ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 交渉人晴

「……なんてことがあったんやけど、勇魚ちゃん誰か知らない? 弁天中の人」

「うちは知らへんなー。ちょっと待ってて」

 

 花歩から相談を受けた勇魚が、間髪入れずに教壇へ駆けていく。

 

「ねー! 誰か弁天中の子いいひんー!?」

 

 そうでなくても大きい声が、ボリューム増しで教室中に鳴り響いた。

 本当に、こうして即座に行動できる彼女を、花歩はいつも羨ましいと思う。

 

「私、弁天やけど」

 

 有り難いことに、教室の端で一人のクラスメイトが手を挙げた。

 

「良かったー! 花ちゃんが聞きたいことあるんやって」

「あ、あのね、天名夕理さんって知ってる?」

「天名……」

 

 クラスメイトはしばらく記憶を探っていたが、思い当たったようで手を叩く。

 

「あー! おったわ。めっちゃ性格キツい子やろ?」

「ま、まあね……」

「中二の時同じクラスやったけど。あんなんやから友達いいひんかったし、私も関わらないようにしてたし、特に詳しくはないなあ。あ、でも」

 

 微妙な内容なのか、話し声が少し小さくなった。

 

「なんか一年生の時に一緒やった子は、めっちゃ嫌ってたで。友達を奪われたとか何とか」

「奪われた……?」

「アレに奪われる友達ってどんなやねんって感じやけどね。私が知ってるのはそれくらい」

「そっか、ありがとね」

「いえいえ」

 

 自分の席に戻る途中、勇魚が腕を組んで難しい顔をしていた。

 

「事情は分からへんけど、友達いないとか奪うとか寂しい話やな」

「まあ、勇魚ちゃんは直接会うてへんからね……」

 

 奪うのはよく分からないが、友達がいなかったのは非常によく分かる。

 あの強烈な性格は、勇魚なら懐柔できるのだろうか。

 部員ではない彼女に頼むわけにはいかないけれど。

 

「部活に勧誘するんやろ? 花ちゃんが友達になってあげてな!」

「あ、あはは……」

 

 確かに勧誘に成功したとしたら、同じ部で一年生同士付き合っていかなければならないのだろう。

 今は自信なく笑うしかなかった。

 

 

 *   *   *

 

 

『ということでした』

『あんまり役に立てなくてすみませんー(T T)』

 

 放課後に、LINEで送られてきた情報を熟読する。

 

『いや助かったで。ありがとな』

 

 そう返した立火は、今は晴とともに一年生の玄関を見張っている。

 夕理と一緒にいた子をスカウトするためだ。

 

「来たで!」

 

 見間違いようのない派手目な子だ。

 残念ながら一人ではなく、五人のグループで楽しく会話しながら歩いている。

 しかしここで後には引けない。とにもかくにも声をかけることにした。

 

「へい彼女、ちょっと茶ぁでもしばかへん?」

「いつの時代のナンパですか。あ、昼の先輩方」

「これから用事? それやったら出直すけど」

「まあいいですよ。ごめんみんな、先行っててもらえる?」

「おっけー、いつもの店やで」

 

 友達を見送ってから、一年生は腰に手を当てくるりと向き直った。

 

「さて、あたしに協力求められても無駄ですよ。夕理が決めることなんやから」

「いや、今はそれとはちゃうねん」

「我々が勧誘したいのは自分や。どうやろ? スクールアイドル部」

「あたしー?」

 

 上級生二人の勧誘に、少しの驚きとともに自らを指さしていたが、すぐにその理由に感づく。

 

「あー、あれですか。あたしを餌にして夕理を釣ろうっていう」

 

 立火は一瞬言葉に詰まる。実際そう言われると、悪辣なことをしている気がする。

 すぐさま晴が、全く悪びれずに説明した。

 

「その気持ちがゼロとは言わへんけど、真剣に自分にも入って欲しい。恥ずかしながらまだ新人一人だけで、ラブライブを戦うにはピンチなんや」

「なんかブラック部活って噂流れてましたもんね」

「ち、ちゃうんやで? 活動時間は他と変わらへんから」

「自分スタイルええし、ステージに映えると思うんやけど」

 

 畳みかけるように勧誘され、少女は困ったように頭をかく。

 

「ブラックではないにしても、全国目指すくらいは厳しいんでしょ? あたしバイトもあるしなー」

「もうバイトしてんの? 一年生なのに感心やねえ」

「やっぱお金ないと遊べないですし。まあそこまで真面目に働く気もないんで、週一ですけどね」

「それなら大丈夫! 週一休むくらい全然構へんで」

「あと友達と遊びたい時とか、誘われた時もそっち優先したいかな」

「え、ええよ。うん、友達付き合いも大事やんな」

「そもそも真面目に何かするタイプとちゃうんで。遊び半分の奴なんてほんまに入れたいですか?」

「いやもうエンジョイ勢で大いに結構! とにかくピンチやし、条件の大安売りや!」

「んー……」

 

 少し悩んだ風に引っ張ってから……

 一年生は朗らかな笑顔であっさりと言った。

 

「やっぱダメですね」

「ズコー!」

 

 何となく分かっていた返事だったが、一応大阪人として盛大にズッコケてみる。

 

「これだけ引っ張ってそれはないやろ~」

「あはは。だってあたしが入ったら、夕理も入部しちゃう」

 

 断られるのは予想していたものの、その理由は予想外だった。

 

「あの子、あたしにベッタリなんで。そんなやり方で入部させても意味ないでしょ?」

「全然OKというか、むしろ楽で助かるんやけど」

「ダメですよー。夕理が欲しいんやったら、ちゃんと頑張ってください。逆にあの子を入れさせられたら、あたしも入部してもいいですよ」

 

 無理だと思いますけどね、というニュアンスが言外に感じられた。

 立火と晴は顔を見合わせる。

 やはり将から射ないとどうにもならないようだ。

 

「よう分かった。時間取らせてごめんな」

「いえいえ、それじゃ失礼しまーす」

「あ、行く前に名前教えてくれへん? 私は部長の広町立火、こっちはジャーマネの岸部晴や」

「教えてもしゃあないと思いますけど、まあ」

 

 歩き出しかけた身を軽く翻して、少女は皮肉っぽく笑った。

 

「一年五組、彩谷(あやたに)つかさです。夕理の友達ってこと以外、先輩たちにとって価値はないと思いますけどね」

 

 

 *   *   *

 

 

「勇魚ちゃん。私、今日のお昼は別に食べるね」

 

 翌日の昼休み。弁当箱を両手に持って、花歩は決意をこめてそう言った。

 

「あ、もしかして昨日言うてた子?」

「う、うん」

「そっか、友達になれるとええね!」

「そやね……」

 

 正直なところ、あの子と仲良くなれるとは全く思えない。

 結局は部の役に立ちたい、部長に誉めてもらいたいという下心なので、勇魚の純粋な応援が少し心に痛い。

 昨日と同じ二組の教室へ行くと、天名夕理が一人でお弁当を食べていた。

 

(……やっぱり、入学式の日にニラんでた子やな)

 

 今は頭の反対側になってて見えないが、白い小さなリボンは見間違えようのないものだ。

 あの時から、Westaのことを怒っていたのだろうか。

 自分の理想と違うからって、そこまで腹を立てるのはどうかと思うのだけど。

 

「あ、天名さん、はじめまして」

 

 恐る恐るかけた声に、返ってきたのは不審者を見る目だった。

 

「誰?」

「え、えっと、スクールアイドル部一年の丘本っていうんやけど」

「何、勧誘してこいって言われたん? 一年生使うとか汚い人たちやな」

「ち、ちゃうよっ! 情報集めろとは言われたけど、ここまでしろとは言われてへんからっ!」

 

 慌てて弁明してから、きょろきょろと周囲を見渡す。

 

「一人で食べてるの? 昨日一緒だった子は?」

 

 ぴたりと夕理の箸が止まる。

 ピリピリしていた空気が少し薄れ、何やら落ち込んだ雰囲気がそれに代わった。

 

「……つかさは他の子と食べてる。昨日はたまたま一緒やっただけ」

「そ、そやったん」

「私は、つかさの大勢いる友達の末席でしかないから……」

 

 語尾が徐々に消えていく。悪いことを聞いてしまったようだ。

 だが同時にチャンスでもある。一対一ならつけ入る隙もあるはずだ。

 

「それやったら、私一緒にお昼してええかなっ」

「入部はしないって言うたはずやけど」

「いやその件は置いておいて、純粋に天名さんと交友を深めようと」

「アホらし、誰が信じるんや。部のこと以外で、アンタが私と仲良くする理由ないやろ」

 

 ごもっともである。早くも手詰まりになってしまい、あわあわしながらその場に立ち尽くすしかなくなった。

 その姿を憐れに思ったのか、それとも一人でランチはやはり寂しかったのか。

 夕理はいかにも不本意そうながらも、小さな声で言った。

 

「……まあ、勝手にすれば」

 

 

 

「……というわけで、私は部長に誘われ入部したわけや!」

「あ、そう」

 

 熱く語ってみたが、すげなく流されてしまった。

 あんなに素敵な先輩たちなのに。

 少し腹が立って、直接問いただしてみる。

 

「ねえ、何でお笑い芸人扱いなん? 確かに面白い人たちとは思うけど」

「去年のライブ映像見てへんの? MCにしょっちゅうコント入れてたやろ」

「え、見たけど、それだけで?」

「あと雰囲気が全体的にふざけてそう」

「『雰囲気』とか『そう』とか曖昧やな……」

「そ、それに入学式のライブ聞いてへんの!? あの歌詞!」

「???」

 

 思い出してみるが、特に妙な歌詞があった記憶はない。

 周囲の生徒や保護者たちも、気にした様子はなかったはずだが……

 

「『娯楽の殿堂』って単語があったやろ!」

「それが?」

「娯楽の殿堂ゆうたら普通はパチンコやんか! 神聖で健全なスクールアイドルを、あんな汚らわしいギャンブルと一緒にするなんて!」

(ええー…… 言いがかりやろ……)

 

 理不尽だと思うが、夕理としては大真面目に言っているようだ。

 ぶすっとした顔で食事を続ける彼女を、何とか懐柔しようと試みる。

 

「で、でもそういうのも味やと思うけどなー。大阪らしくてええんやない?」

「私、大阪嫌いやから」

「え、そうなん?」

「うるさいし、下品やし……」

「上品な方がええの? 京都とか?」

「京都はお高く止まってるから嫌い」

「じゃあ東京?」

「東京は資本主義に汚染されてるから」

「どこも駄目やん……」

「ああもう、うるさいなあ! 私のことは放っといて!」

 

 とうとうキレられてしまった。懐柔大失敗である。

 慌てて取り繕おうとしたところに、聞き覚えのあるクールな声がした。

 

「花歩やないか。こんなとこで何してんの」

「晴先輩!」 

 

 いつものように無表情の晴が、一年生の教室へずかずかと入ってくる。

 

「そ、その、ちょっと交友を深めようとですね」

「まあええけど。天名さん、一つ頼みがある」

 

 決死の作戦をまあええけどで済まされてしまい、少し凹む花歩をよそに、晴は夕理へ声をかける。

 

「せめて一度でええから、自分が作った曲でライブさせてほしい。それでも評価が変わらへんかったらきっぱり諦めるから」

 

 自分として指し示された相手は、胡散臭そうな目線を晴へと返す。

 

「なぜそんな必要が?」

「こちらが芸人なのは認めるが、スクールアイドルではないとまで言われては黙ってられへん。卒業した先輩たちや、ファンの皆さんまで侮辱されたようなもんや」

「う……」

 

 実のところ晴としてはそこまで気にしているわけではないが、そこは交渉の技術である。

 彼女の潔癖症が自分自身にも適用されるのであれば、非がある可能性を示すだけでいい。

 現に夕理の良心は、多少揺るがされたようだった。

 

「い……言い過ぎやったら謝ります」

「おいおい、今さら何を日和ってんねん。そんな適当な気持ちで人に噛みついてんの?」

「て、適当とはなんですか!」

 

 揺らいだ反動で過剰に受け取った夕理は、椅子を蹴って立ち上がる。

 

「いいでしょう、それやったら明日楽譜を持ってきます。爽やかでピュアな私の曲が、あなた方みたいなふざけた人たちに演じられるとは思えませんけど!」

(やっぱりそういう方向性の曲か……)

 

 ふざけたグループのつもりはないが、去年の曲は熱い!勢い!笑い!的な方向性が多かったのは事実である。

 実はここに来る前に、小都子から疑問を呈されてはいた。

 

『あの子とうちで音楽性が違うのはたぶん事実やろ? 無理にうちのカラーに合わせた曲書いてもろても、いい曲ができるとは思えへんし。やっぱり厳しいんとちゃうかなあ』

 

 その言い分は理解するが、かといって他に作曲家が見つかることなど期待できない。

 

(そこまで違うわけやない。180度は違わない。90度くらいや。何とかすり合わせはできるはず)

 

「勝負成立やな。ライブの締め切りはそっちが決めてええで」

「そうですね……」

 

 黒板横のカレンダーをちらりと見る夕理。正直なところ、長く関わりたくないし最短で終わらせたい。

 

「それなら明後日に」

「ええ!?」

 

 花歩が抗議交じりに驚きの声を上げる。それは一日でライブを完成させろということだ。

 にもかかわらず、晴は事もなげに返答した。

 

「了解や」

「ちょっと!?」

 

 今度は夕理の方が驚いた。

 

「い、一日でライブができるわけないやないですか! スクールアイドルを馬鹿にしてるんですか!?」

「一日でやれ言い出したのは自分やないか」

「そ、そうですけどっ……」

 

 ちょっと冷たいことを言っただけのつもりが、真顔で返されて口ごもる。

 やっぱり、からかわれているのだろうか。

 警戒感満載の夕理の目を無視して、晴は身を翻す。

 

「ほな邪魔したな。後は楽しいランチでも過ごしてくれ」

「この空気で無茶言わないでくださいよ……」

 

 晴を見送りながら恨み言を呟いている花歩は、既に夕理の視界に入っていない。

 意識は自宅の机奥にしまわれた、頑張って作った曲の数々へと飛んでいた。

 

 

 *   *   *

 

 

「――という結果になりました」

 

 放課後の部室で、晴は交渉の結果を報告していた。

 

「お疲れやでー」

「一日でって! ほんま性格悪いねんなアイツ」

 

 桜夜がブーたれているが、晴はむしろ余裕の顔で微笑んでいる。

 

「正確には明日の昼休みに楽譜を受け取って、明後日の放課後にライブ。28時間もあります」

「大して変わらんやろ!」

「向こうが言い出さへんでも、同じ条件を出すつもりでしたよ」

 

 その意味を理解して、小都子が言葉を繋ぐ。

 

「それくらい私たちは凄いってところを、あの子に見せなあかんいうことやね」

「そういうことや。過去の動画や入学式のライブを見た上であの態度なんやから、付加価値が必要になる」

 

 そしてニヤリと笑いながら、晴は立火へ視線を向ける。

 

「それに部長、こういうの好きでしょ?」

「さすが晴、よう分かってるやないけ」

 

 不敵な笑顔が立火へと伝染する。

 困難な勝負ほど燃えるもの。

 あの一年生の、驚く顔が見られるならなおさらだ。

 

「よし、いっちょやったろか! 太閤はんにあやかって、墨俣一夜城ならぬ墨俣一夜ライブや!」

『おー!』

「墨俣のそれって史実的には怪しいですよ」

「もー、細かいことはええやろ!」

 

 その場の盛り上がりに、一人乗れないメンバーがいた。

 それに気が付いて、立火は申し訳なさそうに頭をかく。

 

「というわけで、しばらくは花歩に構ってあげられへんけど……」

「い、いえいえお構いなく! 邪魔にならないように端っこにいますので」

「邪魔なんてことはないけど、今回はあの子と一緒に観客役を頼むわ」

「は、はいっ、務めさせていただきますっ!」

 

 そして打ち合わせを始める先輩たちを見ながら、花歩も自分で考えてみる。

 一日でライブってどうするのだろう?

 

(衣装は……資料室のを使えばええか)

(振り付けって簡単に作れるものなの? 練習時間も必要やし……)

(そもそも楽譜しかないのに、どうやって曲流すんや!)

(あーーもう、私の頭では分からへーーん!)

 

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