? ああ!?」

「おー! その時は逆立ちで通天閣のてっぺんまで登ったるわ!!」

「一番上まで行くと五百円余計にかかりますよ」

『それ今する話!!?』

 

 真顔の晴に立火と伊達が同時にツッコむ。

 そして扉が開いて、心配そうな菊間と小都子たちが戻ってきた。

 

「何やったの伊達ちゃん、大声が聞こえたけど」

「フン、何もないわ」

 

 まだ自分をにらみつけている現部長を見て、伊達の表情はどこか満足そうだった。

 

「あんな結果になって腑抜けてるかと思ったが……。

 まだまだ根性あるやないか。安心したで」

「え……」

 

 立火の怒気は抜けていき、完全に消えた時、目の前にいたのはお世話になった先輩だった。

 おずおずと、その真意を尋ねる。

 

「もしかして伊達先輩、私たちを心配して……?」

「ア、アホ抜かせ! あまりに情けないから、文句言いたくなっただけや!」

 

 焦った伊達はきびすを返すと、急いで部室を出て行こうとした。

 が、菊間の涼しい声に引き留められる。

 

「こっちのアドバイスはまだ済んでへんねん。座って待ってて」

「ちっ……」

 

 仕方なく座り、慣れ親しんだ部室の天井を眺める。

 同期が後輩たちに芸術的な話をする中、伊達は早く立ち去りたかった。

 三年間の青春を過ごし、そして終わった場所。

 いつまでもここにいたら、また未練が生まれてしまう……。

 

 

「ま、そんな感じやね。しょせん引退した人間の言うことやから、話半分に聞いたってや」

『ありがとうございました!』

「お待たせ伊達ちゃん。ほな帰ろか」

「あ、あの、先輩!」

 

 立火がまだ何か言おうとするのを、伊達の手が押し留めた。

 

「もう話すことはない。お前の言う通り、結果を見せてもらうで」

「……はい」

「ほなな」

 

 お辞儀する気配を背後に感じながら、OGたちは振り向くことなくその場を去った。

 

 

「伊達ちゃん、こんなことはこれっきりやで」

 

 校門を出たところで菊間に言われ、苦い顔でうなずく。

 卒業生が口出しするなんて、みっともない真似なのは自分でも分かってる。

 それでも、今回だけはいても立ってもいられなかった。

 

「立火に重い約束を背負わせた責任は、私たちにもあるやろ」

「真面目やねえ。後輩に後を託すなんて、それこそただのお約束やないの」

「お前、またそうやって適当な……」

「ま、せっかく出てきたんやから遊びに付き合うてや。うちの大学、周りに何もないんや」

「ふん……」

 

 灼熱の太陽を浴びつつ駅へと歩く。

 この気候が冬になる頃、Westaは一体どうなるのか――。

 それはもう、彼女たちには手の出せない領域だった。

 

 

 *   *   *

 

 

「小都子先輩」

 

 嵐が去った後、夕理は決断を形にした。

 小都子だけでなく、他の皆にも聞こえるように。

 

「どんな曲を書いて欲しいか、言うてください」

「夕理ちゃん……?」

「他の先輩からは嫌ですけど、小都子先輩に頼まれたら何でも書きます。

 たとえ自分が書きたくない曲でも……

 勉強やと思って、書きます」

「ま、待って夕理ちゃん。私はそんなこと……」

「そっかそっか! 夕理もようやく心を入れ替えたんやな」

「これで全国に行ける可能性が少しは上がったで」

 

 満足そうな桜夜と晴に、イラッとした夕理は語気を強める。

 

「小都子先輩に頼まれたらの話です! あなた方からはお断りです!」

「そんなのは小都子経由で依頼するだけの話や」

「晴ちゃん、あのねえ……」

「ま、まあまあ、必要になった時に考えたらええやろ。今は夕理の書きたい曲を書いてるんやろ?」

「は、はい……」

 

 立火の言う通り、文化祭用の新曲を作成中だ。

 花歩と勇魚のデビューに相応しい、そして自分も書きたいフレッシュな曲を。

 

「合宿でお聞かせできると思います」

「よし、合宿の楽しみが一つ増えたな!

 みんな、今日は厳しいことも言われたけれど、これも含めて地区予選の結果や。

 合宿を機に、ひとつずつ解決していくで!」

『はいっ!』

「とりあえずは今日の練習や!」

 

 練習のため着替えながら、夕理は言葉を反芻する。

 他のメンバーはともかく、つかさの課題はどう解決しろというのだろう。

 当人は何事もなかったように、平然としているけれど……。

 

「ね、ねえ、つかさ」

「ん、何?」

「……合宿、楽しもうね」

「あれ、行きたくないのとちゃうかったん?」

「き、気が変わったんや!」

「そっかあ」

 

 つかさは上着を脱ぎだしたので、その表情は隠れてしまった。

 どうあれ夕理が彼女のためできるのは、できるだけ楽しい部活にすることだけだ。

 

 OGの襲来も過ぎ去り、これで夏のラブライブは本当に終わった。

 次に行く先は高野山。

 その合宿が、どうか楽しいものになりますように――。

 

 

<第19話・終>

 

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