空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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宵の人形

 

 

「…………」

 緊張が周囲に奔り、寒気にも冷やされた汗が頬を伝った。

 周囲を暗い木々が覆う中、進む方向は二つ。後退し、クロスベル市に帰るか。それとも、眼前に聳える純白の医療施設に進むために障害を乗り越えて前進するか。

 その二つの選択肢はしかし事実上一つしかなく、そのためにはこちらを様子見ている黒衣の暗殺者を越えなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルスラ病院へと進んだ特務支援課の感覚担当であるティオと、天眼を装着したロイドが二つの影を察知したのはほぼ同時だった。病院への入り口を塞ぐように立っているのは黒服の男二人。その姿は間違いなくルバーチェの人員である。その光景は彼らに病院内部の状況を容易に想像させた。

「ルバーチェが、病院を襲撃した……?」

 エリィが信じられないと驚愕し、ランディが唾を吐き捨てる。彼はその外道さに怖気が奔ったが、同時にそれが有効な手であるとも理解していた。

「周囲に他の敵影はありません。尤も、敷地内に入ってしまえば無数にいるはずですが」

「状況がわからないことには行動しようがない――と言うのは簡単なんだけどな……」

 ロイドの言葉に三人が沈黙した。

 確かに状況把握は前提条件として欠かすことはできないが、現況がそれに割く時間を与えてくれるとは思えない。そもそも病院を襲撃した理由がはっきりしないのだ。

 考えられる限りでは、人質を取り、市に対して何らかの要求を出すつもりなのか。それとも、自分たちが調査を依頼した薬物の回収か――

「ヨアヒム先生を狙ったのかしら……」

「わからない。とにかく一刻も早く突入するしかないな――――ティオ、センサーを最大にして周囲に気を配っていてくれ。戦闘は俺たちでやる」

「了解です!」

「エリィもいつもより下がって備えてくれ、二人なら俺とランディだけでなんとかなる。怖いのは援軍だ、頼む」

「ええ、任せて!」

「ランディ」

「みなまで言うな、わかってるさ」

 

「――よし、行こう。目標は人質及び病院の解放、ルバーチェの無力化は二の次でいい。追い出せれば十分だ。ガルシア・ロッシがいた場合は極力戦闘を避ける、いいな?」

 意志を確認、頷きあう。そして行動を開始する契機を待つ。しかしルバーチェの二人は微動だにしない、会話すらしていないようだ。

 その様子に焦れた四人は観念して飛び出す。四人が戦闘態勢に移行しても黒服は動きを見せなかった。

「ロイドっ!」

「わかってるっ、でも行くぞ!」

 ランディの声にそれでもゴーサインを出し二人は突貫した。それぞれ一人ずつ、トンファーとハルバードで仕掛ける。中段の薙ぎと上段の振り下ろし、それは同時に黒服を襲い、しかしそれは確かな成果を上げられなかった。

「何――!?」

「く、やっぱりか――っ!」

 二人の一撃は卒倒を狙ったものだが、それは差し込まれた腕に容易く阻まれた。

 とはいっても武器の一撃を受ければ激痛が襲うはず、しかしそんな衝撃にも顔色一つ変えずに押し込みを阻んでいた。よく考えればサングラスをしていない。その時点でおかしいのだが、そのために窺える瞳には生気と呼ばれるものがなかった。

 グノーシスを投与されていることは明らか、ならばそのタフネスにも納得がいく。痛覚も遮断されているのか、それとも別な何かに変換されているのか、どちらにしても通常の人間を相手にしているという感覚を捨て去ったほうがよさそうだった。

 

「ランディ!」

 声を出し、同時に離れて相手をスイッチする。

 振り下ろしを受けた腕の下にトンファーを滑らせ肋骨を狙い、薙ぎを受けた腕の上からハルバードを打ち下ろす。それをやはり腕で防いだ男は、しかし今度はその得物をしっかりと握り取っていた。

 その反射速度と動体視力は異常だ、理由とポテンシャルを知っていてなお驚きに思考が凍結する。瞬間、自らの体が地を離れた。

「な――」

 声を出し切る間もなく逆に武器を支点として振り上げられ叩きつけられる。背中を強かに打ちつけたロイドは咄嗟に捕まれた右腕を離し反転、左のトンファーで迎撃する。

 自身の二本が打ち合い鍔迫り合いとなる。しかし膂力の差は既に実感している、ロイドはすぐに腕を引き状況を破壊、円を描くようにステップを踏んで側頭部を狙う。

 その動きを濁った瞳が追ってくる、それに言い知れぬ予感を感じつつもトンファーを振るい――直前に防御に切り替えてそれを受けた。

 

「ぐ――っ!」

 圧力に歯を食いしばり耐える。目だけで反応していた男はロイドが攻撃に転じるその一瞬だけで体を反転し彼を襲った。その速さは今のロイドには出せないもので、故に彼は冷や汗を流す。

 パワーもスピードも上になった相手に対する戦術が無数に脳内に列挙される中、次に行動を起こしたのは彼ではなかった。

「はぁ!」

「うらぁ!」

 エリィのソウルブラーとランディのハルバードから放たれた火竜が黒服を包み込み、ロイドは後退する。ランディの隣に動き、再び二対二の状況に持っていった。

 

「ティオっ!」

「まだ動きはありません!」

「まずいわ、身体能力の上昇が予想以上よ!」

「ヤクチューなら寝てろってんだ、ちくしょう!」

 ランディが愚痴る中、炎の中から現れた二人の男はまるでダメージを負っている気配がない。その代わりとして、彼らの周囲には黒く暗い何かが立ち上っていた。

 それはベクトルこそ違うがまるで銀の気のようなもの、それがうねりを上げて大気を濁らせている。

「人間の出せるものじゃありません……っ」

 ティオが苦痛に顔を歪める。その間にもゆっくりと歩を進めて距離を縮めてきている。

 唾を呑みこみ、構えた。

「気絶は難しいっ、足を砕くぞ!」

「ち、仕方ねぇか!」

 精神が常軌を逸している現状、彼らを止めるには構造的な弱点を突くしかない。足を砕けば行動に大幅な制限ができる、過剰な武力行使のようで抵抗はあるがそれでも優先順位というものがある。覚悟を決めるしかなかった。

 

 

「え」

 しかし――

 吸い込まれるように飛来した一撃が男の胸元を射抜き、そのどす黒い気を断ち切ったことでその戦闘は終わりを告げた。

「符術!? ってことは」

「銀か――!」

 倒れた二人に刺さっているのは東方に伝わる符である。彼らの知る限り、それを使用する者は一人しかいなかった。

 その人物は不意に現れる。ルバーチェに入れ替わるように入り口に仁王立ちした黒衣の暗殺者は、今度は仮面で隠れた瞳で四人を射抜いた。

「久しぶりだな、特務支援課」

「――銀、殺したのか」

「殺したほうがよかったか?」

 問いのような形で答えられ、ロイドは安堵する。少しだけ緩んだ緊張を再び研ぎ澄ませて銀に情報開示を求めた。

 

 どうやら黒月もグノーシスの存在に気づいており、銀はツァオの依頼でルバーチェを追っていたところだったようだ。病院内部にいるルバーチェの構成員を放っておく選択肢は銀にはないのである。

 つまり自分たちと利害が一致する、そうロイドは思った。

「――銀、休戦と共闘を申し出たい」

「ロイドさん!?」

「――ほう、どういうことだ」

「俺たちは病院内の人たちを解放したい。あんたはルバーチェから情報を得たい。ならやることは同じだ、広い敷地内では人数が多いに越したことはないだろう?」

 当然今回だけだけど、と付け加えて口を閉じる。仲間は驚きと、しかし諦念を覚えたのか推移を黙って見守っている。

 銀は言った。

「私にとっては足手まといが増えるだけではないのか?」

「そうなったら切り捨てればいいだけの話だろ、あんたにとっては」

 銀は黙った。

 ロイドの言葉には、もし銀が窮地に立たされた場合助けるといったニュアンスが見受けられた。実力差を考えればそんな状況はありえないが、それでも意志が汲み取れたことは確かである。ロイドの言う利点も確かに魅力的だった。

 しかし実は、この提案に対する答えは始めから決まっていたのである。

 

「いいだろう、私としてもあまり時間をかけたくはないからな」

「……そうか、よろしく頼む」

 頭を下げる。犯罪者に頭を下げる警察官がどこにいるんだと言いかけたがそれはやめておいた。こんな提案をする警察官にそんな皮肉を言っても意味がないと思った。

「――ロイド・バニングス、お前なら人質をどこに集める」

「……なるべく狭い部屋、小さい建物で、目的の場所とは離したいところだな」

「目的はさておき、それなら宿舎だろう。行くぞ」

 銀が踵を返し敷地内に入る。その後姿を慌てて追いかけながら、エリィはやけに親切だなと少しおかしかった。

 彼の目的はルバーチェの情報、別に人質を解放する必要はないのである。しかし彼は真っ先に人質解放に向けて動いている。共闘したとは言え伝説の暗殺者が素直に手を貸してくれることがなんともアンバランスだった。

 とはいっても、何故かそこまで危険な匂いがしないのだけれど……

 邂逅時からそうだが、彼女は銀にそこまでの残酷さを感じていない。危険がないとは全く思わないが、しかし殺人を犯しそうな空気をあまり感じられないのだ。

 もしかしたら彼は、そこまで殺しに固執していないのかもしれない。なんとなく背中を見ながら思った。暗殺者というレッテルになぜか疑問を感じていた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 遭遇した黒服に問答無用の速攻を仕掛けて歪んだ気を断ち切る。それだけで糸が切れたように崩れる様は、本当にその気に操られているかのようだった。

 いや、実際そうなのだろう。グノーシスを投与したであろう彼らは、その強大な力に自我を失っているのだ。

 しかし完全に理性がなくなったわけではなく、何かの命令を忠実に遂行している。おそらくグノーシス製造者である教団関係者なのだろう。

 再び剣を背負い、ようやく人質の大半を解放する。彼らに事情を聞く特務支援課を尻目に、銀は静かに息を吐いた。

 

 ここまでは問題ない……でも、この先は――

 正直、銀――リーシャにとって通常の構成員は相手にならない。いくらグノーシスを使っていても、そのグノーシスを断ち切ることのできる彼女には力不足だ。

 だからこそここまで、戦闘の一切を彼女が担当していた。とは言ってもそう決めたわけではなく、彼女がそのほうが効率がいいとして勝手に先走っているだけなのだが、結果的に損害はほぼなく目的の一つを達成している。

 銀としてはその成果に喜べないとしても、リーシャとしては無事に救出できたことを喜んでいいはずだった。

 

「もういいだろう、行くぞ」

 一通り話を聞き終えたところを見計らってそう告げる。特務支援課の四人は看護師長のマーサから病棟の鍵を借り受けていた。どうやら閉まっているらしく、その意味でも最初の行動は当たりだった。

 しかし見るとロイドの表情が若干固い、何かしらのアクシデントがあったかとも思ったが、銀としては特に口を挟むことはない。

 そのまま再び広場に出て本棟に向かう。当然のことながら周囲をドーベンカイザーがうろついていたが無力化する。魔獣に対しては消耗品である符を使わずに済んだ。

 

 内部に侵入すると明かりは点いておらず月明かりだけが頼りだった。そんな中でも構成員たちは的確に彼らを察知して襲撃してくる。それらを冷静に素早く無力化していく中、彼女は一つの結論にたどり着いた。

「バニングス、気づいているか」

「……連携が取れていない、ってことか?」

 やはりロイドも気づいていたのか、頷くことで肯定する。

 現在十数人のルバーチェと交戦したが、増援がやってきたことはなかったのである。必ずその場所に配備されていた人員のみで戦い、敗れていくルバーチェ。本来なら見つけた時点で召集をかけてもいいのだがそれもしない。

 ルバーチェの性質というわけではない、ミシュラムでは当然のように呼んでいた。つまり彼らにはそこまでの思考能力がない上に、おそらくは命令されたことしか実行できないのだろう。

 それは果たしてグノーシスによって自我を失っているということに繋がる。

「グノーシスの製造者――教団の生き残りがグノーシスを投与した人間を操っている。そういうことだろ?」

「そうだ。そしてそれが事実なら、想像以上に厄介な人間であるということだ」

 対象との距離など明確な条件こそわからないが、それでも遠隔で人間を操ることができるのだ。もしグノーシスが広範囲にわたって流布されてしまっていたならそれこそクロスベルの崩壊に繋がっていたことだろう。

 そしてその脅威は未だ取り除かれていない。とにかくもヨアヒムの研究室に向かった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 三階までの道程で隠れていた人々の解放にも成功したが、それでもロイドの中にある不安が拭われることはなかった。

 セシルがいない、ただそれだけの現実が彼を追い詰めていた。

 マーサの話によると入院患者である男の子の担当をしていたとのことだが、その子の個室に行っても彼女の姿はなかった。残るは屋上と研究棟、捜索範囲が狭まっていくに従い、もしかしたら既に病院を脱出しているのではないかという甘い考えが浮かんでくる。しかしそれがありえないことなのは彼が誰よりも知っていた。

 

 月明かりの真下に再び出る。月との距離が近い分地上より明るい。

 植えつけられた木々のシルエットの隙間から研究棟への入り口が見えた。見たこともない魔獣の姿も確認できた。

「セシル姉――ッ!」

「――!」

 そして、その魔獣に追い詰められている彼女の存在も視認したロイドは絶叫、エニグマを起動して初速から最高速で駆け抜けた。

 対象は三体の魔獣のうちの中央の固体、まるで猛毒のような毒々しい紫色をした丸い魔獣の中心部をスタンブレイクで捕らえる。

 焼かれる音と匂いが解き放たれ、返り血が頬を汚した。漂う香りは腐臭、それでも顔をしかめることなく技後硬直も凌駕して魔獣を跳び越えセシルとの間に入り、その勢いのまま叩き付けた。

 奇襲だったためか抵抗もなく魔獣は沈み、しかしその弾力のある体を再び浮かせようとする。

 そのなんでもない、当たり前の行動に激情が湧いた。

 

「――――ッ!」

 両のトンファーで再び叩きつける。その衝撃でタイルに亀裂が走り、魔獣の体がめり込んだ。

 残りの二体が状況を把握し彼を左右から挟撃する。正面から生えた触手が彼を串刺しにしようと迫り、それはロイドの真後ろにいるセシルすらも狙ったものであり――

「ああああああああああああああ!」

 碧の光に包まれた彼はアクセルラッシュで迎撃、進行を阻んだ上で全身を捻りながら頭から突っ込んだ。

 螺旋を体現したタックルは両の魔獣を一瞬で吹き飛ばし地面を滑らせ、そのまま沈黙させる。光に消えていく三体を見送って、ようやくロイドは全身の力を抜いた。

 

「ろ、ロイド……」

「セシル姉! 無事!?」

 困惑した声にロイドは慌てて振り向く。いつもの看護師姿のセシルと、その背中に隠れている男の子。転落防止の柵に背中を預けていたが、幸い外傷はないようだ。ようやっと胸を撫で下ろす。

「セシルさん!」

「無事ッすか!」

「…………」

 三人と一人が寄ってくる。銀以外は安堵の表情を浮かべていて、セシルもそこでやっと表情を和らげた。

 事情を聞いていると男の子が異常を来し、とにかく一度病室に戻ることにする。セシルによると魔獣は研究棟から出てきたというので、この先は相応の覚悟が必要なようだ。

 ヨアヒムはおそらくそこにいる。

 男の子を労わりながらセシルが歩いていき、それを守るように三人が囲む。その輪の中に入ろうとしたロイド・バニングスは、しかし入ることはできなかった。

 

「――何の真似だ」

 自身の首に切っ先を向ける凶手の意図こそが最優先だった。

 

 

 

 

「ロイド・バニングス、貴様何者だ」

 銀は仮面で以ってそれを問う。その抽象的な問いに対し、ロイドは的確な答えが思いつかない。

「質問の意図がわからない。俺はロイド・バニングスだ、だけどそんな答えじゃ納得しないんだろ」

「当然だ。私が聞きたいのは、貴様がどこまで己を理解しているのかということだ。最初に矛を交えた時もそうだ、貴様は仲間という存在を大事にしていながら、その仲間が倒れた時に最大の力を出していた。傷ついた仲間のために底力が出たのか、そう思っていたが、今回で確信した――――貴様、その裡に何を飼っている?」

 

 ロイド・バニングスの異常性において最も顕著な部分。それは二属性を持つという性質である。

 七耀の力において、その一つを宿すことは当たり前のことだが、複数属性を宿す存在というものは未だにいない。それは七耀一つ一つが莫大な力を有しているとともにあくまで方向性を示しているだけだからだ。

 属性が同じでも正確な属性座標が異なる、とでも言えばいいのか。仮にその座標が暫定的な属性判別表の狭間に位置していても、結局わずかな違いで一つの属性に決定される。そういうものなのだ。

 つまり、二属性を持つことはありえない。

 ましてや上位属性の二種など、有り得てはならないのだ。

 

 ここまでの疑問は最初の時点であった、そして今さっきの出来事。

 咄嗟の判断でクラフトを使った高速移動を行ったのは偏に彼の経験によるものだが、いざ魔獣と対峙したときの行動はそれとはまるで異なる。

 あの時と同じ二属性の気配、そして大幅に増幅した戦闘能力。そもそもあの魔獣は銀の見る限りあの手数で倒せるレベルの魔獣ではなった。それをたった三撃で打倒しうる力はロイドにはなかったはずなのだ。

 つまり彼は二属性の気配を常に発しているわけではなく、必要に応じてそれを発し、かつ戦闘能力を急激に高めることができるということになる。

 問題は、それが任意なのかどうかだ。そして見る限り、彼はそれを意識して行ってはいなかった。

 この二つの点から、銀は推測する。即ち――

 

「貴様の中には何かがある。元の属性が何なのかは知らないが、その何かにこそもう一つの属性があり、かつ貴様の補助をしている。違うか?」

 これはあくまで推論だ、複数属性の持ち主がこれまで現れなかっただけで彼がその第一号なのかもしれない。

 しかしそれよりも銀はこの推測のほうが正しいように思える。それは根拠のない勘のようなものだが、しかし不思議と自信があった。

 そして同時に、それは彼がこの言葉に対する答えを持っていないことを意味する。

「…………」

 そして予想通り、ロイドは言葉を発しなかった。今の彼には銀の言葉への返事を導き出すことはできなかった。自分自身のことだが青天の霹靂だったのだ。

 

「……まぁいい、これも想定内だ」

 銀はそうして剣を収め、背を向ける。その視線の先には病室から戻ってきた三人の姿がある。彼はもうこの話題を進める気はなかった。

「俺の中に、別な何かの意志があるって言うのか」

「私に聞くな、それは何より貴様自身が知っていなければならないことだろう?」

「…………俺は」

 唇をかみ締め、下を向く。服の隙間から白い宝玉が窺えた。

 暗い夜の闇の中で輝くモノ。その正体が何なのか、未だにわからない。

 ただそれを知るのが少しだけ怖くなった。

 

「ロイド?」

 エリィが不審の声を上げる。ロイドは顔を上げ、微笑した。何かを堪えるような淋しい笑みだった。

 エリィは咄嗟に何か言おうとしたが、

「行こう。ここからが正念場だ」

 彼の言葉によってその機は永遠に取り払われた。

 時刻は既に午後八時を過ぎた。それでもまだ、宵闇の時間は終わらない。

 

 

 

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