空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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舞姫

 

 

 

 黒の世界に火が灯る。中心にいるのは紫銀の姫。祈るように膝を着き、ただ機を待つ。

 顔を上げ、跳ぶ。最初は小さく、しかし次第に大きく。ドレスが揺れる様は蝶のよう。ただ天を目指したそれは、そこに前進の意志を編む。円を描くように跳ね、願いを込めるように舞う。

 

 しかしそれも限界、これ以上の演舞は不可能だ。それは唯一の理、演者は二人でこそこの舞は完成する。

 故に今、唯一の存在である彼女はその動きを止めた。

「――ふぅ」

 小さく息を吐く。その瞬間に姫は消え、そこにはあるがままの少女が存在していた。

 まだ自分に自信がなく、また納得もしていない少女は再び一人きりの世界に赴き、しかしその一歩のみで止められる。

「あ――」

 手を叩く音に振り向くと、そこにはもう一人の姫。

「随分頑張っているじゃない、リーシャ」

「イリアさん」

 いや、イリア・プラティエがそこにいた。金髪碧眼の美女、彼女こそクロスベルの誇る劇団アルカンシェルのトップスター、代役の利かない花形である。

 

「でもここまで、もうやめときなさい」

「いえ、大丈夫です。私はまだ――」

 言の葉は終わりまで紡げず、疲労によって少女は膝を着いた。それをイリアは当然とばかりに見つめている。

「今日はおしまい。そうじゃないとあたしが上がれないじゃないの」

 あくまで自分のため、そう言ってしまえば少女に選択権はない。当然の帰結というべきか、少女は苦笑し舞台を下りる。

 次の舞台は日の出の先。それまでは少女は姫ではなく、リーシャ・マオという普通の少女に戻る。そんな彼女の背を追ってイリアもまた舞台袖に消えた。

「もう本番まで近いし、体調管理はしっかりなさい」

「わかっています。でも舞台のことを考えるといてもたってもいられなくて……」

「その気持ちは次までとっときなさい。そうすればもっと輝けるわ」

 リーシャはイリアの言葉に頷き、しかし表情に陰を落とした。

「――イリアさん、やっぱり相談したほうがいいと思うんです」

 本題を抜いたその言葉、面倒くさいとばかりに頭を掻いてイリアは間髪要れずに応える。

「いいわよ別に。どうせ悪戯でしょ」

「でも……」

 

「リーシャ君の言うとおりだよ、イリア君」

 低い声が前方から響き、二人は顔を向ける。

 劇団長である年配の男性はリーシャの意見に賛成のようでイリアを説得しようと続けた。

「万が一のことがあったら大変だ。遊撃士がダメなら警察にだって相談を……」

「一緒よ一緒、どっちにしろ公演前に部外者が来るんじゃない」

「でもイリアさん、そうでもしないと私、気が気じゃなくて……」

 ますます沈み込むリーシャにイリアは頭を掻き、仕方がないという風に投げやりに応えた。

「ま、リーシャのためってことなら我慢しますか」

「イリアさんっ」

「ありがとうイリア君!」

 ようやく望みの言葉がもらえたのか感極まる二人、だがイリア・プラティエが素直に引き下がるわけがない。

 指をまごつかせながらゆっくりとリーシャに近づくイリア。

「じゃあ報酬としてリーシャのけしからん胸もみもみ権を頂きましょうっ」

「あーん、助けてお母さーん……っ」

 背後から抱きすくめるイリアと、それに泣き言を言うリーシャ。いつものスキンシップなので見守る劇団長も微笑ましいといった感じだ。

「ん?」

 その時備え付けの導力通信が鳴る。劇団長が対応すると、彼はすぐにイリアを呼んだ。イリアはリーシャへのちょっかいをやめて受話器を持つ。すると彼女の友人だったらしく、静かに親しげな会話を始めた。

 

 リーシャはそれを眺めながら翌日しかるべきところに相談することを決めた。

 ふと脳裏に浮かぶのは二人の遊撃士。しかし彼女はその映像を遮断し、かねてより気にかけていた場所に持ちかけることにした。

 

 劇団アルカンシェルの新作公開まで一週間、それは劇団にとっても、リーシャ・マオにとっても密度の濃いものとなる。

 

 

 

 

 

 

 空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない

 

 

 

 

 

 

 タングラム門から戻ってきた特務支援課、さて本日の依頼は終了したのでどこかで昼食をと話し始めたところでロイドのエニグマに通信が入ってきた。特務支援課オペレーターのフラン・シーカーである。

 立て続けのシーカー姉妹だなといい加減な感想を抱きながら繋ぐと、どうやら特務支援課ご指名の依頼が入ったそうである。現在地を報告すると、依頼者は分室ビルに向かったそうなので戻ってほしいということ。

 昼食はお預け、とにかくもビルに戻ることにする。ギルドの前を通ったときエステルとヨシュアとの訓練のことを思い出したが、今日は無理かもしれなかった。

 

 分室ビルに戻ると玄関前にツァイトはいなかった。西通りの出口か、はたまた屋上か。依頼者が既についているなら、彼はおそらくその場にはいないだろう。普通の大きさでない彼は好んで人に近づこうとしない。それでも子どもに好かれているのはやはり子が純真であるからだろう。

 扉を開け中に入るとすぐに待合用のソファーが見え、そこに所在無げにちょこんと座っている少女が見えた。

 

「あ――」

 

 それは果たしてどちらの声だったのか、同時に驚きを見せたロイドと少女。

 刹那、何かの残像を想起し、忘我する。それも一瞬、既に記憶はなく、覚えているのは下弦の月というイメージのみ。

「ロイド?」

「あ、す、すみません、お待たせしました。特務支援課捜査官ロイド・バニングスです」

「あ、すみません突然。えと、リーシャ・マオって言います」

 そして少女は深々とお辞儀した。

 瞬間、四人に電撃が走る。

 ロイドは沈黙し、エリィは驚きに目を剥く。ランディは呆れともつかない表情でそれを見つめ、

 トランジスタグラマーです……

 ティオが内心で四人の総意を呟いた。

「あの……?」

 リーシャは固まった四人に訝しがるが、彼らは慌てて取り繕い、改めて話を聞いた。

 

 

 ***

 

 

 リーシャの相談、それは所謂脅迫状であった。

 イリア・プラティエ宛に送られてきた手紙、その内容が新作公演の中止を要求するものだったのである。

「――しかしイリアさんに脅迫状たぁとんだ野郎だな」

 ランディは憤っている。彼は自室にイリアのポスターを貼るほどのファンなのだ。始めこそイリア・プラティエ絡みの依頼を準主役である大型新人リーシャ・マオが持ってきたと興奮していたが、流石にこの案件で喜色を表すほど無神経な性格ではない。

「いえ、脅迫状のようなものは結構来るんです。でも今回のはなんだか違う気がして……」

「脅迫状の現物はあるんですか?」

「それがイリアさんが持ってて……すみません」

 申し訳なさそうなリーシャに配慮の言葉を言いつつ、ならば方針は決まったようなものである。

「そうですね、まずはその脅迫状を見ないと始まりませんし、これからそちらに伺ってもよろしいでしょうか?」

「も、もちろんですっ、よろしくお願いします」

 正式に依頼受諾の言葉をもらい、リーシャは立ち上がってお辞儀をする。その動きに合わせて動く女性らしさに再び目を奪われた。

 

「あの、ちなみにどうしてうちに相談を?」

 エリィが全員の疑問を代表して尋ねると、苦笑したリーシャは他意なく言ってのけた。

「新作の公開が控えていますからあまり騒動にはしたくないんです。遊撃士の方は有名ですし、警察の方もイリアさんの機嫌を損ねてしまいそうで。その点皆さんは安全かと思って」

「…………」

 相談してよかった、と晴れやかな表情を浮かべるリーシャに喜んでいいのかわからない特務支援課。

 そしてそれをリーシャの隣で眺めるツァイト。

 

「ってツァイト、いつからそこにいたっ!?」

「自然過ぎて気づかなかったわ……」

「あはは、ツァイト君って言うんですか? 何故か懐かれてしまって」

 リーシャは苦笑いしながらもツァイトを見やる。どうやら恐怖や嫌悪などは感じていないようだ。ちなみにツァイトは話の途中で階段からやってきて、ティオは当然の如くそれに気づいている。

 水を向けられたツァイトは話しかけるように二、三唸った。

「……お前たちなりにやっていくことだ、手に負えないならば力になってやる。だそうです」

「あ、あぁ……」

「賢い犬なんですねぇ」

 リーシャはツァイトに感心したようだが、普通に考えればツァイトの言葉がわかるティオに関心が向くものではないだろうか。僅かな時間だが三人はリーシャを天然だと判断し、ティオは彼女の言葉に狼だと訂正を入れていた。

 

 そして一同は、劇団アルカンシェルとコンタクトを取ることになる。

 

 

 

 

 リーシャを先頭に劇場に入ると前回と同じく初老の男性がやってくるが、彼は事情を知っているのか歓迎してくれた。リーシャ曰く、彼がこの劇場の支配人らしい。

 促され装飾豊かな赤い扉を潜ると、そこには一つの太陽があった。

「あ……」

 薄暗い客席に人はいない、しかし舞台には姫がいる。スポットライトの中で縦横無尽に舞い踊る金の太陽、その美しさに全身が硬直した。

 視界以外の感覚が途切れ、ただただ見つめる。その圧倒的な存在感は正しくイリア・プラティエである。

 流れる曲に合わせているのではない、彼女に曲が合わせているのだと実感させる。およそ場内の全てを掌握する者がそこにいた。

 

「あら?」

 イリアは動きを止め、曲も止まった。

 その視線の先でやっと動くことのできた特務支援課はリーシャに引き連れられてゆっくりと階段を下る。舞台前にまで到達すると、イリアはそこに舞い降りた。

「リーシャ、ってことは――」

「はい、特務支援課の方々です」

「ふーん」

 イリアはじろじろと四人を見回す。その様子は今まで舞台で踊っていた人物と同じには見えなかった。

「あ、あの……」

「大丈夫? この子ら」

「もちろんッス! 必ずや解決してみせますよっ!」

 ランディは気合を込めて宣言するが、イリアはどこ吹く風だ。

「ま、これでリーシャが納得するんならいいけどさ。練習の邪魔はしないでよ?」

 イリアはあまり興味がないようだ。リーシャの苦笑の理由がよくわかる。

 

 とにかく依頼を受けた以上ことを進めなくてはならない。

「初めまして、特務支援課捜査官ロイド・バニングスです」

「同じく、エリィ・マクダエルです」

「ランディ・オルランドっす!」

「ティオ・プラトーです。あ、あの、すごかったです……」

 どうやらティオはイリアの演技に感激したらしく、珍しく感情を露わにしていた。イリアは素っ気無くありがとうと言うが、改めて言葉の内容を吟味したのだろう、不意にロイドに顔を近づけた。

「今ロイドって言った? ロイド・バニングス?」

「は、はい……」

 突然の奇行にロイドは動揺するも、ロイド・バニングスかと問われては頷くしかない。

「なーんだそうならそうと言ってくれればいいのにー!」

 突然の抱擁、空気が一変した。

「なっ!」

「うぉっ!」

「あ……」

「へ?」

「えぇーーーーー!?」

 リーシャ含め五人は五通りのリアクション。その間もイリアは気にせずに自身の欲望に忠実だ。

「まさかこんなところで噂の弟君と会えるなんてねー。リーシャ、グッジョブ!」

 さわさわとロイドの身体に手を這わせながらイリアはサムズアップする。しかし当の本人は驚愕で反応できない。

 

 いち早く再起動したエリィが慌てて、しかしある言葉に気づいて場を収束させた。

「ちょ、ちょっと――って、弟君、ですか……?」

「そーよ、セシルの弟君でしょ?」

「セシル姉? 知り合いなんですか?」

 ようやっと口を開けたロイドから離れたイリアは腰に手を当てて胸を張った。特に意味のある行動ではない。

「日曜学校からの親友よ。昨日も連絡あったしね」

 イリアはクロスベル出身なので当然日曜学校にも通っていたわけだが、今のイリアはクロスベルのトップスター。得てして自分たちとはかけ離れた存在が馴染みの場所に通っていたという事実には気づきにくいものである。

 そしてイリアの年齢を考えればセシル・ノイエスと知り合いでも不思議ではないのだ。

 

 

「――で、脅迫状だっけ?」

「え、ええ。現物を見せていただきたいんですけど……」

「ふふん、弟君の頼みなら聞かないわけにもいかないかっ」

 頼まれたのはロイドたち特務支援課なのだが、そんなことは至極どうでもいいことである。イリアとともにアルカンシェルの控え室に向かった。

 控え室は正面玄関からすぐ左手、そのまま進むと舞台袖に出る。客席が二階にある以上仕方のないことだが、しかし侵入も容易そうな場所である。ロイドは無意識にその危険性を頭に入れていた。

 

 化粧台の並んだ控え室にてイリアから件の脅迫状を受け取る。外見は普通の便箋、封の解き方は乱雑で性格を想像させた。

 断りを入れ、四人はその文に目を通す。

「……確かに脅迫状ですね」

「公演を中止しなければ炎の舞姫に悲劇が訪れるだろう。具体的なことは書かれていませんね」

「炎の舞姫、つまりはイリアさんですか……」

「そんで……ん?」

 ランディはそこで止まる。具体的なことが要求以外書かれていない不思議だが一般的な脅迫状において、その存在を誇張するように書かれていた、送り主を示す最後の言葉。

「――――銀、だと……?」

 

 その言葉にリーシャが不安そうに口を開いた。

「今回皆さんに相談したのは、送り主が書かれていたからなんです。今までのそうした脅迫状には送り主なんて書かれていなかったんですけど」

「しかし今回はある。そういうことですね」

「悪戯だと思うんだけどなー」

 自分のことなのに楽観視するイリアをリーシャはたしなめる。これでは確かに本人からの相談など来はしないだろう。

「この“銀”に関して心当たりは?」

「一応次の演目が“金の太陽 銀の月”って言うんだけど、それくらいね」

 イリアの言葉に四人は考えを募らせる。もしそこから取ったのなら間違いなく悪戯だが、他の何かを示す可能性もある。

 

「リーシャは何かないか? 例えば恨みを買ってそうな人物とか」

 リーシャは思考し、心当たりを思い出したのか気まずそうに言う。

「あの……ちょっと前にこっぴどく追い返してしまった人がいて」

「あらリーシャ、あんたそんなことやったの?」

 意外という感想を隠しもしないイリアにリーシャはため息を吐いた。もちろんリーシャではなくイリアが行ったことである。

「…………………………あぁ、あのルバーチェの会長だとかいうおっさんね」

 まさかというべきかやはりというべきか。彼らは過去の二つの事件を思い起こしながらそれを脳裏に叩き付けた。

 

 ルバーチェ商会、クロスベルの暗部である。アルカンシェルの外国公演の話を持ち寄ってきたらしいが、イリア曰く自分の身体目当てだったというのでビンタして追い払ったらしい。

 自業自得だが、恨みを抱いていてもおかしくはない。

「全く、なんというかまたまたって感じだな……」

「…………」

 ランディは呆れを通り越してといった感じだが、エリィは思いつめたように俯く。流石にここまで話題に上ると滅入る部分もあるのだろう。

「しかし“ルバーチェ”に“銀”か……なんかしっくりはこないな」

 ロイドはその妙な食い合わせに奥歯に物が挟まったような印象を受ける。どうにもルバーチェという感覚はしなかった。

 

「他には何かない?」

 イリアが問う。ロイドは首を振った。

「うん、これでリーシャも安心ね。その銀とかいうヤツは弟君たちに任せて練習に励みましょっ」

「でもイリアさん、私たちは私たちで気をつけないと。いつその(イン)が来るかわからないんですし」

「え? リーシャ、今なんて?」

 唐突に聞こえたその言葉にロイドはリーシャを見て、彼女は不思議そうに応えた。

「えっと、私たちも気をつけない、と……いつインが来るのかわからないです、し……?」

 意識した言葉でなかったのか不安そうに復唱するリーシャ、その言葉の違和感に四人全員が気づいた。

「リーシャさんはどこの出身ですか? 名前的に共和国だと思うんですけど」

「は、はい。確かに共和国出身です」

「共和国では、この文字は何と読むんですか?」

「あぁ、はい。イン、です。あ、そうですね、皆さんとは読み方が違いますか」

 得心した、という風に手をぽんと叩くリーシャに四人は顔を見合わせた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 アルカンシェルを出て、四人は脇に寄った。脅迫状はイリアの了承を得て借り受けている。

「ルバーチェ、そして銀ですか……」

「しっくりこなかったのは、送り主の名前だ。確かに共和国を思い起こさせる」

「イン……ただ読み方が違うだけだけど、もしかしたら別のアプローチができるかもしれないわ」

「ま、最有力がルバーチェなのは変わらんけどな」

 脅迫状を眺める。その送り手である銀の正体を暴くことが本件の肝だ。

「公演が中止されることはない。だから俺たちのやることはこの新作が公開されるまでの間に銀の正体を突き止めることだ」

「もう一週間は切っているわね。得られた情報でどこまで進めるか……」

 先行きが不安だというのはいつもどおり。ここで今までならばリーダーであるロイドが方針を決めるのだが、今回も多分に漏れないようだ。

 

「――情報が少ないなら選択肢は限られてくる。一度ルバーチェと接触する必要があるな」

 つまり虎穴に入らずんば虎児を得ず、である。しかし流石に三人は驚きで目を剥いた。

「おいおい、ちょいと大胆過ぎないか? 一理あるが後にしたほうがいいんじゃね?」

「共和国方面の話かもしれませんし、一度東通りで情報を集めてみるほうが無難では?」

「イリアさん個人ではなくアルカンシェル自体に恨みを持っているという線もあると思うけど……」

 三人の言葉は尤もだ、だからロイドもそれぞれに賛成の意を述べる。しかし可能性という点でルバーチェを上回る存在はいないのだ。

 

 ルバーチェに突撃するという行為には危険に見合うだけのメリットがある。脅迫状を受けたイリアが覚えている直接恨みを買いそうな人物にして、現在のクロスベルの裏を牛耳る巨大組織だ。

 仮にルバーチェが犯人だったとしたらその時点で特定は終了し、違うならば最大の懸念事項が払われることになる。故にその突撃が成功したならば多大な成果が得られることになるのだ。

 

「――ただ、この場合で最悪なのはむしろルバーチェが犯人であり、かつ強行に走る場合だ」

 ロイドは言う。向かう先はルバーチェの本陣、つまり多くの構成員と幹部がいるだろう。そしてその場で戦闘に移行した際逃げ切れる可能性はほぼ零である。

 何を狙っているのかわからないが、もし真実を知った四人を生かしておくことができないほどの規模ならば、特務支援課は全滅を覚悟しなければならない。

 

 しかしリスクが大きいのはルバーチェも同様だ。警察の人間を複数同時に葬った場合の隠蔽などには苦心することになるし、最悪遊撃士協会が動くことになる。ルバーチェがクロスベルを仕切るまでに至ったのはそのリスクマネジメントが完璧であったからだ。

 だからこそ強行には走らない、と結論づけることもできるが、先の見えない闇に突っ込む以上最悪の想定はするべきだった。

 

「だからこれは全員の意見が一致した時だけだ。そして今はその時じゃない。ルバーチェ以外の可能性を探すほうがいいだろう」

 ロイドはそうまとめ、三人を見た。

 

 微妙な間があった後、四人はまず食べ損ねていた昼食を摂ることにした。その後分室ビルで方針を固めることを決め、彼らはアルカンシェルから去っていく。

 

 次に赴く理由が吉報か凶報か、それは今より二日後に決定する。

 

 

 

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