空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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月の僧院探索中における支援課のあれこれ

 

 

 

 ロイドが倒れたその日、病院に運ばれた彼はその後の依頼を問題なく処理した。リンは彼の行動を逐一観察していたが不安要素は感じられない。本当にアレは何だったのかという思いだった。

 一方でキーアの記憶を取り戻す方法を探した三人は七耀教会でもウルスラ病院でも成果を得ることはなかった。

 

 結局キーアは診察することなくヨアヒムに仕事が入ってしまいウルスラを去る結果になる。その代わりヨアヒムはティオにいくつかの質問を教え、彼女はその結果を導力通信で報告した。間接的とはいえ問題はないと判断し診察は先延ばしにしてあるが、実のところ検査入院については当の彼女がそれを突っぱねたというのが一番の理由である。

 スコットと共にいたエリィはマインツ鉱山での魔獣退治の際に戦闘における銃の取り扱いを教わり上機嫌だったが、ロイドが倒れた旨を聞いて目を剥いて動揺する。元々世話焼きな彼女である、ロイドの身体をまさぐり心配そうに言葉をかける姿にロイドは赤面し、ティオとランディにからかわれる種を蒔く結果になった。

 ワジは市内に戻った後何も言わずに旧市街に去り、五人は首を傾げる。それは去り際の彼の様子に無意識下で違和感を覚えていたからかもしれない。

 

 そんな一日、その最後はエステルによる愚痴通信だった。レンが待っていてくれなかったとのことである。

 彼女にどのような意図があったのかわからない。あの子猫のような少女が家でじっとしているとは考えにくいなとエリィは思ったが、しかしそんなエステルの様子にレンも反省したようで、最後にはのろけのような話になっていた。

 

 そんな幸せな会話は聞いていて飽きない。結局のところ、いろいろあったが良い一日だったと言えよう。

 そして、そんな吉日の次は凶日だった。今回はただそれだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月の僧院の話をロイドはリンから聞いていたが、しかし聞いた翌日にそこに向かう破目になるとは思ってもみなかった。

 マインツトンネル道の中間地点の三叉路、それを左に抜けると切り立った崖を進む細道が続く。生息する魔獣も攻撃的で独特なものに切り替わるので注意が必要である。

 そんな中を特務支援課は進んでいく。その数は五、一人増えた状況だ。前日も五人だったが今回の参入者は昨日の彼とは異なる警備隊の服装。今回協力を依頼してきたノエル・シーカーである。

 

「これは……すごいな」

 眼前に現れたそれにロイドは息を呑んだ。

 その巨大な建造物は月の僧院、円錐の帽子を被った五本の塔を中心とし、更に崖に沿って横に広がる白磁の遺跡である。荘厳な遺跡、だがしかしそれが発するのは厳粛な空気ではなく不穏な空気であった。

 曇天の中黒い鳥達がけたたましく鳴き喚いて旋回、その異様を際立たせる。乾いた空気がその嘶きを不気味なものへと変貌させているのか、おそらく環境によってその声に対するイメージは変わることだろう。もしかしたら晴天ならここまでの雰囲気を醸し出すことはなかったのかもしれない。

 しかし――

「アレですね」

 天気がどうであれ、鳴り響く重い音は変わらない。今回ノエルが任せられた任務、その目的。生物の存在証明ではない無機物的で神秘的な奏音。

 眼前の遺跡の最高地点で、古の鐘が鳴っていた。

 

「鐘が、鳴っているわね……」

「人はいないんだろ?」

「月の僧院が無人となったのは遥か昔です。今ではその存在を知っている人の方が少ないかと」

 そもそも人が鳴らしているならわたしたちはここにいません、と呆れた風に言うティオ。ランディもさもありなんと肩を竦めた。

 今回の依頼、それは月の僧院への同行である。先日、ノエル率いるタングラム門の警備隊員は月の僧院で鳴っているという鐘の制止を要望されその場に赴いた。彼らが現在感じている異様な雰囲気の中警備隊員は内部に入り、そして任務を遂行できずに撤退した。結果、今回は隊員がノエルだけの異例の任務となる。

 ただ不法侵入した人間が鳴らしているというだけの珍事なら警備隊が撤退することはなく支援課に協力要請は届かない。

 

「それで、その……」

 エリィが口ごもる。顔を向けたノエルは首を傾げ発言を促し、彼女は躊躇いつつも口に出した。

「幽霊が出た、というのは、その、本当なんですか?」

「……そうですね。客観的に見ればそうです」

 エリィの顔色が白くなる。

 警備隊を阻んだモノ、それは突如僧院内に現れた未知の存在によるものだった。隊員たちはソレを目の当たりにして困惑、対処もままならず踵を返したということである。

 彼女に気の毒そうな表情を向けたノエルは表情を戻し、しかし、と続け、

「その幽霊、星見の塔の魔獣に似通った部分があった、というのが私の主観です」

「え? それはつまり――」

「アーツの効き具合が違った、ということですね」

 ティオが僧院を眺めながら呟く。頷くノエルに補足するように彼女は上位属性の気配の確認を告げた。

 

「なるほどな、理由はわからないがもしそうなら経験した俺らのほうがってことか」

 星見の塔における魔獣は異質を極めていた。その際たるものが上位属性の耐性である。ノエルはそれを感じたからこそ彼らに打診したのだ。

「そのとおりです。はっきり言って隊員の多くはその異常を呑み込むことができませんでした。経験が足りないのは明らかです。本当なら今回を地力で完遂してそれを補ってほしかったのですが……」

「アレだろ? どうせ接待マシーンがやめろとか言ったんだろ」

 接待マシーン、と疑問符を浮かべるノエルとその他にランディは手を振って流せと言い、仕切り直すように聳え立つ建物を睥睨した。

「ま、本当に幽霊が出てもおかしくない雰囲気だがな」

「ちょ、ちょっとランディ! 何言っているのよっ、星見の塔と同じよ絶対っ!」

 エリィがおかしいくらいに強く結論付けようとする。その理由は推して知るべしだがランディは普段冷静な彼女の困惑が楽しくて仕方ない。意地の悪そうな笑みでそれを流した。

 

「エリィ、怖いのはわかるけど結論は急がないほうがいい。決め付けが隙を生むこともある」

「こ、怖がってなんか――」

「気持ちはわかります。私だって前例を知っていなければ来たくないですから」

 そこまで口にしてエリィは若干気分の悪そうに言うノエルを見やり、暫しの後息を吐いた。

「…………ええそうよ怖いですよ。悪い? 悪くないわよねっ? 文句もないわよねっ!」

 突然大声を上げたエリィは皆を置いて先陣を切っていく。その様子に呆気に取られた四人だが、置いていかれないように小走りになった。

「何よ、みんな苦手なものあるじゃないっ。知ってるのよ、ロイドは機械ティオちゃんは注射、ランディはミレイユ准尉!」

 ズンズンと踏みしめ歩くエリィはいつかの大明神ほどではないが恐ろしい。支援課の三人は自然と距離が開き、ノエルも気合に押されて退いていた。

「ノエル曹長だって可愛いもの大好きじゃないっ!」

「ちょ、エリィさん!?」

 ノエルが慌てる。ちなみに情報源はフランである。

 実質苦手なものではないのだが、イメージ的に気恥ずかしい事実であるので何も言えない。

 

 そんなある意味暴露大会のような時間は眼前に迫った巨大な門扉によって遮られた。やけを起こしていたエリィもその大きさに呑まれて気持ちが落ち着いていく。おそらく彼女は今日を振り返って悶絶することだろう。

 彼らが立ち止まったその地点には巨大な円が描かれており、その中には三日月があった。ちょうどその月と同じく円に囚われた形になる。

「…………」

 誰かが息を呑む音がした。

 強固な石橋の正面にある一つ目の入り口、右手には下り坂があり、その終着点には別の扉がある。この扉は施錠されていた。

「では皆さん、よろしくお願いします」

 ノエルが改めて協力を仰ぎ、それを歓迎するように鐘が強く鳴り響く。

 ランディとロイドの二人がかりでやっと開いた正面入り口の先にはかび臭い空気と重苦しい通路が存在した。不思議なことに通路に沿って規則的に置かれている燭台と思われる台にはオレンジの光が爛爛と輝いていた。導力ではない不思議な何かである。

「これも星見の塔と同じ年代なのか?」

「そうですね、それよりは少し遅いかと思います。500年前程度ですか」

 導力の発見がない時代の産物、高地にあるので様々な工夫がこなされていることだろう。問題は一体何が信奉されていたのか、ということである。

 

 およそ50アージュほどの通路を通り、いよいよ建物内部、本堂へと突入する扉の前に辿り着く。ノエルが唇を噛み締め覚悟を決めた。

「前回はここを入ってすぐの場所で遭遇しました。覚悟してください」

「ふふ、平気よ平気。ノエルさんったら心配性ね」

 ノエルの緊迫感を打ち砕くようにおかしそうに言うエリィだが、その声は震えていてノエルも反応に困る。

「エリィさん、錯乱しないでくださいね?」

「いやねティオちゃん、だから大丈夫だってば」

 もう、と言ってティオの肩を叩く。完全に普段の彼女ではなかった。

「で、では行きましょう……」

 ノエルは早く状況を打開しなければという使命感に駆られて扉を開け放つ。長年使われなかった石の扉は地鳴りのような床との摩擦音を立てながら来客を歓迎し、そして奉る神の姿を見せつけた。

 

「…………」

 後ろで絶句する四人の気配を感じながらノエルは改めて内部を見た。

 祭壇のある本堂は全体的に白く純潔を現している。大勢の信奉者を収納できるように長椅子が列を揃えて佇み、それに向かい合うように祭壇がある。

 その後ろには大きな僧院の象徴、三日月を先端に宛がった杖を持つ天使の像がある。髪は長く翼も生えているが目だけは閉ざされていた。天使はしかしその周囲を大きな輪のようなもので拘束されているようにも見える。

 そのためか、普通なら祈っているように見えるのかもしれないがロイドにはそうは見えなかった。

 笑っているはずなのに、そう見ることはできなかった。

 そしてその上部には像を守る両腕のように弧を描いた曲線が存在する。それはよく見ると通路であり、左方にそこまで上がる階段がある。

 しかし上った先にある建物に沿った通路は途切れており、手前側にある扉まで進むことができない。結局その二階通路は壁に沿って両側まで移動するためだけのものだった。そして部屋奥の角には二つの扉があり別室への入り口となっている。

 

「二階があるようだけど不自然に途切れているな」

「ええ、実質ここから行けるのは本堂奥左右にある扉だけです。おそらくそこから別ルートで二階に行ける筈ですが……」

 そこまで呟き、不意に空気が濃くなったような気がしてノエルは得物を取り出した。背中に担いだスタンハルバードをそのままにサブマシンガンを構える。

「来ますっ」

 ティオが叫び魔導杖を展開する。全員が武器を構える中、彼らの正面、祭壇との間の大気が歪み霞んで、そしてソレは現れた。

「あ、はは」

 掠れた声が漏れ、

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」

 絶叫。

 エリィは涙を湛えて銃を向けた。彼女の眼前にいるのは紛うことなき人魂である。

 その数は三、橙色の炎のような色に紫の靄を纏うそれは頭蓋骨の形状でカタカタと笑っている。

「コレです!」

 ノエルが叫び、昨日現れたものと同一であると確認。ティオがアナライザーを起動、その詳細を確かめた。

「上位属性の耐性と七耀の力を確認っ、魔獣です!」

「だそうだぜお嬢ッ!」

 ランディがハルバードを振り下ろして気合を示し、ロイドはトンファーを腰溜めに構え迎撃の態勢を取った。

 

「未知の魔獣だ、油断するな!」

「はぁああ!」

 ノエルがサブマシンガンを掃射する。まるで踊るように空中で弾んでいた人魂はそれを受け、しかし弾丸は減速を伴って後方へと消えていく。

「やはり効きませんか……ッ」

「いや、効きが薄いだけだ! でも控えてくれ!」

 フレンドリーファイアの危険性もある、ノエルはハルバードに切り替えて構えた。導力が集い衝撃を上げていく。

 人魂――スカルヘッドはその闇色の口を開けて噛みつかんと迫るも決して速くはない、ロイドはそれを紙一重で左に避けトンファーを振り上げる。コンパクトな一打は正確にスカルヘッドを捉え、しかし微かな感触とともに空を切った。

「く」

 そのままの勢いで前方に動き距離を取る。打撃が効き辛いのは気体状の魔獣だからだろうか。残る二体はランディとティオにそれぞれ向かっていた。

 ランディはそれに合わせるようにエニグマを起動、パワースマッシュを魔獣の口内に振り下ろす。ノエルの銃撃とロイドの打撃、その何れもが通じない魔獣に対し、しかしランディの一撃は確かな手応えを以ってその効果を確認させる。

 

「――なるほどな」

 直撃を受け吹き飛ぶスカルヘッドを見てランディは確信する。

 この魔獣に通常の打撃は効かない、しかし七耀の力を利用すれば攻撃は通るのだ。おそらく先の一撃をクラフトでなく発動しても効かなかっただろう、クラフトで付与される七耀の力が魔獣の弱点なのだ。

「つーことはっと」

 ランディの視線の先にいるティオはその魔力弾で完璧な迎撃を行っていた。

 スカルヘッドの周囲を囲むように放たれたそれを避ける術はない。ランディの一撃以上にダメージを受けたらしい魔獣の前からティオは跳び退き、そして止めの一撃を放つ。

 水色の魔力が着弾し、状態を維持できなくなったスカルヘッドはふらふらと浮上、そして急激な収縮を見せると共に一気に爆発した。高温の蒸気が吹き荒れ顔を顰めたティオが叫ぶ。

「皆さん、止めは離れて行ってください!」

「応よ……ってお嬢!?」

 ランディが早速戦技を発動しようとエニグマに手をかけた時、ゆらりと幽鬼のように隣に現れたエリィ。その顔は俯いていて窺えない。

 しかしそれを僥倖だと感じているランディがいた。

 

「…………ない」

「へ?」

「許さない、私をこんなに脅かして――!」

 気炎を上げるエリィにランディが後ずさる。そんな彼をお構いなしにエリィは二挺を構え、同時に悪寒を覚えたロイドとノエルが彼女の後ろに避難した。

 目の前には未だ健在のスカルヘッド二体、それらの基本行動である滞空におちょくられていると感じた彼女の行動は一つしかなかった。

「気高き女神の息吹よ――――エアリアルカノン!」

 重ねられた二挺の銃口に光が集い、それは収束砲となって魔獣を飲み込む。一瞬の後、爆音。魔獣が光に融け消えると、その背後にあった天使の像の拘束具が崩れているのが見える。

 エリィ・マクダエルは感情の爆発によって重要な遺跡を破壊した。

 

「ふ、ふふふ……」

 怖い笑い声が聞こえる。彼女の後ろで四人が身を縮こませた。

「え、エリィさん?」

 ロイドが冷や汗をかきながら呼ぶ。肩で息をして暫く笑っていたエリィは、そこでようやく振り返った。

「さ、行きましょう」

 爽やかな笑顔、それは普段の彼女だ。四人はほうと息を吐き、そして――

「うふふふふふふふふふふふふ」

「――っ!?」

 まだそれが治まっていないことに気づき震えた。

 

 

 

 

 月の僧院は高所に立てられているためにその中心は地下となる。

 三階が既に頂上である鐘楼のスペースであり各塔の最上部と同じ高さ、つまりそこまで広くない。一階はミサを行う本堂、鐘楼に辿り着くまでに通過する二階は何かの催しを行うための部屋となっているので、そうなると僧院に住む人間が暮らす部屋がなくなってしまう。

 そこで彼らは地下に当たる場所へと足を伸ばし、さながら蟻の巣のようにそれを造りあげた。つまりは本堂奥、左右にある扉は地下の居住区へと進む階段に続いているのである。

 

 今回の目的は鐘楼の停止、とにかくもそこまで上がらなければならない。最初こそ不自然に途切れた通路を繋ぐ仕掛けの解除に向かおうと考えたが、ティオとエリィが何某か考え事をしていることに気づいたロイドらは二人に意見を募った。

「鐘楼は正面入り口から真っ直ぐ向かったところにあります。鐘が大切なものであるならば、そこまで複雑な経路を辿るとは思えません」

「祭壇があるということは間違いなくあの像が示す存在を崇めていたのでしょうけど、それならやはり鐘と像を結ぶ最短経路があると思うの。あの像の天使がすぐに鐘に辿り着けるようになのか、もしくは鐘に導かれて天使が舞い降りたのかはわからないけど、その二つを関連させて考えるほうが自然だと思う」

「だが最短経路っつーとその上の通路から真っ直ぐ奥にってことになるが、あそこに扉はないぜ?」

「……いや、あの不自然に途切れた通路がギミックによって為されたなら、もしかしたら扉にも仕掛けがあるのかもしれない」

 五人はもう一度階段を上り、その天使の像の上に立った。通路は天使の頭上を迂回するように曲がり、その分ここだけは壁と距離がある。ロイドは身を屈め、壁を注視した。

「……わかりにくいけど擦れた跡がある」

 それは半円の通路と繋ぐと円になるようにできている。像のためにわざわざ壁をくりぬいて円を作ったと考えていたが、どうやらそこには仕掛けによって円を描く足場が形成されるらしい。

 となると、天使の背後に位置する壁面には、できた足場を利用する何かがあると考えて然るべきだ。

 

「とは言え、まだ足場のないこの状況じゃ調べようがないな……」

 壁との距離はちょうど像の奥行きと一致する。天使の像は細身だが、それを捕縛している輪はでかい。ちょうどその輪が上の通路とほぼ同じくらい、つまり3アージュはあるだろう。それも先の一撃で半壊しているが。

「地道に仕掛けを探すしかないかもしれないな」

「マジか、めんどいな……」

 落胆するランディ、外観だけで相当な広さを誇る僧院、更に見えない地下部分までを捜索するとなるとかなりの時間がかかるはずだ。彼でなくともげんなりしてくる。

 

「いえ、これを使いましょう」

 そんな中ノエルが口を開き、リュックから取り出したのは主に高所から降りる際に使用するザイルである。サバイバル訓練を受けたことのあるランディとロイドは見覚えがあるそれに目を瞬かせた。

「曹長、それは?」

「なるほど、それで吊るして壁を調べようってわけだな」

「まぁ吊るすか張るかは壁の強度によりますけど」

 ノエルの提案する二案はいずれも壁の強度が重要になる。人を支えられるザイルが支えられなければ意味はないのだ。

「ならそうだな、俺が下で控えるからよ、ノエルかロイドがパパッと調べてくれや」

 万一を考えランディが像の前で待機、ノエルは触れられる壁で強度を確かめ、上部にあった窪みにザイルを引っ掛けた。ロイドを見やる。

 

「どうしますか? 提案した以上私がやるほうがいいかもしれませんが、こういった作業はロイドさんのほうが得意そうですよね?」

「俺がやるよ、曹長はザイルを見張っててくれ」

「はぁ……ロイド、気をつけてね」

 何故か呆れ顔のエリィから言葉を貰い、クオーツを付け替えたティオがアースガードを唱える。

 万全の態勢となったロイドは宙吊りになりながら壁面に手を触れた。そのまま滑るように全体を満遍なく触り微妙な感触の変化に精神を研ぎ澄ませる。

「……四角い形に溝がある。ビンゴだ」

「開きそうですか?」

「待ってくれ。スイッチか何かがあれば――――あった」

 溝の外側にある奇妙に盛り上がった部分を押すと奥へと引っ込んでいく。それに伴い鈍い音を立ててシャッターのように壁が上にずれていく。成功に顔をほころばせるロイド。

 

 と、その振動でザイルが取れた。

「へ?」

「ちょ」

「あ……」

「あっ!」

「うわっ」

 それぞれの反応、そして落下するロイド。待機するランディも油断していたのか体は動かず、ロイドはそのまま真下にあった天使の像、その残っていた拘束具に激突した。

 堅い衝撃音、しかしそれは彼の無事を知らせる音である。ティオが唱えたアースガードが発動して彼を守り、その地の加護と石の輪がかち合ったのだ。

 落下の速度により攻撃力を備えたアースガードはそのまま半分だけの拘束具を破壊、一回転したロイドはランディに受け止められた。

「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ」

「あ、ありがとうランディ……」

「いや、今回はティオすけのおかげだろ」

 な、と見上げると心配そうな三人の姿が見える。ロイドを下ろしたランディが手を振ると息を吐く音が聞こえた。

 

「もう、心配かけないでよね……」

「保険かけといてよかったです」

「すみません、不注意でした」

 三人の声が聞こえるがノエルの声は沈んでいる。ロイドは気にするなと言おうとしたが先にランディが口を開いた。

「お嬢もティオすけも見えるぞ?」

「え?」

「な……!」

「ば――」

 エリィ、ティオ、ロイドの順に声を漏らす。

 ランディはにこやか、ロイドは青ざめ、エリィとティオはスカートを抑え赤面した。しかしそれは羞恥でなく憤怒であり――

「いやぁ、思わぬものが――ってぎゃあああああああああああああ!!」

「って俺もかあああああああああ!!」

 案の定男二人は一斉掃射を浴びた。

「――――何でだろう、緊張感がない……」

 一人蚊帳の外なノエル、彼女はまだ特務支援課に慣れていない。

 

 

 

 




“あれこれ”を“ラブコメ”と変換してもいいかな、って。
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