空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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レンとキーア

 

 

 

 ロイド、エリィ、ティオがギルドで情報交換を終え離れる時、思い出したようにロイドは呟いた。

「そういえばエステルとヨシュアは市外に出ているのかな」

「えーっと……そうみたいね。アルモリカ村に行っているみたい」

「アルモリカ村ですか。最近行ってないですね、名産の蜂蜜はよく使っていますが」

 ティオの発言のとおり、特務支援課は市外にあまり出ていなかった。流石に魔獣事件以来というわけではないが、それでも遊撃士と比較すると頻度は少ない。

 創立記念祭においては市外の案件を任せっきりにしたり肩代わりしてもらったりと彼らにおんぶに抱っこ状態であったが、そろそろ市外に一通り回ってみてもいいだろう。

 

「キーアと一緒に行けば何かわかるかもしれないな」

 ロイドは留守番の少女を思った。今頃ツァイトとじゃれ合っているのだろうか。

「あ、そう言えばエステルが言ってたわよ」

 受付からミシェルが口を挟む。その間も手は動いており書類を作成しているようだ。

「言ってたって、何をですか?」

「レンちゃんが遊びにいくそうよ」

 エリィの問いに返ってきた言葉、それは三人の予想外のものであったが非常に嬉しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レンよ、よろしくね」

 そう言ってスカートを摘み上げた少女を前にキーアはぎこちない笑顔を浮かべていた。

 ツァイトも起き上がりキーアの隣に佇んでいる。それは別に警戒しているわけではなく、単にキーアの心情を把握しているからである。

 

 レンが特務支援課分室ビルを訪ねたのは支援課の四人がそれぞれの要請に向かって十分後のことだった。

 ヨシュアから少女のことを聞かされた彼女は少女に興味を持ち、支援課の四人がビルを開ける時間帯に訪ねようと決めていた。ヨシュアは直接それを伝えようとしたが市を離れることになり伝言を残したのである。

 エニグマを使用しなかったのは、それも他遊撃士とのコミュニケーションに役立ったらという親心的な思いがあったのだが、それはミシェルとの交流のような結果に至っている。

 

 とにかくもビルを訪れたレンは一階に人がいないことを確認、二階へと上っていった。それぞれの部屋に気配がないことを確認して三階へ、そして突き当たりの部屋に辿り着いた。

 ノックをする。

「んー、だれー?」

「入ってもいいかしら?」

「え?」

 返答を待たずに部屋に入ったレンはそこでかつて見た神狼とコバルトブルーの少女、そしてその膝で寝ている黒猫を確認し笑みを浮かべた。いきなりの侵入に驚いているのはキーアただ一人で、ツァイトもコッペも特別な変化はない。

「レン……?」

「あら、レンのことは知っているのね。どうして?」

「え、えっと……」

 キーアが言葉を詰まらせるとツァイトが一声、それに顔を向けた彼女は静かにわからない、と告げた。

 

「…………あなた、そこの神狼さんの言葉がわかるのね」

「う、うん」

「……あなたは知っているけれど、まずは自己紹介をしないといけないわね」

 そして冒頭の発言に戻り、キーアもそれに倣った。レンは猫のような目を細めてキーアを見つめる。

「ふふ、キーア。あなたは本当に自分のことがわからないの?」

「え……」

「あなたにとっては当たり前なのかもしれないけど、普通の人間は動物の言葉がわからないのよ。レンや支援課の水色のお姉さんみたいに感応力に優れた人間はそういうのに敏感だからわかるけど、じゃああなたはどうなのかしら」

 出会って間もない間柄であるはずなのに、レンは何の躊躇もなく言葉を連ねた。そしてそれらの言葉はキーアの奥にどんどんと入ってくる。普段の笑顔に陰が差し始めたキーアに気づいているが、気づかない振りをしてレンは続ける。

 

「神狼さんやそこの黒猫の言葉がわかる、それが普通の人にとって当たり前のことだなんて思っていたわけじゃないでしょう? それでもあなたには当たり前のことだった。そしてその理由もちゃーんと理解している。だってあなたは、自分の正体に気づいているんだもの」

「ど、どうして……」

 思わず零れた言葉、それを聞いたレンは口を歪めて嗤った。小悪魔のような、全てを見透かしたような瞳。

 キーアは眼前の少女を恐ろしいと感じた。

「ウォン」

「ふふ、叱られちゃったわね」

 突如ツァイトが短く吼え、レンは肩をすくめた。キーアは呆然と隣にいる神狼を見る。

 ツァイトの静かな目と合い、混乱していた気持ちが落ち着いていく。コッペが大口を開けて欠伸をした。

 

「…………そっか、そうだよね」

 キーアは先の自分に言い聞かせてやりたくなった。

 何のことはない、突然現れたレンの言葉に悪意はないし、自分はこの世界に一人でいるわけじゃない。当たり前のこと――そう、当たり前のことだ――を追求されただけなのに自分に後ろめたい感情があったから過剰に反応してしまったのだ。

 ツァイトに言われたことを思い出す、彼はあの時から少女がこうなることを予想していたのかもしれない。

「あのねっ、キーアはキーアだよっ!」

「…………ええ、あなたはキーアね。さっきも聞いたわよ?」

「ううん! 最初のはなしなのっ、さっきのが本当の自己紹介っ!」

 太陽のような笑顔、それをレンはすぐ傍で見た気がする。

 太陽は人にとってなくてはならない存在だ、故に笑った顔をそう表現される彼女らは、そう表現した人にとってなくてはならない存在だということなのだろう。

 

「レンっ、今日はどーしたの? ロイドたちはお仕事に出かけてるよ?」

「お姉さんたちに用事はないわ、今日はあなたに会うためにきたのよ。ヨシュアから聞いてね」

 そうして二人の少女は他愛無い会話を始めた。レンにとって自分より年下の女の子は稀であるため、些細な言葉にも姉のような表現が表れている。一方のキーアもティオやエリィとはまた違った存在にしきりに感情を表していた。

 安心したのかツァイトは重い腰を上げて屋上に消えていく。しかしコッペはキーアからレンの膝に移り惰眠を貪っていた。少女の膝が好きな黒猫である。

 

 

 

 

 

 

 ランディが戻ってきたのは夕食当番のエリィが準備を始めて数分といったところだった。

 彼女は今回キーアに食べさせるという大役を任せられた運命に感謝しつつ気合を入れている。おそらくはホワイトソースを使った料理だろうとティオが予想できる辺り特務支援課も馴染んでいる。ちなみにキーアのために作るという行為は何も初めてではない。

「かぁー、おっかれさんっ」

「お帰りランディ、随分時間かかったんだな」

 ロイドがトンファーを磨きながら言う。その向かいに腰を下ろしたランディはロイドの隣にいるキーアに頬を緩ませると肩を回し始めた。

「まぁな、依頼に書かれてた内容自体はすぐに終わったんだが、その後ミレイユのやつが放してくれなくてな……あのやろうせっかくの機会だからっつってひっきりなしに雑用押し付けやがる」

 流石は准尉殿だぜ、と呆れたように言うランディ。しかし話を振った当の本人ロイドはキーアに顔を向けて少女の質問に答えていた。

 

「ミレイユ准尉のことをランディが気に入っているからなんだ」

「そうなんだー。ランディ、みれーゆのこと好き?」

「おい、何の話してんだ何のっ!」

「何って、ランディは疲れてるのに嬉しそうなのはなんで? ってキーアが言うからさ」

「あのなぁ……おいキー坊、これは嬉しそうなんじゃなくて呆れてるんだ。昔なじみだからって遠慮がねぇよってな」

 ランディが弁解のようなものをし始め、キーアはふんふんと興味深そうに聞いている。ツァイトに背中を預けて読書していたティオが耳ざとく反応した。

「ランディさん、キー坊ってキーアのことですか?」

「あん? ――キー坊」

 指差して示すランディと、その人差し指を掴むキーア。ティオの眉が不信に揺れた。

 

「前から思っていましたが、わたしのことといいエリィさんのことといい、ランディさんはあだ名のセンスがありません」

 お嬢、ティオすけ、キー坊。これが彼のつけたあだ名コレクションである。ロイドはその三つを聞き、実に良くできた名前だと密かにランディに賛辞を送った。何故って、素晴らしくわかりやすいと思うからである。しかし本人が不満を持っているならやめるべきだとも考えていた。

 つまりはどっちに転んでもいいのである。またまたちなみに、ティオがキー坊という言葉を聴いたのも今日が初めてではない。

「だがなぁ、他の候補っつーと、ティオ丸、ティオ蔵、オッティ、ティオのふじ……どれがいい?」

「最悪ですほんと最悪です」

 でもオッティはみっしぃみたいでちょっと揺れました……

 内心を隠し全否定するティオ、しかしランディは笑って取り合わなかった。

 結局はティオすけのまま、それに彼女も慣れ切っているのできっと変われば不審に思うだろう。最初に根付いたものは早々取り除けないのだ。

 

「できたわ、運ぶの手伝ってっ」

 お嬢――エリィが調理場から出てヘルプを頼む。お腹の空いた残りの人員は揃って動き出しめでたく夕食の場が完成、それぞれが舌鼓を打った。

 しかしキーアの話は今日訪れ友人となったレンのことばかり、料理の感想が一言で終わったことに落胆を覚えたエリィだったが、嬉しそうに話すキーアの頬に付いたソースを拭きながらそれを嬉しくも思っていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日は遊撃士の報告に限界が来たので別な方向で進めていくことにする。

 記憶に関して実体験でもあるのかヨシュアが七耀協会の力を頼ってはどうかと言ってきたのだ。エオリアも医療技術の点から身体に何か理由があるかもしれないとしてウルスラに行くことを勧めている。

 支援課の今日一日はキーアのために使おうと決めていた。

 

「さて、それじゃあキーアを連れていくのは誰か、ってことになるけど」

 行きたい人、と募り上がる手を数えるロイド。全部で五つ。

「え、多くないか……?」

 まさか行きたい意思表示強調のために両手を上げている人間がいるとは思いたくない彼は目をぐしぐしと擦ってもう一度数えた。今回はその腕の持ち主の顔も確認する。

 向かって左から、にやにやしながら上げるのはランディ・オルランド、おそらく冷やかし半分だろう。

 次にがくんと位置が下がってティオ・プラトー、こちらは普通にキーアの傍にいたいが、行き先に病院が含まれているので気後れしているのか微妙に腕が曲がっている。

 そしていつになく目力を込めてこちらを眺めるエリィ・マクダエル、彼女が一番キーアに熱中しているのかもしれない。

 

 そして次は見慣れない蒼の腕、しなやかなそれの持ち主は涼しい顔で微笑んでいる。

「ワジ、なんでいる」

「え、遊びにきたらなんか集まってたからさ」

 そもそも遊びにくるというのが何もかも間違っているのだが、彼が四つ目の手の持ち主だとして、最後の一つは誰のものだろうか。

「お兄さん、現実から目を逸らしちゃダメよ」

 そう言って嗜める少女、レン。

 ロイドは、んー、と眉間に指を当てて唸った後、困った顔で呟いた。

「どうしようか……?」

「もう全員で行けばいんじゃねーの?」

 ランディが笑みを崩さずに提案し、それもいいかとロイドが思った矢先――

 

「そこまでよ――っ!」

 

 開け放たれた扉の前にはエステル・ブライトとヨシュア・ブライト。

「エステルさん、ヨシュアくん」

「あ、新人遊撃士コンビ。久しぶりだね」

「ちぇ、気づかれちゃったか」

 ワジがにこやかに手を振り、レンがあらぬ方向を向いてぼやいた。ずかずかと少女に向かってきたエステルは腰に手を当てて唸る。

「ちょっとレン、今日はうちにいてって言ったじゃない!」

「だって退屈なんだもの、エステルたちはお仕事だし」

「でも約束したじゃないのっ!」

「そうだったかしら? レン、覚えてないわ」

 この、と怒りを振り上げるエステルを制し、ヨシュアがロイドらを見た。

 

「ごめん、せっかくのところ悪いけど支援課も協力してくれないかな? この通り、レンを家にいさせるために僕らも仕事を早く終わらせたい」

 ヨシュアは提案した自分が、と思っているのか本当に申し訳ない表情で請うてきた。

 支援課としても遊撃士には、特にヨシュアには格別の恩がある。確かに遊撃士に支援要請をまかせっきりにしていた日が記憶に新しい。今日も、というのは流石に都合が良すぎる。

 そもそも遊撃士から市民の評判を奪うために作られた特務支援課がそのためにこなさなければならない支援要請を遊撃士にまかせるというのはコンセプト的にそもそもおかしな話である。現在会議中のために席を外しているセルゲイがこの場にいたら窘められただろう。

 

「――というわけで、キーアに付くのは二人か三人だ」

 ちなみに支援課は二人、ワジが付くなら三人である。

 選抜方法をキーアに委ねるのが尤もかもしれないが、それで選ばれなかったなら哀しいので公平にじゃんけんで決める。負けた者は支援要請だ。

「みんながんばれー」

 キーアの声援に皆の攻撃力が上がった。しかしいくら上がってもちょきがグーに勝つことはない。

「せーの、じゃんけんぽん!」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「熱い戦いだったねぇ」

 ワジが他人事のように呟き、キーアが、ねー、と賛同した。

 現在彼らは七耀協会へ向かうために住宅街を歩いている。物珍しいのか、少女はしきりに目を凝らしては反応していた。

「ふふ、じゃんけんでは負けません」

 そしてキーアと手を繋ぐティオはその勝負に絶対の自信を持っていた。感応力を高めれば相手の思考など容易にわかる、彼女にじゃんけんで勝てる人間は早々いない。

「ま、キミが一番に抜けるのはわかっていたことだけどね」

「何故ですか?」

「髪の色」

 ワジの答えに疑問符が浮かぶティオ、しかしワジはそれに気づいていながら話すつもりはないらしい。きっといつもの気まぐれとか根拠のない自信とかそういうものだろうとティオは深く考えることをやめた。

 

「だが見ものだったぜ、お嬢が負けたときの反応はよ」

 カラカラと笑うランディはコートのポケットに手を入れたままだらしなく歩く。ハルバードを持っていないからか足取りは軽い。だらしなく軽いので見事に遊び人のようである。

 

 そう、勝ったのはティオとランディだ。

 ちなみに最初に脱落したのはロイド、四人の中で一番キーアと触れ合っているのが何故か彼だったので三人の共通のターゲットだった。彼以外の四人がパーを出し、自分が負けたことを悟った彼の愕然とした表情は忘れられない。

 そしてティオが勝ち、ワジが勝ち、残るはランディとエリィの一騎打ち。冷やかしで入ったランディとしては譲ってもよかったが、己の拳に念を込めている彼女の姿がツボに嵌まりそのまま勝負に出た。

 諸手を挙げて背中で勝ち誇るランディの後ろでちょきのままに沈むエリィの姿は彼の中の支援課名シーンランキング現在トップである。

「でも負けたら支援要請ってまるで罰ゲームみたいだね」

「違います、勝ったらご褒美だったんです」

 ワジが誤解を招くような発言をするが、ティオに切り返された。少し唇を尖らせたワジもまた貴重だった。

 

 

 

 

 さて、三人がキーアを連れて回っている間、残されたロイドとエリィはツァイトとともに支援要請をこなそうとしていた。

 彼が何故手伝ってくれているのかは定かではないが、ロイドは内心へこんでいるエリィがいたからだろうと考えている。

 今日は導力ネットワーク計画における重要な機材である汎用端末のメンテナンス日であり警察本部から支援要請が届かない。故に彼らは一度遊撃士協会に赴き、その掲示板を眺めていた。

 クロスベルの遊撃士は全部で七人、普段コンビで活動しているので四組と言ったところか。今日は支援課の二人が加わるので依頼の数的に平常運行で大丈夫、単独で任務に当たる必要は市内組にはない。

 

「というわけで、二人には市外に行ってもらうよ」

 リンが割り振った先はアルモリカ村とマインツ、ウルスラ病院という市外名所、そして図書館の依頼である。

 市外に行くのにどうして図書館の依頼なのかというと、この依頼は貸し出し本の返却が依頼だからである。その本を所有している人物の所在が市外だということだ。ついでに各場所の見回りをして急な依頼にも対応してほしいそうである。

「ま、一日遊撃士みたいなもんだ」

「自分たちが解決した依頼はギルドが処理したことになるんですか?」

「そんな懐の狭いことは言わないよ、精々警察の信頼に役立ててくれ」

 というわけでお仕事開始である。しかしそこでリンが口を挟んだ。

 

「あ、今回はお前たち別々だよ」

「え?」

 無意識というか当たり前のことだが二人と一匹で行動しようとするも制止されきょとんとする二人、リンはいやらしい笑みを浮かべた。

 あ、嫌な予感……

 二人の予想は重なり、的中する。

「なんだよ、そんな四六時中一緒にいたいーなんて関係なのか?」

「ち、違いますっ、からかわないでくださいっ!」

「そ、そうですよリンさんっ! エリィとはいつもこうですから――」

「ふふん、いつもそうなのか、なるほどなるほど。ロイド、お前も隅に置けないな」

「リンさんっ! もうロイドっ、あなた何言ってるのよっ!?」

「何って支援課の仲間はいつも一緒じゃないか――っ!」

 顔を赤くしたエリィとロイドは両手を突き出す同じポーズで慌てる。

 以心伝心とは少し違うが波長は同じな二人に満足したのか、リンは二人を宥めて本日の組み合わせを告げた。ちなみにエリィの機嫌は少し悪かったりする。

 

「ロイド、お前は私と。エリィはスコットだ」

「よろしく」

 いつの間にか傍にいたスコット、彼とは仕事をした中なのでエリィは黙って頭を下げた。

「ロイド、あんたの武術叩き直してやるから覚悟しておきな」

「あの、でも俺腕こんななんですけど」

「だからウルスラには私たちが行くんだよ。ちょうどいいだろ?」

「あ、そうですね」

 仕事中だけど、とロイドは真面目な思考をするがその仕事に必要な作業だ。彼は黙ってリンの後を追ってギルドを出て行った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「退屈だわ」

 レンはそう呟き胸元のぬいぐるみを抱きしめる。椅子に座っていてもお茶会ではないので嗜好品もなく、仕方ないのでベッドに腰を下ろして所在無げに足をぶらつかせる。

 この部屋の主の二人は現在遊撃士の仕事中で不在、残された少女はたっての願いで留守番をしているが、何せ仮住まいであるので娯楽がない。

 エステルの趣味は釣りとスニーカー蒐集、ヨシュアの趣味はハーモニカと読書、武器の手入れである。

 レンにしてみれば釣りなんていう特定生物の行動を誘導するなんて生態を理解していれば容易でつまらないし、かわいくないスニーカーの良さも全くわからない。

 ハーモニカに関してはヨシュアが星の在り処を吹いてくれるなら喜んで聞くけれど、大切なものだからこそヨシュアのそれには触れたくない。

 論文を書くほどの自身がジャンルは違うとて本を読むのも退屈だ、都合の良すぎる物語もあまり好きじゃない。武器の手入れがどうして趣味になるのか理解すらできない。

 つまり、この空間はあまりにもつまらない。

 

「退屈だわー」

 揺れる足が加速する。ブラブラが次第にブンブンとなり、終いにはバタバタとなった。

「あーもー!」

 寝転がり、抑えきれない行動欲を足のみで満たそうとする。目を瞑り腕に力を込めるとぬいぐるみが苦しい、と顔を歪ませた。

 そして、天啓が閃いた。

 

「そうよ、エステルとヨシュアが戻るまでに帰ればいいんだわ」

 どうしてこんな当たり前のことに気づかなかったのか、レンは自分が本当に天才なのか疑問に思えた。

 しかしそんな問答などしている暇はない、いや暇はあるのだがその時間は非常にもったいない。速やかに行動を開始して、キーアのところに向かうのだ。

「きっと、そこにはお姉さんもいるしね」

 レンは自身が注目すべき二人がセットになっているだろう光景を想像し、おそらく最初に向かう七耀協会に行くことを決めた。

 ベッドから軽やかに飛び降り玄関へ向かう。

 

「あら?」

 そして、扉に張り付いているメモに気づいた。

 

『レン、扉に挟んである紙に何かしたら怒るよ。大人しく待っていて。PS.窓にもあるからね ヨシュア』

 

「………………いじわる」

 暫く眺めた後メモを細切れにしてレンは愚痴った。しかしそれでめげない少女はにやりと笑い、

「甘いわ、ヨシュア」

 エニグマを手に取った。

 

 

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