空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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大明神

 

 

 

「どうしてこうなった」

 ロイド・バニングスは一人ごちた。背中には哀愁が漂い、風が埃を舞い上げている。

 支援要請にも慣れ、仲間との連携もなかなかうまくなったと思う。事実いくつかの支援要請では良い評価を受けていた。それが驕りに繋がったんだろうか。

「いや、違う!」

 ロイドは頭を振ってそんな気持ちを振り払った。

 自分が未熟であることなど自覚している。時間が有限であることも知っていた。だからこそ、こうして今の状況になってしまったのだ。

「あれ、おかしいぞ?」

 かぶとの緒を締める思考をしていたはずがいつの間にか現状を肯定してしまっていた。捜査官ロイド、一日の不覚である。

「思い出せ、これまでを振り返るんだ……」

 ロイドは朝食の場面から回想を始めた。

 

 

 

 

 

 

 空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない

 

 

 

 

 

 

 

 朝食はロイドの友人であるオスカーの試作品であるブレッドだった。

 まだまだだと言って笑ったオスカーの顔を思い出しながら口にするが、そんな自己評価に反して美味しい。きっとパン屋にしかわからないこだわりがあるのだろう。

 コーヒーを口にして水分を摂り、ミーティングという名の駄弁りを始める。

 

「しっかしまいったぜ、あの猫植木をひっくり返しやがってよ。なんで俺が代わりに片付けなきゃならねぇんだっつの!」

「……ネコの気持ちがわからないランディさんが悪いのでは? コッペとあの仔は違うんですよ」

 ランディとティオは昨日のネコ探しの要請について会話を広げている。ネコという言葉に反応していたティオが率先して引き受けたので一応ランディも同行したのだが、どうやらそれが裏目に出たようだった。

「結局ネコはティオが捕まえたんだろ?」

「当然です」

 心なしか誇らしそうな彼女。

 ティオはあまり感情を表さないが、それでも少しはわかるようになってきた。なんとなく仲間意識が強まったからかなとロイドは思う。

 

「そっちは何かなかったのか? 確か市庁舎の事務作業だったか」

「こっちは問題なかったよ。警察学校で事務仕事については習っていたし、それにエリィが早かった」

「まぁ、あれぐらいはね」

 本来はエリィとティオに事務仕事を、ロイドとランディでネコ探しをしたかったところだが、やりたい仕事をするのが一番である。

「お前らも段々慣れてきたじゃねぇか」

 セルゲイがコーヒーを啜りながら言う。目は半分しか開いておらず、眠気覚ましのコーヒーは効いていないようだった。

「実にいいことだ、これからも苦労して遊撃士から評判を巻き上げてくれ」

 

「…………」

「ん、どうした?」

「……いえ、なんでもありません」

 遊撃士の評判が取れている気がしない、というのは今口にすることではない。まだ始動して一月も経っていないのに成果が現れることはないのだ。

 しかし今は手探りの状況であり、部下の立場からすれば上司に何か言ってもらいたいものである。しかしセルゲイにそれを望むのは無理な話で、今日も彼の言葉は支援要請に励めの一言。

 確かにそのとおりだが、それでもため息が零れた。

 

「……さ、今日も支援要請に応えよう!」

 陰鬱とした感情を振り払うように声を張り上げるロイド。だが彼は今日の食事当番だ。

 片づけを行う彼を差し置いて三人は端末の前に集まり確認していた。

 なんだかなぁ……

 空回りする気持ちにため息が零れた。

 

 

 ***

 

 

 結論から言ってしまえば支援要請は早々に終わった。依頼者の勘違いが一件、すれ違いが一件、四人ならではの捜索範囲により一件と、正午を少し過ぎた頃には本日の支援要請達成である。

「ふぅ、思ったより早く終わったな」

 肩を回してランディが楽しそうに言う。支援要請は多岐に渡るため退屈はしない。遊び人気質の彼にとって適度な遊び心が満たされる最高の職場である。

「お昼はわたしが当番ですが、何かありますか?」

 ティオが意見を求めるが、特になし。というよりももう四人で作ってしまえという感じだった。

 決して広くはない厨房で四人は会話を楽しみながら料理を作っていく。今回は当番であるティオを立て、彼女の好物を取り入れた料理となった。

 執務室で雑誌を読んでいたセルゲイを呼び、和やかな昼食を楽しんだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 回想が終わり、ロイドは目線を上げた。

 あぁ、怖いものが見える。

 しかし思い出した本日の中にはこれに繋がるものはなかった。

「もっと、もっと先に行かないと!」

 鬼気迫る彼は更に内層へと入り込んでいく、これが現実逃避であることは歴然だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 午後からの予定はない。支援要請が追加されることもなく、それならば訓練をしようということになった。

 手配魔獣の討伐はメガロバット以降まだないが、それでもジオフロントに潜る機会は数度あり、戦闘数も増えていた。

 それに比例して魔獣から得られるセピス数が増え、彼らはウェンディにスロットを一つずつ開けてもらっていた。クオーツも増えているので性能強化もばっちりだ。

 四人は向上した身体能力に驕ることがないようにとの基礎訓練、また戦術面での選択肢の増加を狙う新たな戦技の開発という二点を目標に、まずはそれぞれ柔軟をこなす。

 場所は武器屋の前の踊り場、ジロンドも宣伝になると承諾してくれた。

 

「さって、基礎訓練っつったら型稽古だな」

 警備隊出身であるランディはその日常が訓練に彩られていたはずだ。よって残る三人はランディの指示に従ってそれぞれの訓練を始める。

 ロイドはポイントを一つ一つ確かめながらの素振りを、エリィはホルスターからの速射動作を淡々と行う。

 ティオは魔導杖の特性と彼女の資質から型というものはないが、代わりに最年少であるために身体能力が三人に劣っている。ティオはぶつぶつと何事か呟きながら全身運動を行っていた。

 ちなみに彼女が一番苦労していたのはラダートレーニングである。

 じんわりとした汗を掻いているロイドとエリィを余所にティオは息も絶え絶え。

「もっとおっきくならねぇとなぁ」

 ランディのからかい九割の言葉にジト目で返すしかなかった。

 

 さて、基礎が終わった後は戦技に関してである。

 今までに使った戦技はそれぞれ、ロイドは周囲をなぎ払うアクセルラッシュとSクラフトである乱打タイガーチャージ。エリィは同一地点三射撃の3点バースト。ティオは解析・妨害のアナライザー。ランディは振動したハルバードによるパワースマッシュである。

 ロイド以外の三人はSクラフトを使用していなかった。

「CPを消費しねぇ簡易型ならこの場でできるぜ」

 Sクラフトの挙動は意識して行えるものだ。Sクラフト発動の利点はCPを消費しての強制発動と威力の増大である。訓練の場では使う必要はなかった。

「私は最後でいいかしら」

 エリィが順番を指定したので了承し、ランディ・ティオ・エリィの順に披露することにする。

 なお、当然の如く受け手はロイドである。

「……なぁ、別に俺が受ける必要は」

「あるだろ」

「あります」

「お願いね」

「…………はい」

 案山子でいいじゃないかとビルの階段裏にある間抜けな顔を思い起こす。恨めしいが拒否権はなかった。

 

「こおおおぉぉぉ」

 ランディの呼吸が変わり、彼から発されるプレッシャーが増大する。ビリビリとした痺れが身体を襲い、ロイドは訓練にも関わらずガチガチに防御を固めた。

 ハルバードの先端が腕の移行と共に背後に回る。後ろに控えているエリィとティオはその猛威に目を見開いた。

「――いくぜ」

「っ!」

「クリムゾンゲイルッ!」

 腰の高速回転からハルバードが前方全域をなぎ払う。赤いエネルギーが津波のように襲い来る感覚が凄まじい衝撃を伴って両腕に走り、踏ん張っていた足を地から引き離した。

「ぐぅ!」

 なんとか着地したものの足は固い石畳を滑っていく。

 3アージュほど後退して止まったロイドは思わずトンファーを取り落とした。

 

「つぅ……」

「おいおい大丈夫か?」

「あ、ああ……手が痺れてるだけだ」

 それにしても手加減してこの威力、ロイドは自身のSクラフトと比較して唖然とする。

 得物こそ違う、体格も違う。

 それでもこの威力を出せるようにならないとこの先やっていけないと強くそう思った。

 

「こいつがクリムゾンゲイル、俺のSクラフトだ。範囲は前方、まぁ踏み出す足の位置で変更が利くから自分の周りっつってもいい。その場合威力は落ちるし、変更できるのはこうした任意発動のみだからSクラフトとしてはやっぱり前だけだな」

 クリムゾン、真紅。

 ロイドが抱いたイメージは正確なものだったようだ。

 おそらく戦技として発動した場合CPは火属性のベクトルへと変わるのだろう。火の加護は攻撃値、威力は先の数倍は出るはずだ。

 まだ痺れている手で無理やりトンファーを取った。それは半ば意地のようなものだった。

 

「次はわたしですね」

「へ」

 ティオがランディと代わり前に出る。ロイドは慌てた。

「あの、ティオさん。もうちょっと待ってくれませんか?」

「トンファー持ってるじゃないですか」

「…………」

 意地などいらなかった。

 ロイドは諦めて構えを取る。ティオは満足したように微笑んだ。頭にある猫耳のような機械が光る。

「ガンナーモード、起動」

 言霊に従い魔導杖が造り変わっていく。それはまるで機関銃のようで、見た目質量が増えた気がするが気にしてはいけない。あれは未知の産物なのだ。大荷物を抱えるように両手で持ったティオが照準をロイドに合わせる。

「痛くないですよ」

「あ、あはは……」

 

 高音が漏れ出て、銃口に青の光が集う。種類的にはアーツと同じ魔法攻撃であるようだ。

 ロイドはちらと後ろを見た。石壁は耐え切れるのだろうか。するとその壁に淡い光が降り注ぐ、エリィがアーツを使ったらしい。

 ふぉろーは完璧だった。

「エーテルバスター、ファイア」

 反動に耐えたティオから放たれる青い直射砲、世界が絶望に彩られたような感覚でロイドは腕を顔の前で交差してそれを耐えた。

 僅か数秒の出来事、しかしロイドの身体はボロボロにされた。

 よく考えたら――

「トンファーで、防げない、よね……」

 魔法を叩き切れとでも言うのだろうか。

 トンファーを持ったことが次いけますよという合図にならないではないか。しかしそれは立派なファイティングポーズである。

 

「エーテルバスターはオーバルスタッフのガンナーモードで撃てます。ちょっと反動が辛いのであまり撃てませんが、物理攻撃でないので頼ってくれて構いません。ちなみに使うとしばらく通常攻撃の威力が落ちます」

 威力としてロイドのそれと同程度だろうが、そのベクトルは異なる。魔法攻撃に頼らなければならない魔獣との戦闘において必ず役に立つだろう。

 そんなことをロイドは思いながら膝を着いた。

 

「最後は私ね」

「…………」

 こんな俺に撃つつもりかとロイドは恨む。しかし彼女が最後を望んだのはこのためである。

 白い導力銃に聖なる白光が集まる。

「――聖なる女神の秘蹟」

 輝く銃をロイドは見ることができない。自分は仲間の不興を買ったのだろうかとこれまでの自分を思い起こしていた。

「オーラレイン」

 エリィは銃を空に向けて引き金を引いた。空目掛けた白い弾丸は暫くの後弾け、光の粒を撒く。それはとても温かく、ロイドは身体が熱くなっていくのを実感する。

 その光が止んだ頃には、その熱が活力となって沸き起こるのを感じた。

 

「これは、回復の……」

「そ。オーラレインは一定範囲内の皆を回復させるSクラフトよ。もう平気よね?」

 ロイドは立ち上がり手をにぎにぎする。今までのダメージが消えていた。

「…………………………はぁ」

 ロイドは大きく大きくため息を吐き、そしてあることを決めた。

「――そういえば、俺ちょっと戦技を作りたいんだ。ランディ、相手してくれるか?」

「あん? 別にいいけどよ」

「ありがとう」

 ロイドは事の発端に邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 ロイドが作りたい戦技、それはアーツ解除の効果を持つものである。

 ビッグドローメに不覚を取ったあの時、その効果を持つ技さえあればという思いがそうさせたのだろう。

「アーツは結局のところ導力、つまり七耀石の力ですから、それがアーツにならなければいいわけです。エニグマではラインをなぞり属性値を満たして詠唱を開始しますし、魔獣は元来一定の属性値を含んでいますから即座に組めます。つまりは内蔵する属性値が必要な導力を組み上げ、それがアーツという形を作る前に乱してしまえばいいのです」

 ティオの解説を聞きながらロイドとエリィは自分の得物でどうすればできるかを模索する。

 ランディはその前に潰してしまえばいいと考えるのでそんな戦技を作ろうとは思わない。

「これは形を先に決定してしまうアーツだからこそできる解除法です。導力を集中させている間に異物を投入すればいい。指向性の乱れた導力ではアーツは発動しませんから」

 

 ティオはロイドに目をやった。

「CPを導力エネルギーとしてトンファーに纏わせて、わたしのアーツを解除してください」

「いや、それはランディにやってもらうよ。な?」

「どうしてです?」

「いや、俺が殴れるのはランディだけだから。ティオだって痛い思いはしたくないだろ?」

「…………それもそうですね」

「いや、いいとは言ったけどよ」

 濁すランディにロイドは笑いかけた。

「ハルバードで受けないでくれよ? 解除できるようにならなきゃいけないんだからさ」

 ランディはその笑みが誰かに似ている気がした。

 

 その後の展開を三語で表すと、ぐえ、やった、成功です、となる。

 そこには感電したように動かないランディとすっきりした爽やかな笑顔のロイドがいる。

「……大丈夫かしら」

「問題ないかと。ランディさんはタフですし」

「……っと、これでよし。完成だ」

 エニグマを操作してインプットする。ロイドはアーツ解除専用の戦技『スタンブレイク』を修得した。

 専用とはいってもダメージはあるし、付与効果で一時的な麻痺がある。立派な戦力になってくれるだろう。

「よし、訓練も終わったし、そろそろ夕飯の準備にしようか」

 もう太陽は沈む一方で、赤い光を放ち始めている。一体どれくらい時間がかかったのだろうか。

 

 ロイドとティオはビルに戻っていき、エリィは一応ランディを介抱した。

 ティアを唱えるとランディはすっくと立ち上がる。

 前髪に隠れて表情は窺えない。西日に照らされたランディはクリムゾンゲイルの時のように赤いオーラを放っていた。

「ら、ランディ……? 落ち着いて……?」

「なに言ってんだお嬢、俺は落ち着いている。そう、おにーさんだからな」

 鬼ーさん、とエリィの脳内で変換された彼は肩で笑ってビルへと戻っていく。

「………………」

 エリィは自分の出番が近いことを悟った。

 ちなみに、夕飯の準備だと消えていった二人は当番ではない。

 

 

 

 

 

 

 待合室のソファーで寛いでいたロイドとティオ。寡黙なティオと二人きりの状況では普段はロイドが話しかけることのほうが多かった。

「ロイドさん」

 しかし今日は彼女が話しかけた。先ほどのことについての話だからだろう。

「良かったんですか?」

「ん?」

 ロイドはしゃべらず先を促す。

「ランディさん怒ったんじゃないですか?」

「大丈夫だよ、ティオは女の子だからわからないかもしれないけど、男同士ってのはああやって友情を作るもんだ。ランディだってわかってたから大人しく相手してくれたんだしね」

 

 それは男にしかわからない話だ。きっとエリィがこの場にいたら頭を振って、男の子ってどうしてそうなのかしら、とでも呟くのだろう。

 何も言わなかったがおそらくティオも、この件は理解できない事柄に含めたことだろう。だからロイドは少女の頭にポンと手を置いた。

「心配してくれてありがとうな、ティオ」

「…………子ども扱いはやめてください」

「おっと、ごめん」

「いえ」

「そっか」

 

 それきり二人は一言も話さない。その静寂は足音が扉を開けるまで続いた。

「うし、作るか! リクエストあるか!?」

 戻ってきたランディは笑顔でそう尋ね、ティオは目を開いた。

「オムライス」

「無理だね」

 ロイドのリクエストを斬って捨てるランディ。ティオには二人の距離が今朝よりも縮まっている気がした。ロイドの言うとおりだったことがわかったティオは静かに目を閉じる。

 わかんないものです……

 ただ本人たちがわかっていればいいのだと付け加えて。

 だからこそ、ティオはランディの怪しい表情を見ることはできなかった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 夕食はロイドのリクエストどおりのオムライス。ただしランディはその出身からか野営中などで食される大味な料理が得意であるため、その出来栄えは外見だけ見れば不恰好だった。

「うん、おいしいわね」

「そうだろそうだろ」

 エリィの評価にランディは笑い、視線を彼に向けた。

「なぁロイド。そう思うだろ?」

「……………………あぁ」

 ロイドも笑顔で応えた。ただし眉間にしわが寄っているのを隠していない。

「ロイドさんどうしたんですか?」

「なんだ、そんな変なもの喰ったみたいな顔は」

 セルゲイもスプーンを進めながら聞いてくる。それにロイドは曖昧な返事をした。

「あぁいや、その、ですね……」

「どうしたよロイド、俺の愛情がたぁっぷり詰まったこのオムライスが食えねぇってか?」

 “たっぷり”のぷの字までに長い間があったが、残念ながら普通のオムライスを食べているその他には伝わらない。

 

 しかしロイドはわかっていた。

 自身のオムライスだけが壊滅的な苦さを誇っていることを知っているから。

 この苦味は知っている、研究の最中偶然開発された新種のトマト――その名もにがトマト!

「……………使ったろ、ランディ」

「俺は知らねぇな」

「くっ! うおおおおおおおおお!!」

 凄まじい勢いでかっ込むロイドに皆が唖然とする中、ランディだけは意地の悪い顔で眺めていた。

「ごちそうさまっ! よしランディ模擬戦だ!」

「おいおい俺は食事中だぜ」

「そう言うな、食後の運動だよ」

「俺は食事中だ。なんだロイド、俺に言いたいことがあるのか?」

「電撃でも食らったほうがいいんじゃないかと思ってね、トッピングさ」

「いやぁ、俺はこのう・ま・いオムライスでいいや。ロイドもうまかっただろ?」

「このっ」

 

 

「――ふたりとも?」

 

 

 ロイドとランディはその言葉の主を見やる。

 エリィが銃を構えていた。頬に伝う汗が緊迫感を伝えている。

「――ロイド、食事中なの。控えて」

「はい!」

「ランディ、にがトマト使ったこと知ってるのよ? やめて」

「ひぃ!?」

「明日は私が食事当番ね。二人は食事抜き」

 壊れた人形のように頷き続ける二人と鬼のようなエリィを前に、ティオはただガタガタ震えているしかなかった。

 そして彼女は思う。

 次はわたしですかね……

 ロイドに攻撃した自分が標的にならないことを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 回想を終えたロイド・バニングスは改めてこの状況を見つめる。左にはランディが縮こまり、そして正面にはエリィ大明神様。

 セルゲイとティオはそそくさと自室へと去り、二人は冷たい床に正座している。

「――だからわかるわよ? 男の子にしかわからない世界ってものがあることはね。でもそれは他の人に迷惑をかけてもいいことじゃないのはわかってもらわないと。その仲裁の為に私がいるわけじゃないってこともね!」

「はい」

「スイマセンデシタ」

 そうだ、何がいけなかったのかなんて明白だ。

「いえ、まだよ。今日はあなた達に言わなきゃならないことがたっぷりあるの」

 エリィを怒らせてはいけないのだ。そこにどんな理由があろうと、どんなに偶然であっても。

 

 アーツ解除用クラフトをだしに使ったからいけなかったのだ。それ自体が目的であり、それを手段にしてはいけなかったのだ。

「……お嬢だって賛同したじゃねぇの」

「何か?」

「イエ、ナニモ」

「私があの時同意したのはリーダーであるロイドに力を把握してもらいたかったからだし、私のは回復なんだから負傷してもらわないといけないでしょうっ!」

「――――」

 絶句する。

 この瞬間ロイドとランディの間に不思議なシンクロが生まれた。曰く、

 

 

 

エリィ(おじょう)は恐ろしい”

 

 

 

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