空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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襲撃の根

 

 

 

 肺の奥底にまで煙が入っていくのを感じ、そこから一気に吐き出す。排泄のような開放感を全身で楽しんだ後、机の上に置かれた灰皿に煙草を擦りつけて火を消したセルゲイは、それでと言ってから四人の部下を見た。

「旧市街の喧嘩は収まったのか?」

「…………はい」

「一応、目先の争いは止めました」

「ですが……」

「根元んとこはがっつり残ってるけどな」

 ロイド、エリィ、ティオ、ランディの順に応答した後、彼らはセルゲイに事の次第を説明し始めた。

 

 

 

 

 

 空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない

 

 

 

 

 

 

 ロイド・バニングスが覚えたのは稀にある既視感ではなく、あえて言うならば既聴感と呼称されるものだった。

 それも言葉単体ではなく声質において、その主はサーベルバイパーの頭の次に現れた。

「――その辺にしときなよ。勝手に楽しんで、僕の言うことが聞けないのかい?」

「わ、ワジ……!」

 青い装束を着た青年が振り返る先には涼しげな風貌の少年がいる。隣に大柄なスキンヘッドの男が佇んでいるが、そちらのほうは主役ではない。サングラス故に視線がわからないが、彼は明らかに隣の少年を重視していた。

 テスタメンツのリーダー、ワジ・ヘミスフィアとアッバスである。

 身体にぴったりとした衣装によって窺えるしなやかな体つきはモデルのようで、しかしその痩身は不健康さを感じさせない自然なものだ。

 後に聞くところサーベルバイパーの頭ヴァルド・ヴァレスを一蹴したこともあるようで、それを事実だと受け止めるに足る肉体である。

 

 ワジは配下の青年を窘め、そして特務支援課を見た。

「僕はワジ・ヘミスフィア。テスタメンツのリーダーらしいよ?」

「何故疑問形になる」

 軽い印象を与える話しぶりにアッバスが突っ込む。これが彼らの普段のやり取りなのかもしれない。ロイドは自身の名と身分を明かし、両者が喧嘩を止めたことに安堵した。

「二人とも、もう争う気はないみたいだし……」

 それを聞いたヴァルドとワジは仲良くきょとんとし、やがて同時に笑い出す。この差こそが、クロスベルに帰って久しいロイドと彼らの違いである。

「こいつぁ傑作だ、何勘違いしてやがる!?」

「僕たちはこの後全面戦争だよ? こんな些細なことで開戦にはしたくないだけさ」

「な!」

「フン、これで目障りな青坊主を一掃できると思うと嬉しいぜ。てめぇとの決着もつけられるしなぁ、ワジィ!」

「そうだね。出会ったときみたいに無様に寝かせてあげるよ、ヴァルド」

 ワジとヴァルドはその後何もせず、互いの陣地へと退いていった。後に残るのは状況が飲み込めない特務支援課である。

 

「……ねぇ、どういうこと?」

「一応止めはしたが、この後とんでもねぇことになりそうだな……」

 エリィとランディは困り顔で呟く。

「どうしますか、ロイドさん?」

 ティオが問いかける。その意味を理解してロイドは頷く。

「これじゃダメだ。まだ本当の解決には至っていない」

 その言葉に三人は笑顔で頷き、しかしすぐに沈黙した。かといってどうすればいいのかがわからないのである。

 住民からの話によると小競り合いのようなものは日常茶飯事であるとのことだ。そんな普段から悪感情を抱いている者同士の総力戦をどう阻止すればいいのか。

 警察官ならばそのような事態を想定して訓練を積むものだが特務支援課は正規の人員で構成されてはいない。結果的に問題解決に重視されるのは捜査官でありリーダーであるロイドの発言であった。

 

 ロイドは思考する。

 対立する二つの不良集団、その全面戦争を阻止する為にするべきこと。始まってから止める事は不可能ではないが、できるなら始まる前に元の鞘に収めたい。

 その元鞘でも仲が悪いのは始末が置けないが……しかし両集団はそりが合わなくともヘッドの方はどことなく波長が合っているように思えた。

 

 それがどうして……

 

「――どうして全面戦争なんだ?」

「ロイド?」

 思考から零れた言葉に三人が注目した。

「潰しあいがそんなに不思議か?」

「ああ。どうして今になって……」

「そりゃ相手が潰れれば好き勝手できるからじゃねぇのか?」

「……問題は理由ではなく時期、ということですね。何故今になってあの二人が互いに潰そうと決めたのか……」

 ティオに賛同してエリィが繋げる。

「そうね。あの頭の二人は結構気が合うように見えたわ。男の人のことはわからないけれど、喧嘩仲間、みたいな。そんな二人がどうして。その“どうして”がわからないのね」

 ロイドは頷いた。

「俺たちの知らない全面戦争の理由があるんだ、きっと。それを解決しさえすれば、迷惑だけどここまで争いが深化することもなくなるはずだ」

 

 問題解決の糸口が見えたことで光が差した気がする。そんなロイドが見た仲間の顔は、どこかくすぐったいものだった。

「な、なんだよ……」

「フフ、いいえ」

「ただ感心しただけです」

「流石は捜査官、あっさりと先が開けたな」

 目を閉じて笑い合う少女二人、嬉しそうに笑う青年。照れくさくなったロイドはわざと大きめの声で次を促した。

「それでっ。次にするべきはその理由探しだけど、これは本人達に聞いたほうが早いと思う」

「そうね。でも話してくれるかしら」

「あのヴァルドとかいうヤツよりはワジとかいう小奇麗なやつのがいいんじゃねーか?」

「……この先地下へと続く階段の先にトリニティというバーがありますね。許可は得ているようです」

 

 

 

 

 

 

「ほう、それでその店に行ったのか」

 セルゲイはその店を知っている。バー『トリニティ』。旧市街に存在する不良集団テスタメンツの根城である。

 警察にとって旧市街は既にクロスベル市内ではないかのような警備の杜撰さだが、それでも嫌われものの部署を立ち上げた変人である。その辺りは熟知していた。

 尤も、捜査官が詰める捜査一課及び二課では当然の知識である。不良は即ち犯罪予備軍としてマークされているのであった。

「しかしお前ら即行で虎穴に入りやがったなぁ」

 嬉しそうに笑う上司に不安を覚える部下四名だが、笑いが収まったセルゲイに成果を聞かれて気持ちを引き締める。

「はい、それが――」

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗く、さながら夜の店のようにライトアップされた店内にはカウンターとテーブル席。そしてビリヤード台が数台ある。その中心部でテスタメンツのメンバーとアッバスという大男が話し合いを行っていた。

 彼らはすぐに四人に気がつくと身構える。話し合いをすることが不可能なのかとも思ったが、アッバスが彼らを制止し、道を塞ぐように立って訊ねてきた。

「警察が何の用だ?」

 アッバスの声は深く、低い。問答無用な雰囲気を漂わせるが、ここで引き下がることはできない。

「……ちょっと話が聞きたくてね」

「話などない。去るがいい」

「いや、話してもらう。どうして全面戦争をするのか」

「…………」

 アッバスは沈黙した。ロイドの問いに対して返答を考えているようだった。薄暗い店内でもサングラスを外さない彼には疑問が絶えないが、こちらが沈黙を破ることはしない。

 しかしそれをアッバスが破ることはなく、場外席からの声が破壊した。

「――へぇ」

 視線の先には足を組んでカクテルを飲むワジ・ヘミスフィア。店の雰囲気に合っている彼はホストのようだ。

「ワジ」

「通してやりなよアッバス。折角のお客さんだ」

 鶴の一声か、アッバスは早々に道を譲り、四人は痛い視線の中少年に近づいた。

 

「それで、何? 警察の犬が面白いことを言ったように聞こえたけど」

「……どうして全面戦争をするのか、その理由が聞きたい」

 ワジの瞳がロイドを射抜く。探るような瞳にロイドは捜査官としての意志を乗せて睨み返した。するとワジは意に返さぬように視線を外してカクテルを飲む。

「……それで、キミ達は何をくれるんだい?」

「…………」

「ギブアンドテイク。欲しいものあげるんだからさ、君達も何かくれなくちゃいけないよね」

 ワジの言葉を受けてロイドは目を数秒瞑り、そして開いた。

 

「……そうだな。俺たちから提供できるものは闇を払う真実だ」

「へ?」

「捜査官の仕事は真実を明かして人々の闇を取り払うこと。君達が僅かでも闇を払いたいと思っているのなら、俺たちはそれの助けになる。それが俺たちの与えられるギブだ」

 ロイドは臆面もなく言い放ち、ワジは唖然とした。ロイドからは見えないが、後ろの三人も呆然としていた。至極真面目に答えたロイドだが、それは彼らの意表を突くという意味では十二分の成果だった。

 

「アハハハハハハッ、いいねぇ、すごくイイよ! キミなんて言ったっけ? そんなクサい台詞を真面目に言えるなんて最高だ!」

「冗談じゃないからな。それで、どうなんだ?」

 腹を抱えて笑うワジをロイドは睨みつけ問う。笑いを収めたワジは息を整えアッバスを見た。

「ふふ、そこまでされておひねりを出さないわけにもいかないかな」

 ワジの視線を受けてアッバスが一歩前に出る。四人はワジから視線を外しアッバスを見る。

「五日前の夜のことだ」

 

 話は至極簡単、テスタメンツのメンバーがとある場所で闇討ちされたのだ。そのメンバーは現在も意識不明で病院に入院している。抗争を激化させるには十分すぎる理由だった。

 しかし――

「待ってください。意識が戻っていないならどうしてサーベルバイパーの仕業だとわかったのですか?」

「……さてね? ロイドって言ったっけ、どうしてだと思う?」

 ワジは足を組み替えて試すように答えを濁した。ロイドはそれにノータイムで答える。

「おそらく外傷に残った打撃痕だろう。それで闇討ちした奴の武器の形状がわかったんだ」

「正解。結構やるみたいだね」

 闇討ちは背後から頭部を殴打、転倒したところを袋叩きにされたらしい。そしてその頭部の傷が物語っている武器とは、釘つきの棍棒であった。サーベルバイパーの一人が持っていたものである。

「さて、話は終わりだ。それでどうするんだい?」

 

 四人は輪になり今後の話し合いを始める。

「こりゃ決まりじゃねえか、ロイド」

「でも状況証拠だけ、決定打とは言えないわ。それでも潰し合いの理由はわかったけれど」

「……一度課長に報告しますか?」

 思案顔をしていたロイドはティオの言葉に首を振り、

「いや、今度はサーベルバイパーに話を聞きに行こう。多角的なものの見方をする必要がある」

「へぇ、慎重だね」

 ワジはカクテルを飲み干し、静かにカウンターに置いた。

 

「ま、少しくらいなら待ってあげてもいいよ。もしかしたらもっと面白くなるかもしれないしね」

 微笑を浮かべるワジが見送る中、四人はサーベルバイパーの根城であるライブハウス『イグニス』に向かうべく踵を返す。しかしふと思い出したかのようにロイドは立ち止まり、ワジを見た。

「ん、なんだい?」

「……いや、なんでもない」

 以前会ったことなど、ない。

 声すら聞いたことはない。

 そう思い直し、目前に迫る事件を起こさせないために先を急いだ。

 

 

 

 

 イグニスは旧市街の端の倉庫が濫立する場に存在している。重厚な扉の前では舎弟である青髪の少年ディーノがおり門前払いをしようとしたが、エリィが巧みな話術で中への道を開いた。

 その扉を開けた途端、それまで聞こえていた雑音がうねりを上げて跳びかかってきた。

「っ!?」

 ティオが驚き目を瞑る。他の三人も顔を顰めてその騒音に耐えていた。

 両端には二階席へと続く階段がある。二階席とは言っても立ち見だけのようで広くはなく、意味の無い通路である。

 無造作に置かれている箱やドラム缶の中、中央のステージで全体を睨むかのようにヴァルド・ヴァレスは腰を下ろしていた。

「んだぁ、てめぇら。さっきのサツじゃねぇか」

「……おじゃましているよ」

 頭であるヴァルドが話し始めても騒音は途切れないようだ。ヴァルドの地声が大きいので聞き漏らすことはないが、流石に長くいたくない場所だった。

 

「は、さっきの続きでもやろうってか?」

「いや、テスタメンツとの潰し合いをする理由が聞きたい」

「は、何言ってんだ。気にいらねぇから潰すんだよ!」

「……テスタメンツのメンバーが闇討ちされた件と関係ありますか?」

 殺気立つヴァルドにあくまで冷静に、ゆっくりとした口調でエリィが問う。するとヴァルドは何か苛立った様子で吼えた。

「俺たちを倒せば教えてやるよ! 簡単だろう!?」

 ヴァルドの声に周りにいた手下が一斉に戦闘態勢を取る。囲まれている状況に焦りを感じながら、警察としての対応に努める。

「いや、ダメだ! 警察として私闘は認められない!」

「ハッ、ビビッてんのかよぉ!」

「さっさとかかってこいや!」

 周囲の手下からの挑発が続く。荒っぽい言葉に身体を縮こませるティオを庇いながらそれに耐えていると、ヴァルドから提案が聞こえてきた。

 

「ならよ、そこの女二人をしばらくくれたらいいぜ、何でも話してやらぁ」

「な……!」

「…………」

 ヴァルドの予想外の言葉に驚き、感情が荒ぶってくる。エリィは黙って続きを聞いていた。

「数時間どっかに消えてくるだけだ、簡単だろう?」

 ランディが物々しい雰囲気を漂わせ、ロイドも目を瞑って感情を堪えようとしていた。一方でこの状況を好転させ、話を聞くことができる最善手を高速で導き出す――はずだった。

 

「――いや、もっといい方法がある」

 ロイドは目を開き、腰に挿していたトンファーを構えた。先端をヴァルドの顔に向け挑発するように言う。

「練習試合の名目での代表同士のタイマンだ。構えろ、ヴァルド」

「……正気か? そこの赤毛ならまだしも体格差がわからねぇのか」

「女性を軽視した不良程度に遅れを取るような訓練はしてないよ。どうする? それとも逃げるか? サーベルバイパーはその程度なのか?」

 驚きと侮蔑を含んだ言葉にも外見上は冷静に応える。しかし先ほどの言葉に対する悪感情は言葉に表れていた。

「ッ! 上等だッ! 返り討ちにしてやるよ!!」

 チームを馬鹿にされたヴァルドは得物である鎖つきの木刀を持ち、傍にあったドラム缶を吹き飛ばした。その目には制御できない怒りが込められており、爆発は必死だった。

 

 ロイドもここまで言っておいて後に退く気などない。何より仲間を売るような提案をされたことはロイドの中で最大級の屈辱だった。

 空気も一対一を支援している。並々ならぬ雰囲気にエリィやティオも口を出すことはできない。

 つまり、そこに口を挟めるのはランディ一人だった。

 

「――待った。ロイド、俺にやらせてくれ」

「ランディ……!」

 目の前にハルバードを下ろされ、ロイドはランディを睨む。その感情をランディは柳の如く受け流す。

「勘違いすんな、別にお前が負けるなんて思ってないさ。だがちっと血が昇りすぎだ」

「あ……」

「普段の冷静さはどうした? ま、だからこそ俺もやる気になってるわけだがな」

 一歩前に、ロイドの前に立つ。冷静でなかった自分を自覚して呆けるロイドに背中で語りかけた。

 

「会ってそう間もない俺たちだが、お前は長年の仲間に対するように怒りを露わにする。捜査官としては失格だがリーダーとしては上出来だ。ならその尻拭いをするのはお兄さんの役目じゃねえの?」

「ランディ……」

 ロイドはその大きな背中を見る。なんとも頼りがいのある広い背中、ロイドはそこに歴戦の過去を見た。

「ま、あれだ。ここらで戦闘が本職だっつうトコを見せてやんなきゃな!」

「はん、結局てめえがやるのかよ赤毛。まさか始めからそうするつもりだったってわけじゃねぇよな」

 待たされていたヴァルドが吐き捨てるように言う、するとランディは間髪いれずに言った。

「まさか。単に俺も、仲間の怒りに当てられただけだ」

 ハルバードを両手で持ち切っ先を向ける。その覇気にヴァルドはにやりと口端を持ち上げ吼えた。

「いいぜっ、ヴァルド・ヴァレスの鬼砕き! 受けられるモンなら受けて見やがれぇあ!」

 

 

 

 怒声とともに一撃、上段からの二つの振り下ろしが両武器を捕らえる。甲高い音がイグニスの騒音を切り裂き、一周したのかかかっていた音楽が止まる。

 中間でギリギリと拮抗する中、獣のような笑みを浮かべるヴァルドとそれを冷静に見つめるランディがいる。

「……大した膂力だ。ろくに訓練もしねえでその身体能力、流石は頭を張ってることはある」

「へっ、羨ましいか、よ!」

 一気にフルパワーにまで高めたヴァルドが得物を振り抜き、しかしランディも自ら後方に跳ぶことでそれを相殺する。身体のスケールはほぼ互角だが、筋肉の鎧に覆われているヴァルドよりもランディのほうが細く、故に軽やかだった。

「いや、全然。力馬鹿より俺のが強いし?」

「舐めやがってぇ!!」

 余裕の発言をするランディにヴァルドは連撃を放つ。振り下ろし、切り上げ、振り下ろし、切り上げ、前蹴り。

 それを器用にハルバードを扱い防御し、いなし、かわす。

「ヴァルド、お前さんに教えてやるよ。喧嘩仕込じゃ覚えられない技術ってやつを」

 

 再びの振り下ろし。持ち前の怪力故に驚異的な威力を誇る一撃であるが、それは当たらなければ意味はない。

 ランディはヴァルドが生み出す軌跡を正確に予見し、ハルバードを斜めにそえる。ハルバードの切っ先を滑り、柄に沿った軌道を辿る木刀の左側をランディは滑るように移動する。踏み出した左足を軸にして回転する過程ではヴァルドに背を見せているが、木刀に引っ張られ、更にハルバードに阻まれたヴァルドがその隙を突くことはできない。

 

 逆に回転を終えたランディは右足を踏みしめて状態を安定させ、木刀を振り下ろした状態のヴァルドの背後を侵略する。流れのままに巻き取るように木刀をいなしたハルバードが遠心力とともに大気を斬る。その終着点は無防備な赤い背中。

 

 時間にして一分にも満たぬその攻防は、背中を痛打されて地面を滑るヴァルドの敗北であった。

「はん、元警備隊員が不良に負けられるかっての! おい、話を聞かせてもらうぞ!」

 くるくるとハルバードを回したランディはヴァルドに投げかける。ヴァルドはすぐに立ち上がり、鬼の形相でランディを眺めた。

「ヴァ、ヴァルドさん……!」

「るせぇ、足を滑らせただけだ」

 誰が見ても直撃を喰らったはずなのにそう言うヴァルド、そしてそれを飲み込むしかない手下。事実すぐに起き上がっているあたりそのタフネスは高いのだろう。

 彼はそのままステージの上にある専用の椅子に乱暴に座り、潔く話をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「くくく、ロイドは見せ場を奪われちまったわけか」

 セルゲイは事の顛末が大層お気に召したようでニヤニヤとロイドとランディを見る。

「……いえ、見せ場云々なんて考えていませんでしたから」

「そうかぁ? リーダーの危機に颯爽と駆けつける俺ランディ・オルランド! こりゃおねーさん方もほっとかねぇぜ」

「駆けつけていません」

「ま、まぁうまく話を聞くことはできたわけだし」

 

「で、奴らはなんて言っていたんだ?」

 ヴァルド――サーベルバイパーの争う理由。それこそが現在四人がセルゲイに話している理由でもある。

 彼らの理由はテスタメンツと同じ闇討ちであった。

 しかし加害者ではなく被害者としてである。

 ヴァルドの話では五日前の夜サーベルバイパーの一人が背後から襲われ重傷を負ったという。こちらは意識が戻っているが怪我の部類で言えばかなりの重さであった。

 そして彼らが犯人をテスタメンツと断定した理由、それも先に聞いた武器の形状であった。

 スリングショット。パチンコのようなものであるそれはテスタメンツの一人の得物である。

 

「…………」

 セルゲイは煙草に火をつけ煙を吐き出す。その目を見て四人は続きを話し始めた。

 両者に話を聞き、残った疑問、違和感。

 それは二勢力が同じ日の同じ時間帯に闇討ちにあったという事実である。

 ワジ・ヴァルドの両名の性格と関係から言って闇討ちをする可能性は低い。仮に彼らのどちらかが闇討ちを計画した場合、報復の形で闇討ちを受けることはあるかもしれないが、それでは同日に行われるということはありえない。

 この場合同日になるのは、両者とも闇討ちを計画しており、その犯行時間が偶然同じになったということであるが、その可能性が考慮するに足るとは思えなかった。

 

 

 パズルのピースは一つ足りなかった。しかし四人はすぐにその一つに辿り着くことになる。

 

 

 

 

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