ラブライブ!WEST!!   作:ガテラー星人

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パート2 スクールアイドル男子 ☆

 お盆休みも終わり、八月も後半に入ったとある金曜日。

 

「来て早々悪いけど、男と会うから午前中は外すで」

 

 活動を始めようというところで、立火の爆弾発言である。

 理解まで数秒かかった桜夜は、必死で平静を装った。

 

「は、ははあ、あれやろ? 親戚の子供とかやろ?」

「いや、中学の時の野球友達」

「男子高校生やないか!」

「どどどどういうことですか部長!」

 

 詰め寄ってくる桜夜と花歩に、あははと笑いながら立火は種明かしした。

 

「高校最後の思い出に、スクールアイドルに挑戦したいらしいんや。

 で、部長の私に色々話を聞きたいんやって」

「あ、そういうことでしたか……」

「それは実に良いことです」

 

 ほっとする花歩に続き、夕理もうんうんと首を縦に振る。

 

「多くの人がスクールアイドルの素晴らしさを広めていますが、男子にはいまいち届いていませんからね。

 変な壁を感じずに、ぜひとも挑戦してほしいものです」

「うちの近所のマモル君も、Westaに興味持ってくれてるので!

 あの子が高校生になる頃には、男子にも広まっていてほしいです!」

 

 勇魚の言葉に、誰もがスクールアイドルになれる未来を部員たちは想像する。

 が、桜夜だけはジト目を続けていた。

 

「怪しい」

「は?」

「それを口実に、立火のこと狙ってるんとちゃうの? 男は狼なんやで!」

「あるわけないやろ、アホらしい……」

「私も一緒に行く!」

「ええー……」

 

 立火は呆れるしかないが、花歩はそう言われると不安になってくる。

 とはいえ年上の男子に会う勇気はないので、桜夜に任せてエールを送った。

 

「お願いします桜夜先輩、しっかりガードしてきてください!」

「任せて! 私たちの部長に悪い虫なんてつけさせへんから!」

「花歩まで何を言うてるんや……」

 

 渋い顔の立火だが、こうなると簡単に引き下がる桜夜ではない。

 連れていくしかなさそうだった。

 

「しゃあない。二人で行ってくるから、練習は小都子が進めておいてや」

「あ、はいっ」

「ちょっと立火! 日傘は持った!?」

「すぐそこなんやから別にええやろ、面倒やな」

「お肌はアイドルの命なんやで!」

 

 騒ぎながら出ていく三年生を、下級生たちは不安そうに見送る。

 何事もなければいいが……。

 

 

 *   *   *

 

 

 待ち合わせ場所は近くのカフェである。

 店に入ると同時に、立火の目には懐かしい姿が飛び込んできた。

 

(たける)! 和哉(かずや)! 久しぶりやな!」

 

 呼ばれた男子高校生二人も、嬉しそうに立ち上がる。

 

「おー! 立火!」

「全然変わってへんなあ!」

 

 片方は坊主頭のいかにも野球部員、もう片方は最近髪を伸ばし始めた感じで少しチャラそう、と桜夜の目には映る。

 その二人が桜夜を見るや、同時に固まった。

 大慌てで立火に近づくと、小声で訴えかける。

 

「お、おい、誰やこの美少女は」

「俺たちが女に免疫ないの知ってるやろ!」

「すまん、実は……」

「初めまして、副部長の木ノ川桜夜です」

 

 立火が言う前に、不機嫌な顔で自己紹介した。

 

「部長が不純異性交遊とかしたら困るので! 監視に来ただけや、お構いなく!」

 

 中学の仲間たち三人は、思わず顔を見合わせる。

 そして数瞬の後、揃ってどっと笑いだした。

 

「ないない、それはないって!」

「俺たち、立火を女やなんて思ったことないし!」

「あはは、ほんまになー」

 

 が、その回答もまた桜夜を切れさせる。

 

「女の子にどんだけ失礼なこと言うてんの!? 立火も何をヘラヘラ笑ってるんや!」

「何やねんもう、めんどくさい……」

 

 ソファーに座りながら、眉間にしわを寄せた立火は相方に釘を刺す。

 

「二人とも真面目に相談に来てくれたんや。少し静かにしてて」

「ちょっ、私は邪魔ってこと!?」

「邪魔とは言うてへんやろ。邪魔やけど」

「言うてるやん! めっちゃ言うた!

 立火にとって私ってその程度の存在なわけ!? 今まであんなに尽くしてきたのに!」

「尽くすって言い方はおかしいやろ!? 私たちは対等の相方やろ!」

 

【挿絵表示】

 

(あ……ありのまま、今起こったことを話すで!)

(俺たちはスクールアイドルについて相談に来たら、なぜか女同士で痴話喧嘩が始まった……。

 何を言うているのか分からへんと思うが、俺にも分からへん……)

 

 もう話にならない桜夜は無視して、立火は改めて昔の友達に向き直った。

 野球をやめたことを後悔してはいないが、高校でも続けた二人に尊敬の念はある。

 

「二人とも、野球強い高校行ったやんか。そっちはどうやったん?」

「ああ、それな……」

 

 が、彼らの顔は予想外に暗かった。

 

「なまじ強いとこ行ったのがあかんかった。結局三年間レギュラーになれず……」

「猛はまだええやろ! 俺なんてベンチにも入れへんかったんや」

「そ、そうやったんか。まあ強豪はそういうこともあるやろな」

「しかしこんな無念のままでは卒業しきれへん!」

 

 そう言って机を叩いた坊主頭が猛で、チャラそうな方が和哉らしい。

 桜夜としては別に覚える気はないけど……。

 その和哉の方が話を続ける。

 

「そんな時、立火が部長として活躍してるのを思い出したんや」

「いやあ、関西予選は惨敗やったけど」

「そこまで行けただけでも大したもんやで。あ、何でも注文してや。ここは情報料として俺らがおごるから」

「そう? まだ練習もあるし、飲み物だけご馳走になろか。……桜夜、何か飲む?」

「ミックスジュース……」

「なら私も」

 

 むすっとした桜夜の分も店員さんに頼んで、立火は話を再開した。

 

「最後の思い出にスクールアイドルを選んでくれて嬉しいで。そっちの文化祭はいつやったっけ」

「十月中旬や。メンバーは俺たちの他に二人。今から準備すればギリ間に合うと思う」

「けど、未発表の曲を作らなあかんのやろ? そこでいきなりつまづいてて……」

「いやいや、ちゃうちゃう」

 

 立火は慌てて手を振る。そんな誤解がハードルになっているなら不幸な話だ。

 スクールアイドル協会も、もっと広報に力を入れてほしいものだ。

 

「それはラブライブに出るときの話や。校内でライブするなら好きな曲でやったらええねん」

「そうなの!?」

「二曲くらいは時間取れるん?」

「と、取れると思う」

「なら一曲はメジャーな男性アイドルの曲で客をつかんで、二曲目はフリー音源って感じでどうや」

「なるほど! フリー音源って歌詞はついてんの?」

「ついてるのもあるけど、歌詞くらいは自分たちで書いた方がええで。多少は苦労せえへんと、達成感もないやろ」

「た、確かにな。何とか頑張ってみるか……」

「健のやつなら国語の成績ええから、何とかなるんちゃうか?」

 

 仲間の名を出して相談を始める男子二人を、立火は温かい目で見守る。

 自分は既にあった部に入るという出会いだったが、こうしてゼロから作るのも楽しそうだった。

 

「次に、振り付けの話やけど……」

 

 

 *   *   *

 

 

「どんな話してるんでしょうね、男の人と」

「気にしても仕方ないやないの。それより練習を……」

 

 と言いかけた次期部長を、花歩は改めてまじまじと見る。

 

「小都子先輩ってめっちゃ男子にモテそうですよね」

「き、急に何言うてんの!」

「確かに……不埒な男から言い寄られたりしませんでしたか?」

「夕理ちゃんまで!?」

 

 困り顔の小都子だが、同時に勇魚も少し顔を赤くして困っている。

 

「は、花ちゃん。うちらにそういう話はまだ早いで」

「もー、勇魚ちゃんは恋バナに免疫なさすぎ! ここは参考に聞いとくとこやで!」

「いやほんまに、中学の時も全然そういうのはなくて……友達にガードされてたからね」

「あ、そうなんですか……」

 

『私たちの小都子には指一本触れさせへんで!』

 クラスの女子が輪になって囲む光景を想像し、花歩も夕理も納得する。

 姫水が微笑みながら軽く冗談を言った。

 

「小都子先輩なら、親の決めた許嫁がいてもおかしくないですよね」

「いやいや、そういう時代とちゃうから。

 でもまあ、三十までには相手を見つけないと、親や親戚から圧力かかるんやろなあ」

 

 いきなりリアルな話をされて、一年生たちは微妙な顔である。

 興味なさそうにパソコンを触っていた晴が、これまた興味なさそうにぼそりと言った。

 

「それこそ時代とちゃう話やろ。三十だろうと四十だろうと未婚でいたければいればいい」

「むっ。晴ちゃんは簡単に言うてくれるけどねえ。なら代わりに私の親を説得してくれるの?」

「お前の人生やろ。自分で何とかしろ」

 

 すげない晴だが、キーボードを叩く手を一瞬だけ止める。

 

「……まあ、説得方法を考える手伝いくらいならしなくもない」

「晴ちゃん……」

 

 嬉しそうな視線を受けながら、晴は再びキーを叩き始めた。

 小都子が泣いたあの日以来、この二人の関係も少し変わったように一年生たちは思う。

 姫水も少しだけ晴を見直して、微笑みながら冗談を撤回した。

 

「変なことを言ってすみませんでした。それでは練習を……」

「そういえば勇魚ちゃん、中学の時に一度だけ告白されてたよね」

「ちょっ、花ちゃん!?」

「詳しく……聞かせてもらいましょうか……?」

 

 メールには一切なかった情報に、姫水の目の色が変わる。

 晴以外の部員たちから視線が集中し、真っ赤な勇魚は仕方なく白状するしかなかった。

 

「ち、中二の時に、いきなり廊下に呼ばれて付き合ってって言われたんやけど……。

 うち、完全にパニックになってもうて……。その場でごめんなさいを……」

「その後に冷静になって、改めて謝りに行くって言い出したんだよねー。止めたけど」

「花ちゃん、何であの時は止めたん?」

「だって結局断るんやから、鞭打ちにしかならへんやん……」

 

 色々な意味で勇魚には早すぎたようだった。

 ほっと安心した姫水が、上から目線で事件を評する。

 

「勇魚ちゃんを選ぶとは、なかなか見る目のある男の子ね。

 どこか遠いところで幸せになっていて欲しいものね」

「そう言う姫水ちゃんは、やっぱ事務所から恋愛禁止とか言われてたの?」

(ち、ちょっと花歩ちゃん、この話まだ続くん?)

 

 練習したい小都子だが、盛り上がっている後輩たちに水を差すのもためらわれる。

 横から感じる晴の視線が痛い。

 上級生が何も言わないので、姫水もそのまま話に応じた。

 

「特にそういうことは言われてないけど、告白されたこともなかったわね。仕事とレッスンで忙しかったから」

「うーん、姫水ちゃんは高嶺の花すぎるからなー。私が男子でも告白する勇気は持てへんわ」

「もう、別にそんなことはないわよ。逆に私が男の子だったら、花歩ちゃんに告白されたら嬉しいけどね」

「またまたー」

 

 調子に乗った花歩は、続けて夕理にびっと指をつきつける。

 

「夕理ちゃんは何となく男嫌いそう!」

「いや別に好きでも嫌いでもないけど……まともに会話したこともないし」

「そうなん? じゃあどこかの男子から告られたらOKする?」

「さ、されるわけないやろ! 万一されたとしても……」

 

 初恋がまだ継続中。

 今日もどこかで遊んでいる誰かさんを思い、夕理は小さい声で正直に言った。

 

「断るしかないやろ。私、もう好きな人いるんやから……」

「あ、はい。ソウデシタネー」

「何やねんその反応は!」

 

 こういう話になると、つかさが休んでいるのが口惜しい。

 そんな花歩の表情を察したのか、夕理はそちらへ話題を振る。

 

「つかさはしょっちゅう告白されてたで」

「やっぱりなあ……付き合いやすそうやもんね」

「でも片っ端から断ってた。何でか聞いたら、『男女交際なんてコスパ悪いやろ』って」

「うーん、貢がせようとかは思わへんのがつかさちゃんの偉いとこやなあ」

「おい小都子」

 

 いつまでも始まらない練習に、とうとう晴が苦言を呈した。

 

「どこまで放置するつもりや。

 次期部長なんやから、後輩にびしっと言えるようでないと困るで」

「そ、そうやね。あー、えへん。みんなええ加減にしいやー」

「あわわわわ。ごめんなさい小都子先輩!」

「す、すみません。私としたことが」

 

 平謝りの花歩と夕理に、姫水も困り笑いで頭を下げ、勇魚は苦手な話が終わったことにほっとする。

 微妙になってしまった空気に、厳しくなりきれない小都子は少しだけ場を和ませた。

 

「じゃあ最後に罰として、花歩ちゃんのロマンスも聞かせてもらおか?」

「十六年間何ひとつありませんでしたよチクショウ!」

「あはは。でも、おかげで立火先輩と運命の出会いができたんとちゃう?」

「そ、そうなんですかねー」

 

 

 *   *   *

 

 

「衣装はどうしたらええやろ」

「うっ……」

 

 聞かれた立火が言葉に詰まる。

 普段からファッションに無頓着で、衣装デザインも他人任せなだけに、そこについては弱い。

 

「あ、あれや、ジャニーズのとか参考にしたらええんとちゃう?」

「あー、なんか関西にもグループがあったな」

「そうそう。関西WESTとかいうの」

「関ジャニ∞とジャニーズWEST!」

 

 耐えきれずに口を挟んだのは、ずっと静かだった桜夜だった。

 内容はどうあれ美少女に話しかけられ、男子たちは恐る恐る言葉を繋ぐ。

 

「そ、そんな名前やったな。そいつらを真似したらいい?」

「うーん、一式揃えるのは大変そうやから……」

 

 どうやらこの場で服に詳しいのは桜夜だけのようだ。

 放置もできず、ミックスジュースをかき混ぜながら仕方なしに説明する。

 

「まあ男の子やったら、上着さえしっかりしてればそれなりに見えるで。

 古着のジャケットでも買って、他のアイドルを参考に飾り付けてみたら?」

「でも俺たち裁縫なんてやったことなくて……」

「工作ならあるやろ。要するに装飾品を用意して、くっつけたらええねん」

「な、なるほど! そう言われるとできそうな気がしてきた!」

 

 無邪気に喜ぶ男子に顔がほころびかける桜夜だが、すぐに猛へと白い目を向けた。

 

「ていうかそっちの彼。その格好は何やねん」

「え? その、清潔感ある服装にしようと……」

「確かに清潔感だけはあるけど! 高三にもなって無地のTシャツはないやろ!」

「ホンマホンマ、木ノ川さんもっと言うたって。コイツお洒落に興味なさすぎやねん」

「そう言うキミも、いかにも雑誌で見ましたって感じのコーデやな」

「い、いや、野球一筋だった俺が一応頑張ったんやから! 大目に見たってや!」

(桜夜……)

 

 会話の輪が回りだす三人を、立火は少し驚いて、そして嬉しそうな笑みに変わる。

 みんなアホで気のいい連中だ。

 仲良くなれないわけがないのだ。三人とも立火の友達なのだから。

 

 

 *   *   *

 

 

「正直最初は、女と一緒に野球ができるかって奴も多かったんやけどな」

 

 実務的な話はおおむね終わり、中学時代の思い出話に移っていた。

 

「立火の根性を見てたら、そんなん言う奴はおらんようになったで」

「今は強豪の部長やもんなあ。立火は俺たちの出世頭や!」

「ち、ちょっと持ち上げすぎやって」

「あはは、立火って昔からそうなんやなー」

 

 名残惜しいが、昼が近くなり店内も混んできた。

 最後に男子二人が、女子二人に深々と頭を下げる。

 

「おかげで何とかなりそうや! 二人ともおおきに!」

「俺たちの根性、ステージの上で見せたるで!」

 

 立火もうなずいて、ジュースを飲み干しつつ言った。

 

「九月十五日がうちの文化祭やから、何なら参考に見に来てや」

「え、女子高なのに男が入ってええの?」

「かまへんかまへん。大らかな学校なんや」

「うちのクラスはたこ焼き喫茶やから、売り上げに貢献してね!」

 

 明るく笑う桜夜に、和哉は思わず目を奪われる。

 立ち上がりかけた猛を引き留め、少し固い声を彼女に向けた。

 

「あのー、木ノ川さん」

「ん、私?」

「こ、これも何かの縁やし、よかったら連絡先の交換でも……」

 

 場の気温が一気に下がる。

 猛が頭を抱えながら、友人に苦言を呈した。

 

「お前、最後の最後で台無しやろ……」

「いやいやいや! 下心とかないから、ほんま全然!」

「あはは和哉、青春もええけどなー」

 

 笑いながら言う立火に、あれ、と桜夜は引っかかった。

 その目はどこか、笑いきれていないような――

 

「これからスクールアイドル始めて、受験もあるんやろ?

 二兎も三兎も追ってたら、結局ひとつも実にならんで」

「ううう、分かったよ……。くそう、こんな可愛い子と知り合えるチャンスなんて二度とないのに」

「下心ありまくりやないか! すまん木ノ川さん、俺からよく言い聞かせておくから」

「あ、うん……」

 

 嘆く和哉も謝る猛も、既に桜夜の視界にはない。

 瞳に映るのは、相方の姿だけだった。

 

 

 暑さに文句を言いながら、男子たちは駅へと帰っていく。

 それを見送ってから、立火は愛想笑いで桜夜に頭を下げた。

 

「いやー、おかげで助かったで。邪魔なんて言うてごめんな」

 

 桜夜がいなかったら、彼らの初ライブはどんな衣装になっていたことか。

 が、当人はどうでもよいらしく、先ほどからニヤニヤしている。

 

「んふふー」

「な、何?」

「さっきの、私をかばってくれたんやろ?」

「は?」

「そんなに私を男の子に渡したくなかったん? 可愛いなーもう」

「はああああああ!?」

 

 抗議の叫びを聞きながら、桜夜は嬉しそうに道路を歩き出した。

 日傘を差して追いかける立火は、必死になって言い訳する。

 

「ちょっ、何を言うてるんや! 私はただ二兎も三兎も追うのは良くないと……」

「はいはい。照れ隠し照れ隠し」

「あーもう! そういうこと言うんやったら」

 

 勝手に誰とでも付き合えば!?

 と言いかけたが、さすがに言い過ぎだろうか。

 いや別に、誰にも渡したくないとかではなくて……。

 

「んー?」

「な、何でもないっ。部室に戻るで!」

「そっかそっかー」

 

 恥ずかしそうな立火と幸せそうな桜夜は、相合傘で夏空の下を歩いていく。

 

 

 *   *   *

 

 

 そして部室に戻った後。

 

「てことで最後にその男がナンパしてきたんやけどー。

 立火が私を抱き寄せて、『悪いけどコイツは私の女やから』的なことを……」

「捏造すんな!!」

 

 立火の叫びに、花歩が引きつり笑いを浮かべている。

 

「さ、桜夜先輩冗談きついなー、もー」

「その人たち、真面目にやる気はあるんですか? スクールアイドルをナンパの口実に使ったなら許せませんが……」

「そ、それは大丈夫! ちゃんとライブの話もしたから!」

 

 さすがに彼らに悪いので、桜夜は慌てて夕理に弁解する。

 立火もようやく落ち着いて、部員たちにびしりと言った。

 

「参考に文化祭のライブを見に来るそうや。

 先達として恥ずかしくないよう、午後もしっかり練習するで!」

『はいっ!』

「あ、ひとつ聞きたいんですけど」

 

 昼休みに入ったからいいだろうと、さっきの続きをする花歩である。

 

「桜夜先輩は、やっぱり中学の時はモテてたんですか?」

「いやー、それが一度も告白されてへんねん。自己紹介で言うたんやけどね。

『私と並んで絵になる自信があれば、いつでも告ってきてええよ』って」

「ハードル高すぎますよ!」

 

 以上でこの話は終わり。

 お弁当を取り出す花歩は、立火にだけは聞く勇気が持てなかった。

 立火も聞かれずに安堵するのだった。

 

(あんまり言いたないしなあ……女の子から何度か告られたなんて)

 

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