空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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推奨BGM:Inevitable Struggle


星の奔流

 

 

 ここまでの道のりは正に異世界のそれだった。一階に引き続き二階も主だった変化はなく、しかし螺旋階段を上り三階に到達すると、そこには壁一面に書棚が埋め込まれていた。部屋の中央には巨大な天秤が鎮座し、錬金術師の建造したものであることを印象付ける。四階には外壁に沿った外階段から入り、そこから六階までは一・二階と同様の造りである。

 

 そして現在。

 碧と赤の二つの光を宿す天球儀の間には書棚と、屋上へと続く上り坂。太陽のような文様が入った円が描かれた床に、壁沿いに咲く薄紫の花。星見の塔六階はそんな開けた場所だった。そして――

「…………」

 そして、その書棚の上に一人。銀色の仮面をつけた黒装束の人物。

 口元のみが開いており、それ以外はまるでわからない。腕と外套の先が刻まれたように歪で、それは夜闇に紛れる羽のよう。

 五人の姿を確認して飛び降りる。その動作は限りなく無音で、暗殺者であるという情報を見事に顕していた。身長はさほど高くはなく、気を逸らせば闇に溶けてしまいそうなほどに薄い印象だ。

「まずはここまで足労願ったことを労おう」

 高くもなく低くもない声色。年齢はそこまで高くないように思われた。

「お初にお目にかかる、私が銀だ」

「……もう知っているだろうけど、特務支援課のロイド・バニングスだ」

 彼にしてはやや乱暴に名乗り、銀も見えない瞳で青年を捉えた。

 視線が交錯する。ふと、銀の醸し出す静かで深い空気が冷気を帯びてきた。それは如実に雰囲気を変えて緊迫感を増徴し五人の身体を強張らせる。

 

 銀は、散歩にでも誘うように自然に、しかし明確な意志を持って告げた。

「――さて、問答はここまで。残りは最後の試練を乗り越えた後に存在しよう」

 どこからか剣を取り出し構える。柄には金と赤い宝石、刀身は黒く紫の不可思議な模様が描かれており、その頂点は弧を描いて二本の鉤を形作っている。身の丈ほどもある巨大な長剣、それを右手一本で軽々と持ち上げ構える銀はその細い体躯に不釣合いな膂力を持っているようだ。

「……どういうつもり」

 エリィは銃を胸元に添えていた。いつでも発砲できる姿勢、それは既にこの先の展開を覚悟した声だった。

「弱者に用はない。お前達が我が望みに適う強さを持っているのか……私自身に証明してみせろ」

 右腕を肩より高く持ち上げ切っ先を向ける独特の構え、それが何より不吉を招き、同時に蜃気楼のような揺らめきを覚える。それは銀の放つ裂帛の闘志、強者であることを強制的に示すバロメータである。

「多勢に無勢――なわけねぇな。気ぃ張れよ! コイツ恐ろしく強いぞ!」

「言葉は無用、ならば全力で相手させていただきます!」

 ランディが吼え、ノエルが凛とした眼で対象を捉えた。五対一、その状況がまるで慰めにもならない。そのことを全員が知っていて、故に誰もが口にしなかった。

「行くぞっ!!」

 戦闘の合意、そして眼前の銀は――

 

「いい闘志だ、では…………銀の力、受けてみよっ!」

 前衛にロイドとランディ、中盤にノエルとエリィ、後衛にティオを配置した逆さの五角形は銀の言葉と同時、あっけなく破砕した。

 突進したロイドとランディの同時攻撃を一歩の跳躍で避わし、中盤のノエルに駆ける。ノエルはサブマシンガンを一斉掃射し近づけさせず、弧を描き走る銀は一瞬の後消え失せる。

 見失ったノエルは背後に寒気を感じて振り返り、偶然得物に当たった一閃に吹き飛ばされた。

 入れ替わる形で飛び込んだロイドとランディはそのまま一回転した銀の薙ぎにトンファーとハルバードをそれぞれ合わせ、同時にエニグマを起動させる。光に包まれた二人は導力を得物に集め、相乗の振動攻撃を放つ。銀は剣に与えていた力を抜き、二撃の威力に任せて大きく後退した。

「…………」

 その銀に対し水色の光が重圧をかけ、同時に雷撃が降り注ぐ。煙を上げる着地点、しかし人影はなく、その遥か横には左腕をしならせた銀がいる。腕に装着された鉤詰めが殺到しエリィは咄嗟に銃を手放した。絡め取られた銃は剣閃で細切れになり、エリィはもう一つの銃を抜く。

 

 高速の疾駆で銃口を外す銀を更にノエルの掃射が追うが当たらず、進行方向を変えた銀は後衛のティオに狙いを定める。懐から取り出した符を投擲、しかし間に割り込んだランディが符を寸断、瞬間それは爆発した。

 ランディに気を取られたロイドは銀の接近を許し、しかしトンファーで致命傷を防ぐ。頭から血を流したランディは咆哮、戦技を解放した。

 ロイドとノエルが銀に二方向から迫り誘導せんとするも、その二人に対し長剣をブーメランのように放り投げてくる。

 思わぬ攻撃に肩口を切り裂かれる二人だが、投げた得物が戻ってきた時には銀はランディの一撃を避けられない。剣を盾にした銀は衝撃によって壁に叩きつけられ、しかし刹那、笑みを浮かべて消失した。再び現れたのは僅か数瞬の後、その間隙にランディは叫んでいた。

「散れぇえええええ――ッ!」

 

「――我が舞は夢幻」

 書棚の上、銀はその両腕から無数のワイヤーロープを伸ばしている。跳躍し、腕を交差させた瞬間五人の周りにワイヤーが集い拘束する。更に引き絞った腕によって身動きの取れない五人は一気に中央に集められ、

 

白銀(しろがね)の光に抱かれ、眠れ――」

 

 

 

 

 

「――――」

「――ぁ」

 衝撃、忘我。

 全身を貫く、受けたことのない一撃に意識が乖離する。背を向けた銀、その剣に血が浮かぶのを亡羊と見ていた。

 

 拘束から解き放たれ全身に激しい痛みが生じたことを契機としてロイドは覚醒、仲間を見やる。

 長剣即ち刃物、正面に配置された一人はただでは済まない。ランディ・オルランドは裂かれたシャツをその血で真っ赤に染めながら、それでもハルバードを支えに立ち続けていた。

「ラ、ンディ……っ」

「く、はァ…………」

 エリィは倒れ伏し、しかしなんとか立ち上がろうと腕に力を込めている。ティオは胸のプロテクターが破損し、バチバチと音を立てている。頭を打ったのか意識を失っており、流れる血が床を染めていた。その傍でノエルは肩口を押さえ、震えながらもゆっくりと立ち上がっている。

「く……」

 エリィは起き上がることが難しいことを悟り、銃を天に掲げた。CPが消失し銃口に光が宿る。

「オーラ、レイン――っ」

 光が降り注ぎ、傷を癒していく。ランディの呼吸が安定し、ノエルは肩から手を離した。ティオは目を覚まさない。

 

「強制回復か、しかし意識を取り戻すことはできないと見える」

 銀は剣を下ろし静かに状況を見つめている。壊滅状態の彼らに対して何かをする気はなさそうだ。彼の試練が終わったのかどうか、それはまだわからない。

「…………わりぃ、堕ちる、わ……」

 吐血、オーラレインでも回復が追いつかないほどの損傷。出血量は凄まじく、ランディは倒れた。なんとか戦えるのはロイドとノエルの二人のみである。

「それで、どうするんだロイド・バニングス?」

「――やる、さ……曹長、いけるか……っ」

 銀を見つめたままのロイドの言葉にノエルは頷く。得物の一挺は破損して使えない。ならばとノエルは銃を捨ててハルバードを構えた。ノエルは銃だけでなくハルバードの使用でも警備隊随一、しかし彼女は悟っている。自分のレベルは彼の者の足元にも及んでいない。

 それでも――

 それでも、立ち向かわなければならない。ロイド・バニングスを始めとしたこの知人たちは彼女にとって守るべき対象だ、ならばここで散ろうとも、彼女は立たなければならないのだ。ロイドもわかっている。試練と銀は言ったが、自分たちがここで死なない理由はない。立ち向かわなければ、ここで皆、死ぬのだ。

 

「面白い、ならば試練は続行だ」

 再び構えた銀に対し、ロイドとノエルは時間差で飛び込んだ。ノエルのハルバードは特注品、非力な彼女でも破壊力が落ちぬよう先端の重さが増しており遠心力を味方につける。

 身体を捻り上部から振り下ろし、しかし銀は苦もなく回避する。だがそれでいい、ノエルの一撃は強力で銀でも受ければ瞬動は難しくなる。必然的に限定された空間でロイドは二本の得物という利点を最大限に利用して連撃を仕掛けられる。

 それを器用に長剣で受ける銀、その武器にランディの血を見てロイドの感情が膨れ上がる。肩に力が入った渾身の、しかし大振りな右の一撃を銀はあっさりと外に避け、そこを狙ったノエルのハルバードの刃下を一閃する。

「な――」

「ぬるい」

 武器破壊に思考がまっさらになったノエルは無防備で、彼女はスローモーションになった世界を見た。東洋の符――胸元に吸い込まれていく。それは着弾と同時に炸裂し、彼女を壁まで吹き飛ばした。

「――――」

 声もなく、あっけなく。

 ノエル・シーカーはその動きを止めた。

「曹長!?」

「これで一人だな、ロイド・バニングス」

 既に大きく距離を離した銀は剣先を下げて見つめてくる。それは意志確認、この状況で青年の如何をただ待つ。そして、ロイドは仲間を見ていた。

 中央にはランディとティオ、少し離れた場所にエリィ。銀の背後にはノエルがそれぞれ沈んでいる。エリィだけはまだ意識が残っているのだろう、なんとか起き上がろうと未だもがいているのが見えた。

 

 

 その光景はただ一人の人物によってもたらされた。黒装束の伝説の凶手、今目の前にいる黒だ。

 

 

「最後に残るのが貴様だというのは中々に興味深い展開だ。仲間は倒れ、しかし貴様は立っている。その差は一体どこにある?」

 銀が彼を攻撃しなかったというのが当然にして最大の理由ではあるが、何も意識してそうしたわけではない。ただ戦闘の流れのままに最適な攻撃対象を定めていった結果、ロイド・バニングスが生き残った。それだけだ。

 ただそれだけなのだが銀にはそれが偶然とは思えなかった。

「再度問おう――――どうするのだ、ロイド・バニングス」

 呆然と仲間を見ていたロイドはその言葉に身体を強張らせ、その主を見た。その瞳にあるのがどのような感情か銀には計り知れず、またそうする気もない銀はただ構える。

 ロイドから立ち上る気を見る銀は、そこに何かしらの意志を感じ眉を潜めた。先までの気は衰弱に従って次第に薄く小さくなっていった。だが今、状況が最悪に陥った今、見えるそれは今までよりも大きく、強く、そして空の気配が強い(・・・・・・・)。同時に、また別の属性も感じ取れた(・・・・・・・・・・・・)

 ……二属性を持つ存在など見たことはない。

 銀はまるで幻を見るように彼を眺めた。ロイドはただそこに立っていて――

 

「――――」

 駆けた。彼我の距離は7アージュほど、その距離を一瞬で零にする。窺えない眼が驚愕に見開かれるも銀は長剣を盾にした。金属音が響く。ロイドが二撃振るうたびに一度ずつ響くその衝突音に銀は声を漏らした。

「む……!」

 後退し距離を取った銀は地を踏みしめて左右への移動で以って撹乱する。残像が見えるほどのフットワークをロイドは見ることもせず構え、しかし左後方から迫った銀の剣閃を片手で受け止めた。

 またしても驚きに足を止めた銀に背中を向けたロイドはそのまま右のトンファーを裏拳のように放ち、銀は身を屈めて回避する。瞬間、彼の眼前に飛び込む左足刀。それを左腕で受けた銀は地に足を滑らせて後ずさった。

「……意外だな、ロイド・バニングス。いや、全く以って想定外だ」

 呟く銀に迫るロイド。右からの一閃を二本のトンファーで防ぎ、長剣に乗るように身体を浮かせて側頭部を蹴り込む。剣を放した銀はロイドのバランスを僅かに崩し、その足を掴んだ。軋む音を上げる足に構わず今度はそこを支点として逆さになったロイドはトンファーを足目掛けて振るい、跳躍回避した銀は手を放して宙に浮いたロイドを蹴り飛ばした。

「――――」

 常人離れした銀の脚力を身体の中心に受けたロイドは地面を滑っていき、しかしエニグマを起動、銀にチャージをかけスタンブレイクを見舞う。それを剣で受け止め、その振動に心身を震わせる銀は口を吊り上げた。

 

「貴様、一人のほうが強いではないか――!」

 

 CPを更に消費、均衡した鍔迫り合いにアクセルラッシュを強引に仕掛けて銀を吹き飛ばす。しかしダメージはない銀は符を投擲、ロイドは技後硬直中にそれを受け閃光に消える。が、血を流しながら倒れない。

 服は焼け焦げ血と埃に汚れ、それでも表情は変わらない。人形のような相貌に、胸元の宝玉は光り続ける。圧倒的な優位に立っている銀はその顔を視界に捉え、その度に気を引き締めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 一人のほうが強いではないか――

 そんな声が聞こえてきて、エリィ・マクダエルは霞む意識を強引に引き戻し、激痛を発する身体を無視して拳を握り締めた。戦いの音が鼓膜を支配し、しかし身体はうまく動いてくれない。ただそれとは逆にクリアになって動く思考は必死に今の言葉を否定した。

 

 違う、それだけは認められない――

 

 エリィの脳が過去の情景を映し出す。

 それは昨日の夜、煌めく光の粒の中で話す一人と一人。

 青年は一人じゃないと語りかけ、笑った。だからこそ自分はここにいるのだと言ってくれた。その言葉に彼女は、エリィ・マクダエルは安堵したのだ。自分は一人じゃないことを教えてくれた彼に心の穴を塞いでもらったのだ。そんな彼が、たった一人のほうが強いなんて妄言を認めることなんてできない。

 何よりその言葉を聞いた彼女が、そんな事実を許さない。

「――言わせ、ない……ッ」

 危険信号を無視して傍に横たわる銃を見る。共和国ヴェルヌ社製の導力銃、普段のそれとは異なるエネルギー放出系の予備。手を伸ばして握り締め、悲鳴をあげる腕と喉を圧し止める。

「――――!」

 声を漏らしたくない。そうすればそこから全ての気力と思いが抜けてしまいそうで、目を閉じて必死に耐えた。

 痛みはひどいが、それでも動く。力の抜けた体は大分正常に戻ったようだ。恐らく驚異的な一撃に一時的な麻痺を起こしていたのだろう。それは痛覚も緩和していたのか、今更になって酷く痛む。それでもいい、ただ一人で戦っている彼のために、自分のために、なんとしても立ち上がらなくてはならなかった。

「そんな言葉……認めてたまるもんですか――」

 

 不意に、過去の感覚が浮かび上がる。あの時あの場所で救われた彼女が、ただ一つ否定した幻。その時には聞こえなかった、いや認識していなかった音の波動が今になって身体を駆け抜け、そして彼女は気づく。

「あ…………」

 あれは幻ではなく紛れもない現実。しかしそれは彼を傷つけることではなく、彼を救うためのものであったのだと、そんな当たり前の事実を緊迫した今思い知った。

 悲鳴を圧し止めた口から笑いが零れる。あの時見た幻は否定するものではなく、その理由こそを考えるべきだったのだと当時の自分に言ってやりたいが、それはあの光景を現実にしてから反省しよう。

 

 今はそう、ただ一人で戦っている彼のために――

 

 下半身に感覚が戻り、自重を支える土台ができた。後は――

 

 

 

 

 

 

 限界を超えたロイドの体は意志に反していく。最高速度を出し続けた機体の燃料は加速度的に減っていく、それは当たり前のことだ。

 しかし彼を責めることはできない、それが最善の手段だったことは否定しきれない事実だからだ。故に言及すべきはその選択しか選べなかった彼我の実力差と、何よりそれで凌駕し得ない銀の戦闘力である。

「――はぁ、はぁ」

 終ぞ一言も発しなかったロイドから呼吸の荒さが生まれる。それでも彼は攻撃の手を休めず防御の手を休めず、ただただ機械のように向かい続ける。銀はそれを防ぎ、攻め、しかし彼には余裕があった。徐々に落ちてきている相手の性能を理解しているからだ。

 しかし彼はそんな思考とは裏腹に真っ向から全力で向かい続けている。

 理性と反して戦うというのは銀にとって何のメリットもない。が、眼前の人物――ロイド・バニングスという存在に対する興味だけがただあった。

 土壇場、正念場、崖っぷち。言い表す言葉は数あれど、しかしそのどれもが彼の今を形作っているのかと問われれば銀に答えはない。火事場の馬鹿力と呼ばれるそれは身体能力を制限する枷を外した状態だ。そんな相手と戦ったことは長い銀の歴史の中でも数多ある。

 

 しかしその無数の過去の相手と今の彼は一線を隔している。

 理由は一つ、ただの勘である。

 だが百年を越える銀にとってそれは無視できるものではない。勘というのは経験と本能が最適解を導き出したものだ、むしろ尊重するに値するものなのだ。だからこそ銀はその異常な相手に興味が尽きない。

 試練だと相手を計るような志向で始まったこの戦闘が既に本来の目的を外れて一周し、また別の計りごとで満ちているのは何の偶然か。

 

 銀は交差する二つのトンファーから退避し、長剣を振りかぶって投擲する。崩月輪と呼ばれるそれは銀のクラフトの一つだが、得物を手放すというデメリットも存在する。そのデメリットが危険だという理由でロイドに使わなかったそれを今になって使っているという事実は彼との戦闘に変化が生まれていることを示す。

 事実ロイドはそれを避けることもなく両手で受け、弾かれる。弾かれながらも迫るロイドに左手の爪を飛ばし両のトンファーを絡め取る。これを放せばロイドの負けは必定、故に彼はそのまま銀に引き寄せられ、長剣の一閃をその身に受ける。

 剣閃に伴って緩んだ鉤詰めから武器を外し、そのまま振るうロイドだが既に銀は距離を取っている。胸に刻まれた傷がじくじくと痛み、血液が零れていく。

 龍爪斬は獲物を引き寄せるための手段にもなる銀の基本的な技である。これもかつてのロイドならば引き寄せられてもその勢いを長剣に叩きつけているはずだ。

 爆雷符は使わない。消耗品であるそれを使う段階でなくなったからだ。

「はぁ、はぁ、ッ、はぁ……」

 唾を飲み込み息を整えるロイドにもう余力はない。それを眺める銀は、しかし手を抜くことはない。

「こぉぉぉぉおおお!」

 金色の闘気が銀を包む。麒麟功――体内の気を極限まで高めることで身体能力を爆発的に高める術である。

「終幕だ」

 銀の放つ威圧感にロイドは呼吸を乱され、しかし決死の覚悟で踏み込んだ。麒麟功の類する術の特性は即ちスロースタート。気を高めた直後にしか勝機はない。

 CPをフルスロットル、最後の攻撃を行う。

「はぁ、はぁ…………ッ!」

 乱れた呼吸のまま光に包まれ、加速する。最後の最後のタイガーチャージ、数倍の速度で銀の懐を踏み抜く。

 

「あ――――」

 

 ――しかし踏み込んだ先に銀はいない。ロイドと同等の速度で動いた彼は攻撃範囲を逸れ、呆然とするロイドの横に立っていた。

 スローモーションになる世界、すぐ近くにいるのに触れられない銀にロイドは何もできず空間にトンファーを振るい――

 

 

「ロイド――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創る。

 異なる世界で行われた二つの意志の結晶を――

 放たれる光の弾丸に合わせて振るう無想の一撃を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後に構えたエリィが見える不思議、それに思考を巡らすこともなくロイドはトンファーを振るった。その先にあるのは何もない空間――――ではない。長剣を振り上げた銀は範囲外、だがそこに放たれるエリィの一矢。

 慮外の一撃は重く銀の身体がよろけ、吸い込まれるように彼の攻撃範囲へと――

「ああああああああああああああああああああ!!」

 乱打。ただ無心に。

 一撃一撃は銀にダメージを与えられない、それでも少しずつ蓄積した威力で以って銀を圧し止める。完全に防御体勢に入った銀、だがしかしそれでは勝てない。

 だからロイド・バニングスは戦技の最後の一撃のためにトンファーを後方に向け、待った。待ち人は即ち震える足で立つエリィ・マクダエル。光を灯した白銀の導力銃がその光を解き放つ。

 身を屈めたロイドの真上を通るそれは銀を呑みこみ、翳したトンファーはその光を纏った。

 

 痺れる腕は千切れそう、しかしそれ以上にその力に全能感を覚える。光の暴風が消え去らない内に、もう感覚のない右足を前に出し両腕を解き放つ。

 声によるリミッターの開放は同時、二つの音を重ね合わせ――

 

 

「スターブラスト――――!」

 

 

 ――星の奔流が銀を掻き消した。

 

 

 

 

 

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