空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない 作:白山羊クーエン
乱れ邂逅
それはどちらの言葉だったのだろうか。世界への扉を開けた青年か、はたまた自分が覚醒したことへの驚きに目を丸くした少女か。
沈黙の中、二人の瞳が逢う。
ロイド・バニングスは視界に映るコバルトグリーンの少女を呆然と見つめ、少女は後光を背負っている青年を眩しそうに見つめた。
それは始まりの
運命の歯車が刻む鋭利な音が響き渡る。
室内が驚愕で凍りついた。離れていたエリィとワジも目を見開き呆然としている。それを間近で見たロイドもまた、驚きにつまされて言葉が出なかった。
「――ロイド」
「え…………」
「エリィ、ワジ……」
鈴のような声が聞こえる。それは少女の口の動きに合わせて空気を震わせていた。
「どうして…………?」
少女は信じられないものを見るように三人を見た。エリィとワジが近づき、この場にいる全員が固まる。
トランクの内装の赤の上にいるのは水色のワンピースを着た少女。コバルトグリーンの長い髪は緩やかなパーマでなおボリュームを増している。その琥珀色の瞳は未だ幽霊でも見たかのような困惑を如実に表しており、ロイドはとにかくその瞳を変えたいと思った。
「えっと、どうして俺たちの名前を?」
優しく語り掛ける。少女はそこで改めて彼に焦点を合わせた。少女の瞳には膝を着いたロイドの姿が映っている。
「……………………………………そっ、か。キーアは――」
「キーアちゃんって言うの?」
エリィが屈み、少女を覗き込む。少女――キーアは深く深く目を瞑り、そして笑った。
「……そうだよ、エリィ」
「私たち、どこかで会ったかな? ごめんね、ちょっと思い出せなくて」
「ううん、いいの。それは仕方のないことなの」
寂しげに笑う。ロイドとエリィは目を合わせた。
「なぁキーア、君はどうしてこんなところに? こっそり紛れちゃったのか?」
「ううん。キーア、気づいたらここにいたの」
「ここはハルトマンって人の家なんだけど、お父さんやお母さんはここにいる?」
「えーっと……わかんない。キーア、今までどこにいたのかな?」
その後も数個の問いを重ねる。それらの質問からわかったこと、それは少女――キーアは気づいたらここにいた、名前以外は覚えていない。自分たちの名前を知っていたこともわからない、ということだ。
緊張に顔が強張る二人の代わりにワジが口を開いた。
「……つまりこの子が爆弾でいいんだよね?」
トランクに仕舞われていた少女と、そのトランクが置かれていた場所。つまりは何事もなければこのトランクは競売に出されていたことになる。
少女自身が自分から入ってしまったわけではないのなら、それは紛れもなく人身売買。クロスベルで、いや世界で最も許されない犯罪の一つである。
「――おっと」
不意にワジが離れ、扉の前に立った。すると慌しい足音が聞こえてきて、勢い良く扉が開け放たれる。そのまま突貫してきた黒服の男二人に高速の蹴撃を浴びせたワジは、壁にへばりついた男を見向きもせず言い放つ。
「あの暗殺者が騒いだ後でよくここまで時間があったもんだと思うけど、流石に限界だよ?」
手を鳴らし、首を回すワジ。おそらく今のハルトマン邸は緊急事態。ルバーチェの構成員が大捜索をしている頃だろう。
「賽は投げられたってことね」
エリィがドレスを破り生足をさらす。腰元で縛り動きやすさを求め、ホルスターから二挺の銃を抜く。ロイドも鞄からトンファーを取り出し、改めて少女を見る。スーツの上着を少女にかけ、緊急の度合いが伝わるように真摯に語りかけた。
「キーア、これからお兄さんと一緒に来てくれるか? ここはもう危ないんだ」
「いいよ。キーアはロイドを、エリィもワジも信じてるから」
「ああ、ありがとう。詳しいことは後で話すから」
キーアを横抱きに抱える。年のころはアリオスの娘シズクと同程度か。小さいとはいえ人一人、ロイドに戦闘は厳しい。
「エリィ、頼む。ワジ、この状況だからこき使わせてもらうぞ」
「わかってる。絶対に護ってみせるわ」
「全く、人使いが荒そうだな」
ワジがアーツの詠唱に入る。時の力が全員に付与された。
「本当は重ねがけしたいところだけど、その子に無理はさせられないからね」
「ありがとー、ワジ」
前衛をワジと後衛のエリィが挟むようにロイドを護る。準備を整えたところで三人は行動を開始した。
ここからはミシュラムからの脱出が最優先、少女の身柄を安全な場所にまで運ぶことが彼らの任務である。
競売会は開始時刻を大幅に過ぎ、参加者からの不満に対応するのが精一杯の状況だ。そんな中でルバーチェ会長のマルコーニは侵入を許したガルシアに罵声を浴びせつつハルトマンの機嫌を伺っている。ガルシア自身も失態に怒りを滲ませ檄を飛ばしている。ここからはネズミ一匹外に出すつもりはなかった。
ハルトマンはルバーチェのこの失態を冷徹に眺め、切るべき時が来たと悟ったのかマルコーニを冷たくあしらった。それでも食い下がるマルコーニに構わず私室へと戻っていく。残されたマルコーニは参加者の非難にさらされ続け、額の汗が消えることはなかった。
マルコーニの罵声はルバーチェの末端にまで影響を与えた。元々彼らが慕っているのはガルシアである。そんな彼に恥をかかせたということは彼らにとっての恥であり、故に彼の汚名を雪ぐために今まで以上の士気で捜索を開始していた。
「まずいな。外へのルートは正面玄関か窓だけ、二階以上からの落下は危険過ぎるし、かといって一階ならいいかと言えばそこは水の上だ」
「実質正面玄関だけが道だけれど、そんなことは警備をしているあっちのほうが知っているわよね……」
銀という例外は窓からの逃走を可能にしたが、彼らの能力とキーアという重要参考人には不可能だ。故に彼らに取れる方法は敵をなぎ倒しての正面突破か、あるいは――
「誰かが囮になって注意を惹きつけるか、だね」
ワジが呟く。
今彼らがいるのは一階と二階の踊り場である。それまでに数人の男と遭遇したが彼の高速の打撃で即座に沈黙している。正直不良にあるまじき戦闘能力だった。
「上に行っても結局は行き止まり。なら危険でも一階を周って隙を探すしかないか」
「僕が囮やろうか? ただの参加者だしさ」
「ダメよ、ワジ君は旧市街の一件で目を付けられているわ。それに今回一番抵抗しているのは貴方なのよ」
肩をすくめるワジ。なら代替案を出して欲しい、とポーズで示しているが、エリィにもロイドにも打開策は見つからなかった。ロイドが先に言った次善とも言えない苦肉の策だけである。
「ロイド、大変?」
「そうだな、でも平気だよキーア」
キーアが心配そうに尋ねるがロイドは笑みを見せる。不安な様子を極力見せるわけにはいかないという精一杯の態度だった。
一階に降り、休憩室に入る。流石に修羅場は収まっており、しかもルバーチェの姿はない。ただ使用人が掃除を行っていた。
「剥ぐ?」
ワジの一言。それはつまり使用人の服を拝借しようというものだ。だが着替えの時間も惜しい、候補には入れて別な案を探した。
「んー」
不意にキーアが唸り、三人とも足を止めて怪訝な表情をした。
「キーア? 具合が悪いのか?」
「んーん。ただなんとなく今ならいける気がする」
言葉こそ曖昧だが、少女の声は自信に満ちていた。三人は顔を見合わせる。ワジもエリィも判断を委ねており、ロイドは頷いた。
「よし、行こう」
「いいの? キーアのこと信じて」
「キーアは俺たちを信じてくれているんだろう? なら俺たちもキーアを信じるさ」
「……うん、ありがとう」
そう、判断はロイドに任されたのではない。ただ不思議な信頼をおいてくれている少女の言葉が信じられると思ってしまったから。だから結局は少女の言葉で次の行動は決まっていたのだ。
意を決して飛び出す。ロビーに走りこむとそこには黒服の二人と何故かレクターの姿があった。
「お前ら!?」
「ん? おー奇遇だなぁ」
状況を知っているにもかかわらずレクターの態度は緩い。彼の後ろにいた男たちは銃と剣を取り出して向かってきた。
「ワジ!」
「オーケー」
ワジの体が沈む。体格的に恵まれているルバーチェの構成員の視界は高く、その動作だけで一瞬の死角に入り込む。
エニグマが起動しワジの身体を光が包むと同時、その両足にはそれと異なる蒼金の光が集っていた。
「こぉぉおおおア――ッ!」
柔らかな肢体が極限の捻動を生み、構成員二人の中間地点で炸裂する。他を寄せ付けない螺旋、それは右足を軸にした左足の一蹴。彼の基本戦技ブレードアックスである。
下段からの上昇蹴は彼らの腹部を正確に射抜き、弾き飛ばす。それでも彼らは武器を落とさず銃口を向けてくる。狙いは技後硬直中のワジ、しかしそんなことは彼女にも容易に予想できていた。
「ワジ君!」
エリィが横っ飛びでルバーチェを一直線上に捉える。そのまま銃が光を集め連射、銃を持つ右の肩を射抜く。そのまま直近の剣士に撃ち続けるが横に回避され、男は剣を後ろに薙いだ。そこにいたワジはそれに右の拳を合わせて迎撃、グローブが裂け、血が飛んだ。
「――――」
それを気にもせず剣を弾き、その拳で以って顔面を殴打する。鼻の潰れた音が響き、サングラスを飛ばして昏倒する男。
「くそっ!」
そして肩を撃たれていたもう一人は――
「おいおい勘弁してくれよー」
その場にいた一般人を巻き込んだ。左手に持ち替えた銃をレクターに向ける。向けられた本人はまだ緊張感を持っていない。
「レクターさん!」
「大人しく投降しろ! 撃つぞ!」
「騒ぎとは関係ない外国人に銃を向ける、その危険性を理解しているのっ!?」
マルコーニやガルシアがいればやめさせたであろう行為が今為されている。しかし追い詰められた男に方法は選べなかった。
「く……っ」
ロイドは頭をフル回転させて事態の打破を試みる。このまま時間を使えば増援が来て終わり。かといって強行してレクターが撃たれても終わりだ。異なるのは後者のほうがどちらにとっても被害が大きくなるということか。
男に一番近いのはワジだが、彼は今ロイドに背を向けているため指示は出せない。エリィは射程距離にいるも、既に向けられた銃と下ろされた銃ではどちらが速いかなど考えるまでもない。
そしてロイド自身は更に選択肢が少なく論外だ。故に彼には為す術はない。だからこそ、この僅かな拮抗を破ったのは男に最も近い彼だった。
「おっと」
「ッ!?」
レクターが不意によろけ、それを受け止めた男は突然の鋭い痛みに顔を顰めた。瞬間ワジが掻き消えエリィが銃口を向けた。ワジは男の懐に潜り残像が見えるほどの拳打を放ち身を屈め、同時にエリィが引き金を引いて銃を弾いた。
「やれやれ」
ワジが一言、それによってロビーの制圧は完了した。
レクターが肩の汚れを手で払っている。彼に一言言ってもよかったが時間はなく、三人は玄関を飛び出した。
「――なるほどねぇ」
取り残された赤毛の青年は走り去る背中を眺め、一瞬だけ抱えられた少女と目が合い笑みを浮かべた。
「く、待ち伏せかッ」
玄関を潜るとそこには四人の男が立っていた。当然の如く見張っていたのである。普段のロイドならば予想していただろうが急展開を重ねる事態にそこまで思考が追いついていなかった。
銃と剣、そして重火器を持つ二人という構成は、何より後者の存在が危険すぎた。両手持ちの機関銃、威力・連射速度ともに優れており、対人戦では絶大な威力を誇る。一発でも当たれば重傷を負う代物だ。そんな相手に立ち止まる余裕はない。
「ワジ!」
電撃的な速さで突破口を定めたロイドはエリィに目配せし、キーアをワジに託しエニグマを起動させた。エリィとともに光に包まれながらロイドはルバーチェの中心を踏み抜く。
重火器の欠点はその運用速度である。大柄で重量もあるそれは動く相手にすぐに照準を合わせられない。高速で動いたロイドはその銃口が自身に定まる前に力を解き放った。
「スターブラスト――!」
アクセルラッシュで四人をなぎ払っての一撃は四人を飲み込み吹き飛ばす。
二人ほど水の中に消えていくがその間に異常に気づいた周辺警備の構成員が戻ってくるのが見える。流石に力を入れたルバーチェのマンパワーは凄まじいものがあった。
「切りがない――ッ」
ロイドは愚痴るも状況は変わらない。ここで待っていても好転しないことだけは確かなのでワジからキーアを受け取って走り出す。エリィが先頭で牽制しながら走るも、ここは障害物の少ない一直線、すぐに数に圧倒されるだろう。空にはそんな彼らを見下ろす月がある。身体の半分以上を闇に食われた三日月――
――そして、戦場に三日月が降ってきた。
「え?」
左右両側、空間を引き裂くように二つのそれが流れていく。それは集まりつつあったルバーチェの中心部を弧を描いて襲撃、その斬撃は切り裂くだけでなく衝撃で彼らを吹き飛ばした。
互いの軌跡をなぞるように再びそれは後方に消えていく。それが何であるかわからない、しかし道が開けたことのほうが重要だった。
「突貫――!」
ワジが走る。その速度はエニグマの加護なくともクラフトに相当するほどだ。
倒れた男らを旋脚で弾き飛ばしアーツを詠唱、ロイドとエリィが追いついた瞬間に発動する。再び得られる時の加護、その力で以って一気に住宅街を抜けた。
「ロイド、お嬢、平気か!?」
「ワジさんも……っ」
ホテル入り口前でランディとティオに合流する。二人はルバーチェの外回りから隠れていたので思ったより進むことができなかったようだ。
「ティオ、ランディ……」
「あん?」
「この子は……」
「競売会会場で保護した。ミシュラムを離れよう」
事態を把握した二人は頷く。詳細は後で思いっきり聞いてやろうと心に決めるが、まずは脱出しなければならない。
しかし、ここで諦められるほどルバーチェの中で黒の競売会は軽くない。ホテル内部、一般の観光客もいる現状で、ドーベンカイザーが唾液を撒き散らして襲い掛かってきた。
「おらぁ!」
ランディが一閃、先手を受け止め弾き返す。その戦闘行為によって周囲の人間は異常に気づき、そして半狂乱となった。今が夜で客室が二階であることがせめてもの救いか、その場にいたのは十数人、ドーベンカイザーも逃げていく彼らを追っていかない。
「こんな場所に魔獣を放すなんて……っ」
エリィが憤怒の形相で魔獣を射抜く。統率された彼らはその凶暴性を内に溜め込んだまま動かない。しかしそれは戦況を動かさない理由にはならなかった。
「う、うああ……」
逃げ遅れたカップルがへたり込んでいる。行動は迅速に行わなければならない。
「ワジ、そのまま頼む!」
「やれやれ、人使いが荒いなホント」
ワジが再び前衛に、ランディとタッグを組む。ロイドはキーアを抱えたままカップルに手を差し出しホテル二階へと連れていく。
その後方で、五体のドーベンカイザーと四人の攻防が始まった。ワジとランディは背中合わせになって互いの死角を守り、エリィとティオがアーツを詠唱する。数の優位性を前面に押し出して跳びかかる魔獣、一体一体に対応すれば隙が出る。故に攻撃は回避に尽きる。
「アクアミラージュ!」
エリィが水のカーテンをかけた。味方を飲み込むそれは対象の幻影化を促し相手を幻惑する。
ドーベンカイザーは大きいとはいえ得物は牙である。ピンポイント攻撃を身上とする彼らにとって、水で朧げな彼らを正確に仕留めるのは難しかった。
「退避っ!」
避難を終えたロイドが叫ぶ。重要なのは打倒ではない、脱出だ。ミシュラムから出向する船を取り逃がしてはならないのだ。
ホテルを抜ける。夜の闇を誘導灯に従って走り、そして――
「くそ――ッ!」
開けた視界の中に、船はなかった。ルバーチェのなりふり構わぬ対応、しかしその一番の目的は船の始動だったのである。
「――随分なまねをしてくれたじゃねぇか」
「――ッ! てめえ……」
そして、その指揮を執っていたのは船の代わりに視界を埋めているガルシア・ロッシに他ならない。彼が港を真っ先に塞いだのは、ハルトマン邸からの脱出に意味を感じていなかったからである。プライドにかけてハルトマン邸からの脱出を許したくなかった彼だが、しかしそれが無駄なリスクであることを理解していた。
「ガルシア・ロッシ、西風の旅団の元部隊長、か」
「ほう、俺を知っているとは意外だなワジ・ヘミスフィア。アシュリーにでも聞いたか?」
「彼女は常連だからね、貴方に対する注意を受けたのさ。絶対に敵対するなってね」
トリニティの隣に店を構える交換屋のアシュリー、彼女は公に出せない商品を取り扱う武器商人だ。当然その筋の世界にも詳しい。
上着を脱ぎ指を鳴らして仁王立ちするガルシア・ロッシは傍に控える構成員に退去の指示を出す。それに従って彼らは退がり、しかし逃げ場をなくすように支援課を取り囲んだ。
冷や汗が流れ、頭をフル回転させるロイドにガルシアは言う。
「安心しな、こいつらに手は出させねぇ。久しぶりの狩りなんだ、楽しませろよ」
怒気が混じる声、彼にとっても今回の事業を潰した張本人だ、見逃すという手段はない。
「骨の数本で済むと思うな。お前らが消えても警察は動かねぇ、動かさねぇ! 女には使い道はあるが男にはサンドバックくらいしかねぇんだ、精々足掻いて力尽きるんだなぁああああああ!」
天を衝くほどの闘気。筋肉が盛り上がりその巨体を十全にしてキリングベアはその身を猟兵に変えた。
囲まれた五人はその威圧に耐えながら武器を構える。その後ろで、ロイドから離れた少女は――
「――――」
その事態を無機質に、まるで現実でないかのように眺めていた。
* * *
港へと向かっていくルバーチェの構成員とドーベンカイザー、しかし彼らはその数を少しずつ減らしていることに気づかなかった。
そして今、最後尾の男は目の前の背中を眺めながら走り、刹那視界が上に動いたかと思えば次の瞬間には意識を失っていた。それを為した存在はすぐに闇へと消え、再び奇襲を行う。ハルトマン邸からホテルまでの間に、全部で十いた存在の半数が足を止めていた。
「おーおー、張り切ってるなぁ」
それを二階客室から眺める赤毛の青年、眼下の事態が画面の中の出来事であるかのような気安さだ。その腕の中には黒猫が静かに居座っている。
「でもあれはやりすぎじゃないか? あからさまに手助けなんてしちゃってよ」
「うふふ、何のことかしら」
そう告げる青年の背後で黒髪の女性が笑った。青年は向き直る。
「円月輪、東方の武術で使われるもんだろ?」
「そうね、いい腕だったわね。流石は銀というべきかしら」
「……そうくるか。まあいいか、俺もおっさんの頼みを果たすとすっかね」
「そうね。帝国軍情報局特務将校レクター・アランドール殿」
「共和国大統領直属ロックスミス機関室長キリカ・ロウラン殿」
さあ、実りのある話し合いをしましょうか――